飼料用穀物の自給の虚妄
食料自給率の統計数字の取り方を巡っては、07年に農水省が発表して以来、論議を呼んでいました。もう3年越しということになりますね。
というのは、この農水省の食料自給率のカロリーベースという方式には明らかな欠点があるからです。そのために過剰に現実離れした数字が出てしまうということが指摘されています。
さて、つい1年ほど前に民主党政権は意気揚々と「食料自給率を5年後に50%、20年後に80%」とすると公約しました。目標数値の根拠は、言うまでもなく、農水省の公表数字です。
また、この食料自給率に絡んで、民主党政権はもうひとつの爆弾的な公約もしています。それがなんと、主要穀物などを完全自給することを目指すというのです。ひぇ~!だからシロートは怖いよ。
ひとつ民主党さんにお聞きしたいのですが、現在の麦の自給率をご存じですか?わずか13%ですよ。しかも、輸入については国が主管し、輸入のサヤを国内補助金に向けてやっと「作ってもらっている」というのが実態です。こんな状態を、100%にすると!馬鹿も休み休み言ってほしいものです。
また大豆は自給率6%程度ですが、。もし衆議院の次の任期満了年となる2013年まで4年間で生産量を10倍に増加させるということになります。
これまで、転作奨励金や、作付け補助金を出して40年間3倍ていどにしか伸びなかったものを、どうやったら100%になるというのでしょう?
麦についての自給率の低さは、かつて検証したことがあります。私自身も麦を作っていたので肌で分かりますが、反あたり収量の低さとグルテンの低さ、価格の低さの三拍子が足を引っ張っているのです。
収量は米の2/3ていど、価格は米とは比較にならず、また最近はいい品種が研究所で出来てきていますが、それでもグルテン含有率が低いためにパンがうまく膨らみません。パスタにも難しい。私はグルテン粉を別途に添加して、パンを焼いていました。
せいぜいがうどんかお焼きが精一杯でしょう。そのうどんですから、日本一のうどん大国の讃岐ですらオーストラリア産小麦を使っている有様です。これでどうやって100%になるというのでしょうか。
このような浮ついた政策を、俗耳に入りやすい大衆受けねらいのボピュリズムといいます。
話をもどします。「食料自給率40%」という言葉は、文字どおりひとり歩きしています。いまや、小学生でも学校で習うような「常識」と化してしまいました。 そしてこの「食料自給率40%」を根拠として、日本農業の危機を叫び、「お米を食べよう」という食育運動となり、それに多額の税金と、多くの善意の人達が沢山関わるようになると、その食育自体は間違っていないだけに、もはや根拠に逆上って考える人は皆無に等しくなります。 しかし、立ち止まって考えて頂きたいのです。「お米を食べよう」という運動は支持します。まったく同感で、農民としても、ひとりの国民としても共鳴します。ただし、米と自給率がどのように関係があるのですか? 米はWTOがらみでMA米などを大量に買い込まなければ(しかも塩漬け!捨てるしかない)、多分100%超です。まして減反という国家が音頭を取った生産カルテルなどせずに生産力を全開にすれば、140~150%の自給率が十分可能です。 日本の食料自給率が低いのは、ひとえに小麦などの飼料穀物、大豆、菜種などの油糧穀物、家畜用飼料の自給率が低いからです。 ならば、それとワンセットになった家畜の飼料自給率を向上させれば問題解決となるはずです。このふたつの食料自給率が最も落ちた部分を持ち上げれば、食料自給率は確実に向上するはずではありませんか。 ではそのためには、どうすればいいのでしょうか? 次いで油糧穀物である菜種を作ります。あと微妙な位置にいるのが飼料用米です。これは、無理に無理を重ねてきた減反政策の苦し紛れの一環にすぎませんが、家畜飼料の自給率をほんのわずかなりともアップすることでしょう。ただし多額の税金を投入しての上げ底ですが。 と言っても、現状で米の収量の3分の2、価格も同じく3分の2の麦を農家が作ってくるれはずがありませんから、さらなる補助金の大量投入が必要です。今、膨大な小麦を輸入して、それを国家管理するという社会主義国ばりのまねをして、そのサヤの金を突っ込んでわずか13%の小麦自給率しかないのです。 これを10倍にしようと・・・ああ頭痛がしてくる。となると妙な言い方になりますが、補助金の財源である輸入小麦を10倍に増やしてもっと補助金を捻出せねばなくなります。 小麦の輸入を激増させて、その金で国産小麦を作らせるという出来の悪いギャグのような構図になります。まさに自縄自縛。これで自給率が上がったらミラクルです。 トウモロコシはもっと話になりません。私のような零細養鶏ですら、以前試算したところ20hの面積が必要でした。わずか30aの畜産農家が20hの飼料用畑を持つ。なんとまぁゼイタクな。 やってみたいとは思わないではありませんが、国策で畜産農家が皆が皆やったら悪夢ですな。通常の耕作地がなくなる。 その上、飼料の年間保管施設となると、考えただけで頭が痛くなります。まして飼料の自家配合は絶滅危惧種ですから、出来た飼料用穀物を誰がどのようにして配合して農場までデリバリーするのかまで考えないとダメです。 しかしこんな難問があっても、名目的自給率だけををアップするなら、国家が本気になればできないでもありません。 たぶん、これにも農水省は「産地元気なんとか奨励金」とか、「畜産自立なんとか補助金」とか出してくれることでしょう。ただし、今の日本の財政が持つまでの話ですが。 結果、美田にはトウモロコシが植わり、捨て作りの麦が実る。巨額の税金を使って出来た国内飼料を使って畜産の自給率は少々アップします・・・しかしこんな食料自給率向上に一体なんの意味があるのでしょうか。
いったんこのような概念が大規模に、国民的常識として刷り込まれると、後に修正が困難になります。
そうですね、日本で見かけの食料自給率を向上させようとするなら、まずは、ほぼ100%自給が可能な米はとりあえず無視して、飼料用作物を作ることです。トウモロコシ、小麦、大豆などです。
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コメント
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うーん、最近は業者と農家が協力して飼料用米作ったりしてますが、ムダとは言わないけど焼け石に水な感じですかね(米豚は美味しいです)。
麦関係もいろいろ利権絡んでるようですしねえ。
補助金無かったらほとんど作れないでしょう。最近は北海道などで高グルテンで多収なのが開発されてるとかテレビで観ましたが…。
トウモロコシや大豆・菜種なんかはムリ!
日本中がデントコーンだらけだったら…そんな無茶な(笑)
投稿: 山形 | 2010年11月24日 (水) 07時19分
山形さん。勘違いしていただきたくないのですが、私は国産穀物がいかんと言っているのではないのです。むしろ高付加価値の機能をもち、風土に合った小麦や大豆、菜種はどんどん作るべきです。
ですが、飼料用穀物はコスト面でそれは無理です。今の輸入穀物に対抗するだけの価格をはじき出すためには税金の無制限投入となります。
今の飼料用米が、まさに十重二十重の税金の塊と課しているのをみればわかります。
日本の農業が高付加価値農業とならざるをえない時代に、大収量、低コストのみを追いかけねばならない宿命の飼料用穀物は時代に逆行しています。
投稿: 管理人 | 2010年11月24日 (水) 07時28分
飼料用穀物の輸入をやめることは、無理でしょう。
ただ、複数の国、地域から輸入して、2国間外交カードにならないようにしてもらいたいですね。
小麦など、日本の急斜面、気候には、割りの合わない作物と聞いています。結局、その地域、気候には、合った作物があるのだと思います。多様な食品を求める以上、輸入は避けられないでしょうが、長期的、計画的視野で、国民が、動いてほしいですね。生産者、消費者が、合意して。。もう、生産者団体と消費者団体の国内論争など、グローバル化した時代、あまり意味を感じません。もう、国内では、生産者団体と消費者団体が、協力することが、内政上、良いのでは?
山間部の田んぼは、治水のためとか、都市近郊の田んぼは、都市廃熱を下げるためとか、都市計画を、総合的に、見直すことが、大事でしょう。
投稿: りぼん。 | 2010年11月24日 (水) 10時54分
香川のうどん用小麦の生産ですが、今、県民を挙げての地元生産に取り組んでいますよ。
うどんブームに押されてというのもあるのかもしれませんけれど、少なくとも地元の土地に合った、うどんに適した小麦の品種改良は、十数年前から地元農家やうどん店の協力を得て取り組まれてきましたから。
今年生産された二代目が比較的栽培も加工もし易いと好評で、後は消費者に受け入れられれば生産規模拡大へと耕作面積を増やしていく予定だと聞いています。
来年くらいには地元のスーパーにも一部並ぶんじゃないのかな…今は十年前に改良された一代目がオーストラリア産のものと並べて一部のスーパーで売られていますよ。
色はちょっと暗めで見た目が映えないと言われますし、輸入物と比べて扱いにくいと製麺関係者からはあまり受けはよくないのですが、コシが強くて煮込みうどんとしても申し分なく使えるところが私は気に入っています。
地元ならではの生産になるでしょうから(その土地に合ったものを作るということは、そういうことですから)、他の地域に売りに出される程生産できるようになるかどうかは疑問ですが(産地=一大消費地)、地元で消費される分くらいは地元で生産できるようになればいいなと思っています。
投稿: | 2010年12月 1日 (水) 08時29分
そのうちもう一回記事にしますが、私はこのような讃岐の小麦生産には大賛成です。大豆にしても、丹波黒豆のような優れた品種がたくさんあります。
私はまずこのような特色ある品種をそだてていくことが大事だと思っています。にもかかわらず飼料自給論では、品質が低く価格が安い飼料用を作れとなってしまいます。日本で飼料用穀物を作ることはほんとうに必要でしょうか?
投稿: 管理人 | 2010年12月 1日 (水) 08時34分