宮崎口蹄疫事件 その119 口蹄疫対策は、「政治主導」ではなく、「専門家主導」でなければならない
「現役養豚家」様から修正要求を頂戴しました。「激しい」とか「密室」、「圧力」という前回記事は、過剰な表現で実体にそぐわない、とのことです。
私は日本養豚協会などは、今までどおりの手続きと方法でやっていたので密室でも圧力でもない、という言い分は分からないではないですよ。そのとおりだな、と思うところもあります。
気を悪くしたらごめんなさい。表現については謝ります。
たしかに、茨城トリインフルの時は日本養鶏協会も緊急ワクチンをやらせろとやりましたしね。私も署名しました。あっさり蹴飛ばされましたけどね。あの時、養鶏協会は亀井静さんに陳情もしました。
だから、私も経験しているから、今回の宮崎の事例とずいぶん違うなと思ったわけです。はからずも、養豚協会側に重心が偏ったもの言いになったことは申し訳ありません。
では、なにが今までと違うのか、と私は考えてみたのです。
最大の違いは、相手が山田大臣だったことです。赤松氏、山田氏揃って民主党の表看板の「政治主導」したくてウズウズしているお人たちだった。
最大の違いは、相手が山田大臣だったことです。赤松氏、山田氏揃って民主党の表看板の「政治主導」したくてウズウズしているお人たちだった。
「政治主導」って、言っている民主党本人もなにかよく判ってってないようですが、赤松さんが引き起こした大潟村の減反騒動で県知事と大喧嘩になったことや、今回の宮崎口蹄疫事件を見る限り、どうやら官僚組織の頭を超えたり、同じく地方行政に対しても、上から目線で命令したりすることのようです。
今までの自民党だったら(今の現職は元の自民党農政の体質にやや戻ったってかんじですが)、あんな無茶しませんって。
原則として、仮に大臣が直接に私的に聞いたとしても、すぐになんらかの当該セクションの官僚を間に入れたでしょうし、地元選出議員や有力者にも声をかけるでしょうね。これが言い意味でも、悪い意味でも日本型農政でした。これについての論評は今日はしません。
宮崎県に対するやり形は、山田流というか民主党流「政治主導」の極致ですよ。まさに強権的、の一語。赤松さんが新潟でやった減反騒動と一緒。
「現役養豚家」様は、東国原さんを完全否定のようですが、私は彼の立場が分からないではありません。あのような宮崎県にものすごい財政負担を強いる殺処分を命じる方針を突然に持ってきておいて、しかも補償問題のお土産もちゃんとしていなかったわけでしょう。
東国原知事じゃなくても、だいたいの首長は青くなりますよ。あれでもめないほうがおかしい。自民党だったら、まず、大臣が行く前に地元選出有力議員が首長と話をして、農水官僚もなんらかの協議を事前にして地ならしをしています。
それにそれまでだって、国の対応は目を覆うばかりでした。
まさに言葉の綾ではなく、赤松大臣は何もしませんでした。今になると懐かしい表現ですが、「赤松口蹄疫事件」なんぞと揶揄されていましたね。
確かに県の過少報告が原因の部分にあったというのは事実でしょうが、農水省には農水省の統括責任があります。皆んな宮崎県が悪いんだ、では通りません。
第一、農水省はGWという感染拡大期に、大臣はカリブ海に行ってしまうし、皆んな揃って上から下まで脳死状態だったのは有名な話です。
それをいきなり、赤松氏がやっと宮崎に来たのはいいが(それも行く予定ではなかったときていますが)、県庁で威張り散らして、居直っただけという最悪の悪代官というか、バカ殿ぶりを見せつけました。
その後ですからね、山田さんがやって来たのは。感情的に宮崎県側が鬱屈してあたりまえすぎるほどあたりまえです。、
5月12日に山田大臣が登場するわけですが、いきなり「これからは政治主導だ。オレの言うことを聞け」とやれば、そりゃあ宮崎県だってこわばります。
そしてもってきたプレゼントの内容が、よりによってウルトラ級のワクチン・全殺処分という爆弾ですから、気の弱い首長だったら、その場で辞職しちゃいますよ。
私は農業とつきあうやり方としては、山田さんの方法は最悪だったと思っています。農業は頭を押さえつけての命令には、面従腹背するということになっているのです。
表面は、ハイハイお上の仰せのとおりと言いながら、実際は協力を拒みはしないが積極的にするわけでもない、という例のやつです。
この山田氏と二人三脚をやったのが日本養豚協会さんたちでした。しかも協会と共に行動しているJASVの獣医師を複数常駐させて、山田氏の事実上の顧問としているわけです。
やっぱり、ちょっと考えたほうがよくはなかったですか?あんなことをやれば、それは緊急性や国民に判る形で穏当にやっていた、県庁にも相談窓口を作っていた、という言い分は理解できますが、傍からはなかなかそう見えにくくはないでしょうか。
善意が善意とし素直に伝わりにくいのです。民主党の「政治主導」とやらに巻き込まれて、畜産家の真情が隠れてしまいがちになります。
ところで将来ですが、このような業界団体が、大臣に直接に陳情をして、防疫方針に介入することができないシステム作りが必要です。
今回はともかく(何度も言いますが、今回は理解しています)、今後このような方法がなされると、他の利害が異なる諸団体との無用な軋轢の種となります。
今回は早期ワクチン・全殺方針でしたが、たとえば「うちの団体だけ手ぬるくしてくれ。ここははずしてくれ。補償を積み上げてくれ」などという陳情などに、その都度大臣トップが右往左往していたら、非常にまずいでしょう。そして規定の防疫方針が変更されたら 、えらいことです。
そのためには首席防疫官(CVO)のような防疫専門家のトップをおいて、防疫専門官が一元的に指導するような、「政治主導」ではなく、真逆の「専門家主導」がいるのです。
「政治主導」とは、要するに体のいい「素人指導」にすぎません。
今回の宮崎では、国も県も政治トップを防疫作戦トップと勘違いしたことが失敗でした。政治家は責任をとればいいだけ、現場の作戦方針に介入すべきではありません。
それをすれば、政治的思惑で防疫作戦が混乱するだけです。あるいは、政治的なカードに堕落します。種牛問題などがいい例です。
私は今回の宮崎県の事例を失敗した「政治主導」、あるいは「禍根を残した政治主導」の典型だと総括しています。そして、その片棒をかつがされたのが養豚協会さんたちだったのではないでしょうか。
■投稿第3回は次回にします。「こんたん」様、いつもありがとうございます。あなたのデータ力はいつもスゴイですね。ブログも読まして頂いています。
■写真 なんだと思います?蟻塚ですよ。
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コメント
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私も同意です。
現役養豚家さんや養豚団体をただ批判するわけではないのです。
一消費者の立場からの同意です。
周辺国の状況や今後の対応を考えて、もう少し良い対応が出来たはずじゃないか?という思いです。
今回の宮崎でのことは、すでに起きてしまったことで、取り上げれば切りがないですが
近い未来に向けて、より良い対処ができる体制の整備が必要と考えます。
実例としては、韓国・英国の最近の対応が最も参考になるでしょう。
現役養豚家さんの、発生エリアの予防的処分には同意します。現状必要なことでしょう。
ただマーカーワクチン打っておいて、疫学調査も不完全なまま、予定したシナリオ通りに全部殺すっていうのはおかしいだろ?
それだけです。
投稿: 山形 | 2010年10月10日 (日) 09時55分
たとえば「専門家主導」によって、
一件の処分で被害が治まったとすれば、
その時、その専門家は『鬼』になると思います。
どんな段階でも、誰が、どんな対策を執るにしても、
鬼の役は必要になるのではないでしょうか?
今後どこかで不運にも、家畜の疫病が発生した場合には、
とにかく被害が少なくて済んで欲しい、
専門家主導の問答無用の早い対処が必要ですね。
移動禁止、特例は無しというようなルールを、
強く再確認したほうが良さそうです。
投稿: ゴンベ | 2010年10月10日 (日) 10時50分
補足
>協会関係の獣医師を複数常駐
JASVの獣医師は、JPPA関係者ではありません
家畜防疫、農場防疫、地域防疫の専門家としてJASVから派遣です。
誤解無きよう。
山形さんへ
良い対応にするため、業界団体がどんな動きをしたかを紹介しています。
誤解無きよう願います。
最後の?の部分については、私のブログで近いうちに取り上げます。
是非読んでください。できればコメントもほしい。
管理人さんへ
>「禍根を残した政治主導」の典型
これは全くその通りです。
このことについて、興味深い話がありますので、
後ほど、私のブログで取り上げます。
片棒云々はどうですかね??
投稿: 現役養豚家 | 2010年10月10日 (日) 10時51分
基本的に、口蹄疫ウイルスと言うものを、詳しく、正しく理解すれば、なぜ、全頭殺処分を選択したのか、わかりやすいと思ってます。
また、豚関係者は、他の伝染病においても、経済動物における選択肢として、全頭殺処分もありえることを、承知しているから、受け入れが、早いのかもしれません。牛の繁殖業の方は、豚のように、発育ステージと言う群れの考えでなく、1頭1頭を育てあげ、たとえ、ひ弱な牛でも、なんとか、適正な状態に育て上げ、出荷すると言うスタンスなので、牛飼いさんは、感情的に、理解しにくいのかもしれません。
同じ豚でも、ペット豚は、牛同様、個体を大事にして、群れで考えていません。ただ、同じ牛でも、大規模農場ですと、群れで思考して、育ちの悪い牛は、早々に、廃用にしてしまうかもしれません。
口蹄疫ウイルスとワクチンの関係を、詳しく知れば、万が一を考えると、全頭殺処分が、清浄国の維持には、イージーで、確実だと言うことは、誰でも理解できるでしょう。
ワクチン接種で、対応している国は、今でも、随分、苦労しているはずで、ずっと、監視しつづけるコストは、相当かかるでしょう。
コストダウンには、目視検査なりで、PCR検査頭数を減らすことでしか、対応できないのでしょう。
経済動物ですから、将来にわたる検査費用も、きちんと、頭に入れておかないと、ワクチンを打てば解決といかないのが、口蹄疫ウイルスと言う特殊なウイルスの特徴なんでしょうね。
投稿: りぼん。 | 2010年10月10日 (日) 17時15分
「現役養豚家」様、JASVに修正しました。
投稿: 管理人 | 2010年10月10日 (日) 18時13分
春から月の半分は宮崎で過ごしました。
口蹄疫は思う事が多すぎます。
大臣の立場、県知事の立場、前代未聞の事態に右往左往していたように思います。
防疫の観点では日本に防疫のプロが居ないのは以前から指摘をしておりました。
JASVの方々は素晴らしい仕事をされました。
頭が下がる思いです。
でも、彼らは獣医であり防疫のプロではありません。
それでも懸命に仕事をされていました。
防疫の失敗は立証されています。
東京農工大の白井教授のデータが徳島県のホームページに掲載されています。
でも、防疫の失敗は消毒剤だけの問題ではありません。
初動の失敗がこれだけのパンデミックを引き起こしました。
誰が悪いというよりも今後 二度と繰り返さないことが大切だと思います。
そのためには今回の教訓を活かしたマニュアルを作ることが大切です。
そのマニュアルを作るのに防疫のプロが必要ですが日本には居ないんです。
アメリカのCDCや陸軍感染症研究所のマニュアルを参照にすべきと思っています。
私自身も農水省など関係各所に言っていますが理解をして頂けないようです。
二度と繰り返さないためにも宮崎の畜産農家の方々が立ち上がって怒りの声を出さなければ県や国に届かないでしょう。
枯れ草や飼料に付着したウイルスは200日以上も残存します。
まだまだ、気は抜けません。
これからも大変な時期が続きますが頑張ってください。
投稿: Jin | 2010年10月12日 (火) 00時21分