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2010年9月 5日 (日)

宮崎口蹄疫事件 その92  ワクチン接種・殺処分方針の前と後は分けて考えたい

003

結果論でものを言いたくないといつも思っています。戦争でも災害でも、終わった後になって、あの時こうすべきであったと言うことは簡単にできます。

実際には、火中にいればいただけ、つまり当事者であればあるほど、そう簡単に言えはしません。私はこの宮崎県の大畜産災害にあって、当事者ではなく、しかしかぎりなく当事者に寄り添っていこうと決めた者です。

恥ずかしい話ですが私自身、この4月20日から8月27日までの嵐の期間に多くの間違った判断をして、間違ったことを言っています。ですから、「こうすりゃよかったんのに」などと軽々に言うことはできないでいます。

たとえば、そうですね、ある方の昨日のコメントにもありましたが、「当時の時点で、血清動向調査をしたくとも、獣医師が殺処分に動員されていてできるはずもなかった」という趣旨のご意見は、この事件の複雑さの本質を言い当てています。

事象というのは、ひとつながりに絡みあって出来ています。線型モデルのように、単純に原因⇒結果がつながっていません。ひとつの決定に含まれているほんの少しの誤りが、次の時点で思わない齟齬を産み、それが次の原因として次から次へと混乱を増幅させてしまい、更にそこから複数の原因が新たに生まれていっそう混乱していきます。いわゆる複雑系モデルですね。

この宮崎県の口蹄疫事件を振り返ると、初めのミスはわずかでした。初動が遅れた。言葉にすればたった5字に過ぎません。それも疫学チームが言うように、3月中の感染が複数例あったとしても、その時点では誰も判りはしませんでした。今だから言えるだけです。

第一、口蹄疫だと疑い始めたのは4月の中旬近くになって、複数の症例が出始めてからです。これを「遅い」というのは簡単です。ならば、あんたがやってみればいい、と私は思います。

伝染病は寝耳に水のようにやってきます。ある日、突然に、さて今日は夕飯に何を食おうか、などとノンキに思っている時に限ってやってきます。その時にいつも正常な判断ができるなら、たいしたものです。

口蹄疫の初期症状は、初発の近隣に複数頭の同様の症状を呈している家畜がいれば違いますが、たんなる舌に出来た解りにくい水疱ていどで、ドンピシャに口蹄疫と言い当てたらミラクルってもんです。

また当時は簡易診断キットもなく(今もありませんが)、症例も単独でした。とうぜん、獣医師は往診を続けながら、もう少し様子を診ることくらいしかできないはずです。

念のためにとした血清学的検査は、なんと検査した県の家保が時もあろうに4月の配転時期と重なってしまいました。これも結果を知っていればとてつもない爆弾だと知っていますから、「ああ、なんたること!」と頭を掻きむしるわけですが、当時は「よくわからないから血清検査してみようか」ていどの気分だったはずです。

で、4月配転期のどさくさで検査が半月ほど遅れてしまいました。お国は県に責任をなすりつけようとこのことを鬼の首でも獲ったように大騒ぎしましたが、平時の県家保でも、半月くらい平気でかかりますから(←うちは疫学モニター農場なので知ってます)、これも大失敗というほどではありません。

そこで万が一ということもあるから動物衛生研に検体を送致したら、これがとんでもない爆弾だと判明したわけです。送られたほうもビックリしたでしょうが、送った県家保はもっとたまげたでしょうね。

つまり、ほんとうに失敗ともいえないミスが重なり、折り悪く官庁が最も安定していない4月初めの配転時期に重なり、初動が20日間(たぶん実際は30日間以上)遅れてしまったわけです。

次のミスがあるとすれば、殺処分が遅れた、ということになりますが、これも処分に家保の獣医師を使うという防疫指針の「常識」に従ったまでで、これを疑う人など全国でも圧倒的少数派だったはずです。私が知る限り、私のブログでよく名の出る鹿児島大学の岡本嘉六教授くらいしかいませんでした。

あ、そうだった、今でも「獣医師のみ殺処分できる資格を持つ」という常識は崩れていなかったんだった。だから、他県で口蹄疫が出たら、また同じように家保の獣医師が殺処分切り込み隊をやるハメになるわけです。

だから、コメントにありましたように血清学的発生動向調査したくとも、肝心要のヒトがいやしません。処分は訓練さえ受ければ、まぁ誰でも出来ますが、血清学的調査は防疫専門家にしかできないし、判定もできません。

ただでさえ宮崎県は家保が少ない県なのに、それをフル動員して殺処分に投入してまったわけですから、血清学的発生動向調査などできる余裕などあるわけはありません。

血清学的検査をやりたくなくてしなかったのではなく、したくとも出来なかったのです。

この問題の本質は、NHKがクローズアップ現代で言っているような「県職員が家畜の処分に馴れていなかった」なんてことに問題があるわけではなく、どこに感染が飛び火しているのか、どこから感染が侵入しているのか、どこを遮断したらいいのかという発生動向調査ができなくなってしまったことにあります。

ですから、感染侵入ルートも、感染拡大ルートもまったく目星がつかないままにこの直後に来る感染大爆発を迎えねばならなかったわけです。

農水省の中間報告書などにもある国道10号線が感染ハブとなったことにしても、折からのGWで遮断はおろか、消毒ポイントを設けることすら難しい状況でした。

これも国道の管轄とかややっこしいことはあるにせよ、感染ルート遮断の前提となる発生動向調査自体がないわけですから、まぁなるようにしかならなかった事がいちばん悪い時期と重なったというわけです。

おまけに埋却地がなかったことも響いたわけですが、これだって全国都道府県で平時からそれを用意している奇特な県があったら教えてほしいほどです。

そんなこんなのわずかのミスが重なって、4月下旬にやがて川南町のあろうことか県の畜産試験場の豚でドカン!といくわけです。あとはご承知のように、火薬庫に火が入ったようなパンデミックにいきなり突入です。

そして、その時にお国から国の現地対策本部長として送られて来たのが、誰あろう山田副大臣(当時)だったわけで、彼はもう既にワクチン接種⇒殺処分方針を持っていました。

山田さんが東国原さんに初めの顔合わせの時にささやいたという「オレはワクチン打つために宮崎に来たんだ」という台詞は、宮崎口蹄疫事件をまったくことなった次元へと導く不吉な号令だったのです。

彼が来たことにより、宮崎県におけるワクチン接種されて殺処分された家畜の運命は決定されたのでした。

そしてこのワクチン接種・殺処分方針はそれまでの宮崎県の犯した小失敗や不運とはまったく異なり、意図的であり、あらかじめ準備されつくされていたのです。

私は、今回の宮崎県口蹄疫事件は、たしかに事象としては連続していて、ひとつの事件ですが、ワクチン接種前と後で、完全に切り離して別個に検証されるべきであると考えます。

言い換えるならば、国家が選択した血清学的発生動向調査をせずに、いきなりワクチン接種して殺処分をしていくという大方針が妥当であったのかどうかを、今改めて見つめ直す必要があるのではないかと思うのです。

■ 写真 ひまわりと夏空。夏の定番、お約束の画題です。しかし暑い。残暑ではなく、残酷暑とはよく言ったもんですね。

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口蹄疫問題」カテゴリの記事

コメント

http://www1.ezbbs.net/cgi/bbs?id=mentyan&dd=17&p=1
名前:ブゥトン 日付:03月31日(水) 20時22分
中国で口蹄疫が発生

http://ribon-boo.a-thera.jp/archives/201004-1.html

豚にも口蹄疫症状=県施設の486頭処分へ-宮崎
4月27日19時0分配信 時事通信

すでに、4月28日には、緊急事態に入り、アンティックビルコンSで、消毒に突入してます。

われわれ、ペット豚飼いでも、認識が、ある程度あったのに、それに比べれば、国、県は、なさけないですし、スワブ検体やデジタル写真くらい、素人でも、採れます。便から、ウイルスが発見できるかもしれませんし、検体採取するのは、家畜保有者で、採取後、獣医系由で、検査センターに送るのは、普通のことだと思います。

実際、写真を獣医さんにメールで送って、指示を仰ぐことも、普通にありますし。。

獣医さんしか、疫学データが採れないというのも、違うような。。。体温くらいは、普段、測定しますし。

触れば、いつもより、体温が高いって、わかりますよ。
豚さん、ぶたんぽですから、いつも、結構、暖かいですが。。
 

殺処分について、少し気になることが、パンデミックの状態の時に、自衛隊等を投入しての銃火器を使用した処分云々の話が、出る事です。
10年前も処分について色々問題があったらしく、その後の法改正で、家畜防疫員が自ら処分、処理ができるように改正されているみたいです。
http://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/old_gaiyo/150/1504109.htm

管理人様は、処分の方法論については述べられていませんが、動物愛護の観点、畜主、近隣住民の感情を考えると、やはり、薬殺、ガス殺、電殺の方法が良いのではないでしょうか?ガスや電気なら、獣医師が関与しなくても、十分可能かと思いますが、薬殺には、静脈注射と言う行為がありますので、出来れば獣医師の関与が有る方が良いかと思います。注射行為は、動物がしっかり沈静され、保定がしっかりしていれば、何度か経験すれば、そんなに難しいことではないと思います。豚でも、もし沈静をしっかりかける事ができるなら、薬殺が可能なのではないかと思います。
要は、沈静をしっかりすること、保定をしっかりすることであり、その為には、十分な鎮静剤が必要になるのですが、今回の口蹄疫騒動では、薬剤の不足(予算の関係?)で、十分な沈静が掛かっていなかった個体
が存在し、そのような個体に静注を行うのは、かなりの技術が必要かと推察します。そう考えると、今回、獣医師が殺処分に大量導入されたのは、仕方ない部分もあったのではと思うのですが。
ただ、確かに、宮崎県には、家保は3か所しかありませんが、獣医師が少ない訳ではないと思います。産業動物獣医師の数では、他府県より多いのではと思うのですが?ただ、それらの獣医師が、実際に診療に従事しているため、殺処分の現場に赴けば、以後の感染拡大へのリスクから、処分に従事できなかったのではないでしょうか?おそらくそれらの獣医師が処分に携われば、処分の時間は、かなり早くなったと考えます。
それらの力を有効に活用できる体制作りも今後必要なのではないでしょうか?

りぼん。様のご指摘で、宮崎県の飼養頭数が、10年前と左程変化がない事が判りました。
という事は、今回も全頭サーベーランスをかけても良かったのではないでしょうか?10年前には出来て、
何故今回は出来ないのか?やはり、その点に対する答えは、何処にも無い気がしています。
OIEに申請する為のサーベーランスが行われるみたいですが、それがどのようなもので、どう行われるのか、非常に興味深いです。

薬殺には、静脈注射と言う行為がありますので、出来れば獣医師の関与が有る方が良いかと思います。注射行為は、動物がしっかり沈静され、保定がしっかりしていれば、何度か経験すれば、そんなに難しいことではないと思います。豚でも、もし沈静をしっかりかける事ができるなら、薬殺が可能なのではないかと思います。
>>>実際、集まった獣医さんは、ぺーパー獣医さんが、多くて、豚の保定や、牛用の三角保定機など、使い方も知らない獣医さんもおられました。

実際、自分も、獣医さんで、予防接種してもらいますが、獣医さんが、保定できなくて、診察室で、脱糞し、仕方ないので、僕が保定して、数秒で、終わりっていうのは、毎年の行事みたいですね。

AHTさんで、豚、牛が、保定できる人は、少ないでしょう。ただ、AHTさんが、臨床診断記録は、充分取れますよ。獣医さんの言葉を、書きとめるだけですので。。

なお、豚殺しは、首の頚動脈に、バポナを打てば、殺せます。

銃殺っていうほど、オーバーでなく、吹き矢麻酔から、麻酔銃、と殺銃など、動物専用のものもありますので、そういう事実を知ってか、知らずか、宮崎県警は、公務員人事に、引っかかるのは、駄目なんでしょう。公務員は、仕事しているように、見せながら、仕事しないのが、長生きのコツだそうですから。。

ちなみに、麻酔銃や吹き矢麻酔は、東京23区の北部に猿が出没したときは、都会であるのに、ちゃんと、使いました。

皮膚の黒い豚や牛は、静脈を見つけるのは、困難だと思います。
ベテラン獣医が。ホワイトペンのような皮膚に、マーカできるよう印をつけておいて、獣医の卵が、注射するとか。。刺して、負圧をかけ、血液が混ざったらOK。

犬、猫とは、静脈注射する足も違いますし、普段、殺すための注射は、していないでしょうし。。

だからと言って、だれひとり、獣医さんが、記録を取ったり、写真を撮ったり、検体採取したり出来なかったというのは、方便でしかありえません。

県外からも、たくさん獣医が手伝いに行きました。
宮崎の約45人より多いと思いますが。

なんかお役所仕事のダメなところが一気に噴き出して、災害拡大に繋がった感じですねえ。
年度始めに管轄の問題。それに去年からの与党慣れしてない政府や、対する県知事といった政治的なことまで絡むと複雑に成りすぎて、素早い動きもとれなかったのかと…

残念無念の気持ちが増します。


りぼん。様
非常に博識で経験豊富な方とお見受けしました。大変勉強になっております。
ただ、あまりに専門的というか方法論に話が向きすぎていて、ブログ主様のエントリからの解離が見受けられるのは、いかがなものかと思います。

麻酔銃や吹き矢は結局、麻酔するだけですし、と殺銃がどれほどの台数あるのでしょうか?また、と殺銃は、と場で牛が身動き出来ない状態でしか使用が難しくありませんか?致死に至るかも少し不安あります。と場では、と殺銃使用後に脳髄の破壊をしていますし。
正直、動物がしっかり鎮静がかかっていれば、多少の技量の下手さはカバー出来ると思います。
殺処分と言っても、ただ殺せば良い訳ではありません。
そこには、色々な感情が混じるはずです。畜主にとって家族同然と思う家畜を、銃で撃ち殺されるのはどんな気分でしょう?動物を生かすのも獣医師の仕事ですが、やむなくその命を奪わなくてはならない時には、いかに苦痛なく死をもたらすかも、また獣医師の仕事です。獣医師になったものは、解剖の授業で、生きた牛や豚を自分たちの手で殺して、解剖した経験が、皆あるはずです。それが自分たちに課せられた使命であると知る為に。何度も書きますが、人手はあるのです。それも経験豊富な人材が。それをいかに有効利用するか。
今回の処分で一番問題であった部分の一つがそこであろうと考えます。

http://www.pref.tokushima.jp/files/00/01/24/61/news/3.rakutin.pdf

http://www.nlbc.go.jp/iwate/topics/081119-reproduction%20wakuba.htm

http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsvc/thesis/200904/006.pdf

http://jstore.jst.go.jp/cgi-bin/patent/advanced/pat/detail_pat.cgi?patid=7692&detail_id=13389

これら、きちんとした保定器具を使えば、麻酔なしでも、バポナ(ジクロルボス)は、打てますよ。

殺処分と言っても、ただ殺せば良い訳ではありません
>>>>アニマルウエルフェアを考慮し、どういう方法が、1番適していて、少ない獣医さんをカバー出来るかと言う課題は、10年前、議論されたのに、まったく、進歩が無かったのは、事実です。
この10年間、農水省は、何やってましたの?

いのしし狩のおじさん、獣医じゃないけど、獣医より、と殺も解体も上手ですよ。

ちゃんと、と殺器具には、それようの保定器具があります。暴れたら、人間が事故死します。

そういうものを、使って効率よく作業を進めるのも、国、県の仕事です。

後半、豚を埋却穴に、追い立て誘導して、ブルーシートで覆って、ガス殺したのは、効率の面でよかったかもしれません。

豚、牛用の麻酔マスクは、ほとんど、獣医さんの手作りだと思いますよ。

麻酔、鎮静って、結構難しいのです。まずは、体重量らないと。。手術の場合、麻酔ガスと同時に、酸素も送ってまして、酸素を閉めれば、動物は楽に死にます

歯医者の器具で、下記のようなものもあり、牛、豚用に開発すれば、注射のしすぎで、指が骨折なんて言う獣医さんも減ったと思いますが。。
http://www.ha-channel-88.com/tokusyuu/2-3.html


保定枠とかを使用しなくても、牛や豚の扱いになれた獣医師なら、静注は可能です。
麻酔は、産業動物の場合は、小動物ほど、厳格な体重測定などは必要としません。目視で概算体重を推定して投与量を決めれば良いですし、まして処分するのですから、少々多くなっても問題はありません。むしろ多いほうが、動物には苦痛なく処分できます。
私が言いたいのは、いかに苦痛なく処分できるかです。また、銃火器は、日本の事情を鑑みたら、やはり使用すべきではないと言うことです。
今回、沈静に使用されたセラクタールの量が制限された話を聞きました。また、パコマ自体も量が制限されていたとも聞きました。そのような事はいかに非常事態とはいえ、動物の福祉を考えたら、いかがなものかと言うことですし、管理人様が言われるように、家保職員である家畜防疫員が実際の処分を行うのでなく、
もっと取り扱いになれた、開業やNOSAI団体の獣医師が処分を担当したほうが、時間も効率も良かったと言うことです。それらのマンパワーを何故利用しようとしなかったのか?と言うことです。初期段階や、平時から、それらの関係が出来ていたら、もう少し様相が変わった可能性があるのでは?ということです。

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