日本農業は高関税ではない!
日本の農産物のタリフライン(関税品目)が多く、障壁が高いので、実態として輸入ができないために、消費者は大きな不利益を被っている、日本農業は過保護なのだ、という声はうんざりするほど聞きます。
ことにこの「平成の開国」とやらのTPP(「トツゼン・パッと出た、プロジェクト」)がらみで、農業を日本経済の喉に突き刺さったトゲのように言う人はかならずと言っていいほどこの論法を採用しているようです。
わが国の菅首相もそのひとりだとみえて、誰から吹き込まれたのか(たぶん経産省でしょうが)正月早々に「開らかれた日本農業へ」とぶち上げていました。この人は理数系にもかかわらずデーターを調べないでしゃべるという悪癖をお持ちです。
日本の農業生産額を「世界80位」と言ってしまうレベルで、「農業の開国」をアジるのはやめていただきたいものです。正解は先進主要5カ国中で第2位です。
首相の代わりに、「閉ざされた日本農業」であげつらわれる品目を上げてはましょう。コメ778%、コンニャク1705%、落花生593%、バター482%、麦256%、砂糖325%、小麦249%、などとなります。
これに対して、単純関税率は、日本が12%、米国6%、EU20%ですから、ほら見ろ日本の農産物はバカ高い関税だと主張するわけです。どのような計算式を用いたのか、日本の農業関税は50%だという主張もあるようです。
日本農業への悪口を読みたい方はこちらからどうぞ。データー根拠も記載されていない軽薄な数字がずらーと並んでいます。( ^ω^)ワ,ハハ
http://unagi-kiken.seesaa.net/article/100505213.html
そこで上の農産物関税を比較したグラフをご覧頂きたいと思います。出典はOECD1999です。(「現代の食糧・農業問題」(鈴木宣弘・東大教授 創森社より引用)です。ウルグアイラウンド終了時のもので、やや古いのですが、まぁ現在も大きな差異はないと思います。
これはタリフライン(関税品目)ベースです。有税品目というゼロ関税まで含んだ指標しか他に国際比較するものがないのです。
グラフを見れば一目で、日本がWTOの超優等生であることがわかりますね。唯一米国には負けています。
しかし、関税を語る場合、米国のような特異な輸入消費大国と比較するほうがおかしく、もしどうしても比べるのなら、国の面積や生活レベル、工業化水準が近いEUでしょう。
EUは、19.5%、日本は11.7%です。ノルウエーなど127%です。これでも日本の農産物関税が、関税が高いというなら、なにを見てそう言っているのか論拠のデーターを教えてほしいものです。
野菜、鶏卵、果樹などの主要農産物の多くは無関税か平均3%以下です。ほとんど関税に関してはノーガードだといっていいでしょう。
逆に高関税のほうが例外です。高関税品目には理由があります。
コメは減反政策という国家カルテルを維持するのが目的です。麦は国内産麦の補助金を捻出するために国が麦類の貿易を仕切るという愚かな社会主義国家まがいのことをしているためです。米と麦に関しては、別途詳述します。
輸入豚肉は「差額関税」というとんでもない制度を農水省は1971年から作っています。これはまず「基準輸入価格」というものを農水省が設定します。現在546円です。それより安い輸入豚肉は、この差額を関税として徴収する仕組みです。
一方基準輸入価格より高い輸入豚肉は一律4.3%の関税をかける仕組みです。
この差額を関税で徴収するというやり方をするとどうなるのでしょうか。豚肉には価格が高いヒレやロースなどの部位と、ももや肩肉などの安い部位があります。
安いモモなどはハムやソーセージにするために食品会社が輸入しています。この基準関税方式は、いわば差額関税ですから、安くても、高くても関税をかけられるという方式です。
食品会社は安い加工用肉をそのまま輸入してしまえば、差額関税をがっぽりかけられまてしまいますから、なんとか基準価格に近づいて関税を減らそうとして高い部位であるヒレ、ロース肉も一緒に輸入しています。この方法をコンビネーション輸入と呼び、どの食品会社もやっている方法です。
と、どうなるのでしょう?このコンビネーション輸入で仕方なく買った高い部位のヒレやロース肉は、ハムにするのはもったいないということで、一般市場に流します。しかも元を取ろうとダンピングまがいのことをしています。
これが一般のスーパーに並ぶ安い米国産などの豚肉の出所です。なんの国内豚肉の保護にもなっていないことがお分かりになると思います。まったく馬鹿な制度を作ったものです。
長くなりますから、またの機会にしますが、バターの高関税も農水省の天下り団体の「農業産業振興機構」がバター輸入を独占していることから発生しています。輸入業者は、2次関税を払った上に、いったん機構に輸入バターを伝票上買い上げてもらい、農水省の定めた806円/㎏の輸入差益を支払わねばなりません。
機構はこのトンネル差益だけで年間11億ももうけています。これは日本の畜産農家保護とはなんの関係もない、単なる農水省の天下り省益でしかありません。
日本の農産品高関税には必ずといってよいほど、農水省の利権がからまっています。私たち農家にはなんの関係もないことです。
日本農業は関税などによって守られてはいません。数少ない高関税は、農水省の省益にすぎません。ですから、「開かれた日本農業」などと言われると、笑ってしまいます。
■写真 父犬も4匹にジャレつかれてしんどいこと。しかしイヤな顔もしないでまとわりつかせているのはエライ。(o^-^o) おとうさん、がんばってね!
■追記
いよいよ太平洋側にやってきました。
郡山・鳥インフル強毒性 59養鶏場、立ち入り検査へ
河北新報 1月20日(木)9時52分配信
立ち入り検査では鶏の死亡率や産卵率を聞き、ウイルス感染の有無を詳しく調べる。県は既に県内251の養鶏場(100羽以上)に聞き取り調査を行い、異常がないことを確認している。
鳥インフルエンザウイルスは濃厚な接触がない限り、人には感染しない。また、塩素で感染力を失うため水道水の安全性にも問題はないが、郡山市水道局は貯水池を通さない方法に変えた。
« 2010年に宮崎県で発生した口蹄疫の対策に関する調査報告書 (二度と同じ事態を引き起こさないための提言) 抜粋 第4回 | トップページ | 社会主義統制経済を今どきやっている小麦輸入の仕組み »
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コメント
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支那共産党の束縛のないH5N1強毒インフルエンザウイルスは渡り鳥で中国青海湖から既に全世界にばら撒いてしまい、これから日本各地の冬鳥の越冬地:九州のナベツル、マナツルは既に感染済み、湖、河川、などから検出されるでしょう!。問題は野鳥でも、野カモのように、感染しても全く外見上健康で、ウイルスを排出する鳥もいれば、越冬地地域を共有する白鳥(被害者)のように、感染すると衰弱して死亡する鳥もいますが、問題は越冬地で鳥の糞を採取して、インフルエンザ検査をする環境庁の職員がぜんぜん足りず、さらに家畜衛生保健所の職員などもぜんぜん足りない!にもかかわらず、財源不足といいながら、共産国:支那の遺棄化学兵器処理にわざわざなんと210億円も出す、こしぬけ日本政府。そんな金があったら、国内産業に使うのが筋だと思うのは小生だけであろうか?Loopyアホ山の妄言には聞き飽きた!。戯言はあの世でお願いしたい!次のダメ管内閣も突然沸いたTPP問題で、するする詐欺で、早く退陣願いたい。
投稿: AniVet | 2011年1月20日 (木) 10時50分
コンビネーション輸入>>>>このことは、マスコミは、まったく無知で、指摘をすると、自分の面子のためか、一切、話を聞こうとしません。
最大の元凶は、日本のマスコミかもしれません。
投稿: りぼん。 | 2011年1月20日 (木) 16時57分
こんばんは、青空です。
濱田様、本当に勉強になります。私は家内と結婚してから日本の農家の新の実力を知りたく思っていた人間です。しかしデータはあるものの複雑な流通形態や地域ごとの差、主に大手マスコミの発刊する本でのミスリードに惑わされ続け、その実態はいまだに把握できていません。
その中のひとつがまさにこの関税です。
関税率がそう高くない(除く米)は存じていましたが、その仕組みと関税の資金使途がよくわからず、半ば諦めていました。
思わぬところで知ることができ感謝しています。
しかし、想像はしていましたが、関税収入は農家に還元されず闇の中に消えて言っているとはなんとも言いがたい状況ですね。
投稿: 青空 | 2011年1月20日 (木) 22時03分
濱田様
コメントはご無沙汰していますが、ブログは日々チェックしています。
鶏インフルエンザ、しかもH5型です。また宮崎ですが口蹄疫以降消毒、石灰は欠かさずやっています。
家保の対応も4年前とは違っているはずです。
何とか1件で封じ込めたいと思います。
宮崎県内の方々は219号線を通行される時は留意して下さい。
韓国では野生動物の制御が出来ておらず、終息しても気の遠くなる道のりかと思います。
この件に関しては同じ被災人として言いようの無い気持ちです。
絶望せず、気をつないで切り抜けて欲しいです。
投稿: みやざき甲斐 | 2011年1月22日 (土) 13時19分