今の日本農民に一番足りないのは土地でも金でもない。それは危機感です
doll24様がコメントで書かれているように、JAに期待したいという気持ちは私にもあります。というか、この自由貿易圏時代という名の「農業冬の時代」に頼れる全国組織はやはり、なんやかや言ってもJA全農であることは確かです。
私の住む地域は、全国でも稀なるJAが3分の1の出荷量しか持たない地域です。
そのために各種の農業団体が非常に発展しました。ほとんどありとあらゆる種類の農業団体が花盛りです。これがわが地域の農業をかえって強力なものにしました。
つまり、日本農業で失われかけている競争原理が働くのです。栽培に対する工夫、デリバリー・ロスの軽減、品質の均一化と高品質化、トレサビリティの強化など、他の産業分野のすべてがあたりまえのこととして行っていることを、私たち農業者もせざるをえなくなっています。
これが「行方の野菜」総体のブランド化につながりました。「ブランド」ということは、ただこじゃれた名をつければいいということではもないし、目先の変わったものを作ることだけでもありません。産地総体のバワーの底上げだからです。
産地のパワーを強めるには、生産者が自分でも「売る」、「消費者と話す」、「自分の農産物の品質を高めていく」、ということをせねばなりません。
ところがJAはそれを長年放置してきました。農民はただの「作る人」、そして売ること、消費者と話すことはJA職員がすることという悪しき分業が成立して固定化されてしまっています。
農資材も、いくつもの流通や卸を当たって見積もりを取るのではなく、JAから言われるままの値段で買ってきます。これで農民のコスト意識が目覚めるはずがありません。おまけにそれが補助金頼みならなにおか況んやです。
そして自分の農産品を売ることも、都市消費者や流通が何を求めているのかも考えようとしません。それはJA職員の仕事だからです。
こんなことを60年もやれば、農民は自分の足で立ち,自分の脳味噌で都市の流通や消費者と渡り合う気概を失くします。
私はこれをJAの愚民化政策と呼びます。ぬるま湯に漬けて、失くしたのは農民の気概なのです。
そしてJAは今や、資材業と金融業で食べるJALのような半官半民企業のようになりました。
そしてこのJAにおんぶに抱っこのようにして県や国の農政があります。今回の宮崎でも、県は系統を重視し、商系を軽視したという声を聞きました。
私の団体は県の農水課長から「味噌っかす」と面と向かって呼ばれました。その場にいた県下の有機農業団体の代表たちは皆一様に青ざめました。県の農政の有機農業に対する意識などしょせんそんな程度なのです。なぜならJAは有機栽培を扱っていませんから。
さて、TPPで連日のように日本農業新聞は檄を飛ばしています。そして何度も大規模なデモをかけました。
各地域からも動員で駆けつけたようです。部会には動員割り当てが来て、行く者が少ないので部会長と職員で駆けつける。お仕着せのゼッケンを付けて、デモをし、弁当と手当てを支給されて帰る。
出かけた仲間によればショボイものだったそうです。これでTPPに勝てますか?!日本農業存亡の危機だというのに、全国動員をかけてたったの3千名ですよ。かつての米価闘争の熱気を知っている世代だけに驚きでした。
今の日本農民に一番足りないのは土地でも金でもない。それは危機感です。ひりひりするような危機を感じ、それに全力で立ち向かう気概です。
JAがあるからなんとかしてくれるだろう、JAがあるからオレの世代は大丈夫だろう、そんな他人依存の体質がここまで日本農業を沈下させたのではないでしょうか。
産地間競争はdoll24様が仰せのように強まるでしょう。私はそれはいいことだと思っています。
国内の産地間競争に勝てないで、どうして外国農産物に勝てますか?
外国農産物につけ入らせないためには、各産地、各農業団体、そしてひいてはひとりひとりの農民が強くなるしかないのです。
その最も大きな足かせになっているのは他ならぬJA全農です。
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コメント
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農協が元々悪かったわけではないんですが、高度成長~都市部への労働力移動の時期に、補助金ジャブジャブで自民党の集票マシーンとして取り込まれていった。その時点で時代遅れのシステムになっていった…。
最近は小沢と民主党がシステムまるごと乗っ取ろうと画策。
もう、そんなことやってる場合ではない。TPPは日本がすんなり加入できるかという問題がありますが、確実に自由化の大波がやってきます。
頑張れ日本の農家!
大きなピンチであり、それはチャンスにもなり得るはずです。
投稿: 山形 | 2010年11月20日 (土) 08時52分
JAも連合会も全農も元を正せば、農民運動から始まった事であり、農民の地位や経済を少しでも向上する様に、共同購入・共同販売が起源です。
現在の組織は、組織の為の組織になっている事が問題であり、あくまでも農民の為の組織である事を、ややもすると忘れている事が濱田様も指摘しているような問題が存在するものと思います。
北海道でも全道段階の役員に就任すると、一農業者だった時の思想はどこかに吹っ飛び、組織の理論で動いているのが現状です。その組織の事務方がどのような原原案を考えるかが、問題解決の糸口になるものと思っています。
マスコミでは官僚の天下りが事業仕分け時でも話題になっていますが、我北海道でも農業団体(JAレベルではなく全道レベル組織ですが)の天下りが当たり前のように行われています。
このような事にメスを入れないと、組織は変わらないでしょうね?
投稿: 北海道 | 2010年11月20日 (土) 12時06分
管理人さんへ
産地間競争が激化することを是認されておられるようですが、果たしてそうでしょうか。
現時点で、高齢化が進む稲作・畜産関係では、その競争に挑めるほど、体力・ポテンシャルがあるとは思えません。つまり、当該激化で、潰れる・離農する農家が増えるでしょう。こういった、淘汰が本当によいと言えるのでしょうか。
私はこう考えます。
そういった土地を持っている弱者(大多数)が、海外農産物に対してどのように立ち向かうかといえば、最終的には、何らかの大きな組合に依存するしかないと考えます。
日本の和牛(格付け3等級以下)の世界も、外国産牛肉に対して対抗できるだけの体力があるや否や。4等級以上の格付けの牛肉でも、県単位で行っている競争(秘密主義)など止めて、日本という単位で、協力しあう(情報開示など)時期に来ていると考えます。実際は、県内でも、市場ごとの競争があります。国内限定のディスクローズが必要ではないでしょうか。情報を共有する方向で行くほうが、様々な試みも可能ではないでしょうか。
黒船が来るというのに、国内で小競り合いが頻発し、弱者を切り捨てることに繋がることが、果たして、良い方向に向かうでしょうか。
投稿: Cowboy | 2010年11月20日 (土) 13時36分
Cowboyさんの意見とまったく同感です。
私は酪農は組合に牛乳を出荷し、自分の
ブランドの製品はすべて自分で売り先を
確保してきました。また補助金も受けていません。
養鶏はどうか知りませんが、私は何もかも
農協を悪者扱いにして独立でやる農業者が
今後も生き残れる進歩的な農業者だという
考え方には以前から疑問を感じています。
農協ごとにカラーもありますが、少なくとも
私の所属する農協では政治的な締め付けは皆無
ですし、実際金融担当などは電話一本で
来てくれるし、製品の梱包資材は安く売ってくれるし
農協の存在には感謝しているくらいです。
いいところ取りをして周りとも協調できるところは
してしなやかにしたたかに生きる才覚は
必要だと思います。
産地間競争と国際競争はまた別のものです。
また老齢農家にはJAがあるから生活が成立して
いる家庭も多くそれらの切捨てになるような
発想には強い疑問を感じます。
投稿: けい | 2010年11月20日 (土) 15時52分
追伸です。
群馬の農政の課長たちは公私共に
本当に私に良くしてくださいました。
私たちの努力や成果に敬意を表してくださり、
ブログをはじめてすぐに素晴らしい日記を
がんばって続けてほしいと応援してくださったのも彼らでした。管理人さんが不愉快な思いをされたことは
本当によくわかりますが、それだからすべての農政
担当やJAが悪いというのも感情的かと。
私がしたたかなのかもしれませんが、当初から
JAも県も本当に応援してくれたことは
今でもかけがえのない財産です。
すべてを敵に回して成功してもむなしいと
私は思います。長文失礼いたしました。
投稿: けい | 2010年11月20日 (土) 16時02分
農業は個人経営が大多数である。経営者である農民が自立した経営を行うのは、当然の帰結である。TPPや農林水産省、その上農協と色々と圧力がありますが、自らの足で立つ農業を行わないと、内外の圧力に耐えられません。所有面積が90aの農民ですが、400年来の家業を絶やすわけに参りません。負けるか、内圧・外圧。頑張るぞ。
投稿: 長澤源一 | 2010年11月20日 (土) 21時33分
こんばんは、青空です。
私は銀行員として、様々な産業の盛衰を目の当たりにしてきました。
最近では繊維・眼鏡業界でしょうか。
韓国・香港・台湾・中国・ベトナム等の台頭と円高水準の継続で、青森や福島に拠点を置く繊維製造工場はほぼ壊滅・危機的水域に移行しました。
当然彼らには元々国家保護も地域保護もありません。
保護してくれる組合組織も政治家もほぼ皆無です。
急激な東南アジア諸国の技術水準の向上とアジア各国の国をあげての最新鋭設備の連続投入で、もとより資金繰に苦しい国内産業拠点は大量の失業者と返済できない借入金を残し消えていきました。
後になってわかったことですが、東南アジアの縫製技術水準を極限まで高めたのはほかならぬ日本人でした。一部は大手の製造メーカーの関連子会社、一部は自ら日本を離れ、新天地をアジアと定めた元繊維製造メーカーの社長・技術者等。同じ日本人がそれぞれの生き残りをかけ行動した結果と言えます。私にはそれらの行動が売国奴であるとは言えません。皆、生き残るのに常に必死だからです。生き残りその会社の精神、あるいは従業員、技術を継承することに命をかけている人々の行動を軽々に非難することはできません。
もちろん全ての国内繊維製造業(糸・メリヤス・テキスタイル関連、縫製)や眼鏡製造業が消えたわけではありません。一部は長い準備と試行錯誤の末、高級品へのシフトや注文の3日後にはどんな小ロットでも配送するスピード・品質の確保等により他社を駆逐し、海外との競争に勝てる能力を有した中小企業もかなりの数あります。
勝ち残った繊維業者(糸・縫製工場社長)に話を聞いた時、彼はこう言っていました。
「生き残ったのは運が良かったからだ。」
ただその後、随分考えた後、こうもいっていました。
「我々はこの嵐の中、ありとあらゆる試行錯誤と手痛い打撃を受けながら、幾度の危機を乗り越えた。中には取り返しのつかない失敗となり破産した同業者も多い。ただ、今生き残った業者に共通しているのは、血を吐くような努力を続けてきたことだ。努力が必ず報われるというのは幻想だが、生き残ったものは例外なく呆れるほどの努力と苦労をしていた。後は神棚に祈るしかない」
既にTPPをはじめとする自由貿易方針は走り出してしまいました。海外報道で既に日本の参加方針は明確に示されてしまいました。
愚かにもなんの準備もなく港を開け、黒船を江戸湾に呼び寄せ「これで国が開かれる」と間抜けなせりふを吐いているやっこさんには呆れてものが言えませんが。入ってきた黒船は既に上陸するほかなく、陸上では準備が整っていようがなんだろうか、生き残りをかけ戦うほかありません。
私は本件は農業のみでなく、全産業の大規模変革を強制する戻ることのできない混迷期の門をくぐってしまったと感じています。
TPPにより日本の上場メーカーは大義名分を得てアジア各国に工場を移転することができます。国内の工場がなくなるということは、円高で壊滅的な打撃を受けている中小企業は相当な危機を迎えるでしょう。
激烈な生存競争が始まる中、皆様の隣人の何人かあるいはご自身、もちろん私も荷物をまとめることになるかも知れません。全員を今まで通り維持することは既に現実的ではありません。ありとあらゆる分野の人々が全てのネットワークと知恵と行動により生き残りをかけ戦わざる得ない時代となるやと危惧しています。
投稿: 青空 | 2010年11月20日 (土) 22時54分
JAの立ち位置や役割も北海道と都府県、都府県でも純農業地帯か都市近郊などの違いによって、様々だと思います。かなり以前に府県の農家にお邪魔した時、1農家が、農協や酪農組合、畜産農協など複数の組合に加入している事を聞かされ、カルチャーショックを受けた覚えがあります。北海道では1町村に複数のJAがある所もありますが、ほとんどは1町村に1JAであり、そのJAを核に事業を展開しています。当然市町村行政と連携を取りながら、様々な振興策を講じていると言うのが現状です。都府県の詳しい状況は把握していませんから、何ともコメント出来ませんが、組織の為の組織ではなく、農家組合員の為の組織である事を優先して考えれば、自ずと答えは出てくるのではないでしょうか?
投稿: 北海道 | 2010年11月21日 (日) 10時50分
事の根源は、国民教育に、行き着くと思います。
どんな状況になろうとも、国民ひとりひとりが、正しい判断が出来れば、どんな産業も、生き残れると思います。
輸入品を買って、国内が疲弊して、高い税金を支払うのが、よいのか、多少高くても、安心、安全、信頼のおける国産農産物を買って、健康で、暮らせば、医療保険金も安く済むと、判断するのか。。
もう、関税という、障壁での保護貿易は、世界では、通用しなくなったと見てよいと思います。
農業で言えば、知的財産(良い作物を作る技術や知識)が、大事でしょう。野菜の栄養価だって、路地物と、輸入物では、ぜんぜん違う訳ですし。。
栄養成分ベースとかで、表示すれば、商品価値も、変わってみえるはず。
自分は、今は、ノンホモ牛乳を飲んでますが、これが、以外と都会では、手に入らないのです。結局、いくつかの農場の牛乳が混ざって処理されちゃうので、えさを良くして、質を高めても意味がないってことみたい。質の違いを消費者に、教育することも、農家の仕事かも。。
投稿: りぼん。 | 2010年11月21日 (日) 12時50分
確かに、基本的に、教育がしっかりしていれば、農業だろうが、工業だろうが、上手くいくことは、明らかです。
無論、犯罪も激減するし、飲酒運転も自殺も撲滅できるでしょう。
世の中、教育が充実すれば、全て上手くいくはずです。
でも、そんなこと、小さな分校であっても、恒久的に実施することはできない。
投稿: Cowboy | 2010年11月21日 (日) 13時34分
世の中、教育が充実すれば、全て上手くいくはずです>>>>
今、日本では、農業以外でも、教育に、ひびが入っています。幼稚園と保育所を、10年後には、廃止して、こども園という名の託児所だけにしてしまうと言う案が、内閣府で、実際進んでいて、来年、法律化することまで、ほぼ決まっています。
教育の充実は、無視です。教育の量だけ、提供するのです。毒入り餃子とどこか似ていませんか?
http://www8.cao.go.jp/shoushi/10motto/08kosodate/wg/index.html
http://www8.cao.go.jp/shoushi/kaigi/kettei10/pdf/s1.pdf
まあ、簡単に言えば、教育は、やめて、託児サービス業にしようという考えです。大学ですら、レジャーランドと言われてますから。。
投稿: りぼん。 | 2010年11月21日 (日) 14時35分