貿易も防疫も同等に目配りしての論議が必要です
どうも私という人間は、実物は協調性がありすぎるのですが、文章にするとキツイとかねがね言わています。
前回やや飛ばしすぎました。もしJA批判にだけ聞こえたら申し訳ありません。
JAを語ることは、日本農業を語ることに等しいと思っています。とうぜんのこととして、ポジティブな部分とネガティブな部分が併存します。私は全否定する気などまったくありません。
おっしゃられるように、高齢化の農業を支えているのはJAです。山間地農業もJAなくしては語れません。
そしてJAには単協や地域ごとに大きな差があります。ひとことで「JA」と語れるような一枚岩的組織ではありません。
私が具体的に知る茨城県下のJAなめがたもJAやさとも、まったく考え方が違います。共通項はJAという看板だけじゃないかと思う時もあるほどです。そして両JAとも、違った意味でとても優秀です。
両JAともある意味良きライバルで、情報交換や地域農業作りなどに協力しあっている仲です。これが出来るのは、逆説的な言い方になりますが、私の地域ではJAが相対的存在だからです。
JAが絶対支配してしまっうと、このような良き競合関係は生まれません。私はJAがひとつの農業組織として相対的に地域の中でさまざまな農業団体と協力して、地域農業を盛りたてていくというていどに「小さい」ことが、JAの活性化につながるのではないかと思っていてます。
話題を変えます。
TPPを巡る農業問題の議論の中でひとつ気にかかることがあります。それは、口蹄疫問題がまったく議論の対象にすらなっていないことです。
たぶん多くの牛や豚の農家にとってTPPとOIE清浄国との関わりが気になると思われます。
現実に、清浄国ステータスは貿易障壁として機能しています。これはどこの国も一緒で、わが国に限ったことではありません。
日本が口蹄疫でこれほどまでに早期の終結と清浄国復帰をめざした最大の理由は、あまりに清浄国転落が長期に及ぶと、日本市場に参入をめざす非清浄国の2国間交渉が不利になるからです。
このOIEコードがTPP時代にどのように変容していくのか、あるいは、いかないのかか私には予測がつきません。しかし、世界の大勢はOIEは口蹄疫の清浄国ランキングの大幅緩和に突き進むような気がします。
ご承知のように、清浄国のランキングは4つに別れます。
最上級は、「ワクチン非接種清浄国」
第2ランクは、「ワクチン接種清浄国」
第3ランクは、「非清浄国」
第4ランクは、「発生国」
今回は最上級から最下級に転落したわけでが、農水省がワクチン接種の判断に1カ月のロスをしたのは、ワクチンを打つと、口蹄疫に罹っているかいないかの区別がつかなくなる、と農水省は説明してきました。
もちろんこれは虚偽の説明で、NSP抗体検査を実施すれば判ります。そのための検査キットも海外には存在し、購入することも可能でした。
それはさておき、もうひとつの理由は、「ワクチン接種清浄国」になってしまうと同ランクの国からの輸入を拒む理由がなくなることです。このランクの国は、南米の大畜産国にゴロゴロあります。
ですから、貿易障壁として「清浄国」ランクを使うためには、ワクチン接種した後に全頭殺処分して、速やかに最上級の「ワクチン非接種清浄国」に復帰する必要があったわけです。
問題は、このOIEcord8・5・8をいつまで事実上の貿易障壁として利用できるかです。私はTPP時代には、このcord8・5・8は改定される宿命にあると思っています。
というのは、EUでは既にNSPフリーワクチンを利用した防疫があたりまえになっており、EUが日本の今回のワクチン接種・全殺処分に否定的見解を持っているのは全世界が知るところです。
となれば、EPA交渉においてEUはこのことを議題に間違いなく乗せるでしょう。これは防疫交渉が同等性を強く要求する場だからです。
NSPフリーワクチン防疫の時代においては、「ワクチン接種清浄国」を拒否する科学的根拠が急速に薄れていっており、もはやかつてのような貿易交渉のカード足り得ない時代に入っています。
つまり、「ワクチン接種清浄国」と、「ワクチン非接種清浄国」の差がなくなって、ただの「清浄国」に一本化される時代が来るかもしれません。
この認識が日本には薄すぎます。日本の防疫学者、特に動衛研系統の人たちは海外の趨勢に眼を閉ざしているように思えてなりません。
日本国内向けの論理ではなく、海外が何を言ってくるのかを知らないでいては、必然的に貿易交渉には勝てません。
今後は貿易も防疫も同等に目配りしての論議が必要です。
それにしても「青空」さんもおっしゃっていましたが、黒船が何かも知らず、江戸湾を開けてしまい、なんの備えもない丸裸なわが国とはいったいなんなのでしょうか。
■写真 今朝の北浦の夜明け。
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コメント
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日本国内向けの論理ではなく、海外が何を言ってくるのかを知らないでいては、必然的に貿易交渉には勝てません。
>>>>これは、そのとおりだと思います。ただ、実際、全頭殺処分か、ワクチン接種なのか、決めるのには、結構、勇気とリーダーシップが、必要で、霞ヶ関の合議制で、プランを上司に上げる方法だと、無難なのは、全頭殺処分だったんでしょうね。(政治や行政は、一度、決めたら、なかなか方向転換がきかないですし。)
もし、ワクチン接種を選んで、終息せず、長引いたら、役人で、自殺者が出たかもしれないし。。(もちろん、そういう論理で、結論を決めてもらっては困りますが)
投稿: りぼん。 | 2010年11月21日 (日) 15時22分
自民党政権時代、与党議員の誰かが「一度くらい民主党に政権運営を任せてみるのも良いのではないか?という考え方が最も怖い」と、論じてましたが、それはまさに現実化
しようとしています。
関税撤廃後の農村風景は、現在の田舎の商店街と同じ眺めに映ると想像してます。
小規模の商店は次々と廃業に追い込まれ、シャッターが閉じたままで、今では「シャッター通り」とまで呼ばれています。大量販売、大幅値下げの大型ディスカウントショップ店に勝てるはずがないのに、今の政府は、勝負してみろと脅しているようなもんです。
管理人さんのおっしゃるようにネットワークの形成とか販路開拓等、可能性は秘めてるとは思いますが、
牛肉、牛乳に限って言えば、生産者は生産はできますが、販路開拓までやれと言われても、かなり無理があると思います。
そして、農業が輸出産業にまでなり得る産業と妄信する事が危険なのは、今回の口蹄疫問題で、多くの牛肉輸出業者が廃業に追い込まれた事でも明らかです。
投稿: doll24 | 2010年11月21日 (日) 20時33分