宮崎口蹄疫事件 その142 7例目大型農場「A牧場」の疫学調査チーム報告書
続いて7例目の大型農場「A牧場」の疫学報告を掲載します。
この7例目は、家保への報告の遅れ、えびの市への感染拡大のハブとなり、大規模法人経営にもかかわらずグループ13農場を診る獣医師が1名しかおらず、従業員の防疫意識が低くいことが指摘されています。
また、経営者が会見に応じないなどの社会的責任を疑わせる行為も見られました。
この7例目から死体処理業者が4日後に12例目(グループ企業・7例目とは別個)を訪れていて、ここからウイルス伝播したと思われています。この12例から10例(県試)、13例へと伝播したと報告されています。
8例目にはA牧場の自社のわら運搬車両を経て伝播したものだと思われています。このわら運搬車は堆肥にも使用され216例目に伝播しています。
企業グループ特有のワラ共同集積所やその運搬網が堆肥運搬の車両と共用していたために、一挙にそのグループ全体にウイルスを拡散させたものだと思われます。
なお、読みやすくするために適時改行とゴチックを施してあります。原文はこちらからどうぞ。http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/katiku_yobo/k_fmd/pdf/ekigaku_matome.pdf
■7例目 ウイルス侵入推定3番目
所在地:川南町
飼養状況:牛725頭
発生確認日:4月25日
推定発症日:4月8日
推定ウイルス排出日:4月5日
推定ウイルス侵入日:4月1日
■〔発生の経緯〕
4月8日頃: 道路側牛舎の複数頭に食欲不振が確認された。
4月9日以降: 多頭数に食欲不振改善薬を投与。
4月13日: 食肉処理施設に肥育牛9頭を出荷。当該農場で9頭を積載した後、同一車両で9例目農場(えびの市)で肥育牛3頭を積載。
4月17日: 農場全体で咳・鼻水等の風邪の症状を示す牛が発生。
4月18~20日: 4月8日からの食欲不振と風邪の症状を示す牛が増えたことから、飼養牛全頭に抗生物資を投与。
4月22日午前: 道路側牛舎にて発熱、微熱、食欲が落ちた十数頭に流涎、びらりゆうぜんんを確認し、本社に報告。
4月23日夜: 本社より家保への通報を許可する旨の連絡あり。
4月24日朝: 家保に通報しようとしたところ、家保から農場に立入検査の連絡(2例目農場と飼料運送車を介した疫学関連農場だったため。)があり、その電話で異常牛について通報。
4月24日午前: 家保が立入検査し、半分程度の牛房(畜舎の中を柵などで囲った牛の飼養スペースで、肥育牛の場合には、1牛房で数頭から十数頭の牛を飼養するのが通常である。)において流涎を示す牛の存在を確認。鼻腔・鼻鏡の潰瘍・びらん、舌の粘膜剥離を確認した5頭について、血液及び鼻腔スワブ(鼻腔内のぬぐい液)を採材。なお、蹄には異常は認められなかった。
■〔要因ごとの調査結果〕
■1 家畜関連
① 牛の導入
【侵入】
本年に入ってから牛は導入されておらず、直近では、昨年11月に高鍋町にある同一系列の216例目農場(5月26日発生)から77頭を導入した。
この牛の導入時期は、当該農場にウイルスが侵入したと推定される時期よりもかなり早いため、このことがウイルス侵入の要因となった可能性は低いと考えられる。
② 牛の出荷
【侵入】
当該農場が利用している家畜運搬業者は1例目及び6例目農場を訪問しておらず、当該農場へのウイルス侵入の要因となった可能性は極めて低いと考えられる。
【伝播】
4月に入ってから32頭を同じ運搬業者のトラックで出荷している。そのうち、4月13日は、当該農場で9頭を積み込んだ後、えびの市の9例目農場(4月28日発生確認)を回って3頭を積み込み、食肉処理場へ出荷している。
4月13日は当該農場に発症牛がいたと推定され、また、9例目農場にウイルスが侵入したと推定される時期(推定ウイルス侵入日:4月10日)と近いことから、このことが当該農場から9例目農場にウイルスが伝播した要因となった可能性が高いと考えられる。
③ 死亡牛の処理
【侵入】
死亡獣畜処理業者は1例目及び6例目農場を訪問しておらず、死亡牛の処理がウイルス侵入の要因となった可能性は極めて低いと考えられる。
【伝播】
小丸川以北(川南、都農、高鍋の一部)の農場を回収範囲とする死亡獣畜処理業者が、当該農場の死亡牛も回収していた。この業者は自社トラック3台で当該地域の各農場を回っており、当該農場には、今年に入って1月25日、2月19、22日、3月5、6、22日、4月7日に立ち入っている。
この業者は、回収時は自社から持ち込んだ長靴に履き替えて作業し、口蹄疫発生後はさらにハンディタイプの消毒器を携行していた。
4月7日は当該農場でウイルスが排出されていたと推定される時期であり、同日に2例目農場(推定ウイルス侵入日:4月5日)にも立ち入っていたことから、死亡獣畜処理業者の車両を介して当該農場から2例目農場へウイルスが伝播した可能性があると考えられる。
当該農場からの牛の移動や死亡牛の処理等に関しては、牛の移動履歴に関する基礎データである牛トレーサビリティのデータを別途整理し、さらに死亡獣畜処理業者やレンダリング業者から当該農場関連の情報提供を受け、当該農場の台帳と照合した結果、両者のデータが整合することを確認した。
■2 飼料関連
【侵入】
当該農場に飼料を搬入していた飼料運送業者と、当該農場以前にウイルスが侵入していたと推定される1例目及び6例目農場の飼料運送業者はそれぞれ異なっており、関連が認められない。したがって、飼料運送業者がウイルス侵入の要因となった可能性は低いと考えられる。
【伝播】
当該農場が利用していた飼料運送業者は複数あり、そのうちの一事業者について、4月
3、9、17日に当該農場に配送した同一車両が、4月15日に2例目農場、4月16日に9例目農場に飼料を配送していたものの、2例目及び9例目農場にウイルスが侵入したと推定される時期(推定ウイルス侵入日:4月5日及び4月10日)とずれていた。
他にも同一車両が他の発生農場に配送していたケースがあるが、いずれも配送日とウイルスが侵入したと推定される時期がずれており、この飼料運送業者がウイルス伝播の要因となった可能性は低いと考えられる。
上記とは異なる飼料運送業者の車両が4月2日に当該農場に立ち入っており、同一車両が4月3日に8例目農場(推定ウイルス侵入日:4月7日)に立ち入っている。8例目農場にウイルスが侵入したと推定されている時期に近いことから、この飼料運送業者がウイルス伝播の要因となった可能性は否定できない。
また、児湯地区にある系列農場の共同の飼料用わら倉庫が高鍋町にあり、地元産のわらを各系列農場に自社トラックで配送していた。また、系列農場のうち、二つの農場(216例目と非発生農場)にたい肥を集約し、たい肥の運搬に使用したトラックをわらの運搬にも使用していた。
直近では、4月10日に当該農場からのトラックがわら倉庫を訪問していた。4月10日は当該農場に発症牛がいたと推定され、また、8例目農場にウイルスが侵入したと推定されている時期(推定ウイルス侵入日:4月7日)と近いことから、わらやたい肥等の運搬に使用された自社トラックが、8例目農場への伝播の要因となった可能性は否定できない。
■3 敷料関連
【侵入】
ウイルスが侵入したと推定される時期に敷料を搬入していた業者は、この時期に既にウイルスが侵入していた1例目及び6例目農場との関連が認められず、敷料運送業者がウイルス侵入の要因となった可能性は低いと考えられる。
■4 人関連
① 獣医師
【侵入】
児湯地区には同一系列の13農場(発生:9農場、非発生:4農場)があり、全体で約1万5千頭の牛を1名の専属獣医師が担当していた。聞き取りによれば、獣医師は、ウイルスの侵入推定時期には1例目及び6例目農場を訪問しておらず、当該獣医師がウイルス侵入の要因となった可能性は低いと考えられる。
【伝播】
当該獣医師は、通常、227例目農場に詰めており、各農場からの問い合わせに対してはまず電話で対応し、必要があれば問い合わせのあった農場へ出向いて指導していた。系列農場間を行き来していることから、このことが系列農場間におけるウイルスの伝播の要因となった可能性は否定できない。
② 従業員
【侵入】
従業員等への聞き取り調査により確認したところ、従業員は1例目、6例目農場を訪問しておらず、当該農場へのウイルス侵入の要因となった可能性は低いと考えられる。
なお、従業員については、出勤簿でその勤務状況を確認するとともに、聞き取り調査を行い、本年に入ってからの海外渡航歴がないことを確認した。
【伝播】
児湯地区の同一系列農場には肥育農場と繁殖農場があるが、系列内の複数の農場を行き来している従業員がいることから、従業員の出入りが同一系列農場間におけるウイルスの伝播の要因となった可能性は否定できない。
③ 削蹄師
【侵入】
4月5、6、9日に削蹄師が当該農場に立ち入っており、同じ削蹄師が4月9日に144例目農場(推定ウイルス侵入日:5月8日)へ、4月15日及び16日には228例目農場(推定ウイルス侵入日:5月18日)に派遣されていた。
しかしながら、当該削蹄師は1例目及び6例目農場の削蹄は行っておらず、削蹄師がウイルス侵入の要因となった可能性は低いと考えられる。
【伝播】
削蹄師が立ち入った時期は、144例目農場(推定ウイルス侵入日:5月8日)及び228例目農場(推定ウイルス侵入日:5月18日)へのウイルスの侵入時期とずれていることから、削蹄師が当該農場からウイルスを伝播した要因となった可能性は低いと考えられる。
■④ 海外研修生等
【侵入】
関係者への聞き取り調査や当該農場の出勤簿等により確認したところ、海外からの研修生や従業員を受け入れていた事実は認められなかった。
また、海外からの研修生受入関係団体にも確認したが、当該農場が研修生を受け入れていたという事実は確認されなかった。(当該農場でも訪問者に関する記録はとられておらず、これ以上の詳細な調査は困難であった。)
5 野生動物
野生動物の目撃情報は特にない。
6 その他
当該農場においては、口蹄疫発生以前には入場する車両に対する消毒は実施していなかった。
また、当該農場は3例目農場(4月21日発生)と道路を挟んで斜め向かいに位置している。当該農場においては、4月24日に家保が立入検査した際、全体の半分程度の牛房で発症牛を確認しており、かなりの量のウイルスが排出されていたと考えられる(推定ウイルス排出日:4月5日以降)ことから、3例目農場(推定ウイルス侵入日:4月10日)への近隣伝播がウイルス伝播の要因となった可能性は否定できない。
〔まとめ〕
■当該農場は、同一系列の他農場等との間で、人、車両がかなり頻繁に往来していたこともあり、系列農場間の関係も含めて詳細に調査した。
■当該農場へのウイルス侵入要因については、特に6例目農場及び1例目農場との関連に注目して関係者に対して聞き取り調査を行ったが、当該農場への入場者の記録がとられていなかったことから、特定の関連は確認されなかった。
■家畜の移動については、4月13日、当該農場から食肉処理場へ出荷する際に、系列農場の一つである9例目農場(えびの市、4月28日発生)へ立ち寄って肥育牛3頭を積み込んでいるが、この時期には7例目農場におけるウイルスの排出が始まっていたものと考えられ、この家畜運搬車両又は人の移動によって伝播した可能性が高いと考えられる。
■死亡獣畜については、死亡獣畜処理業者が3月5、6、22日、4月7日に搬出作業を行ったが、当該農場のウイルス侵入時期が3月25日以降と推定されていること、また、死亡獣畜処理業者が立ち入った農場の発生状況から、死亡獣畜回収車両又は人によって当該農場にウイルスが侵入した可能性は低いと考えられる。
一方、当該農場のウイルス排出時期は、4月7日前後と推定されており、死亡獣畜回収車
両又は人を介して2例目発生農場へ伝播した可能性があると考えられる。
■当該農場も含めて児湯地区の系列農場で使用するわら(国産)は、系列農場で利用する一つの飼料用倉庫から配送されていた。また、たい肥についても、相当量が児湯地区の系列農場のうちの2農場(216例目及び非発生農場)へ集められており、これらの配送、運搬に使用された車両が系列農場の一つである8例目農場(4月28日発生)への伝播の要因となった可能性が否定できない。
■4月8日頃に食欲不振を示す牛が確認され、さらに、4月17日以降、農場全体で鼻水や咳などの症状を示す牛が見られた。
なお、当該農場では食欲不振改善薬や抗生物質を相当数投与されていたため、その際に使用した家畜用医薬品について、当該農場に対してその購入伝票や当該農場の業務日誌の提出を受けるとともに、それらの医薬品を販売していた事業者から関連情報の提供を受けて照合し、両者のデータが整合していることを確認した。
その結果、4月9日以降に食欲不振改善薬が、また、4月18日~20日には抗生物質が投与されていたことが確認された。これらの情報から判断すると、当該農場で最初に症状が現れたのは4月8日頃であると考えられる。
4月24日に家保が立入検査した際には、発症牛を中心に5頭の血液を採取し、抗体価を調べたところ、5頭すべてで陽性が確認された。立入検査した時点で流涎を示す牛がかなり見られたため、4月28日に殺処分を行う際、当該農場におけるまん延の程度を確認するため、さらに15頭分の血液を採取し抗体価を調べたところ、15頭中5頭で陽性が確認されたが、10頭は陰性であった。
■なお、当該農場の獣医師が牛の異常を確認し、本社へ報告したのが4月22日、当該農場が家保へ通報したのは24日朝であり、この間、約2日を要しているが、社内の連絡及び意思決定において迅速さを欠いた。
■さらに、4月17日に農場全体で鼻水や咳などの症状を示す牛が見られた段階で何らかの伝染性疾病を疑い、家保へ速やかに連絡すべきであったと考えられるが、防疫に関する従業員教育が不十分であったこと、13農場全体(飼養頭数:約1万5千頭)を担当する専属獣医師が1名しかおらず、さらに、従業員から専属獣医師への相談が的確に行われていなかったこと等から、実際には家保への連絡、相談は行われなかった。
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コメント
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獣医1人で15000頭管理ですか…まさにスーパーマンですね(嘲笑)。
大規模集積農場(食肉生産工場)ほど、防疫意識を上から末端まで徹底されて当然なのですが、実際には末端の労働者も安い給料で締め付けられ、過酷な労働で不満がたまりこんでいたことでしょう。
今の日本産業の縮図かと。
ああ、一応言っときますが、「報告書見ての個人の感想」です。ブログ主はオフィシャルの報告書をアップしただけですからね。
現場は相当酷いもんだったのは容易に想像つきますが。
ブランド生かして金儲けしたいなら、それなりに最高レベルの防疫管理をやってからほざきやがれ!
A牧場。
投稿: 山形 | 2010年11月27日 (土) 09時47分
7例目から2例目に伝播した可能性が指摘されているんですよ。あなたの書き方では2例目から7例目に伝播したようにしか読めませんが。
それから、12例目は(グループ企業)と書かれていますが、豚屋さんで牛屋さんとは関係がないはずなのですが。
投稿: Usi | 2010年11月27日 (土) 09時51分
検証委員会の1部の苦言提言は共感します。
落ちている部分として、FAO等の口蹄疫海外専門家チームの受け入れ拒否に付いて触れられていないのは解せません。
経験者による総合的な指摘は、きっと現場で役立ったことと思います。アカデミックな基礎的学問的なことに加え、人の動かし方、殺処分の方法、農家の協力の求め方、政府の動き方など、有効なことがきっとあったのではないかと想像します。現場、政府ともパニックだったようですから。
投稿: 森田文弥 | 2010年11月27日 (土) 09時55分
Usi さん、2例目と7例目の部分が残っていたのを気がつかずにアップしました。削除したはずなのに末尾に残っていましたので、再度削除しました。
疫学報告には12例目も「グループ企業」という表記がなされています。10例目だけがグループ企業ではありません。12例目も近々アップします。
森田先生。まったく同感です。FAOの提案などなかったが如きです。逆になぜそこまで隠したがるのかと勘繰りたくなります。
投稿: 管理人 | 2010年11月27日 (土) 10時03分
7例目の大規模農場について、検証委員会報告書は
「通報の遅れは明らかである」として非難しています。
しかし、通報の遅れは全部で30例ほどあったとされ、まだ多くは公表されていません。
大きな遅れが公表されている、2例目、8例目、9例目、12例目などについても、
発生の状況については公表されていません。
ほかの事例が公表もされず、7例目のように非難されないのはなぜでしょうか?
「7例目はこのくらいの表現にしておこう」 というシナリオなのではないでしょうか…。
投稿: コンタン | 2010年11月27日 (土) 15時27分
コンタン様。私も確かに奇異なかんじはいたします。しかし、それは一罰百戒といいますか、数ある中でも特に悪質と見られたのではないでしょうか。
この報告にもありますが、1万5千頭に1獣医しかおかず、家畜を常時薬漬けにし、発症してからも専従獣医師が自らの判断で届けでていません。獣医師法違反を問われてもいたしかたないことです。
しかも報告「まとめ」にあるように東京の経営者のお伺いが2日間かかるという危機管理のなさです。
これは一般農家とは違う次元だと疫学報告が判断したのではないでしょうか。
「まとめ」には報告執筆者の怒りすら感じました。
投稿: 管理人 | 2010年11月27日 (土) 16時19分