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2010年10月26日 (火)

宮崎口蹄疫事件その134  現地識者座談会を読む第5回 宮崎県の現地の「壁」とは

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「ピッグ・ジャーナル」誌9月号の岡本嘉六鹿児島大学教授、宮崎大学の末吉益雄准教授、地元獣医師S氏、地元の養豚家のK氏による対談を読んでいます

前回読み進むうちに、本来国も県の隔てなく進められるべき口蹄疫防疫が、意思の疎通も統一された方針もないままに、感染急増に振り回されるようにして「本部」機能が喪失されていく様を見てきました。

「本部」から見放された処分現場では殺処分の技術さえ確立されておらず、電殺機も少ない上にしょっちゅう故障するといったていたらくでした。一日に数千頭の勢いで急増する患畜に対して、わずか1日30頭しか処分できない現場さえあったのです。

農場には、ウイルスを排出し続ける患畜が待機の順番待ちをする長い列を作り、それがまたいっそう感染拡大する悪循環の原因となる最悪の様相を呈していました。

そしてこの泥沼のような状況を救出したのは、県でもなく、ましてや国でもなく、民間の開業獣医師で組織されたJASV(日本養豚開業獣医師協会)でした。

日本養豚協会とJASVは、4月の発生と同時に独自の対策本部を立ち上げ、早期にワクチン・全処分殺をするように要請し続けてきました。この2団体は、このままの展開が続けば、必ず宮崎県全域は言うに及ばず、県外にまで口蹄疫ウイルスが持ち出されることを警戒していました。

そのような事態となれば、日本の畜産業そのものが崩壊していくことになります。かの台湾口蹄疫のように。

この危機意識からJASVは、早くも連休中の5月4日に民間獣医師の現地派遣を開始します。そして1~2週間のローテーション体制で、現地に多くの獣医師を常駐させることになります。

5月中旬以降は、山田大臣(当時現地対策本部長)の個人的アドバイザーとして1名のJASVの医師を同行させ、それ以外にも相談窓口として数名の医師を県庁に置く体制をとりました。

このように民間の養豚関係2団体が突出して見えるのも、裏を返せば県や国の既存の衛生指導体制がまったく機能していなかったからにほかなりません。

そのあたりのことをS医師はこう言います。

「宮崎県の獣医師会も第1発見者の具体的な臨床症例が伝えられただけで、それ以外のことについてはほぼなんの連絡も指示もありませんでした」。

岡本教授は家畜畜産衛生指導協会が、宮崎県で廃止されてしまったことを指摘します。

「衛生指導協会がなくなったことで、獣医師の指揮系統を調整する組織がなくなってしまった。そして衛指協は普段から伝染病、疾病に関する情報を、団体を通じて畜産農家に出していました。(発生の情報や感染状況)情報は、以前なら衛指協を通じて発信されていたはずでした」。

この衛生指導協会が、鹿児島、北海道、京都など5府県以外、事業仕分けでなくなってしまったことを岡本先生は批判しています。

S医師は衛生指導協会自体には懐疑的なようですが、やはり「非常事態における、組織の役割はなんなのか考えさせられた」と語っています。

「法定伝染病が出た時の情報伝達や指揮系統がまったく見えなかった。その中でJASVにはほんとうに助けられました」。

いわば民間組織が、県や国の機能を代行するようにして、現地で闘っていたことが改めて判ります。

また、養豚家のK氏は、今年1月に10年目の節目ということで、実は口蹄疫防疫訓練をやっていたことを明かします。ただし、その内容は行政だけの県-市町村レベルの職員だけのもので、生産者には声もかけられず、終わった後に知った、と語っています。

いうまでもなく、このような形式だけの口蹄疫防疫訓練は屁のつっぱりにもなりませんでした。

また、S医師は、本来一体となってされねばならない防疫にたくさんの「壁」があることを指摘します。

「行政の意識としては、牛が第1、豚は二の次。畜産農家ともなれば、(JA)系統が第一、(民間)商系は二の次というのが少なくとも宮崎では通常です」。

このような目に見えない「差別」は確かにあります。私の家業の養鶏など、豚のまた下で最下位ですから。しかし、現実に口蹄疫が起きてしまえば、牛も豚もないわけで、牛の感染は豚に移行しない」という誤った知識と共に、この宮崎の事件を複雑にしています。

トリインフルエンザ゙も豚と共有する感染症だと判ってきています。現実の感染症はいっそう垣根を超えて来るのに対して、防ぐ人間の側は旧態依然たることが判ります。

続けてS医師は獣医師間のことにも触れます。

「獣医師についても家保と共済の獣医師がいて、その後に民間獣医師が存在するよです。(今年1月に行われた口蹄疫)演習についてもおそらくは家保やJA関係者の中だけで行われ、私たち(民間)獣医師には伝わってきていません」。

K氏も言います。

「そもそも宮崎県の畜産の大部分が経済連に依存している状態です。表が県で、裏が経済連というほどガッチリむすびついた関係です。県家畜改良事業団の種雄牛問題もそうですが、県と経済連、JAの利益が民間の生産者より優先されたということにほかなりません」。

よく理解できます。わが茨城県の家保は非常に公平であり、いかなる「壁」もありませんが、それは私の地域でのJA組織率が3分の1と異常に低く、多くの民間出荷団体の競合構造になっているからです。

JAが圧倒的な地域では宮崎県と同様な声を聞くことがたびたびあります。平飼卵にしても、有機農産物にしても、JAがやっていないからという理由だけで、廃業に追い込まれた地域が少なからずあります。

K氏はこう怒ります。

「県内に600戸ほどある養豚農家の中で、JA系統は150戸ほどです。県や町は何事につけてもJAに話を持っていけば、それで大丈夫だと思っています。平等性に欠けるという意識すらありません。なにか指導すべきことがあっても、JAに通達すれば全部の農家に伝わると思っています。補償金の話にしても、うるさく言わなければ出てこない」。

K氏の県への不信は続きます。

「県民に向かって言っていることと、県組織がやっていることが違うことばかりの県農林水産部自体、もういらないと私は思ったことがあります。もう国の直轄でいいと言ったこともあります。身びいきと責任転嫁だけ繰り返すなかで、それくらい生産者から信頼をなくしてしまっています」。

「これから復興に向けて一緒にがんばっていこうというような姿勢がぜんぜん見られない。そのようななか、意識を変えなければならないのは、県なのか生産者なのか、考えてほしいところです」。

もう私から付け加えるべき言葉さえありません。このようなJA系統と民間商系との違い、あるいは、家保と民間獣医師の違いは短い時間で出来上がったものではありません。

いわばその地域の畜産、いや農業そのものの構造の問題です。私自身は、いわばJAや行政から見れば、在野の野良犬のような存在でした。有機農業推進法がなければ、県行政は私たちを認識さえしなかっただろうと思います。

私は、かつて県の農水課長から面と向かって、「味噌っかすのような存在」とまで言われて、さすがこわばった経験があります。

このような県行政のJAにだけ伝わればいい、JAだけ保護すればいいという意識構造が、いったんこのような危急の場合、いかなる対応となるのかは想像に難くありません。

私はこの座談会を読んで、日本養豚協会やJASVの人たちの歯ぎしりに似た声を知りました。そして彼らの反骨精神が、いち早く現地に獣医師の支援を送り込み、山田大臣に直訴のようにして声をぶつけた原動力であることが、よく理解できるようになりました。

このような見えない「壁」あるいは「溝」を超えて防疫体制を再建せねば、また必ず失敗するでしょう。人は「壁」を作っても、ウイルスは壁を持たないからです。それが宮崎県口蹄疫事件のもうひとつの苦い教訓でした。

次回も続けます。

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コメント

月刊WILL11月号の東知事の手記を数回に渡り、検証された濱田さんは、「あの言い訳と、肝心なことがまったく書かれていない東国原手記よりはるかに面白いことは確かです」と言い放ちながら今度の「ピッグジャーナル」は
大絶賛でしょうか?
私の読解力不足なのでしょうか?読み手が振り回されているような気がします。
それに、
>>「そもそも宮崎県の畜産の大部分が経済連に依存している状態です。表が県で、裏が経済連というほどガッチリむすびついた関係です。県家畜改良事業団の種雄牛問題もそうですが、県と経済連、JAの利益が民間の生産者より優先されたということにほかなりません」。

う~ん、わかるなぁ。この話を香川氏と酒席でしていたのなら、おもわず「同感!ささ、もう一杯!」と私も言いたいくらいです。

ちょいと不謹慎な表現では?
座談会の発言者の養豚農家の方が非JA系列なのは明らかですが、立場によって批判は様々ですので、それを確信犯のように取り扱うのは如何なものか?と感じました。

経済連に多くの畜産農家が関わっている事が被害拡大、問題を深刻にしてしまったとは到底思えないですし、
宮崎県はそれほど責められる立場ではないでしょう。
本日の朝刊に掲載されてた記事です。


農林水産省は25日宮崎県の口蹄疫問題を受け、農水省と
全国47都道府県が9月末に共同で実施した口蹄疫発生の机上訓練の検討会を行った。
訓練は都道府県内の農家一戸で口蹄疫が発生したと想定。
その結果10府県で発生農場が殺処分した家畜の埋却地を
確保しているかを把握していなかった。
この他、20県が発生農場内の建設の配置図を作成できず、9県では5年以上前の地図を使用。
さらに1県では、発生農場周辺にある農場の地図の作成ができなかった。

県がJAや経済連を頼りにするのは結構だと思います。普段はそれで、十分機能すると思います。ただ、今回の口蹄疫禍のなかでも、責任もって頼りにするほうもされるほうも、行動して欲しかった。蚊帳の外に置かれるなら、中では責任もって欲しかった。決められたこともせず、自ら判断することも無く、、、では、末端の自営業者である畜産家は憤りを覚えることでしょう。
 大絶賛せずとも、当たらずとも遠からずです。
日獣会誌の10月号、63 760-761(2010)に 押川農政水産部次長は、5月の連休前の感染初期段階では県のみで十分対応可能と想定していたが、その後、同時多発的な発生により県だけでの対応が困難となり、パニック状態になった。と書かれている。この次長の責任を問うことより、パニックになったという冷静な分析をしてくれることこそがいま大切なのだと思います。そういう意味でこのピッグジャーナルは外部に公開された貴重な資料だと思います。

管理人さんへ
香川氏のコメント
「そもそも宮崎県の畜産の大部分が経済連に依存している状態です。表が県で、裏が経済連というほどガッチリむすびついた関係です。県家畜改良事業団の種雄牛問題もそうですが、県と経済連、JAの利益が民間の生産者より優先されたということにほかなりません」に、強く、共感されたということですが、私には、よく分からない点があります。お時間のあるときで結構です。ご回答下さい。

『よく分からない点』
①県家畜改良事業団の種雄牛問題とは、主に特例移動のことを指していると思われますが、この移動で、「県と経済連、JAの利益が民間の生産者より優先された」との因果関係がよく分かりません。何故、民間の生産者より優先されたと言えるのでしょうか。
②種牛を守ることは、和牛繁殖農家(民間の生産者)の利益を優先しているという見方は、できないのでしょうか。無論、セリ市の後、手数料がJAや畜連へ支払われることは、明らかですが。
③その優先された「県の利益」とは、一体どのようなものを指しているのでしょうか?県有である種牛の救命のことですか?

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