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宮崎口蹄疫事件 その129  赤松大臣は「主君押し込め」に合って失脚した?

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東国原知事は、養豚関係者にはえらく評判が悪く、もうほとんどアホバカ呼ばわりをされています。なぜ、そこまで言われるのか私は不思議でした。

この理由が判ったのは、「その121」で既報しましたが、日本養豚協会が5月8日に、長崎県で山田大臣(当時副大臣)に直訴に成功し、山田大臣が帰郷しての10日に議員会館で日本養豚協会と日本養豚開業獣医師協会(JASV)の両団体代表と面談して、養豚関係団体の要請どおり、ワクチン接種・全頭殺処分方針を決断してからのことです。

要するに、山田大臣と日本養豚協会の方針は初めから一緒、というより養豚協会が4月の初めから要請し続けていた方針が政府内部に持ち込まれた、と言ってもいいわけです。

そしてJASVからK獣医師が派遣されて、大臣(当時現地対策本部長)と県庁でアドバイザーという形で、共に活動することになります。一民間団体の獣医師が、「個人的」という名の下でも、現地対策本部長のブレーンとなるというのは異例の事態だと思います。

このあたりの状況は月刊「PIGジャーナル」誌5月号~10月号(アニマル・メディア社)に詳しい記事になっています。ちなみに岡本嘉六先生、末吉益雄先生、志賀明獣医師などそうそうたるメンバーの座談会などもあり、非常に参考になります。一冊2千円はちょっと高いけど、私、全冊買いました。亭主の小遣がなくなりましたぁ(涙)。

それはさておき、このような両者にとって、最大の障害は一義的に宮崎県の防疫の指揮権を持つ東国原知事でした。

解説するまでもないと思いますが、防疫は国からの法定受託事務です。したがって、国はその報告を聞き、省令に沿って監督することはできても、直接の指揮権限はありません。

ですから、あくまで県の管轄の家畜保健衛生所を指揮する権限を持つ県知事が第一義の権限者となります。

ところが県知事は、このワクチン・全殺処分に執拗に反対しました。

「そのまんま日記」7月17日にはこうあります。

5月18日、ワクチン接種を 山田大臣(当時まだ副大臣)に迫られた。「知事さん、このリングワクチンを地元に説得出来なければ、あんたのリーダーとしての資質は無いんだ。知事として失格だな」と低い声で言われた。

国の責任でやると言っておいて、地元や農家さん達への説得・同意等は地元首長達に押し付けるのだ。その高圧的な物言いにも到底納得が行かなかったし、貴方なんかに言われる筋合いは無いと思ったが、あの時、そんなことをとやかく言っている時間的余裕は無かった。(太字引用者)

この5月18日という日付は、山田大臣が国の現地対策本部長として宮崎県に乗り込んだ日付です。開口一番、山田大臣はキツイ一発をかましたわけですね。

自分で手を汚さずに、県知事にハッパをかけるだけなら猿にもできる、と知事は言いたかったようです。

この時点から、県知事の熾烈な条件闘争が始まります。この条件闘争を、岡本嘉六先生は「ゼニゲバ知事」と罵倒しておられます。先生、ちょっと言い過ぎだって・・・。

しかしこここでひとつ気にかかることがあります。果たして、山田さんは政府内部をとりまとめて、宮崎県に乗り込んだのでしょうか?

たぶん山田大臣の完全な独走であったと思われます。便宜的に大臣と書いていますが、当時は副大臣にしかすぎず、副大臣という役職は天皇の認証を経ずになれ、たいした権限もありません。

あくまでも政府対策本部長は鳩山首相であり、統括責任は農水大臣の赤松氏にあります。

この赤松大臣は当時、このようなことを言っています。

赤松広隆農相は5月18日の閣議後会見で、(中略)家畜伝染病予防法の改正や特別措置法の必要性については「今、とりたててやらなければいけないということはない」と否定的な考えを示し、「この方針で行こうと(17日に鳩山由紀夫首相と)下打ち合わせの話ができた」と明かした。
(5月18日毎日新聞・太字引用者)

この毎日新聞の記事によると、赤松大臣はワクチン接種・全殺処分を可能とする口蹄疫特別措置法に消極的、ないしは、反対の意向だったようです。そして赤松大臣と、本部長の鳩山首相も同じような考えをしていたと読めます。

これは農水省消費安全局とも異なった立場でした。

  農水省が検討している全頭処分は、感染が確認されている地点から一定の半径内が対象。県内全域など、一部で要望が出ている広域での全頭処分について農水相は「人の財産権を侵す話で、物理的にも無理がある」と述べ、否定的な見解を示した
(産経新聞(2010年5月18日)

上記の記事によれば、赤松大臣は農水省官僚の全殺処分の具申を、「財産権の侵害だ」と退けていたことが判ります。

赤松農水大臣の考えは、あくまでも既存の法律的枠組みで許された殺処分に限定していく考えだったようです。それは以下の記事にも現れています。

赤松農水相は一定地域内での全頭処分について「限定された地域で所有者の了解を得ながらなら、今の法律でもできる」と述べ、現行法の枠内で対応可能との認識を表明。家畜伝染病予防法の改正や特別措置法の制定は必要ないとの考えを示した。家畜伝染病予防法では、口蹄疫の陽性反応が出た家畜と、同じ農場内の家畜が殺処分の対象となる。
(同上・太字引用者)

つまり、当時既に養豚業界からの直訴で強い危機意識を持ち、ワクチン・全殺処分しかないと決意していた山田大臣にとって、その障害となったのは県知事以前に、彼の直接の上司である赤松農水大臣だったようです

同じく、赤松大臣を障害と思い始めていたのが、農水省消費・安全局です。

消費安全局の平尾局長は、山田氏が本部長を務める政府現地対策本部に、5月21日から派遣されています。

平尾局長は、実はたたき上げの防疫官僚ではありません。彼は1978年に佐賀大学農学部から農水省に入省しました。専攻は農業経営学です。たぶん防疫などかじったこともなかった人物です。

2009年7月に消費・安全局の局長というキイパーソンに就いています。

前職は総合食糧局次長でまったく防疫とは畑違いです。たぶん、単なる省内昇進ゲームでたまたまこのポストに就いただけでしょう。

未曾有の口蹄疫禍と「戦争」をする官僚側指揮官が、防疫とはまったく縁がない人物であったのは、なんともやり切れない気分になります。

それはさておき、消費・安全局は、この時点ですでにワクチン・全殺方針を持っていたはずです。これは動物衛生研究所ルートか、あるいは、疾病小委員会の寺門氏ルートからのアドバイスによるものだと思われます。

しかし、赤松大臣は首を縦に振らず、ペンディングのままに時間だけが推移していったという最悪の状況になっていました。あくまでも憶測の域を出ませんが、赤松大臣を4月28日にカリブ海に外遊させるという愚行を許したのも、農水官僚の秘かな失脚工作と見えなくもありません。

もちろん自己保存本能の塊の官僚が、赤松大臣に「行って下さい」と危ないことを勧めたわけではなく、大臣が「政治主導」で勝手に行くのを止めなかっただけにすぎませんが。いわば「止めない」という隠微なサボタージュでした。

こんな修羅場に行かせればどんなことになるのか、したたかな農水官僚には読めていて当然でした。

事実帰国後、赤松氏はこれにより国会で問責決議にかけられかねない所まで追い詰められ、鳩山首相の辞任に救われるようにして辞任しています。鳩山首相の辞任劇がなければ、首を取られていたでしょう。

もし農水官僚が農水大臣を不要不急の外遊に出しても大丈夫だ、と判断したのなら、それはスタッフたる官僚の大チョンボですが、官僚による「主君押し込め」だと考えるならば、説明がつきます。

ワクチン・殺処分を遂行するためには現行法の枠内ではできませんでした。もし大量殺処分をして、処分農家から裁判をおこされた場合、農水省に勝てる勝算はなかったはずです。可能とするには特別措置法を作る必要があり、それには、主君を替える必要があったのです。

農水官僚にとっての自らが考える防疫作戦を担う理想的な「次の主君」は山田副大臣でした。彼は五島で牛飼育の経験もあり、農政にも通じていました。そしてなにより悪玉になることを恐れない決断力がありました。

このようにして、舞台にはすべての役者が乗りました。山田大臣、平尾消費・安全局局長、そして寺門疾病小委員会委員長代理です。彼らが共通の「敵」と定めたのが、他ならぬ東国原知事だとしても、おかしくはないでしょう。

■写真 アカマンマが満開です。

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コメント

当時は私も「赤松の無能!バカヤロー!」と思ってましたが、う~ん…なんだかちょっと複雑ですね。
真相が明らかになるのは相当に後になりそうな話ですが。

なんか鈴木宗男&田中真紀子失脚騒動を思い出しました。

投稿: 山形 | 2010年10月21日 (木) 09時15分

「赤松の無能!バカヤロー!」>>>>これ自体は、本当です。うまく官僚なり、周りの人間を権力と地位で、使いこなして、今まで、来て、本人は、特に、畜産など、わかりようがないです。選挙区、ナゴヤで、畜産業は、存在しませんし。。。

官僚による「主君押し込め」だと考えるならば、説明がつきます。
>>>>この方向なら、上手に、言いくるめることは、可能でしょう。山田大臣のように、農業経験者では、ありませんから、適当な説明でも、納得させれますし、赤松氏は、基本的に、農水丸投げでしたから。

ただ、この説ですと、沈静化に成功した現状ですから、良いのですが、非常に、細いつり橋を農水は、渡ったのですね。やはり、特別措置法なしでは、擬似患畜の居ない農場の強制殺処分は、裁判を起こされる可能性がありますから、農水も怖かったはず。。

もともと、赤松氏に農水大臣は、無理だったので、辞めてもらうのは、良かったのですが。。

農水が「限定された地域で所有者の了解を得ながらなら、今の法律でもできる」と述べ、現行法の枠内で対応可能との認識を表明」とおっしゃるなら、本来は、28日の知事上京の時点で、ワクチン接種をしてほしかったですが。。そうすれば、殺処分頭数も減ったはず。
ワクチン接種=殺処分構想は、特別措置法の根源でしょうし。。(10年前、裁判もあったようですので、内閣法制局には、現行法で、突き進めるかどうか、確認していたはず。たぶん、答えは、当時の現行法律では、擬似が出ない限り、健康家畜を殺処分するには、農家の同意が、絶対条件と言われたのでは。。すでに、法制局で、あらかじめ、法改正のポイントをレクチャーされていたので、特別措置法の可決は、早かったのでしょうね)

投稿: りぼん。 | 2010年10月21日 (木) 10時16分

りぼん。様
鹿野道彦大臣(元自民の典型的な古いタイプの農水族で、私の地元っす)が、まさかの復活をしましたが、とにかく可能な限り最良の善後策を取ってくれることをひたすら祈るのみです。
一度失脚してから10年余りで、今では地元じゃあまり存在感が無いんですがね…。
自民党時代の若い頃は人気あったんですよ。

投稿: 山形 | 2010年10月21日 (木) 11時27分

ウイルスのことを何度も菌と言っていたわけが、解るような気がします。やはり農水スタッフが十分説明していなかったのでしょう。罠にはまったのかもしれませんね。

投稿: 森田文弥 | 2010年10月22日 (金) 09時04分

ウイルスと菌類・細菌類が違うなんてのは、農学(生理学・病理学)や医学では基本中の基本ですね。マイコプラズマ(私の時代では謎の物体)とかまで理解分類しろとは言いませんが。

つまり赤松=無知なオッサンレベル(一般人なら別にかまわないけど)が農水大臣やっていたわけですな。
秘書やブレインも無知で、ろくに話も聞いてもらえなかった農水職員なんかは、たぶんニヨニヨしながら見てたんじゃないかと…想像しちゃうと「裸の王様の政治主導」
そんなのにだれも抵抗出来ない強権政治。

今言えるのは
「やーい!バーカ、バーカ、ぶぁ~か~!!!」
「労働者のためにも、どっかの小さな労組で地味に書記でもやってて下さい。」

こんなもんでいいかな?
失脚したけど鳩山辞任巻き添え便乗で「私は悪くない」と、堂々といいそうだけど。なんせあのツラの皮の厚さだからねえ…。

私は許せませんね。
追従するだけだった舟山政務官は、経験浅いしまだ未来を残してあげたいが、あの人は代議士に全く向いてません。いい人だけに残念。
無下にされた官僚の意地悪ぶりもどうにかならんのか…。

ちょっと激しく書いて見た。

投稿: 山形 | 2010年10月22日 (金) 11時26分

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