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2010年9月

2010年9月30日 (木)

宮崎口蹄疫事件 その111 東国原知事の手記を読む第5回 山田大臣の宮崎県入城

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やはり東国原知事は不出馬だそうです。「限界を感じた」とのことです。非常に残念です。彼はぜったいにもう一期やるべきでした。なぜなら、口蹄疫事件は終わっていないからです。

口蹄疫事件の終わりとは、再建の意思をもった畜産農家が立ち直ることを見届けることです。それを見届けるのが、あの大災害を指揮した知事の責務ではないですか。

そして今辞めてしまえば、他県の知事たちに悪い前例を残します。国とは対立しない、国の出してくる方針に唯々諾々と従う、国とぶつかれば損をする、これが教訓で残ってしまいます。

私は東国原さんの抵抗は筋が通っていると思っています。必ずしもすべてを肯定するわけではありませんが、知事にはしっかりとした背骨がありました。それは被災者と共に闘うという骨です。

多くの首長が国の代弁者でしかない時に、それは極めて大事な姿勢でした。知事は自分の頭で考え、自分の意思で伝染病と闘かおうとしました。吹きなぐる逆風の中で、それは嵐に立つ帆柱のように見えました。

勿体ないと思います。実に勿体ない。馬鹿野郎、辞めるな!あなただけの出処進退の問題じゃないんだ!疲労困憊していることは充分理解できますが、翻意していただきたいものです。

さて、気を取り直して知事の手記を続けます。多くのコメントにもありましたように、予防的殺処分はすべきでした。超法規的と言っても、しょせんはと言ってはなんですが、家伝法と防疫指針でしかありません。

海保の船に故意に衝突を仕掛けた刑事犯が、超法規的に釈放になる国で、たかだか家伝法ごときを超法規しようとも、なんてことありません。後から農水省にさんざん厭味を言われるくらいで、うまく制圧できればなにも言ってきはしません、て。

たぶん、消費安全局とコンタクトをしている県の官僚のほうがびびったのでしょうね。県官僚が全員、知事を全面的に支持していたようではありませんものね。

5月17日、山田大臣(当時副大臣)は宮崎県に入城します。ダスベーダー登場のテーマ曲でもバックに流したいような雰囲気ではなかったのでしょうか(笑)。

彼の第一声が手記に記されています。

「知事さん、このリングワクチンを地元に説得することが、あんたのリーダーとしての責務だ。それができないと知事失格だな」。

まさにこの山田大臣の一言から、国と宮崎県の確執は始まったと言っていいでしょう。山田大臣は、既にに東京で動物衛生課からリングワクチン・殺処分方針をしっかりと注入されて自信満々でした。赤松の失敗を挽回してやると意気込んでいたのでしょう。

この新方針こそまさに超法規です。家伝法にも防疫指針にも一行もリングワクチン・殺処分などという文言はありません。それを農水省は、疾病小委員会の答申という錦の御旗を得るやいなや、現実のものとして宮崎県に押しつけようとしたわけです。

そのためには県が防疫主体である建前を崩すことができないために、宮崎県知事が自らの責任において、畜産農家を説得し、理解を得てこい、というわけです。

このあたりが山田氏の痛し痒しの部分で、彼の性格から言っても、ほんとうは「えーいどけ、オレが指揮を取る!」とやりかたったんでしょうね。しかし、原則として一義的指揮権は知事にありますから、恫喝すれすれ(というか、そのもの)のこういう言い方になったのでしょう。

ま、フツーの農水大臣なら「知事失格だな」というような無礼な言い方を、一国一城の主である県知事にしませんよ。赤松大臣の時もいばる、居直る、強制するという悪代官三拍子でしたが、どうして民主党の、特に元社会党出身者は揃いも揃ってこう強権的なのでしょうか。よほどコンプレックスでもあるのかしら。

埋却地問題の補償交渉で頭が一杯だったはずの知事としては、従来の待機患畜だけで手一杯なところに、さらに十数万頭の殺処分を上乗せすることになるリングワクチン・殺処分「命令」は、簡単にハイと言えるものではありませんでした。

今、「命令」と書きましたが、もちろん「指導」であって「命令」ではありません。農水省令で事実上の強制力を持ちながらも、間接統治のような形になっている防疫体制では、知事の合意なくしては農水省は自らの方針をなにひとつ実施できないのですから。

まして、それが地元に健康な家畜を大量に処分することを命ずるわけですから、知事を矢面に立たせて地元を説得せねばならなかったのです。悪役は皆知事にやらせるというわけです。

知事の手記には、記者会見で「不覚の涙」を流した時の悔しさを述べています。知事は、というか宮崎県は、埋却用地と殺処分に対する補償の財源を人質に取られたかっこうですから、否と言うことはできなかったと思われます。

東国原知事の出した合意条件はふたつでした。
ひとつは、国が責任をもってを持ってやること。
ふたつめは、国が全額補償すること、でした。

それに対して山田大臣は、「わかった。国の責任としてやる」と答えました。知事の「断腸の思い」の決断はこうしてなされたのです。

こうした合意の背景には、既に口蹄疫特別措置法の立法準備がなされており、野党にも根回しがなされていたことがありました。

この合意がどのように遵守されたのかを、知事手記で読み進めていきましょう。

2010年9月29日 (水)

宮崎口蹄疫事件 その110 東国原知事の手記を読む第4回 県は予防殺処分の提案を国にしていた

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東国原知事の手記を読み進めます。

知事が手記の中で最初に述べている口蹄疫対策の欠陥は、「このマニュアルでは現実場馴れしている。まったく現場に則していない」というものでした。

その最初の例として、やはりあの殺処分の埋却地問題を挙げています。やはりそうか・・・!といった感じです,

ご存じのように今回の宮崎口蹄疫事件では、埋却地が決定的に不足していました。これは、トリが最初か、タマゴが最初かというようなところがあって、殺処分があまりに膨大に出てしまったために埋却地が足りなくなったのか、埋却地がそもそも足りなかったから、殺処分が遅れたのか、悩ましい問題ではあります。

しかしいずれにせよ、埋却地の圧倒的不足がいっそう感染を拡大し、待機患畜を増やしていき、さらに感染と用地不足に輪をかけていったわけです。

私も実は、5月の初旬に爆発する埋却地不足による待機患畜の激増には腹を立てていたひとりでした。いったい県はなにをしているのか?いつまで補償問題で国とやりあっているのだ、そのようなことは後でゆっくりしろ、というように思っていたのは事実です。鹿児島大学の岡本嘉六先生など「ゼニゲバ知事」とまで罵倒していましたっけ(←先生、言い過ぎっす)。

知事の手記では、この殺処分を受け入れた農場の混乱ぶりを描いています。知事はこう述べています。

「家伝法では、基本的に農場主が殺処分し、埋却しなければならないと定めてあります。さらにその埋却地も農場主が発生農場の敷地内など適正な土地を探し、自ら確保しなさいとなっています。何百、何千という家畜を殺処分し、自分の農場に埋却することは不可能です」。

次いでその理由をこう書きます。

「農家の方々や周囲の同意、土地集約の確保、環境、地下水や岩盤の問題、地権者の問題、平等性の問題、そもそも密集地であり土地がない、といったさまざまな問題が山積していました」。

このような問題を国がまったく支援していないではないか、特に処分に関わる補償の財政的裏付けを国が与えていないのではないか、責任を県や農場主にのみに押しつけているではないか、というのが東国原知事の怒りです。

確かに、後に山田大臣が提出する支援策である特別措置法は、あくまでもワクチン接種をした後の殺処分を前提にして作られています。ですから、初期の殺処分と用地不足問題に対しては国はいっさいの支援を拒んでいた状況でした。そのことを知事は言っています。

国は、県がギブアップするまでは、あくまでも家伝法と防疫指針に則って、県が主体となった法定受託事務だという建前をとっています。ですから、県があまりの多さの殺処分に悲鳴を上げようと、用地が不足して待機患畜が増大して、さらに感染拡大しようと、原則は「県のせい」であり、「県が無能であった」からだという立場です。

この立場は一貫しており、現在なされている国による検証総括作業でも貫かれている立場です。まぁ、コンプライアンス上はそれでいいのかもしれませんが、広域伝染病に対しての国家の無策をいっさい県になすりつけるやり口はいかがなものでしょうか。

それに対して、「私たちは法律どおり、マニュアルどおり忠実にやりました」という国の立場は、あまりに硬直していませんか、現実に適していないじゃないですか、と知事は叫んでいるわけです。これはまったくそのとおりです。

またもう一点、興味深い提案を県が国にしていることがわかりました。それは、国に対して韓国が行っているような、予防殺処分の提案を県がしているということです。

これは発生地点から、半径500m~1キロの範囲で健康であっても、殺処分をかけて緩衝地帯を作る方法です。

面白い提案です。やってみる価値がある防疫戦術です。また現実性もなくはなかったでしょう。ただし、知事自身が手記で認めるように家伝法、防疫指針からの逸脱であることは確かです。

問題は、「いつやるのか」ということです。初動(宮崎の場合第1~第6例あたりまで)なら、大きな効果を期待できますし、4月26日の県家畜試験場の豚に飛び火する以前でも、そうとうな制圧効果があった可能性があります。

しかし、GW明けから始まる立て続けの豚の感染連鎖の後ならば、その効果はそうとうに限定的になってしまいます。既に感染ハブが複数生じていますし、10号線沿いに感染をばらまいてしまった後ですから、予防殺処分の対象が多すぎて収集がつかなくなっていたでしょう。

韓国が範をとっている英国の口蹄疫緊急対策は、あくまでも初発や初期の発生点に対しての予防殺処分の実施です。これは予防殺処分をかけて、その間に発生動向調査を発生点の外縁にかけて感染をあぶり出し、摘発淘汰をかける戦術です。

知事の手記の文脈では、どうもGW後の状況で、国に対して予防札処分を提案しているように読めます。はっきりとこの提案日時は記されていませんが、たぶんそうでしょう。

いずれにせよ、国はもうこの段階でワクチン接種した後の殺処分を省内で決定していたはずですので、やはりこの県提案はにべもなく拒否されてしまいました。

知事は、「脱法、超法規的措置がとれたかというと・・・やはり無理でした」、と口惜しさがにじむ言い方をしています。

初期の国のあまりにひどい責任放棄ぶり、赤松大臣(当時)の不要不急の外遊などの責任者の不在、国の疾病小委員会の「現行防疫指針に基づきさっさと殺処分しなさい」と言うだけの硬直した指導に、知事は国への不信と怒りを募らせていったことが判ります。

そしてそれは、山田大臣(当時副大臣・現地本部長)の宮崎訪問と共に堰を切ったように溢れ出します。

2010年9月28日 (火)

宮崎口蹄疫事件 その109 東国原知事の手記を読む第3回 もしサーモグラフィがあったら

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東国原手記を読んで、彼がどのようなことに怒り、哀しんだのか手にとるようにわかります。彼の熱血の人柄も伝わってきます。ただし、新しい情報はほとんどありません。

いただいたコメントにもありましたが、これが彼がこの時期に「書けた」理由です。フツーの天下り官僚上がりの知事ならば、書かないでしょう。まだ灰塵がくすぶっている時期にヤバイもん。下手すりゃ訴訟を被災者から受けますもん。

ですから、具体性を極力省いて、事件の大枠と宮崎県の立場だけを書く、というのが知事が採った手記の方法でした。たぶん、この手記でも触れている県の検証委員会が細部を埋めていくことになるのだと思われます。

さて知事は手記で、「簡易検査キットやサーモグラフィ、写真判定などあらゆる方法を駆使して早期発見、早期措置に努める必要がある」と述べています。

まったくそのとおりで異論はないのですが、サーモグラフィの判定確率は未だ信頼性に難があります。

ここで知事が言うサーモグラフィというのはIRT: Infrared thermography(IRTカメラ)のことですが、これは米国の口蹄疫研究のメッカであるプラム島動物疾病センター(PIADC)で開発されました。

よく勘違いされるのは、サーモグラフィ(IRTカメラ)が検査を代行するもののように思われていることです。これはとんでもない勘違いで、サーモグラフィはそんな万能の利器ではありません。

サーモグラフィの仕事は、あくまでも、「検査前にリスクのある家畜を仕分ける」ことです

たとえば、今回の宮崎事件でも、ひとつの農場に5千頭近くが飼育されている大型農場がありました。これを一頭ずつ各種検査の検体を採るとなると、たいへんな時間がかかります。ですから、各群から抽出してのサンプリング検査ということもありえるわけです。

すると精度がとうぜんのことながら非常に落ちます。サンプリングから抜け落ちた個体が陽性だったりすることは大いにありえるからです。

そこで登場するのがサーモグラフィです。これは家畜の発熱部位が34.4℃以上あれば口蹄疫の疑いがあることを利用して、発熱部位のヒズメなどを橙赤色に発色して教えてくれるものです。

発症していない家畜は、青緑色になります。この視覚的な違いで膨大な数の家畜の群を素早く分別していきます。

この34.4℃という体温設定は、88%の信頼性で、48時間以内に臨床徴候を現すことが予測できる温度だそうです。この48時間のマージンというのが大きいとPIADCの研究者は言います。

というのは、潜伏期間の最終時期は、臨床徴候はほとんど判別がききません。わずかの潰瘍と涎が出ていればよし、それすら判別しにくいほど小さいケースがザラにあります。宮崎の第1例、第6例などまさにそうで、ベテランの医師が細心の注意してようやく見つかる程度の徴候にすぎません。

ですから、他の家畜が同様の発症をしてようやく伝染病である疑いが出てくるわけです。具体的に記せば、第1例で最初の流涎、小さな潰瘍が見られたのが4月8日、複数の家畜に症状が出たのが7日後の4月16日です。

ですから、48時間、2日以内という限界があるサーモグラフィですので、この8日の時点ではひっかからなかった可能性もあります。しかし、医師は毎日往診に行っているわけですから、13日か14日にはヒズメの温度上昇を発見できた可能性があります。

伝染病の初期制圧にとってこの数日の差が決定的です。

また第6例は3月31日に家保の獣医師が検査のために来診していますが、搾乳20頭と種牛1頭を追い込み柵に入れて採血しようとしましたが、牛が暴れたためにわずか3頭しか検体を採取できませんでした。

家保が来訪したのが午前10時半でしたから、もう一回夜間にパドックで寝ている時にでもサーモグラフィを使用していれば反応が出たかもしれません。

とすると、この3月31日の時点で口蹄疫の疑いありと分別ができて、動物衛生研に遺伝子検査を送付していれば、最速で4月2日か、遅くとも3日に確定ができたのです。

いうまでもなく、これは最良のシミュレーションにすぎません。現実にはそうそううまくはいかないでしょう。しかし、現にこれを実用化している米国では使用頭数がハンパではないために、サーモグラフィを使った大型家畜群の分別技術は非常に進んでいるといいます。

あくまでも検査の代行をするものではないことを念頭において使用すれば、サーモグラフィは安価であり(約30万円ていどといわれています)、家保は当然のこととして、共済組合や民間の獣医師にも普及することが可能です。

ああ、今日はサーモグラフィ談義で終わってしまいました。次回はもう少し読み進めます(汗)。

2010年9月27日 (月)

宮崎口蹄疫事件 その108 東国原知事手記を読む第2回 4月20日以前に検体送付できなかったふたつの理由

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昨日、川南で市民のフェアが開かれていたのをテレビで見ました。賑わった商店街、多くの子供や母親、笑い顔、ほんとうにひさしぶりに見る風景です。県外の私たちが見ていても、ほんとうに心温まる復興の風景でした。復興とは、笑顔が戻ることなんだなというあたりまえのことに気付かされました。

東国原知事は手記冒頭に、「この4カ月間あまりは、終わりのない絶望感すら漂う状況でした」と述べています。まさに実感でしょう。私も5年前、茨城トリインフルの当事者となった時は、「もうこのトンネルには出口はないのか」という気分に常にとらわれていましたから。

この暗澹たる絶望的状況を切り開いてきたのは東国原知事であることはまちがいない事実です。無理解なバッシングに合おうとも、彼という指導者がこの事件においていなければ、宮崎県民は団結することすらできずに絶望の淵に漂っていったことでしょう。

彼は常に被災地を歩き、農民に声をかけ、県民に自分の考えることを直接に伝えました。出来そうでいてなかなか出来ないことです。

茨城県の場合、当時の県知事は3期目の自治省上がりの天下り官僚でした。推して知るべし。なんの知事からの励ましのメーッセージもなく、県議会の刷り物だけが知事の動向を知る唯一の方法でした。

被災地に来たという話もあまり聞きません。まぁ、被災地としては来られてもかえって迷惑なんですが、顔くらい見せろや、直接に言いたいことは山ほどあるぞ、という心境でしたか。

国のウインドレス殺処分方針転換という驚天動地の方針転換にも、ハイハイ仰せのとおりに県は従います、といった具合で、ウインドレスでないばっかりに殺処分を食らった人々は、なにが「法の下の平等だ」とうめいていました。

宮崎県は国と鋭い対立をしました。県所有種牛問題です。それが正しかったかどうかは畜産農家の中ですら意見が大きく別れるところでしょうが、知事が手記で言うようにそれは、国のやり方に対するそれまでの鬱積した怒りが爆発したものでした。そのことも手記ではっきり書いています。正直な人なんですよ。

こういう損は覚悟で強権に噛みつくという人柄の知事が、全国にひとりふたりいてもいいじゃないですか。そのひとりふたりのひとりが、たまたま大災害時の現地にいたというのも不思議な運命の巡り合わせなのかもしれません。

私は東国原知事を得難い危機のリーダーとして高く評価する一方、批判すべきは批判すべきだと思ってきました。つい筆が滑って批判に傾き過ぎ、自主謹慎処分をしたことすらあります。

さて、昨日に検証したように、初動において県の対応が万全かどうかは評価は別れます。知事も手記で書くように「第1例の発生以降はすべて送る」、言い換えれば、それまでの「4月20日以前は、口蹄疫の可能性が8、9割なければ検体を動物衛生研に送付していない」のです。

そして4月8日には第1例で流涎、潰瘍が見られています。ただし複数頭ではなかった。ここが評価が別れるところでしょう。複数頭に発症したのが、遅れて7日後の4月16日です。

流涎と潰瘍が出た家畜を診断したのならば、今の今なら、全国の獣医師のほとんどが口蹄疫の可能性ありとして遺伝子検査に送付することでしょう。そうすべきであったというのもひとつの考えです。もしそうすれば確かに口蹄疫確定ははるかに早まりました。この立場につくのは、畜産農家が多いようです。

一方、現役獣医師に話を聞きますと、一様にそれは無理な相談だと答えます。私の知り合いの獣医師も、「ゼッタイに無理。当時それを口蹄疫だと見破ったら神業」とまで言いました。実際ほかの伝染病、たとえばイバラキ病などの可能性や、藁に毒性のものが含まれているのではないかと獣医師は疑っていたようです。

東国原知事は手記で、4月20日以前に遺伝子検査に送付しなかった理由をふたつ挙げています。

ひとつは、「検体をその都度送付していては、全国から何千、何万と送られてきて検査が追いつかなくなってしまう」ことです。

う~ん、この言い方はちょっと引っかかりますね。確かに後段で知事が述べるように、国の検査体制が動物衛生研の一カ所しか存在しないという貧弱さにもかかわらず、国が口蹄疫を確定するすべての権限を掌中に握っていることは、確かに問題視されるべきです。

しかし、その国の責任と、それを送付するしないという県の判断は次元が違います。もしわずかでも口蹄疫の疑いがあれば、躊躇なく送付すべきです。それをやって、検査結果がもし遅滞することがあれば、堂々と批判すればいいのです。

次に「4月20日以前は送付しなかった」二つ目の理由を、知事はこう書きます。「動物衛生研に送るということは、その時点で、陽性である疑いを持つことを意味しますから、最悪の場合に備えて市場をストップさせ、殺処分の準備をしなければなりません。それをその都度繰り返しては市場が回りません」。

う~ん、セリ市が止まるか。これもなぁ・・・。現場を預かる行政官としてはわからないでもありませんよ。セリ市が止まる、肉の加工が止まる、出荷が滞る、場合によってはそれもストップする可能性がある、となると躊躇する気持ちは充分理解できます。

しかし酷なようですが、そうすべきではないですか。検体を出すごとにセリ市を止める準備をせねばと言いますが、準備くらいはするべきです。そのための緊急対応マニュアルは宮崎県にあるでしょう。

陽性疑惑の検体送付と共に、知事に図ることなく自動的にせり市停止と、殺処分準備体制の準備くらいはしておくべきではないですか。

今回の感染拡大でえびの市がいち早く拡大を阻止できたのも、ひとつにはセリ市の早期停止でした。出るたびにセリ市を停止といいますが、その労苦をしなければ、危機管理などそもそも無理です。

口蹄疫対策、すなわち危機管理は、百回のうちに起きるか起きないかわからないただの一回に備えるものだからです。そのただの1回が起きてこの大惨事になったことを忘れてはいけません。

■ 写真 ゴーヤの花です。

2010年9月26日 (日)

宮崎口蹄疫事件その107 東国原知事の手記を読む第1回 第6例と第1例の発見経過をつき合わせて確定の遅れを検証する

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宮崎口蹄疫事件で初めての指揮官クラスの証言が出ました。「WILL」11月号に東国原知事の手記が掲載されています。新聞で広告を見て、さっそく走って買いにいってしまいました。

「毎日生きた心地がしません。悪夢にうなされています」という知事の今も続くつらい心情吐露から始まる10頁ほどの比較的短い手記でした。

この手記の価値は、事件当事者、特に宮崎県側の最初の回想録だということです。今まで政府関係者は、山田前大臣も篠原副大臣もブログ短文は書いていますが、宮崎県側の防疫関係者としては今回がたぶん最初のものではないでしょうか。

全体はまさに山田前大臣に対する呪詛とでもいうべき怒りに満ちていますが、なにが知事をかくも怒りで振るわせいるのかを順を追って見ていくことにしましょう。

東国原知事が冒頭に述べていることに、この手記の基調底音は集約されます。それは、国は常に自分は「マニュアルどおり忠実にやりました」というコンプライアンス(法律遵守)を言ってくるが、実際は「この不測の事態では、家伝法、防疫指針のマニュアルが、いかに力を持たないのか」、です。

宮崎口蹄疫事件の4月段階の感染拡大時、宮崎県防疫側内部でなにが起きていたのかが、私が知りたかったことのひとつでした。これが明らかになれば、現実の防疫体制と、国家防疫マニュアルである家伝法、防疫指針との乖離が明白になります。

私はこの宮崎口蹄疫事件は特殊な事件ではなく、ほぼすべての県で起きる可能性がある普遍的な事例であると思っています。たぶんもっとも防疫強度が高いと思われる鹿児島、北海道などにおいても、畜産農家の疎密の差はあるにしても、今回クラスの感染力をもった口蹄疫が侵入した場合、おそらくは宮崎とさほど変わらない状況を辿るでしょう。

ならば、4月の県の初動制圧の遅れの原因を「無能な宮崎県防疫体制にある」と言わんばかりに切り捨てる検証委員会総括ではなく、なぜ、どこでつまずいたのかをしっかりと見ておく必要があります。

手記に戻ります。東国原知事がこの手記で強調していることは、国のマニュアルどおりにしたにもかかわらずなぜ初動に失敗したのか、ということです。

初動において宮崎県は国の防疫指針に忠実に添っていたと知事は述べます。「第1例の発生以降は、流涎(りゅうぜん)、糜爛(びらん)が少しでも見られた際は、直に動物衛生研究所に検体を送付」している、としています。

初発とされた第6例の水牛農場についても、「3月末に家保の防疫員がチェックを、マニュアルどおりに行っている」としています。ただし、「牛の症状からしてして口蹄疫を疑う症状ではなかった」、「数多くの専門家や獣医師からも初期の臨床症状では口蹄疫と判断するのは困難だったという所見が述べられている」としています。

この部分に関しては発表媒体が一般誌だということでわからないではありませんが、もう少し突っ込んだ記述がほしいところです。

というのは、第6例(初発)から600メートル離れた第1例の和牛農家で口蹄疫に罹ったとされる牛が見つかったのが4月20日です。これが口蹄疫発見のきっかけでした。

実は、これを発見した高鍋町の池亀康雄医師(*「月刊文春」8月号高山文彦氏記事に実名登場を勇気ある許可されているので、実名を記します)は3月末、つまりその時点から遡ること3週間前ほどの3月26日に、水牛農家に往診に行っています。

確かにこの段階では涎も泡もなく、発熱が40度でした。抗生物質と解熱剤を投与しています。知事がいうとおり「初期の臨床例では判断できない」のは事実です。

この26日の時点で同じような元気のない牛が発見されています。そして池亀医師は往診を続け、29日に別の9頭に乳量の低下と発熱と下痢が見られました。感染によることはまちがいありませんが、この段階でも口蹄疫という決定的な症状はでていないのです。

そして、31日午前10時半に家保の獣医師3名に来てもらい、検体を採取します。このときには、牛が暴れたために全頭の検体を採れず、3頭のみの検査で終わっています。採取したのは、血液と、鼻の中、糞便の3種でした。

4月1日から3日にかけてほぼすべての搾乳牛と種牛が平熱に回復し、餌の食いも回復してきていましたが、乳が出ません。

検体を持ち帰った家保からの連絡が何日もないために、5日に池亀医師が問い合わせると、家保で調べられる検体に関しては陰性でした

ここが第1の謎です。なぜ3月31日の第6例の検体から、抗体検査で陰性判定が出てしまったのか?またこの「家保で調べられる検体」とは抗体検査のみで、鼻のスワブ検査も同様にシロであったのか?

後から考えれば、とうぜん3月31日の検体は完全に口蹄疫だったことは疑いようがなく、なぜこの4月5日に家保が陰性判定を出したのでしょうか。

とうぜん、池亀医師はここで安心したと思います。ああ、水牛農場は「伝染病」ではなかったのだ、と。そう、池亀医師も含めて家保も口蹄疫の可能性をまったく疑っていなかったのです。だから、家保は口蹄疫として検査をしていないのです

そして再検査のために家保から2名の医師が来たのが、4月14日です。一回目検査からちょうど2週間たっています。これも水牛農家と池亀医師からの要請での来診です。乳量と質の低下のために農場主が生産再開を断念し、原因究明に乗り出したからです。

この段階で、既に牛たちは健康を回復しており、暴れて検査をさせない牛も多かったそうです。既に自然治癒していたのです。

そして運命の4月20日。水牛農場の隣接する和牛農家が発症、一気に口蹄疫確定へと進んでいきます。

池亀医師は午前10時40分の口蹄疫発生の一斉通報に接し、第1例が隣接でもあるし、今までの経緯からなにかしらの伝染病であったことは間違いないと確信していたので、家保に電話をします。

そしてここで第2の謎が生まれます。家保は混乱のさ中での対応で、ここでもまた「4月14日の検体はシロだ」と言ったのです

池亀医師も水牛農家もありえないと思ったそうです。そして「民間の検査機関に頼んだほほうがいいのではないか」と考えました。しかし、日本に口蹄疫検査が可能な施設はわずか1カ所独立行政邦人動物衛生研究所(動衛研)・海外病研究施設しか存在しないのです。

一方、第1例の最初の家保の検査4月9日です。その2日前の7日にI医師が往診に行って発熱と、わずかな涎を発見して風邪の治りかけではないかと診断していますう。。そしてよく8日にも往診し、今度は上唇の歯茎の根元に3ミリの小さな潰瘍を発見しています。

「ドキッとした」と医師は言います。ここで家保に通報し、4ツのヒズメの裏まで診断した結果、腫瘍以外に異常が認められませんでした。そしてこの牛はすぐに自然治癒しています。

ここで、知事が手記で述べる「流涎、腫瘍がみられたら直に動物衛生研に送付している」という記述にズレが生じます。この8日に動物衛生研送付ができていれば、確定は12日間も早まったことになります

同じ症状が別の牛で出たのが7日後の4月16日です。17日に家保の獣医師が来診して検査した結果、口蹄疫「以外」すべて陰性判定でした。他の複数には発症していません。

そこで既に動衛研には検体を送付してあるので、結果を待とうということになりました。そしてこの東京に送付した遺伝子検査から口蹄疫が出たのです。

話が前後するようですが、第6例水牛農家にも、家保が聞き取り調査に訪れたのが確定翌日の4月21日でした。たぶん発生動向調査をしていたものだと思われます。そして翌22日に5頭から検体採取(採血)をしていきました。

そして動衛研から遺伝子診断結果で来たのが翌日23日でした。口蹄疫陽性判定です。

驚くべきことには、この4月23日に出た陽性検査結果が3月31日の初回に採られた検体であったことです!つまり、この第6例の検体はほぼ20日間もの間、家保で眠っていたことになります。これは家保が、3月31日採取した検体を、4月20日以降(たぶん22日)に動物衛生研に送付したためだと思われます。

要するに、家保は4月20日に第1例で口蹄疫が確定するまで口蹄疫の可能性そのものをまったく疑っていないことになります。

この理由は知事が述べるように、「口蹄疫初期の臨床の判定しにくさ」だけで説明することは難しいと思われます。というのは、民間の第6例の獣医師である池亀氏や水牛農家経営者は、家保の診断の遅れや、陰性判定に不信を募らせており、むしろ彼らは口蹄疫検査が民間でできるのならば、自発的に持ち込もうとまで考えていたからです

それ以外にも、第1例においても4月8日に上唇に腫瘍があり、涎が見られています。症状が小さく決定的ではなく、複数例でていなかったためにせよ、やはり民間医師は「ドキッ」としており、ここで家保が遺伝子検査をしておれば、という無念さは残ります。

このように、県家保の検査体制の遅さと危機意識の希薄さはやはり指摘されるべきでしょう。

4月の移動時期と重なったりの不運があるにせよ、知事自身が国がしているのと同じように「マニュアルに則ったコンプライアンスはできている」と言っているだけように聞こえます。

マニュアルどおりのコンプライアンスをしたが、なぜ口蹄疫判定ができなかったのか、知事が更に深いメスを自らに入れないと、山田前大臣への恨み節にはなりえても、真正面からの後世に残すべき総括にはならないのではないかと残念です。

実はこれについても知事は答えを用意していますので、次回以降も東国原知事手記を読み進めたいと思います。

2010年9月25日 (土)

尖閣諸島の警察権を放棄してしまった日本国政府の醜態

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マーカーワクチンの続きをしようと思っていましたが、こちらを優先します。

日本国政府は、司法の独立に介入し、それを「政治主導」してねじ曲げました。これをなしたのは、弁護士資格を有する仙谷官房長官です。当人は「勝手に那覇地検がやったこと」とうそぶいていますが、それを信じるお人好しの国民は皆無でしょう。

仙谷官房長官は、首相、外相がニューヨークの国連総会に出席している空隙を縫うようにして、彼個人の判断でこの決定をしました。党内論議はおろか、政府内議論さえされた形跡はありません。

「粛々と国内法に沿って捜査を行う」と言い、米国やEU諸国に日本の立場の理解を求めて奔走していた前原外相は、さぞ怒り狂ったことでしょう。

ニューヨーク時事
前原誠司外相は23日午前(日本時間同日夜)、ニューヨーク市内でクリントン米国務長官と約50分間会談した。前原外相は尖閣諸島(中国名・釣魚島)沖の海上保安庁巡視船と中国漁船の衝突事件について、国内法に基づき刑事手続きを進める方針を説明。これに対し、クリントン長官は尖閣諸島について「日米安全保障条約は明らかに適用される」と述べ、米国の対日防衛義務を定めた同条約第5条の適用対象になるとの見解を表明した。

司法においては、「超法規的措置」などという概念は存在しません。もしこのような恣意的な「政治主導」が公然と許されるのならば、その瞬間から「法」の権威は失墜し、人治国家と化していくことでしょう。

外交交渉で領土問題を協議してはならないという原則を踏み外して早々と屈したわが国に対して、中国はある意味「原則的」でした。

国連総会出席で訪米した温首相はニューヨークの在米華人会合で「必要な対抗措置をとらざるをえないと発言し、これと同調するように9割が中国で産出されているレアアースの対日輸出禁止を匂わせました。

また息もつかせず、尖閣問題とまったくなんの関係もないゼネコン「フジタ」社員4人が河北省石家荘市国家安全機関の取り調べで拘束されました。

なんというか、かんというか、旧ソ連がやったような子供じみた古典的ブラフを今更よーやるね、といった感じです。

こんな古典的ブラフカードに驚く必要などありませんでした。事実、レアアース輸出禁止について最初に報道したNYタイムスも即座に訂正記事を出しています。中国政府のちょっとしたブラフに水鳥に怯えた平家をやらかしてしまったのです。

中国にとって、外交問題のカードに仕立てるために無関係な邦人を拘束することなどは朝飯前のことです。かつてはレオ・ティント社事件などもあり、中国政府がそのときの都合で、邦人を拘束したり、賄賂を要求したり、はたまた自分が誘致した日系企業を勝手に立ち退かせたりすることは、在留邦人には常識の範疇です。

日本は原則的に、邦人の不当拘束は即時釈放せよ、レアアース禁輸はWTO違反で認められない、以上の案件と尖閣での中国人船長逮捕はまったくなんの関係もない、と外交当局に言い続けさせればいいだけです。

一方、今回の中国の態度は実に「原則的」でした。まず、本来外交交渉にすべきではない尖閣領有問題を、外交テーブルに乗せることに成功しました。

わが国は、竹島領有問題においては係争関係が存在することを認めており、韓国に国際司法裁判所に出るべきであるとかねがねから言ってきました。しかし、尖閣問題においては「領土問題は存在しない」という立場を一貫してとっています。これは民主党政権においてもとうぜんのこととして継承されています。

かつて中国は、ベトナムから米軍が撤退するやいなや西沙諸島の領有を求めて進出し、同じくダナンからロシア軍が撤収すると南沙諸島のジョンストン環礁を占有しました。

また、米軍がフィリピンのスービック海軍基地を撤収した直後にミスチーフ環礁に中国海軍を送り込み、これを占領しました。

かくして、南シナ海は中国海軍の事実上の庭と化しています。この中国の膨張主義的政策はとどまるところを知らず、今や東シナ海の領有を狙っていることは明白です。

中国の「原則」は、まず漁船や海上観測船が他国の領海を公然と侵犯して、当該国の海軍や沿岸警備隊(海保)と紛争を引き起し、それを口実にして中国海軍が介入し一気に領有化するという手口です。

また、中国の「原則」は、国際的に認められていない国内法でしかないの1992年制定の領海法により勝手に自国領土に編入してしまった領土は、あくまでも「神聖なる祖国領土」だと一歩も譲らないことです。

したがって、中国領海法により、既に中国領土であることになんの疑いもない尖閣諸島を犯す日本こそが軍国主義なのであり、それとの戦いは神聖なる祖国防衛戦争なのです。

今回わが国は、尖閣諸島において不法行為を働いて海保の船舶を損傷させた中国人船長に対して、司法権を放棄してしまいました。これは中国に対して、今後は尖閣諸島領海内での司法権をわが国は放棄しますよ、というシグナルにほかなりません。

いわば、今後、尖閣諸島領海内での、漁船の次に来るもの、すなわち中国軍艦に「来てもよし。わが国はなにもしません」という外向的シグナルを出してしまったことになります。

以後、わが国は尖閣諸島を失うばかりではなく、中国は排他的経済水域を、尖閣諸島と石垣島の中間ラインに事実上引くことでしょう。わが国漁船が尖閣諸島で漁をすれば、中国海軍にだ捕されて処罰されることになります。

そうなっても、日本の海保は黙ってみているだけでしょうし、外務省も小さい声でボソボソと「抗議」をするにとどまります。もちろん政府はなにも言いません。

これは外交的稚拙がどうしたというレベルの話ではなく、外交的失敗と言われてもしかたがないでしょう。米国やEU諸国で同じことを政府がしたら、即刻政権は崩壊することでしょう。

また、同種の領有権問題を中国と抱えるASEAN諸国からの失望を買ったことでしょう。

巨大な禍根を政府は残してしまいました。

 

2010年9月24日 (金)

宮崎口蹄疫事件 その106   山内一也先生の衝撃的提言 宮崎で使用されたワクチンはマーカーワクチンだった!?

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ああ、痛てぇ。農作業中に事故をやらかしました。いやなに単に雨でコンクリートの作業道でハデにコケてそこら中を打っただけですので、ご安心を。

これが機械相手だとしゃれでは済みません。農作業中の事故は実に多くて、その大部分はトラクターや刈り払い機などの事故です。これで事故るとこわい。指くらいならまだしも、転倒したトラクターの下敷きになったりすると命に関わります。

さて、どうも皆様のご意見をお聞きしても、今回の宮崎のケースでの「殺処分を前提にしないワクチン接種」は旗色が悪そうですが、もう少し口蹄疫ワクチンについて考えてみたいと思います。

口蹄疫ワクチンは、家畜全般をみわたしてももっとも進化が遅れているものです。鶏のNDなどは私が経験した10年前とは比較にならないほど進化しているのに対して、口蹄疫ワクチンは今なお発達が遅れています。

その最大の理由は、OIEが口蹄疫防疫戦略を殺処分を中心として確立したため、現実に清浄国にとって「使えない」分野となってしまったことです。

製薬会社からすれば、使ってもらえないような口蹄疫ワクチンを長期間かけて膨大なコストを支払ってまで開発する理由が薄いのです。

つまりは、使ってもらえないから口蹄疫ワクチンの進化が遅れている、だから製造会社も限られていて、在庫も少ないということになります。

「使えない」理由は以下であるようです。
[引用開始]

口蹄疫ワクチン(英国メリアル社製Aftopor)は存在するが、基本的に使用しない。その理由は

  1. 感染の診断が不可能になるので、その後の予防が著しく困難になる。また感染した動物と抗体の区別がつかないのでワクチンが投与された個体が生きている間は輸出相手国が輸入再開の許可を出さないケースが多く、産業への長期的打撃が大きい。
  2. 100%の効果がないので、感染源になったり偽の安心を生む。現在あるワクチンは(生体内での免疫の)有効期間が6ヶ月で、個別の型にしか効かない。新たに感染した場合、排除するのではなくキャリア(潜在保菌患畜)(1-2年という論文も存在)となり危険である。またウィルスの変異速度がはやく、免疫効果が未知数。
  3. 日本では、2010年以前に使用例がなく不安である。
  4. ワクチン接種された動物は食品に使えない。(?)
  5. 接種範囲の決定が困難である。
  6. ワクチン接種、診断、殺処分の3つを兼業ができるのは獣医師だけであり、流行期に過重な負担となり実行不可能に近い。

[引用終了 出典 Wikipedia]

とまぁ、これが口蹄疫ワクチンは存在しても清浄国にとっては「使えない」理由のようです。6ツ理由が並んでいますが、玉石混淆というか、1の「感染の診断が困難になる」を除いては、今回の宮崎県の「ワクチン接種⇒殺処分大戦略」を知っているだけに苦笑してしまうようなものも混ざっています。

使った例がないだの、接種したら肉が食えないだの、接種範囲が決められないだの、獣医師が足りないなどとグダグダと言っていても、その気になってやれば、要するに「出来る」のです(笑)。

言うまでもなく最大の理由は、ワクチン接種をすると自然感染との区別がつかないことだと思われます。だから、口蹄疫ワクチンを接種すれば、ほんとうに自然感染した個体と、ワクチン接種した個体に同様に抗体が出来てしまって見分けがつかなくなり、診断が不可能になる、というわけです。

だから、いったん接種してしまえば、ほんとうに感染していようといまいと、まとめて皆殺しだぁ、という実にダイナミックというか乱暴な方針が今回の宮崎で取られた方法です。

一見もっともらしい理由ですが、これも実はほんとうにそうなのか非常に怪しいのです。ご存じ、マーカーワクチンの存在を無視した政府方針だからです。

この議論に一石を投じられたのが、高名な山内一也先生(東大名誉教授)でした。先生はこう書いています。
[引用開始]

現在口蹄疫ワクチンの多くはマーカーワクチンです。宮崎で用いられたのも同じです

 マーカーワクチンではNSP抗体の検出に信頼性がなければなりません。そのため、NSP抗体を検出する検査法の開発は1994年からEUの支援のもとに始まっており、2001年には最初の市販の検査キットについて、5000頭ほどの家畜の血清についての信頼性確認の成績がOIEのアジア地域会議で報告されました。

 マーカーワクチンを接種し、NSP抗体が陰性であることを確認すれば殺さなくてすむようになったのです。OIE2002年の総会でNSP抗体陰性が確認されれば6ヶ月で清浄国に戻れるという条件を承認しました。
[引用終了 出典 予防衛生協会 口蹄疫の正しい知識 殺すためのワクチンから生かすためのワクチンへ」)

私はこれを読んで愕然としました。まず、宮崎県で接種された英国メリアル社のAftoporワクチンを、先生は明瞭にマーカーワクチンであったと書いているのです。先生ほどの防疫研究者がマーカーマクチンであったと断言していることを疑う根拠は、私にはありません。

そして、マーカーワクチンはNSP抗体が陰性であることが確認できる特性を持ち、したがって自然感染であるかどうか識別が出来るとされています。

また、OIEは2002年年次総会でNSP抗体陰性が確認されれば、6カ月間で清浄ステータスに復帰できるという条件を作ったとされていることです。

先生が上げられた3ツの理由のうち後二者は私も知っていました。問題は今回のメリアル社Aftoporワクチンがマーカーワクチンであったということです。これは東国原知事のブログ言説と符号します。

となると、先に述べたWikipediの6ツの条件、ほぼすべてが否定されてしまい、ワクチン接種しての殺処分に重大な疑問符がつくことになります。

2010年9月23日 (木)

宮崎口蹄疫事件 その105  疾病小委員会は確信をもってワクチン戦術をとったのか?

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cowboyさんから興味深いデータをいただきました。ありがとうございます。

以下引用

ワクチン接種したにもかかわらず、発症した(臨床症状での判断もあり)ため殺処分された家畜(68件)が結構います。
ワクチン接種日 件数
5/22           3件
5/23           9件
5/24          23件
5/25          15件
5/26          14件
5/28           2件
5/29           1件
6/8            1件

ワクチン接種から発症日までの日数 件数
1日                               2件
2日                               6件
3日                               4件
4日                              14件
5日                              11件
6日                               4件
7日                               5件
8日                               4件
9日                               4件
10日                              3件
11日                              1件
12日                              2件
13日                              2件
15日                              2件
16日                              1件
17日                              2件
19日                              1件

ワクチン接種から19日経って、発症した288例目の場合、ワクチンの効果は如何なものなのでしょう?素人なのでよく分かりません。
それと、ワクチン接種に赴く際、感染を拡大させてしまった可能性もあるや否や。つまり、「どうせ殺処分するのだから」と防疫に油断が無かったかどうか。

えびの市に当時の山田農水副大臣が、ワクチン接種実施について、来られたとき、我々全員、何しに来たんだろうと思いました。だって、どう見ても、ここでは、感染拡大が顕著というわけではなかった。ワクチン接種後殺処分という施策について、国内初という非常に実験的な側面を感じ取ったのは、私だけではなかったと思います。

引用終了

これを読むと、ワクチンが接種される前に既に潜伏期間であったものが多数いたことがわかります。そしてその場合はワクチンはほとんど効果を発揮していません。

ということは、ぶっちゃけて言えば、出るものはワクチンをしようがしまいが出る、出ないものは出なかったというわです(笑)。

ならば、発症個体に対してはいきなり摘発淘汰をかけてもいいわけで、なにもワクチン接種をしてから殺すなどというまだるっこい迂回をする必要もなかったことになります。

たぶん殺処分を前提にしたワクチン接種を答申した疾病小委員会も、そのあたりは判っていたはずです。

単に日本で最初だというだけではなく、不活化ワクチンは抗体値がワクチネーションを継続する中で上がっていなければ、本来意味をなしません。不活化ワクチンがワクチネーション工程の最終で接種されるのは、単体では効果が上がらないことが判っているからです。

また感染拡大の過程の中で、ウイルスが既に一部で変異してしまっている場合も考えられたはずです。

私自身かつてのニューカッスル(ND)の大流行時に、目の前に来ている感染の津波に怯えてMD不活化ワクチンを接種しましたが、まったくダメ。ごっそりと感染で死なせたことがありました。

さて、寺門先生の弱気な発言はそれを裏付けています。
引用開始

寺門誠致委員長代理は記者会見で「ワクチン使用の時期に来ているが(中略)
 技術面で自信がない。やってみなければわからない」

(「日本の防疫体制は丸裸」雑誌「選択」2010年8月号)

この寺門先生の記者会見の発言を読む限り、疾病小委員会内部でも意見が別れており、座長自身も確信がないことがわかります。

今になってから、検証委員会に疾病小委員会のワクチン接種の結論が遅いと批判をされていますが゛、やはり消費安全局と一部の委員の強いプシュがあっての殺処分を前提とするワクチン接種戦術であったような気がしてしまいます。

山田前大臣に軍師のようについている疾病小委員会の委員でもある某氏の大きな影を感じます。

ああいかん、私もHさんのように口蹄疫事件の背景には薬品会社と農水官僚の結託がある!みたいな陰謀論者になってしまう(笑)。

2010年9月22日 (水)

宮崎口蹄疫事件 その104 「殺処分を前提にしないワクチン接種」は現実に可能であったのか?

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ワクチン問題を考える時、なんとも歯切れが悪い感想が拭えません。なんでこうもハッキリしないのかなと自問しています。

私の鈍い頭で少々整理してみましょう。

私は自称リアリストですので、学者の言うことはあまり信用していません。学者が「○○は可能であった」と言うのは勝手ですが、実際可能であったと言うにはパラメーターがいくつも必要です。

今回の宮崎事件の場合はこんなことでしょうか。思いつくままに書き出してみましょう。


第1に、緊急ワクチンをどの時点で接種するのかという時点の問題です。最初の確定時の4月20日に初動制圧の手段として接種すべきなのか、それとも、感染拡大をして国が介入した5月12日以降なのか、それとも現実に国が「殺処分を前提にしたワクチン接種」を開始した5月20日以降なのかです。

第2に、将来のケースについてなのか、現に起こってしまった宮崎口蹄疫事件における「もうひとつの選択」なのか、です。現に起きた事件ならば、当時の県の防疫方針を規定していた、国の口蹄疫対策の諸規範との関わりを見ておく必要があります。

第3に、つまり、家伝法や防疫指針は殺処分を前提に成立しており、ワクチン接種は想定されていないからです。今回国がワクチン接種を考えたのは、たぶん4月下旬の時期だったでしょうが、その時に国がストックしていたのは、宮崎県で使用されたMerial社のAFTOPORでKilledタイプ(不活化ワクチン)です。

となると、マーカーワクチンは国内にはあったのか、という問題に突き当たります。マーカーワクチンは、ご承知のように、精製時に非構造タンパク質(NS蛋白質)を取り除き、自然感染の抗体と識別できるようにしたワクチンをいいます。

マーカーワクチンでないとなると、野外感染との識別が不可能となります。ですから、抗体検査をしても、自然感染なのか、ワクチン由来の感染なのか識別できずに、一律殺処分となるというのが、国の見解のはずです。

第4に、となると、「殺処分を前提としないワクチン接種」をするためにはマーカーワクチンの緊急輸入をせねばならず、消毒液すら不足していた当時の状況でそれが可能だったのか、可能であったとしたらどの程度のスパンが必要だったのかも考えねばなりません。

たぶん、そうなるとマーカーワクチンを使用するとなると、6月にまでワクチン接種が、殺処分を前提にしよとしまいと、ズレ込んだ可能性が出てきます。

第5に、まだマーカーワクチンはまだ開発途上であり、実用になったばかりです。エライザ法以外の簡易的な検査方法がないのではないかと思われます。となるとマーカーワクチンをやったら、その後の発生動向検査はしんどいこととなりはしないかという思いもあります。

第6に、発生動向検査の手順です。発生動向検査をやってから、緊急ワクチン投与か摘発淘汰を選ぶのか、その発生動向検査工程を省いて一律に緊急ワクチンを投与するのかどうかです。

一律に省くというのは、5月中旬時点で発生動向検査をすべき獣医師がまったく不足していた(殺処分が原因でずが)ことを考えると、殺処分を一時停止して緊急ワクチンに切り換えるという苦しい選択になったと思われます。

5月中旬の「殺処分を前提としたワクチン接種」をしなかった場合、当時の感染拡大の爆発的状況において、既に処分地は決定的に不足しており、処分はのべ5千人の獣医師を投入してすら遅滞していました。

第7に、となると(←今日は「となると」が多いですなぁ)、現実には「殺処分を前提としたワクチン接種」をしなかったのならば、たとえそれが時間稼ぎであったとしても感染拡大は止まらなかった可能性があると思われます。

第8に、OIEとの関係です。当然のこととして、いったんワクチン接種すれば「ワクチン非接種清浄国」から「ワクチン接種汚染国」に格下げになりますから、OIE陸生動物規約cord8・5・8を拒否しない限り、清浄国ステータス回復ルートが異なります。

う~ん、三谷さんたちの言う「殺処分を前提としないワクチン接種」の旗色は悪いなぁ・・・。もうちょっと考えてみます。

では、将来はというと、どうなのかは次回にでも。

2010年9月21日 (火)

宮崎口蹄疫事件 その103 やめちゃうの、東国原知事!

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今日は別のことを書く予定でしたが、やはり東国原知事の次期出馬せずというニュースについて書くことにします。

宮崎県の東国原英夫知事が、来年1月20日の任期満了に伴う知事選(12月26日投開票)に出馬しない意向を固めた。タレント時代の師匠、ビートたけしさんと最近東京都内で会い、こうした意向を伝えた模様だ。来春に予定される東京都知事選や、次期衆院選への出馬などが取りざたされている。家畜伝染病の口蹄疫(こうていえき)問題で大きな打撃を受けた地域経済の復興は、次期知事に委ねられる可能性が高まった。

 東国原知事は20日夜、宮崎空港で記者団に対し知事選について「熟慮中だ。9月議会で表明する」と述べ、明言を避けた。たけしさんとの面会は認めたが「口蹄疫問題でお世話になったお礼」と述べるにとどめた。ただ、関係者によると、知事は29日にも県議会本会議で表明する見通し。表明が24日か、議会最終日の10月12日になる可能性もある。

 知事は県議会で、知事選出馬について態度を保留する一方「国の形を変える」などと述べ、国政に意欲をにじませる場面が目立った。口蹄疫問題で国と対立した経緯を踏まえ、記者団に「口蹄疫がなければ恐らく2期目をやっていた」と語ったこともある。地方分権への関心が強く、財政基盤の強固な都知事か、国会議員を志向しているとみられる。

 東国原知事は07年、官製談合などで後に逮捕された前知事の辞職に伴う出直し選挙で「宮崎をどげんかせんといかん」と訴え初当選。就任後は宮崎牛やマンゴーのトップセールスで宮崎の知名度を上げた。一方、昨夏の衆院選では自民党からの出馬を模索。任期半ばでの国政転身の動きが県民の反発を招き、断念した経緯がある。

 知事選への立候補表明者はまだいないが、県OBらが東国原知事の不出馬に備え、候補者擁立の動きをみせている。これに対し、知事は官製談合事件以前の政官業癒着などへの逆行を懸念しており、出馬の可能性は消えていないとの見方も、なお一部に残っている。

【毎日新聞 石田宗久、小原擁】

正直に言ってあ~っという気持ちです。やっぱりなというなんとも寝覚めの悪いニュースでした。

彼のブログでは、終結宣言以降も県議会で「国と対立したから補償金が降りてこない」などの罵声を受けたことを書いており、直近ブログでも「沈思黙考」という微妙な表現をとっていましたので、そろそろかな~と思っていた矢先でした。

しかし、知事は大規模災害を受けた当該県知事としてありえない選択と批判されても返す言葉がないのではありませんか。

なにより、宮崎県はぜんぜん復興していないではないですか。被災農家で来年1月20日の任期内でどれだけの数が再建できるのでしょう。一握りにすぎません。

この復興を最後まで手助けするために財源を確保し、4月県職員の人事異動が被災農家に不利益にならないように細心の配慮をすべき立場が、知事です。

また原因究明も、何度か県独自にすると言いながら、これも放棄してしまうのでしょうか。侵入ルート、伝染拡大ルートなど、国がおざなりの報告書でお茶を濁している、まさにその時にその最大の当事者のひとりであった県知事が辞めてどうしますか?

このまま推移すれば、私が口酸っぱく言っているように、「国が正しかった。感染拡大は無能な宮崎県と、衛生観念のない被災農家の責任だ」という欺瞞に満ちた認識が大手をふってひとり歩きしてしまうことでしょう。

今、このような微妙な時期に辞めるのならば、東国原知事と国がなにかしらの裏取引をしたのかとすら疑われてしまいます。

県の防疫作戦を指揮した指揮官として、そしてなにより被災地県民を率いた指導者として東国原知事は最後まで責任をとりきるべきです。

それは9割以上という驚異的支持率を与えた宮崎県民にとっても不幸なことです。

国の防疫の指揮をとった山田前大臣、そして今回、東国原宮崎県知事まで姿を消すとなると、口蹄疫事件の指揮をとった指揮官クラスの当事者は、終結してわずか半年にも満たないうちに、篠原副大臣のみとなったことになります。

かくして、真相解明はいっそう混迷を深めていくことでしょう。

■ この数回告知しております。「口蹄疫民間ネット」は掲示板でご覧いただけます。ブログチ記事では読めない口蹄疫情報が満載される予定です。
ただし、荒らしを排除するために会員登録が必要です。参加ご希望の方は、管理人の三谷氏にメールでお問い合わせください。

mitani3277@globe.ocn.ne.jp

2010年9月20日 (月)

宮崎口蹄疫事件 その102  「どの県でも起こり得る悲劇」としての宮崎事件

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わたしが現役の畜産農家として口蹄疫を追いかけてきて、やはりもっとも大きな関心は感染侵入ルートと伝染経路でした。

既に出されている疫学チームの中間報告書、そして今回の検証委員会の中間報告においては、それはまったく明らかにされていません。たぶんこのまま県の調査がなされないならば、わたしが体験した2005年茨城トリインフルとまったく同じで「迷宮入り」となることは必至です。

ウイルス侵入ルートの特定なくしては、他県の畜産家は防ぎようがありません。リアルな問題としてこのことに対する検証は不可欠であると思います。

また初発が感染したと思われる3月段階から、確定した4月20日までの初期の経過についても整理しておかねばなりません。というのは、この時点で既にたぶん10例以上の感染拡大をみているからです。

初動のミスを国は県に全面的に押しつけて、それを最大の失敗と位置づけるようですが、なぜそのようなことになったのか、家伝法や、防疫指針の本質的な欠陥、そして現実の県レベルの防疫体制がどのようであったのかなどを検証していく必要があります。

この部分を明確にしないと、「どの県でも起こり得る」悲劇としての宮崎口蹄疫事件という側面が明らかになっていきません。

わたしは検証委員会の報告に対する一対一的批判は、彼らの土俵に乗ることであると思っております。あの枠組み自体がナンセンスであり、国主導の総括そのものです。いちおう概括的に触れることは無益ではないでしょうが、レベルが低すぎて批判する気にもならないシロモノです。

ある意味、私たちネットにおける口蹄疫検証のほうがはるかにレベルが高く、情報量も豊富です。これをどのように結び合わせて、生産的な検証作業にまとめ上げていくのかが、今度の課題ではないかと思う次第です。

最後に、ワクチン接種→殺処分問題は、現場の畜産農家のほぼ大多数の支持を得ています。わたしですら、ある時点まではそうでした。

これは種牛問題での知事の対応が、この問題に対する生産者の意識を国の側に押しやってしまったからです。あの種牛問題がなかりせば、もう少し公平な評価が下せたと思われますが、県種牛と民間種牛問題は、前回の2001年事件からなにも学ばなかった事業団の感染侵入という大失態から発しているために、どうしてもそれの政治的救済としてしか見えない県知事の対応に批判的になってしまいます。

わたし自身、種牛問題から離れて、ようやく殺処分を前提にしたワクチン接種問題に疑問を持つようになれたというのが実際です。口蹄疫事件は、ダイナミックな時系列で絡まりあいながら流れていきました。ですから、ワクチン問題だけを抽象的に切り離して、検討することはなかなかできません。

いまの終結をみた時点でテーマとすること自体に異論はありませんが、このあたりを解きほぐしていかないと、現場の畜産農家から現場を知らない机上の空論と言われかねません。

ワクチン接種問題は、一般的な国の防疫方針に対する批判ではなく、現実にほかの方法であの5月中旬の感染爆発を阻止しえたのか、ありえたとするならぱ何かを対置せねばなりません。

逆に言えば、なぜ発生動向調査をして、緊急ワクチン(第5世代マーカーワクチン使用)を接種する、ないしは陽性個体に対して摘発淘汰をかけるという「第3の方法」が現実にならなかったのかも明確にしていくことでもあると思います。

メーリングリストという手段が万全であるとは思っていません。また100回記事に掲載した呼びかけ文を書かれた「畜産システム研究所」の三谷さんとわたしが完全な意見の一致をみているわけでもありません。

ただ、現実において、ネットで細々となされている口蹄疫意事件の検証作業を結びつける機運は、現時点でここしかないのが実情です。

現実に、民間人がひとつのテーブルを囲んで宮崎口蹄疫意事件を議論し合うことは不可能に近いことです。それをなんとか可能とするひとつの手段としてメーリングリストの登録をお願いしている次第です。

なお、匿名使用は可能です。メルアドにご自身の名がある場合は、削除してハンドルネームとするか、他の第2アドレスをご使用ください。

■写真 葛の花が咲きました。地味ですが、美しいと思います。

2010年9月19日 (日)

宮崎口蹄疫事件 その101 「「口蹄疫対策民間ネット」について

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昨日の呼びかけについてとまどわれる方が多かったせいか、ごく少数の反応しかないという私のブログ始まって以来の結果になりました。正直に申し上げて、非常に残念です。

唐突だったことを反省し、若干の補足説明をいたします。

まずこのメーリングリスト(ML)は、「畜産システム研究所」の主宰者三谷氏の呼びかけで始まった「口蹄疫対策民間ネット」に拠っております。

これは、わが国で最初の民間の手による宮崎県口蹄疫事件を検証し、新たな防疫体制を構築するための横断的な試みです。

私はかつての茨城トリインフルエンザ事件の経験者のひとりとして、国家官僚と一部の学者によるによる総括が、なんの防疫体制の改善につながらなかったことを目のあたりにしてきました。

また、北海道を中心とするかつてのBSE事件も、不徹底な結果に終わったことも記憶に残ることです。

国家官僚は、責任を回避することが前提となっているために、みずからの失敗を「ないもの」として総括してしまいます。結果、宮崎県や茨城県のような大規模災害を経ても、喉元過ぎれば熱さ忘れるの言葉どおり、小手先の改善がなされただけで終わってしまいました。

今回の宮崎県口蹄疫事件もお定まりのコースを辿りつつあるように見えます。年内に検証委員会の最終報告が出て、それを錦の御旗として農水省と政府は、県に対する権限強化を骨子とする家伝法と防疫指針の一部改正を上程して幕引きとすると思われます。

これでは死んでいった30万頭の家畜たちの死が無になります。

さて、先日の呼びかけの骨子が殺処分を前提にしたワクチン接種に反対する内容であったために、戸惑われた方もいらしたと思います。現役の畜産農家は、その方針には賛成の方が多いのも事実です。私もかつてはそうでした。

この問題は本質的なことを含んでいますので、今後じっくりと検討していくつもりでおりますが、今回の「口蹄疫民間ネット」は狭く殺処分を前提にしたワクチン接種反対の立場でなくとも、宮崎事件の解明と今後の日本の防疫体制を考えていこうとする方に広く開かれています。また、ML参加者の匿名性の保護(*管理者には通知されるが、参加者一般には知られない)を三谷氏に要請しております。

ぜひ、このままうやむやに終わらせたくないと思われる方に広く参加を呼びかけます。

2010年9月18日 (土)

宮崎口蹄疫事件 その100 100回記念 口蹄疫民間調査団を作ろう!

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この口蹄疫シリーズも百回となりました。ご支援を心から御礼申し上げます。

さて、この宮崎口蹄疫事件は甚大な被害を宮崎県に与えて終結を迎えました。そして今なお、立ち直るめどすら立たない農民が多くいます。

しかし一方、急速に国民の脳裏からは口蹄疫事件そのものが消えていこうとしています。

また国はそれに乗じるかのように、「国のみが正しかった、感染拡大した責任は宮崎県と畜産農家のせいだ」という「正史」を作り上げようとしています。

私はこのような幕引きを許したくありません。そこで検証作業を国のみさせるのではなく、私たち国民がみずからの手で行う必要を感じました。そこで、ひとつの「宮崎県口蹄疫民間調査団」はでも言うべきプラットフォームを提案します。

志ある方の参加を奮って求めます。

ご希望の方はメーリングリストfmd-net@yahoogroups.jpにご連絡ください。その成果は随時ブログにアップいたします。

なお、検討項目等は固定的なものではなく、今後議論の中で練り上げられていくものであることを申し添えます。

           ~~~~~~~~~

人の生殺与奪の権を検察が握るのも恐ろしいが、家畜の殺生与奪権を国の家畜衛生に関係する「専門官」に握られているのも心配だ。

彼らは口蹄疫の「患畜と患畜になる恐れがある疑似患畜は殺処分する」という家畜伝染病予防法を根拠に、家畜の体内から遺伝子検査(PCR)でウイルスの破片を見つけたら疑似患畜と認生殺与奪定し、疑似患畜と認定された牧場の牛、豚は全頭殺処分されている。

この科学的でも論理的でもない論法で疑似患畜の範囲はいくらでも拡大でき、任意に設定した範囲の健康な牛、豚は全て疑似患畜にして殺処分されることになる。実際に移動制限された地区の牛・豚は健康であっても、その後、防火帯のようにワクチン接種後直ちに殺処分された。

ワクチン接種は早くすべきであり、殺処分を前提にしたワクチン接種に何の意味があるのだろうか。また、なぜワクチン接種した家畜を殺処分する必要があるのか。

マーカーワクチン使用後の抗体検査の準備を怠っていたとしか考えられない。殺生与奪権を行使するには、必要最小限の殺処分にするために、科学技術の発達を促し、経営規模の拡大を考慮しながら、常に現場にあった最善の防疫体制を準備しておく必要がある。

江戸時代は人の生殺与奪の権は藩にあった。家畜の殺生与奪権は現場に近い県に与え、予算措置は国が責任を持つべきである。

1.口蹄疫防疫体制の基本構想(検討中)

 牧場で口蹄疫のウイルス検査ができる簡易迅速遺伝子検査法を導入し、現場で発熱症状等で診断の確定に迷う症状に出会えば検査し、陽性反応が確認されれば隔離、移動制限、消毒等の牧場内防疫体制に入り、中央での検査結果が陽性であれば、まず同居牛房の家畜を殺処分し、発生地域の地形、環境、気候状況を勘案して、ワクチン接種地区、移動禁止地区、搬出禁止地区を地域で決定する。また、牛房単位でウイルス検査(遺伝子検査・抗体検査)を実施し、陽性牛が出れば、牛房単位で状況によっては隣接牛房を含めて殺処分する。移動禁止地区のサーベイランスも行う。


検証項目 

1.家畜法定伝染病予防法と「口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針」は、なぜ改正されず放置されたのか。
2.遺伝子検査と抗体検査はどのように実施されたのか。分子疫学による感染経路の解明はなされているのか。
3.なぜワクチン接種を急がなかったのか。また、なぜワクチン接種畜を殺処分したのか。
4.口蹄疫の発生の疑いを届けなかった牧場は処罰の対象にならないのか。
  また、当牧場には補償金の支払いよりも罰金の支払いを求めるべきではないか。


政府への要望事項
1.口蹄疫ウイルスの侵入経路の解明を
   分子疫学調査とアジア防疫体制の整備
2.ウイルス遺伝子の簡易迅速検査法の導入を
3.疑似患畜全殺処分の廃止を
   患畜と疑似患畜の曖昧な定義の是正
   現場でのウイルス遺伝子の簡易迅速検査法と畜房単位の殺処分
4.緊急ワクチンの合理的な使用を

2010年9月17日 (金)

茨城トリインフルエンザ事件 第5回  検証は農水省の密室でのみ決められることではない

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今回の検証委員会の中間報告を読むと、私も「一宮崎人」さんと同様の感想が浮かんできます。

「宮崎県内の畜産農家は、かなり衛生意識、防疫意識が低いと言われていると解釈して良いのだろうか?その意識が低いから、口蹄疫を侵入、発生させたと言いたいのだろうか?」

検証委員会、いやさ、農水省消費・安全局はそう言いたいようです。「宮崎県は衛生観念が劣っていて、県家保もダメだったからこんなに感染拡大したんだ」、と。

ほ~、では私がわが身をもって経験した2005年の茨城トリインフルは、発生農場は衛生観念が劣っている農場ばかりだったのでしょうか?

真逆です。抗体検査でクロ・陽性を軒並み出した第10~13例までの系統大型農場は、ことごとく飼養衛生管理Aクラスです。各農場には獣医師も常駐しており、獣医療施設も完備しています。

またこれとは別のA農場系統もことごとく抗体検査がクロ・陽性でしたが、この会社自体が獣医師が経営陣を占めるという特異な同族会社でした。飼養衛生管理はとうぜんAです。

また、小川町でクロ・陽性判定が出たKファームも獣医師が経営者で、地域衛生管理にも熱心で知られていました。敷地内には獣医師医院も併設していました。

またY町で発生したSさんはことのほか防疫には熱心で、これも飼養衛生管理はAでした。

つまり、茨城トリインフルエンザ事件においての大きな特徴は、小川町、美野里町、石岡市においては、発生農場が飼養衛生管理はAクラスで、大部分の農場に獣医師が常駐していて、医療施設が併設されていたことです。

また、これらの農場の大部分は、ウインドレス(無窓鶏舎)という最新鋭の密閉型農場であり、外部環境の影響を極力排除した構造になっていることも特徴です。

宮崎県に対する農水省の言い方ですと、「衛生観念が劣悪だから発生するんだ」ということですが、茨城県では衛生観念が飛び抜けて高いほうから発生したのです。この矛盾を、農水省はどう説明しますか、お聞きしたいものです。

実はこのA農場は、この事件で珍しく逮捕者を出しているのです。2005年12月2日、茨城県警はA農場を家宅捜索し、後に社員を逮捕しました。

これは県家保がA農場の不正行為を発見したからです。罪状は検査妨害。検査時に他の農場から若鶏を持ってきて、すり替えて検査をしたことがバレたというお粗末の一席でした。

これについて社員は、「上層部から命じられた」と上層部の指示を認める供述をしています。

つまり飼養衛生管理が最高レベルでも発生する、いや、逆に高いほうから発生したわけです。

この大きな論理矛盾に、2005年12月7日、農水省消費安全局動物衛生課防疫企画班 石川清康課長補佐は、参議院会館・和田ひろ子参議院議員事務所での会談の席上でこう答えています。

今回、発生の仕方が一カ所で局地的に爆発して発生しています。これは普通の拡がりとは異なっていることは農水省も着目しています。

違法ワクチン接種は重要な原因でありうると思っていますが、なにぶん証拠が不十分です。行政としてはグレイであるとは言えますが、クロだとは断定に至らない以上、「グレイをクロとは言えない」という立場に立たざるを得ません。農水省には警察権がないので、調査にも自ずと限界があります。むしろ、現地の生産者の皆さんからの情報提供に期待しています。
この農水省の答えは、2名の国会議員の前でなされた質問書に対する正式な回答です。しかし現在、農水省は「りぼん」様の電話にこう答えています。
「当時の担当者は、今は、この課に居ないので、過去のことを、今言われても、お返事できない。ホームページの報告書に、白と書いてあるなら、白と思います」
そうですか、農水省という省庁は担当者が変わると見解が変わるんだ、へ~,いいことを聞いた。ちなみに農水省究明チーム中間報告書はこのように述べています。
「メキシコ以外の中米諸国で生産されたワクチン、あるいは東南アジア発生国において中米株を用いたワクチンが生産され、使用された可能性も否定できないとの見解」
「3.3 人等を介した侵入の可能性
時点で、未承認ワクチンの使用を裏付ける直接的な証拠は得られていない。」
農水省はまさに石川課長補佐が言ったように、「重要な原因であると認識しているが、物的証拠がないためにグレイをクロというわけにはいかない」とだけ言っているにすぎません。
「中間報告書にシロと書いてある」だなどとどこにも書いていません。中間報告書も、「可能性はあるが物的証拠がない」と書いてあるにとどまります。積極的に「シロである」などとはひとことも書いていません。たぶんこの農水省職員は中間報告書を読んでもいないようです。
それはさておき、茨城県のトリインフル事件において、会社お抱えの獣医師の影が濃厚に浮かんできます。お抱え獣医師が考えそうな「犯罪」、それが自社のみの安全を最優先にした違法なワクチン接種だったのではないでしょうか。
宮崎県の口蹄疫事件は終幕を迎えつつあります。私はかつての茨城トリインフル事件の被災地農家のひとりとしてひとつだけ忠告をいたします。
いったん農水省最終報告書が書かれてしまえば、後でいかなる異論があろうと、それが「正史」となってしまいます。いまだ、歴史は進行しています。検証は、農水省の密室でのみ決せられることではありません。
それは真に苦しんだ現地農家や、地元の獣医師などの家畜防疫員、県職員などの人々が書くべきです。あなた方にしか、それをできる人はいないのです。
私たち茨城でははそれが不徹底でした。だから、今なお、5年もたった今なお、当時の怒りと悔しさを腹の中に蓄えて生きることになったわけです。
私たち茨城の轍を宮崎県民は踏まないで下さい。心からそう祈っています。
■ 写真 北浦湖畔のハス田。今年はあまりの高温に、タフなハスの葉にも枯れが拡がりました。

2010年9月16日 (木)

宮崎口蹄疫事件 その99 口蹄疫対策検証委員会の中間報告 県にすべての責任を転嫁

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今朝の「日本農業新聞」(9/16)によると、農水省口蹄疫対策検証委員会の中間報告が出たそうです。*以下でアップされています。ご教示感謝します。
http://bit.ly/9CoZSd

農業新聞によれば、ヒアリングした農家から、種牛救済が強い批判を浴びたために「事後の特例的な扱いはいっさい認めない」方針を示したそうです。

これは記事でも触れているように「国と県の対立が迅速な防疫措置を行うために問題になった」ことによります。

次に初動において「家保への連絡や、県から国への連絡が遅かったことが感染拡大を招いたとして早期通報を促すルールを作り、遅れた場合にはペナルティを課すことも検討すべきだ」としています。

宮崎県の対応として、「日常的な予防や初動対応を含めて不充分なところが多かった」と述べ、「農場の所在地や飼養頭数などの情報管理が不十分だった」ことも指摘しています。

また、「定期的な消毒といった飼養衛生管理基準が一部の農家で守られていなかった」ことを挙げて、「万全の備えと指導の徹底」を県に求めています。

一方、国に対しては、農水省疾病小委員会の、「ワクチン接種と予防的殺処分の方針を示すのが遅れた」ことを批判しています。

そして、国に、「今後、専門家の育成に力をいれること」を求め、「常駐した専門家が防疫措置をとること」を提言しています。

私が先日このシリーズその98で書いた「大予言」どおりの展開ですね。国は明瞭に、今回の口蹄疫の感染爆発の責任をすべて宮崎県に転嫁しようとしています。

検証委員会中間報告書は、初動が遅れたのは、宮崎県から国への通報が遅かったことを最大の感染爆発の原因に挙げています。

そもそも宮崎県の日常的防疫体制がデタラメじゃないか、農場の場所も、牛の頭数もわかっていない、日常的消毒もされていない農家があった、と批判しています。

また、種牛でお国に逆らったことはよほど農水省を激怒させたらしく、今後二度とこんなことをさせないぞとも言っています。

そしてお国に対してお小言は、「ワクチン接種の答申が遅い」の一言だけでお終いです。それも農水省本体の消費安全局や山田農水大臣に対してではなく、その諮問委員会にすぎない疾病小委員会に対してですから、どこまで責任回避がうまいんだと感心したくなるほどです。

もちろん、今回の検証委員会も、第三者委員会の体裁を取っていますが、国の官僚組織の常としてこのような会議は隅から隅まであらかじめ決められたとおりに進行されていきます。

とうぜんのこととして落とし所は既に完全に決まっているはずです。第三者委員会の役割はその箔付けと、第三者のご意見も受けております、という体裁づくりにすぎません。

そもそも委員の人選自体が農水省の息のかかった、あるいは農水省と違った意見などゼッタイに言わなそうな者しか招かれません。

検証委員会の配布資料にも席次が麗々しく書いてあるように、座る席すら農水省の配慮のなかにあります。農水省が考えるエライ先生から上座に座るのはいうまでもありません。こういう時に末席に座らされたら、お前はただの数合わせだと言われているようなものです。

そして各種資料は、素人の委員に手取り足取り「口蹄疫とはなんぞや」から始まって゛、、国の防疫指針や家伝法の解説、そして国の今回とった方針がこと細かく列記されており目がクラクラします。この配布資料はかつて全文アップいたしましたので、お暇ならご覧ください。

口蹄疫体制の再構築が、こんなていどの浅い認識からしか出発しないとなると、ほとんど絶望的な気分になります。農水省は、今後県に対しての締めつけのみを強化する家伝法や防疫指針の改正案を上程してくるでしょう。

民主党が政権にい続ける限り、今回の口蹄疫は「県の不手際、国による制圧成功」という構図から一歩も出ることはありません。

民主党は「脱官僚」を旗印にしていますが、口蹄疫対策は官僚主導の典型でした。山田大臣は農水省消費・安全局動物衛生課の操り人形にすぎず、そもそもワクチン接種・殺処分方針自体が山田氏の頭から出たものではなかったはずです。

もちろん自民党によっても同様な展開だったことはありえますが、政権が交代することなくしては、今回の口蹄疫事件の正しい総括自体が不可能だと思います。

さて、東国腹知事はこのような一方的に偏った検証委員会の中間報告書に、どのような反論をしていくのでしょうか。東国原知事がここで沈黙してしまえば、国の宮崎県責任論を全面的に呑むことになるからです。

明日からの東国原知事のブログに期待しています。
http://ameblo.jp/higashi-blog/

■ 宮崎県で爆発的に流行した口蹄(こうてい)疫の問題で、農林水産省の外部有識者による「口蹄疫対策検証委員会」は15日、国や県の防疫対応に関する中間報告をまとめ、公表した。報告では、今回の対応の問題点として「国と県や市町村との役割分担が明確でなく、連携も不足していたのではないか」と指摘。特に宮崎県の対応には「日常的な予防や初動対応を含め不十分なところが多かった」と批判した。
 感染拡大の要因に関連し、県が農場の所在地や家畜の頭数などの情報収集を普段から行っていなかったことが「初動対応の遅れや発生拡大につながったのではないか」との見方を提示。また、最初に感染例が発表された4月20日以前に、10戸以上の農場にウイルスが侵入していた疑いがあることを踏まえ、獣医師や農家を含む連絡の遅れも挙げた。(時事通信 2010/09/15-20:00) 

■写真 わが母屋のグリーンカーテンのゴーヤです。

2010年9月15日 (水)

茨城トリインフルエンザ事件 第4回  5年たつと「限りなくクロに近いグレイ」は「シロ」に漂白されてしまっていた!

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「りぼん」様、毎回すごい行動力で感心します。農水省消費・安全局に電話したのですか。で、農水省は「茨城トリインフル事件は、人為的ワクチンが原因だと思っていない」、と。あ、そうそう裁判は提訴していません。

まずウイルス株からいきましょうか。以下農水省究明チーム中間報告書(2005年10月31日)からの引用です。

2 分離されたウイルスの特徴
(1)分離ウイルス株
分離されたH5N2亜型株の遺伝子は、2000~2002年にグアテマラで分離された株(97%)や2005年にメキシコで分離された株(94~95%)と相同性が高い。

グアテマラ株との相同性が97%、メキシコ株とは94~95%だと農水省究明チーム(疫学チーム)は言っています。

実に興味深い株ですな。グアテマラ株ときましたか。これは当時米国でアンダーグラウンドで流行っていたトリインフルエンザH5N2型ワクチンと同じなんですよ!米国防疫当局がてこずっていた、不活化が完全ではなくて、しょっちゅう付近に漏れ出して大騒ぎになった粗悪な密造品です。

ですから、この日本の事例を見て、経験者の米国疫学者は一発で、「あ、これうちの国で流行っているものと一緒だ。日本も違法ワクチンだね」と指摘したのです。その部分が下です。

未承認ワクチンなど人為的なものによる伝播の可能性
未承認ワクチンが中米地域で生産され、使用されているという未確認情報は以前から多く存在する。

未承認ワクチンの使用が感染源であるとした場合には、生ワクチンが使用された可能性と不活化が不十分であったために不活化ワクチン液の中に含まれる感染性ウイルスが原因となった可能性の2 通りあるとの見解。メキシコ以外の中米諸国で生産されたワクチン、あるいは東南アジア発生国において中米株を用いたワクチンが生産され、使用された可能性も否定できないとの見解」。

ウイルス株が一緒のグアテマラ株です。農水省消費・安全局は「人為的ワクチンじゃない」ですって、ワッハハ!まだそんなバカ言ってるんですか!ウソとトボケは霞が関官僚の伝統芸ですな。

それはさておき、地元の獣医師から教わったのですが、侵入経路を調査する時はまず徹底した遡及調査をします。農場立ち入りによる渡航歴と農場訪問者、外国人労働者の有無などです。

この場合はウイルス株の相同性から、グアテマラ、ないしはメキシコへの渡航歴です。またはそれらの国の労働者がいるかどうかです。実は、家保は徹底して調べています。結論、いません。渡航歴を持った者もいません。

下記には「更に調査をする」と書いていますが、そんな調査は究明チーム以前に地元家保が徹底してやっています。中国、韓国などと違ってそうそうグアテマラへの渡航歴やグアテマラ人労働者などこの田舎にはいやしませんって。

(3)農場関係者が発生国等へ旅行した際にウイルスを持ち込んだ可能性については、更に調査を進める必要。

次なる可能性は野鳥が持ち込んだ可能性です。「りぼん」さんのご質問に「自然由来のトリインフル・ウイルスは存在するのか」というようなことがありましたが、たしかに存在します。

口蹄疫がシカやイノシシなどの野生偶蹄類を自然宿主とするように、トリインフルエンザはカモやガンなどの水鳥を介します。変異すると豚も宿主にする場合があります。これが起きるとトリ⇒豚⇒ヒトという新型トリインフルの恐怖の伝染パターンとなりますが、2005年の茨城の場合そこまで行きませんでした。

バイカル湖が世界のトリインフルの故郷とされていて、そこからの水鳥の飛来によって中国の青海湖を介してアジア地域に伝播して行きます。しかし、渡り鳥はグアテマラやメキシコから日本には飛来しません。

これは、中間報告書に金井裕氏という日本野鳥の会自然保護室主任研究官が参加していますので、農水省もとうぜん知っているはずです。その部分が下記です。

(1)野鳥(渡り鳥)を介した侵入の可能性
以下の理由から、この仮説の可能性は低い。
① 中米から日本に直接飛来する野鳥は知られておらず、またアラスカを介した伝播の可能性も極めて低い

もしこの茨城トリインフルのウイルス株が、青海株だったりすれば話はまったく違って、自然由来もありえたわけです。実はこれも、地元家保の獣医師は、野鳥の会会員の獣医師がいて、趣味と仕事を兼ねて徹底的に霞ヶ浦、北浦などの水鳥の糞を調査しているんです。そして自然界にはトリインフルウイルスは存在しなかったのです。したがって、渡り鳥による侵入は完全に否定されています。

となると、後は輸入した家禽類、あるいは家禽肉ですが、これはグアテマラとメキシコが非清浄国ですから輸入されているはずがありません。これがこの部分です。

(2)輸入鳥類及び輸入家きん肉を介した侵入の可能性
以下の理由から、この仮説の可能性は低い。
① 本病発生国由来の生きた家きん類の輸入は停止されている

② 昨年2月以降、発生国由来の家きん以外の生きた鳥についても輸入が停止されている
③ 発生国産の生鮮鶏肉等の輸入が停止されている

侵入経路調査はこのように消去法で行われます。ヒト、モノ、自然由来、いずれも否定されました。となると、もう答えはひとつしかないじゃないですか(笑)。

もし、ウイルスが自然由来ならば、水鳥が媒介したわけですから、湖周辺にくまなく広く薄く発生するはずです。ところがこの事件においては、小川町、美野里町、石岡市に集中しています。第1例が出た水海道市は飛び火した「もらい」であることは中間報告書にも書かれています。

このような茨城3市に限定された局部的な発生を、どう農水省は説明するのかお聞きしたいものです。実は、農水省はこれも知っています。下記の部分です。

発生が茨城県南部に限局しており、分離ウイルスの遺伝性状が同一

そしてこの3市にはふたつの系列の系統農場が多数存在し、いずれの農場の血清学的調査でもおしなべて、例外なく陰性だったわけです。これをどう農水省は説明しますか?

おまけに、それらの農場の鶏舎内での発生状況は、ベタ一面、すべての鶏がクロ、陽性だったとすれば、これでも農水省が自然界由来だ、人為的ワクチンではないと言い張るなら、相当な馬鹿か、厚顔無恥ですね。

答えは、人為的ワクチンです。それしかありえません。

これについて、2005年12月7日に私たちと面談した農水省消費安全局動物衛生課防疫企画班 石川清康課長補佐はこう述べています。これは当日の複数のメモから再生したものです。

今回、発生の仕方が一カ所で局地的に爆発して発生しています。これは普通の拡がりとは異なっていることは農水省も着目しています。違法ワクチン接種は重要な原因でありうると思っていますが、なにぶん証拠が不十分です。
行政としてはグレイであるとは言えますが、クロだとは断定に至らない以上、「グレイをクロとは言えない」という立場に立たざるを得ません。
いいですか、農水省は「人為的ワクチンではない」と言っているわけではないのです。もし、今、農水省消費安全局がそう言っているなら、それは訂正させる必要があります。
正確には、農水省は中間報告書においても、当時の農水省の担当官も違法ワクチンである可能性は否定しないが、最後の物証がないと言っているだけです。これはまったく次元が違うことです。
ちょうど、小沢一郎氏(←落選おめでとう)が盛んに「小沢潰しのための国策捜査だ」と言っていたものが、地検特捜部が立件できないとみると、「地検は私を潔白だとおっしゃっています」とずうずうしく言い換えた構図に似ています。
特捜部は別に彼を潔白だなんてひとことも言っていないですよ。悔しいが立件できないと言っているだけです。小沢氏が「かぎりなくクロに近いグレイ」だと地検も考えているはずです。立場上司法当局はそう言えないだけです。
同じく農水省究明チームの中間報告書も、当時の農水省担当官も人為的ワクチンが「シロ」だなどとはひとことも言っていません。「グレイをクロとは言えない」と言っているだけです。非常に強い疑惑はあるが、最後の詰めができないと言っているに過ぎません。
それが5年たつと、「シロである」に漂白されてしまうわけですね。ああ、長生きはしたくないものです。すごく老け込んだ気分です。あ、まだ50代だったっけ。

2010年9月14日 (火)

茨城トリインフルエンザ事件 第3回  農水省消費・安全局に攻め込むまで

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わが北浦の湖は白鳥がいます。白鳥の湖というわけです(笑)。  なぜか留鳥となっていまして、ありがたみもなく、一年中湖の湖畔か、河口付近をジャブジャブと泳いでいます。

特に漁協組合長さんの波止場付近がお気に入りで、たぶん網からこぼれ落ちるワカサギなどの小魚が目当てなのではないでしょうか。こら、自分で潜って獲ってこんかい!太るぞ!と、まぁ、あまりロマンチックではない村の野良白鳥です。

さてもう少し、茨城県トリンインフル事件についてお話しましょう。私はこの事件をうやむやにする気はありませんでした。必ずやこの茨城にウイルスを持ち込んだ者を探し出して、白日にさらしてやる、そう決心していました。

そうでなければ、死んでいった膨大な無辜の家畜や、涙を呑んでそれを埋めた農家が浮かばれないではないですか。

そのために協力してもらえる疫学研究者やジャーナリスト、消費運動組織、そしていうまでもなく農家に声をかけ、少人数ながらグループを作りました。それが「茨城トリインフルエンザを考える会」です。

そしてその通信として「グラウンド・ゼロ」という私が発行するメルマガをメーリングリストとして配信しました。まだブログがない時代です。いや、あったのかもしれませんが、私如きに気楽に使える環境ではなかったのです。いまなら、間違いなく、ブログ形式にしていたでしょうね。

このメルマガを130号くらい出しながら、一方で伏魔殿、農水省消費安全局に攻め込むタイミングを狙っていたわけです。

10月31日に、待ち望んでいた農水省究明チーム中間報告書が出てきました。私たちはこれを徹底的に読み込みました。たぶん疫学関係者以外の一般人でこんなに熱心に農水省報告書を読み込んだのは私たちくらいではないでしょうか。おかげで今でも、一部は暗唱できるほどです(笑)。

当時の私たちの農水省に対する要求は、煎じ詰めれば「ワクチンが原因であること」を明確に国に言わせるということでした。この肝心要のウイルス侵入ルートをあいまいにしているのが、農水省中間報告書だったからです。

ウイルス侵入ルートを特定できないような疫学報告などチリ紙にもなりはしません。今回、状況は違いますが、宮崎県においてもまったく同様にウイルス侵入ルートが不明という結論を出したことには呆れさせられます。農水省は、何度もこんなことを繰り返して恥ずかしいとは思わないのでしょうか?

茨城県の場合の原因は、現地をよく知らない疫学チームに調査を丸投げした結果、現地の農場一カ所一カ所を知り尽くしている家保の獣医師がカヤの外に追いやられたことです。

中間報告書を読みながら、ある地元獣医師は、「こんなていどの感染経路調査ならオレたちで簡単にできる。侵入ルートだって目星はついているんだ」と苦り切っていました。

そして「違法ワクチンの可能性」の論証を、なんと「米国の研究者の助言」という本文からはずした参考ていどの場所に押し込めて済ましてしまったことに、呆れ顔でした。ある地元獣医師は、「あれが違法ワクチン由来でないというなら、それを言った者は獣医師免許を返上しろ」とまで言いました。

宮崎県のケースと違い、茨城県の事件は、ウイルスがワクチン由来であること自体が事件性を帯びていました。国が禁止している違法ワクチンだからです。りっぱな刑事事件です。実際、石岡警察書が捜査に乗り出したほどです。

そして単なる刑事事件にとどまらず、かくも大規模に感染を拡大して殺処分を出してしまい農家に甚大な経営的な損害を与えたことに対する民事訴訟も視野にいれなければならない問題でした。

事実、私たちはこれが違法性があると認められれば、水戸地検に提訴し、その結果次第では民事訴訟も辞さないかまえでいました。

その突破口として、農水省にクロだと言わせることが大事だったわけです。ここで農水省にとぼけられてしまえば、地検は物証なしで立件に及ばずという結論を出すことでしょう。

ですから、この立ちはだかる農水省消費・安全局動物衛生課(←長いね)の壁を突き破ることが大事な意味をもっていたのです。

私たちは、ない知恵を絞って1カ月間の準備の後に、11月24日付けで農水省宛の陳情書を質問状形式で提出しました。そしてそれから1カ月後、農水省との面談がかなったわけですが、ああ緊張したぁ~(涙)。

それについては次回ということで。

2010年9月13日 (月)

茨城トリインフルエンザ事件 第2回 茨城トリインフル事件、謎の中途方針転換について

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doll24さんのおっしゃるように大企業を保護しようという姿勢は、2005年の茨城でありました。

まずおおざっぱに、茨城トリインフルの事件の経過を知っていただきましょう。
■茨城県鳥インフルエンザ事件の経過
【2005年】
6月26日 常総市(旧水海道市)の養鶏場で初めて感染確認
7月29日 茨城町の養鶏場で抗体確認
8月22日 美野里町、水戸市、石岡市の養鶏場で抗体確認。農水省の家きん疾病小委員会が、ウインドレス鶏舎の鶏の処分見送りを決定
  25日 小川町の養鶏場で抗体確認
9月2日 農水省の家きん疾病小委員会が感染源について「違法ワクチン説」を打ち出す
  12日 鶏の処分のため、県が自衛隊に災害派遣を要請
11月4日 茨城町の養鶏場で抗体確認。14施設で県の不適切検査が判明
12月18日 新たに19施設で不適切検査が判明し、県が再検査を決定
  25日 小川町の2養鶏場で抗体確認

【2006年】
1月16日 小川町の養鶏場で感染確認。約77万羽を処分命令
  30日 処分を見送った鶏の監視をすべて解除
2月3日 県内の移動制限をすべて解除

太字にした部分に注目ください。これは昨日も掲載した農水省究明チーム中間報告書(05年10月31日)の下記の部分と照応しています。

11 例目(*系列大規模農相を指す)は、鶏舎ごとの飼養管理が可能なウインドウレス鶏舎であり、万一ウイルスが存在していたとしても、厳格な飼養衛生管理がなされればウイルスを拡散させるリスクが低いと考えられた。
このため、一連の発生が臨床症状を示さない弱毒タイプのものであることも踏まえ、防疫上のリスクを高めない範囲内での合理的な措置として、
①ウイルスが分離された鶏舎については、ウイルスが存在する限り強毒タイプに変異するリスクがあることから、殺処分等の防疫措置を講ずる一方、
②抗体陽性であっても、ウイルスが分離されない鶏舎(以下「ウイルス検査陰性鶏舎」という。)については直ちにとう汰を行わず、厳格な飼養衛生管理と継続的な検査により、監視を強化することとした。なお、ウイルス検査陰性鶏舎の鶏卵については、家きんへの感染を防止するための防疫上必要な措置を講じた上で、その流通を認めることとした。」

今回の2010年宮崎県の事例を見るは、同じワクチン接種をされていながら(*正確には茨城は「疑惑」ですが)、国の対策が真逆なことに気がつきます。

宮崎県はワクチン接種した上で全頭殺処分、わが茨城は違法ワクチン接種「疑惑」がありながら、ウイルス分離があったものは殺処分、ウイルス分離ができなかったものは「ウイルス検査陰性鶏舎」として殺処分回避して監視下に置くという方針に中途転換しました。

「ウイルス陰性鶏舎」であっても、殺処分しないという方針です。唖然となりませんか。抗体検査をしてクロでありながら殺処分をしないとなれば、防疫原則もクソもありはしません。

2005年の茨城の防疫方針が正しかったのならば、2010年宮崎でワクチン打っても殺す必要などないということになります。陰性畜舎は「おとり家畜」を置いて監視下に入れれば済んだだけではないですか。

「ウイルス分離ができない」でいて血清学調査が陰性とは抗体が上がっていることで、とりもなおさず(違法)ワクチン接種の動かぬ証拠ではありませんか

ですから、この陰性鶏の殺処分回避政策が出た8月22日のわずか10日後、家禽疾病小委員会の疫学チームも、違法ワクチン説を公表しました。

つまり、農水省は違法ワクチンが原因であることを、家禽疾病小委員会から聴取しながら、8月22日の大方針転換をしたものと思われます。

当然のこととして、口蹄疫とまったく同様にトリインフルエンザもワクチン接種自体が、OIE清浄国規約に違反しています。ワクチン接種をしたならば、日本は清浄国ランクを「ワクチン非接種清浄国」から、いちランク下の「ワクチン接種清浄国」へと転落せねばなりません。

そして清浄ステータス回復も口蹄疫と同様の清浄性確認行程を経ねばなりません。ここに口蹄疫とまったく同様の壁ができてしまいます。すなわち、茨城トリインフルが(違法)ワクチン由来であることを認めてしまえば、国としてはOIEに報告した上で、「ワクチン接種清浄国」からやりなおさねばならないことになるからです

しかも、これが国の防疫作戦の一環ならばまだしも、関連農場を複数持つ大規模農場の関与が疑われるとなれば、二重の痛手となります。

農水省は、99.99%違法ワクチンがこの2005年の茨城の感染爆発の原因であることを承知していました。そして当初は防疫原則に沿って対処しようとしました。

なにせ、地元家保の家畜防疫員が実にまめに初動から血清学的動向調査と遡及調査をしてしまうもので、次から次にと大規模農場とその関連農場に抗体陰性が発見されてしまったからです。

そして他の地域への伝染経路も特定されてきつつありました。こうなっては、農水省としては逃げようがありません。家伝法、防疫指針に沿って粛々と陰性家畜を殺処分するしかなかったわけです。

そのあたりまえの防疫方針が「なぜか」8月22日にストップしました。第11例という大規模農場の中枢的施設が殺処分作業に入ろうという直前に,、農水省消費・安全局から直々に殺処分停止通達が緊急で来たのです。

これに立ち会って処分作業を遂行していた家畜防疫員たちは呆然となったそうです。「ウイルス分離ができない陰性鶏は殺処分を免れるだって!?」・・・自分の耳がおかしくなったんじゃないか、とその命令を聞いた人は回想しています。

さぞ農水省消費・安全局はその理由づけに苦慮したことでしょう。

実は、2005年12月20日に、私たち「茨城トリインフルエンザを考える会」は農水省に出かけて、あらかじめ送付してあった質問状に対する答えを、消費安全局動物衛生課・課長補佐石川清康氏に求めています。

当時、私は自分にある限りの政治力を使って(たいしたことはありませんが)、野党議員2名、消費団体、環境団体などに同席を依頼しました。私達農家がノコノコ出かけても相手にされないことは明らかだったからです。

まぁ、結果は予想通りてしたが、長くなりましたので次回にでもお話しましょう。

■追記 本事件における大規模農場の事件の関与は、農水省によって否定されています。また、違法ワクチン由来であることもまた、「かぎりなくクロに近いグレイ」(農水省消費・安全局課長補佐の表現)であることも言い添えます。

■写真 菊の季節です。

2010年9月12日 (日)

茨城トリインフルエンザ事件 第1回  2005年茨城トリインフルエンザ農水省報告書にみる大企業優遇政策とは

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今朝は燃え上がるような朝焼け雲が拡がりました。朝ガラスが東の空に飛んで行きました。長すぎた夏が終わり、もう早朝の空気はすっかり秋です。

さて、doll24さんからわが茨城トリインフル事件の国の報告書についてご質問を受けましたので、お答えしましょう。

茨城県のH5N2型インフルエンザは、単に被害農場26農場、殺処分数が148万羽にのぼって戦後最大級の畜産災害になったただけではなく、人獣共通感染症の可能性があるために被災地の私たちを恐怖に陥れました。

「感染したら真っ先に死ぬのはオレらだ!死んでたまるか!」と変な気合を入れて、遺書を懐に毎日下着をきれいにして(←ウソ)日々送ったものです。

宮崎県と異なるのは、茨城県では当初から家保の発生動向調査が徹底して行われたことです。徹底した農場立ち入り調査による血清学的検査と遡及調査がされた結果、次々に感染農場が明らかになっていきました。

当初水海道市で発生したのですが、後にこれは廃鶏(中古鶏)の移動による「もらい感染」だと判明しました。以下小文字は農水省究明チーム中間報告書(2005 年10 月31 日)です。茶色文字は引用者です。

鶏の導入は、1 例目農場は、M農場(県内)から中雛(60 日齢)で導入し、成鶏舎とは別の敷地(5 例目農場から50m の距離)で育成後、成鶏舎へ移動していた。2~5 例目農場は、中古鶏(強制換羽をしていない500 日齢前後の鶏)を導入している農場で、導入元は4 農場の飼養羽数約10 万羽のうち7 万羽程度は判明しているが、残り約3 万羽は判明していない」。

にもかかわらず、中間報告書においては第1例は初発ではないとされながらも、初発は判らないという奇怪な結論を出しました。

これまでの調査の結果、必ずしも水海道市で発生した第1 例目の農場が初発農場というわけではなく、いずれかの農場から感染が拡散したものと考えられる。しかしながら、どの農場が初発農場かは判明していない」

つまり、「いずれかの農序から拡散したものだが、初発はわからんということですね。やれやれ。ではまったく判らないのかといえば違います。私たちが家畜伝染病の検証において「初発」にこだわるのは、ウイルス侵入のインプット経路が明らかになるからです。

特にわが茨城トリインフルでは、この初発が最大関心事でした。なぜでしょうか?それは宮崎県口蹄疫の初発が、人為的にウイルス導入をしたものではないことは明々白々であるのに対して、わが県の場合はウイルスが「H5N2亜型弱毒型」だったからです。

Nは毒性の強度を現しますから、N2とは2009年の新型インフルエンザ(豚インフル)のN1N1型と違い、明らかに毒性が低い飼い馴らされたウイルス・タイプで、ワクチンなどで使用されるものに近かったのです。

そう、ここまで言えば賢明な皆さんはお分かりでしょう。茨城県トリインフル事件は、人為的ワクチン由来だったのです。はっきり言えば、初発とは、たんなる最初の発生例にとどまらず、わが県にトリインフルエンザ・ウイルスを意図的に持ち込んで、わが県の畜産に壊滅的打撃を与えた「真犯人」だったわけです。

ですから、「初発が不明」と農水省究明チーム中間報告書に書かれてしまった瞬間、真犯人はほっと胸をなでおろしたことでしょう。祝杯のひとつも上げたことでしょう。かくて、原因は不明、迷宮入りとなりました。

侵入経路は不明だと言いながら、農水省疫学チームは分裂する内容を展開しています。

11~13 例目農場の疫学関連農場は、関東、東北を中心に約20 農場ある。10 例目農場発生以降、これらの疫学関連農場は抗体検査・ウイルス分離検査が行われ、今回陽性になった10~13 例目農場以外は陰性が確認されている。
飼養衛生管理は、鶏舎周囲の環境整備状況も含め鳥インフルエンザを始めとする疾病の侵入に対しては万全の体制で行われていた。また、H社はISO9001 も取得しており飼養管理状況の記帳も整理されていた。特に11、13 例目農場はウインドウレス鶏舎で農場全体を見渡しても衛生的な防疫レベルの高さが窺われた。
12 例目農場も開放型の鶏舎ではあるが、鶏舎周囲の環境整備も含めて極めて衛生的な管理が行われていた」。

「生農場等に関与している7 施設10 名の管理獣医師等から聞き取り調査を行った。発生農場に獣医師がいる会社は3 社あり、うち2 社から聞き取り調査を行った。1 社の獣医師はアシスタントとともにグループ農場の定期的な抗体検査、サルモネラ検査、鶏卵の品質確保検査並びに病性鑑定を行っていた。通常のワクチン接種については農場長とも相談の上、この獣医師がワクチンプログラムを決定し、定期的に行う抗体検査の結果を受けて、ワクチンの追加接種等を指示していた。

ここに出て来る第11例~13例の農場は、ある系列養鶏企業です。この系列農場は使用衛生管理がISO9001も取得している非常に優れたものであることを絶賛しています。獣医師だけで4名もいて、完全に防疫管理をして、しかも各農場内に獣医療施設まであるというのだからたいしたもんです。

しかも外部から幾重にもウイルス遮蔽されているウインドレス(無窓鶏舎)が舞台です。こんな系列農場が軒並みに感染しました。もう笑うしかないですね。要するに超近代的な卵工場で立て続けにクロ・陽性が出て、それが別地区に中古鶏や鶏糞の移動で感染移動したのだと書いているのです。

ところで、上手の手から水が漏れるといいますが、興味深いのは巻末の本文ではない「参考」にちょっと出てくる「米国の研究者の助言」の部分です。

2 日本の弱毒型鳥インフルエンザ流行の疫学的特徴
発生地域に抗体陽性率100%の鶏舎が存在すること、また、その抗体価のばらつきが少ない点について自然感染では通常ゆっくりと鶏舎内に感染が広がるため、陽性率が100%になることはない。1997 年から98 年にかけてペンシルバニア州で発生したH7N2 亜型のLPAI の流行時の追跡調査においても100%になった鶏舎は一つもないその点で日本の発生例は興味深いとの見解」。

米国の疫学研究者は、この茨城県の第11~13例を見てこう言っているのです。発生鶏舎において、自然感染した場合には感染がゆっくりと拡がるために、陽性率が100%になることはなく、茨城県の事例のように100%陽性だということは自然感染ではないということです。

外部からウイルスが鶏舎内に侵入した場合、感染して抗体が陽性の鶏は、ちょうどポンボンと点を散らしたように出ます。あるいは初めに侵入した個体からグラデーションのように拡がります。

ところが第11~13例の大型農場においては、ベタ一面で舎内のすべての鶏の抗体検査が陽性でした。こんなことはワクチンを打った「可能性」以外に考えられないことだ、と米国研究者は言っているのです。

そして続けてこうサジェスチョンしています。

未承認ワクチンなど人為的なものによる伝播の可能性
未承認ワクチンが中米地域で生産され、使用されているという未確認情報は以前から多く存在する。

未承認ワクチンの使用が感染源であるとした場合には、生ワクチンが使用された可能性と不活化が不十分であったために不活化ワクチン液の中に含まれる感染性ウイルスが原因となった可能性の2 通りあるとの見解。メキシコ以外の中米諸国で生産されたワクチン、あるいは東南アジア発生国において中米株を用いたワクチンが生産され、使用された可能性も否定できないとの見解」。

米国の研究者は、「米国内でも中南米で作られた未承認ワクチンが出回っていて、それは不活化が甘かったりする粗製ワクチンが多く、米国でも手を焼いていますよ。おたくの日本もグアテマラ株ですから、これが原因の可能性もありますね」と親切に助言してくれたわけです。

にもかかわらず農水省究明チームの出した結論はこうです。

「3.3 人等を介した侵入の可能性
時点で、未承認ワクチンの使用を裏付ける直接的な証拠は得られていない。」

つまり、外国から持ち込まれた違法ワクチン(*トリインフルエンザは口蹄疫と同様に予防的ワクチン接種は禁止されている)が感染侵入経路であり、感染ハブとなった可能性が限りなく高いが、証拠がないので特定できない、というわけです。なんか小沢一郎氏に対する特捜みたいな話ですな。

にもかかわらず、大企業に弱い農水省は「地域経済保護のため」と称してこのような特例をやらかしてくれました。

11 例目(*系列大規模農相を指す)は、鶏舎ごとの飼養管理が可能なウインドウレス鶏舎であり、万一ウイルスが存在していたとしても、厳格な飼養衛生管理がなされればウイルスを拡散させるリスクが低いと考えられた。
このため、一連の発生が臨床症状を示さない弱毒タイプのものであることも踏まえ、防疫上のリスクを高めない範囲内での合理的な措置として、
①ウイルスが分離された鶏舎については、ウイルスが存在する限り強毒タイプに変異するリスクがあることから、殺処分等の防疫措置を講ずる
一方、
②抗体陽性であっても、ウイルスが分離されない鶏舎(以下「ウイルス検査陰性鶏舎」という。)については直ちにとう汰を行わず、厳格な飼養衛生管理と継続的な検査により、監視を強化することとした
なお、ウイルス検査陰性鶏舎の鶏卵については、家きんへの感染を防止するための防疫上必要な措置を講じた上で、その流通を認めることとした。」

ウインドレス鶏舎は飼養安全レベルが高いので、仮に抗体検査で陽性が出たとしても流通を認めると!殺処分はしないと!

絶句!ここまであからさまな大企業優先政策は見たことがありません。小規模畜産農家は根こそぎ殺処分に合って、生活費にさえことかく経営危機に瀕しているのに、大企業は助けてあげるよ、と。

わが地域にはウインドレスなど、その企業の系列農場以外にありませんでしたから、事実上、農水省がなにを意図したのかは明らかです。

今でも、腹わたが煮えくり返ります。家保の獣医師たちも怒りで震えていました。防疫作戦の途中でルールを変更するとは!国家が平等に行うべき防疫原則を、大企業有利に勝手にねじ曲げてしまうとは!

このようにしてウイルス侵入経路も、初発さえ判明しないまま、防疫作戦のルール変更までした2005年夏の茨城トリインフルエンザ事件は、終幕を迎えました。

私は県知事の終息宣言を聞いた時、喜びより悔し涙が出たものです。

その後私は、有志を募って「茨城トリインフルエンザを考える会」を作り、農水省に質問状を送ることから始まる、彼らとの長い不毛な戦いを足かけ2年間にわたってすることになります。しかし、それは別の機会にお話しすることにします。

このような経験を持つ私にとって、宮崎県口蹄疫事件はまったく他人事とは思えませんでした。これが私がこのシリーズを99回続けてきた悔し涙という原動力です。

2010年9月11日 (土)

宮崎口蹄疫事件 その98 今後来るであろう未来についての哀しい予想

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このままいくとこの宮崎口蹄疫事件はどうなるのでしょう、という質問を受けることがあります。

そうですね、このまま民主党政権が続くという前提に立ってですが、残念ながら国は何も学んでいません。むしろ民主党政府は、宮崎県口蹄疫事件を「無能な県に代わって見事な制圧をした」と内部評価していると思われます。

政権党はどこでも似たようなものですが、民主党はみずからの政権の傷となる総括は拒むでしょう。赤松時代は「なかった」ものとされ、山田時代にとった方針を今後のスタンダードと位置づけるものと思います。

すなわち、ワクチン接種した後の殺処分方針です。この全面肯定のために各種の検証委員会や疫学報告はなされるでしょう。それは政治的な結論があらかじめある、疫学報告書の名を借りた政治文書です。

したがって、答えは初めから決まっています。県の失態による初動制圧の失敗、感染拡大、そして国の介入によるワクチン接種と全頭殺処分方針の成功、制圧達成、清浄国復帰、といった流れです。

もっとも県の失態も追及しすぎると赤松時代の大チョンボが暴露されますから、ほのめかすていどでしょうが。

そして感染侵入ルート、感染拡大経路は不明。永久に藪の中で終わることでしょう。生贄羊として、第6例の県外出身者が「被疑者」として定着してしまうことでしょう。

発生動向調査がなされなかったことは、今回の中間報告書のように軽く触れられるていどでしょう。ここを突っ込みすぎると、「ならば、ワクチン接種前に血清学的発生動向調査をキッチリすればよかったのだ」ということになり、ワクチン接種⇒殺処分方針がぐらつきますから。

今後、防疫態勢がいじられるとすれば、種牛問題で厳しい世論の風を浴びたことから、緊急時における国の統制強化が家伝法の改定で出てくるでしょう。お国は、県知事に抵抗されるのはこりごりでしょうから。

平時からの国の独立した口蹄疫緊急即応組織はまずできる可能性はゼロです。子供手当や農家戸別所得補償などで財源を使いすぎて、緊縮財政にせざるをえないからです。できたとしても、緊急時においてだけの国の補助チームの創設がいいところでしょう。

平時における補償制度の整備も無理だと思います。出たとこ勝負の特別措置法だのみではないでしょうか。埋却地の義務づけは国の腹が痛みませんから゛するでしょうね。

検査態勢の充実も、よくて簡易検査キットやサーモグラフィを県に買わせる程度でお終いではないでしょうか。遺伝子検査施設はウイルス遮蔽に特別な施設が必要ですから、動物衛生研の九州、北海道、東北各支所に新たに設置できたら万々歳といったところです。

要するに、国の腹が痛むことはしない、県に押しつけられることはする、県の権限統制は強化するってところです。

とまぁ、こんな未来が簡単に予想できてしまうところが哀しいですね。

私たちは今後も検証を続けて、その成果をネットで結び、集約して検証委員会が開催されている期間に国に突きつけねばならないと思います。

そのための準備を今進めているところです。

■写真 ムクゲの花です。紫色もありますが、やや暑苦しい花です。韓国の国花だとか。

2010年9月10日 (金)

宮崎口蹄疫事件 その97  ほんとうに宮崎県外で口蹄疫が発生していないのか?

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私は今回の宮崎県口蹄疫が、宮崎県以外になぜ発生しなかったのだろうかとかねがね引っかかっていました。

私の住む茨城県は韓国の仁川と直通の航空路で結ばれており、仁川は口蹄疫発生地点である江華島の近隣です。上海とも空路があり、もう毎日ドヤドヤと中国人観光客が大量に押し寄せています。

このような口蹄疫発生国の観光客を大量に迎え入れている県は、茨城に限らずかなりあるはずです。そのひとつが沖縄です。

沖縄は台湾、上海、香港、韓国とも近いために通年に渡って発生国の観光客が訪れます。この沖縄でも畜産は盛んで、石垣島などは種牛の有力な供給地のひとつで、いまや大人気の石垣牛の産地でもあります。

実はこの沖縄からもこの5月末に、東京の動物衛生研究所に口蹄疫検査依頼が送付されてPCR(遺伝子)検査がなされています。

「沖縄県畜産課によると、同県石垣市で肉用牛1頭がよだれを流すなど口蹄疫(こうていえき)に似た症状を発症し、ウイルス検査の結果を待っている。
 農林水産省によると、宮崎県での口蹄疫発生後、週に数件、こうした家畜の検体が持ち込まれているという。」
(読売新聞 2010年6月1日 )

 また広島県からも同様に6月7日に、疑わしい家畜の検体が送付されています。

広島県庄原市で鼻の周囲にただれなどの症状がある牛1頭が見つかり、検体を動物衛生研究所(東京)で PCR検査をしている件で、同県畜産課は7日、検査結果は陰性だと明らかにした。口蹄疫の感染疑いは否定されたことになる。」
(産経ニュース 2010年.6月.7日)

両者とも幸いにもシロ判定でしたが、私はこのように家保のアンテナに引っ掛かり東京に検体を送付されたものは、氷山の一角ではないかと思っています。

感染気付かず拡大か 数十検体から抗体確認

 「口蹄疫の遺伝子検査により感染疑いが見つかった複数の農場で採取された数十検体から感染後1~2週間程度でできるとされる抗体が確認されていたことが25日、農林水産省が公表した疫学調査チームの検討会資料で分かった。抗体が確認された農場では一定期間、感染に気づかなかった可能性があり、同チームはそれを感染拡大の要因の一つとして推測している

 遺伝子検査は動物衛生研究所海外病研究施設(東京)で行われ、その後にすべての検体で感染の履歴を調べる抗体検査を実施する。検体は1農場当たり3~5検体を送付しているが、抗体が確認された農場数は不明。」
(宮崎日日新聞)

この記事を読んだ時に私は背筋に冷たいものが走りました。抗体検査で陰性が出たということは、過去に感染履歴があるということです。私が血清学的検査をしろとしつこく言っているのは、このような過去の感染履歴が明らかになるからです。

口蹄疫のいやらしいことは、2週間ほどで自然治癒してしまうことです。上記の記事ですと、感染の疑いがあった個体かどうかまでは書いてありませんが、もしそうだとしたら過去にいったん感染して、それが管理者に発見されず治癒してしまい、感染を拡大していた可能性があります。

また、感染の疑いがなかった牛でたまたま抗体検査で判ったのなら、外見上はまったく健康な牛であったということになり、写真判定や目視判定などはほとんど無意味な気休めだという証拠になります。

感染⇒発見されずに自然治癒⇒再感染⇒他の家畜に感染拡大というループを農場内で何度も繰り返しながら感染が常在化していた可能性があります。

このようなケースは宮崎県東部地域だけの特殊な現象でしょうか?残念ながら、私にはそうは思えないのです。宮崎県はたまたま感染爆発をしてしまったためにあぶり出されただけであって、他の県でも潜伏しているだけで発見できていないケースがあるのではないかと思えてなりません。

このように考えると、私は日本が口蹄疫「清浄国」であったというのは幻想にすぎないと思い始めています。たぶん、潜在「していた」、いや今も「している」と思うほうが自然です。

口蹄疫清浄ステータス回復において、口蹄疫を「根絶する」(エラディケーション)という表現をしばしば使います。口蹄疫ウイルスがその国にまったく「いない」状態を指します。

ほんとうなのでしょうか?ほんとうに口蹄疫ウイルスがひとつも「いない」クリーンな国などありえるのでしょうか。

少なくともわが国は違います。ありえない幻想です。口蹄疫が感染地域の防疫圏内からは駆逐されることはありえるでしょう。この状態を「排除する」(エリミネーション)という表現を使います。

この両者は厳密には別概念です。「根絶する」は文字通り当該国全体を口蹄疫ウイルス・フリー(FMD Free)の状態にすることであって、「排除する」はあくまでも一定の緊急防疫対策をとった地域内部がウイルス・フリーになっただけのことにすぎません。

今回の宮崎県の状況は、いうまでもなく後者の「排除した」段階にとどまっています(私はこれも怪しいと思っていますが)。これを「根絶した」と言うならば、まさに羊頭狗肉もいいところです。

全国には管理者が気がつかずに口蹄疫に家畜が感染し、自然治癒してしまい、感染を別の家畜に移し、そしてその家畜からまた感染を拡げていくという農場内感染の潜伏事例が相当数あると思います。

一方、中国産ワラなどの外国産家畜飼料や、感染国からの観光客や労働者などのヒトの移動は、どこの県にでも等しく当てはまる条件です。

現代においては、今までの日本の防疫の基本であった水際防除という概念が、先だっての新型インフルエンザ時において空港検疫がザルだったように、いまや役に立たなくなる事態が急速に進行しています。

もはや口蹄疫がどこの県に出てもおかしくない国であることを前提に立てて今後の対策を考える時期に入りました。

たまたま今回の宮崎県が不運な事例であっただけにすぎません。

2010年9月 9日 (木)

宮崎口蹄疫事件 その96 口蹄疫事件最大の誤謬、血清学的発生動向調査の不在

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嵐が過ぎました。関東地方にはむしろ恵みの雨です。米は高温障害が出るし、夏野菜は堅くて食味がひどい上に、秋作は蒔けずで踏んだり蹴ったりでしたが、ようやく待ち望んだ雨が降りました。むしろ降り足りないって感じでしょうか。

さてこの間、処分問題を続けてきました。それは処分に家畜防疫員を投入したことの是非を問うことから、今回の事件の「ボタンの掛け違い」を探る試みです。

宮崎県は発生当初、国の防疫指針に従って「殺処分をできるのは獣医師だけ」という方針で家保の獣医師と県職員を処分に投入しました。

それは国の防疫指針において処分は原則として「農家が行い、それを県が積極的に協力すること」が定められていたからです。建前は「農家が行い」ですが、現実には自分の家畜を手にかける者などない以上、宮崎県は指針に従って家保の獣医師と県職員を派遣しましたが、職員は家畜の扱いに馴れていないために手こずりました。

口蹄疫の防疫の原則はできれば即時、遅くとも3日以内に処分することですが、現実には感染が拡大するごとに処分にかかる日数は増えていきました。4月中の第8例目で既に1019頭が処分対象となり、発生から8日目の処分になっています。

NHKクローズアップ現代(6月7日放映)の中で宮崎県畜産課の岩崎充祐氏(家畜防疫対策監)はこう言います。
「早期に処分せねばならないのはわかっていたのだが、馴れていないために作業場でトラぶった」。

この番組が放映された6月7日時点で、他県からの応援まで含めて150名を超える家畜防疫員が処分現場に投入されていますから、この県家畜課の岩崎氏の証言は、むしろみずからの非力と失敗を素直に認めるようで気の毒になるほどです。

ただ、最大の悔いとして残るのは、処分の遅れそのものだけではなく、初発から続く発生に対して、いっさいの発生動向調査ができなかったことです。

通常あるべき防疫手順に従い、発生点の外周を血清学調査しておけば、潜伏期間中の豚(たとえば県試験場)などがあぶり出せて、この時点で摘発淘汰をかけられました。

県畜産試験場で発生したのが4月28日ですから、川南町に出た時点で抗体検査で洗っておけばよかった。たぶんその時点で陽性反応が出て、摘発淘汰が可能だったはずです。そしてこの県試での感染を阻止できていれば、豚への感染はくい止められ、その後の展開はまったく違っていたはずです。

4月段階で、処分にのみ気を取られて発生動向調査に家畜防疫員を投入できなかったのが、県の側の最大の失敗でした。結果論といえばそれまでですが、今後の防疫対策を考える時、殺処分に家畜防疫員を縛りつける愚は二度と犯してはなりません。

ただし、防疫指針や農水省令で縛られる県にはフリーハンドの意思決定などそもそもありえない以上、しかたがないとはいえますが。

そして国が全面的に乗り出した5月中旬以降も、この誤りは修正されるどころか、いっそう拡大していきました。国は、獣医師を殺処分に縛りつけたままの態勢で、ワクチン接種→殺処分という疑問がある戦略をとったのです。

このことが被災地の傷を致命的に深くし、しかも解決を長引かせました。これを私は「プレ・ワクチン期」と「ポスト・ワクチン期」を区別して総括すべきだと思っています。

「プレ・ワクチン期」は県が既定の防疫指針を墨守したことによる判断ミスの累積と不運による産物だったとすれば、「ポスト・ワクチン期」は農水省、すなわち国家そのものによるによる確信的な戦略によるものだからです。

国が介入した段階で、まずワクチン接種ありき、家畜防疫員による殺処分ありきではなく、いったん獣医師を殺処分の場から解放して、発生動向調査という防疫の原点に戻るべきでした。

しかし、5月中旬に宮崎県に入城した(という表現をしたくなりますが)山田さんは、ワクチンをやりたくてうずうずしているわけですから、今後ワクチン接種した代償で膨大に生み出されるであろう殺処分作業要員に獣医師はやはり必須な存在だったのです。

かくして、本来は初動でなされるべき血清学的発生動向調査はこの宮崎県の悲劇が終幕を迎える今になって、清浄性確認という名目でなされるという倒錯したことになりました。

私が考える宮崎口蹄疫事件の最大の誤謬はここにあります。

■写真 北浦湖岸の揚水用風車。 

2010年9月 8日 (水)

宮崎口蹄疫事件 その95  後先が逆になった血清学的発生動向調査

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ご承知のように、農水省は3日に以下のプレスリリースを出し、OIEの清浄(国)ステータスの回復申請にむけて本格的な清浄性確認を開始しました。

1 我が国の清浄性確認のためのサーベイランスの実施について
我が国においては、本年4月20日以降、合計292例の口蹄疫の発生がありましたが、7月4日の発生以降、新たな発生は確認されておらず、7月27日には、すべての移動制限が解除されたところです。また、8月27日には、ワクチン接種区域に残されていた、たい肥等の汚染物品の処理が終了しました。
このため、OIEに対して、我が国の清浄ステータスの認定申請に必要となるサーベイランス(臨床検査及び血清抗体検査)を、宮崎県内の牛飼養農場(150戸)を対象として、9月6日から順次開始することとします。

2 今後のスケジュール
今回のサーベイランスに係る採材及び各検査を9月下旬までに終了し、10月上旬にOIEに対する認定申請書を提出する予定です。

いよいよ最終段階となってきました。和牛輸出は、今後も大きな市場拡大が望める輸出資産ですし、現在、主要に米国に輸出している人たちにとってはまさに待ち焦がれた時期であったと思います。この9月一杯の清浄性確認作業が、無事にが終わることを祈っております。

さて、宮崎県で口蹄疫が発生したと同時期に韓国でも同じO型が発生しています。

最下段の[資料]をご覧ください。青い色がかけられている部分が0型にシフトした4月以降の事例です。これを見ると日本の口蹄疫防疫対策と著しい差があることに誰でも気がつくでしょう。

韓国は4月9日に発生と同時に予防的殺処分が行われ、発生農場から500メートル以内の偶蹄類はすべて予防的殺処分にかけられました。「発生ど同時」という表現は比喩ではなく、まさに発生日当日の処分がなされました。

まさに、英国型緊急対策モデルを取り入れたアジア地区で最も進化した口蹄疫防疫対策を持つ韓国ならではの措置といえます。

それにもかかわらず、6月4日まで13例の感染事例を出しています。韓国の対策は、初動の半径500メートルの予防的殺処分と同時にその外周部で綿密な血清学的発生動向調査をしています。

しかし、それにもかかわらず「漏れ」が出ていることが判ります。発生動向調査の「漏れ」、言い換えれば感染の飛び火です。

第9例までは、初発の京畿道江華島から3.5㎞の位置関係にありますが、第10例の畜産技術研究所が感染することにより、そこがハブになって第11、12、13例へと飛び火します。

これらの発見はいずれも清浄性確認作業中に発見されました。これらは血清学的発生動向調査によるものです。

結局、第13例で感染拡大は阻止され、いずれも単発の発生で封じ込まれました。そして早くも6月23日にはOIEに抗体検査の清浄性を報告しています。

これが国際的なスタンダードな口蹄疫緊急対策です。
私が注目したいことは、韓国は発生点から忠実に発生動向調査をかけており、この血清学的調査が陰性に終わると、その時点で移動制限を解除しています。非常に素早い移動制限解除に驚かされます。

一方わが国はどうかと言えば、初動での血清学的調査はされず、ワクチン接種をしてからの殺処分終了が6月末であり、最後の発生から21日間かけて移動制限が解除され、そして更にそこから堆肥の清浄化が行われた後にようやく血清学的発生動向調査がされるという、韓国と真逆な進行をしました。

そして、清浄国申請を目前に日程化した今頃になっての血清学的調査・・・なんとも言えない気分です。最初にされるべき血清学的発生動向調査がなされなかったために、かくも長きにわたる泥沼となり、膨大な家畜を殺したとも言えます。

まさに後先が逆になったのがこの宮崎口蹄疫事件でした。

[資料](作成 鹿大岡本嘉六教授)

OIE報告日

場所

発生戸数

畜種

血清型

処分頭数

17

京幾道

1

A

185

115

京幾道

1

A

15

120

京幾道

3

A

144

131

京幾道

1

A

81

311

京幾道

1

鹿

A

12

49

仁川

1

O

169

420

INCH'ON-JIKHALSI

仁川

3

O

354

1

O

1500

422

京幾道

1

O

120

INCH'ON-JIKHALSI

仁川

1

O

19

1

山羊

O

6

53

忠清南道

1

O

317

O

1223

仁川

1

O

1118

510

忠清南道

1

O

20

64

忠清南道

1

O

54

67

忠清南道

1

イノシシ

O

45

623

4報(最終):制限地帯における殺処分と消毒が完了した後、臨床的発生動向調査と血清学的検査が制限地帯において政府獣医当局によって行われてきたが完了した。全ての結果は陰性であった。したがって、67日に、食料・農業・林業・漁業省(MIFAFF)は、Kangwha-gunと金浦市内に48日と419日に設定されたリスク地帯とともに、保護地帯と発生動向地帯をそれぞれ解除した。

5報(最終):したがって、67日(Chungju-city)、8日(Jeongsan-myeonMok-myeon)、14日(Jungsan-myeon)、19日(Cheongnam-myeon)に、食料・農業・林業・漁業省(MIFAFF)は、Chungju-cityCheongyang-gunに設定されていたリスク地帯とともに、保護地帯と発生動向地帯をそれぞれ解除した。韓国には制限地帯は残っていない。全ての口蹄疫事例は解除

2010年9月 7日 (火)

宮崎口蹄疫事件 その94  のべ5千名を超える獣医師が処分に動員された!

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「りぼん」様から非常に貴重な現地情報を頂戴しました。ありがとうございます。

宮崎県の家畜課の管理職の方に獣医以外は、殺処分できないの?と、お尋ねしたら家伝法に、家畜所有者が殺せないときは、家畜防疫員で、やりなさい。と書いてあり、実際、4月末の時点では、県内の家畜防疫員40数人で、対処できるだろう。(県内で)対処できない事態にならないと、国に応援を求められない仕組みのようです。」

この宮崎県の家畜課の認識は大変に興味深いものです。「家伝法には家畜所有者が本来やることになっていて、それが出来ない場合は家畜防疫員がせよ」という認識を持っていることが判ります。

実はこの事件が起きるはるか前に、某県の家保の獣医師(管理職)に同様の質問をしたことがあります。彼は、こともなげに「そりゃ家畜所有者が一義、できなきゃ頼む、それでもできなかったら家保が補助するだけだよ」と言っていたことと符号します。

ただし、私が聞いた処分対象が牛や豚などの大型家畜ではなかったために、果たして大型家畜でも同様なのか、別の内規か、農水省省令でもあるのかとも考えておりました。健康な大型家畜においてすら、自分の農場で農家自らが屠殺できない制限があるので、あるいはと思ったわけです。

しかし、これで疑問が氷解しました。すっきりとそのようなことは「ない」のです。県の家畜課レベルでは、家伝法条文は「正しく」読まれていたことになります。

次いで興味深いのは、「家畜防疫員が対処できなくならないと国に応援を求められない」・・・なるほど、聞けば当然ですが、どの段階で国に支援を求めるのかの分水嶺を、「県家保(+県内応援)が対処不可能となった時点」に置いているのがあるのが判りました。

「国に家畜防疫員の応援を急遽もとめたそうですが、県外応援隊は、ほとんど、大型動物に注射できない人ばかりなので、5月に入って、移動制限区域内の開業、NOSAI団体の獣医師にも、応援を求めたそうです。国から来た家畜防疫員に、まず、けがなく仕事をやってもらうと言う受け入れ県の事情もあり、結局、経験あるベテラン組が、がんばったということでした。」

そして、国を介しての県外家保の獣医師の状況も判ってきました。県外家畜防疫員の動員の状況は、第2回 口蹄疫対策検証委員会配布資料(平成22年8月18日)の中の資料「口蹄疫への対応について(補足説明資料)」(PDF:1,322KB) にあります。「コンタン」様、感謝!

これを読むと、県別家畜防疫員数、箇所と家保獣医師1名あたりの家畜管理頭数は獣医師の人数の順から以下です。


●1位 北海道 183名 14箇所  8,465頭
●2位 鹿児島  76   6     9,976
●3位 宮崎   47   3     11,430
●4位 茨城   48   4     7,225
●5位 千葉   66   4     5,105
* のべ5,046名。

ただし、処分した1名あたりの頭数は、1位が宮崎県、2位が鹿児島、3位が北海道となり、当該県の宮崎県が気を吐いているのが判ります。これは「りぼん」様の情報にある県外獣医師の不慣れと、受け入れ県側の配慮があるようです。

また宮崎県は3カ所(宮崎市、都城市、延岡市)に家保があり、23名の獣医師がいます。すると、今回の処分に動員された獣医師は47名ですから、差し引き25名がNOSAlなどから応援派遣されたことがわかります。

また、家保獣医師の動員は4月20日の発生確定とともに始まっていますが主な推移は以下です。
●5月2日・・・・・・50名を超える←5月2日に自衛隊派遣開始
●5月15日・・・100名を超える←5月初旬から豚の連鎖感染始まる
●5月25日・・・150名を超える←5月23日にワクチン接種開始
●6月17日・・・180名を超える
●6月27日・・・200名を超えてピーク時←6月一杯で殺処分終了

発生頭数と処分の比較対象図も掲示いたします。(典拠 鹿大岡本嘉六教授作成)Photo

このように見ると、整理すると次のように言えそうです。

■1) 宮崎県は家畜所有者が処分できる認識を持っていた。

■2) 4月の段階で、何らかの理由で家畜所有者自身による処分ができず(理由不明)、家畜防疫員が処分に乗り出した。

■3) 4月の時点で県家保23名の能力を上回り、県内団体の獣医師の応援が始まった。

■4) 5月15日から始まる爆発的感染拡大の阻止のために、国に支援を要請し、県外の家保4県(北海道、鹿児島、茨城、千葉)から373名もの獣医師が派遣された。

■5) 6月27日前後のピーク時には動員された獣医師は200名を超えた。のべ動員された獣医師は5,046名という膨大な数に登る。

■6) 一方内実としては、県外派遣部隊は大型家畜に不慣れで、応援組にケガをさせられないとの配慮から、結局数においては3位にすぎない現地組の宮崎県が最も多くの処分を遂行した。

■7) 宮崎県現地組の獣医師の奮闘は賞賛に値するが、「畜産王国」としてはあまりに貧弱な家保の体制(たとえば23名にすぎない獣医師数)ことが浮き彫りとなった事実は否めない。

■8) この宮崎家保の動員体制から見ても、宮崎県は処分と5月23日から始まるワクチン接種だけで完全に能力の容量を大きく上回ってしまっており、発生動向調査などできる余裕が皆無であったことが判る。

宮崎県の教訓から今後は、家伝法15条の条項を活かして、処分権限者を家畜防疫員(獣医師)のみに限定することなく、平時から柔軟な処分遂行体制を作り、安全で苦痛の少ない処分方法の研究を確定してのくことが大切ではないでしょうか。

殺処分の問題に長い時間こだわってきましたが、それは処分権限者を家畜防疫員(獣医師)に限定するかのような間違った国の方針に縛られて、発生動向調査がおざなりになったことにあります。

それはあたかも最初のボタンのかけ違いのように初めはわずかな失敗であったものが、巨大な感染拡大の遠因となり、終結宣言以降においてなお消えぬ「不安の棘」を残しているためです。

今、えびの市は血清検査をしようとしているそうですが、それはけっこうなことですが、なぜ終結宣言までそれが出来なかったのか、その理由を改めて考え直してみる時、さまざまな防疫体制の欠陥が見えてくるはずです。


2010年9月 6日 (月)

宮崎口蹄疫事件 その93 家畜防疫員は「緊急の必要がある時」に殺処分できるピンチヒッターにすぎない

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正直に言って、殺処分の技術論にはあまり関心がありませんが、私も「一宮崎人」さんの仰せのように、もっとも苦痛がなく、近隣住民への配慮がある方法が望ましいと思います。となると銃火器の使用は排除されます。

銃声というのはかなり遠方でも聞こえます。狩猟シーズンになれば、とんでもなく遠い山奥の銃声すら聞こえるほどです。処分を行っている近隣の住民がそれを毎日聞かされたらたまりませんものね。

ただし、熟練者が狩猟用ライフルを使用すれば苦痛は少ないでしょう。実際、米国の農業自給用テキストには家畜の屠殺にライフルを奨励しているほどです。ただし日本の実態とはかけ離れていますが。

となると、日本では、やはりシートを被せてのガス殺や電殺がいいのかもしれません。私は専門ではないので、このていどで止めておきます。

問題は、わずか50人にも満たない宮崎県の家保の獣医師が30万頭にもおよぶ殺処分をしたということです。もちろん応援もあったでしょうが、単純計算で一人の獣医師が6千頭もの処分をしたわけで、さぞや過酷な作業であったと頭が下がります。

このような無理な殺処分計画があったために、獣医師は本来の任務である発生動向調査をほとんどできないままに待機患畜やワクチン接種家畜の山と闘わねばなりませんでした。

殺処分がすぐに出来る職種はいくつもあります。たとえば、猟師や屠場の係員はそのまま即戦力となりますし、自衛隊員、機動隊員、工事関係者なども一定の訓練をし、最大の敬意をもって処遇すれば可能だと思います。

獣医師の使命感は大変に尊いのですが、私は殺処分という工程は家保獣医師、すなわち家畜防疫員の本来任務からはずすべきだと思います。もちろん、診断書、殺処分指示書の発行、方法の指示、立ち会いなどは獣医師法との関わりからもせねばなりませんが、処分作業自体からははずれるべきです。

このことによって何より、少数の獣医師(家畜防疫員)が現場にいれば、処分現場を仕切ることができます。そのぶん余裕ができたマンパワーを、農場に立ち入っての血清学的発生動向調査や遡及調査などに向けられます。

これこそが、今回農水省中間報告書がみずから「発生動向調査が不完全だった」と認めているような大きな失敗でした。

その上、ワクチン接種を殺処分と一対のものとすることにより、膨大な殺処分対象を生み出しました。これをすべて獣医師がやれと国は言うわけですから、血清学的発生動向調査ができたら奇跡というものです

殺処分を「誰が」、「どのようにして」やるのかの検討も確かに重要ですが、「どのような」反省に立って、「どこに」力を注ぐべきなのかを考えていかねばなりません

ここで、平成12年の農林委員会の家伝法改正案を抜粋します。情報の提供いただいた「一宮崎人」様に感謝いたします。

農林水産委員会   平成12年11月30日(木)

     家畜伝染病予防法の一部を改正する法律案(閣法第9号)

(3) 家畜防疫員は、家畜伝染病のまん延を防止するため緊急の必要があるときは、一定の家畜伝染病の患畜等について、自らと殺することができるものとするとともに、これらの死体について、自ら焼却し、又は埋却することができるものとするhttp://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/old_gaiyo/150/1504109.htm

これを読むと、10年前の宮崎県と北海道の口蹄疫発生時に、例の家伝法第16条の殺処分を家畜所有者の義務とした条項が問題になったのだと思います。なにが問題となったのかは判りませんが、この改正で「家畜防疫員は緊急の場合にはみずから屠殺できるものとする」となりました。

「緊急の必要がある時」がなにを想定しているのかが問題です。法律の文言を素直に読む限り(←法律文言は素直に読めなければダメですが)、そもそも口蹄疫発生自体が緊急時なのですから、「非常の必要がある時」とは口蹄疫の状況一般を指すのではなく、むしろ何らかの理由で家畜所有者が殺処分をできなくなった、あるいは処分の途中で事故が起きた場合ではないかと思われます。

つまり、平成12年の家伝法改正後においても、本来処分すべき義務を持つ者は、あくまでも家畜所有者か、その委託業務を受けた第三者であって、家畜防疫員は「緊急の必要がある時」のピンチヒッターにすぎないと理解できます

このような法的裏付けがありながら、「獣医師でしか殺処分はできません」という国のマスコミ向け言説はまったくの誤りであると断じざるを得ません。家畜防疫員は、「緊急の必要がある時」のみに処分を「することができる」サブ的存在に過ぎません。

それをあたかも本来任務であるかのように言って、殺処分に全面動員してしまったことになります。それによりなにが失われ、なにが過った方向に進んでしまったのかはもはや明らかではないでしょうか。

■写真 ヤウシュヤマゴボウが紫色に熟して来ました。やっぱり秋なんですかね。

2010年9月 5日 (日)

宮崎口蹄疫事件 その92  ワクチン接種・殺処分方針の前と後は分けて考えたい

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結果論でものを言いたくないといつも思っています。戦争でも災害でも、終わった後になって、あの時こうすべきであったと言うことは簡単にできます。

実際には、火中にいればいただけ、つまり当事者であればあるほど、そう簡単に言えはしません。私はこの宮崎県の大畜産災害にあって、当事者ではなく、しかしかぎりなく当事者に寄り添っていこうと決めた者です。

恥ずかしい話ですが私自身、この4月20日から8月27日までの嵐の期間に多くの間違った判断をして、間違ったことを言っています。ですから、「こうすりゃよかったんのに」などと軽々に言うことはできないでいます。

たとえば、そうですね、ある方の昨日のコメントにもありましたが、「当時の時点で、血清動向調査をしたくとも、獣医師が殺処分に動員されていてできるはずもなかった」という趣旨のご意見は、この事件の複雑さの本質を言い当てています。

事象というのは、ひとつながりに絡みあって出来ています。線型モデルのように、単純に原因⇒結果がつながっていません。ひとつの決定に含まれているほんの少しの誤りが、次の時点で思わない齟齬を産み、それが次の原因として次から次へと混乱を増幅させてしまい、更にそこから複数の原因が新たに生まれていっそう混乱していきます。いわゆる複雑系モデルですね。

この宮崎県の口蹄疫事件を振り返ると、初めのミスはわずかでした。初動が遅れた。言葉にすればたった5字に過ぎません。それも疫学チームが言うように、3月中の感染が複数例あったとしても、その時点では誰も判りはしませんでした。今だから言えるだけです。

第一、口蹄疫だと疑い始めたのは4月の中旬近くになって、複数の症例が出始めてからです。これを「遅い」というのは簡単です。ならば、あんたがやってみればいい、と私は思います。

伝染病は寝耳に水のようにやってきます。ある日、突然に、さて今日は夕飯に何を食おうか、などとノンキに思っている時に限ってやってきます。その時にいつも正常な判断ができるなら、たいしたものです。

口蹄疫の初期症状は、初発の近隣に複数頭の同様の症状を呈している家畜がいれば違いますが、たんなる舌に出来た解りにくい水疱ていどで、ドンピシャに口蹄疫と言い当てたらミラクルってもんです。

また当時は簡易診断キットもなく(今もありませんが)、症例も単独でした。とうぜん、獣医師は往診を続けながら、もう少し様子を診ることくらいしかできないはずです。

念のためにとした血清学的検査は、なんと検査した県の家保が時もあろうに4月の配転時期と重なってしまいました。これも結果を知っていればとてつもない爆弾だと知っていますから、「ああ、なんたること!」と頭を掻きむしるわけですが、当時は「よくわからないから血清検査してみようか」ていどの気分だったはずです。

で、4月配転期のどさくさで検査が半月ほど遅れてしまいました。お国は県に責任をなすりつけようとこのことを鬼の首でも獲ったように大騒ぎしましたが、平時の県家保でも、半月くらい平気でかかりますから(←うちは疫学モニター農場なので知ってます)、これも大失敗というほどではありません。

そこで万が一ということもあるから動物衛生研に検体を送致したら、これがとんでもない爆弾だと判明したわけです。送られたほうもビックリしたでしょうが、送った県家保はもっとたまげたでしょうね。

つまり、ほんとうに失敗ともいえないミスが重なり、折り悪く官庁が最も安定していない4月初めの配転時期に重なり、初動が20日間(たぶん実際は30日間以上)遅れてしまったわけです。

次のミスがあるとすれば、殺処分が遅れた、ということになりますが、これも処分に家保の獣医師を使うという防疫指針の「常識」に従ったまでで、これを疑う人など全国でも圧倒的少数派だったはずです。私が知る限り、私のブログでよく名の出る鹿児島大学の岡本嘉六教授くらいしかいませんでした。

あ、そうだった、今でも「獣医師のみ殺処分できる資格を持つ」という常識は崩れていなかったんだった。だから、他県で口蹄疫が出たら、また同じように家保の獣医師が殺処分切り込み隊をやるハメになるわけです。

だから、コメントにありましたように血清学的発生動向調査したくとも、肝心要のヒトがいやしません。処分は訓練さえ受ければ、まぁ誰でも出来ますが、血清学的調査は防疫専門家にしかできないし、判定もできません。

ただでさえ宮崎県は家保が少ない県なのに、それをフル動員して殺処分に投入してまったわけですから、血清学的発生動向調査などできる余裕などあるわけはありません。

血清学的検査をやりたくなくてしなかったのではなく、したくとも出来なかったのです。

この問題の本質は、NHKがクローズアップ現代で言っているような「県職員が家畜の処分に馴れていなかった」なんてことに問題があるわけではなく、どこに感染が飛び火しているのか、どこから感染が侵入しているのか、どこを遮断したらいいのかという発生動向調査ができなくなってしまったことにあります。

ですから、感染侵入ルートも、感染拡大ルートもまったく目星がつかないままにこの直後に来る感染大爆発を迎えねばならなかったわけです。

農水省の中間報告書などにもある国道10号線が感染ハブとなったことにしても、折からのGWで遮断はおろか、消毒ポイントを設けることすら難しい状況でした。

これも国道の管轄とかややっこしいことはあるにせよ、感染ルート遮断の前提となる発生動向調査自体がないわけですから、まぁなるようにしかならなかった事がいちばん悪い時期と重なったというわけです。

おまけに埋却地がなかったことも響いたわけですが、これだって全国都道府県で平時からそれを用意している奇特な県があったら教えてほしいほどです。

そんなこんなのわずかのミスが重なって、4月下旬にやがて川南町のあろうことか県の畜産試験場の豚でドカン!といくわけです。あとはご承知のように、火薬庫に火が入ったようなパンデミックにいきなり突入です。

そして、その時にお国から国の現地対策本部長として送られて来たのが、誰あろう山田副大臣(当時)だったわけで、彼はもう既にワクチン接種⇒殺処分方針を持っていました。

山田さんが東国原さんに初めの顔合わせの時にささやいたという「オレはワクチン打つために宮崎に来たんだ」という台詞は、宮崎口蹄疫事件をまったくことなった次元へと導く不吉な号令だったのです。

彼が来たことにより、宮崎県におけるワクチン接種されて殺処分された家畜の運命は決定されたのでした。

そしてこのワクチン接種・殺処分方針はそれまでの宮崎県の犯した小失敗や不運とはまったく異なり、意図的であり、あらかじめ準備されつくされていたのです。

私は、今回の宮崎県口蹄疫事件は、たしかに事象としては連続していて、ひとつの事件ですが、ワクチン接種前と後で、完全に切り離して別個に検証されるべきであると考えます。

言い換えるならば、国家が選択した血清学的発生動向調査をせずに、いきなりワクチン接種して殺処分をしていくという大方針が妥当であったのかどうかを、今改めて見つめ直す必要があるのではないかと思うのです。

■ 写真 ひまわりと夏空。夏の定番、お約束の画題です。しかし暑い。残暑ではなく、残酷暑とはよく言ったもんですね。

2010年9月 4日 (土)

宮崎口蹄疫事件 その91  血清学的サーベイランスがすべての前提だったはずだ!

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昨日の記事に対してのコメントで「国益」という言葉が飛び出して仰天しました。「清浄国復帰は国益だ」というご意見です。そして「国益」という高いレベルの話が故に、まぁ私たち庶民といいますか、民間は何を言っても無駄である、とそのようなニュアンスでした。

ほ~、です。かえって私のへそ曲がりの血が騒いできますね(笑)。となると「国益」の緞帳が静々と降りれば、民百姓は沈黙せにぁならんのか、今は江戸時代かぁ!と啖呵のひとつも切りたくなりますね。

大前提から確認しましょう。宮崎県の清浄化を確認していくことと、OIEに「清浄国ステータスの復帰」申請をすることは同じなんでしょうか?

素朴な疑問ですが、なにやらお国が決めた路線こそが「国益」であると誰が決めました。

今回えびの市での疑似症例は、ちょっとした騒動になりました。全国紙ですら1面に報道したくらいです。それは終結宣言が出たばかりということもありますが、皆一様に抱えていて、しかし言いずらい不安のトゲがあったからでしょう。

それは「まだ潜伏しているのではないか」という不安です。それはキャリヤー家畜かもしれないし、堆肥かもしれない、あるいは野生動物かもしれない。

それをあえて呑み込んで進まねばならない、それは農家としてはまっとうなことではあります。民百姓は、お国から言われる通りやるべきことはすべてやり尽くしましたからね。

移動制限だ、消毒ポイントだ、セリ市の中止だ、消毒の徹底だ、果ては家族のような家畜まで殺し、泣きながら埋め、さらにはまったく症状の出ていない家畜までワクチンを打ってから殺すまでしました。

しかし、お国の判断が皆正しかったかは別です。清浄化確認をもっと徹底してよかったのではないでしょうか。もっと徹底したサーベイランスがあれば、えびの市でなにかあってもびっくりはしませんでした。

血清検査はコストがかかるらできないというご意見もありました。そうですか、ワクチン接種してから殺処分、埋却処分するほうが、血清学的検査より金がかからないですか?これは驚いた。

そのように私が言うと、清浄化確認とワクチン接種⇒殺処分問題は別だ、という声が聞こえてきそうですが、私には一緒に思えます。

あの時を境にして、今までの殺処分に対するいわば「やむを得なさ」のタガがはずれ、「殺すためにワクチンを打つ」という転倒が始まりました。緊急ワクチンなどしょせんは時間稼ぎでしかないものを、まるでこれ以外ではくい止められない、そしていったん打ったら最後、殺処分は当然であるという「空気」が作られました。

はい、その「空気」に飲まれていたひとりがこの私です。別に過去ログを削除する気もありません。ですから国のこのワクチン接種⇒殺処分路線への懐疑は、当然のこととしてこの私自身にも向けられています。私は、自分だけ高みに立って、結果論でものを言う白い手袋趣味は持ちません。

それはさておき、ワクチン接種⇒殺処分に東国原知事は非常に懐疑的でした。当時は批判的に書いた気もしますが、今になると知事の言動は納得できます。まさに知事がおっしゃるように、今後ワクチンを接種してから殺処分にすべきではありませんでした。

種牛問題でも同じです。陰性が確認できればよかったのではありませんか。しかし当時の状況の背景には、ワクチン接種⇒殺処分があり、民百姓は自分の家畜をワクチンを打っては殺していました。それも十数万頭の数で!この壮絶な「空気」の中で、知事ひとりが防疫原則を無視して横車を押していると見えたのです。

たぶん知事はお国の強力な圧力の前に泣く泣くワクチン接種⇒殺処分を飲まされたのだと推察します。

では改めて、OIE陸生動物規約第8・5・6「清浄国ステータスの回復」の2項を見てみましょう。http://www.maff.go.jp/j/syouan/kijun/wto-sps/oie/pdf/rm5fmd.pdf

2. FMDの発生又はFMDVの感染が、ワクチン接種FMD清浄国又は地域で起きている場合には、次に掲げる待機期間のいずれか一つが、ワクチン接種FMD清浄国又は地域のステータスを再取得するために必要とされる。

a) FMDVの非構造タンパク質に対する抗体を検出する血清学的サーベイランスが、ウイルス循環がないことを証明している場合であって、摘発淘汰政策、緊急ワクチン接種及び第8.5.40条から第8.5.46条までに基づく血清学的サーベイランスが適用されているときには、最終症例後6ヶ月間

このOIE陸生動物規約8・5・6のどこに、まず緊急ワクチンを打てとか、殺処分にしろとか書いてありますか?

あくまでもOIEcord8・5・6に書いてあるのは、まず血清学的サーベイランス(発生動向調査)をしなさいということです

その血清学的検査の結果を見てから、陰性ならば摘発淘汰(殺処分)するか、あるいは、緊急ワクチン接種を決めなさい、ということだけです。

ところがお国は、この血清サーベイランスの前提部分を吹っ飛ばして、いきなり、本来はサーベイランスの後に出てくる選択肢でしかない緊急ワクチン接種を、「これしかない」戦略に祭り上げてしまったのです

緊急ワクチンはしょせん単なる戦術に過ぎません。血清学的サーベイランスの実施こそが、OIEの大前提であって、これをせずにいきなり小戦術でしかない緊急ワクチンをしてしまい、結果、本来殺さなくともいいはずの陽性家畜の屍の山を築いたのです。なんと愚かな!

初期の時点から、血清学的サーベイランスを徹底しろと声を枯らしていた鹿児島大学の岡本嘉六教授などの意見はふり向かれもせずに、現場にいない東京の偉い学者と農水官僚、そして政治家が、緊急ワクチンして殺せという方針を降ろしたのです。

本来は、PCRや抗体検査で陽性になった家畜だけ摘発淘汰すればよかったのです。口蹄疫に罹った家畜のみ処分すれば済んだのです。それを大金をかけて馬鹿げた規模で緊急ワクチンを接種したあげくは、罹患してもいない家畜まで殺しまくったのでした。

血清学的サーベイランスさえしておけば、助かった牛豚がどれだけいたことか!それを今になって血清学的検査はコストがかかるなどと、馬鹿も休み休み言っていただきたいものです。最も安価で、最も確実な方法こそが血清学的サーベイランスです。

そしてもう一点。早期清浄国復帰が「国益」だなどと言う風潮がありますが、ほんとうにそうでしょうか?確かに口蹄疫発生と同時にOIE規約により牛豚肉の国際貿易は停止したままです。

しかしそれは正確には清浄国への輸出だけにすぎません。香港には4月30日から、マカオには5月11日から既に制限区域外からは輸出されています。

では、逆に非清浄国から輸入が激増しましたか?農水省はこのことをやたら心配しているようですが、していないはずです。なぜなら、それは二国間交渉のデーブルに乗せて決定することだからです。

もう日本は清浄国に復帰する意志がないならば話は別ですが、そうでない以上優秀なネゴシエーターの農水省官僚が二国間テーブルでゴネている間に清浄国復帰が完了してしまいますよ(笑)。

■追記 抗体をもった家畜はキャリヤーとはならないとのご指摘がありました。調べてみます。ご指摘どおりだとしても、記事内容そのものの論旨には変更はありません。

■写真 北浦湖畔の水神様です。レンコンの田んぼにすっくと鳥居が立っています。

2010年9月 3日 (金)

宮崎口蹄疫事件 その90   ウイルス・キャリヤー家畜は地雷源だ!

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口蹄疫陰性を確認 小林は3日から競り再開

県は2日、えびの市の乳用牛肥育農場で舌の潰瘍(かいよう)や発熱など口蹄疫に似た症状を示していた牛が見つかったが、遺伝子検査の結果、陰性だったと発表した。

 結果が出るまでの安全措置として、同日開催予定だった県西部2市場での子牛と乳牛の競り市が急きょ中止・延期となった。4月21日以来の競り市再開となるはずだった小林市の小林地域家畜市場は、3日から子牛競り市を開始する。都城地域家畜市場の乳牛競り市は日程を調整する。
(宮崎日日新聞 2010年09月02日)

ひとまずはほっとしました。えびの市の疑似症例はシロでした!最悪の場合、えびの市移動制限、殺処分、セリ市中止、終息宣言取り消し、再度の発生動向検査というシナリオもありえたので、心からよかったと思っております。

と同時に、昨日、「みやざき甲斐」さんが指摘されたような以下のことは重く国や県は受け止めるべきです。

意思決定の経過が相変わらずです。
抗原検査の認可が一刻も早く降りて、タイムラグが短縮されないとまた繰り返す事に間違いなくなります。国自体が認める「症状のわかりにくい口蹄疫」を目視だけで済ませてしまった事が棘の様に残っています」


私は今の宮崎県東部は「地雷源」だと思っています。ちょうどかつてのカンボジアやソマリアのように平和が回復しても未だ地雷が眠ったままになっているような状態です。

昨日の記事で私は、口蹄疫を目視検査と電話の任意聞き取りで終了させてしまったことに対する疑問を書きました。ちょうどまさにその日に、えびの市で疑似症例が出たわけです。

私はあり得るべきことが早くも出たと感じました。牛の目視検査の信頼性は非常に低いものです。

Photo

上の写真は「口蹄疫制御のためのEU委員会」のテキストからのものです。http://km.fao.org/eufmd/index.php/FMD_ageing_of_lesions

第1日目の去勢牛の舌を引っ張りだして、破れた水疱を調べています。牛は痛さに怯えて暴れるためにたいへんに調べにくい作業です。実際に第6例では、牛が暴れるために検査できなかったケースも報告されています。

わずかこんな水疱しか目視確認できません。次に第3日目を見ます。水疱は破裂して、血漿と繊維索が滲み出ています。

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次に3枚目の写真で第10日目を見てみましょう。もうほとんど治癒しかかっているのが判ります。
さらに2週間目を過ぎると、症例の痕跡(症痕)は目視確認できないほどに治癒してしまいます。うっかりと「病変は見られなかった」と判定されてしまっても何の不思議ではありません。

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これが、口蹄疫診断の最大のネックである初期症状の判定の難しさと、その後の自然治癒の症痕発見の難しさです。

実際に私の友人の獣医師に聞くと、こう答えてくれました。
「第1日目を確実に口蹄疫だと診断できるのは、あらかじめ口蹄疫だという先入観を持っている場合か、近隣に類似の症状が連続して出た場合だ。それがなくてピタリと診断できるのは、よほどのベテランで症例を沢山見てきた獣医師だけだろう。新米の獣医?ムリムリ。捕まえて舌を診ることさえできないよ」

この自然治癒は薬剤によるものではなく、あくまでも自然抗体が上がって治ったものですから家畜の生体内には抗体が残り続けます。ありていに言えば、抗体という形でウイルスが残存します。そして抗体値は血清検査で診断できます。

このような判定が困難な口蹄疫を目視検査と、ましてや電話診断で済ませたツケは、今や宮崎の地雷源となりつつあります。

血清学的発生動向検査をしなかったことは、単にOIEへの「清浄国ステータスへの復帰」申請がらみで語るべきではありません。宮崎県の畜産農家自身に大きな火種を残したと考えるべきです。

たとえばこういうケースもありえます。
家畜管理者がうっかり「夏バテだろう」と口蹄疫を見逃しており、その後に自然治癒してしまった結果、口蹄疫ウイルス・キャリヤーとなっていた場合はどうでしょうか。

たぶん目視では絶対に発見不可能です。しかも、しっかりと3年半もウイルスを保菌しているのですよ!

それが一緒に飼っている豚などに感染しようものなら目も当てられません。
また今は管理者も緊張していますが、半年、一年と必ず緊張は緩みます。それが哀しくや人間というものです。今張りつめている防疫態勢と意識は必ず薄れていきます。人も社会も長期の強テンションに耐えられないからです。

今回の口蹄疫との戦いを担った家保の獣医師や県の職員も、来年3月一杯で配転となります。マニュアルは残るでしょうが、歴戦のベテランが残り続ける保障はありません。また新人教育からスタートという家保も出てくるかもしれません。

そのときには政府の農水大臣も副大臣(現地対策本部長)も代わっているでしょうし、ひょっとして政権交代してしまっているかもしれません。

そのような時を狙って、ウイルス・キャリヤーが目覚めたらどうしますか?再び2010年4月から始まる地獄が来ないと誰が言えるでしょうか?

もっとも悪い場合、既に他県に移動していたら・・・もうやめましょう。縁起でもない。

現実的には血清検査しか過去の罹患を明らかにする方法はありません。もちろん遺伝子検査もありますが、なにぶん日本で一カ所しかやってないですからね。

遺伝子検査施設が県ごとにできて、即時対応できるシステムを作らねばダメです。しかし子供手当て満額などということをやらかしたら、それだけで7兆円(!)でしたっけ、口蹄疫対策になど財源は金輪際回って来ません。口蹄疫対策は票になりませんからね。小沢さんが首相になれば、山田、篠原の両氏は粛清でしょうし・・・まぁ彼らなどどうでもいいか。

血清学的発生動向検査を絶対にするべきでした。今からでも遅くありません。それこそが宮崎の未来への最大の担保だったはずですから。

それにつけても、私は終結宣言は早すぎたと思います。今現在、宮崎県東部に複数潜伏するであろうウイルス・キャリヤーを血清検査であぶり出して処分してからでも遅くはなかったはずです。

8月中の終息宣言⇒年内の清浄国ステータス回復申請⇒来春清浄国復帰という政治的なスケジュールが優先して、足元に眠っている脅威を度外視してしまいました。

今回は幸いにもシロでしたが、国と県はこれを教訓にしていただきたいと切望します。

■写真 アカマンマも夏の熱風にそよいでいます。

2010年9月 2日 (木)

宮崎口蹄疫事件 その89  清浄国ステータス回復に どうして血清額調査が必須要件とされるのか

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村では稲刈りが始まっています。今年は台風がまったく音沙汰がないので、今のうちに刈っちまうかというところです。ただし、田植え前後の天候不順で田植え自体が遅れていましたから、まだ始まったばかりです。

もっともこの炎天下に稲刈りはやりたくねぇなとは、村の仲間のぜいたくな愚痴。、豊作だろ、待てよ、豊作だと値が下がるっけ。どっちにしろ愚痴が多いわが業界です。

さて、なんとか復旧しました。再開いたします。
私がこの宮崎口蹄疫事件を振り返ってどうにも解せないことのひとつに、血清検査が意図的か否かは判りませんが、すっぽりと抜け落ちていることです。

なぜ、この血清学的検査が必須なのかといえば、牛が非常に長い期間にわたってのウイルス・キャリヤーとなるやっかいな家畜だからです。口蹄疫の国際的標準的手引きであるFAO「口蹄疫緊急対策」第2章の「この疾病の特徴」にはこうあります。
訳出 鹿大岡本嘉六教授 ゴチック、赤字は訳出者による。原文はこちらからどうぞ。
http://vetweb.agri.kagoshima-u.ac.jp/vetpub/Dr_Okamoto/Animal%20Health/Contingency%20Plan%20CHAPTER%202.htm

臨床症状がなくなった後、反芻動物の最大80%は持続的感染状態になる。この状態は、「キャリヤー状態(保菌状態)」と呼ばれ、初感染から28日を越えたウイルスの保有と定義される。そのような持続感染は、咽頭組織と食道上部組織で成立する。キャリヤー状態の持続時間は、宿主、ウイルス株およびその他の要因によって異なる。報告されている様々な動物種のキャリヤー状態の最長期間は、牛で3年半、羊で9ヶ月、山羊で4ヶ月、そして、アフリカ・バッファローで5年以上である。

牛が3年半にわたって口蹄疫ウイルス・キャリヤーであり続けることこそが、OIEが陸生動物規約で血清額検査を清浄国への回復要件としている理由です

このOIE陸生動物規約第8・5・6「清浄国ステータスの回復」の2項には以下の記述があります。原文はこちらからどうぞ。http://www.maff.go.jp/j/syouan/kijun/wto-sps/oie/pdf/rm5fmd.pdf

2. FMDの発生又はFMDVの感染が、ワクチン接種FMD清浄国又は地域で起きている場合には、次に掲げる待機期間のいずれか一つが、ワクチン接種FMD清浄国又は地域のステータスを再取得するために必要とされる。

a) FMDVの非構造タンパク質に対する抗体を検出する血清学的サーベイランスが、ウイルス循環がないことを証明している場合であって、摘発淘汰政策、緊急ワクチン接種及び第8.5.40条から第8.5.46条までに基づく血清学的サーベイランスが適用されているときには、最終症例後6ヶ月間

ところが、今回の事件において血清学的発生動向検査はおろそかにされ、目視検査で済まされてしまいました。これは宮崎県の7月21日のプレスリリースにも明らかです。

県内の全ての牛、豚飼養農家を対象にした清浄性確認検査を下記のとおり実施する。

  1. 期間  7月22日(木曜)~8月11日(水曜)
  2. 対象  県内で飼養されている全ての牛・豚
         対象戸数 約7,700戸(牛 約7,200戸、豚 約500戸)
         ※直近の清浄性確認済み農家を除く
  3. 方法  牛(肉用牛、酪農)については、農場巡回による目視検査、
         豚については、管理獣医師等の目視検査または電話聞き取り

目視検査と電話聞き取りですか。論評したくなくなります。聞くところによれば、申し出た農家からのみの任意の聞き取りだったということすらささやかれています。

口蹄疫において、臨床に携わる獣医師が口を揃えて言うとおり口蹄疫の初期症状を発見することは非常に困難です。

私は獣医師でもなんでもありませんので、症例写真を見てのことに過ぎませんが、発症第1日目の患畜の牛の舌の水疱はわずかでしかありません。食欲の減退やよだれも他の病気と重複するものです。

この段階で口蹄疫だと診断できなかったとしてもそれは獣医師をせめられないと思います。現に、今回の第6例では、他の牛に感染が認められなかったために、診断が遅れました。やむをえないところです。

また、幸か不幸か、口蹄疫は第10日目以降から急速に自然治癒してしまいます。当然症例の痕跡も速やかになくなっていきます。これをどうやって発見しろと言うのでしょうか。

ましてこれだけ大量に作り出してしまったワクチン接種家畜に対して、血清調査なしでどのように過去に本当に発症していたかもしれない個体と判別できるというのでしょうか?

まずはこの血清動向調査を4月(できうるならば3月)から強力に組織的に実施していれば、感染拡大の局面は大きく異なったはずでした。百歩譲って、初動における混乱期はいたしかたがなかったとしても、それと違ってワクチン接種後の血清動向調査は、今後の清浄性の最大の担保であったはずです

清浄確認とは輸出を急ぐためでも、ましてや終結宣伝の日程から逆算されて決まるものではありません。あくまでも口蹄疫ウイルスの脅威が、完全になくなったことを意味します。

それが発症はもとより、家畜、なかでも牛に存在する3年半という潜伏期間の可能性を完全に断つこと、これが清浄化への王道だったはずです。それこそが、ほんとうの意味での「畜産王国宮崎の復興」の資産であったと思います。

山田大臣が強力に押し進めたワクチン接種と殺処分、そしてその陰にあった血清学的動向調査の抜け落ちは、OIEへの「清浄国ステータスの回復」の申請という政治目標ありきで進められた拙速であったような気がしてなりません。

今一度、終結宣言が出た今こそ立ち止まって静かに検証すべき時ではないでしょうか。

2010年9月 1日 (水)

パソ壊れる(涙)

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とうとう本格的に壊れてしまいました(涙)。なんとか今日中に修理して明日は更新します(再び涙)。え~ん。

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