宮崎口蹄疫事件 その96 口蹄疫事件最大の誤謬、血清学的発生動向調査の不在
嵐が過ぎました。関東地方にはむしろ恵みの雨です。米は高温障害が出るし、夏野菜は堅くて食味がひどい上に、秋作は蒔けずで踏んだり蹴ったりでしたが、ようやく待ち望んだ雨が降りました。むしろ降り足りないって感じでしょうか。
さてこの間、処分問題を続けてきました。それは処分に家畜防疫員を投入したことの是非を問うことから、今回の事件の「ボタンの掛け違い」を探る試みです。
宮崎県は発生当初、国の防疫指針に従って「殺処分をできるのは獣医師だけ」という方針で家保の獣医師と県職員を処分に投入しました。
それは国の防疫指針において処分は原則として「農家が行い、それを県が積極的に協力すること」が定められていたからです。建前は「農家が行い」ですが、現実には自分の家畜を手にかける者などない以上、宮崎県は指針に従って家保の獣医師と県職員を派遣しましたが、職員は家畜の扱いに馴れていないために手こずりました。
口蹄疫の防疫の原則はできれば即時、遅くとも3日以内に処分することですが、現実には感染が拡大するごとに処分にかかる日数は増えていきました。4月中の第8例目で既に1019頭が処分対象となり、発生から8日目の処分になっています。
NHKクローズアップ現代(6月7日放映)の中で宮崎県畜産課の岩崎充祐氏(家畜防疫対策監)はこう言います。
「早期に処分せねばならないのはわかっていたのだが、馴れていないために作業場でトラぶった」。
この番組が放映された6月7日時点で、他県からの応援まで含めて150名を超える家畜防疫員が処分現場に投入されていますから、この県家畜課の岩崎氏の証言は、むしろみずからの非力と失敗を素直に認めるようで気の毒になるほどです。
ただ、最大の悔いとして残るのは、処分の遅れそのものだけではなく、初発から続く発生に対して、いっさいの発生動向調査ができなかったことです。
通常あるべき防疫手順に従い、発生点の外周を血清学調査しておけば、潜伏期間中の豚(たとえば県試験場)などがあぶり出せて、この時点で摘発淘汰をかけられました。
県畜産試験場で発生したのが4月28日ですから、川南町に出た時点で抗体検査で洗っておけばよかった。たぶんその時点で陽性反応が出て、摘発淘汰が可能だったはずです。そしてこの県試での感染を阻止できていれば、豚への感染はくい止められ、その後の展開はまったく違っていたはずです。
4月段階で、処分にのみ気を取られて発生動向調査に家畜防疫員を投入できなかったのが、県の側の最大の失敗でした。結果論といえばそれまでですが、今後の防疫対策を考える時、殺処分に家畜防疫員を縛りつける愚は二度と犯してはなりません。
ただし、防疫指針や農水省令で縛られる県にはフリーハンドの意思決定などそもそもありえない以上、しかたがないとはいえますが。
そして国が全面的に乗り出した5月中旬以降も、この誤りは修正されるどころか、いっそう拡大していきました。国は、獣医師を殺処分に縛りつけたままの態勢で、ワクチン接種→殺処分という疑問がある戦略をとったのです。
このことが被災地の傷を致命的に深くし、しかも解決を長引かせました。これを私は「プレ・ワクチン期」と「ポスト・ワクチン期」を区別して総括すべきだと思っています。
「プレ・ワクチン期」は県が既定の防疫指針を墨守したことによる判断ミスの累積と不運による産物だったとすれば、「ポスト・ワクチン期」は農水省、すなわち国家そのものによるによる確信的な戦略によるものだからです。
国が介入した段階で、まずワクチン接種ありき、家畜防疫員による殺処分ありきではなく、いったん獣医師を殺処分の場から解放して、発生動向調査という防疫の原点に戻るべきでした。
しかし、5月中旬に宮崎県に入城した(という表現をしたくなりますが)山田さんは、ワクチンをやりたくてうずうずしているわけですから、今後ワクチン接種した代償で膨大に生み出されるであろう殺処分作業要員に獣医師はやはり必須な存在だったのです。
かくして、本来は初動でなされるべき血清学的発生動向調査はこの宮崎県の悲劇が終幕を迎える今になって、清浄性確認という名目でなされるという倒錯したことになりました。
私が考える宮崎口蹄疫事件の最大の誤謬はここにあります。
■写真 北浦湖岸の揚水用風車。
« 宮崎口蹄疫事件 その95 後先が逆になった血清学的発生動向調査 | トップページ | 宮崎口蹄疫事件 その97 ほんとうに宮崎県外で口蹄疫が発生していないのか? »
「口蹄疫問題」カテゴリの記事
- 石が流れ、葉が沈む 東国原氏当選、山田正彦氏落選の明暗について(2012.12.20)
- 家伝法の改革は必要だが、東国原氏に言われたくはない(2012.04.22)
- ありがとう、宮崎!(2012.04.21)
- 「事故終息」とは冷温停止のことではなく、住民が安心して戻ることだ(2012.03.02)
- 早川由紀夫氏、大学から訓戒処分を受ける。 学問の名に隠れての言論テロは許されない(2011.12.10)
コメント
« 宮崎口蹄疫事件 その95 後先が逆になった血清学的発生動向調査 | トップページ | 宮崎口蹄疫事件 その97 ほんとうに宮崎県外で口蹄疫が発生していないのか? »
もともと、家保なんて、そんな程度です。自分が、種オス豚を、導入したとき、いろいろな検査項目がありましたが、1番困ったのが、オーエスキー病が、陰性であるかと言う点ぢした。家保には、未決の家畜のシールド小屋が、ありません。(輸出入検疫所はありますが)
だから、仕入れた県の家保で、9時から5時までの間で、予約を取り、検査のため家保に持ち込み、採血し、2週間、隔離施設をその県内民間施設で、貸してもらい(普通は有料だし、まわりに、動物が居ない場所指定では、借りられるところは少ない)後日、陰性検査証明書をもらい、トラックで、自分の県へもちこみ、こちらの県の家保さんにまた採血してもらい。また、自分のところ以外で、2週間隔離飼育できる場所を探して、隔離。その2週間後、こちらの家保の陰性証明をもらい、この2通を、保健所へ持ち込み、化製場法、飼養許可施設検査日を決め、2人の検査人で、設備を検査後、初導入。。。化製場届出頭数の変更届けをだす。で、終わり。
このとき、気がついたのは、全国の養豚場がやっていれば、ここからどうやるの?なんて、獣医のささやきなど、聞こえる訳ないのですが、
帰り際、こういうことは、初めてですか、今年入った獣医さんですか?ってお尋ねしたら、3人全員、今回のは、初めての経験でした、勉強になります。。。
と、言うはなし。中身は、たいしたことないけど、牛舎、豚舎、鶏舎がなく、独立している小屋で、朝晩、水とえさをやれる施設なんて、そう簡単にみつかりません。
本来は、家保の敷地内に、検査結果待ちのクリーンな小屋があるべきなのに。。。
で、何で、こんなこと家保がするの?って聞かれたから、法律にかいてあるから、やるんだよ!って言ったら、しばらく、返事がなかったのです。
清浄県へ家畜を持ち込むには、本当は、かなり複雑な書類が居るのですが、家保さん。勉強不足。。。。
投稿: りぼん。 | 2010年9月 9日 (木) 08時00分
いや、今日は天国のように涼しい!「りぼん」さんの地方はいかがですか?
さて、家保も県ごとの性格があるのでしょうか。わが茨城県の家保は非常に優秀ですよ。トリインフルの時も発生動向調査の絨毯爆撃を徹底してやっていました。
情報の提供も的確かつ迅速ですし、どんな技術的な質問にもフランクに回答してくれます。獣医師もベテラン揃いですから、私は県家保を非常に信頼しています。
ちなみに宮崎応援組の中では茨城県は3位の多さで、まんべんなくすべての支所から派遣されました。
投稿: 管理人 | 2010年9月 9日 (木) 10時24分
今回の台風は各地に被害を及ぼしながら通過して行きました。例年だと北海道の周辺を通過して行くのですが、先般の台風と今回の台風も南(東北・北陸)通過で、直接的な被害が無く一安心しています。(台風ではなく、秋雨前線の被害は道北で発生しましたが)
北海道十勝も今週末から来週にかけて、飼料用トウモロコシの収穫(サイレージ調整)が開始されます。
昨年は天候不順で実入りが悪かったのですが、今年は良質なサイレージが出来るものと期待している所です。
猛暑も今日は落ち着き、平年並みの気温となりました。すがすがしく、空は抜けるように真青で、正に北海道らしい天気です。
「家保」ですが、北海道(特に十勝)は家畜頭数も多い事もあり、本当に優秀な職員がたくさんいますし、私たちも頼りにしています。
以前BSE発生を受けての「全頭検査」体制を整備した関係で、職員数も大幅に増えた事もあり、相談も気軽にできますし、問い合わせにも親切に対応してくれています。
普段は定期的なヨーネ、ブルセラ、結核検査時しか、農家との接触はありませんが、我々とは様々な機会に接触していますので、それこそフランクに話も出来る状況です。
これが、イザッ!!となった時どのくらい機能するかは分かりませんが、頼りになる存在である事には違いありません。
投稿: 北海道 | 2010年9月 9日 (木) 11時36分
またまた、記事の内容と少しズレてしまいますが・・・濱田様申し訳ないです。
15~16年前、大分県の黒毛和種農家にお邪魔した時の事ですが、トラックから「オガ粉」をランニングシャツ姿で、降ろしている人を見ました。
農家の方に伺うと「家保」の職員です・・・・との事。
たまたま我々を案内してくれた方も家保の職員だったのですが、「オガ粉降ろしをしているのは私の上司です・・(笑)」と言ってました。
また、家畜共進会の事務局も家保が主催するとの事も聞きました。(現在はどうなっているかは分かりません)
北海度では考えられない事でしたが、家保と農家の結びつきの強さを実感して帰ってきましたが、都道府県によって対応が違うのでしょうね。
投稿: 北海道 | 2010年9月 9日 (木) 13時18分
基本的に、わが名古屋では、市内で家畜業が認められていない。よって、家畜を飼うには、環境省の動物愛護法の販売届、展示届で、申請をして、小屋だけは、化製場法の家畜飼育の構造基準にあった設備を作ることになります。家畜だけど、ペット?扱いですね。
僕は、どちらの扱いでもよいのですが、さすが、口蹄疫などの病気は、怖いです。
でも、家保の名簿には、畜産肉牛、酪農牛、種牛、畜産豚、種豚しか、規格と記録がない=おいてきぼりなんですよ~。220万都市だから、田んぼも畑もほとんどなくて、ビルとマンションだらけですから。。
家保さん、優秀な人、同じ愛知でも、知多牛、三河牛の多い三河地区に行ってしまい、尾張地区は、経験年数が浅いか、定年まじかって言う感じでしょうか??
ただ、毎年1回は、現場視察はみえますが。。
投稿: りぼん。 | 2010年9月 9日 (木) 23時30分