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宮崎口蹄疫事件 その90   ウイルス・キャリヤー家畜は地雷源だ!

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口蹄疫陰性を確認 小林は3日から競り再開

県は2日、えびの市の乳用牛肥育農場で舌の潰瘍(かいよう)や発熱など口蹄疫に似た症状を示していた牛が見つかったが、遺伝子検査の結果、陰性だったと発表した。

 結果が出るまでの安全措置として、同日開催予定だった県西部2市場での子牛と乳牛の競り市が急きょ中止・延期となった。4月21日以来の競り市再開となるはずだった小林市の小林地域家畜市場は、3日から子牛競り市を開始する。都城地域家畜市場の乳牛競り市は日程を調整する。
(宮崎日日新聞 2010年09月02日)

ひとまずはほっとしました。えびの市の疑似症例はシロでした!最悪の場合、えびの市移動制限、殺処分、セリ市中止、終息宣言取り消し、再度の発生動向検査というシナリオもありえたので、心からよかったと思っております。

と同時に、昨日、「みやざき甲斐」さんが指摘されたような以下のことは重く国や県は受け止めるべきです。

意思決定の経過が相変わらずです。
抗原検査の認可が一刻も早く降りて、タイムラグが短縮されないとまた繰り返す事に間違いなくなります。国自体が認める「症状のわかりにくい口蹄疫」を目視だけで済ませてしまった事が棘の様に残っています」


私は今の宮崎県東部は「地雷源」だと思っています。ちょうどかつてのカンボジアやソマリアのように平和が回復しても未だ地雷が眠ったままになっているような状態です。

昨日の記事で私は、口蹄疫を目視検査と電話の任意聞き取りで終了させてしまったことに対する疑問を書きました。ちょうどまさにその日に、えびの市で疑似症例が出たわけです。

私はあり得るべきことが早くも出たと感じました。牛の目視検査の信頼性は非常に低いものです。

Photo

上の写真は「口蹄疫制御のためのEU委員会」のテキストからのものです。http://km.fao.org/eufmd/index.php/FMD_ageing_of_lesions

第1日目の去勢牛の舌を引っ張りだして、破れた水疱を調べています。牛は痛さに怯えて暴れるためにたいへんに調べにくい作業です。実際に第6例では、牛が暴れるために検査できなかったケースも報告されています。

わずかこんな水疱しか目視確認できません。次に第3日目を見ます。水疱は破裂して、血漿と繊維索が滲み出ています。

Photo_3

次に3枚目の写真で第10日目を見てみましょう。もうほとんど治癒しかかっているのが判ります。
さらに2週間目を過ぎると、症例の痕跡(症痕)は目視確認できないほどに治癒してしまいます。うっかりと「病変は見られなかった」と判定されてしまっても何の不思議ではありません。

Photo_2

これが、口蹄疫診断の最大のネックである初期症状の判定の難しさと、その後の自然治癒の症痕発見の難しさです。

実際に私の友人の獣医師に聞くと、こう答えてくれました。
「第1日目を確実に口蹄疫だと診断できるのは、あらかじめ口蹄疫だという先入観を持っている場合か、近隣に類似の症状が連続して出た場合だ。それがなくてピタリと診断できるのは、よほどのベテランで症例を沢山見てきた獣医師だけだろう。新米の獣医?ムリムリ。捕まえて舌を診ることさえできないよ」

この自然治癒は薬剤によるものではなく、あくまでも自然抗体が上がって治ったものですから家畜の生体内には抗体が残り続けます。ありていに言えば、抗体という形でウイルスが残存します。そして抗体値は血清検査で診断できます。

このような判定が困難な口蹄疫を目視検査と、ましてや電話診断で済ませたツケは、今や宮崎の地雷源となりつつあります。

血清学的発生動向検査をしなかったことは、単にOIEへの「清浄国ステータスへの復帰」申請がらみで語るべきではありません。宮崎県の畜産農家自身に大きな火種を残したと考えるべきです。

たとえばこういうケースもありえます。
家畜管理者がうっかり「夏バテだろう」と口蹄疫を見逃しており、その後に自然治癒してしまった結果、口蹄疫ウイルス・キャリヤーとなっていた場合はどうでしょうか。

たぶん目視では絶対に発見不可能です。しかも、しっかりと3年半もウイルスを保菌しているのですよ!

それが一緒に飼っている豚などに感染しようものなら目も当てられません。
また今は管理者も緊張していますが、半年、一年と必ず緊張は緩みます。それが哀しくや人間というものです。今張りつめている防疫態勢と意識は必ず薄れていきます。人も社会も長期の強テンションに耐えられないからです。

今回の口蹄疫との戦いを担った家保の獣医師や県の職員も、来年3月一杯で配転となります。マニュアルは残るでしょうが、歴戦のベテランが残り続ける保障はありません。また新人教育からスタートという家保も出てくるかもしれません。

そのときには政府の農水大臣も副大臣(現地対策本部長)も代わっているでしょうし、ひょっとして政権交代してしまっているかもしれません。

そのような時を狙って、ウイルス・キャリヤーが目覚めたらどうしますか?再び2010年4月から始まる地獄が来ないと誰が言えるでしょうか?

もっとも悪い場合、既に他県に移動していたら・・・もうやめましょう。縁起でもない。

現実的には血清検査しか過去の罹患を明らかにする方法はありません。もちろん遺伝子検査もありますが、なにぶん日本で一カ所しかやってないですからね。

遺伝子検査施設が県ごとにできて、即時対応できるシステムを作らねばダメです。しかし子供手当て満額などということをやらかしたら、それだけで7兆円(!)でしたっけ、口蹄疫対策になど財源は金輪際回って来ません。口蹄疫対策は票になりませんからね。小沢さんが首相になれば、山田、篠原の両氏は粛清でしょうし・・・まぁ彼らなどどうでもいいか。

血清学的発生動向検査を絶対にするべきでした。今からでも遅くありません。それこそが宮崎の未来への最大の担保だったはずですから。

それにつけても、私は終結宣言は早すぎたと思います。今現在、宮崎県東部に複数潜伏するであろうウイルス・キャリヤーを血清検査であぶり出して処分してからでも遅くはなかったはずです。

8月中の終息宣言⇒年内の清浄国ステータス回復申請⇒来春清浄国復帰という政治的なスケジュールが優先して、足元に眠っている脅威を度外視してしまいました。

今回は幸いにもシロでしたが、国と県はこれを教訓にしていただきたいと切望します。

■写真 アカマンマも夏の熱風にそよいでいます。

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口蹄疫問題」カテゴリの記事

コメント

全面的に同意いたします!

「恐い恐いと煽ってんじゃねえ!」とか、「以前ワクチネーション→そして殺処分って言ってただろうが!」
という批判が来るかもしれません。

それに対しての回顧や反省は必要ですが、事態は刻々と変化し、日々新しい情報や問題が顕在化するのは当然のことと考えます。

昨日のエントリも含めて、極めて重大な事だと思います。

政治家の政争の具なんかより、畜産業そのものの回復・振興こそが大切な事なのは、誰もが思っていることであると信じています。

えびののみなさん、シロで本当に良かった!

投稿: 山形 | 2010年9月 3日 (金) 08時19分

3年半のウイルスキャリアーがいれば、ウイルスは増殖、排泄されますから、自然治癒までの間に、同一農家や周辺で発症が続くことで、疫学的に診断をするものだと思います。
 臨床獣医師としては、目視で診断し1頭だけなら、様子を見るのが普通です。それしかできません。というより、全部検査すれば、経費もかかるし、時間も手間もかかります。口蹄疫や炭疽などの疑いがあれば別かもしれませんが。 今回は宮崎県内だったので1頭だけでしたが、伝染した可能性が否定されないので慎重だったのだと思います。口蹄疫流行中に岡山、沖縄、広島などで検査したように。

投稿: 森田文弥 | 2010年9月 3日 (金) 08時55分

早期のステイタス回復は、国益ですから、変更は難しいです。 2月の科学委員会への申請は絶対条件です。これは、ステイタス回復が、輸入障壁とリンクしているからです。次の次の科学委員会まで、申請を延ばしても、よいかは、他県の畜産、酪農から異論が出てきそうです。

 半径3km圏外の臨床的目視確認は、資源的、人的、予算的もんだいから、やもえないことです。

 仮にキャリアがいるとすれば、と畜が始まっているなら、3ヶ月中に感染確認がなされるでしょう。

 現在の地雷にあたるのは、堆肥化の要求された、糞尿の問題でしょう。 たぶん、ウイルスの活性率は少ないで有ろうともえますが。 堆肥として使用されるところがどれほど有るか?。もありますし。 処分方法を建都する必要があります。


地雷の件は、ソマリヤとカンボジアでは、使われた地雷の種類が異なります。ソマリヤ等で使われた地雷は、対物地雷が多く、人での起爆は少ないですし(人では軽いので、起爆し難い。)、形状も大型のため、雨の少ない所では、埋められた場所からの移動は少ないです。 埋められた場所が特定できるなた、除去は時間をかければ、やれないこともないです。 内戦やっている状況では無理ですが。

カンボジアに使われたのは、多くが対人地雷です。 それも殺傷能力の低いものです。 これは死者でなく、傷害を目的とした、一番厄介なものです。 安価で多量に作れて、大量に使える。 もっと厄介なのは、表に軽いことです。 カンボジアの様な雨季には増水するようなところでは、埋められた対人地雷が場所を変更していく事です。 埋められた場所がもうわからない事です。 これが、今なをカンボジアでの地雷除去が進まない事と、いまだ、地雷での損害が出続ける問題です。なんと、国家の再建を長期にわたり妨害でき、人の心理状況の混乱を長期渡り持続できる。悪魔の兵器。 小型対人地雷が雨の少ないところで、使われたなら、カンボジアの様な事にはなっていなかった事です。埋めたところから移動がほぼない。
  

投稿: omizo | 2010年9月 3日 (金) 10時29分

omizo さん、博学であることは尊敬しますが、地雷の種類などここで問題にしていませんよ(笑い)。ここは軍事ブログではありません。無関係な知識の披露は別の場所でお願いします。はっきり言って迷惑です。

投稿: 管理人 | 2010年9月 3日 (金) 15時38分

この10年間で、宮崎の飼養頭数がどれくらい増加したのか良く知らないのですが、県内全頭に対して血液抗体検査を実施するのが不可能なくらい増加しているのでしょうか?
10年前は、全頭血液検査が可能であったのに、今回は目視だけになった、最大の相異点は何なのでしょうか?
やはり経費?人的要因?そこら辺について、農水や県から(知事は依頼したが、国が断ったとか言う発言もありましたね)明確な説明がなされたら、もう少し混乱しなくて済みそうな気がするのですが?

投稿: 一宮崎人 | 2010年9月 3日 (金) 17時36分

ありんくりん管理人さんに、叱られそうですが、一宮崎人さんの疑問にお答えすると、データーは、古いですが、以下のとおりです。

http://www.pref.miyazaki.lg.jp/parts/000088541.pdf

http://www.pref.miyazaki.lg.jp/contents/org/fukushi/eisei/jui/p1_chikusan.html

http://www.pref.miyazaki.lg.jp/parts/000099296.pdf

投稿: りぼん。 | 2010年9月 3日 (金) 18時14分

農水省プレスリリース(9/3) http://www.maff.go.jp/j/press/syouan/douei/100903.html

「OIE(国際獣疫事務局)への我が国の清浄ステータスの認定申請のため、
9月6日より、宮崎県の牛飼養農場を対象として、
清浄性確認のためのサーベイランスを開始します。」

我が国においては、本年4月20日以降、合計292例の口蹄疫の発生がありましたが、
7月4日の発生以降、新たな発生は確認されておらず、
7月27日には、すべての移動制限が解除されたところです。
また、8月27日には、ワクチン接種区域に残されていた、
たい肥等の汚染物品の処理が終了しました。

このため、OIEに対して、我が国の清浄ステータスの認定申請に必要となる
サーベイランス(臨床検査及び血清抗体検査)を、
宮崎県内の牛飼養農場(150戸)を対象として、
9月6日から順次開始することとします

今回のサーベイランスに係る採材及び各検査を9月下旬までに終了し、
10月上旬にOIEに対する認定申請書を提出する予定です。
(以上引用)


OIE申請のために行う、手続き的なサーベイランス、という感じでしょうか。

投稿: コンタン | 2010年9月 3日 (金) 19時05分

<この自然治癒は薬剤によるものではなく、あくまでも自然抗体が上がって治ったものですから家畜の生体内には抗体が残り続けます。ありていに言えば、抗体という形でウイルスが残存します。そして抗体値は血清検査で診断できます。

自然抗体が出来ても、生き残ったウイルスは細胞の中で増殖し細胞を破壊して、また近くの細胞に感染する。細胞から遊離したウイルスは体液中で抗体により殺されるが、つねに細胞の中で生き残ったウイルスが存在するために患者はキャリアーとなる。体液中にウイルスがでると、新たに患者が自ら抗体を作るため、長期間、抗体検査で陽性となる。

むかーし!高校生だったころ学んだ生物の授業から、こういうメカニズムだろうと考えていたのですが・・・。間違っているのでしょうか?今となっては人に聞けないのですが、恥をしのんで誰か教えてくださいw。

投稿: ^^ | 2010年9月 3日 (金) 19時17分

抗体というのはタンパク質ですよ。
で、ウィルスは抗原です。
抗体は抗原と結合して、体内から除去するように働きかけたり、
免疫を与えたりします。
ですから、感染防御機能の元になるのが抗体です。
ウィルスキャリアというのは、ウィルスに感染していても症状を現さず、持続的にウィルスを持ち続けている個体のことです。
ですから、自然治癒の場合は、キャリアにはなりません。

投稿: | 2010年9月 3日 (金) 22時28分

自然治癒の場合は、キャリアにはなりません>>>>
もう少し詳しく教えていただきたいのですが、血清型O型とA型と両方の抗体を持った牛が現れ、外観は、治癒状態。しかも、O型が、2010Jとは、違う遺伝子配列だったら、この家畜は、そのまま、食肉として、出荷しても良いと言うことでしょうか?

また、抗体価が高い(概ね罹患から3年半以内)牛を、食肉にして、冷凍保存したものを、豚のえさにしても良いということでしょうか?

世界的に、約60%は、汚染肉の再利用が原因と言われてますが、汚染肉と自然治癒牛肉とは、まったく違うものなんですね?

投稿: りぼん。 | 2010年9月 4日 (土) 11時55分

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