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2010年10月

殺処分した夜のこと

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就農から5年ほどたった時の写真です。90年4月とありますね。いや、女房殿も若い。当時は完全な手作りの掘っ建て小屋で、2間×5間の10坪の独立鶏舎になっています。

現在の鶏舎はこの写真の鶏舎を築15年使って、屋根がさびて抜けるところで建て替えました。さすが、もう自分で作る気力がなくて、今の鶏舎群は大工さんにお願いしました。

当時飼っていたモモという犬です。すばらしく気立てが良くて賢い犬でした。なんと20歳まで生きました。まだ小犬の頃ですね。わずかですが出来上がったばかりの母家が見えます。

さて、こんな暢気に見えた春に、伝染病が襲来しました。

私は3回大きな伝染病と感染症を経験しています。最初がこのニューカッスル(ND)でした。これで私の農場は、壊滅的な打撃を受け、再建にほぼ1年間を要しました。私の養鶏哲学を根本から変えた経験です。

2回目はその10年後に来た私のグループのメンバーが出したサルモネラ(SE)でした。これは食べた幼女が入院するという事故を引き起こし、グループ全体に大きな打撃を与えました。

サルモネラという感染症に対抗するために徹底的な飼養衛生管理基準を作らねばなりませんでした。

そして3回目は、2005年に起きた茨城トリインフルエンザ(H5N2)事件でした。これは宮崎口蹄疫事件までは、戦後畜産史上最大の伝染病禍でした。

私はこの事件をきっかけにして、地域での防疫体制を考え始めました。以後、家保と協力して、飼養衛生基準の大幅な見直しを行って今に至ります。

では思い出すのも憂鬱な第1回目のニューカッスル病のことをお話しましょう。

当時、関東平野をひたひたと東に上がってきたニューカッスル(ND)という鶏病の魔王が、とうとう私たちのヨチヨチ歩きの農場に侵入したのです。NDはその感染力、死亡率の図抜けた高さで、世界中の養鶏家から恐怖の的になっている病気でした。

私が、おかしいと思った時には既に遅く、たちまち下の写真のように鶏たちはバタバタと死んでいきました。わずか1週間で約500羽にも登る鶏が死亡しました。

今でも悪夢に出る時があります。毎日、できたばかりの自分の鳥小屋には死亡した鶏が積み重なり、他のかろうじて生きている鶏もうつらつらするように生命の灯火を消そうとしています。いわゆる嗜眠症状です。

首がグルグルと旋回し、クキャンという奇声を発して緑色の糞便を出します。鶏舎の床はありえないような緑色に染まっていきました。

ND特有のすさまじい感染力は、瞬く間に私の鶏舎群を覆い尽くしました。全棟に拡大するまでにものの1週間とかかりませんでした。

独立棟は、部屋の間に2間の空間がありますし、飲み水も共有していないのですが、そのような予防措置はなんの役にもたちませんでした。

そしてこの私は消毒と石灰散布しか出来ないでいます。 彼女たちを見て、声をかけ、励まし、餌をビタミン水で練ったものを口に押し込むようにして与え、毛布でくるみ、しかし、まったく助からない。

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投薬も考えたのですが、診察に来た獣医師は、恐る恐る鶏舎内を見ると、もう手遅れだと言います。そして「早急に殺処分するしかない」と言い残して、逃げるように帰っていきました。

まず感染が確実に侵入した鶏舎の鶏を殺処分にしていきました。3日でわが農場の半数以上が処分されました。

次いで、侵入が未だ見えない棟には、ND不活化ワクチンを緊急接種しました。気も狂いそうな震える手で、一羽一羽のムネ肉に注入していくのです。

しかし、ほとんど抑制効果が現れず、なぎ倒されるようにして全棟にウイルスの侵入を許してしまいました。

もはや全羽殺処分しか感染拡大を止める方法はありません。

手のひらに包み込めるような、まるでうぶ毛の塊のような雛から育ててきた鶏の頸動脈に刃を入れて、そして力を入れて一気に搔き切る。吹き上がる血、私の手の中で「死にたくない」と大きくビクッビクッとあらがう断末魔の力の強さ、蹴爪を私の腕にたてて。

一羽殺すごとに合掌して黙祷しますが、なにを思っているのか私自身が分からない有様でした。私の命を奪って、手を合わせて自分だけ助かろうとするこの偽善者!この卑怯者!お前には永久の心の平安はない!という彼女たちの呪詛が頭の中にこだましました。

一日に数十羽を殺処分(なんという人間の勝手な言葉だ!)にし、石灰を撒いた穴に放り込む毎日が続きました。

夫婦の会話はめっきりと減り、食事も作る気になれません。暗くなった部屋で、いっそう自分たちが死んだほうが楽だなと私が言うと、いつもは気丈な彼女も黙って首を縦に振りました。

これが伝染病が襲来した農場の夜の風景です。

私は宮崎県の被災農家のことを思うたびに、この夜のことを思い出していました。

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ありがとうございました、そして、ありがとうございます

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昨日、わが農場の古い鶏を淘汰しました。だいたい生み出してから400日~450日でさようならをします。

通常の大手養鶏場では、生み出しから300日というところでしょうから、そうとうなオババ鶏になるまで飼っているわけです。

毎回のことですが、出さなければ、次が入らないのが道理なのですが、やはり移動コンテナに鶏を詰めていく作業は気が重いものです。彼女たちとは生れた時からの付き合いでしたからね。胸がふさがれるような気分です。

短い期間でしたが、彼女たちの生命力を開花させてきたという自負はあります。いや、むしろ短いが故に。彼女たちの命は重い。畑でホウレンソウを抜くのとはわけが違うのですから。

_editedそう思ってはならないと思っても、自分の手にぬぐっても取れない血が付いていると思う時があります。だから、私たちは自分の稼業を因果だと思い、だから優しい人も多いのです。

昨日淘汰の加工をお願いした廃鶏屋さんのSさんの優しさは底抜けです。もはやそこいらの坊主などの域ではありません。引き取りに行った老鶏が、手をかけられていないと気がつくと、その飼い主を本気で怒ります。

「お前などに鶏を飼う資格はない。やめてしまえ!この鶏たちが毎日、自分の食っている餌の半分をお前のために生んでいることを知らないのか!」、と。

淘汰前日に餌を無駄だからと思って切ってしまう者もいるのですが、それを知った彼は、その場で無言で引き上げてしまったそうです。これから死に行く者に、最後の餌もやれない者には、根本的に生きものと関わる何かが欠落しているのです。彼はそれをその男に言いたかったのでしょう。

昨日も、私がお願いする鶏の前胃が膨れていることをさりげなくチェックして、納得して持っていって頂きました。そして彼の最高の褒め言葉をもらいました。

「あんたのとこの鶏は幸せだったね」

Sさんの働き者で愛嬌よしの奥さんが、昨年癌の大病を患い、それを必死に支えている毎日が続くそうです。彼は奥さんを救うために、全財産を投げ打つ覚悟です。私は、農場から去っていくSさんのトラックに、小さく礼をして合掌しました。

ありがとうございました、そして、ありがとうございます。

_edited_2さて、去って行く鶏と 入れ換わるようにして、生れたばかりの雛が入ってきました。とうぶんの間は、子育てで神経が休まりません。

まだ、この時期はいいのですが、これからの冬の入雛(にゅうすうと読みます)は、コタツ2ツを入れ、更にヒヨコ電球という温熱ランプをつけています。

徐々に温度を下げていって、だいたい2~3週間で完全に廃温となるわけですが、急激に下げてもダメ、かといっていつまでも加温していると弱い雛になるという塩梅を見ながらの毎日となります。

入って一週間は、夜と早朝の見回りが欠かせません。特に夜の見回りは、懐中電灯を持ってブルブル震えながら行くわけですが、部屋の外で耳をそばだてて静かなら一安心です。というのは、寒いとピヨピヨと寒さを訴える雛の声が止まないからです。

生まれたての雛を冷やしてしまったり、濡れさせたりすれば、たちどころに一晩で数十羽があっけなく死ぬ場合もあります。

なにが鳥飼をしていて嫌な一瞬かといえば、この、自分自身の不注意による死です。哀しさと悔しさで自分の頭をボカボカ殴りたくなります。

温かく、お腹も一杯ハッピーに眠っている雛は、まるでつきたてのボタモチを並べたようにペターっと静かに眠っています。温度計もありますが、なにより雛の状態をよく見て観察することです。

これを見て、人も安心して眠れるというわけです。昔から、苗半作、雛半作といって、強い苗や雛が出来れば、後はうまくいきます。だから、この一週間は眠い。フワ~。

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低速回転養鶏法

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もう少し私の養鶏の話を続けます。

私の自然卵養鶏法は、「古い革袋に新しい酒を入れる」というものでした。

私は自分の農場が「5分の3経営」でいいと思っています。5分の3、つまり稼働率6割でわが農場は回っています。わが農場には鶏舎が5棟あります。私の同業者は、仮に5棟あれば目一杯産む鶏を入れようとします。私はそのうち3棟しか生産には使いません。

ちょっと算盤をはじいてみましょう。私の農場では、この1棟に収容できる限界を600羽~650羽としていますから、め一杯入れると約3千羽です。しかし現実には、私は3棟分しか産む鶏に使いません。約1800羽~2千羽といったところです。実に千羽強の差があります。我ながらゼイタクな使い方です。

これを収益に置き換えてみます。産卵率80%として、目一杯10割入れると2400個/1日が生まれます。一方、6割入れた場合1600個/1日です。800個/1日の差です。これを30円/1個で販売するとして、24,000円/1日、そして月で実に720,000円、年にするとなんと864万円もの収益の差があることが分かります。どひゃ~、こんなにあるのかぁ。計算すんじゃなかった(汗)。

Img_0022 気を取り直して、近代畜産は、施設を高速回転させて効率よく生産することを至上課題としました(←いきなり教師口調になる)ちょうど工場のベルトコンベアーを高速でぶんぶん回すのに似ていますね。

どんどんと家畜を入れて、がんがん出荷しようという考え方です。私のようにわずか6割の鶏舎しか使わず、のんびりとやっている低速回転農場など、現代畜産農家のいわば辺境だと思われてきました。

では、どうして私はこんな辺境農法をとっているのでしょうか?それは私の農場が「一貫」だからです。さてと、ここでまたひとつ専門用語が出てしまいました。説明をします。「一貫」とは、雛から最後の淘汰まで、文字通り「一貫」して自分の農場の責任で飼うことです。

なんだ、あたりまえじゃないかと思われるでしょうが、私の農場のような「一貫」は今やまったくの絶滅危惧種、レッドブック入りです。養鶏家は、外部の育成業者から産み出し寸前の120日齢(生まれてから120日め)の大きな鶏を入れて、ものの1カ月以内で産ませることになんの疑問を感じていません。

言ってみれば、苗を自分の農場で育てず、よそから買ってくるようなものです。こうすれば、仮に5棟あれば、全部に産む鶏を入れてしまえることになります。

残念ながら、今や平飼養鶏も含めて、大部分の養鶏農家はこのような方法で飼育しています。(私が属するグループは全員が一貫飼育です)生育技術を持たない養鶏家などざらです。

ついでに言えば、完全配合飼料を使った場合、餌もなにか知らないという知らない尽くしの人すらいる有り様です。これで鶏に愛情を持てるはずもないではありませんか。

では、なぜこのような「手抜き」をするのか?理由は、さきほど述べた経営的に施設稼働率を上げられるという事以外に、雛を育て上げるというのは神経がくたびれることだからです。

先日入った雛の様子を見に、今日も私は夜でも見回りを絶やしません。しっかりとした硬い羽根が生えるまでの1カ月間は寝不足の日が続きます。暴風雨や台風のときには、彼女たちを守るためにつきっきりで側にいます。

濡れた雛は、一羽一羽よく拭いてやってぬるいドライヤーで温め、自宅のコタツに入れたりもします。食欲がない弱った雛には餌を練って口に運んでやります。そしてうまく育った時のなんとも言えない充実感と爽快感、彼女たちへの愛情、これが鳥飼という職業の醍醐味なのです。Img_0003

このようなことを養鶏農家は忘れかかっています。企業養鶏はそもそも話の外です。彼女らを採卵マシーンとしか思っていません。農家が企業と張り合えるのは、そのきめの細かい愛情なのに、それを忘れかかっています。悲しい。

養鶏農家は高い雛を買い込み、淘汰をした後にすぐに鶏糞出しと消毒をし、そして数日以内にまた産み出し寸前の鶏を導入するという作業します。過酷な腰が痛む労働で、実際、養鶏農家の職業病は腰痛でなのです。

人は毎日鶏糞出しと消毒作業をし、腰を痛め、消毒農薬による肝臓障害などを起こしたりします。一方、産み出し寸前で入れた大雛は、新たな飼育環境に馴れないためにひ弱で、おまけに私の眼からみればバカ高い値段です。

これを次から次に入れていけば、年間の雛代だけで膨大なものになります。計算したことはありませんが、たぶん私のような一貫飼育の数倍ではきかないのではないでしょうか。

私の農場では5分3しか鶏舎を動かしていませんし、育成期間中は1棟5部屋のうちの一部しか使わず、大部分は遊休期間としています。

鶏舎を休ませるのが、最大の予防防疫なのです。

このように、近代畜産では、確かに入ってくる売り上げは一見大きくなったようにみえても、消毒代、薬剤費、人件費、施設費などがかさんで、農家は心身ともよれよれにくたびれ果て、腰痛を患い、そこで一回どこかで事故が起きようものなら、倒産しかねません。これではヒヨコ屋、薬屋、資材屋を儲けさせるために農家が身を粉にしているようなものです。

実際、茨城トリインフル事件の時には収入が途絶えたために、破産の瀬戸際まで行った農家が数件出ました。

そう考えると、私のようなグータラが5分の3回転などと言ってやっている辺境農法と、結局はさほどの収益的な差はなくなりました。そして人と家畜の幸福という価値を考えると、高速で突き進むベルトコンベアーから降りるのが幸せではないかとふと思うのです。

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たまには私の養鶏法の話など

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今回「ピッグ・ジャーナル」誌を読んで感じたことは、養豚家さんたちの立場が、非常に明確だということです。明確すぎるほどで、逆に言えば、養豚家さんたちは自分の世界以外を知らないのではないか、と思えるほどです。

それは例えば、養豚家さんが今回の口蹄疫報道で一番腹が立ったのは、「家族同然の家畜を殺された」という報道だと言ったことに現れています。氏は、あくまで豚は「経済動物」であって、動物愛護で言うなというわけです。そしてこのような殺処分は悲惨という言い方に、感情的だという言い方をぶつけています。

正直私は鼻白みました。それはあくまでも多頭飼育をしている養豚業の話ではないのでしょうか。氏と同じ川南町にも、数頭しか和牛を飼っていない農家も多くあるはずで、その人たちはまた別な家畜との接し方をしています。

末吉先生もとりなすように、そのような和牛農家の「尋常ではない可愛がり方」を説明し、いきなり殺処分ををドンと持ち出してもまったく理解されませんよ、と言っていました。

これに絡んで、少し私自身の話をすることにします。

私は養鶏が生業ですが、同じ養鶏業といってもわずか3千羽しか飼育していない小規模というのもおこがましい零細農家です。飼育方法は、いわゆる自然卵養鶏法という地べたで放し飼いにする方法です。

これは昭和30年代以前にいったん消滅した方法でしたが、私たちの世代が再度見直して25年ほど前から復興したものです。復活させるにあたって、私は古い農文協の本や、先駆者である中島正先生の本も参考にしましたが、実際には私自身の体験の中から一から作ったというところです。

この自然卵養鶏法は、まず大量飼育-大量販売-大量消費という近代養鶏の前提そのものを疑うところから始めます。一般に大規模養鶏場では、一農場100万羽単位で設計されており、それを数人の従業員が全自動で操業しています。

私の農場は夫婦のふたりで、わずか3千羽の採卵鶏と600羽の雛を育てています。比較するほうが愚かというか、まったく別次元だと考えたほうがいいでしょう。あちらも同業者だとは思ってもいないでしょうしね(笑)。

大規模養鶏は多くが、ウインドレスという無窓鶏舎です。のっぺりと窓がなく、外からは臭気さえなければ(ちなみにわが農場は無臭が自慢)、養鶏場だと気がつかないほどです。舎内は密閉されて、気温と湿度管理がされており、要するに卵製造工場だと思ったほうがいいでしょう。

すべてがフルオートで、餌やり、採卵、包装まで一貫して人間が手を触れることはありません。このような養鶏場の従業員に、鶏は生き物であるとか、経済動物以外の側面もあるのだ、などと言っても虚しいだけでしょう。

一方私たちの農場は、機械に金をかけないだけ、手間をかけています。餌やりは鶏の体調とご機嫌を知る最良のコミュニケーションの場ですし、採卵も腰にきますが、一個一個の卵重をチェックできるいい機会です。

今年の夏の酷暑では、さすがにうちの女性従業員たちのニワトリもバテ気味でしたが、その時に餌を工夫したり、与える時間を早朝にしてみたり、やる量を細かく見ながら餌やりをします。

このようなことは自動給餌機にはまねできないはずで、わずかの匙かげんで、ニワトリと会話をしています。

また餌やりの時だけ、鶏舎内に立ち入りますが、そのときに具合の悪いニワトリがいないか、いじめられている者がいないか、たべられなくなっている者がいないか、糞に異常がないか、などを観察しています。

餌はかつて凝りまくりました。お茶の屑や撥ね出しの小麦や玄米、そして私のグループの有機野菜の屑などをやるようにしています。これはその季節季節、鶏の体調によって微妙に変化をしていきます。

私は耄碌してヨイヨイになるまで、この餌やりは自分の仕事だと思っています。

卵も一個一個自分の手で拾うわけですが、そのときにザラ玉があるとか、変形が出る、あるいは色が白っぽくなるなどの変化を確認しながら拾っていきます。それを観ることで、その棟のニワトリの体調を知ることができます。

管理上一番気をつけているのは、舎内が湿気を帯びないことです。舎内が湿気るとてきめんに呼吸器系の病気が発生します。また、新鮮な空気がいくつも通うように気を配っています。

この換気と採光は私たちのような飼い方をする上で最も重要で、ただ地べたに放し飼いにすればいいというものではありません。劣悪な環境で放し飼いにすると、地べたからアンモニアや硫化硫黄がガスとして発生して、鶏を苦しめます。臭い養鶏場の原因は、換気不良によるアンモニアガスの悪臭です。

飼育密度もたいへんに重要です。私の農場では、坪10羽以下、平均8羽ていどで飼っています。100万羽飼育の養鶏場は、たぶん私の農場の数十倍の密度だと思われます。病気がでないほうが不思議です。どうやっているんでしょうかね。

飼育密度を上げるといっけん経済効率が高まるような錯覚をしますが、自然とはよくしたもので、飼育密度を上げると糞尿が乾くより先に堆積してしまうので、たちまち地表は湿りけを帯び、ガスを発生させ、病気を多発するようになります。

病気が多発すれば、当然産卵は低下し、死亡鶏も増え、経済はガタガタになるという具合に自然から手厳しいお叱りを食うわけです。

雛は一貫して初生といって餌付けからわが農場で育てられます。いわゆる一貫飼育です。これは今ではほとんど見られなくなった飼育方法で、だいたいの養鶏農家は、初生から産み出し寸前までを余所の業者に委託して、すぐに生む鶏だけで農場を回転させています。

私はこの方法を好きではありません。確かに鶏舎の回転は高まるのですが、結局余所で飼ってもらったトリはひ弱で、私の農場のスケスケの通風、冬にも遮蔽しないようなシビアな環境には適しません。

余所で育てられたやつはモヤシっ子なんですな。うちの農場の鶏は、家保の獣医がびっくりするほど羽根の下の羽毛がびっしりと生え、股の筋肉はたくましく盛り上がっています。まぁ毎日走ったり飛んだりしていますからね。

クチバシもダテではなく、カボチャなど舎内に入れようものなら、あっという間に薄皮一枚まで喰ってしまいます。野菜クズなどほぼ5分で完食。さすがごぼうは食わないなぁ。

こんな話をしだすときりがないのですが、こんな飼い方をしている私は、単なる「経済動物」だなんて思ったことは一度もありませんよ。確かにペットではなく、経済動物には違いありませんが、同じ生き物として遇しているつもりです。

そんな悠長な飼い方で食えるのかって、大丈夫喰っています。金持ちにはなれませんが、25年間この方法で生活してきました。うちの卵は安くありませんから。

私から見れば経済動物であり、「家族」です。ですからワクチンを打って殺処分をするなどというのは、私の感性が許しません。

あくまでワクチンは生かすためのものです。殺すために打つという考えには、理屈ではなく私の神経が耐えられません。

今日は理屈以前の話をしました。

 

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現地生産者の感情の内側まで知りたい  doll24様のコメントにお答えして

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doll24様からお叱りのコメントを頂戴しました。

> 月刊WILL11月号の東知事の手記を数回に渡り、検証された濱田さんは、「あの言い訳と、肝心なことがまったく書かれていない東国原手記よりはるかに面白いことは確かです」と言い放ちながら今度の「ピッグジャーナル」は大絶賛でしょうか?
私の読解力不足なのでしょうか?読み手が振り回されているような気がします。

別の方からもメールで、あなたはいつから今まで批判してきたワクチン・全殺処分の推進派を持ち上げるようになったのか、というお叱りも頂いております。

コメントが短いのでよく趣旨がつかめませんが、いい機会ですので、私の気持ちを書いておこうと思います。

私は物事の両面から見たいのです。そして内側から見たいのです。是々非々で見たいのです。そのためには現地の生の声に耳を傾ける必要があります。当事者の声を聞かねばなりません。その意味でこの座談会は、私に大きな視野の拡がりを与えてくれました。

さて私の立場は、ワクチン・全殺処分方針に疑問をもつことからまったく動いていません。それはもう少しこの「ピッグジャーナル」誌の座談会を読み進めれば、いやでもそのことに触れる予定になっています。

私はその中で、日本養豚協会やJASV、ひいては政府-農水省とも違った、私の対抗軸を立てるつもりでした。この座談会は時系列で進んでいますから、しばらく待っていただくしかありません。

なんというのでしょうか、いわゆる路線対立というのは抽象的にやってはいけないと思います。
ワクチン・全殺処分を是か否かを抽象的に論じ合ってみてもしかたがない。なぜなら、現実に修羅場をくぐり抜けて来た宮崎の養豚家や現地獣医師にはそんなことを言っても、「そんなことわかりきっているだろう!」のひとことでおしまいだからです。

今、まだリングワクチンの効果は客観的に確定されていませんし、あれだけの屍の山を築く必要があったのかなどと、まだ誰にも判っていないのです。処分された家畜の検査記録もほとんど出ないようですし゛座談会の中で全殺処分賛成の岡本嘉六先生すらリングワクチン接種は効果がよく分からない、と言っているくらいですから。

今回の事件で、いわば確信的なワクチン・全殺処分推進派は、日本養豚協会とJASV、疾病小委員会の寺門氏、そして山田大臣、農水動物衛生課など少数でした。それは疾病小委員会が真っ二つに割れたのを見れば判ります。

県外組はともかくとして、養豚関係者が県の防疫方針の主導権を握ったからこそ、この方針が成功したとも言えます。現地に賛成する者がひとりもいなかったら、今回の方針は実施することさえ不可能だったでしょう。

また、現地の処分の混乱を救ったのはJASVでした。JASVの一団の民間獣医師が5月4日に現地に投入されなければ、もう手もつけられない大惨事になっていたことは火を見るより明らかです。

その意味で、彼らは今回の殊勲者でした。それは正当に評価されるべきです。

doll24様、私は別に「ピッグ.ジャーナル」誌を「大絶賛」しているのではなく、このJASVの緊急救援活動を絶賛しているのです。お間違いないように。

さて、ここなんです。この養豚関係者の感情をしっかり県外者も理解しないとなにも議論は進みません。

養豚関係者はワクチン・全殺方針が正しかったと思って当然という立場にありました。行政からは見放され、情報も届かず、続々と感染拡大をしていくのを目の当たりにすれば、当然すぎることです。状況は、すさまじいまでの急迫性がありました。

この彼らのひりひりする感覚と憤りを共有しないで、路線談義をしてもしかたがありません。

その時に、果たして私が言うようなある種理想主義的にNSP抗体検査することなど、誰が頭に浮かびますか?毎日殺処分をして、くたくたの獣医師や被災農家には無理です。私は茨城トリインフルで、被災農家の現場の「空気」はいやってほど知っていますから。

仮にそれがマーカーワクチンであることを知っても、NSP抗体検査⇒摘発淘汰=殺処分の極小化、という防疫図式は、現場から見れば高見の方針であるかもしれないのです。それは百も承知です。

戦時中のことを、平和な時代の人間がこうもできたろう、ああもできたろうと暢気に言うようななものです。

ですから私が思うのは、その「高見の方針」が百分の一でも可能だったかという検証です。それがわかってくれば、
その事件当時無理であったとしても、今後に活かせるのではないでしょうか。

また、宮崎県行政に今までお前は同情的だったじゃないか、という声もありますが、それと客観的な初動対応の失敗の検証はまったく別次元のことです。

宮崎県で起きたことは、他の府県においてもまったく同様の経過を辿ったことでしょう。私は辛くもそれを防ぎ得るのは、鹿児島と北海道ていどだと認識していますから。かつて巨大トリインフル災害を経験し、その経験者が家保の現場幹部に残っているわが茨城県でもかなり難しいでしょう。

それは牛と豚というまったく性格の異なる経済動物が、同時並行で感染し、絡み合うようにして感染拡大をしたからです。これから見ればトリインフルなど単純なものです。トリだけマークしておけばいいわけですから。

この牛と豚の違いをさらに複雑にさせたのは、JA系統と民間の商系の生産者の立場の違いでした。さらにそれに、JAと一体化した農政をする県行政がからみ、その上に日本養豚協会の方針の直訴を受けた国と対立します。 しかしこの複雑な迷宮のような構造は、日本のどこにでもあるあたりまえの風景です。だから、問題をひとつひとつ切り分けておかないとダメなのです。

doll24様に「経済連に多くの畜産農家が関わっていることがおかしいのでしょうか」と言われましても、そんなことは私は初めから問題にしていませんから答えようがありません。

ただ、どこの県でもあるあたりまえの農業構造であり、それが防疫作戦を遂行する上で大きな「溝」となったということを指摘しているだけです。ウイルスには「溝」はなく、平等に侵入するのですから。

宮崎県の非JA系や民間獣医師に対する対応には明らかに問題があります。私は座談会を読んで、そう思ったと感想を言っただけです。そのどこが「不謹慎」なのか、首をひねるばかりです。

この「溝」の狭間に落とされた商系養豚家の県やJAへの恨みつらみが、今回の事件で彼らに主導権を取らせた原動力でした。

こんな「感情」は、検証委員会の総括などにはぜったいに出てこないものです。しかし、それこそが現実を動かしたマグマだったのです。「不謹慎」と思おうとどうしようと、それがこの宮崎の事態を動かした一方の力だったのです。

1週間も確定から遅れて通報してくるような県行政を、信じろと言うほうが無理でしょう。口蹄疫防疫訓練に声もかけこない県行政を信じろと言うのは、どだい無理な相談でしょう。たぶんこの時には確実にJA系には伝達が素早くなされていたはずでしょうしね。

だから私は、民間商系養豚農家の「こなくそ!」と言う反骨の気持ちには思わず拍手をしました。そしてその彼らが先頭に立ってJASVとコンタクトを取り、救援を呼び寄せ、山田大臣に直訴したという心理には共感しました。

だからと言って、JA系の畜産農家が悪い,牛農家が悪いなどと言っているわけでは絶対にありませんので、念のため。

逆に、こちらを評価したり、共感したりすると、もう一方の側を否定したように思うdoll24様の感じ方のほうが、なにかおかしいのではないかと思いますが。現実はそんなに単純じゃないと思いますが、いかがてでしょうか。

私は、この宮崎口蹄疫事件でリーダーシップを取った集団である日本養豚協会、JASV、そして宮崎養豚生産者協議会が、なにを考え、なにに怒り、どのような方針を立てて、状況を牽引していったのかを、感情の内側まで入ってもっと知りたいと考えています。

私は今後、彼らの真情を充分に知った上で、彼らの推進したワクチン・全殺処分方針の是非を検討していきたいと思っています。

一方、東国原手記ですが、途中で打ち切りました。なぜかと言われれば、はっきり言ってつまらなかったからです。

こちらが聞きたいことは、見事にはぐらかされています。

たとえば初動の4月段階での県行政内部での判断や動き、政府への情報がどのようになされたのか、伝達された国への情報はいかなるものであったのか、いかなる判断で国に早期に救援要請をしなかったのか、処分の遅れはどうして出たのか、などにはいっさい触れられることなく、国民の感情に訴えるような表現にはややうんざりしました。

あの東国原手記は、今後自分が中央政界に出るために、政治家としての自分経歴が傷つかないための政治的な手記にすぎません。これは氏にとっても損ではないでしょうか。

この両者を比較して、私が現地座談会の方を高く評価するのはおかしいでしょうか?


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宮崎口蹄疫事件その134  現地識者座談会を読む第5回 宮崎県の現地の「壁」とは

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「ピッグ・ジャーナル」誌9月号の岡本嘉六鹿児島大学教授、宮崎大学の末吉益雄准教授、地元獣医師S氏、地元の養豚家のK氏による対談を読んでいます

前回読み進むうちに、本来国も県の隔てなく進められるべき口蹄疫防疫が、意思の疎通も統一された方針もないままに、感染急増に振り回されるようにして「本部」機能が喪失されていく様を見てきました。

「本部」から見放された処分現場では殺処分の技術さえ確立されておらず、電殺機も少ない上にしょっちゅう故障するといったていたらくでした。一日に数千頭の勢いで急増する患畜に対して、わずか1日30頭しか処分できない現場さえあったのです。

農場には、ウイルスを排出し続ける患畜が待機の順番待ちをする長い列を作り、それがまたいっそう感染拡大する悪循環の原因となる最悪の様相を呈していました。

そしてこの泥沼のような状況を救出したのは、県でもなく、ましてや国でもなく、民間の開業獣医師で組織されたJASV(日本養豚開業獣医師協会)でした。

日本養豚協会とJASVは、4月の発生と同時に独自の対策本部を立ち上げ、早期にワクチン・全処分殺をするように要請し続けてきました。この2団体は、このままの展開が続けば、必ず宮崎県全域は言うに及ばず、県外にまで口蹄疫ウイルスが持ち出されることを警戒していました。

そのような事態となれば、日本の畜産業そのものが崩壊していくことになります。かの台湾口蹄疫のように。

この危機意識からJASVは、早くも連休中の5月4日に民間獣医師の現地派遣を開始します。そして1~2週間のローテーション体制で、現地に多くの獣医師を常駐させることになります。

5月中旬以降は、山田大臣(当時現地対策本部長)の個人的アドバイザーとして1名のJASVの医師を同行させ、それ以外にも相談窓口として数名の医師を県庁に置く体制をとりました。

このように民間の養豚関係2団体が突出して見えるのも、裏を返せば県や国の既存の衛生指導体制がまったく機能していなかったからにほかなりません。

そのあたりのことをS医師はこう言います。

「宮崎県の獣医師会も第1発見者の具体的な臨床症例が伝えられただけで、それ以外のことについてはほぼなんの連絡も指示もありませんでした」。

岡本教授は家畜畜産衛生指導協会が、宮崎県で廃止されてしまったことを指摘します。

「衛生指導協会がなくなったことで、獣医師の指揮系統を調整する組織がなくなってしまった。そして衛指協は普段から伝染病、疾病に関する情報を、団体を通じて畜産農家に出していました。(発生の情報や感染状況)情報は、以前なら衛指協を通じて発信されていたはずでした」。

この衛生指導協会が、鹿児島、北海道、京都など5府県以外、事業仕分けでなくなってしまったことを岡本先生は批判しています。

S医師は衛生指導協会自体には懐疑的なようですが、やはり「非常事態における、組織の役割はなんなのか考えさせられた」と語っています。

「法定伝染病が出た時の情報伝達や指揮系統がまったく見えなかった。その中でJASVにはほんとうに助けられました」。

いわば民間組織が、県や国の機能を代行するようにして、現地で闘っていたことが改めて判ります。

また、養豚家のK氏は、今年1月に10年目の節目ということで、実は口蹄疫防疫訓練をやっていたことを明かします。ただし、その内容は行政だけの県-市町村レベルの職員だけのもので、生産者には声もかけられず、終わった後に知った、と語っています。

いうまでもなく、このような形式だけの口蹄疫防疫訓練は屁のつっぱりにもなりませんでした。

また、S医師は、本来一体となってされねばならない防疫にたくさんの「壁」があることを指摘します。

「行政の意識としては、牛が第1、豚は二の次。畜産農家ともなれば、(JA)系統が第一、(民間)商系は二の次というのが少なくとも宮崎では通常です」。

このような目に見えない「差別」は確かにあります。私の家業の養鶏など、豚のまた下で最下位ですから。しかし、現実に口蹄疫が起きてしまえば、牛も豚もないわけで、牛の感染は豚に移行しない」という誤った知識と共に、この宮崎の事件を複雑にしています。

トリインフルエンザ゙も豚と共有する感染症だと判ってきています。現実の感染症はいっそう垣根を超えて来るのに対して、防ぐ人間の側は旧態依然たることが判ります。

続けてS医師は獣医師間のことにも触れます。

「獣医師についても家保と共済の獣医師がいて、その後に民間獣医師が存在するよです。(今年1月に行われた口蹄疫)演習についてもおそらくは家保やJA関係者の中だけで行われ、私たち(民間)獣医師には伝わってきていません」。

K氏も言います。

「そもそも宮崎県の畜産の大部分が経済連に依存している状態です。表が県で、裏が経済連というほどガッチリむすびついた関係です。県家畜改良事業団の種雄牛問題もそうですが、県と経済連、JAの利益が民間の生産者より優先されたということにほかなりません」。

よく理解できます。わが茨城県の家保は非常に公平であり、いかなる「壁」もありませんが、それは私の地域でのJA組織率が3分の1と異常に低く、多くの民間出荷団体の競合構造になっているからです。

JAが圧倒的な地域では宮崎県と同様な声を聞くことがたびたびあります。平飼卵にしても、有機農産物にしても、JAがやっていないからという理由だけで、廃業に追い込まれた地域が少なからずあります。

K氏はこう怒ります。

「県内に600戸ほどある養豚農家の中で、JA系統は150戸ほどです。県や町は何事につけてもJAに話を持っていけば、それで大丈夫だと思っています。平等性に欠けるという意識すらありません。なにか指導すべきことがあっても、JAに通達すれば全部の農家に伝わると思っています。補償金の話にしても、うるさく言わなければ出てこない」。

K氏の県への不信は続きます。

「県民に向かって言っていることと、県組織がやっていることが違うことばかりの県農林水産部自体、もういらないと私は思ったことがあります。もう国の直轄でいいと言ったこともあります。身びいきと責任転嫁だけ繰り返すなかで、それくらい生産者から信頼をなくしてしまっています」。

「これから復興に向けて一緒にがんばっていこうというような姿勢がぜんぜん見られない。そのようななか、意識を変えなければならないのは、県なのか生産者なのか、考えてほしいところです」。

もう私から付け加えるべき言葉さえありません。このようなJA系統と民間商系との違い、あるいは、家保と民間獣医師の違いは短い時間で出来上がったものではありません。

いわばその地域の畜産、いや農業そのものの構造の問題です。私自身は、いわばJAや行政から見れば、在野の野良犬のような存在でした。有機農業推進法がなければ、県行政は私たちを認識さえしなかっただろうと思います。

私は、かつて県の農水課長から面と向かって、「味噌っかすのような存在」とまで言われて、さすがこわばった経験があります。

このような県行政のJAにだけ伝わればいい、JAだけ保護すればいいという意識構造が、いったんこのような危急の場合、いかなる対応となるのかは想像に難くありません。

私はこの座談会を読んで、日本養豚協会やJASVの人たちの歯ぎしりに似た声を知りました。そして彼らの反骨精神が、いち早く現地に獣医師の支援を送り込み、山田大臣に直訴のようにして声をぶつけた原動力であることが、よく理解できるようになりました。

このような見えない「壁」あるいは「溝」を超えて防疫体制を再建せねば、また必ず失敗するでしょう。人は「壁」を作っても、ウイルスは壁を持たないからです。それが宮崎県口蹄疫事件のもうひとつの苦い教訓でした。

次回も続けます。

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宮崎口蹄疫事件 その133 宮崎県は7例目を初発の可能性があるとした! 現地識者座談会を読む第4回 本部の麻痺

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「日本農業新聞」(10/20)によれば、「農水省と宮崎県は19日に口蹄疫検証対策会議を開き、国と県が別々に進めてきた口蹄疫の防疫措置の検証結果について意見交換した」そうです。

ここで意外なことが浮上してきました。「6例目の水牛農家が口蹄疫に最初に感染した農家だとする国の見解に対して、同県は7例目の企業経営の大規模農場が初発だったとする可能性を指摘するアンケート結果があるとして、さらに検証する考えを示した」そうです。

ほぉ~ですな。県はアンケート結果によるとしていますが、6例目の水牛ではなく、7例目のA牧場が初発であると考え始めましたか。このアンケートがなんなのかよく判りませんが、現地被災地での畜産農家を対象とするものだと思われます。

6例目を初発として否定したということは、渡航記録などを調査したということなのでしょうか。それとも単なるアンケート結果を言ってみただけなのでしょうか。

A牧場は、これまでも届け出の4日間もの遅れ、えびの市への家畜車両の移動による感染拡大など、モラルを疑われるような行動をたびたび指摘され続けてきました。また、牧場の対応も、経営者が東京に行ってしまったきりで、顧問弁護士のみが対応し続けています。

このA牧場が感染ハブになったことは疑いようのないことで、今回「初発の可能性」までもが指摘されるに至っては、さらに県の検証調査の結果を知りたいところです。

さて、「ピッグ・ジャーナル」誌9月号の岡本嘉六鹿児島大学教授、宮崎大学の末吉益雄准教授、S獣医師、地元の養豚家K氏による対談を読んでいます

私は現場主義です。長年農場で生きているせいか、今回も、少しでも現場に近い畜産家や獣医師の声を聞きたいと願っていました。防疫専門家にしても、東京よりは宮崎の現場の研究者たちの意見を聞きたいと思っていました。

それはこの事件を外面からではなく、内側から見る視点があるからです。この対談に登場するK氏は被災農家です。非常に厳重な防疫体制をS獣医師と協力して作ってきましたが、残念ながら、今回はそれすら5月16日に破られてしまったそうです。

また、宮崎養豚生産者協議会の中心的メンバーで、この大災害に宮崎県の養豚農家を一致団結して立ち向かう役割をされました。現在、従業員を再雇用し、再開に向けて奮闘されているそうです。ほんとうに頭が下がります。がんばって下さい。心から応援します。

では、テキストを読み進めましょう。今回の初動で、「本部」(行政の体制)がどのような担当の分掌になっていたのかがわかってきました。S獣医師は言います。

「担当部署はいくつか作られていましたが、埋却地の担当は町が中心になっており、あとは県が発生農場の疫学調査や殺処分農場の選定、段取り等を担当し、国は対策本部や殺処分現場でのバイオ・セキュリティを主に担当していました」。

これによれば、当初県は市町村に埋却地探しをさせていたことがわかります。県の役割というのはイコール家畜保健衛生所の防疫員の任務ですから、殺処分に関してに限定されていたようです。

初動において国は、完全な補助的役割にとどまり、現場農場でのバイオ・セキュリティ、つまりは消毒の徹底の確認などをしていたものと思われます。

そしてこの国-県-市町村のそれぞれの対策本部が、うまく有機的に連動していたのかが心配になります。あ、そうそう、ご承知だとは思いますが、「口蹄疫現地対策本部」はややっこしいことには三種類あります。いや、政府対策本部まで入れれば4ツあります。

つまり国と県と市町村がそれぞれ現地対策本部を持っていて、それ以外に首相が本部長の政府対策本部があるというわけです。これらが緊急時に、どこが主導権を握って、情報の集中と共有をしながら、防疫戦術の意思一致を計れたのかが問われています。

それに対してS医師が言います。

「川南町では県と国の対策本部が別の部屋で並んでいました。機能分担しているのか、どかが主導権を握っているのかが解りにくく、殺処分の現場で働いている者としては、現状の問題点を本部に伝えたいのでどこに働きかけていいのかわかりませんでした」。

S獣医師は、殺処分の現場で奮闘していたわけですが、その過程でさまざまな問題に直面していました。それを相談する「本部」がどこかわからないのでは困ります。

S医師は続けます。

「初動がうまくいかず、感染拡大を招いてパンクしてしまった理由に、豚の場合は「どのように殺処分をすればいいのかという手法が確立していなかったことがあげられます」。

やはりそうでしたか。殺処分の現場で県職員などが大型家畜の扱いができずに混乱したという話は聞きましたが、豚においてもそもそも「殺処分のやり方」の技術手法が確立されていなかったことが判りました。

埋却地以前に、このような「殺処分のやり方」そのものをめぐって現場の混乱があったのです。しかもこれに的確な指示を出すべき「本部」がパンク寸前でした。

K氏はこう言います。

「10例目(県試)まではなんとか機能していたようなのですが、その後には、動いていたのは動いてことはいたのでしょうが、大規模農場(*A牧場を指すと思われます)が感染してしまって、殺処分と埋却地の確保が間にあわず、仕事がパンクしてしまった、そこからは責任転嫁ばかりでした」。

大規模農場の感染⇒大量の殺処分⇒埋却地の絶対的不足⇒現場の殺処分のパンク⇒本部の機能のパンク⇒各級「本部」の責任のなすり合い、ということのようだったようです。

S医師はこう実情を明かします。

「私が5月4日に参加した母豚1300頭の農場では殺処分終了までに7日間かかりました。一刻を争う事態であるのに、作業は処分した家畜の埋却が日没までに終わりにするということで、それに合わせてまだ日が高い時間帯でも殺処分のほうは終了ということになってしまいました」。

このようなひとつの作業部署と別のそれを調整すべき「本部」が、すでに機能マヒしてしまていたわけです。

S医師は殺処分の遅れについての現場からの報告を続けます。

「土地があっても埋められない農場も徐々に増えていき、その結果、殺処分頭数よりも発生頭数が増えていきました。また、器材や手法が整備されていない現場もあり、豚の殺処分初日に30頭しか処分できなかった農場もあったと聞いています」。

「当初の豚の殺処分では電殺機を使っていて、30分くらいで故障して作業がすべてストップしてしまったり、電殺機が2台くらいしかないのに壊れやすいという問題もあったようです」。

一日にわずか30頭では千頭を超える農場ではと考えると、気が遠くなる思いです。現場ではいかに深刻な器材と人員の不足、そして処分方法の混乱があったのかがよく判ります。

結局、この惨状を解決したのは国でも県の「本部」でもなく、民間の獣医師団体JASV(日本養豚開業獣医師協会)であったようです。
JASVhttp://www.e-jasv.com/

S医師はこう言います。

「5月4日にJASVを通して全国から民間獣医師が集まってくれて、NOSAIチームとJASVチームとで母豚の薬殺による殺処分を担当するようになり、母豚の殺処分のスピード゙が大幅に早まりました」。

JASVの民間獣医師たちの果たした役割の大きさは賞賛に値します。彼らの献身的な活動がいなければ、この泥沼のような混乱から抜け出すことはできなかったでしょう。

S医師が言うように、「4月末まで家畜防疫員主体で殺処分しようとしたことが大きな問題」だと思われます。県の職員だけで殺処分をやろうとした結果、初動の処分の重大な遅れを招きました」。

民間の大型家畜の扱いに習熟している開業獣医師や、NOSAI獣医師と日頃から緊急時の動員の取り決め、防疫訓練をしておけば、このようなことにならなかったのではないか、と思われます。

また末吉先生は、殺処分と埋設忘却地とのタイミング゙のことを指摘します。

「せめて5月の連休前の段階で殺処分がスムーズにいっていたら、ここまで拡がらなかったのではないかと思います。しかし、ウイルスが増えるのを抑えるために殺処分を急ぎすぎると、埋却地確保が間に合わずに死体を放置することになり季節の暑い時期でもあって、融解などの事後変化が進んでしまう事例をありました」。

つまりは、こういうことではないでしょうか。口蹄疫の戦場で、各々の前線の兵士たちは勇敢に闘っていても、それを支えるべき兵站(ロジェスティク)や、指揮系統が麻痺していたのです。そもそも「本部」(司令部)が3ツもあるのでは、まともに指揮系統が機能していたとは思えません。

前線には弾が届かず、兵力も足りず、攻撃方法も定まらず、兵站は滞り、司令部は複数あって、麻痺した上に互いに内輪もめまで始める・・・これが5月連休前後の宮崎県の状況だったようです。

このような現場からの証言を聞くと、初期の口蹄疫との戦いの敗北は、負けるべくして負けたということのように思われます。

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宮崎口蹄疫事件 その132  現地識者座談会を読む第3回 県家畜試験場ではシャワーイン、シャワーアウトが励行されていなかった!

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いきなり涼しくなってきました。最高気温が20℃を超えない日もたびたびです。村はいっせいにジャガイモ、カボチャやサツマイモの収穫に入っていますが、秋作は、夏の異常高温と降雨不足で播種が大幅に遅れたために苦闘しています。

米は全国的にそのようですが、惨憺たる有り様で、乳白米や実割れが出て、1等米が大幅に減ったところに、米余りによる米価の低迷が響いて、往復パ゚ンチとなっています。こんな年がもう一年続くと、米作りから離れていく農家が急増することでしょう。

というわけで、あまり明るくない黄金の秋となってしまいました。

さて、岡本嘉六鹿児島大学教授、宮崎大学の末吉益雄准教授、S獣医師、地元養豚家のK氏による「ピッグ・ジャーナル」誌9月号での対談を読んでいます。

4月28日は、この宮崎口蹄疫を後に振り返る時に忘れられない日になってしまいました。、10例目の宮崎県畜産試験場川南支場で豚が発症したのです。

岡本先生は、こう述べています。

「県の畜産試験場の施設は常識的に、民間農場よりも防疫体制がしっかりしていると考えられています。そういった県の施設で豚の感染が発覚したということは、そのほかの民間の農場でもかなりの感染が拡がっていたと考えるのが自然ではないでしょうか」。

これは私も考えていたことでした。たぶん児湯地域において豚の感染は既にあり、それに管理者が気がつかなかっただけなのではないか、というのが私のかねがね持っていた疑問でした。

もしそうならば、、本来初動段階の疫学調査(サーベイランス)でそうとうなところまで摘発されていなければなりません。しかしそのような報告は、県からまったくないわけです。

となると、いきなり県家畜試験場でドンっといったことになります。ありえないとまでは言いませんが、そうとうに考えにくい。(*追記参照のこと)

おまけに県試の施設はSPF施設です。民間のSPF農場ですら、バイオ・セキュリティには細心の神経を使っています。郵便ポストすら農場のはるか手前に置いてあるくらいで、外来者がズカズカ入場することなどもってのほかです。

となると、そこに出入りする何者かがシャワーイン・シャワーアウトをせずに感染を持ち込んだ、ということになります。これが誰かですが、疫学報告書には記されていません。県の調査もしてはいると知事は言いますが、さっぱり結果は伝わってきません。

そのあたりに対して末吉先生はこう応えています。

「10例目の畜産試験場川南支場が豚での1例目ということになってはいますが、感染時期が一番最初なのかどうかは判っていません。実際、疫学調査を進める中で、抗体の上がり具合から見て、同じ地域で同じ時期に感染していたと思われる農場が複数あります」。

末吉先生は、国の疫学調査チームのメンバーでもあります。先生の調査でも、同地域、同時期に既に同じような抗体値が上がっていたなると、複数の豚に既に感染が侵入しており、なんらかの原因で、県試に持ち込まれた可能性が高まります。

続けて末吉先生はこう語ります。

「しかし、この4月下旬ではの時点では、感染の拡がりはまだ面ではなく点状でした。今回、明らかな空気感染の確証は得られておらず、(空気感染が)起きたとしてもごく限られた時期と、一部の地域内のことと考えられます」。

この空気感染の証拠はなかったというのが、中間報告書にもあります。末吉先生を疑うわけではありませんが、私にはにわかには信じがたい気がします。あれだけ狭い川南地域で、牛、豚が混在して大量に密集して飼われている状況で、ただ人の動きと共同施設の利用が原因で、あれだけの感染拡大をするものなのでしょうか。

ここが北海道ならば、いやわが村でもそうですが、農場間が最低数キロ離れているならば空気感染はない、というのも頷けます。しかし、この川南地域は全国有数の家畜密集地域でした。私には川南町の畜産団地化した密集構造が、今回の悲劇の原因のひとつであり、空気感染によるウイルス拡散があった、と思えてならないのです。

ところで、この県試への感染はどのようになされたのか、末吉先生は続けます。

「県試はSPF施設ということでシャワーイン・シャワーアウトを課してきましたが、従前、従業員(県職員)はシャワーイン・シャワーアウトをしていなかったそうです。これは一例で、そのようなバイオ・セキュリティのほころびからウイルス侵入したのではないでしょうか」。

続けて、地元養豚家のK氏も証言します。

「私が聞いているのは、畜産試験場では来客ても、出入りの業者には、最初の1、2回はシャワーを浴びるように厳しく言っても、何回か行って顔見知りになるといいよ、いいよと言われたそうです。電気工事や畜産機械関係の業者等、畜産を中心に回る業者も多い中で、そのようにしてウイルスが媒介された可能性はあると思います」。

う~んですね。職員も、出入りの業者もシャーワーイン・シャワーアウトをさぼっていたのか・・・。ありえない弛みぶりです。

このような噂は聞いていました。やはりそうだったのか、という感じです。私もある県(わが県ではない)の養鶏試験場にお邪魔したことがありますが、実にのどかというか、靴こそ専用ゴム長に履き替えたものの、車両などはまったく消毒されなかった記憶があります。

末吉先生も言うように、「ほかの民間農場でも電気、機械の修理業者の人や車両の出入りなどが防疫上適切でなかった可能性がある」事例が浮かび上がってきたそうです。

この県畜産試験場と同様のバイオ・セキュリティの弛緩が、後に全国を揺るがす種牛問題に発展する県畜産事業団でも起きた可能性が非常に高いことがわかってきました。

しかし、それにしても県の指導機関が感染爆発の引き金を引いてしまったことはシャレもなりません。しかも不可避ではなく、自らの弛みが原因とあっては、県は被災農家に対して幾重にも謝罪すべきでしょう。

■追記 コンタン様の情報提供で中間報告には以下のようにあるそうです。

12例目(豚1,473頭、4/29通報、4/30感染確認(PCR+))は、4/19に発症と推定されています。
この12例目が豚の初発、ということになります。これによれば、県畜試川南支場(10例目、4/26発症、4/28感染確認(PCR+))は、12例目より1週間遅れた発症した豚の2例目ということになります。


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宮崎口蹄疫事件 その131 現地識者座談会を読む第2回 国関係者の中には豚に感染することを知らなかった人までいた!

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前回から続けて、岡本嘉六鹿児島大学教授、宮崎大学の末吉益雄准教授、S獣医師、地元の養豚家のK氏による「ピッグ・ジャーナル」誌での対談を読んでいます。

対談は時系列を追っています。初動の遅れについて、末吉氏から、「10年前の成功に気が緩み、油断があった」という話に応えて、獣医師の志賀氏は検体送付の遅れをこう指摘します。

「今回は、発生から検体送付にまで時間がかかりすぎていた、ということが10年前と違ったわけです。1例目での異常が4月9日に通報されてから、4月19日に口蹄疫を疑った検体が送られて感染が確認されるまでにかなりの時間が経過しています」。

このあたりの状況をもう少し詳しく説明しましょう。
この第1例は、初発とされる第6例と同じ都農町内にあります。繁殖牛16頭を飼っている農家です。ここでI獣医師が牛の異常に気がつき、通報したのが4月9日です。

この2日前の7日に、I獣医師は「牛に熱があって餌を食べないのがいる」ということで往診しています。牛に発熱とわずかなよだれが見られました。治りかけの風邪と診断します。翌8日にも往診をしていますが変化なし。

そして9日に往診した際に、上唇の歯茎の根元に緒計3㍉ほどのちいさな潰瘍ひとつを発見します。「どきっとした」と医師は宮崎放送のインタビューで語っています。

そして直ちに家保に通報しました。家保はその日のうちに来訪し、検査をしてすべての蹄の裏まで検査しますが、潰瘍以外の異常がないということでその日は終わります。

そしてその牛は自然治癒してしまい、次の牛に発症したのが4月16日でした。2度目の家保の検査が翌17日に行われますが、「口蹄疫以外」のあらゆる感染症がシロ判定ということで、動物衛生研究所に検体送付することになります。

後に、この第1例の動き以前に、近隣の第6例の農場の水牛に異常が3月29日に出ており、実は3月中に10例以上の感染拡大があったことが判ります。

この4月9日から16日までの「空白の10日間」を志賀獣医師は問題視しています。

岡本教授はこう言います。
「この間、県はどれだけ危機感をもって調査したのかまったく伝わってこない。口蹄疫防疫指針には口蹄疫の疑いがある時、県は何をしなければならないのかが、はっきり書いてあります。そこに書いてあることをきちんとやったのでしょうか」。

「口蹄疫は第1級の伝染病ですから、発生した時点でそもそも非常事態です。ところが宮崎県が非常事態を出したのは5月18日のことでした」。

まさに岡本先生の怒り炸裂ですが、宮崎県が、口蹄疫ではないという楽観的な予見に支配されており、第1例の検査にしても口蹄疫の検査を優先すべきを、それをしていないという油断が致命傷となりました。

防疫指針をちゃんと実施したのか、という疑問が宮崎県に投げかけられています。これは、前回の生産者への口蹄疫発生が、実に確定後1週間後だったような危機管理意識の希薄さにもつながることです。

ただし私は、4月9日の家保の第1例の検査において、ひずめの裏まで検査をしており、わずかな流涎と発熱だけで、口蹄疫と判定できたかということに対しては微妙だと考えています。

なるほど、危機意識の希薄さは大いに批判されるべきでしょうが、発症した牛が単独であり複数頭でなかったことも合わせて考えた時、16日の複数頭の発生まで診断が遅れたということに対しては、私は同情的です。

ただし、16日に複数頭出た時点で、口蹄疫の疑いを持ってとうぜんであり、その時点での遺伝子検査の送付はいち早くすべきでした。19日に送付されるまで3日間の無駄をしています。

さて、次に座談会では豚への感染の軽視があげられています。S医師はこう述べます。

「豚への感染についてもそうなのですが、どういうわけか、口蹄疫は豚にはうつらないと信じている人までがいました。10年前の口蹄疫の株の実験で、牛と豚が同居感染実験で、発症した牛から同居した豚に感染が成立しなかったからということで、国も県も豚への感染の可能性を軽視していたからではないかと思います」。

地元養豚家のK氏も、「O型ウイルスは豚には感染しない」という人までいたと証言します。

O型ウイルスは台湾で猛威をふるっていたのに、このような根拠のない楽観が支配していたことがわかります。K氏はこう言います。

「危機感が薄かったと思います。それどころか国の関係者の中にはどうして豚に感染したのでしょう?と言う人までいました。豚に感染したら大量のウイルスが排泄されてしまう、あの地域で豚に感染したらどうなるのか、そして感染した後のことまで想定していた人がどれほどいたのかということになるだろうと思います」。

次回に、関係者が皆一様に恐れていた豚への感染拡大に論点が移っていきます。豚の感染侵入は、なんともっともバイオ・セキュリティが高くてとうぜんのはずの県家畜試験場でした。それについては、次回ということで、本日はここまでとします。

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宮崎口蹄疫事件その130 現地識者座談会を読む第1回 発生を生産者に県は伝えていなかった!

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「PIGジャーナル」9月号には、たいへんに面白い座談会が掲載されています。

なにせメンツがすごい。まずは私が口蹄疫防疫の師と仰いでいる岡本嘉六鹿児島大学教授、続いて、疫学チームのメンバーであり、堆肥残存ウイルス調査をされた地元宮崎大学准教授の末吉益雄先生、そして地元獣医師のS氏、同じく地元養豚家のK氏などによる豪華対談です。

まぁ一般誌ではぜったいに見られないでしょうね。私はよくテレビに出てくるような東京の学者よりは、現地に近い防疫研究者や獣医師の意見を聞きたいと、かねがね思っていました。それがこのような対論形式で聞けるとは嬉しい限りです。いや、一冊2000円の価値はありますよ(←しつこい)。

もう丸ごと買って下さいと言って終わりにしたいくらいですが、なかなか入手できる雑誌でもないので、少しずつご紹介しましょうか。

まぁ当然最初に出て来るのは、初動の致命的なミスでしょう。

冒頭で末吉先生が、そのことを手厳しく指摘されています。末吉先生は、牛と豚の密集地であったことが感染拡大の重要なポイントだとしながらも、こう述べられます。

「10年前の口蹄疫、そしてトリインフルエンザの発生で早期の封じ込めに成功したという自信が裏目に出たのではないかを反省せねばなりません」。

このことは単なる精神論ではなく、今回の初動がなぜあれほど遅れたのかを知る手がかりになります。

具体的に出てきたのは、地元養豚家のK氏のこの訴えです。

「私の農場に口蹄疫発生に関連した情報が県から入ってきたのは発生から1週間もたってのことでした」。

これは絶句です。K氏の農場は発生地ですから1週間と言えば、4月27日、まさにあの県畜産試験場の豚の発症という火薬庫が爆発する前日です。そこまで県からの連絡がないとは・・・。もはや唖然とします。

実はいちおう県も情報を流してはいるのです。
「なぜもっと速く生産者に知らせなかったのか」というK氏の問い質しに対して、県は「防災無線で知らせた」と答えたそうです。

二度絶句。わが農場にも、自慢じゃないが防災無線なんか設置していませんよ。村の中にスピーカーのエコーかかりまくりの防災放送がたまにありますが、ほとんど聴取不能です。 

わが茨城県では、即時に県家保からファックスで防疫情報が農場に伝達されます。つい先日も韓国でのトリインフル発生の情報が流れました。伝染病の発生と確定情報を流すなどは、県家保業務のイロハのイの字でしょう。その基本がおざなりにされていたことが判りました。話になりません。同じ畜産家として怒りすら感じます。

K氏も4月20日早朝に、養豚家の仲間からの電話で発生確定を知ります。しかし、それを知らなかった仲間には20日のうちに出荷をしてしまった人もいたそうです。

もし仮にこの生産者間の連絡網がなく、知らないままでいた人がいたとしたら(たぶん相当数いると思われます)、潜伏期間中の家畜を県外移動したことは大いにありえることです。

K氏はこう言います。
「そもそも非常事態にあたって、まず生産者に連絡しようといういう発想がなかったのだき思います。口蹄疫が発生しているから、移動制限をしろ、消毒をやってくれ、とまず生産者に連絡をしないと始まらないではないですか」。

いや、まったくそのとおりです。防災無線で流して事足りたと思うこと自体が、異常です。だいたい家保や県の家畜課の職員が手分けして電話すれば数時間もあれば済むことなのに、それさえもしていないわけです。

このような話を聞くと、宮崎県には口蹄疫のまっとうな緊急マニュアルが存在していないか、あるいは誰もそれを読んでいなかったのではないか、とさえ思えてきます。

そして末吉先生も移動制限がこの10年間で逆に甘くなっていることを指摘します。

「2000年当時は、1997年の台湾口蹄疫の事例もあり、移動制限20㎞、搬出制限50㎞で設定されました。しかし2000年7月に北海道に飛び火して以来、その後の各地のトリインフルエンザの発生では、移動制限10㎞、搬出制限20㎞に緩められてしまいました」。

今回の口蹄疫事件で、かねがね指摘されているのは早期の移動制限、搬出制限が甘かったことです。末吉先生は言います。

「口蹄疫本来の恐ろしさを考えると、経済的打撃は大きいですが、移動制限20㎞、搬出制限50㎞の防疫ラインがやはり必要なのではないでしょうか」。

10年間で緩められている移動制限と搬出制限、そして弛緩しきった危機管理体制が、この宮崎口蹄疫禍の背景にはあるようです。

S獣医師もこう言います。

「今回の口蹄疫では、重要なポイント、ポイントで楽観的な見方が郵政な状態で物事が決定れれていったように思います。私は当初から悲観的な見方をしていましたから、現実はそちらの方向にどんどん進んでいってしまいました」。

明日もまたこの座談会を読んでいきます。あの言い訳と、肝心なことがまったく書かれていない東国原手記よりはるかに面白いことは確かです。

■写真 青ゆずがたわわに実り始めました。もうすぐ黄色に色づきます。霜が降る前に収穫して、わが農場ではママレードやポン酢にします。青ゆずもゆず胡椒を数瓶つくります。

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宮崎口蹄疫事件 その129  赤松大臣は「主君押し込め」に合って失脚した?

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東国原知事は、養豚関係者にはえらく評判が悪く、もうほとんどアホバカ呼ばわりをされています。なぜ、そこまで言われるのか私は不思議でした。

この理由が判ったのは、「その121」で既報しましたが、日本養豚協会が5月8日に、長崎県で山田大臣(当時副大臣)に直訴に成功し、山田大臣が帰郷しての10日に議員会館で日本養豚協会と日本養豚開業獣医師協会(JASV)の両団体代表と面談して、養豚関係団体の要請どおり、ワクチン接種・全頭殺処分方針を決断してからのことです。

要するに、山田大臣と日本養豚協会の方針は初めから一緒、というより養豚協会が4月の初めから要請し続けていた方針が政府内部に持ち込まれた、と言ってもいいわけです。

そしてJASVからK獣医師が派遣されて、大臣(当時現地対策本部長)と県庁でアドバイザーという形で、共に活動することになります。一民間団体の獣医師が、「個人的」という名の下でも、現地対策本部長のブレーンとなるというのは異例の事態だと思います。

このあたりの状況は月刊「PIGジャーナル」誌5月号~10月号(アニマル・メディア社)に詳しい記事になっています。ちなみに岡本嘉六先生、末吉益雄先生、志賀明獣医師などそうそうたるメンバーの座談会などもあり、非常に参考になります。一冊2千円はちょっと高いけど、私、全冊買いました。亭主の小遣がなくなりましたぁ(涙)。

それはさておき、このような両者にとって、最大の障害は一義的に宮崎県の防疫の指揮権を持つ東国原知事でした。

解説するまでもないと思いますが、防疫は国からの法定受託事務です。したがって、国はその報告を聞き、省令に沿って監督することはできても、直接の指揮権限はありません。

ですから、あくまで県の管轄の家畜保健衛生所を指揮する権限を持つ県知事が第一義の権限者となります。

ところが県知事は、このワクチン・全殺処分に執拗に反対しました。

「そのまんま日記」7月17日にはこうあります。

5月18日、ワクチン接種を 山田大臣(当時まだ副大臣)に迫られた。「知事さん、このリングワクチンを地元に説得出来なければ、あんたのリーダーとしての資質は無いんだ。知事として失格だな」と低い声で言われた。

国の責任でやると言っておいて、地元や農家さん達への説得・同意等は地元首長達に押し付けるのだ。その高圧的な物言いにも到底納得が行かなかったし、貴方なんかに言われる筋合いは無いと思ったが、あの時、そんなことをとやかく言っている時間的余裕は無かった。(太字引用者)

この5月18日という日付は、山田大臣が国の現地対策本部長として宮崎県に乗り込んだ日付です。開口一番、山田大臣はキツイ一発をかましたわけですね。

自分で手を汚さずに、県知事にハッパをかけるだけなら猿にもできる、と知事は言いたかったようです。

この時点から、県知事の熾烈な条件闘争が始まります。この条件闘争を、岡本嘉六先生は「ゼニゲバ知事」と罵倒しておられます。先生、ちょっと言い過ぎだって・・・。

しかしこここでひとつ気にかかることがあります。果たして、山田さんは政府内部をとりまとめて、宮崎県に乗り込んだのでしょうか?

たぶん山田大臣の完全な独走であったと思われます。便宜的に大臣と書いていますが、当時は副大臣にしかすぎず、副大臣という役職は天皇の認証を経ずになれ、たいした権限もありません。

あくまでも政府対策本部長は鳩山首相であり、統括責任は農水大臣の赤松氏にあります。

この赤松大臣は当時、このようなことを言っています。

赤松広隆農相は5月18日の閣議後会見で、(中略)家畜伝染病予防法の改正や特別措置法の必要性については「今、とりたててやらなければいけないということはない」と否定的な考えを示し、「この方針で行こうと(17日に鳩山由紀夫首相と)下打ち合わせの話ができた」と明かした。
(5月18日毎日新聞・太字引用者)

この毎日新聞の記事によると、赤松大臣はワクチン接種・全殺処分を可能とする口蹄疫特別措置法に消極的、ないしは、反対の意向だったようです。そして赤松大臣と、本部長の鳩山首相も同じような考えをしていたと読めます。

これは農水省消費安全局とも異なった立場でした。

  農水省が検討している全頭処分は、感染が確認されている地点から一定の半径内が対象。県内全域など、一部で要望が出ている広域での全頭処分について農水相は「人の財産権を侵す話で、物理的にも無理がある」と述べ、否定的な見解を示した
(産経新聞(2010年5月18日)

上記の記事によれば、赤松大臣は農水省官僚の全殺処分の具申を、「財産権の侵害だ」と退けていたことが判ります。

赤松農水大臣の考えは、あくまでも既存の法律的枠組みで許された殺処分に限定していく考えだったようです。それは以下の記事にも現れています。

赤松農水相は一定地域内での全頭処分について「限定された地域で所有者の了解を得ながらなら、今の法律でもできる」と述べ、現行法の枠内で対応可能との認識を表明。家畜伝染病予防法の改正や特別措置法の制定は必要ないとの考えを示した。家畜伝染病予防法では、口蹄疫の陽性反応が出た家畜と、同じ農場内の家畜が殺処分の対象となる。
(同上・太字引用者)

つまり、当時既に養豚業界からの直訴で強い危機意識を持ち、ワクチン・全殺処分しかないと決意していた山田大臣にとって、その障害となったのは県知事以前に、彼の直接の上司である赤松農水大臣だったようです

同じく、赤松大臣を障害と思い始めていたのが、農水省消費・安全局です。

消費安全局の平尾局長は、山田氏が本部長を務める政府現地対策本部に、5月21日から派遣されています。

平尾局長は、実はたたき上げの防疫官僚ではありません。彼は1978年に佐賀大学農学部から農水省に入省しました。専攻は農業経営学です。たぶん防疫などかじったこともなかった人物です。

2009年7月に消費・安全局の局長というキイパーソンに就いています。

前職は総合食糧局次長でまったく防疫とは畑違いです。たぶん、単なる省内昇進ゲームでたまたまこのポストに就いただけでしょう。

未曾有の口蹄疫禍と「戦争」をする官僚側指揮官が、防疫とはまったく縁がない人物であったのは、なんともやり切れない気分になります。

それはさておき、消費・安全局は、この時点ですでにワクチン・全殺方針を持っていたはずです。これは動物衛生研究所ルートか、あるいは、疾病小委員会の寺門氏ルートからのアドバイスによるものだと思われます。

しかし、赤松大臣は首を縦に振らず、ペンディングのままに時間だけが推移していったという最悪の状況になっていました。あくまでも憶測の域を出ませんが、赤松大臣を4月28日にカリブ海に外遊させるという愚行を許したのも、農水官僚の秘かな失脚工作と見えなくもありません。

もちろん自己保存本能の塊の官僚が、赤松大臣に「行って下さい」と危ないことを勧めたわけではなく、大臣が「政治主導」で勝手に行くのを止めなかっただけにすぎませんが。いわば「止めない」という隠微なサボタージュでした。

こんな修羅場に行かせればどんなことになるのか、したたかな農水官僚には読めていて当然でした。

事実帰国後、赤松氏はこれにより国会で問責決議にかけられかねない所まで追い詰められ、鳩山首相の辞任に救われるようにして辞任しています。鳩山首相の辞任劇がなければ、首を取られていたでしょう。

もし農水官僚が農水大臣を不要不急の外遊に出しても大丈夫だ、と判断したのなら、それはスタッフたる官僚の大チョンボですが、官僚による「主君押し込め」だと考えるならば、説明がつきます。

ワクチン・殺処分を遂行するためには現行法の枠内ではできませんでした。もし大量殺処分をして、処分農家から裁判をおこされた場合、農水省に勝てる勝算はなかったはずです。可能とするには特別措置法を作る必要があり、それには、主君を替える必要があったのです。

農水官僚にとっての自らが考える防疫作戦を担う理想的な「次の主君」は山田副大臣でした。彼は五島で牛飼育の経験もあり、農政にも通じていました。そしてなにより悪玉になることを恐れない決断力がありました。

このようにして、舞台にはすべての役者が乗りました。山田大臣、平尾消費・安全局局長、そして寺門疾病小委員会委員長代理です。彼らが共通の「敵」と定めたのが、他ならぬ東国原知事だとしても、おかしくはないでしょう。

■写真 アカマンマが満開です。

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宮崎口蹄疫事件 その128 寺門氏の「壮大な実験」とは

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寺門誠致(のぶゆき)氏が、共立製薬というワクチン輸入業者の幹部社員(先端技術センター長)であることは昨日書きました。

寺門氏は、共立製薬に入社する前に、というか、天下る前にいた所は、家畜衛生試験場の場長でした。しかも時もあろうに2000年の宮崎県で起きた前回の口蹄疫事件の時期の場長です。http://niah.naro.affrc.go.jp/publication/kenpo/2001/108-6.pdf

この家畜衛生試験場とは、いうまでもなく現在の独立行政法人・動物衛生研究所です。動物衛生研とは、日本で唯一の口蹄疫を確定できる遺伝子検査施設を有し、公的な機関としても最大の口蹄疫研究組織です。

このようないわば官製口蹄疫研究のトップが、ワクチン輸入業者に天下ったという事実に驚かされます。

なぜ、天下った先がワクチン関連の製薬会社だったのかの理由は、下記の2005年疾病小委員会議事録に残されています。

寺門氏が委員を努めた平成15年の疾病小委員会の議事録を読んでみましょう。
http://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/eisei/pdf/151216_summary.pdf

食料・農業・農村政策審議会消費・安全分科会家畜衛生部会
 第1回牛豚等疾病小委員会 議事要旨
 日 時:平成15年12月16日

○事務局
ワクチンについては、考え方は変わっていないか。摘発・淘汰が基本というのは世界の趨
勢であることに変わりないか。
○福所委員
コード上、清浄化が遅れるという問題やキャリアとなる問題、発生後の調査における影響
などがあり、スタンピングアウトが基本という考え方は変わっていない。
○事務局
イギリスでの牛の処分風景が流れたとき、そこまでするのかという話しもあったようだ。
情緒的な意見なのかもしれないが。
○福所委員
動物愛護の面から見ればそういったこともあるのかもしれないが、経済活動をするうえで
処分はやむを得ない。将来的に感染防御が可能なワクチンが開発されれば別だが、現段階ではスタンピングアウト方式の考え方は変わらない。
寺門委員
大量処分しなければならない場合、リングワクチネーションなどやらなければ・・・ワクチン、処分の話は考えないと。

またこの議事の中で、「防疫指針を5年間で見直す」ということも述べられており、それが塩漬けになっていたことも判りました。

さて、この氏の議事録発言をみると、興味深いことを述べています。事務局、つまり消費安全局が、イギリスで殺処分には消極的な流れも出たと報告していることに対して、委員、特に寺門委員はにべもなく、「大量処分しなければならない場合、リングワクチネーションをしないとならない」という持論を述べています。

これで既に2005年当時から寺門氏は、2010年に宮崎県で取られたリングワクチネーション+全殺処分という考えを持っていたことがわかります。

この疾病小委員会の議事録の時代背景には、2001年の英国の口蹄疫大流行があります。発症した牛が2千頭以上見つかり、7百万頭以上の牛、羊を処分しました。これによる社会的損失は、実に160億㌦(1兆4千億円)にも登りました。

この時の英国政府の防疫方針は、口蹄疫が確認された農場の家畜は全殺処分とし、感染の可能性がある家畜も24時間以内に殺処分をかけ、また発生農場と隣接する感染拡大の可能性がある農場の家畜も全殺処分にするという、今の全殺処分モデルのベースとなったものでした。

今の日本の口蹄疫対策が、この英国の全殺処分をモデルにしていることは言うまでもありません。

この全殺処分方針は、当時の英国政府をも揺るがす社会的不安に発展する大きな非難を浴びることとなります。これを受けて、英国政府は、この全殺処分方針の見直しに入ります。

同年に英国政府は、「明らかに健康だと思われる牛に関しては、殺すか殺さないかは農家の決断に委ねる」としました。これが、消費安全局の言う「全殺処分に消極的な情緒的流れ」です。

実は、英国のこの全殺処分方針も、決定されるまで紆余曲折があったようです。1920年代に、あまりに殺処分が多すぎて、処分が間に合わない待機患畜が増え、待機している間に自然治癒してしまうケースを目の当たりにした農民から殺処分に対して疑問視する動きが出たのです。

そこで、英国政府は、全殺処分か、共生の道を探るかという投票をし、わずかの僅差で殺処分派が勝利したといういきさつがありました。

事実、1940年代まで口蹄疫に罹っても自然治癒するまで放置してきたようです。それが、この英国の全殺処分方針決定の影響で、他のヨーロッパ諸国もそれに追随した、ということのようです。

OIEの陸生動物規約も、この流れの中で作られたものです。

そして、薄氷の勝利の結果決まった全殺処分方針が現実にどのような結果をもたらすのかが明らかになったのが、この2001年の英国の大口蹄疫禍だったわけです。

これにより、ヨーロッパ諸国は、全殺処分方針の根本的な見直しに入りました。それは2002年のOIEcordの、「ワクチン接種後、清浄性確認された後に、6カ月間で清浄国ステータスに復帰できる」という規約改正があったことでも判ります。

昨日紹介した欧州家畜協会(ELA)やオランダ政府の方針転換も、同様な全殺処分方針の見直しの流れの中に位置づけられます。

このような欧州の新しい防疫方法を議事録では事務局、すなわち農水省消費・安全局は「情緒的」と簡単に斬ってみせます。なんという勉強不足なこと。

今回、実に不思議なのは現場の畜産関係者は致し方がないとして、防疫関係者や疫学者からまったくと言っていいほど、全殺処分方針に対しての疑問の声が起きなかったことです。

それは、学界を広く覆う、寺門氏にみられるような「ワクチン接種した後に全殺処分する」という固陋な思想が骨の髄まで染みついていたことがあるでしょう。

今回、宮崎県の出来事は、「壮大な実験」という言い方が一部でされているそうです。

「実験」とやらで、貴重な家畜を殺された方はたまったものではありませんが、もし「実験」というのなら、何の実験テーマの下に、いかなる仮説を立て、どのような手段を取った結果、いかなる結論が導き出されたのか、を明らかにせねばなりません。

今回の「壮大な実験」のテーマは、リングワクチネーションによりウイルス排出を抑制して、ワクチン接種後に大量殺処分をする、というものです。

寺門氏は、2000年の口蹄疫時の動物衛生研(当時家畜衛生試験場)のトップとして、そして2005年からの疾病小委員会の委員として、また今回の事実上の疾病小委員会の座長として、防疫方針の疫学方面の最高責任者でした。

その氏が、ワクチン輸入業者の共立製薬に天下り、NSPフリーワクチン(*マーカーワクチンを以後このように表記することにします)のヨーロッパにおける新たな技術的進歩にまったく無知であったとは信じがたいことです。

ならば寺門氏は、宮崎県で使用されたワクチンがNSPフリーワクチンだと知りながら、またNSPフリーワクチンを用いた新たな防疫方法を知りながら、今回の疾病小委員会をリードしていたことになります。それは氏の頭の中に、「殺すためのワクチン」しかなかったからです。

これが寺門氏がいう、「疾病小委員会ではワクチン接種した後に家畜を残す議論はされていない」背景です。

氏は5年かけて、宮崎県でようやく持論だった「壮大な実験」を試すチャンスにめぐり合ったわけです。それが宮崎県にとって幸いだったか、不幸なことだったかはわかりませんが。

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宮崎口蹄疫事件 その127  寺門疾病小委員会代表代理はワクチン輸入元社員であった?!     付録 ELA緊急提言全文

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6月7日の欧州畜産協会(ELA・European livestock Association)の農水省農水省動物衛生課川島室長宛の文書全文掲載します。これはELAのサイトのトップに掲載してあり、ELAとして、日本での事態を重く受け止めていることが伺えます。
http://www.ela-europe.org/

詳細な分析は次回以降にいたしますが、ELAはこの農水省へのこの緊急提言文書で、「殺すためのワクチン接種から、生かすためのワクチンへ」と提言しています。

そしてELAは、日本でとられているワクチンの使用方法が明らかな誤りだと厳しく指摘しており、「イギリスの失敗を繰り返すべきではない」と言っています。しかし、日本はイギリスの轍を踏んでしまいました。

このELA緊急提言にある「殺すワクチンから、生かすワクチンへ」という言葉は、山内一也東大名誉教授が自らの予防衛生協会の講座の中で使われている表現です。

私はこの新しいワクチン接種による防疫方法、つまりマーカーワクチンによる防疫方法の概念を、終結宣言が出た後に知ります。いや、正確には、7月23日の「朝日新聞」記事が最初でした。

当時の私は、民間種牛問題が終結してしまった後であり、いまさら何をご託を並べて。象牙の塔の住民は困る・・・という気分に覆われており、山内先生の趣旨を理解することなく、恥ずかしい話ですがブログ記事において一蹴してしまいました。不明を恥じます。

ところが、山内先生のこの提言は、既に民間種牛問題が生じる以前に出されており、農水省はそれを読んでいないはずがなかったのです。なぜか、まったく顧みられることはありませんでした。

朝日新聞もどのような理由からか、一切の問題が終わった後になって、後出しジャンケンよろしく山内インタビューを掲載したことになります。この記事が、民間種牛以前に公表されていたら、世論の動向に少なからず影響を与えたはずです。

一般国民はさておき、当時この問題で知事を激しく批判する日本養豚協会が畜産関係者の世論形成をしていましたから、それに対しての「もうひとつの道」の提案は大きな波紋を呼んだと思われます。

既にこの時期、政府は5月22日からワクチン接種・全殺処分の方針を実行に移していました。この政府方針は、4月段階からの日本養豚協会の働きかけがあり、5月以降山田大臣と直接に結びつくことで、大臣の「政治主導」により実現したという側面もあります。

そしてもう一方の側面は、寺門誠致(のぶゆき)農水省疾病小委員会委員長代理の動向でした。寺門氏は防疫関係者に知らぬ者とていない高名な人物です。動物衛生研究所(当時家畜衛生研究所)の所長を努めた後に、共立製薬の先端技術開発センター所長に就いています。

この共立製薬こそが、この宮崎県で使用されたワクチンの輸入元だと知ったら、驚かれるでしょうか。

ワクチンの輸入元であった共立製薬の重要な研究ポストの人物が、そして農水省に大きな影響力を行使できる立場の人物が、このワクチンをマーカーワクチンであると知らないはずもありません。そしてそれを農水省に伝えていないはずがありません。

たぶんこのワクチンが購入されて備蓄された1年前に、検討委員会の席で農水省動物衛生課はそれを知ったはずです。

当然、寺門氏は現在ヨーロッパで主流になりつつある「殺さないワクチン接種」の技術も熟知し得たはずです。

多くの現場畜産関係者は知らなかった「殺さないワクチン」による防疫方法を、たぶんこの段階の日本で最も知っていたのは寺門氏のはずでした。

そして農水省は、寺門氏を元々疾病小委員会のメンバーではないにもかかわらず、4月20日の確定後、急遽臨時メンバーとして参加させています。

疾病小委員会の内部議論は公開されません。しかし寺門氏は記者会見において、「ワクチン接種した家畜を残す議論はしていない」、と述べています。

どういうことでしょうか?頭がグルグルします。マーカーワクチンをである情報は、疾病小委員会内部に伝えられなかったとでも言うのでしょうか。私はそれはありえないことだと思います。もし、そうならば、防疫の権威者として、あるいはワクチン輸入元の社員として、寺門氏はたいへんな情報隠蔽、いや情報操作を計ったことになりかねません。

素直に考えるならば、元々農水省はワクチン・全殺処分方針を温めていたと思われます。そして、寺門氏と懇談し、氏とも防疫方針の一致をみたのではないでしょうか。だから、寺門氏を突然に疾病小委員会に突っ込んだのです。そして委員長代理というポストまで与えています。

そしてどこかで、疾病小委員会内部にこのワクチンはマーカーワクチンであるということが伝わったものだと思われます。

あるいは、今書いたこととはまったく正反対に、農水省は寺門氏を通じて「殺さないワクチン」防疫を聞いており、マーカーワクチンを使用した新たな防疫方法を模索していた、と考えられないことはありません。しかし、ならばどうして「ワクチンを打って残す議論はしていない」などと記者会見で言ったのか、整合性がとれません。

この間の事情は、当人たちが語らない限り永遠の闇となります。

いずれにせよ、マーカーワクチンの情報が疾病小委員会に伝えられたのはどの段階かはわかりません。おそらくは4月28日の第3回委員会ではなく、その後の5月19日の第4回であったと思われます。

そしていもうひとつのベクトルである日本養豚協会は、5月9日に山田大臣に直接陳情し、山田大臣は5月10日に議員会館で養豚協会トップと面談しています。議員会館を使ったのは、農水省官僚に秘匿したかったからでしょう。

しかし、その必要はありませんでした。農水省も、彼ら官僚の方針として、ワクチン・全殺処分方針を寺門氏と温めていたはずでしたから。

そして5月19日の疾病小委員会の会議で山田大臣の意向は農水省の意向としてなんらかの形で伝達されたはずです。

当然、紛糾したと思われます。寺門氏の記者会見でも、「自信がない」と氏自らが言うように、第4回疾病委員会はそうとうに紛糾したことと思われます。

しかし、山田氏の強力な(彼は従わない官僚は左遷するくらいのことをしますが)「政治主導」が功を奏し、ワクチン・全殺処分方針が決定されました。後はワクチン接種の答申が出た5月19日の翌日の20日夜、宮崎にワクチンが到着し、流れが形づくられていきます。、

FAOは口蹄疫専門家チームの受け入れを 5月21日以前の段階でしていますが(5月21日共同通信)、日本政府はこの方針を覆されることを恐れて拒否しました。

このような、日本養豚協会と農水省防疫官僚の意思が2本の糸のように絡まるようにして、事態は進んでいったように思えます。

              ~~~~~~~~~~~

2010年6月7日
 農林水産省(消費・安全局)動物衛生課(国際衛生対策室長)川島俊郎医師へ
 (写)OIE Bernard Vallat医師
 EU消費・安全委員会(欧州議会議員)John Dalli,

 欧州家畜協会(ELA)は、畜産システムを永続させることを目的としていて、口蹄疫の分野で著名な科学者がいます。日本でとられている口蹄疫対策について、ELAメンバーは、次に掲げる緊急提言を行ないます。

 ワクチン接種で口蹄疫は根絶できないという日本の専門家の声明は正確ではありません。
 日本が2001年にイギリスとオランダで起きた口蹄病の管理における間違いを繰り返し、日本の畜産業や地域社会が経済的社会的に似たような帰結に終わるとしたら、それは最も不運なことです。

 日本の当局の主たる目的は、病気の蔓延を抑制し、流行を制御して、できるだけ早く口蹄疫のない状態に戻すことです。ELAは、次の Q&A をよく検討されることを重ねて助言します。

 上記の目的(できるだけ早く口蹄疫のない状態に戻す)は達成できますか?
 答:はい。ワクチン接種と殺処分によって達成できるでしょう。しかし、それではイギリスのように、感染している家畜が(ほとんど)淘汰された後、ただ単に目的を達成したというだけにすぎません。
 この政策の問題点は次の通り。
 ・ウイルスの拡散を止めるために相当数の動物が虐殺される。
 ・社会経済的、実際上の影響。
 ・虐殺に起因する人間と動物の、広範囲にわたる福祉問題。

 より効果的な別の選択肢がありますか?
 答:はい。殺すためのワクチン接種から生かすためのワクチン接種に置き換えるべきです。

 ・殺処分を前提とした正確な診断は困難。
 ・バイオセキュリティを維持するのは困難。獣医や殺処分担当チームの不足、
 たまに非協力的で、どうしようもない家畜のオーナーとディーラーの存在。
 ・価値ある遺伝子その他の損失。
 ・消費にはまったく問題のない家畜の殺戮を受け入れるという倫理問題。


 感染をすばやく確かめることができ、前駆・臨床前段階であっても、即座に診断できるような、より新しい診断テストを用いてできるだけ速く病気を追すること。

 感染した家畜はただちに殺処分。
 同心円状のワクチン接種(感染してない地域から、感染が確認されている地域に向かって)。
 口蹄疫を発症しているか、潜伏期にある動物が、不注意でワクチン接種を受けたとしても、ウイルスの排出量は減るだろう。これがワクチン接種の明らかな長所。
 農場のバイオセキュリティの維持と、家畜の移動制限。

 上記を考慮して、以下のように提言したいと思います。
 ワクチン接種する地域の広さは、一般的な非常事態計画に基づいてではなく、口蹄疫が勃発した時のタイプに基づいて見積もらなければならない。すなわち(2001年に英国で大流行した口蹄疫のように)はじめは口蹄疫かどうか分からなかった多地点発生型か、それとも(2007年に英国で発生した口蹄疫のように)すぐに口蹄疫と分かった一地点発生型か、の違いである。

 前者の場合、ゾーンは広くとらなければならないが、後者の場合は比較的狭くてもかまわない。
 ・非常に効果的で、ほんの数日で抗体ができる、最新の高性能な緊急用ワクチンを活用する。
 ・予防接種の後は、適切なテストを行なって、ワクチン接種をした農場の血清学的ふるい分けにより、感染した家畜と、ワクチンを接種した家畜を区別する。(DIVA戦略)


 家畜類を飼育する地域社会の幸福のためにも、人々にとてもよく奉仕してくれる家畜類のためにも、21世紀の先端科学のツールにふさわしい家畜健康管理のより優れた方法を確立するのに貢献したいと思います。日本の皆さんが口蹄疫の発生を速やかに制御できるよう、成功を祈ります。
 敬具

■原田和明氏の翻訳に拠りました。ありがとうございます。なお太字は引用者です。

原文は以下です。PDFでご覧いただけます。

To: Dr. Toshiro Kawashima, CVO
Animal Health Division, Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries, Tokyo, Japan
CC: Dr. Bernard Vallat, OIE
John Dalli, EU Commisioner Health and Consumer Policy
Members of European Parliament
Foot and Mouth Disease (FMD) Japan 2010
The European Livestock Association (ELA) is aiming towards enduring systems of animal husbandry. It has some well-known scientists specialised in Foot and Mouth Disease (FMD) among their members.
In relation to the FMD measures taken in Japan, the ELA members feel the urgency to state the following:
 The statement of the Japanese Authorities that FMD cannot be eradicated by vaccination is incorrect.
 It would be most unfortunate if Japan repeated the mistakes made in the management of control of FMD in the United Kingdom and in the Netherlands in 2001 and if Japan would suffer similar economic and social consequences for the livestock industry and the wider rural community.
The main objective of the Japanese authorities is to stop the spread of disease, bring the epidemic under control and return to an FMD-free status as quickly as possible.
ELA strongly advises to give careful consideration to the following questions and answers:
Can the above objective be achieved?
Answer: By stamping out/vaccinate-to-kill. Yes, however - like in the UK - that becomes only successful when hosts to be infected are (almost) no more available.
The disadvantages of this policy include:
- the considerable numbers of animals slaughtered in order to 'kill' the virus and stop its spread;
- the socio-economic and practical implications;
- the welfare problems in humans and animals caused by widespread slaughter;
- the impossibility of ensuring accurate diagnosis when the emphasis is on slaughter;
- the impossibility of maintaining bio-security (shortage of veterinary surgeons, slaughter teams - and occasional non-co-operative/rogue livestock owners and dealers);
- the loss of valuable genetic lines etc.;
- the ethical problem to accept the destruction of livestock that are perfectly safe to eat.
Are there more effective alternatives?
Yes. Vaccination to live should replace stamping out/vaccination to slaughter, in combination with:- tracing the disease as fast as possible by using newer diagnostic tests with which one can quickly confirm infection, even in the prodromal/preclinical phase, giving almost immediate ensurance;
- immediate slaughter of animals on infected premises;
- utilising ring vaccination (from uninfected areas towards the areas where there is the confirmed infection);
- even if animals incubating FMDV or animals with FMD are inadvertently vaccinated, they will subsequently shed less virus; an obvious advantage of vaccination.
- maintaining bio-security on farms and a ban on animal transports;
In consideration of the above we would like to advise the following:
- the size of the vaccination zones should not be based on a generic contingency plan, but must be estimated according to the type of outbreak: e.g.a multiple loci situation because FMD was initially unrecognised, (like the UK FMD epidemic of 2001), versus a single FMD locus that was quickly identified, (like the UK FMD outbreak of 2007). In the first case the zones must be large, in the last case the zones can be kept relatively small;
- to apply modern purified high potency emergency vaccines that are very effective and provide protective immunity in a matter of days;
- after vaccination, to differentiate infected animals from vaccinated animals (DIVA strategy), by serological screening of vaccinated farms using the appropriate tests;
We hope to contribute to a better way of animal health control, appropriate to the scientifically advanced tools of the 21st Century, both for the well-being of the rural societies and their livestock that serve humanity so well.
We wish you every success in bringing the outbreaks rapidly under control.
With kind regards,

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宮崎口蹄疫事件 その126 10年間歩みを止めた口蹄疫対策

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日本の口蹄疫防疫体制は、その思想と共に、この10年間進化を止めていました。

殺処分を主軸においた方針のまま、一歩も進もうとはしませんでした。諸外国からはるかに遅れてしまった事柄を、思いつくままに書き出してみることにします。

①現状にそぐわない家伝法や防疫指針の法改正
②補償体制、特にワクチン・殺処分時の補償体制
③家畜共済のワクチン殺処分の補償体制
④緊急時の初動体制に対する国と県の連携
⑤日常的な口蹄疫防疫訓練
⑥緊急時の県内の体制作り
⑦遺伝子検査の施設の拡充
⑧家保体制の拡充
⑨現場で使用できる簡易判定器材の開発と導入
⑩口蹄疫ワクチンの国内自主開発
⑪アジア地域のワクチン・バンクの創出
⑫マーカーワクチン使用法の研究
⑬家畜の種類によるきめ細かな防疫方法の研究
⑭口蹄疫ウイルスの学術研究

まだまだあると思います。現状の殺処分がすべてというドグマをいったん頭からはずしたところで、ワクチンと殺処分をどのようにもう一回位置づけ直すのかが問われているような気がします。

本日多忙のため短稿で失礼します。

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宮崎口蹄疫事件 その125  欧州は大量殺処分政策を捨てつつある。しかし、日本の現実は・・・

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「現役養豚家」様、豚が牛の3千倍の感染スピードを持つ、という昨日の私の表現は誤解を招きます。そのようなウイルス排出量と感染スピードが正比例することを示すデータは私も知りません。筆が滑りました。お許しを。

ただ、豚のほうが牛よりもはるかに速いスピードの感染を示すことは疑いようのない事実である思います。であるなら、頭数も少なく、経済的な単価もはるかに高く、感染スピードの遅い牛と豚が同一の防疫方法で果たしてよかったのか、というのがこの間、私のブログで取り上げているテーマです。

あともう一点。
健康な家畜はウイルスを排出しません。ですから感染拡大の要因にはなりません。何をあたりまえなことをと、言われそうですが、初動期においてはいかに健康な家畜においても、予防的に殺処分をかけるしか術はないのは確かでしょう。

問題は、初動制圧に失敗し、感染が拡大する時期の殺処分の判断です。宮崎県では、大量無差別殺処分が行われました。サーベイランスにかけることもなく、ワクチン接種した家畜は、牛も豚も一律に無条件殺処分となりました。

私はこれに疑問を抱き始めています。

5月29日、FAOの首席獣医官のフォン・ブロス氏はこう言っています。
「殺処分は、感染拡大した今は長期的な視野を持って慎重な姿勢を持つ必要がある」(「日本経済新聞」5/29))。

この5月下旬の時期は、第160~250例台が連日出た時期で、まさにブレイク・アウト最盛期でした。

このフォン・プロス氏は続けて、「われわれは多くの経験を口蹄疫で持っているので、来日したい」というということも同時に述べています。農水省がなぜか拒否しましたが。

また7月10日、ヨーロッパ家畜協会(ELA)は、農水省動物衛生課長の川島敏郎氏に対して書面で、「大量殺処分ではなく、迅速な遺伝子検査とワクチン併用を促す」内容を申し入れています。

これらFAOやELAの申し入れは、日本の口蹄疫防疫に対しての異例の批判と受けとめるべきでしょう。

これには背景があります。現在ヨーロッパでは、殺処分は口蹄疫防疫の主流の座から降りつつあります。いや、大量殺処分のみに頼るという防疫方法は、もはや過去のものだと言ってよいでしょう。

2010年6月24日、EU屈指の畜産国であるオランダは、「今後の口蹄疫防疫においては、殺処分は二度と行わない」という政府声明を発表しました。

また、2010年5月、EUの欧州委員会(European commission)は、ワクチンと迅速な遺伝子検査を駆使した新たな口蹄疫対策案を提出しました。

2001年、700万頭という史上最大の口蹄疫禍を出した英国においても、「明らかに健康だと思われる牛に関しては、殺すか殺さないかの判断は農家の決断に任せる」、という見解を出しています。

こう見る限り、欧州を中心として大量殺処分政策は時代遅れとなりつつあるのは確かなようです。

しかし残念ながら、私は現在の日本が、ヨーロッパの防疫関係者が言うような「遺伝子検査の迅速化とワクチン接種の組み合わせ」ができる体制を持っているとは思っていません。

ご承知のように、わが国において口蹄疫を遺伝子検査できる施設はなんとただの一カ所(*宮崎大学に研究用としてもう一カ所あるともいう)、小平市の海外疾病研究部があるだけにすぎません。

OIEの清浄国ランクのトップにあるワクチン未種清浄国とは思えない貧弱さです。しかも独立行政法人となってから、支所は中国、北陸、赤穂、難病と続々と廃止される憂き目にあっています。

今後、宮崎県の二の舞をさせたくないのならば、大幅に拡充する必要があります。いわゆる道州制の一カ所には遺伝子検査施設が必要です。

また家畜保健衛生所も、地方自治体の小泉改革以降の財政難のために、縮小の一途を辿り、宮崎県は畜産王国をでありながら、他県と比較してもわずか3カ所しか支所がなく、家保獣医師の数も不足していたことも現実です。

今後、宮崎県はお隣の鹿児島県並の家保体制を持つべきです。

このような状況下で、もしほんとうにFAOの首席獣医官が来日したとして、どのようなことになったでしょうか?

もう既に、ワクチン接種・全殺処分は5月22日に始まっていました。一頭一頭の家畜をまめに遺伝子検査にかけるために東京小平に送るよりも、目視と、農家からの申告に頼り、一律ワクチン接種しては殺すしかないという思い詰めた「空気」が圧倒的でした。

今でこそ牛と豚を分けて対処できなかったのかとか、NSP検査をなぜしなかったのだ、などと言えますが、当時の「空気」の中では、それを言い出せる者はただのひとりもいなかったのです。それが実情です。

つまり、日本はFAOの首席獣医官の言うことなど、聞く耳を持たなかったのです。だから、呼ばなかった。呼べば、先進国とは思えない恥を世界にさらす、と農水省は思ったのでしょう。ただそれだけです。

今、私は今後のことを考えています。今のままでは、宮崎の防疫政策を指して、あれが正しかったどころか、あれだけが正しかったになるでじいう。それが果たして、日本の畜産の前進につながるのか、私は深く疑っています。

私は「現役養豚家」様との議論に気が進まなくなりつつあります。その最大の理由は、養豚関係者にはその人なりの真実と正義があり、その合理性においてあのような政策を進言されて、政府案となりました。

それがいけなかったとまで言う気はありません。しかし、今後において、「それだけが正しかった」のか、と言う議論に踏み込むべきではないのでしょうか。今がその時期なのです。

■写真 北浦の湖です。秋空にさわやかな湖面が拡がります。

■cowboy様。牛に全部名があるの知ってますよ。いちおう私も研修生時代丸一年間、牛と豚の研修をやりましたもん。牛に蹴られてアバラにヒビも。あの黒毛和牛はたしか「姫子」って言ったっけ。豚はアグーで、止せばいいのに名をつけて、「ピー」っていいましたっけ。ただし、もう20年前ですが。

 

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宮崎口蹄疫事件 その124 私の心に澱のようにたまっていくもの 規模の問題

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先日から「青空」さんの提起を受けて、どうして同じ「畜産」でも、感じ方や発想が違うのだろう、と考えるともなく考えてしまいました。

宮崎で取られた口蹄疫対策の評価の差には、温度差というには大きすぎる差があります。

養豚関係者は、山田大臣が主導したワクチン・全殺処分を全面支持する方が多いようですが、牛関係者には未だ重苦しい沈黙がわだかまっています。

その重苦しさがはしなくも出たのが、薦田さん民間種牛問題でした。これに対して日本養豚協会や宮崎県の養豚協議会は、かなり手厳しい批判を県知事に加えていたはずです。

一方,牛関係者は複雑な思いがあったと思われます。建前で聞かれれば、「処分するしかないでしょう」と言うでしょうが、養豚関係者のようにすっきりとはしていない口ぶりが伺えました。

ところで、私はもうひとつのこの温度差の原因が、「規模」ではないか、と思い始めています。

私の元来のホームベースは、平飼自然養鶏を生業とした、地域の有機農産物の産直事業です。もうかれこれ27年間、こんな仕事をしてきました。

たとえばそうですね、今年のように酷暑が続いて、しかも降雨がないとなると、高温障害を作物は起こします。有機農業という化学農薬を一切使用しない農法ですと、一作丸ごとダメという場合も出てきます。

あるいは出来ても、商品化率が極端に悪く、半量も出荷できないなどという場合も出てきます。20アール丸ごとダメというケースもありました。

有機農業に取り組む農家も色々あって、一軒で10ヘクタールほどもやる若い農家もあれば、小規模で細々と色々な野菜を作っているという初老の農家もいます。

同じ異常気象でアウトといった場合でも、この両者には差が出ます。前者の大規模農家は、くつよくよしません。「20アールこけたか、よし害虫をぶんまかれる前に一気にカンますべぇ」と、大型トラクターで一気にうなって潰してしまいます。

一方後者の有機栽培を70アールなどという小規模農家は、ダメになりかかった30アールでも、家族総出でいいものをより分けて出荷しようと必死になります。トラクターでいっぺんに潰すなどとんでもないことです。

これを一緒に「農家」でくくるのはやや乱暴です。どちらがいいとか、悪いとかという価値判断の前に、農業とは拠って立つ経営規模や、あるいは農家の年齢、や分野によって、考え方も多種多様なのです。

これと似たようなことが、宮崎県の畜産農家の中で起こったのではないでしょうか。「防疫作戦は一律でなければならない」ということは充分に判ります。そのとおりでしょう。事実、私もこのシリーズでそう主張してきました。

しかし、茨城トリインフル事件の時も思いましたが、1農場が100万羽という巨大ウインドレス企業と、せいぜいが5千羽規模の農家養鶏を、一律一緒とくくっていいものかどうか。

私とは正反対の立場で農水省もそう思ったらしく、「地域経済の救済」と、「ウインドレスは飼養衛生基準が高い」ことを理由に、「ウイルス分離ができなければ殺処分免除」という方針転換の曲芸をやってのけました。

小規模養鶏の鶏は全殺処分された一方、大規模農場はオトリ鶏を置いての看視措置で救済されました。当時私はこの農水省の措置に怒りに燃えたものです。

ところで、今回の宮崎県の和牛農家は高齢者が多く、しかも一頭一頭を名前をつけるようにして飼ってきました。これと大量出荷を前提とする養豚が同列の価値観をもっているほうがおかしいのです。

種牛をも公平に殺処分することがよかったのか、どうか。FAOすら「遺伝子資源の貴重性を重視すべきである」という勧告をしていたことも忘れてはいけません。

民間種牛の抗体検査結果は、なぜか長い間秘匿されていましたが、宮崎県の執拗な要請により明らかになりました。結果は陰性でした。

私は、牛は個体検査を徹底すべきであったと思っています。ウイルスを分離するには、必ずしも採血が必要ではありません。糞便、唾液、鼻汁などからもウイルスは採取できます。

豚は、宮崎県内で養豚生産協議会が事前に意思一致をしていますから、ご自分たちが提案し、政府方針としたワクチン・全殺処分方針でいいでしょう。

感染スピードが牛の3千倍ですから、全殺処分もやむをえないのかもしれません。養豚業者の立ち上がりのす速さと、処分の苛烈さは、この豚の生物的な特質と無縁ではありません。

しかし一方、牛は、逆な言い方をすれば、豚の3千分の1の速度でしか感染拡大しないとも言えます。

実際は、牛と豚が同じ農場に飼われていたり、川南町のように狭い地域て両者がひしめいている場合も多く、状況はモデル化できるほど単純ではありません。

また豚が全殺処分になって清浄性回復ができたとしても、牛の感染の可能性が残り続ける以上、その地域の移動制限解除はできないことになります。たぶんこの問題が牛と豚を別個に防疫する上での最大のネックとなるでしょう。

しかし、牛を個体検査にかけ、NSP検査なども行って行く中から、農場ごとのサーベイランスを行うことが、少なくとも牛においては可能であったと私には思えるのです。

今回の事件で重たい澱のように私たちの心の底にある素朴な疑問を、もっと声に出していいと思います。

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宮崎口蹄疫事件 その123  畜種による防疫方法を替えてみるというコロンブスの卵

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私はなんやかやで、6カ月間口蹄疫を追い続けて来たことになります。本来このブログは、農業問題や、地球環境、沖縄問題などを考えることがテーマでした。正直に言えば、元のテーマに戻りたいとかねがね思っていることも事実です。

これほど長期化すると、私は時折、口蹄疫のテーマは書き尽くしてしまったのかもしれない、と考えるようになっていました。そんな私の甘い思いを打ちを破ったことが三つ立て続けに現れました。

ひとつは、山内一也先生の、今回宮崎で使用されたのがマーカーワクチンであったという指摘と、「第三の道」提言を知ったことでした。これは強烈なインパクトがありました。以後、私は今回取られた口蹄疫対策には、本質的に過てる部分が存在し、今後に繋げていく場合、このような防疫対策を取るべきではない、と思うようになりました。

そして次に、「現役養豚家」様から提供頂いた養豚関連団体の情報です。非常によくまとめられたこの氏の情報で、私が今まで知る由がなかった養豚関連団体の考えや、行動が、どのように政府に影響を与えていったのかを知ることができました。

これによって、今まで知ることが出来なかった今回の防疫対策がどのように策定されたのか、その経緯の内実を知ることが出来るようになりました。

そして今ひとつは、今回の「青空」様のコメントです。コロンブスの卵とはよく言ったもので、卵屋の私がびっくりいたしました(笑)。

私もなまじ畜産関係者なもので、牛、豚、鶏と十把一絡げにして見てしまっていたのですね。あんがい、このような見方は、畜産関係者自身には難しいのですよ。

養豚関係は、牛関係を「なんて対応がのろいのだ」と思い、一方牛関係者は、「豚関係はなにを先走っているのだ」、と思っていたかもしれません。やはり自分の領域をいつのまにか絶対視してしまって、そこからの延長で防疫方法を考えているということは、大いにありえることです。

まだ考えがまとまりませんが、私も畜種によって、防疫方法を変えるということを具体的に考えてみてもいいのかもしれないと思った次第です。

では本日、分割した後半を掲載いたします。

                ~~~~~~~~~~~~~~

ところが和牛は正反対です。
販売単価が高い分、一頭全てでの検査を吸収できる余力があり、管理も基本一頭単位(BSE以来)、大型であるため血液検査等は比較的容易です。全頭検査は対応可能でしょう。

また、一頭当たりの価格差が大きいのも豚と異なります。主力としている高価な牛はありとあらゆる検査をしても生き残らせたいと考えるのは自然な発想でしょう。
また、国産牛とことなり和牛は国際競争の影響は比較的低い。OIEコードへの執着心も薄い傾向があります。

ただ、生産期間(それこそが高価格の根幹ですが)が数年となるため、一度の全殺処分は事業の廃業に直結します。また、種牛への依存性が豚・鶏の比ではありません。
経済価値が異なりすぎ、全頭公平な対応の強制は経済合理性を著しく逸脱します。

同じ感染動物でありながら、その経済的な位置づけは全く異なり、意見が一致しないことは至極当然であったと理解できました。

今回のワクチネーションが牛の業界団体から発生し得なかったのは納得がいく話であり、養豚業界が牛側に強い働きかけをせず、直接政権に交渉をしたのはその相違点を最も
自覚していたからこそでしょう。結果として、牛側に説得するのに時間を要し導入の遅延といった当然の結果となったことは明白です。

残念ながら、ここまで相違している業種で同一のルール化というのはやや無理があるのではと感じる面もあります。ウィルスの放出量が1000倍も異なる家畜です、豚の感染防止はまさに分岐点となるのであれば、それぞれの家畜での対応の差異を加味することは今の管理体制から実現不可能というにはやや乱暴だと感じます。

家伝法、各種マニュアル、ルールも改定されるというのであれば、顕在化したそういった問題点をどう丁寧に対応する体制を確保するか、といった問題点に着目してもらいたいと思っています。

その中で経済的な価値に着目していただきたいと思います。種牛の件もそうですが、口蹄疫が発生するたびに和牛の壊滅の危機にいちいち晒されるのではたまりません。
法改正等には特殊なルール(特例ではなく)を設定し、それに伴い厳重に管理する法整備やルール付けが必要だと感じます。

ワクチネーションの件については有効であったか、無意味であったかの考察、総括は必要性を強く感じますが、この時期においても各行政からの情報は薄く、科学的な知見も不十分、総括すらしない方向が見受けられます。既に証拠、検査結果は土の中に消え、全ての議論が仮説、推定による他ないため証明不能となっている気がしております。実に残念です。

壮大な実験であったのであれば、先進国に恥じぬ実験結果の科学的な知見・情報の蓄積を確保し、こと口蹄疫についての世界的なオピニオンリーダーの地位を奪取し、有利な外交交渉のカードにもする手段もあったでしょう。まあ今の政府に期待するのは酷でしょうが。

ちなみに先日、東京の支店に出張した際、アメリカの某支店の人間に言わせると、経済的な価値を無視して公平に処分するなど日本人は気でも狂っているのかとの意見を聞きました。

いかにもアメリカ人らしい意見でしたが、海外の場合は種牛等も当然公平に駆逐されたと思っていいたのでやや意外でした。ただ、日本ほど一部の血統に頼るような牛業者はないようですが。                                     (了)

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宮崎口蹄疫事件 その122 豚と牛の決定的な業態の差とは 「青空」様のコメント全文掲載

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「青空」様からたいへんに有意義なコメントをいただきました。改行は適時に行いました。内容的に省略をすることがもったいないので、全文を掲載します。非常に長文でしたので、2分割となります。

私もほぼ同一の見解をもっています。

私の家業の養鶏も畜産三羽ガラスの一角ですが、牛とも、豚とも異なっています。「長男は牛、次男が豚、トリは妾の子」という蔑視が、わが養鶏にはあるくらいです(ひでぇな)。

まず家畜単価が極端に安く、小型で、したがって大量飼育が可能となり、安価販売が前提となります。

肥育から産卵までが約6カ月間で、そこから約1年間で淘汰となります。非常に回転率が高く、故に経営合理化が極限まで進んでいる業態です。

飼育期間が短いために、そこでの病気、特に伝染病には極端なまでに神経を払っています。大規模になるほどバイオ・セキュリティは完全になされています。

もし罹患した場合も、治療よりも殺処分してしまいます。そのほうが早くて確実だからです。再建も産み出し寸前を中途導入すれば、短期に再建ができます。

「青空」さんもご指摘のように、養豚も養鶏に体質的に近い部分があります。大量飼育が前提なために、一頭ごとに舌を調べたり、ワクチン接種後にこれまた一頭ごとにNSP抗体検査を行うなどは緊急時にはナンセンスだと思って当然でしょう。

そして豚は最大3千倍のウイルス増幅家畜ですから、感染スピードも非常に速いために、ワクチンを打って多少感染スピードを遅らせたら、さっさと殺処分してしまうほうが安全だ、と思ってしまうのも頷けないわけではありません。

茨城トリインフルの時も、一企業農場100万羽単位で殺処分がかけられています。中途で、殺処分が追いつかなくなり、「ウイスル分離がされないならば、ウインドレスは殺処分免除」という方針に切り換えられたほどです。

仮に口蹄疫が鶏にも共通する伝染病だった場合、私たちの養鶏も養豚に近い対応となったと思われます。

このように考えると、まさに養豚経営特有の体質と一体となった方針が、この日本養豚協会のワクチン・全殺処分方針でした。

その意味で牛は、同じ畜産と行っても本質的に異なった業態です。家畜の単価は非常に高く、鶏や豚と比較するほうが愚かです。

また、飼育期間は繁殖と、肥育合わせて4年近くにも達します。当然のこととしてブランド化による差別化は、畜産3種でもっとも先行しています(現在は豚も相当にブランド化に力を入れていますが)。

また殺処分に伴う補償ひとつにしても、疑似患畜は5分の4補償ですから、一頭が高価な牛にとって、到底受け入れがたい条件であったと思われます。

また、ワクチン殺処分の場合は共済金が支給されません。とうぜんのこととして、再建にはかなりの資金と時間がかかってしまいます。

ですから、5月中旬に延々と続けられた県と国の補償交渉は、渋滞するべくして渋滞しました。これは養豚からみれば、知事のサボタージュ行為だと写り、種牛問題では、もはや裏切り行為というニュアンスで痛烈に知事を批判しています。養豚関係者で東国原知事をよく言う人は皆無なほどです。

まぁ、このような業態を一括して同一の防疫方針を取ったわけですから、摩擦が起きても当然でした。

4月の初期段階で台湾口蹄疫を見て危機感を募らせた養豚関係者が、真っ先にワクチン・全殺処分を提唱し、山田大臣直結で、自らの方針を政府の方針にしたことも、事態を複雑にしました。

いわば一業界団体の利害で、政府方針が定められてしまった印象が拭いがたくあるからです。

しかし現実には、牛、豚が混在して飼われているのが児湯地域ですから、なかなかそれを分離して別方針を立てるのは、現実には難しいものがあったことは確かです。

ちなみに、私のような平飼養鶏は近代養鶏の反省から生まれたもので、坪収容羽数の低減と、自然環境の取り入れ、長期飼育、ブランド化による高価格販売を基本にしていますので、感覚的には、豚より牛に近いものがあります。

                 ~~~~~~~~~~

青空です。先に長文になったこと平にお詫びします。
ここ数回の記事および「現役養豚家」様との議論については非常に興味を持たせて頂いております。
私は畜産関係者ではない一般消費個人ですが、こと仕事には無関係と言えないため、本災害の顛末には非常な興味を有しています。

私のスタンスは、「宮崎県の復興の応援」です。かつてわが国で家畜伝染病や各種災害で自力で復興に成功した例はありません。いずれも不当な風評被害で復興できず
(但し発生農家およびその周辺に限定されましたが)市場からの退場や辛辣な結果となっています。

神戸大震災ですら街は復興できましたが、重要な産業が3つ(靴・革・港湾)消滅・壊滅の危機に瀕する結果となり、復興としては不十分な形態です。
今回も当然その確率は低からずと思い応援を続けていますが、図らずも復興が成功する可能性も高いと感じてきております。

さて、私はこの口蹄疫禍の当初より極めて強い違和感を持っておりました。最近の議論にてようやく腑に落ちたと感じています。

発生当初特にGW明けぐらいから、現地及び他県関係者でも様々な団体や専門家らかのコメントにおいて、特に牛・豚で大きく意見が食い違い議論になる光景を見てきました。

養豚業者からの視点論点では主に批判的な意見が中心となり、こと種牛対応については唾棄すべき問題と極めて難色を示していました。大概に知事がなんらかの発言をすると
団体の総意として痛烈に「非難する」といった声明が上がっていたと記憶しています。

また、現地の養豚家であると思われる方のツイッターでもその経緯を見ていくと5月中旬以降意見が180度転換していく様が見え、不自然さを強く感じたのを覚えています。
厳しい疫病拡大期に身内での抗争の発生は私は意味がわからず、思案しかねていました。

最近までそれらの意味はよく理解できませんでしたが、最近の議論でそれが畜種間の相違によるものと感じております。
その業種内容は徹底的と言っていいほど異なっています。現役養豚家様のご主張をひも解くとそのような気がしております。

それぞれがおかれた国際競争影響度・ブランド戦略の有無・そして圧倒的な(これは養鶏でも言えますが)生産期間の相違の問題であると感じました。
養豚農家、繁殖・肥育牛農家は同じ畜産ではありますが、まったく別の業種であるということです。

一頭ずつの管理を前提とした和牛生産と群での管理を前提とした差異は徹底的です。当然養豚養鶏では一頭づつの検査、観察期間設定、出荷見合わせは生産コストが販売単価が上回ることは自明の理です。そういった非合理的なルールが作られるほうが、今後の経営の重い足かせとなる意味で反対する意向は理解できます

ワクチネーション、予防的殺処分は養豚・養鶏では経済合理性に見合った対応であり、全頭処分は前提条件とならざるを得ない管理状況なのだと理解しています。
例えば仮に養豚家で一頭単位での検査体制を持つといった場合、一農場で3,000頭以上いる養豚農家では、数週間で数百頭の子豚が生まれる、生産サイクルは数カ月、といった環境下でそもそも口蹄疫発症症例を一頭づつ管理することなど、不可能ではないかと。

一頭5分で休みなく口をこじ開け、熱を測り、蹄の異常を確認するとすれば、3人で作業したとしても一回当たり83時間を要します。顕在化する期間が一週間前後であるのに都合良く把握できるなど不可能です。

また、養豚はブランド戦略を主軸にはおいていません(もちろんありますが)。店頭にならぶ豚の表示はせいぜい「国産」もしくは「~県産」です。
スーパーに並ぶ豚は基本的に隣県です。したがって値段の格差も特にない。種豚等の希少性は薄いといってよいでしょう。種豚が同列に殺処分されたとしても和牛程のダメージはありません。

むしろ豚にとって最大の致命傷は粗利益が低い分、稼働期間の減少が最大の問題点であると感じます。全頭処分をしたほうがむしろ再開するスピードがあがるのであれば
そのほうがメリットがあると考えるのは比較的正常な判断でしょう。

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宮崎口蹄疫事件 その121  養豚関連2団体と山田大臣のホットライン

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4月と5月初旬の時期を輪切りにしてみましょう。

国はほとんどなんの対応もしていません。それは口蹄疫確認から1週間以上たっての4月28日段階で、ようやく疾病小委員会が本格会合(通算2回目)をもったことでもわかります。

確かに20日に口蹄疫対策本部が設置されていますし、赤松大臣が本部長に据えられていますが、到底機能しているとは言い難い状況でした。

この時点で農水省疾病小委員会は、「えびの市の発生農場は、既存の発生農場の関連農場」、「消毒、殺処分などの現行策を評価する」と言っています。

同日、口蹄疫疫学調査チームが現地調査・第1回検討会を持ち、感染経路の究明に向け調査開始しています。

この4月28日というのは今回の事件ので特筆されるべき日時でした。県畜産試験場(第10例)が川南町で出て、後は雪崩のような感染拡大が起きていきます。

特にGW中の国道10号線に沿った感染拡大は、致命的なパンデミックの導火線となってしまいました。この幹線を使った加工処理場、屠場への行き来は多かったにもかかわらず、無規制、無消毒状態でした。

それに対しての疾病小委見解は、5月5日に出ていますが、「空気感染の可能性は低い」、「消毒、殺処分などの現行策を徹底すること」の確認にとどまっています。

そのように言った翌日の5月6日に、あろうことか県畜産事業団の種牛に発症し、種牛の避難が開始されます。

このような農水省の動きを見ていると、「ほんとうに彼らは現実を把握しているのだろうか」という素朴な疑問が湧いてきます。

それは疾病小委2回目の開かれた4月28日に、赤松大臣を不要不急のカリブ海周遊の旅に行かせてしまったことでもわかります。もし、農水省対策本部が、危機感をもっていたのならば、本部長をこのパンデミック前夜に外国に出すことをするはずがありません。

当時は山田大臣(当時副大臣)も同様な認識だったことは、5月8日の自身の地元長崎県五島市での養豚業者相手のパーティで、「早期終息に向かいつつある」と挨拶したことで判ります。

このパーティの席で、養豚関係者から、「とんでもない認識だ。終息どころか、拡大し続けている」という声を聞き、山田大臣は驚愕します。

そしてパーティの場から、みやざき養豚生産者協議会会長の日高氏(養豚家・獣医師)に 電話をかけ宮崎県の恐るべき状況を聞くことになります。

ちなみに赤松大臣は前日にようやく帰国しましたが、佐野市に同じ民主党の候補の応援に行くと言い出す有り様で、危機感は皆無であったはずです。

たぶんこの5月8日の時点で、政府関係者の中で危機感を唯一持ったのは山田大臣だけであったと思われます。

山田大臣が赤松氏にどのようにこの状況認識を伝えたのか、判りませんが、ただちに現地入りしろということは言ったことは間違いありません。しかし、現地に行っても、いばり散らしただけですが。

5月10日、帰京した山田大臣は議員会館の自室に日本養豚協会(JPPA)会長の志澤氏、 同じく事務局の倉本氏、日本養豚開業獣医師協会(JASV)代表理事の石川獣医師 から、話を聞きます。

この席上、山田大臣はあまりの悲惨な状況に涙すら浮かべたそうです。後に、非常に強権的とも写り、コワモテのイメージが先行する山田氏ですが、このような苦しみに共感して涙する心根があることは救いとなります。

農水省内部の副大臣室をつかわずに、議員会館を使用したことを見ても、山田大臣が農水省官僚をまったく信じていないことが伺えます。農水省にこの2団体を呼べば、どのようなリアクションが官僚集団に生まれるのか配慮したのでしょう。

さて、このようにして山田大臣と、養豚関連2団体(+みやざき養豚生産者協議会)との直接パイプが成立しました。これは、農水動物衛生課とも、そしてもちろんのこと宮崎県対策本部とも関係のない頭越しのホットラインでした。

5月16日、山田大臣は、この養豚関連2団体と鳩山首相を面談させています。

そして、翌5月17日にようやく、山田大臣の進言により政府が口蹄疫対策本部(本部長=鳩山首相)の初会合を持ちます。そして同時に宮崎県に現地対策本部が設置されることになりました。

実に発生から約1カ月後のことです。しかし山田大臣がなかりせば、首相と民主党内閣は普天間問題で忙殺されていたために、この政府対応自体がさらに先に延びたであろうことは言うまでもないことです。

そして翌5月18日に宮崎県が前例のない「非常事態宣言」を発しました。

すでにこの時点で、127~131例目を確認。殺処分対象は11万8100頭に達していました。完全な感染のブレイクアウトです。

また同じく5月18日に政府の現地対策本部長として宮崎入りした山田大臣に、養豚開業獣医師協会の獣医師K氏が個人アドバイザーとして随伴しました。

農水省疾病小委員会(4回目)が、「ワクチン接種を検討する時期にきている」」と答申したのも、この5月18日でした。これは養豚関連2団体が、既に4月段階で提案し続けていたワクチン接種・全頭殺処分方針が、政府全体の防疫方針となったことを意味します。

こうして、この5月18日という日付も忘れられないクロニクルになりました。

■本記事は「ピッグジャーナル」誌と養豚関係者の情報提供に拠っております。

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宮崎口蹄疫事件 その120 初動の失敗がすべての始まりだった

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ある人から、「ブログ同士の論争は、だいたいエゲツないものですが、おたくのところのはフレンドリーで驚きました」と言われました。

嬉しいお言葉です。その理由は「現役養豚家」さんも私も、相手を論破せねばならない「敵」だと考えていないからでしょう。私たちは、口蹄疫を防ぐという目的において、まったく同じ立場だと思っています。その意味では、氏は私の仲間であり、同志なのです。

私の再反論は少し時間を下さい。もう少しよく調べてみたいことなどがあります。

さて、「りぼん」様もおっしゃっていましたが、初動こそがすべてです。初動が破綻すれば、いわば防波堤の堤を切ったようなものです。押し寄せる感染拡大の津波に家畜も人も呑み込まれていきます。

今回の事件はいくとおりも総括の方法があります。
そのひとつに、4月段階の致命的な初動の失敗がなぜ起きたのか、ということを検証して総括しておく必要があります。

今回の事件は、発生点での封じ込めに失敗しています。発生農場でふうじこめることがでとれば、30万頭に及ぶ大災害に発展することはありえませんでした。

まず、ウイルスの侵入経路ですが、未だ特定されていません。疫学チームの中間報告においても不明のままで、たぶん県独自の調査でも不明で終わる公算が高いと思われます。

これは宮崎県が、空港や港から来日する非清浄国の外国人数が非常に多い県である観光県であることも禍しています。まったく水際の防疫措置が取られておらず、ノーガードで侵入したと思われます。

水際防疫は、このグローバリゼーションの時代にナンセンスと言う人がいますが、とんでもない言いぐさです。畜産業者の立場にもなってくれ、と言いたいですね。米国や豪州などの空港での、偶蹄類の飼われている農場に立ち寄ったか、牧草地に入ったかなどの細かな申請書は厳格で、申告なくして入国は出来ません。

宮崎県では、これらの申告書提出の義務づけも、消毒マットの設置もされていませんでした。海を挟んで中国、韓国がある県としては危機意識がなさすぎます。

次に、「第1例が確認された段階で10農場以上にウイルスが侵入していた」(口蹄疫疫学調査チーム第4回検討会議概要)とされている以上、3月の時点で既に発生農場周辺は、ウイルスがいくつものルートを辿って拡散していたと考えられます。

口蹄疫の拡大の地理的傾向は、下記の岡本嘉六教授の作成された図をご覧下さい。解像度が悪いので、はっきり見えません、クリックすると大きくてなります。

Photo

ならば、発生確認をした4月20日、できるならば動物衛生研に検体を送付した16日には、感染拡大がどれだけの規模なのか、どこに飛び火しているのかを全力で発生動向調査(サーベイランス)する必要がありました。

このサーベイランスこそが、この初動の鍵です。残念ながら、このサーベイランスが適格に行われたとは考えられません。この時点では殺処分の作業が行われておらず、マンパワーも余裕があったはずです。できないと言うほうがおかしい。

にもかかわらず、「口蹄疫ではありえない」とでもいうような思い込みが、県の防疫当局を支配していたと思われます。この時点で徹底した第1例近辺のサーベイランスをかけておけば、続々と感染農場があぶり出されたはずでした。

第1例からわずか600mしか離れていない第6例に調査の手が入ったのは確定した後のことです。このサーベイランスの致命的遅れは、いかに4月の人事異動期であろうとも、言い訳のきかない失策でした。

また同時に、防疫指針には、「異常家畜の発見の通報から病性決定までの措置」として、口蹄疫と確定された場合に備えての、「殺処分の場所、焼却または埋却と、その後の防疫の段取りを検討せねばならない」、とあります。

このような殺処分と埋却の段取りがどのようになされたのか、おそらくは農場主任せの場当たり的ではなかったのかと思われます。

これは、2001年の成功イメージに影響されてか、口蹄疫を甘く見ていたと考えられます。いくつか発症するだろうが、早期に治まるという根拠のない楽観があったのではないでしょうか。

だから、県は本腰を入れて埋却地を探してはいません。殺処分に埋設忘却地が追いつかなくなって、初めて尻に火が着いたのです。

そして、このような後手後手の防疫体制のまま、4月28日の畜産密集地帯である川南町の県家畜試験場の豚に感染が侵入してしまいました。こうして、牛の3千倍というウイルスを排出する増幅家畜の豚に、感染が侵入し、一挙に感染はブレイクアウトしていきます。

それが5月の初めからの事態でした。それは次回に。

■写真 シュロです。こう撮ると、なんか南国的ですね。

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宮崎口蹄疫事件 その120  「現役養豚家」様投稿 最終回

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薦田さんの種牛が陰性でした。彼の防疫がしっかりしていたことを立証しました。なんとも言葉が出ません。
さて、今のような時期を総括期と呼びますが、なんか重苦しい時期ですね。
感染が爆発している嵐の時期は、私たち応援団も「宮崎がんばれ」で一喜一憂しました。一丸となって闘えました。気持ちもひとつでした。
しかし嵐が過ぎ、再建が行われる時期となると、立場の問題がやはり出てきました。牛を飼う者、豚を飼う者、発症した者、未発症で予防殺された者、ワクチン接種で殺処分された者、そして無事だった者。
共済が下りた者、下りなかった者、再建資金が確保できた者、厳しい者、後継者がいる者、いない者、従業員がいる者、家族だけの者、老いた者、若い者・・・。
一方、応援団は数こそ激減したものの、いずれ劣らぬクセ者揃いですから、その総括をめぐっていくつか立場が生まれて来つつあります。
ただ、私はひとつだけお願いしたいのです。現地で被災した者であれ、県内の方であれ、県外の応援団であれ、心はひとつのはずです。
その初心を忘れないようにしましょう!
「現役養豚家」様の投稿第3回、最終部分を掲載します。私のコメントなどは後の回にまわします。
                     ~~~~~~~~
⑤JASVによる防疫アドバイス…連休以降
JASVは現地に赴いたメーバーを中心に、当初混乱していた防疫ルールについて見直
しや、新体制作りを積極的に提言。
都合九日間のダウンタイムも、在米会員大竹獣医師からのアドバイスなどで標準化され
た5月8日には,宮崎県関係者に対し、作業に当たっている会員獣医師からの情報を元にした実際的な防疫対策に見直すよう求めた。
これはJASVが作成した【口蹄疫侵入防止の農場防衛対策】に基づくもので、実質的
に防疫責任を負う宮崎県に対し、直接申し入れた。この中で、ワクチン接種発動の検討
を申し入れている
⑥スタンピングアウトの徹底とワクチン接種…養豚関係者の動向
発生直後から、全国の養豚関係者の間で、豚への感染について危機意識が急速に高まっている。現地では牛発生農場の近隣養豚場から、限定範囲内の全殺処分を考慮すべきとの声が出たし、宮崎県畜産試験場で豚の発生が確認されてからは、全国への波及防止のため【ワクチン接種と殺処分やむなし】の意識集約が連休中に始まり、連休末には約8割の農場が補償を前提とするも、迅速な防疫対策が必要との認識で意識統一がほぼ固まった。
これについてはMPC会長の日高氏(宮崎市在住、養豚経営兼獣医師)や同副会長の香川氏(川南町、後日殺処分対象農場)ら他現地生産者の自己犠牲精神による行動
とJPPA・JASVほか全国の養豚関係者からの物的精神的支援があったことが大きいだろう。

以上は主に、アニマルメディア社のピッグジャーナル、ピッグエクスプレス、日本養豚
協会のJPPA通信、JASVからの緊急連絡事項、新聞記事などを元に記してありま
す。                                            (了)

「現役養豚家」様の投稿はこれで終了です。分割となってしまって申し訳ありませんでした。

■写真 お茶の花が満開です。

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宮崎口蹄疫事件 その119 口蹄疫対策は、「政治主導」ではなく、「専門家主導」でなければならない

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「現役養豚家」様から修正要求を頂戴しました。「激しい」とか「密室」、「圧力」という前回記事は、過剰な表現で実体にそぐわない、とのことです。
私は日本養豚協会などは、今までどおりの手続きと方法でやっていたので密室でも圧力でもない、という言い分は分からないではないですよ。そのとおりだな、と思うところもあります。
気を悪くしたらごめんなさい。表現については謝ります。
たしかに、茨城トリインフルの時は日本養鶏協会も緊急ワクチンをやらせろとやりましたしね。私も署名しました。あっさり蹴飛ばされましたけどね。あの時、養鶏協会は亀井静さんに陳情もしました。
だから、私も経験しているから、今回の宮崎の事例とずいぶん違うなと思ったわけです。はからずも、養豚協会側に重心が偏ったもの言いになったことは申し訳ありません。
では、なにが今までと違うのか、と私は考えてみたのです。
最大の違いは、相手が山田大臣だったことです。赤松氏、山田氏揃って民主党の表看板の「政治主導」したくてウズウズしているお人たちだった。
「政治主導」って、言っている民主党本人もなにかよく判ってってないようですが、赤松さんが引き起こした大潟村の減反騒動で県知事と大喧嘩になったことや、今回の宮崎口蹄疫事件を見る限り、どうやら官僚組織の頭を超えたり、同じく地方行政に対しても、上から目線で命令したりすることのようです。
今までの自民党だったら(今の現職は元の自民党農政の体質にやや戻ったってかんじですが)、あんな無茶しませんって。
原則として、仮に大臣が直接に私的に聞いたとしても、すぐになんらかの当該セクションの官僚を間に入れたでしょうし、地元選出議員や有力者にも声をかけるでしょうね。これが言い意味でも、悪い意味でも日本型農政でした。これについての論評は今日はしません。
宮崎県に対するやり形は、山田流というか民主党流「政治主導」の極致ですよ。まさに強権的、の一語。赤松さんが新潟でやった減反騒動と一緒。
「現役養豚家」様は、東国原さんを完全否定のようですが、私は彼の立場が分からないではありません。あのような宮崎県にものすごい財政負担を強いる殺処分を命じる方針を突然に持ってきておいて、しかも補償問題のお土産もちゃんとしていなかったわけでしょう。
東国原知事じゃなくても、だいたいの首長は青くなりますよ。あれでもめないほうがおかしい。自民党だったら、まず、大臣が行く前に地元選出有力議員が首長と話をして、農水官僚もなんらかの協議を事前にして地ならしをしています。
それにそれまでだって、国の対応は目を覆うばかりでした。
まさに言葉の綾ではなく、赤松大臣は何もしませんでした。今になると懐かしい表現ですが、「赤松口蹄疫事件」なんぞと揶揄されていましたね。
確かに県の過少報告が原因の部分にあったというのは事実でしょうが、農水省には農水省の統括責任があります。皆んな宮崎県が悪いんだ、では通りません。
第一、農水省はGWという感染拡大期に、大臣はカリブ海に行ってしまうし、皆んな揃って上から下まで脳死状態だったのは有名な話です。
それをいきなり、赤松氏がやっと宮崎に来たのはいいが(それも行く予定ではなかったときていますが)、県庁で威張り散らして、居直っただけという最悪の悪代官というか、バカ殿ぶりを見せつけました。
その後ですからね、山田さんがやって来たのは。感情的に宮崎県側が鬱屈してあたりまえすぎるほどあたりまえです。、
5月12日に山田大臣が登場するわけですが、いきなり「これからは政治主導だ。オレの言うことを聞け」とやれば、そりゃあ宮崎県だってこわばります。
そしてもってきたプレゼントの内容が、よりによってウルトラ級のワクチン・全殺処分という爆弾ですから、気の弱い首長だったら、その場で辞職しちゃいますよ。
私は農業とつきあうやり方としては、山田さんの方法は最悪だったと思っています。農業は頭を押さえつけての命令には、面従腹背するということになっているのです。
表面は、ハイハイお上の仰せのとおりと言いながら、実際は協力を拒みはしないが積極的にするわけでもない、という例のやつです。
この山田氏と二人三脚をやったのが日本養豚協会さんたちでした。しかも協会と共に行動しているJASVの獣医師を複数常駐させて、山田氏の事実上の顧問としているわけです。
やっぱり、ちょっと考えたほうがよくはなかったですか?あんなことをやれば、それは緊急性や国民に判る形で穏当にやっていた、県庁にも相談窓口を作っていた、という言い分は理解できますが、傍からはなかなかそう見えにくくはないでしょうか。
善意が善意とし素直に伝わりにくいのです。民主党の「政治主導」とやらに巻き込まれて、畜産家の真情が隠れてしまいがちになります。
ところで将来ですが、このような業界団体が、大臣に直接に陳情をして、防疫方針に介入することができないシステム作りが必要です。
今回はともかく(何度も言いますが、今回は理解しています)、今後このような方法がなされると、他の利害が異なる諸団体との無用な軋轢の種となります。
今回は早期ワクチン・全殺方針でしたが、たとえば「うちの団体だけ手ぬるくしてくれ。ここははずしてくれ。補償を積み上げてくれ」などという陳情などに、その都度大臣トップが右往左往していたら、非常にまずいでしょう。そして規定の防疫方針が変更されたら 、えらいことです。
そのためには首席防疫官(CVO)のような防疫専門家のトップをおいて、防疫専門官が一元的に指導するような、「政治主導」ではなく、真逆の「専門家主導」がいるのです。
「政治主導」とは、要するに体のいい「素人指導」にすぎません。
今回の宮崎では、国も県も政治トップを防疫作戦トップと勘違いしたことが失敗でした。政治家は責任をとればいいだけ、現場の作戦方針に介入すべきではありません。
それをすれば、政治的思惑で防疫作戦が混乱するだけです。あるいは、政治的なカードに堕落します。種牛問題などがいい例です。
私は今回の宮崎県の事例を失敗した「政治主導」、あるいは「禍根を残した政治主導」の典型だと総括しています。そして、その片棒をかつがされたのが養豚協会さんたちだったのではないでしょうか。

■投稿第3回は次回にします。「こんたん」様、いつもありがとうございます。あなたのデータ力はいつもスゴイですね。ブログも読まして頂いています。

■写真 なんだと思います?蟻塚ですよ。

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宮崎口蹄疫事件 その118  私の立ち位置について ワクチン接種・全殺処分は間違っています

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「現役養豚家」さんの投稿は非常に長文ですので、分割して掲載しています。今回は3回目をする予定でしたが、その前に私の立場を明らかにしておきます。

私の主張は明解です。今回の事件は殺処分の是非でもなく、ワクチンの是非でもありません。私はそのような二者択一的なことなど言っていません。

私はワクチン接種後にNSP抗体検査を実施し、自然感染と分別することをすべきだと思っています。今回これがなされませんでした。

宮崎県でとられた方針は、ワクチン接種した後にすべて殺すという非常に硬直した方針でした。本来あるべき発生動向調査も、NSP抗体検査もなされませんでした。

私がこの方針に強い疑問をもつのはこの点です。能力的にできなかったとは言わせません。当時、100人もの獣医師が常時現地に派遣されていました。71チーム(獣医師1名+補助員1名+運転手1名)が活動しています。

ワクチンと自然感染が分別できなかった、ともいわせません。宮崎県で使われたワクチンは、英国メリアル社製製品名Aftoporで、O型、不活化、備蓄期間は1年です。備蓄量は70万ドース。そしてNSPフリーワクチンです。通称マーカーワクチンです(農水省に確認済み)。

マーカーワクチンは口蹄疫ワクチンとしては特殊なものではなく、今はほとんどこの方法で製造されています。これは、ウイルスを不活化して濃縮して生成して作りますから、NSP(非構造タンパク質)は初めから除外して製造されます。

ですから、このNSP抗体が検出されれば、それは自動的に自然感染で非ワクチン由来だということになります。わが国でもNSP抗体検査法は2001年に既に開発されています。外国にも多数検出方法は存在します。

これらの手段を持ちながら、なぜ全頭殺処分としたのかのはっきりした理由がわかりません。元々そういう方針があったからそうしたのだ、としか「現役養豚家」さんの文章からは読めません。合理的な説明がなされていないのです。

どうも誤解されている節があるようですが、私は口蹄疫の防疫対策においてワクチン接種は切り札だと思っています。このシリーズの初期の4月段階から、緊急ワクチンをしろ、ということを叫んでいました。

ただ、当時私は宮崎で使用されたワクチンがNSPフリーワクチンだ、という確証がありませんでした。それが判ったのは、終結して山内一也先生の論考に触れてからです。

また、同様に誤解されているようですが、私は殺処分を否定する者ではありません。特に初動においては英国-韓国型の発生点から500m~1キロの半径内無条件殺処分は必要だと思っています。

問題は、このワクチン接種が自動的に無条件殺処分となる、という不合理性です。その必要などいささかもなかったと私は思います。

それは諸外国の方法をみれば判ると思います。近年の諸外国でのワクチン対策は、ワクチン・バンクを作るところから始めます。採取された各種のウイルスを不活化して、濃縮・精製します。この抗原を保管してワクチン・バンクを作ります。

そして、緊急時には、このバンクの中のストックを複合させて複合ワクチンとして接種します。日本のような非清浄国に満ちたアジア地域で、清浄国を保つためにはこのようなワクチン・パンクの創設は必須でした。まったく手付かずとは思いませんが、動物衛生研でどのようて研究がなされているのか知りたいものです。

いずれにせよ、日本の口蹄疫対策は殺処分一本槍でした。ワクチン研究はなおざりにされて、ほとんど予算配分がなされていなかったと思われます。ですから、それがいったん破られると今回のような事態になります。

今回の政府の方針は、一見ワクチン接種が前面に出てきているので解りにくいですが、単なる全殺処分政策により、無家畜地帯を作る方針だと思います。ですから、ワクチンが効いたの、効かないのなどという論議は二次的なもので、本筋ではありません(私はよくても6割ていどだと思っていますが)。

要は、感染の可能性が高い危険な家畜だけを見つけて、淘汰していけばいいだけの話です。健康な家畜は伝染を拡大しません。むやみやたらと殺す必要などまったくありません。

科学技術の急速な進化により、口蹄疫防疫は2001年時とは比較にならない長足の進化を遂げています。それにあわせて諸外国の防疫方法も大きく変化しようとしています。まず殺処分ありきは、今や世界の主流ではありません。

それを受けて、OIEも清浄国ステータスの回復の規約を変化させています。ワクチン接種後清浄確認ができれば、6カ月間で復帰が可能です。

では、ワクチン接種・殺処分は3カ月間で復帰ですから、この「3カ月間」の差をどう評価するかですが、現実にわが国が非清浄国に転落した期間中に、非清浄国からの輸出が急増しましたか?していません。これは、二国間交渉が必要だからです。

確かに輸出は清浄国にはできなくなりましたが、非清浄国には5月中旬以降変化なく続けられています。

そもそも国は、5月中旬段階で、約12万頭もの自然感染の殺処分対象を抱えて埋却地がニッチもサッチもいかなくなった宮崎県に、さらにそれまでを上回る17万5千頭もの巨大な上乗せを要求したことになります。

そのことにより処分の大幅な遅延が生じました。この処分の遅れはどのように計算されるべきでしょうか?

また全殺処分による12万5千頭の中で、自然感染した家畜、つまり本物の患畜はたぶん半分前後ではないでしょうか。仮に約6万頭だとすれば、これらの農家の再建に要する膨大な努力、財政的支援は考えるのもいやになります。

この「殺処分されなくてもよかった」可能性がある約6万頭の再建にかかる日数は資金はどのように計算されるべきなのでしょうか?

そのように考えると、この3カ月の輸出の迅速化を要求するために、殺処分のみが唯一の手段で、これだけが絶対に正しかったと言えるでしょうか。

今回の宮崎県の事件において、ワクチン接種家畜はNSP抗体検査により自然感染と確認されたもののみ殺処分すべきであったと思います。そのことにより処分数は軽減され、再建に要する日程も大幅に短縮されたと思います。

私が考える将来のモデルは、初動において1日以内の殺処分と予防殺処分とサーベイランス(発生動向調査・遡及調査)を実施します。

しかし不幸にも初動制圧に失敗して拡大した場合は、緊急ワクチン接種をした後にNSP抗体検査を実施し、自然感染した家畜のみを摘発淘汰します。

常時、初動チームと補償体制を準備し、県と国の防疫訓練を緊密に行います。またワクチン・バンクなどわが国独自のワクチン開発などや、サーモグラフィなどの簡易検査方法の準備も必要でしょう。

あえてひとつつけ加えるならば、国の対策に一部業界団体が圧力を加えて、国の方針とさせるような方法が今後常態化することは決して好ましくありません。

今回は、あまりの県と国の対策の遅れに危機感をもったためだ、と言うことで了解できますが、今後は国が常設した家畜伝染病危機管理対策セクションの中で、首席防疫官を置くなどの指揮、命令系統の整理・統合と権限の明確化が必要となります。

さもないと、今回のような県と国が火事場で大喧嘩するようなドタバタになりかねません。

それらを含めて家伝法・防疫指針の抜本的見直しは避けられないでしょう。

■写真 ミズヒキがそここに咲いています。

■補足 ワクチンを接種後無条件殺処分された家畜は10月6日のOIE へ提出されたNo.16で、125,668頭(農場数1,066)です。内訳は牛が約4,6000頭、豚80,000頭です。

したがって約17万5千頭もの家畜がワクチン接種後に殺処分を受けたことになります。これは全体の殺処分数の58%、過半数にあたります。

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宮崎口蹄疫事件 その118 なぜワクチン接種・全殺処分方針がとられたのか? 「現役養豚家」様投稿第2回

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私は、「現役養豚家」様との議論を丁寧に行いたいと思っています。というのは、これは単に口蹄疫を追及しているふたつのブログ間の意見の違いを超えて、口蹄疫に今後どう対処していくべきなのかを考える重要なことを含んでいるからです。

今回の宮崎口蹄疫事件は、いわば殺処分中心型対応の最大規模のものでした。ワクチン接種は日本で始まって以来大規模になされましたが、それはウイルス抑制を狙った遅滞効果のためにすぎません。

そしてワクチン接種後、直ちに無条件全頭殺処分という方針が取られました。ある種の焦土作戦です。家畜のいない無家畜ベルト地帯を作り、ウイルスをくい止める方法です。これをリングカリングと呼びます。

この方法がいかにしては発想され、提案されて、農水中枢の山田大臣(当時副大臣)が自らの方針として宮崎県に持ち込んだのか、かねがね不思議に思っておりました。

というのは、ワクチン接種、ましてや十数万頭にも及ぶ大規模ワクチン接種など、農水省はやったことがなかったからです。かつて、茨城トリインフル事件の時も、業界団体(日本養鶏協会)は緊急ワクチン接種を許可せよ、と陳情しましたが、すげなく拒否されています。

農水省は官僚組織である以上、非常に保守的な集団です。前例踏襲が命です。彼らが自分の意思で防疫指針や家伝法から離れられるはずがないのです。

その彼らが大規模なワクチン接種の道を選んだことは、疾病小委員会のクッションは経たとしても、私には驚きでした。ですから、私はこれは官僚組織内部から出たのではなく、「どこからか」の外部注入的な提案があって、山田大臣がそれを「政治主導」で採用したからではないか、と思い始めていました。

それが裏付けられることとなったのは、この「現役養豚家」様の投稿を読んでからでした。

この詳細な動向がこの投稿には書かれていて、非常に興味深いものがあります。たぶん養豚業界内では知られたことなのかもしれませんが、和牛農家や一般の人たちにとって初めて接する情報ではないのでしょうか。

このワクチン接種・全殺処分方針を提案した主体は、「日本養豚協会」(JPAA)と「日本養豚関連開業医師協会」(JSVA)、そして「みやざき養豚生産者協議会」(MPC)の三つの団体だと解りました。

日本養豚協会は4月の発生の翌日に素早く対策本部を立ち上げ、山田大臣に激しい陳情活動を行っています。3団体は、この状況が極めて伝染力が強い口蹄疫であり、パンデミックの様相を呈しているという厳しい情勢認識を持っていました。

これはてんやわんやの宮崎県行政とも、そこから東京に上がる過少報告を鵜呑みにしてよきに計らえ的な農水省とも異なった積極的な方針の具申でした。

今まで防疫はうまく行っています、というようなのどかな報告しか知らなかった山田大臣は、これらの陳情団体から聞かされた宮崎の惨状に驚き、彼らの具申を採用します。

その具申された陳情内容こそが、ワクチン接種・全殺処分方針でした。ワクチン接種により感染スピードを遅くし、接種後に無条件殺処分にすることで、事実上の大量予防殺処分となります。

接種後の殺処分が加えられたことで、旧来の防疫指針とも整合し、農水官僚が最も心配した清浄国復帰も3カ月間で済ますことが出来ます。このようにしてこの方針は、3段階のものから、農水省ぐるみの方針へとなっていったのでした。

一方、日本養豚協会とみやざき養豚生産者協議会は、地元宮崎県内の根回しを開始し、この方針が宮崎県に受け入れられる下準備に入りました。同時に日本養豚関連開業医師協会も、現地に会員獣医師を派遣し、現地入りした山田大臣(当時現地対策本部長)に共同させる態勢を作りました。

つまり、日本養豚協会やみやざき養豚生産者協議会以外の農家は、なにひとつ相談に預かっていないのです。養豚協会からすれば、あまりに和牛農家は対応が遅いということに写り、一方、それ以外の当事者たちからすれば寝耳に水の出来事でした。

しかし、山田大臣が農水方針とした瞬間から、宮崎県行政当局、あるいは和牛農家、搾乳農家、家畜保健衛生所や共済組合、民間の獣医師たちなどをつんぼさじきに桟敷に置いたままで、この「壮大な実験」はスタートすることになったのでした。

このような緊急時にはいた仕方がないとはいえ、その合意形成の手法には問題が目立ちます。素早い行動力は敬意に値しますが、時としてそれは養豚業者だけの密室の中での独りよがりにもなりかねません。特に肝心要の県行政との協議があまりも強権的な押しつけと取られてしまいました。

何も聞かされてこなかった県にとって、膨大な殺処分を生むこの方針に簡単に納得できるはずもないし、補償問題もこじれにこじれました。

また説得にあたる山田大臣が、「ワクチンしなけりゃ知事失格だな」的な傲慢な態度だったために、県知事の執拗な抵抗に遭遇することになります。

そしてこの国と県の補償問題をめぐっての協議があまりに長期化したために、ワクチン接種は5月22日に大幅にズレ込むことになってしまいました。まさにパンデミックの最盛期です。

そのために5月の初期に行われたのならば、ウイルス抑制の効果も得られ、殺処分数を極小化し得たかもしれないこの方針が、まさに感染まっさかりに発動されたために、十数万頭の膨大な殺処分数を出す結果となっていきます。

                  ~~~~~~~~~~~~~

以下養豚関係の動きを時系列的に記します。

以下、日本養豚協会はJPPA、日本養豚開業獣医師協会はJASV、みやざき養豚生
産者協議会はMPCと略します。
なお、JPPAの会長・副会長・常任理事のほとんどは養豚経営者であり、正会員のす
べてが養豚農家です。
JASVは、主に豚をメインとする民間開業獣医師の団体です。
MPCは宮崎県内の養豚農家をメンバーとする組織です。

①JPPA独自の口蹄疫対策本部設置…4月21日設置。
養豚関係者は1997年の台湾口蹄疫で、一国の産業が瞬時に崩壊する様を目の当たり
にしているので、危機感が非常に強かった。
対策本部はJASV・MPCと密接な連絡を取りながら以後積極的に活動していく。
また独自の義援金募集も開始し、最終的に約7000万円を発生地の養豚農家に配分し
た。

②山田副大臣および農水省関係部局、国会議員への要請…4月23日以降連日のように
要請活動
要請活動の他、各都道府県や地域養豚団体、養豚農家、関係業界への連絡調整活動が迅速活発になされ得たこれらの活動に当たってはJASV・JPPA・養豚事業協同組合他生産者有志が参加。

③JASVからの支援獣医師派遣申し入れ…4月28日発生地地元で開業している会員獣医師(当時防疫活動に従事)2名からの要請を受け、石川代表理事らが会員派遣を申し入れ。
すでにこの時点で両団体はパンデミック状態であるとの認識を示している。
派遣獣医師は5月5日朝に三名が現地入り。以後5月10日にかけてさらに4名派遣。
この派遣は以後、交代する形で続けられ、県庁内での相談室開設や、防疫アドバイスを
積極的に行う。

④リングワクチネーションの提案…5月2日
5月2日、両団体の幹部と農水省担当者間で意見交換
このなかで、石川代表理事は獣医師派遣について、宮崎県との調製を国に求めた。
どういう訳か、宮崎県は支援申し入れに消極的であり、また同県内の共済組合所属獣医
師約100名にも声をかけていない。
また、JPPA志澤会長からは、九州の生産者集団の声を踏まえ、十分な補償措置を講
じた上での限定的リングワクチネーションを提案

*⑤以降は次回に掲載します。

(続く)

■写真 ホオズキがスケルトンになりましたこれもかわいいですね。

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宮崎口蹄疫事件その117 「現役養豚家」様から反論を頂戴いたしました

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ご心配、ご配慮をいただきましてありがとうございます。まだ相当に痛いです。耳の病気って、頭の中で大伽藍がガンゴンいっているようなもので、痛み止めを呑むと、今度は遠くでお寺の鐘がゴーン、ゴーンと、ってな調子で、参った。ものを食べても痛いし、それに何にも聞こえないしね。にわか身障者すっよ。え~ん。

沢山治療方法をご教示頂きまして感謝に耐えませんが、たまらずに耳鼻科に行きました。リッパな外耳炎で、こんなになるまでほっておいてさっさっと来なさい、と女医さんにお説教を受けた次第であります。

さて、この間の私のブログのワクチン接種・全頭殺処分方針の批判的トーンに対して、「現役養豚家」様から、長文の反論を頂戴いたしました。

ご承知の方も多いでしょうが、「現役養豚家」様は、かの有名ブログ「口蹄疫・・・現役養豚家の考え」http://blog.goo.ne.jp/iloveyoujh1rfd/の主宰者でいらっしゃいます。非常に理論水準が高く、情報量も豊富で、私など足元にも及びません。

秋風に散る落ち葉のように、というとロマンチックですが、要するに喉元過ぎてヒトの噂も70何日で、速やかに宮崎事件は過去のこととなりつつあります。その中で、冗談じゃないぜ、と意地を張っている貴重な同志的ブログだと思っております。偶然ですが、氏は霞ヶ浦の対岸の住民なのですな、これが。

今回、ワクチン接種・全頭殺処分方針について、私はいくつか問題提起をいたしました。簡単に整理しておきます。「現役養豚家」様の投稿を先にお読みになりたい方は、中程以下をまずご覧ください。

① 疾病小委員会がワクチン接種方針を答申した根拠となった、「ワクチンによるウイルス抑制効果」は非常に疑わしいこと。

② したがって、今回の宮崎県の事例において、接種後に多数の発症が見られた。むしろ接種日5月22日から、抗体が出来る1週間前後の5月28日からの発症例は、一部の例外を除いてことごとくワクチン接種家畜であったことがそのなによりも証明。

③ ワクチンによる抑制効果が仮にあったとしても、すべての家畜が既に、ワクチン接種を条件としてすべて無条件に全頭殺処分され埋却処分されており、今となってはその効果の測定のしようがない。少なくとも検体は保存しておくべきだったのではないのか。

④ 下図に見るようにワクチン接種・全頭殺処分の家畜の頭数が異常に多すぎた。図においては、5月22日以降を注目していただきたい。これはそれ以前の通常の患畜、疑似患畜の殺処分数よりはるかに多い。これでは、病人を治す治療で、病人を半殺しにしてしまうが如き本末転倒な手段である。Photo ⑤ 使用されたワクチンがマーカーワクチンであると思われるので(山内一也東大名誉教授の説による)、なぜ接種後のNSP抗体検査を実施し、実際の自然感染と分別しなかったのか。もし、分別したのならば、5月中旬以降のかくも膨大な殺処分は不要なはずであった。

⑥ 不必要なワクチン接種・全頭殺処分方針をしたために,埋却地が圧倒的に不足した。処分そのものにものにも、のべ5千名もの獣医師を全国から動員せねばならなくなった。この専門家のマンパワーは本来、マーカーワクチン接種後のマーカー検査や、発生動向調査に振りあてられるべきではなかったのか。

⑦ 感染拡大が停止したように現象しているのは、単に膨大な殺処分が家畜のいない緩衝地帯を作り出したからにすぎない。ワクチンの効果とはなんの関係もない一種の焦土作戦の結果、ストップしただけである。

⑧ ワクチンによる一定の抑制効果はあったと考えるべきだが、殺処分されてしまったワクチン接種家畜の中には、膨大な未感染(ワクチン抗体は除く)、かつ健康な家畜が含まれていたと推測される。これは地域経済に甚大な被害を及ぼし、精神的苦痛を数倍に膨れ上がらせた。

⑨ 私はワクチン接種自体を否定するものではない。するならぱ、その後のマーカー検査を実施し、発生動向調査で拡大を見極めた上でするというオーソドックスな方法がなぜとれなかったのか、と言っているだけである。また殺処分も否定するわけではなく、あくまでもこの前者の条件と組み合わされて実施されるべきだと主張している。

⑩ 2002年OIE総会においての議決によれば、ワクチン接種後であっても、殺処分することなく、清浄性確認されれば6カ月後に清浄国ステータスを回復できる。わずか3カ月間の差にすぎない。この3カ月間にこだわって、大量のワクチン接種後・全頭殺処分をする意味がどこにあるのか。

まだまだあるのですが、いかん、だんだん長くなりました。ぜんぜん整理になっていませんね(笑)。申し訳ありません。ではお待ちかねの、「現役養豚家」様の投稿を掲載します。

これは全体の約3分の1です。全文を無編集で掲載してほしいとのことでしたので、ご要望どおりにいたしました。次回残りを掲載いたします。

               ~~~~~~~~~~~

以下の文責は 現役養豚家 かくま牧場@茨城 にあります。

今回のワクチン接種について

OIEへのステータス回復申請が出されましたが、すでに巷間では口蹄疫は過去のこと
と忘れ去られています。

さて、今回の口蹄疫ではワクチンがつかわれました。このワクチン接種を巡っての論争
…議論…があちこちでなされ、なかには陰謀論や国による実験台との【なんとも馬鹿馬
鹿しい】論評もなされています。あほらしい論評はほっとくにしても、ワクチン効果へ
の疑問や、そもそもワクチンを打つ必要が合ったかという疑問はもっともであり、これ
からも真剣に議論を重ねていく必要は当然あります。
そのため、ワクチン早期接種と殺処分による早期収拾を5月連休明けに提案した、私の
所属団体【日本養豚協会…JPPA】と関係団体の動きを皆さんに時系列的にまず知っ
てもらう必要があります。
ちなみに、私も連休中に所属団体に対し、ワクチン接種と例外無き殺処分徹底の要請を
個人的にしています。

◎まず、ワクチン接種の是非について
接種計画が表面化したとき、いくつかの問題が出ました。
① 効果のほどが不明…これについては私のブログで持論を述べています。
② 補償問題…補償範囲と金額…特措法で一応片付いたが、別な問題を引き起こした(
④と併せて後述)
③ 埋却地…確かに大問題
④ 健康な家畜への接種が殺処分という結末に対する不信感。

④に関して、知事はじめ畜産農家…特に牛関係…と世論の反発が非常に強く、それが補
償問題と結びつき結果としてワクチン接種が遅れたことは事実です。
しかし、ここで見過ごしてならないのは、【口蹄疫清浄化作戦は、健康な家畜であって
もルールの中で殺処分する】のがワクチン非接種清浄国の常識であり、またOIEコー
ドでも認められていますし、幾多の国でその方針が貫かれています。
ですから、知事や和牛農家が【健康な家畜をなぜ殺す】とテレビなどを通じてわめいて
いたとき、私は失笑するとともに戦慄…口蹄疫防疫のイロハのなんたるかを知らない人
たちがリードし,それに疑問を持たないマスコミに…を覚えました。直近の例を挙げましょう。

まず韓国の今年の例では、発生農場の半径500メートルから3キロ圏内の偶蹄類を例
外なく殺処分しています。
少しさかのぼった2001年のオランダでは、ワクチン接種した家畜を含め約15万頭
が殺処分と【淘汰処分】されています。
【淘汰処分】に注目してください。オランダでは、ワクチン接種家畜は【淘汰処分】さ
れています。この淘汰処分とは発生地圏内の食肉処理場に運び処置されたことを指しま
す。ここで多くの人が誤解するのが、食肉処理場での処置を食肉流通させたと勘違いす
ることです。
実は食肉処理場での【淘汰処置】とは処理場でと畜し、その後すべてを廃棄処分するこ
とを指しています。つまり、殺処分の密室化ということです。
なぜ、オランダがワクチン接種に踏み切ったかといえば、一つは宮崎同様に殺処分に対
する補償問題で畜産農家から反発され、対策が遅れたことと、埋却地問題です。

もう一度書きます。

口蹄疫鎮圧には、【今のところ】健康な家畜であってもある程度殺処分が免れないことを念頭に置いた処置が不可欠なのです。
ですから、これがいやな人は【実効性のある別案を提起】するか、あるいは畜産から身
を引く。でなかったら【口蹄疫汚染国】へでも引っ越ししての経営に転換してもらうほかありません。

(続く)

■写真 ムラサキツユクサです。私が最も好きな野草です。特に朝露に濡れる彼女の清楚な美しさには心打たれます。放射能で色が変わるので有名になりましたが、あまりそんなことで有名になってほしくはないですね。

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外耳炎になってしまいました

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外耳炎になってしまいました。う~、痛い。頭の芯からズキズキするのでたまりません。ついでに腫れてしまって耳の穴がふさがったので、突発性難聴にもなるというおまけつき。

で、今日はちょっとまとまったことは書けない状況です。

ちっとだけ。この間、色々と情報を頂いてなぜワクチン接種・全頭殺処分方針がでてきたのか、判ってきました。もちろん陰謀めいた要素は何もありません。

次回あたりから書いていきます。元気だったらですが・・・、とほほ(涙)。

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宮崎口蹄疫事件 その116  ワクチン接種と発生の資料

002

ワクチン接種が開始された5月22日から、抗体ができるはずの1週間前後の5月27日以降の発生状況をリストアップいたします。

これは鹿児島大学岡本嘉六教授の作成したものです。県の発表とは発生番号が違いますが、今まで岡本先生のナンバーで表記してきたために、当座はこちらで一本化することにいたしました。cowboy様、ありがとうございました。

これを見る限り、ワクチンがウイルス抑制をして、感染拡大をくい止めたというのはまったく根拠のない大本営発表だと解ります。いくつかの例外を除いて、大部分がワクチン接種済で発症しています。

なぜかくもワクチンが無力であったのかを説明する義務が、農水省消費安全局と疾病小委員会にはあります。拡大が止まったろ、結果オーライ、では済まされないことです。

それはワクチンがfFAOやOIEが想定している緊急ワクチンとはまったく異なる、リングワクチン・全頭殺処分という異形の方針だからです。

通常のように予防のためにワクチンを打つのではなく、接種後に殺すことを前提にワクチンを打つことは、生命に対するひとかけらの畏敬も感じられません。

殺処分をするなとは言いません。むしろ初動においては非常に有効な方法でした。また、感染拡大期においてもサーベイランスした後の摘発淘汰も有効でしょう。予防殺処分という手段もありえたかもしれません。

しかし、サーベイランスをいっさい省略してリングワクチン接種をし、接種後に無条件に全頭殺処分するなどというのは、防疫の邪道だと言わざるを得ないのです。

この方針によって膨大な健康な家畜が、無意味に殺されました。
「お前ひとりが我を張るなよ、みんな打たれて泣く泣く殺したんだ。国と県の方針に従えよ」と言われて認めざるを得なかった被災農家の精神的苦しみはいかばかりだったでしょうか。

221. 児湯郡川南町 527

肉用牛繁殖 21頭 #5/24

222. 児湯郡川南町 528

養豚 2716頭 #5/22

223. 児湯郡川南町 528

肉用牛繁殖 45頭 #5/24

224. 児湯郡川南町 528

酪農 18頭 #5/25

225. 児湯郡川南町 529

養豚 576頭 #5/25

226. 児湯郡川南町 529

養豚 279頭、肉用牛繁殖 8頭 #5/24

227. 児湯郡高鍋町 529

肉用牛一貫 3957頭 #5/23

228. 児湯郡高鍋町 529

肉用牛繁殖 1018頭 #5/23

229. 児湯郡高鍋町 529

肉用牛一貫 620頭 #5/23

230. 児湯郡都農町 529

肉用牛繁殖 34頭 #5/26

231. 児湯郡川南町 529

肉用牛繁殖 46頭 #5/24

232. 児湯郡川南町 529

肉用牛繁殖 48頭 #5/24

233. 児湯郡新富町 530

肉用牛肥育 353頭 #5/24

234. 児湯郡川南町 530

肉用牛繁殖 3頭 #5/24

235. 西都市 530

肉用牛繁殖 876頭 #5/24

236. 児湯郡都農町 530

肉用牛繁殖 4頭 #5/26

237. 児湯郡新富町 530

肉用牛繁殖 35頭 #5/26

238. 児湯郡都農町 530

肉用牛繁殖 54頭、関連農場(11頭)#5/26

239. 児湯郡川南町 531

酪農 39頭 #5/25

240. 児湯郡高鍋町 531

肉用牛繁殖 43頭 #5/24

241. 児湯郡川南町 531

肉用牛繁殖 23頭 #5/25

242. 児湯郡川南町 531

酪農・肉用牛 87頭 #5/26

243. 児湯郡都農町 531

肉用牛繁殖 253頭 #5/26

244. 児湯郡都農町 531

肉用牛繁殖 28頭 #5/26

245. 児湯郡都農町 531

肉用牛繁殖 12頭 #5/26

246. 児湯郡川南町 531

肉用牛繁殖 55頭、関連11頭、2頭、#5/24

247. 児湯郡都農町 531

肉用牛繁殖 12頭 #5/26

248. 児湯郡都農町 61

養豚 4680頭 #5/25

249. 児湯郡都農町 61

肉用牛繁殖 5頭 #5/26

250. 児湯郡高鍋町 61

肉用牛繁殖 43頭 #5/24

251. 児湯郡都農町 61

肉用牛繁殖 26頭 #5/26

252. 児湯郡都農町 61

肉用牛一貫 291頭 #5/25

253. 西都市 61

肉用牛肥育 779頭 #5/24

254. 児湯郡川南町 62

酪農・肉用牛 56頭 #5/25

255. 児湯郡都農町 62

養豚 775頭 #5/25

256. 児湯郡高鍋町 62

養豚 2014頭 #5/22

257. 児湯郡都農町 62

肉用牛繁殖 119頭、関連農場5頭 #5/28

258. 児湯郡川南町 62

養豚 4815頭 #5/23

259. 児湯郡川南町 62

養豚 790頭 #5/24

260. 児湯郡川南町 62

肉用牛繁殖 26頭 #5/25

261. 児湯郡川南町 62

養豚 579頭 #5/24

262. 児湯郡都農町 62

肉用牛繁殖 82頭 #5/26

263. 児湯郡川南町 62

肉用牛繁殖 41頭 #5/26

264. 児湯郡都農町 62

肉用牛繁殖 6頭 #5/28

265. 児湯郡新富町 63

肉用牛繁殖 22頭 #5/25

266. 児湯郡高鍋町 63

肉用牛繁殖 62頭、関連5頭 #5/25

267. 児湯郡川南町 63

肉用牛繁殖 12頭 #5/25

268. 児湯郡川南町 63

養豚 616頭 #5/24

269. 児湯郡都農町 63

肉用牛繁殖 80頭 #5/26

えびの市の移動制限が解除され、出荷再開。

270. 児湯郡川南町 64

養豚 276頭 #5/24

271. 児湯郡新富町 64

肉用牛繁殖 42頭 #5/25

272. 児湯郡川南町 65

肉用牛繁殖 63頭 #5/24

273. 児湯郡新富町 65

肉用牛繁殖 472頭 #5/24

274. 児湯郡木城町 65

養豚 655頭 #5/23

275. 児湯郡都農町 66

肉用牛繁殖 25頭 #5/26

276. 児湯郡川南町 67

肉用牛繁殖 50頭 #5/25

277. 児湯郡川南町 68

養豚 1605頭、関連1000頭 #5/25

278. 児湯郡川南町 68

養豚 1309頭 #5/23

279. 児湯郡高鍋町 68

肉用牛肥育 332頭 #5/24

280. 都城市高崎町 69

肉用牛肥育 250

281.  児湯郡木城町 610

養豚 1700頭 #5/23

282.  児湯郡木城町 610

養豚 595頭、牛32頭 #5/24

283. 西都市 610

肉用牛肥育 550

284. 日向市 610

肉用牛肥育 349

285. 宮崎市 610

養豚 1325

286. 児湯郡川南町 611

肉用牛繁殖 74頭 #6/8

287. 西都市 611

肉用牛一貫 1351頭、関連1070頭 #5/24

288. 児湯郡新富町 612

養豚 921頭、関連2383頭 #5/23

289. 児湯郡新富町 614

肉用牛肥育 33

290. 東諸県郡国富町 616

肉用牛肥育 234

291. 宮崎市 618

肉用牛肥育 38

292.  宮崎市 75

肉用牛繁殖 16

赤字の番号は、農場主または農場関係者から、青の数字は農協職員から、黒の数字は診療獣医師から家畜保健衛生所への通報に基づく発見。#はワクチン接種日。

■写真 アキアカネ、通称アカトンボです。わが農場にはたくさん飛翔しています。

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宮崎口蹄疫事件 その115  感染拡大が止まったのは殺処分が緩衝帯を作ったからか?

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私は、自分の茨城トリインフル事件後にやって来た「専門家の時代」を経験しています。これは事件が終息に向かい、生産者や関係者が「その後」を考えはじめたころから始まります。

疫学調査チームの中間報告書が出るあたりが分岐点でしょう。あれが出ると、現地は不満ながらもなんとなく納得しちゃうんですよね。あの疫学用語で埋めつくされた膨大な文献の神殿を、じっくりと探索する農家などそうそういません。復興で死にもの狂いですから。

こうして「専門家の時代」が始まり、現地被災者の思いや悲嘆とは無縁にもっともらしい整合性のある「正史」が作られていってしまいます。

それに対して、ちょっと待てよ、まだ検討しきれていないだろう、と言っているのがこのブログです。

今回の事件において、ワクチン接種・全頭殺処分方針を評価することは、事件のの核心につながると私は思っています。この新方針がどのようないきさつで誕生したのか、誰が、誰と計って、どのような経緯で決定したのかを知りたいと思っています。

また、現実のその効果はどうであったのかも客間的に評価すべきだと思っています。その第一回は前回に行いました。ワクチン接種が「ウイルス抑制」に貢献したという証拠は見いだせませんでした。

むしろ、5月22日のワクチン接種から6月10日までの期間で発生した100件以上の発生は、すべて例外なく接種後に発症しています。

一方ワクチン未接種で発症したのは、6月14日から7月5日の末期の4件しかありません。

これを見ると一種の脱力感に襲われます。あれだけ大量のワクチン接種・全頭処分をやって、被災地にうず高く健康な家畜の死体の山を築いておきながら、その効果はほとんどなかったとすれば、いったいあれは何であったのでしょうか?私たちは悪い夢でも見たのでしょうか?

原因はいくとおりも考えられます。まず、あのワクチン自体が原因で感染拡大をしてしまったことです。山内一也先生が指摘するように、接種後にキャリアーとなった家畜から感染が拡大してしまった可能性があります。

(2)ワクチン接種した動物でも感染することが あります。その際には症状はほとんど出ませんが、動物はキャリアーになってウイルスを放出してほかの健康な動物に感染を広げることがあります。
     (山内一也 人獣共通感染症 第116回 口蹄疫との共生」(日本獣医学会)

不活化ワクチンは備蓄する期間が長くなると劣化してしまい、ウイルスが生き残っている場合です。口蹄疫のような強力な感染力をもつ伝染病でこの事態が起きると、人為的にウイルス散布をしているに等しいことになります

(3)不活化が不十分で ウイルスがワクチンの中に生き残ってしまうことがあります。現実に1980年代にヨーロッパでこの事態が起きて、それ以来、ヨーロッパでは口蹄疫ワクチンの使用は完全に中止されました。ただし、現在の品質管理システムでは、このような事態が起こることはないと考えられます。
                                             (同上)

次に考えられるのは、ウイルスのタイプが違っていたことです。たとえば、トリインフルエンザでもH5N1型というだけで、グアテマラ株もあれば、メキシコ株などもあります。日本にはグアテマラ株が2005年に侵入しています。

「O/2010/JPN」という宮崎口蹄疫のウイルス・タイプが、備蓄していたO型ワクチンとタイプが同一であったか誰にも分からないことです。私は、あの抑制効果が見られなかった状況からして、相当に疑問だと思われます。

宮崎県のウイルスは既に変異をして「新型口蹄疫」、勝手に名をつけて「口蹄疫O型宮崎亜型」(←こんな名称は存在しません、念のため)というサブタイプになっていたのだとすれば、抑制効果が限定されるのは当然のことです。

(1)口蹄疫ウイルスには、7つの血清型があり、さらに多くのサブタイプがあるため、ワクチンは流行株に適合しなければ効果がありません。時折、これまでのワクチンが効果を示さない新しいタイプのウイルスが出現することがあります。流行株に合致しないとワクチン効果が期待できない点はインフルエンザの場合と同様です。
                                              (同上)

ではなぜ、ともかくも感染拡大が止まったのでしょうか?
私は答えは簡単だと思っています。それは殺処分が、家畜の存在しない緩衝帯を作ってしまったからです

効いたのは、ワクチンではなく、後者の殺処分だったのだと私は考えます。ならばそもそもワクチン接種をする必要もなかったし、それを条件にしての殺処分命令もナンセンスだということになります。

ワクチン接種などせずに、発生点から発生動向調査をかけて、陽性家畜を見つけ出し、摘発淘汰をかければ済んだことです。

あるいは、発生点から半径500mから1キロの範囲で予防殺処分をしたほうがはるかに小規模な殺処分で済み、かつ確実な方法であったと思います。

宮崎県でとられた手段は、本来丹念に行うべきこまめなサーベイランスと組み合わされた殺処分という防疫の王道をから大きく逸脱した邪道の防疫手段でした。

確かに殺処分をかけてしまえば、言い方は悪いですが、「死人に口なし」で自然感染であったかどうかは分からなくなります。私はここにも農水省官僚の歪んだ意思が見え隠れしているように思えます。

自然感染なのか、ワクチン由来なのかは、殺処分してしまえば闇の中に葬られます。たぶん農水省官僚はここまで考えています。だから、使用したワクチンがマーカーワクチンだということを未だ伏せているのではないでしょうか

マーカーワクチンならば、NSP抗体の陰性が確定しさえすれば、自然感染だということのなによりの証明となります。「自然感染した家畜と区別がつかない」などということはたわ言です。

かつてのベトナム戦争は、膨大に備蓄して破棄処分せねばならない弾薬の捨て場でもあったという説がありました。憶測に過ぎませんが、農水省は、期限切れ寸前の70万頭分のワクチンを宮崎県という「戦場」に一挙投下してみたかったのではないでしょうか。

そうすると、ワクチン接種国に格下げになることから、殺処分を強行したのかもしれません。

そしてワクチンが備蓄期間中に不活化が甘くなっていたために、かえって感染を拡大したが、それも殺処分と区組み合わせることで、闇の中に消し去ったのかもしれません。

だとすれば、明らかにマーカーワクチンの本来の使用方法から逸脱しているわけで、それに驚いたOIEのアドバイザーの訪日を農水省が拒否した理由も解ります。

私としては珍しく陰謀ストーリーになって恐縮ですが、突き詰めるとそのようなことも考えてしまうのです。

■写真 栗が沢山採れました。うちでは大量にジャムにしたりしています。

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宮崎口蹄疫事件 その114 ワクチン接種が感染拡大を阻止したというのは大本営発表か?

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私は今回のf宮崎県で取られたワクチン接種・全頭処分政策に対して少しずつ疑問を抱き始めています。

「日本農業新聞」(9/27)で、ワクチン接種されて殺処分された家畜と、通常の殺処分と補償水準が異なることが問題となっています。

「補償水準が感染農場とワクン接種農場で異なるという問題も、再建への動きが具体的になる中で鮮明になってきた。
「ワクチン接種後に殺処分された農家には家畜共済の支払いがない。いつ氏原さんら割れるのか判らない家畜を買い続けたのに房卯平だ」。尾鈴が25日,都農町で開いた経営再開説明会でも、農家が声を上げた」。

このように現実に、ワクチン接種・全頭殺処分をくった畜産農家は、健康な家畜を国の命令で殺された上に、共済金が降りないという二重の苦しみにあっています。

コメントにも頂戴しましたように、国は事前に実験室レベルで試験はしていると思われます。しかし、現実のフィールドで、いかなることになったのでしょうか。

国は5月22日に豚で、そして翌23日には牛でワクチン接種を開始しています。したがって、この後に発生したケースは、ワクチン接種が何らかの理由で効かなかったと考えていいと思います。

口蹄疫の潜伏期間は、通常24時間から10日間、平均して3~6日だと言われています。

では、ワクチン接種後の発症を、平均潜伏期間3日後から6日後の期間で牛と豚別に見てみます。

●ワクチン接種から3日後…3件(牛3)
            4日後…14件(牛12、豚2)
            5日後…10件(牛9、豚1)
            6日後…4件(牛4)

                計31件((牛28頭、豚3頭)・・・①

この31頭という数字は、同期間の発症の51%に相当します。つまり半数がワクチンが効いていないということになります。

続けて、もう少しスパンを拡げて、最大潜伏期間である10日間を見てみます。

●ワクチン接種後7日後…6件(牛5、豚1)
           8日後…4件(牛3、豚1)
           9日後…4件(牛1、豚3)
          10日後…3件(牛1、豚2)
              計17件(牛10.豚7頭)・・・②

さらに最小潜伏期間の24時間を加えます。

●ワクチン接種後2日後…4件(牛3、豚1)・・・③

①+②+③=52件

さて、ワクチン接種が始まった5月22日から10日間の発生状況を見ます。
5月22日は児湯郡木城の第172例です。そして10日目の6月1日は西都の第253例です。つまり81件の発症をみているわけです。

また6月10日の第282例までは、ワクチンを接種しています。ワクチンを接種せずに発症したのは、6月14日の第289例から7月5日の宮崎市の第292例の4件しかありません。

発生日とワクチンの接種日の関係は、わがブログでおなじみの岡本嘉六先生のHPでご覧いただけます。先生、いつもありがとうございます。http://vetweb.agri.kagoshima-u.ac.jp/vetpub/Dr_Okamoto/Animal%20Health/Events.htm

となると、この期間5月22日の第172例から6月10日第282例の110件の発生はことごとくワクチン接種をしたが効果がなかったことになります

私はあくまでも素人なので、この考え方でいいという確信はありません。というのは、ワクチンで抗体が上がるのが1週間ですので、そこまで勘案するともう少し複雑なことになると思えます。大雑把ですいません(汗)。

しかし、国が豪語するようにワクチン接種・全頭処分によって感染拡大をくい止めた、というのがどうも大本営発表くさいという気がしてきました。

農水省も、ワクチン接種後にこれほど多くの100件を超える規模の患畜を出してしまったことは予想外でなかったかと思います。
といのは、先ほど述べたように6月10日の発生までことごとくワクチン接種済の家畜であり、ワクチン接種していない家畜はまったく発症していないのです。これではなんのためにワクチンを打っているのか分からないではありませんか!

昨日にもご紹介した山内一也先生の指摘を思い出して下さい。先生はこう言います。

2)ワクチン接種した動物でも感染することが あります。その際には症状はほとんど出ませんが、動物はキャリアーになってウイルスを放出してほかの健康な動物に感染を広げることがあります。
         (人獣共通感染症 第116回 口蹄疫との共生」(日本獣医学会)

私は,ワクチン接種後にキャリアーとなった家畜が、ウイルスを放出して、むしろ感染拡大を拡げてしまった可能性が高いと思っています。そう考えないと、この5月22日からのワクチン接種した家畜に100頭を超える発症を出した反面、ワクチン接種していない家畜の発症はゼロであったという明らかな違いを説明できません。

少なくとも、農水省疾病小委員会の寺門委員長代理が言うように、「ワクチン使用によって、感染しても家畜からのウイルス排出量を減らすことができ、殺処分の時間を稼ぐことができる」(毎日新聞5月18日)というのは、願望にすぎなかったことだけは確かなようです。

■写真 秋空とトンボ。絵になりますなぁ。この写真ヤブ蚊にさされまくって撮りました。

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宮崎口蹄疫事件 その113  農水省は宮崎県を実験場にしたのか?

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宮崎口蹄疫事件に突如、ワクチン接種・全頭処分という方針が降りてきたのは、5月18日の農水省牛豚等疾病小委員会のことでした。

この宮崎県の運命を決めた疾病小委員会の非公開討議について、寺門誠致(のぶゆき)委員長代理はこう記者会見で答えています。

会見によると、ワクチン使用によって、感染しても家畜からのウイルス排出量を減らすことができ、殺処分の時間を稼ぐことができる。今回流行しているO型ウイルスのワクチンは現在、70万頭分の備蓄があるという。

 一方、殺処分より制圧まで時間がかかるうえ、抗体を持った家畜が感染したものかワクチン由来なのかの識別が困難となり、感染の広がりが分かりにくくなるというデメリットもある。使用に否定的な意見を述べた委員もおり、過去に外国でワクチンを使用したケースでも、成功例だけではないという。

 委員会はさらに、接種した家畜は計画的にすべて処分し、すべての家畜にウイルス抗体のない状態をつくるべきだとした。寺門氏は「そうでないと、いつまでたっても(口蹄疫)清浄国の国際的認定が得られないという意見が出た」と述べた。予防的見地から感染の疑いのない家畜を含めすべての家畜を殺処分にする措置については、欠席した委員から実施の検討を求める意見が寄せられた。だが、委員会では「今ですら埋却ができないのに、どんどん処分するのは大変だ」などの意見が出ただけで、議論にはならなかったという。
                                  (毎日新聞 2010-05-18  )

この漏れ伝わる討議内容を読むだけで、異論が噴出したことが判ります。討議の中で出てきた疑問点は記事を読む限りこのようなものです。
第1に、ワクチン接種をすれば、野外感染した個体と識別が難しくなること。
第2に、接種した家畜は全頭処分すべきであり、そうしないと清浄国復帰ができない。
第3に、接種後全頭処分をした場合、今でも埋却地が足りないのに、これ以上の殺処分の大幅な上乗せが可能なのか。

このような委員からの異論は、防疫学者としてはいたってあたりまえの感想であり、現地の修羅場を少しでも知っていれば、この状況にワクチン接種・全頭殺処分などという方針が、現実を無視したほとんど暴論に近いものだと理解できたはずです。

しかし結論は既に農水省消費安全局によって作られていました。備蓄ワクチンは70万頭分の備蓄があると言われていました。タイプはO型です。この備蓄を全量使用する、そして全頭殺処分にして清浄化確認した後、申請から3カ月間で清浄国復帰を果たす、これが国が立てた方針でした。

問題は、このワクチンのタイプが適合しているかどうかです。防疫の第一人者であり、なぜか疾病小委員会に招かれなかった山内一也東大名誉教授は日本獣医学会のHP「人獣共通感染症 第116回 口蹄疫との共生」の中でこう述べています。

現在のワクチンには次のようないくつかの問題があります。
(1)口蹄疫ウイルスには、7つの血清型があり、さらに多くのサブタイプがあるため、ワクチンは流行株に適合しなければ効果がありません。
時折、これまでのワクチンが効果を示さない新しいタイプのウイルスが出現することがあります。流行株に合致しないとワクチン効果が期待できない点はインフルエンザの場合と同様です。

ウイルスの特徴は速い変異です。ウイルスは自己増殖するための蛋白合成系を持たないために、定まった形態をしていません。そのときの状況に応じていくらでも形態を変異させていきます。今年に肺っても、アジア地域では中国のウイルスタイプがA型からO型にシフトしています。

宮崎県のウイルス・タイプはO型でしたが、では農水省が備蓄しているというO型ワクチンとまったく同一な株かといえば、山内先生が述べるようにに疑問なのです。

たとえば、第6例(初発)と認定された水牛農場のウイルス・タイプは「O/2010/JPN」と区分されました。最後にJPNと付くように、これは宮崎県で生じたサブタイプ(亜型)なのです。

言い換えれば「新型口蹄疫」、それが言い過ぎならば、「口蹄疫O型JPN亜型とでも名付けたほうがふさわしいウイルスだったわけです。

もし、ウイルスの変異スピードが予測を上回っていた場合、ワクチンの遅滞効果は非常に限定的になってしまいます。

また山内先生は続けて次のような疑問も述べられています。

2)ワクチン接種した動物でも感染することが あります。その際には症状はほとんど出ませんが、動物はキャリアーになってウイルスを放出してほかの健康な動物に感染を広げることがあります。

ワクチン接種した家畜がキャリアーになってしまうケースです。つまり、接種された家畜が、別の未接種の家畜に伝染を移す可能性です。こうなると、わざわざ清浄なエリアに、人為的に口蹄疫ウイルスをバラ撒いてしまったようなものです。自分で自分の傷口を深くしていることになります。

そして山内先生は別な危惧もあると言います。

4)自然感染とワクチン接種の区別ができないことです。

これこそが疾病小委員会で、たぶん最大の議論の焦点になったのではないでしょうか。今まで、日本が口蹄疫にワクチン接種を拒んできたいちばんの理由が、この自然感染とワクチン由来の区別が出来ないという一点だったはずだからです。

この自然感染との区別問題は、実は諸外国では解答が出ていました。そうです、マーカーワクチンの存在です。マーカーワクチンを接種した家畜からは、NSP抗体が検出されるために、まさに接種家畜のマーキングが可能です。

山内先生はこう述べています。

マーカーワクチンを接種し、NSP抗体が陰性であることを確認すれば殺さなくてすむようになったのです。OIE2002年の総会でNSP抗体陰性が確認されれば6ヶ月で清浄国に戻れるという条件を承認しました。
(予防衛生協会 口蹄疫の正しい知識 殺すためのワクチンから生かすためのワクチンへ」)

そして山内先生は、明確に宮崎県で使用されたワクチンはマーカーワクチンであったと断言しています。ちなみに知事の手記ではこんどは「マーカーワクチンではなかった」と、今まで言ってきたことをひっくり返しましたが、当然のこととして私はこの問題に関しては知事より山内先生を信頼します。

となると、ワクチン接種・全頭処分方針が果たして必要であったのか、川南町のような密集した家畜団地の地域は別として、おしなべて全頭殺処分の必要があったのか、はなはだ疑わしいと私は思っています。

マーカーワクチンならば、NSP抗体が陰性であることが確認されれば、2002年OIE総会議決で、6カ月間で清浄国復帰が可能なのです。全頭殺処分をしても3カ月、わずか3カ月間の差だけで、あれだけ健康な家畜を必死に殺しまくり、埋却したとなると、もはや単なる方針の誤りというレベルの話ではなくなります。

このようなマーカーワクチンの使用方法は、OIE加盟諸外国から見ても奇異に写ったとみえて、日本の惨状を見かねたようにOIE本部は日本にアドバイスに行きましょうか、と5月中旬に申し出るわけです。

そしてなにを恐れたのか、農水省は丁重にお断りをしました。後に、OIE本部は種牛殺処分問題でも、同様に農水省方針を柔らかく批判しています。

これはまさに農水省の賭でした。東国原知事はこのように言います。

国の現地対策本部が本県に設置されたのは、発生後約一ヶ月も経ってからだったこと? そこに来られた現地対策本部長の山田氏が「僕がここに来たのは、ワクチンを打ちに来たんだよ」と嬉しそうに、まるで宮崎が実験場であるかのように仰られた。

まさに知事が言う「宮崎県を実験場にした」という表現は、正鵠を射ていると思われます。農水省はサブタイプに変異している可能性を知りながら、そしてマーカーワクチンであることを知りながら、いずれも隠蔽して山田大臣を、現地に赴かせたのです。

■写真 ペパーミントの群落。もはやわが農場ではありがたがられることもなく、野生化しています。  

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宮崎口蹄疫事件 その112 東国原知事の手記を読む第6回 宮崎口蹄疫事件は国家防疫でなければならなかった

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東国原知事評価の難しさは、知事の意思と反した国のリングワクチン・殺処分政策に同意して推進していると事件当時には思われていたことです。

ですから、後にリングワクチン政策批判を始めると、「同意して推進したのはあんたじゃないか」という批判が生じてしまいました。

また、県有種牛問題では、法執行の平等性が問われてしまいました。まして民間種牛問題では、県有に転換するという薦田氏の意思がまっすぐに伝わらず、「二匹目のドジョウを狙って、なにをトリッキーなことをしているのか」という気分にもさせられました。

全体を通して知事が苦悩していることは理解できるのですが、どこか中心線がブレ続けているという印象がありました。これが多くの県内外の畜産農家の感想ではなかったかと思います。

これは初めのボタンの掛け違いに始まることが、事件後にわかってきました。
「初めのボタン」とは、赤松氏という論評もできないような無能大臣のことではなく、国が冒険的にも持ち出してきた「壮大な実験」であるリングワクチン・殺処分政策を呑まされてしまったことです。

これを呑まされてしまったために、知事としては不本意な「国の露払い」という評価が畜産農家の中に植えつけられてしまいました。後に事件中であるにもかかわらず知事は、リングワクチン政策に反対であったという意思を漏らしますが、そのときには既に大量の健康の家畜がワクチン接種後に殺されており、なにを今更と思われてしまいました。

このことが、県外のみならず知事自身がブログで書くように「後ろから弾が飛んでくる」ことを嘆く状況を招き寄せています。

この国の新方針を受諾する前後のことを知事はこう書いています。

「苦渋の選択、断腸の極みで受け入れていただけたのも国の責任で実行し、国が充分な補償をすると約束したからです。
お金のことばかり申し上げて恐縮ですし、農家の皆さんたちや関係者のお気持ちを考えるとこれまでのご苦労はお金には換えられないことは充分理解していますが、農家さんたちや関係者の現実の生活がそこにあるんです」。

知事がここで言っているのは、殺処分に伴うさまざま補償の財源的手当てが貧乏県の宮崎にはつかなかったために、その足元を見透かされるようにして、それを人質にされたかっこうでリングワクチン政策を呑まされたことです。

この交渉過程は未だ不明ですが、間違いなく、県は国からリングワクチン政策を実行しなければ、補償問題は進まないと言われているはずです。口蹄疫特別措置法の話も出ていると思われます。しかしこの特別措置法は、あくまでもリングワクチン政策をやってなんぼのものですから、知事にはほとんど選択肢はなかったように思われます。

続けて知事はこう書きます。

「またマスコミからは知事が国が国がと言いすぎるとの指摘を受けました。あくまでも通常の伝染病については、基本的に都道府県が法定受託事務として主体的に実施していくものと考えていますが、今回の口蹄疫のように極めて感染力が強く、県境を超えて感染拡大の恐れがある場合は、地方自治体の法定受託事務では適応できません」。

ここで知事が言っているのは、今回の宮崎の口蹄疫が伝染力の強力さにおいて、既に県の範囲を超えていて、広域に拡がらないためには国が主体とならねばだめだということです。知事は、続けてこう書きます。

「もはや広域の法定伝染病や広域災害同様、既に一自治体の範疇を超えた国家防疫でした。国家の危機管理として、国の責任において対策が求められる事態なんです。バイオテロにも通じる要素があり、私は戦争も同様とさえ思っていました」。

まったく同感です。評論家が言うのではなく、日本の畜産史上最悪の被害を出した口蹄疫と闘った首長の言葉には無視できない重さがあります。この言辞を、私たちはしっかりと今後の教訓にせねばなりません。

家伝法の見直しが始まるようですが、県に対する国の統制権限強化といった国の得手勝手に終わることなく、広域伝染病は国が責任を初動から取りきる新たな体制作りが求められています。

■写真 スペインの絵皿です。

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