島根トリインフル事件 地域のバイオ・セキュリティ向上には財源がいる
島根県安来市のトリインフル発生農家で、殺処分についで焼却作業が始まりました。
2万3千羽ですから、2005年の茨城トリインフル事件の時よりだいぶ規模は小さいといえます。このていどで抑えられたら、島根県はすばらしい前例を作ったと思います。
もちろんまだ安心は出来ません。同じようにトリインフルH5型のウイルスを持った水鳥が、ただ一羽だと考える方が不自然ですから。現在環境庁も協力して、付近の水辺のカモなどの水鳥の糞を調べていますので、追々わかってくることでしょう。とりこし苦労をしても仕方がありませんものね。
現在発生から5日たち、殺処分⇒焼却処分・消毒・鶏卵の破棄・石灰散布まで進んできています。この清浄化行程までほぼ1週間かかると予想されますので、来週の半ばからこれの終了を待って、周辺4農場の清浄確認が始まります。
焼却は報道のように長方形の巨大な鉄の箱の内部で焼いています。これが農水省の秘密兵器といわれて現地投入された移動式焼却装置なのかもしれません。
かつての茨城県トリインフル事件の際も、焼却処分が行われました。このような焼却炉を使わずに、確か掘って燃やしたと思います。そして完全に燃え尽くしたら、骨を砕いて堆肥化しました。
茨城県家保はこの経験から、鶏はいうまでもなく、牛や豚においてもできるだけ焼却処分することを考えているようです。ウイルスの徹底撲滅を考えるのなら焼却に勝る方法はありません。茨城県は地元自治体のゴミ焼却場と話会いをして、できるだけ焼却炉を使ってやることは出来ないかと模索しているそうです。
ただ一般ゴミをストップせねばならず、またあの独特のタンパク質を焼く悪臭が周辺住民から苦情が来るのではないかなど問題はまだまだ沢山あるようです。たぶん焼却処分は、埋却地をもたない人、掘ってもすぐ地下水が出る地域などに限定された対策となると思います。
それにしても、今回の宮崎県のように29万頭という途方もない数の大型家畜の処分となると、まぁ焼却は無理だったでしょうね。
この発生農場での処分が終わり次第、周辺4農場の再検査が始まります。初動の発生動向調査で行ったのと同様に抗体検査、PCR遺伝子検査、ウイルス分離検査の3点セット検査です。なぜ2回やるかといえば、殺処分と焼却処分、消毒作業をやっている1週間のうちに再びウイルスが飛び火した可能性も考えられるからです。
周辺農場の検査と並行して、清浄化が済んだ発生農場にはおとり鳥が置かれて監視に入ります。定期的に検査して新たな感染がなければ、晴れてこれで清浄性確認がなされたことになります。ここまでやっぱり2カ月間はかかるでしょうね。終了したら、心からご苦労様と言いたい。
ところで、発生農場の防鳥ネットに2カ所穴が開いていて、そこからウイルス・キャリヤーの野鳥が侵入したと批判されています。同業者の私からみれば、防鳥ネットがあるだけまし。ネットがない農場なんてゴマンとあります。ネット設置は法的強制力はありませんから、大枚の金をかけてやる養鶏家はかならずしも多いとは言えないのが実態です。
私規模(3千羽規模)の農場ですら30万円ほどかかりました。しかも中古の漁網を使って自分の手でやってです。市販品のネットを使ってやればこの数倍のコストがかかるでしょう。発生農場規模だと200万円はかかるのではないでしょうか。いや、それでは済まないか。
宮崎口蹄疫事件の時もそう思いましたが、この不景気な時代に生産性に寄与しない防疫にコストをかけるのは非常につらいことです。バイオセキュリティの改善なをやっても、それで収益が増すわけではない、そう思ってしまう農家も多いはずです。
また地域で一カ所がバイオ・セキュリティの取り組みをやっても、隣がやらなければ意味はありません。つまり地域で一丸となってやらないと地域のバイオ・セキュリティは完成しないのです。
私はこれには行政が積極的に関わって行く必要があると思っています。湖周辺の農家には防鳥ネットをつけることを法的義務づけ、その代わりに一定額を補助する仕組みがいります。今もいちおう補助はありますが、なんと一律1万円!(爆笑)馬鹿馬鹿しくて申請する農家もいないようです。
地域のバイオセキュリティをレベルアップするためには、地方財源が要ります。養鶏、養豚、牛も皆同じです。こども手当てなどというやくたいもないことで地方に負担をかけている場合ではないのです。そんな財源があれば立派な口蹄疫やトリインフル対策がとれるのですから。
■写真 美しくも怖い湖の光景。トリインフルさえなければ、ほんとうにいいところに住んでいると思います。
« トリインフルエンザの侵入ルートは北海道経由かもしれない | トップページ | 島根トリインフル事件 その2 地域の面としての防疫がないから、発生農場がバッシングされるのだ »
「トリインフルエンザ」カテゴリの記事
- 熊本県でトリインフル発生 疑われる韓国からの「もらい」感染(2014.04.15)
- ワクチンなき悲劇 2005年茨城鳥インフル事件(2011.03.10)
- 平成14年養鶏協会鳥インフル・ワクチン専門家会議の要旨 宮崎県で第10例発生 声も出ず・・・(2011.03.06)
- 日本の公衆衛生における伝染病対策の第一はワクチン 家畜衛生ではワクチン否定(2011.03.02)
- 大挙して飛来した渡り鳥を考える(2011.03.05)
コメント
« トリインフルエンザの侵入ルートは北海道経由かもしれない | トップページ | 島根トリインフル事件 その2 地域の面としての防疫がないから、発生農場がバッシングされるのだ »
防鳥ネットをちょっと調べてみましたが、値段はピンキリですが、ある程度大規模な鶏舎だとシャレにならない価格ですね。
で、補助金一律1万円…ってマジっすか?
そりゃ普及しないですわ。
「鶏卵は価格の優等生」と長年言われてきましたが、まだまだ分からないことが沢山あるものです。正直驚きました。
島根県の対応の速さに感心するとともに、被害拡大しないことを願ってます。
投稿: 山形 | 2010年12月 4日 (土) 08時07分
山形様の仰る通り、「鶏卵は価格の優等生」とよく言われますが、優等生で良い事と言えば、コンスタントに売れる・・・結果として、「販売収入」が安定?かな?
飼料等経営費の乱高下にリンクしない事が、「利益」と言う面では厳しいものがあります。卵一個○○銭の利益の中で、様々な設備をするのは大変な事と思います。
「防疫」を農家の責任としている現状では、財政支援は難しいのでしょうね?
投稿: 北海道 | 2010年12月 4日 (土) 11時16分