宮崎口蹄疫事件 その131 現地識者座談会を読む第2回 国関係者の中には豚に感染することを知らなかった人までいた!
前回から続けて、岡本嘉六鹿児島大学教授、宮崎大学の末吉益雄准教授、S獣医師、地元の養豚家のK氏による「ピッグ・ジャーナル」誌での対談を読んでいます。
対談は時系列を追っています。初動の遅れについて、末吉氏から、「10年前の成功に気が緩み、油断があった」という話に応えて、獣医師の志賀氏は検体送付の遅れをこう指摘します。
「今回は、発生から検体送付にまで時間がかかりすぎていた、ということが10年前と違ったわけです。1例目での異常が4月9日に通報されてから、4月19日に口蹄疫を疑った検体が送られて感染が確認されるまでにかなりの時間が経過しています」。
このあたりの状況をもう少し詳しく説明しましょう。
この第1例は、初発とされる第6例と同じ都農町内にあります。繁殖牛16頭を飼っている農家です。ここでI獣医師が牛の異常に気がつき、通報したのが4月9日です。
この2日前の7日に、I獣医師は「牛に熱があって餌を食べないのがいる」ということで往診しています。牛に発熱とわずかなよだれが見られました。治りかけの風邪と診断します。翌8日にも往診をしていますが変化なし。
そして9日に往診した際に、上唇の歯茎の根元に緒計3㍉ほどのちいさな潰瘍ひとつを発見します。「どきっとした」と医師は宮崎放送のインタビューで語っています。
そして直ちに家保に通報しました。家保はその日のうちに来訪し、検査をしてすべての蹄の裏まで検査しますが、潰瘍以外の異常がないということでその日は終わります。
そしてその牛は自然治癒してしまい、次の牛に発症したのが4月16日でした。2度目の家保の検査が翌17日に行われますが、「口蹄疫以外」のあらゆる感染症がシロ判定ということで、動物衛生研究所に検体送付することになります。
後に、この第1例の動き以前に、近隣の第6例の農場の水牛に異常が3月29日に出ており、実は3月中に10例以上の感染拡大があったことが判ります。
この4月9日から16日までの「空白の10日間」を志賀獣医師は問題視しています。
岡本教授はこう言います。
「この間、県はどれだけ危機感をもって調査したのかまったく伝わってこない。口蹄疫防疫指針には口蹄疫の疑いがある時、県は何をしなければならないのかが、はっきり書いてあります。そこに書いてあることをきちんとやったのでしょうか」。
「口蹄疫は第1級の伝染病ですから、発生した時点でそもそも非常事態です。ところが宮崎県が非常事態を出したのは5月18日のことでした」。
まさに岡本先生の怒り炸裂ですが、宮崎県が、口蹄疫ではないという楽観的な予見に支配されており、第1例の検査にしても口蹄疫の検査を優先すべきを、それをしていないという油断が致命傷となりました。
防疫指針をちゃんと実施したのか、という疑問が宮崎県に投げかけられています。これは、前回の生産者への口蹄疫発生が、実に確定後1週間後だったような危機管理意識の希薄さにもつながることです。
ただし私は、4月9日の家保の第1例の検査において、ひずめの裏まで検査をしており、わずかな流涎と発熱だけで、口蹄疫と判定できたかということに対しては微妙だと考えています。
なるほど、危機意識の希薄さは大いに批判されるべきでしょうが、発症した牛が単独であり複数頭でなかったことも合わせて考えた時、16日の複数頭の発生まで診断が遅れたということに対しては、私は同情的です。
ただし、16日に複数頭出た時点で、口蹄疫の疑いを持ってとうぜんであり、その時点での遺伝子検査の送付はいち早くすべきでした。19日に送付されるまで3日間の無駄をしています。
さて、次に座談会では豚への感染の軽視があげられています。S医師はこう述べます。
「豚への感染についてもそうなのですが、どういうわけか、口蹄疫は豚にはうつらないと信じている人までがいました。10年前の口蹄疫の株の実験で、牛と豚が同居感染実験で、発症した牛から同居した豚に感染が成立しなかったからということで、国も県も豚への感染の可能性を軽視していたからではないかと思います」。
地元養豚家のK氏も、「O型ウイルスは豚には感染しない」という人までいたと証言します。
O型ウイルスは台湾で猛威をふるっていたのに、このような根拠のない楽観が支配していたことがわかります。K氏はこう言います。
「危機感が薄かったと思います。それどころか国の関係者の中にはどうして豚に感染したのでしょう?と言う人までいました。豚に感染したら大量のウイルスが排泄されてしまう、あの地域で豚に感染したらどうなるのか、そして感染した後のことまで想定していた人がどれほどいたのかということになるだろうと思います」。
次回に、関係者が皆一様に恐れていた豚への感染拡大に論点が移っていきます。豚の感染侵入は、なんともっともバイオ・セキュリティが高くてとうぜんのはずの県家畜試験場でした。それについては、次回ということで、本日はここまでとします。
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偉い学者さんたちでもそんなレベルだったのかと…
幸いにも軽くて済んだ(済んでしまった)10年前の教訓が生かされず、まるで浸透しなかったということでしょうか?
テレビでは「偶諦類」はすべて感染の恐れがあると言ってたくらいなのに。
偶諦類じゃなかったら、馬かバクくらいなもんでしょうに…。
海外の発生と貿易状況なんかには一番詳しい方々が集まったものだろうと思ってましたが…。
投稿: 山形 | 2010年10月23日 (土) 10時31分
連投失礼します。
川南町の囮牛のシロ!と
東京や宮崎で「フェア再開」のニュース見ました。
がんばれ!がんばろう!宮崎。
投稿: 山形 | 2010年10月23日 (土) 11時02分
「O型ウイルスは豚には感染しない」という人までいた>>>>あきれるばかりだ。今、台湾を悩ませてるのが、O型だ。これは、口蹄疫ウイルスそのものが、理解できていないことになる。つまり、どんどん変異していって、あるとき、偶蹄目には、移らない塩基構造まで、変異してしまうかもしれないと言う、絶えず、変化し続けるウイルスなのに。。。だから、法律なんかで、制圧することは、不可能。だいたい、血清種が、7種で、終わりなのかも、わかりゃしない。。
潰瘍以外の異常がないということでその日は終わります。
>>>>>もともと、アフリカ水牛は、不顕性って、10年前に、発表しておいて、疫学症状ばかりに頼る水牛検査って、何?
馬鹿じゃないの?
牛は、風邪が治ると疫痕が出来るのか?
牛の風邪は、インフルエンザのように、伝播するのか?
まずは、おかしいと思ったら、隔離だろう。牛舎に、産室はあっても、隔離病棟は、ないのか?
今回、村上先生に、会う機会があったが、知識、判断レベルも、10年前で、停止していると感じてしまったのは、正しかったのであろうか????
これだから、厚労省の人医に、馬鹿にされる訳だ。
だいたい、レポートが、科学的でないし。。。エボラだって、必死で、解明しているなら、口蹄疫だって、解明できるはず。
投稿: りぼん。 | 2010年10月23日 (土) 12時00分
>牛の風邪は、インフルエンザのように、伝播するのか?
私の経験では、あっという間に、子牛には風邪が広まります。そう、2~3日もあれば、牛房内の子牛、全部に発熱、下痢、食滞、咳、鼻水という症状が現れます。このことを、風邪の菌が子牛から子牛へ次々と感染したと考えるか、気象条件(寒さ)や牛房内の環境の悪さ(埃っぽい、アンモニア濃度が高い)から同時に感染したと見るかは、微妙ですが。いづれにしても、風邪は、子牛にしか見られません。母牛の風邪は、見たことがありません。
>まずは、おかしいと思ったら、隔離だろう。牛舎に、産室はあっても、隔離病棟は、ないのか?
このあたり、微妙ですね。「隔離」をどの程度と考えるか。同じ、牛舎内では、意味が無いでしょうし。全く別の建屋として、隔離室を準備して(遊ばせて)いるほど余裕のある畜産農家は皆無でしょう。分娩舎を持ってる農家も、空き部屋が出るほどの余裕があるかどうか。皆、ぎりぎりの部屋割りで、敷地に対して最大限の飼養頭数というのが、普通なのでは?
投稿: Cowboy | 2010年10月23日 (土) 14時31分
おとな牛に風邪が移れば、異常ってことでしょうか?
親子牛だけ、別な牛舎が可能なら、そういう方法も、考えると良いのでしょうか?
まずは、母牛の風邪が牛舎で移れば、黄色信号と言うことは、わかりました。
この辺から、面倒でも、区分してやることで、早期発見する努力を、牛飼いさんがされないなら、いつまでたっても、お上のおっしゃるとおり状態からは、抜け出せないのでは?
豚も牛も、1頭あたりの最低基準面積以上は、使いたくないって言うのは、解りますが、黒毛和種を育てているなら、責めて、子牛が避難できて、普通の風邪が広がらないようになれば、おとなの風邪は、検査対象ですよね。
その畜種ごとの基準面積事態が、伝染病予防上、狭すぎる規定ですけどね。。豚なんかは、特に。。
投稿: りぼん。 | 2010年10月24日 (日) 07時00分