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宮崎口蹄疫事件 その118  私の立ち位置について ワクチン接種・全殺処分は間違っています

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「現役養豚家」さんの投稿は非常に長文ですので、分割して掲載しています。今回は3回目をする予定でしたが、その前に私の立場を明らかにしておきます。

私の主張は明解です。今回の事件は殺処分の是非でもなく、ワクチンの是非でもありません。私はそのような二者択一的なことなど言っていません。

私はワクチン接種後にNSP抗体検査を実施し、自然感染と分別することをすべきだと思っています。今回これがなされませんでした。

宮崎県でとられた方針は、ワクチン接種した後にすべて殺すという非常に硬直した方針でした。本来あるべき発生動向調査も、NSP抗体検査もなされませんでした。

私がこの方針に強い疑問をもつのはこの点です。能力的にできなかったとは言わせません。当時、100人もの獣医師が常時現地に派遣されていました。71チーム(獣医師1名+補助員1名+運転手1名)が活動しています。

ワクチンと自然感染が分別できなかった、ともいわせません。宮崎県で使われたワクチンは、英国メリアル社製製品名Aftoporで、O型、不活化、備蓄期間は1年です。備蓄量は70万ドース。そしてNSPフリーワクチンです。通称マーカーワクチンです(農水省に確認済み)。

マーカーワクチンは口蹄疫ワクチンとしては特殊なものではなく、今はほとんどこの方法で製造されています。これは、ウイルスを不活化して濃縮して生成して作りますから、NSP(非構造タンパク質)は初めから除外して製造されます。

ですから、このNSP抗体が検出されれば、それは自動的に自然感染で非ワクチン由来だということになります。わが国でもNSP抗体検査法は2001年に既に開発されています。外国にも多数検出方法は存在します。

これらの手段を持ちながら、なぜ全頭殺処分としたのかのはっきりした理由がわかりません。元々そういう方針があったからそうしたのだ、としか「現役養豚家」さんの文章からは読めません。合理的な説明がなされていないのです。

どうも誤解されている節があるようですが、私は口蹄疫の防疫対策においてワクチン接種は切り札だと思っています。このシリーズの初期の4月段階から、緊急ワクチンをしろ、ということを叫んでいました。

ただ、当時私は宮崎で使用されたワクチンがNSPフリーワクチンだ、という確証がありませんでした。それが判ったのは、終結して山内一也先生の論考に触れてからです。

また、同様に誤解されているようですが、私は殺処分を否定する者ではありません。特に初動においては英国-韓国型の発生点から500m~1キロの半径内無条件殺処分は必要だと思っています。

問題は、このワクチン接種が自動的に無条件殺処分となる、という不合理性です。その必要などいささかもなかったと私は思います。

それは諸外国の方法をみれば判ると思います。近年の諸外国でのワクチン対策は、ワクチン・バンクを作るところから始めます。採取された各種のウイルスを不活化して、濃縮・精製します。この抗原を保管してワクチン・バンクを作ります。

そして、緊急時には、このバンクの中のストックを複合させて複合ワクチンとして接種します。日本のような非清浄国に満ちたアジア地域で、清浄国を保つためにはこのようなワクチン・パンクの創設は必須でした。まったく手付かずとは思いませんが、動物衛生研でどのようて研究がなされているのか知りたいものです。

いずれにせよ、日本の口蹄疫対策は殺処分一本槍でした。ワクチン研究はなおざりにされて、ほとんど予算配分がなされていなかったと思われます。ですから、それがいったん破られると今回のような事態になります。

今回の政府の方針は、一見ワクチン接種が前面に出てきているので解りにくいですが、単なる全殺処分政策により、無家畜地帯を作る方針だと思います。ですから、ワクチンが効いたの、効かないのなどという論議は二次的なもので、本筋ではありません(私はよくても6割ていどだと思っていますが)。

要は、感染の可能性が高い危険な家畜だけを見つけて、淘汰していけばいいだけの話です。健康な家畜は伝染を拡大しません。むやみやたらと殺す必要などまったくありません。

科学技術の急速な進化により、口蹄疫防疫は2001年時とは比較にならない長足の進化を遂げています。それにあわせて諸外国の防疫方法も大きく変化しようとしています。まず殺処分ありきは、今や世界の主流ではありません。

それを受けて、OIEも清浄国ステータスの回復の規約を変化させています。ワクチン接種後清浄確認ができれば、6カ月間で復帰が可能です。

では、ワクチン接種・殺処分は3カ月間で復帰ですから、この「3カ月間」の差をどう評価するかですが、現実にわが国が非清浄国に転落した期間中に、非清浄国からの輸出が急増しましたか?していません。これは、二国間交渉が必要だからです。

確かに輸出は清浄国にはできなくなりましたが、非清浄国には5月中旬以降変化なく続けられています。

そもそも国は、5月中旬段階で、約12万頭もの自然感染の殺処分対象を抱えて埋却地がニッチもサッチもいかなくなった宮崎県に、さらにそれまでを上回る17万5千頭もの巨大な上乗せを要求したことになります。

そのことにより処分の大幅な遅延が生じました。この処分の遅れはどのように計算されるべきでしょうか?

また全殺処分による12万5千頭の中で、自然感染した家畜、つまり本物の患畜はたぶん半分前後ではないでしょうか。仮に約6万頭だとすれば、これらの農家の再建に要する膨大な努力、財政的支援は考えるのもいやになります。

この「殺処分されなくてもよかった」可能性がある約6万頭の再建にかかる日数は資金はどのように計算されるべきなのでしょうか?

そのように考えると、この3カ月の輸出の迅速化を要求するために、殺処分のみが唯一の手段で、これだけが絶対に正しかったと言えるでしょうか。

今回の宮崎県の事件において、ワクチン接種家畜はNSP抗体検査により自然感染と確認されたもののみ殺処分すべきであったと思います。そのことにより処分数は軽減され、再建に要する日程も大幅に短縮されたと思います。

私が考える将来のモデルは、初動において1日以内の殺処分と予防殺処分とサーベイランス(発生動向調査・遡及調査)を実施します。

しかし不幸にも初動制圧に失敗して拡大した場合は、緊急ワクチン接種をした後にNSP抗体検査を実施し、自然感染した家畜のみを摘発淘汰します。

常時、初動チームと補償体制を準備し、県と国の防疫訓練を緊密に行います。またワクチン・バンクなどわが国独自のワクチン開発などや、サーモグラフィなどの簡易検査方法の準備も必要でしょう。

あえてひとつつけ加えるならば、国の対策に一部業界団体が圧力を加えて、国の方針とさせるような方法が今後常態化することは決して好ましくありません。

今回は、あまりの県と国の対策の遅れに危機感をもったためだ、と言うことで了解できますが、今後は国が常設した家畜伝染病危機管理対策セクションの中で、首席防疫官を置くなどの指揮、命令系統の整理・統合と権限の明確化が必要となります。

さもないと、今回のような県と国が火事場で大喧嘩するようなドタバタになりかねません。

それらを含めて家伝法・防疫指針の抜本的見直しは避けられないでしょう。

■写真 ミズヒキがそここに咲いています。

■補足 ワクチンを接種後無条件殺処分された家畜は10月6日のOIE へ提出されたNo.16で、125,668頭(農場数1,066)です。内訳は牛が約4,6000頭、豚80,000頭です。

したがって約17万5千頭もの家畜がワクチン接種後に殺処分を受けたことになります。これは全体の殺処分数の58%、過半数にあたります。

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コメント

「補足」の数字についてですが、農水省がOIEに提出したReport No.16 によれば、
http://www.oie.int/wahis/public.php?page=single_report&pop=1&reportid=9741

ワクチン接種した家畜は125,668頭(農場数1,066)で、この数字には
ワクチン接種後に疑似患畜となった49,525頭が含まれています。

尚、「ワクチン接種農場」の疑似患畜の数は、51,660頭(牛15,457頭、豚36,203頭)となっています。
この数字は、新生の仔牛、子豚、ワクチン接種後に生まれた仔牛、子豚が含まれるので、49,525頭よりも2,135頭多いです。

投稿: コンタン | 2010年10月 9日 (土) 10時08分

これらの手段を持ちながら、なぜ全頭殺処分としたのかのはっきりした理由がわかりません。元々そういう方針があったからそうしたのだ>>>>>

これは、そのとおりだと思います。検体採取方針が、農場単位で、擬似患畜が出れば、全頭殺処分と言う前提だからこそ、疫学症状が出ていて、自然感染の疑わしいものだけを、目視で、決めて、その検体を送るのです。群としての検体であり、個体ごとの検体を求めていないのです。

家伝法では、あくまで、その農場の全頭殺処分を決定するためだけの、検体採取方針ですので、初めから、1農場あたり、規模に関係なく、30検体採取と決めているのですから。。。

あとは、検査して、陰性、陽性が、解っても、潜伏期間とか、抗体が出来上がるまでの時間とか、時間差があり、検査結果が、リアルタイムに、家畜の症状を現していないこともあるでしょう。

また、搬出制限が長引くと、豚の場合、飼育場所のスペースが、ぎりぎりで、オールインオールアウトをしながら、育てていて、移動サイクルが短いので、6ヶ月も、豚舎内で、搬出禁止に出来るかと言うと、成長速度が速いので、無理だと思います。みるみるうちに、大きくなって、ぎゅうぎゅう詰めになりますし、どんどん、子豚が産まれてくるので、今の畜舎構造を変えない限り、6ヶ月の搬出制限は、無理でしょうね。

あとは、ワクチン接種しても、口蹄疫には、罹ってしまうと言う事実と、実際、目視重視での出荷体制では、都市部の食肉加工場へ、感染家畜が、と殺のために、運ばれてしまっているかもしれないと言う疑念は、わいてきます。

本来、外国で、ワクチン接種防御をしている実態で、どのように、マーカーとして、安定塩基構造を遺伝子操作しているのかとか、果たして、個体単位での検査が、可能であり、検査費用が、肉の価格に、見合うのかどうかでしょうか?
日本中を絶えず検査していれば、よいのでしょうが、豚肉の価格からして、数万円の検査費用が、ペイするのでしょうか?

黒毛和種の牛くらいですと、1頭あたりの単価からして、検査費用も捻出できるかもしれませんが、輸入豚肉に、差額関税をしている豚肉に、これ以上の経費が、掛けられるのでしょうか?

牛と豚、同じ家畜ですが、飼育期間、飼育法、1頭あたりの単価など、まったく違うので、同じレベルで、話をまとめるのは、難しそうですね。

豚なら、費用的には、さっさと、全頭処分して、再導入した方が、コストが安いでしょう。

愛知うずらインフルエンザの場合、経過観察で殺処分しなくてもよい農場があったのですが、全羽処分して、新規導入した方が、コストメリットがあると判断して、殺処分した農家さんが、おられたように思います。

投稿: りぼん。 | 2010年10月 9日 (土) 10時15分

>当時、100人もの獣医師が常時現地に派遣されていました。

第2回口蹄疫対策検証委員会の資料によると、
http://www.maff.go.jp/j/syouan/soumu/kensyo2.html

ワクチン接種時は、約150人の獣医師が「県外」から派遣されています。
県内の獣医師も含めれば、もっと多くの獣医師が活動していました。

但し、ワクチン接種が終わると、県外からの派遣数は、また100名規模に減らされてしまいました。全くの不思議です。

投稿: コンタン | 2010年10月 9日 (土) 10時22分

補足
今回の私の投稿は、ワクチン接種へ養豚業界がどう判断したかだけを、時系列で客観的に書いた物です。

全頭処分の合理的判断とは別問題です。

我々が要望したのは早期に使うことで、拡大を抑え、被害農家と殺処分家畜を可能な限り減らす目的からです。

誤解無きよう申し添えます。

また、JASVの現地派遣獣医師は当初は殺処分現場入りと防疫相談室開設です、対策本部に入ったのは5月18日からです。

投稿: 現役養豚家 | 2010年10月 9日 (土) 10時41分

 マーカーワクチンだったことを農水に確認取ったのですね。接種当時にはマーカーではないので全頭殺処分というのが通説(?)でした。
 山内名誉教授が風穴を空けておいてくれたわけです。
 科学的ということは、前日までの常識が否定されることは多々あることですから、後付けの証明で十二分に信頼できると思います。今後の起こるかも知れない口蹄疫の再発に有効な知見となることでしょう。
 九州地区学会の口蹄疫シンポジュウムに間に合うよう昼に佐賀まで行きましたが、突然の難産で、直前にとんぼ返りしました。予定ではマーカーワクチンだったか、FAO、OIE専門家受け入れを否定したのは誰だったか、質問予定でした。残念。

投稿: 森田文弥 | 2010年10月11日 (月) 10時16分

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