宮崎口蹄疫事件 その111 東国原知事の手記を読む第5回 山田大臣の宮崎県入城
やはり東国原知事は不出馬だそうです。「限界を感じた」とのことです。非常に残念です。彼はぜったいにもう一期やるべきでした。なぜなら、口蹄疫事件は終わっていないからです。
口蹄疫事件の終わりとは、再建の意思をもった畜産農家が立ち直ることを見届けることです。それを見届けるのが、あの大災害を指揮した知事の責務ではないですか。
そして今辞めてしまえば、他県の知事たちに悪い前例を残します。国とは対立しない、国の出してくる方針に唯々諾々と従う、国とぶつかれば損をする、これが教訓で残ってしまいます。
私は東国原さんの抵抗は筋が通っていると思っています。必ずしもすべてを肯定するわけではありませんが、知事にはしっかりとした背骨がありました。それは被災者と共に闘うという骨です。
多くの首長が国の代弁者でしかない時に、それは極めて大事な姿勢でした。知事は自分の頭で考え、自分の意思で伝染病と闘かおうとしました。吹きなぐる逆風の中で、それは嵐に立つ帆柱のように見えました。
勿体ないと思います。実に勿体ない。馬鹿野郎、辞めるな!あなただけの出処進退の問題じゃないんだ!疲労困憊していることは充分理解できますが、翻意していただきたいものです。
さて、気を取り直して知事の手記を続けます。多くのコメントにもありましたように、予防的殺処分はすべきでした。超法規的と言っても、しょせんはと言ってはなんですが、家伝法と防疫指針でしかありません。
海保の船に故意に衝突を仕掛けた刑事犯が、超法規的に釈放になる国で、たかだか家伝法ごときを超法規しようとも、なんてことありません。後から農水省にさんざん厭味を言われるくらいで、うまく制圧できればなにも言ってきはしません、て。
たぶん、消費安全局とコンタクトをしている県の官僚のほうがびびったのでしょうね。県官僚が全員、知事を全面的に支持していたようではありませんものね。
5月17日、山田大臣(当時副大臣)は宮崎県に入城します。ダスベーダー登場のテーマ曲でもバックに流したいような雰囲気ではなかったのでしょうか(笑)。
彼の第一声が手記に記されています。
「知事さん、このリングワクチンを地元に説得することが、あんたのリーダーとしての責務だ。それができないと知事失格だな」。
まさにこの山田大臣の一言から、国と宮崎県の確執は始まったと言っていいでしょう。山田大臣は、既にに東京で動物衛生課からリングワクチン・殺処分方針をしっかりと注入されて自信満々でした。赤松の失敗を挽回してやると意気込んでいたのでしょう。
この新方針こそまさに超法規です。家伝法にも防疫指針にも一行もリングワクチン・殺処分などという文言はありません。それを農水省は、疾病小委員会の答申という錦の御旗を得るやいなや、現実のものとして宮崎県に押しつけようとしたわけです。
そのためには県が防疫主体である建前を崩すことができないために、宮崎県知事が自らの責任において、畜産農家を説得し、理解を得てこい、というわけです。
このあたりが山田氏の痛し痒しの部分で、彼の性格から言っても、ほんとうは「えーいどけ、オレが指揮を取る!」とやりかたったんでしょうね。しかし、原則として一義的指揮権は知事にありますから、恫喝すれすれ(というか、そのもの)のこういう言い方になったのでしょう。
ま、フツーの農水大臣なら「知事失格だな」というような無礼な言い方を、一国一城の主である県知事にしませんよ。赤松大臣の時もいばる、居直る、強制するという悪代官三拍子でしたが、どうして民主党の、特に元社会党出身者は揃いも揃ってこう強権的なのでしょうか。よほどコンプレックスでもあるのかしら。
埋却地問題の補償交渉で頭が一杯だったはずの知事としては、従来の待機患畜だけで手一杯なところに、さらに十数万頭の殺処分を上乗せすることになるリングワクチン・殺処分「命令」は、簡単にハイと言えるものではありませんでした。
今、「命令」と書きましたが、もちろん「指導」であって「命令」ではありません。農水省令で事実上の強制力を持ちながらも、間接統治のような形になっている防疫体制では、知事の合意なくしては農水省は自らの方針をなにひとつ実施できないのですから。
まして、それが地元に健康な家畜を大量に処分することを命ずるわけですから、知事を矢面に立たせて地元を説得せねばならなかったのです。悪役は皆知事にやらせるというわけです。
知事の手記には、記者会見で「不覚の涙」を流した時の悔しさを述べています。知事は、というか宮崎県は、埋却用地と殺処分に対する補償の財源を人質に取られたかっこうですから、否と言うことはできなかったと思われます。
東国原知事の出した合意条件はふたつでした。
ひとつは、国が責任をもってを持ってやること。
ふたつめは、国が全額補償すること、でした。
それに対して山田大臣は、「わかった。国の責任としてやる」と答えました。知事の「断腸の思い」の決断はこうしてなされたのです。
こうした合意の背景には、既に口蹄疫特別措置法の立法準備がなされており、野党にも根回しがなされていたことがありました。
この合意がどのように遵守されたのかを、知事手記で読み進めていきましょう。
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