宮崎口蹄疫事件 その120 初動の失敗がすべての始まりだった
ある人から、「ブログ同士の論争は、だいたいエゲツないものですが、おたくのところのはフレンドリーで驚きました」と言われました。
嬉しいお言葉です。その理由は「現役養豚家」さんも私も、相手を論破せねばならない「敵」だと考えていないからでしょう。私たちは、口蹄疫を防ぐという目的において、まったく同じ立場だと思っています。その意味では、氏は私の仲間であり、同志なのです。
私の再反論は少し時間を下さい。もう少しよく調べてみたいことなどがあります。
さて、「りぼん」様もおっしゃっていましたが、初動こそがすべてです。初動が破綻すれば、いわば防波堤の堤を切ったようなものです。押し寄せる感染拡大の津波に家畜も人も呑み込まれていきます。
今回の事件はいくとおりも総括の方法があります。
そのひとつに、4月段階の致命的な初動の失敗がなぜ起きたのか、ということを検証して総括しておく必要があります。
今回の事件は、発生点での封じ込めに失敗しています。発生農場でふうじこめることがでとれば、30万頭に及ぶ大災害に発展することはありえませんでした。
まず、ウイルスの侵入経路ですが、未だ特定されていません。疫学チームの中間報告においても不明のままで、たぶん県独自の調査でも不明で終わる公算が高いと思われます。
これは宮崎県が、空港や港から来日する非清浄国の外国人数が非常に多い県である観光県であることも禍しています。まったく水際の防疫措置が取られておらず、ノーガードで侵入したと思われます。
水際防疫は、このグローバリゼーションの時代にナンセンスと言う人がいますが、とんでもない言いぐさです。畜産業者の立場にもなってくれ、と言いたいですね。米国や豪州などの空港での、偶蹄類の飼われている農場に立ち寄ったか、牧草地に入ったかなどの細かな申請書は厳格で、申告なくして入国は出来ません。
宮崎県では、これらの申告書提出の義務づけも、消毒マットの設置もされていませんでした。海を挟んで中国、韓国がある県としては危機意識がなさすぎます。
次に、「第1例が確認された段階で10農場以上にウイルスが侵入していた」(口蹄疫疫学調査チーム第4回検討会議概要)とされている以上、3月の時点で既に発生農場周辺は、ウイルスがいくつものルートを辿って拡散していたと考えられます。
口蹄疫の拡大の地理的傾向は、下記の岡本嘉六教授の作成された図をご覧下さい。解像度が悪いので、はっきり見えません、クリックすると大きくてなります。
ならば、発生確認をした4月20日、できるならば動物衛生研に検体を送付した16日には、感染拡大がどれだけの規模なのか、どこに飛び火しているのかを全力で発生動向調査(サーベイランス)する必要がありました。
このサーベイランスこそが、この初動の鍵です。残念ながら、このサーベイランスが適格に行われたとは考えられません。この時点では殺処分の作業が行われておらず、マンパワーも余裕があったはずです。できないと言うほうがおかしい。
にもかかわらず、「口蹄疫ではありえない」とでもいうような思い込みが、県の防疫当局を支配していたと思われます。この時点で徹底した第1例近辺のサーベイランスをかけておけば、続々と感染農場があぶり出されたはずでした。
第1例からわずか600mしか離れていない第6例に調査の手が入ったのは確定した後のことです。このサーベイランスの致命的遅れは、いかに4月の人事異動期であろうとも、言い訳のきかない失策でした。
また同時に、防疫指針には、「異常家畜の発見の通報から病性決定までの措置」として、口蹄疫と確定された場合に備えての、「殺処分の場所、焼却または埋却と、その後の防疫の段取りを検討せねばならない」、とあります。
このような殺処分と埋却の段取りがどのようになされたのか、おそらくは農場主任せの場当たり的ではなかったのかと思われます。
これは、2001年の成功イメージに影響されてか、口蹄疫を甘く見ていたと考えられます。いくつか発症するだろうが、早期に治まるという根拠のない楽観があったのではないでしょうか。
だから、県は本腰を入れて埋却地を探してはいません。殺処分に埋設忘却地が追いつかなくなって、初めて尻に火が着いたのです。
そして、このような後手後手の防疫体制のまま、4月28日の畜産密集地帯である川南町の県家畜試験場の豚に感染が侵入してしまいました。こうして、牛の3千倍というウイルスを排出する増幅家畜の豚に、感染が侵入し、一挙に感染はブレイクアウトしていきます。
それが5月の初めからの事態でした。それは次回に。
■写真 シュロです。こう撮ると、なんか南国的ですね。
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コメント
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ちょっとなかなか考えがまとらなくて…鬱々としてました。
昨日の青空さんのコメントは「ああ、近いわ!」丁寧に意見を延べられていて「まさに私の立ち位置の基本になるべき存在!」、文才にちょっとだけ嫉妬(笑)。
一昨日のりぼん。さんのデータ実証型の提示も勉強に助かってます。
どうも報道の影響もあって「種牛や和牛肥育農場」をベースに考えて、濱田さんからもバンデミック期から「豚農場にウイルス入ると、増幅動物なのでヤバいよ!」と言われてたのを、いつのまにか自分でも牛に比べて軽視してしまった反省は強くあります。
やはり防疫を主導すべき国と、県の関係。牛農場と豚農場とそれぞれの業界団体の主張の隔たり。調整して指揮する防疫専門官こそ必要ですね。
現役養豚家様、そちらのブログに書くべきことでしょうが(うまく書きこめなかった)、今はこんな感じで考えが纏まってなくてすいません。養豚現場での次々子豚が産まれ、3ヶ月の移動禁止の差だけでパンクするのもわかります。
だから経済的にも感染確認時点で全処分してから再開を期すべきと言うのもわかります。
→だったら、マーカーワクチン接種やる云々以前に「悲しいけど、早く殺して埋却処理」進めるべき。(速やかに処分できる体制作りも必要)
そして牛肥育農場とは、扱いを分けるべきなのかと…。実際各種農場が近場に点在してるので難しいでしょうけど…。
ちょっと、自分でも全体防疫からは納得しがたいかもしれない結論に傾いてきました。
豚農場の厳しい防護体制と衛生第一体制を知っておりますし、各業種でやはり考えが当然異なるんでしょう。
今回の宮崎の事件では、なんといっても初動(通報)の遅れが致命的でした。あとは飛び火感染の防御。
そんな経過もあって、将来必ずやってくる災害に備えて、被害を最小限にする対策案を練って、国や県との補償を含めた連絡会・常設の格団体の調整組織が必要だと思います。
まだまだ助けられる(安全に食べられる)動物がたくさんいたはずだ!と言う気持ちだけは変わりません。
現役養豚さん。ちょっとだけですが過去ログ読ませていただきましたが、大変研究熱心で経験豊富な方とお見受けしてます。
自家製生ハムの実験検証記事なんて素晴らしいですよ。
商品化に向けて秘密裏に進めるようなことを公開してらっしゃる。
長期熟成して熟成香がフワァ ~と来るような生ハム、私大好きですよ!
投稿: 山形 | 2010年10月12日 (火) 13時33分