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宮崎口蹄疫事件その138 初動処分における県の閉鎖性とは

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この間、「なぜだろう、なぜかしら」という流れで口蹄疫事件を考えてきています。

そのひとつにやはり挙げられるのは、誰しもがそう言っていますが、やはりあの初動の処分の遅れです。これがなければ、そもそもこの災害自体は、10年前をやや上回るていどの損害で済んだかもしれません。

診断確定まで遅れたということは、今まで何回も書いてきましたので今回は触れません。

問題は動衛研で確定した後の24時間で殺処分し、72時間以内に埋却し切れていないことです。

岡本嘉六先生の作成された処分までの日数のグラフ(下図)を見て下さい。
(典拠・岡本嘉六・鹿児島大学教授「流行の中間総括」による)

Photo 縦軸が戸数、横軸が時系列です。棒の青い部分は1日~3日間以内に処分されたもの、黒が4~7日間以内、黄色が8~14日以内、そして赤が14日以上のものを現しています。

問題なのは、それほど処分頭数が多くなかった4月の確定直後から既に黒い色、つまり4~7日間をかけてしまっていることです。

次に4月28日以降、豚にも感染が拡がったわけですが、その処分が3日以内だったのは最初だけで、みるみる2週間かかるようになり、やがて5月中旬には赤い2週間以上の割合が大きく占めるようになります。

このことは家畜伝染病防疫指針にも想定されていたことで、指針にはこのような記述があります。家畜伝染病防疫指針についてはこちらのPDFからどうぞ。http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/katiku_yobo/k_bousi/pdf/fmdsisin.pdf

「(3)-3 殺処分において複数の畜種で発生があった場合には、原則として、豚の処分を優先する」。

しかし現実にはご覧のとおりです。豚の処分に要した日数は黄色と赤がほとんどを占めています。

一方ウイルス制圧に成功した地域もあります。えびの市は処分まで各3日、0日、1日、1日で処分完了しています。西都市でも各3日、1日、3日、13日、6日、2日、10日、1日で処分を終えています。

また都城市では3日でした。宮崎市では各2日と1日です。日向市は2日でした。

これを見るとふたつのことが判ります。

●ひとつは児湯郡の初動処分が、他の地域と比較しても非常に日数を要してしまったこと。
●今ひとつは、防疫指針(3)-3にある「複数の畜種で発生した場合には、原則として豚を優先する」という指針が守られていなかったということです。

今、検証委員会では防疫指針や家伝法の見直しが進んでいますが、見直しうんぬんの前に防疫指針が「守られていなかった」ということを指摘しなければなりません。

特に児湯地区の処分は、知事自らが指揮をとったと言われており、この処分の遅れの原因とされてもいたしかたないでしょう。

検証委員会の中間報告「項目⑧早期の殺処分・埋却等のあり方」は、この初動処分の失敗の原因をこう述べています。

●「問題点・・・当初県は、県の獣医師(*家保獣医師)で対応しようと市、民間獣医師を活用しようとしなかったために、作業が円滑に進まなかったのではないか」。

●「改善方向・・・都道府県は日頃から,獣医師等と連携して、作業に習熟している民間獣医師の能力を十分に活用できるようにしておくべき」。

初動制圧の失敗はすなわち処分の失敗です。家保のみならず、県の事務職員までもが駆り出された結果、現場で人数だけ足りていても、作業に習熟した人間がいないという事態がひんぱんに起きました。

NHKで放映された「クローズアップ現代」の特集番組でも、逃げる豚をてんでに追いかけ回す県職員の姿が映し出されていました。

失礼ながら県の一般職員は論外として、家保の獣医師より、日常的に牛豚を往診して診ている民間獣医師のほうが大型家畜の扱いに習熟しています。

また民間獣医師のほうが土地勘があり、どこそこの誰の牛、豚が何頭いて、既往症は何が出たのかということもおおよそ頭に入っています。民間獣医師と共済の獣医師のほうが、家保よりはるかに現場を熟知していると思われます。

初動において、なぜかこの民間獣医師などの協力を得なかった、というのが大きなミスです。

つまり、現場を知らない家保と、ましてや手伝いにもなったかも疑わしい(*ただし埋却要員としては有効)一般県職員だけを処分に投入した結果、このような無残な結果になったといえます。

ましてや指揮官が素人の知事です。このような結果は出るべくして出たのです。

このような県の官僚的閉鎖性が、一点の火を燎原の火と変えてしまったと言っては言いすぎでしょうか。

■写真 庭の欅の大木。入植10年目記念で植えて、もはや大木に。落葉が始まっています。画面の周囲をソフトホーカスで撮ってみました。

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コメント

余りにも有名な知事ですし、突っ走ってしまいがちであり、陣頭指揮をとらねば・・と言う責任感?が招いた結果なのでは無いでしょうか。現場の声や知識を活用する仕組みや考え方が知事は勿論ですが、幹部職員にもっとあれば、自ずと結果は違ったかも知れません。(あくまでも結果論でしか言えませんが)
都城市の早期鎮圧のポイントですが、
①数年前に近隣町村と合併していたことが、今回の高崎町での発生に対して、マンパワーを集中投入出来た。(仮に合併前であれば、市の対応は「防御」あるのみで、職員派遣は無く高崎町のみでの対応となり、人員不足は否めなかったであろう)
②都城市での発生は280例目(6月9日)と、公式な初発である4月20日から約50日あり、準備の時間がある程度あった。
4月20日の初発を受けて、県や市他関係機関(団体)と本部委員会を立ち上げ、週2回定期的に委員会を開催し情報交換しており、情報の共有が図れた。
③発生から早期に鎮圧に成功した「えびの市」に、ノウハウを調査しに行く時間があり、今までのマニュアルの修正を行う事が出来た。
④たまたまだが、えびの市と都城市を管轄する「家保」が同じで、正確な情報共有や対応が可能であった。
⑤発生農家に殺処分・埋却などの為に重機を投入するが、牛舎構造によっては重機の大きさや形(種類)が合わない場合もある為、先発隊を出し重機の選択をする事が重要。
⑥先発隊には、重機の関係者(建設業者・土建業者)の専門家も同行すると、投入可能な重機を素早く選定してくれる。
⑦処分作業に携わった関係者が、帰宅する際は現場で簡易的な「風呂」が用意され、全身を洗浄してから全ての衣服を着替えて帰る事が出来たので、感染拡大が防げたのではないか?(風呂は消防署のタンクローリー車で温泉水を運んだ)
風呂とまでは言わないが、シャワー設備は必要である。
⑧口蹄疫感染の確認(確定)が写真判定でも可能となった後であり、動衛研の判定結果が出る前に作業に取り掛かる事が出来た。
⑨家畜の取り扱いに熟練したJA職員を投入出来なかったのは、処分作業従事後1週間は他の家畜に触れる事が出来ないので、JA職員は他の畜産農家にどうしても出入りしなければならない為、除くしかなかった。

他に細かな事は沢山あると思いますが、先般都城市を訪問し、お話を伺った内容の一部です。
コメが長文になり濱田様にはお詫びしますが、参考になれば・・・と記載させて頂きました。

投稿: 北海道 | 2010年11月13日 (土) 09時04分

逃げる豚をてんでに追いかけ回す県職員の姿が映し出されていました。
>>>>この映像には、正直、驚きました。
まったく、打ち合わせしていない集団で、腰が入っていないし、豚に誘導されている。(初めて、豚を追い立てている感じがしました)

まずは、誘導先に、人とコンパネ板など、誘導物(豚は、目が近視)を置き、きちんと、人間が連携して、準備してから、豚を追い立てるのでは?

封建的なのか、公務員獣医が民間獣医や農家さんより、偉いのか、よくわかりませんが、豚舎作業員は、オールインオールアウトのときに、入れ替え作業しているはずだから、もっと、上手なのでは?
現場作業員の意見も聞けば、公衆衛生以外の現場作業は、農家さんが、上手なはず。

投稿: りぼん。 | 2010年11月13日 (土) 10時08分

 皆さんもテレビでご覧になったと思いますが、
知事の「あなた、殺処分にいくらかかると思っているんですか?」発言に見られた、
目先の経済性が、その後の損失の拡大に
優先されたことも大きかった。
 また、防疫指針(3)-3。
私、牛臨床獣医としては以前に読んでたであろうが、
頭の中に入ってはいなかった。
発生時に関係者誰もが再び読み返すなど、
必要だろう。
 責任転嫁するわけではないが
(誤解を恐れず、結果論として)、
家保の獣医師はここを素通りすべきで無かった。
 埋却、焼却など後回しにしても、
殺処分すべきだった。

投稿: 森田文弥 | 2010年11月13日 (土) 12時23分

9月初頭、えびの市で、口蹄疫発生疑惑という騒ぎがあり、競り市が1日延期されました。このとき、検体を送るかどうかという最終判断は、家保の獣医師がしたそうです。そして、すぐにでも、殺処分&埋却が行えるよう、重機・照明機材・消毒機材の搬入がなされ、埋却候補地まで選定し、検査結果待ちだったそうです。
このこと、一見、当たり前そうなんですが、実際は、臨戦態勢を解いて間もない時期だったからこそできた話しです。しかも、こちらは、埋却場所が十分にあります。各農家は、数haの畑を有しており、山の上に位置し、畜産団地となっていることも優位に働きます。
児湯地区は、埋却候補地がすぐに定まらない、特に、養豚農家は、畑を持たないことが多い。たとえ、へっぴり腰でも、人数が居れば、豚を追い込むくらい、何とかなるはず。
北海道さんのコメントの⑧が、早く、実施されていたら、各件、1日は、稼げたはずですよね。それに、もし、台風でもきて、飛行機、飛ばなかったら、動衛研まで、検体をどうやって運ぶつもりだったんでしょう?
それと、この⑧が、9月初頭のえびの市の検体送付騒ぎに適用されなかったのはどうしてなのか、不思議です。限りなく、シロだったということなのでしょうか。デジカメで、写真を送付する必要は無いと判断したのも、家保の先生なのでしょうか?どうも、よくわからない。

投稿: Cowboy | 2010年11月13日 (土) 14時54分

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