韓国口蹄疫 恐ろしい想像3つ
三谷先生、コメントありがとうございます。先生の仰せの韓国が緊急ワクチンに踏み切ったという理解でよろしいのでしょうか。
ならば、ひとつの前進であることは間違いないと思われます。確かに韓国は、米国と口蹄疫の国際的安全保障体制である世界口蹄疫研究同盟(Global Foot &Mouse Disease Research Al liance )に加盟しています。
今回の一件に関しても、研究同盟を通じて米国の指導があったと見てよいでしょう。というか、ここまで感染拡大している状況を、眼前の北朝鮮との政治・軍事的緊張関係が高まる中、なおかつ、米韓FTAが視野に入った米国が看視するはずがないと考えるほうが自然です。
私は、今回の韓国の対応は、感染爆発による泥縄的なワクチン接種だと考えています。韓国政府には、ワクチン接種による防疫の準備も覚悟もなかったように見えます。
準備がなかったのは、備蓄ワクチンが非常に少なく、牛に限定して接種する、それも地域を限定して接種することで精一杯の状況から察せられます。たぶん日本の在庫量の半分に満たなかったのではないでしょうか。
そう考えると、これ以上の感染拡大が拡がるとなると、韓国当局は口蹄疫ワクチンの在庫が早晩底をつくと思われます。
このような事態になったのは、韓国のリング・カリング(*一定の範囲内の患畜、疑似患畜を問わない全殺処分方式)政策の明らかな失敗だと私は考えます。韓国は発生農場から半径500mを初動で無条件に殺処分する政策の実施国として知られていました。
このような苛烈な初動処分方式は世界でも唯一ではないでしょうか。韓国はこの方式に非常に自信を持っていたはずです。
しかし、今年に入り、韓国で口蹄疫の発生が立て続けに起きます。1月と4月、そして今回11月末の慶応尚北道アンドン市から始まる前代未聞のアウトプレイクです。
このリング・カリング方式が万全でないことの徴候は既に現れていました。4月には実に11回のリング・カリングと2回の農場全殺処分を行った結果、395農場で約5万頭の牛、豚、羊、鹿を殺処分にしました。
宮崎県東部の事件でパニンクになっているわが国をよそ目にして、その都度、韓国はいち早く清浄国復帰をなし遂げたように見えました。しかし、どうやら実体は違っていたようです。感染が止まらなかったのです。
口蹄疫ウイルスは、リング・カリングによって当該地域から排除されても、他の地域に遷移したにすぎませんでした。
2010年1月~3月の京畿道ポンチョン事例が終息するやいなや、同じ京畿道インチョンのカンファで発生しました。その発生と並行して東に隣接する忠清北道忠州に飛び火します。
次いで、京畿道の南に隣接する忠清南道の青陽郡で4月末から6月初めに移っていきます。あたかも口蹄疫ウイルスが京畿道⇒忠清北道⇒忠清南道へと「巡回」しているようです。
そしてこの11月末からは、忠清北道の東に接する慶尚北道アンドンから火を吹き、慶尚北道全域で猛威をふるい、再び元の忠清南道に戻り、北東部の江原道まで急拡大し、今や全土に広がる懸念も出ています。
つまり、京畿道⇒忠清北道⇒忠清南道⇒再び京畿道・江原道へと循環したわけです。
この韓国における口蹄疫ウイルスの「巡回」はなにを現しているのでしょうか?
■第1にそれは、韓国独自の往年の英国を思わすリング・カリング方式の明らかな破綻です。もし、この事件が終息した後ににもなお、韓国政府が自らのリング・カリング政策を正しかったと言うなら、正気を疑わねばなりません。
■第2に、口蹄疫ウイルスは国内から消滅することはなく、発生地点周辺部の徹底した殺処分と消毒によっても、場所を変えて発生する可能性が極めて高いということです。
どこかの外国から持ち込まれると考えるより、いったん侵入を許せば、場所を変えて、国内のどこかに潜伏し続けていると考えるべき対象だと認識したほうがいいことを教えています。
むろんわが国も例外ではありません。私は今年の宮崎事件によって微弱ではあるがウイルスが各地域に持ち出されていると憶測しています。ただ、発症に気がつかず自然治癒していて管理者の目にとまらないだけかもしれません。
■第3に、もうひとつの恐ろしい想像をしなければなりません。韓国においては野生動物に感染した疑いがあります。今回の事例で、とんでもない山奥での集落で発生が見られることです。
韓国は脊梁山脈が深く険しい山岳地帯となっています。ここに多くの野生、イノシシが生きています。もし野生動物の感染が生じた場合、対応は更に混迷を深めることでしょう。
家畜でさえ手一杯の状況で、しかも険しい山岳地帯のどこにいるのかわからない野生の鹿、イノシシをも看視し、時には殺処分対象にせねばならないからです。
そして、アフリカのインパラなどに例がありますが、野生偶蹄類への口蹄疫の感染は、ウイルスの土着化を意味します。根絶は絵空事になります。まさに最悪の事態です。
私は口蹄疫を初動殺処分だけで制圧することは不可能だと思っています。今回、韓国当局がどのような意思決定をしたのかまだ分かりませんが、緊急ワクチンを事前に準備しておく時期に突入たような気がします。
私は韓国もわが国も、口蹄疫ウイルスは常在しているという前提に立って対応すべき時代になったと思います。緊急ワクチンが効果が危ぶまれるのは、一回だけの不活化ワクチンのみでは限定された力しか持たないからです。
これは私自身、ニューカスル(ND)と闘って身に沁みている教訓です。緊急ワクチンを盛期に接種しても遅いのです。ワクチンは、NDの場合1カ月刻みで接種し、仕上げでのブースター効果(*ワクチネーション・プログラムの最後に抗体値を押し上げること)を狙って不活化ワクチンを接種します。
口蹄疫のような悪性海外伝染病に対して、いかなるワクチネーション・プログラムも持たず、緊急時の治療薬もなく、消毒一本でどうやって畜産家に闘えというのですか。
しかし、このワクチネーション自体が、現在のOIEの「ワクチン接種・清浄国」ステータスへと転落し、貿易上の不利益を生むのならば、せめて緊急ワクチン接種をわが国の方針とすべきではないでしょうか。それによっての損失する時間はわずか3カ月でしかありません。
それを拒否し続けてきた唯一の理由は、「発生とワクチンが識別できない」だったはずです。そのドクマは既にNSP(非構造タンパク)ワクチンの登場で打ち消されたはずです。
韓国当局は今回のワクチン接種に関して、「畜産農家の安心のため」と言っています。しかしそれだけではないはずです。国家と国民の安心のためワクチン政策を抜本的に見直す必要があることを、今回の韓国口蹄疫事件は教えてくれているようです。
■写真 農家は畑の淵などに菊をさりげなく植えています。仏壇のお花は自分の畑からというわけですね。
■追記 「今年1月に京畿道抱川で発生した口蹄疫でも、最初に発生した農家の中国人労働者が中国に帰省し、戻ってすぐに勤務を開始していたことが分かった」(朝鮮日報)
■追記2 民主党政権は農家戸別補償を法制化することを、今期断念しました。野党の反対が大きく、法制化に手間取るために予算執行を優先することにしたようです。これでこの悪法が恒常的になることは避けられたわけです。
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コメント
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口蹄疫ウイルスの土着化…
シベリアの鳥インフルエンザ土着化もそうですが、本当に恐ろしいことです。
ただ、今日現在の日本のように大人しくしててくれれば良い。とりあえず問題無い。
何百年も前にヨーロッパで猛威を奮ったペスト菌も、根絶されたわけではなく近年アメリカの山中でリスから検出されてますが、今のところ大人しくしていて大発生には至っていない。
つまり、根絶できなくてもそういう状態に持って行ければ(共存になりますね)と考えます。
どうやってそうするのかは私には答えようもありませんが、例えば天然痘との闘いのように何十年もかけて世界規模でワクチン接種を続けることになるかもしれません。
となると「清浄国とは何ぞや」という根本的な問題にぶち当たりますが…。
あとはもう特効薬の誕生という全くあての無いようなことに希望を託すくらいしか…。
投稿: 山形 | 2010年12月25日 (土) 09時10分
口蹄疫を恐ろしい病気にしたのは人間ですから、恐ろしくない病気にして静かに暮らしたいものです。一応、清浄国に認定された国は緊急ワクチンでウイルスを減少させ、可能な限り感染畜だけ殺処分するようにすることです。ウルグアイのように周辺に常在国がある場合は、予防的ワクチンで清浄国を目指すしかありません。日本もそうなるかもかもしれませんから、中国、韓国の清浄化のために共同のワクチンバンクの設立を急ぐべきです。それとOIEコードからワクチン接種している清浄国を削除し、単なる清浄国に改訂すべきです。これは日本にウルグアイから牛肉が入ってくることを意味しますから、守るべき日本の畜産とは何かが問われるようになるでしょう。口蹄疫は食の安全ではなく感染防止のための防疫対策ですから、簡易PCR検査が実用化されれば、貿易上の問題は検査済みの牛豚や畜産物、関連資材の輸出入の問題にすることもできるでしょう。
投稿: 三谷克之輔 | 2010年12月25日 (土) 10時45分
青空です。韓国はすでに収拾不可能な状況下に追い込まれてしまったようです。関係者や当事者たちの憔悴はいかばかりか。自殺未遂や自暴自棄な行動等の報道もされています。
また北海道とほぼ同水準の寒さである韓国全土にさらに寒波が襲っているとか。北海道様が懸念されていた冬季の消毒の困難さが不幸にも実現してしまっているようです。
民間、自治体、軍を挙げての総力戦で当初から臨んでいたのに。他国とは言え、関係者を強く応援しています。
私は国内の口蹄疫始まって以来、常に以下の論点を見てきました。そしてそれができさえすれば感染は防げたとの論を展開される人もいました。
①初発早期発見による封じ込め
②一般車両含めた徹底的な消毒の陣容確保と実行
③疑似患畜の早期殺処分と埋却処理
④感染経路の早期解明。
韓国の内情はコンタン様のブログやツイッターでほぼリアルタイムに理解できます。また農水書の原田氏のツイッターも合わせてみればある程度のタイムライン把握ができます。
国内口蹄疫の動きに比すれば②・③・④については相当なレベルで履行できています。少なくとも国内より高いレベルです。殺処分埋設のスピードなどなぜそんなに早くできると驚くほどです。サルベージも同時進行で初期のものはほぼリアルタイムで判明していました。(感染拡大し追いつかなくなりつつようですが)。
一般車両を含めた消毒も相当な気合いの入れ方です。報道によればこの季節の風物詩であるキムチ用の野菜を乗せたトラックの荷台(報道表現では雨ざらしの荷台)にまで容赦なく消毒液を掛けまくり住民の苦情が発生するほどというのですから相当です。
おそらく畜産関係者、軍とも散発する口蹄疫に対しての対処方法はすべからく洗練化され、且つ当初から高い緊張下であったと思える対応です。
しかし感染はすでに手遅れに近しい水準まできています。諦めつつあるといってもよいのではないでしょうか。
①については失敗であったようですが、(初発発生時はすでに感染蔓延しつつあった)問題は、口蹄疫の経験が最近有、獣医師や行政官も事例研究も進み、もちろん各農家での緊張感も高かった時期なのにもかかわらず、初発含め、感染していた農家の多く、獣医師の多くが見落としたという事実です。
極めて優秀で臨床経験も口蹄疫に有する十分な獣医師の総数を有し、かつ緊張感が高い時期をしても発見がおくれる。これはすでにヒューマンエラーではなくそもそも初発発見など奇跡だと言わざる得ないと感じました。
しかし今の韓国の状況を鑑みると宮崎県はよく「県内」でとどめることができたと感じます。
国境があるわけでも、道が断絶しているわけでも、物流が県外に行かないわけでもないのに。
民間、自治体、国家とも足並みも対応もちぐはぐで、十分な陣容も機材も金も人海戦術すら不可能な中で拡大は限定的でした。
宮崎県が唯一韓国と違うといえば、全体的に支援を受ける体制がなかったことから、各農家は引きこもり、宮崎県人も悪影響を承知し家に引きこもり、それこそ草の根の消毒作戦、そしてなによりも人との接触や会合を封印したことにあると思います。もっとも原始的かつ現代社会では無差別に悪影響を発生させる「引きこもり」を長期間やってのけた。
各種畜産、人間の疫病のもっとも初歩的で且つもっとも効果的な対策、「隔離」がなせた業ではないでしょうか。
改めて宮崎県民および周辺県民の地域死守した功績を強く評価したくなります。
PS
ネット上では韓国の人々に向けた心ないメッセージがあふれています。正直情けなくなります。あの国に好意があるかといえば正直にいって微妙ですが、生命と財産の危機にある隣人に罵声を浴びせることは、その行為こそ軽蔑に値すると感じます。ここにいる皆様はそのような悪意はないですが、一言励ましの言葉も付けられると良いのではと勝手に思っています。
投稿: 青空 | 2010年12月25日 (土) 23時22分
青空さんの仰るように、宮崎県での畜産農家・非畜産農家の「ヒキコモリ」の効果は絶大であったようです。イベント、会議の中止、公共施設の一時閉館など、人が集まることを避けたことは、原始的ではあってもウィルスの伝播をかなり押さえ込むことに繋がったことは、明らかなようです。
ということは、その逆の年末年始時の人の移動は、大変な脅威です。海外への渡航は、なるべく避けて欲しいものです。別の意味で、人が口蹄疫という疫病を恐ろしいものにしている。
韓国国内だけで、収拾が付かなくなった場合に関して、FAOは、何らかの提案をしているのでしょうか。国境無き獣医師団的な役割を果たす組織は存在しないのでしょうか。
投稿: Cowboy | 2010年12月26日 (日) 17時15分