韓国口蹄疫 野生偶蹄類集団と家畜の交差の可能性
韓国口蹄疫において、野生動物への感染の可能性を考えてみます。
世界各国で野生偶蹄類への口蹄疫の感染が発表されています。たとえば、英国ではノロジカ、中国シカに感染が見られました。
また、野生のイノシシは豚と同じ口蹄疫に対する感受性を持ち、同僚のウイルスを排出します。
アフリカでは、アフリカ・バッファロー、ミュール・ジカ、インパラ、シマカモシカなどへの感染が確認されています。
イスラエルでは、マウンテン・ガゼル集団に感染が生じて50%が死亡しました。また米国では、ミュール・ジカの10%に感染が認められました。
そして、昨日頂戴したコメントによれば、中国の内モンゴル自治区とモンゴルで白尾カモシカも感染したとの情報もあるようです(未確認)。
■追記 AniVet様から英文のサイトProMed
の本文の提供がありましたので付記いたします。
以下引用
中国内モンゴル自治区のひどい口蹄疫感染が国境を越えてコンゴル国の東部地区に侵入、その付近で家畜に感染して、さらに共存する野生の白尾カモシカにも感染してしまったが、狡い中国共産党政府はFAOにも報告しない!。中国では、口蹄疫感染豚は共産中国の何処にでもいる!またPRRSと口蹄疫の混合感染で仔豚がかなり死亡したので、市場の豚肉価格が2倍以上に上昇した。
[The reported rise in sales of processed pork, combined with falling hog and pork prices "because of FMD outbreak in south China", falls in line with the following, earlier information, translated from local Chinese sources:
1. Posting 20100318.0866: "Since there have recently been severe outbreaks of FMD in Jilin, Heilongjiang, Liaoning, and Inner Mongolia" (provinces from where no official disease notification is available as yet; for the list of infected provinces, see further), "there has been an impact on development of the livestock industry.
引用終了
*この英国文献(鹿児島大学岡本嘉六教授訳出)は最下段に抄録しました。全文はこちらからどうぞ。
http://vetweb.agri.kagoshima-u.ac.jp/vetpub/Dr_Okamoto/Animal%20Health/Wildlife.htm
実は、私は昨年の宮崎県児湯郡でもその可能性を最後まで捨てきれませんでした。当地を詳しく踏査されているある研究者の方からご教示を受けました。
氏のご教示によれば、宮崎県児湯郡の地形は、丘陵や山地から海にかけて複雑で急峻な地形です。このような地形には野生動物が多く住んでいます。鹿やイノシシなどです。このふたつの動物は、社会問題になるほど大量に棲息していると思われます。
餌を求めて山地から下ってくることもあり、そのまま定住することもめずらしくはありません。
また、人間が営む畜産もこのような山地に多くの畜舎や放牧地を持っています。その多くは開放型畜舎であり、野生動物集団との接触の可能性があります。たとえば、放牧地の柵の破損からの野生動物侵入は珍しくはないはずです。
いわば、日常的に家畜と野生動物が共生している地形です。「共生」と表現すると微笑ましいニュアンスですが、要するに家畜集団と野生動物集団の生活圏と動線が交わっているのです。
韓国国内でこのような野生偶蹄類集団と家畜が交差していないと考えるほうが不自然でしょう。韓国は険しい脊梁山脈を持ち、今回の発生は平野部のみならず山間地でも発生しています。
わが国では残念ながら、まったく野生偶蹄類への感染の調査はなされませんでした。環境庁も宮崎県も危機感がありませんでした。ご教示頂いた研究者の方は再三にわたって県庁に調査の必要を訴えたのですが、なしのつぶてだったそうです。
韓国においても、児湯地域の地形と似た地形を見受けます。パンデミックと闘う防疫当局に野生動物までへの目配りが難しいのは理解できますが、野生動物への早急な調査が望まれます。
野生動物への感染は、すなわち口蹄疫の土着化を意味しますから。
■写真 冬の田園の夕暮れ。すすきも枯れてきました。
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以下、宮崎県在住の研究者のコメントを抄録します。
■宮崎県北部の口蹄疫発生地域は、平野部の農村地帯とは違い山地が海に迫っており起伏が激しく、海岸段丘がうねっている場所です。
都農、川南、高鍋、新富、木城は全て丘陵から山地にかけての斜面で、海に近い場所でも複雑な地形です。
家畜の畜舎の多くは人家から離れている所で、丘や林に囲まれていることが多く、最近は山地に多くの農場ができています。また近隣の山には放牧地があちこちにあります。
牛舎は大小さまざまで、多くは開放畜舎であり、林、藪や草原に囲まれていて野生動物が日常的に周囲を徘徊しています。
川南の市街地から近い発症豚舎に鹿が居座っていたことが目撃されています。餌のオコボレや堆肥を狙っていると思われます。猪は鹿よりも人家に近づいて、農地を荒らしまくっています。
日向市の場合、市役所から車で10分、距離は5キロくらいの山地の入り口ですが、毎晩鹿が家の周りを歩いていますし、猪は裏手でヌタ場を作っており、林道に無数の獣道があります。夕暮れにはウリボウをゾロゾロ従えて母猪が林道を横断しています。
周辺の谷間の水田には猪よけの電気柵が必須です。していなかった田んぼのなかで稲がなぎ倒されていたことを何度も見ています。
都農の山中を調査していた時に、山の放牧場(水牛牧場のすぐ近く)で鹿が昼間からウヨウヨしていました。木城町でマスコミが放牧場の牛と鹿を撮影していましたが、全く同じことは川南と都農でもおこっています。
というわけで、野生動物の実情をよく知っているので、発生当初から野生動物と接触する感染リスクについて警戒を呼びかけ、県にもメールでアドバイスしたつもりですが、全く手ごたえがなかったので驚きました。
野生動物が再感染に関係するリスクですが、このまま野生の鹿と猪の疫学調査なしで、感染を確かめないままの児湯地区の畜産業の再開は危険だと思っています。もしもすでに感染しているとすれば、野生の鹿と猪は畜舎の周辺に慣れている、言い換えれば共生関係になっている個体が多いはずです。
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■口蹄疫の拡散における感受性のある野生哺乳動物の潜在的役割
多くの国々は、口蹄疫に感受性のある(野生または野生化した)自由生活の動物集団を抱えている。口蹄疫がそれらの動物集団に侵入すれば、それらの動物だけでなく家畜にも伝播される。野生動物と家畜の間のウイルスの伝播は、両種の動物が密接している場所ではありふれたことである。
地域において口蹄疫が存続する際の野生動物集団の潜在的重要性は、当該野生動物種の口蹄疫への感受性、それらの動物種が臨床徴候なしで感染状態を持続する能力、それらの動物種の分布、密度、ならびに、家畜やその他の感受性動物との接触の程度などの様々な要素によって異なるだろう。
一般的に、サハラ以南のアフリカ以外では、野生動物の口蹄疫が家畜の病気の延長で起きていると思われる。しかしながら、野生化した動物種の口蹄疫の疫学モデルは、野生化した動物集団に一旦定着すると、そこから根絶することは困難か、不可能であることを示している。米国の先の口蹄疫発生時に、病気を根絶する制御計画の一部としてカリフォルニアで数万頭のミュールジカ(mule deer)が銃殺された。イスラエルでは、マウンテン・ガゼル(Gazella gazella)における口蹄疫の発生の広がりを防ぐために、ガゼルが広範な地域で殺処分され、発生地帯の約50%が殺された。アフリカでは、家畜と野生動物、とくにアフリカ・バッファロー(Syncerus caffer)との接触を防ぐために柵が設けられ、自由生活の動物集団の口蹄疫ウイルスに対するワクチン接種は実行性に乏しい。
■ヨーロッパにおいて
● 野生のシカ(Deer of Ireland)がヨーロッパにおいて、少なくともある場合には、口蹄疫の伝播に役割を演じると長年考えられてきた。
● イギリスには、かなりの数のシカ集団が存在する。6種の自由生活のシカの内5種について行われた実験で、家畜からシカ、ならびに、シカから家畜への伝播が可能であり、その中の2種、ノロジカ(Capreolus capreolus)と中国シカ(山羌、Muntiacus reevesi)は重症化し、しばしば致死的であることが示された。その時、野生のシカ集団がイギリスにおける口蹄疫の伝播と継続に重要な役割を持つことはありそうもないと考えられた。それはシカの頭数に関連しており、自然界で家畜とシカが相互に接近することは少ないと考えられたからである。ウシ、ヒツジおよびシカが並んで牧草を食べているシカ公園のような場所における伝播は起きそうである。
● これらの研究が行われた時点以降に、イギリスのシカ集団の規模はかなり拡大している。いくつかの地域、とくに高台では、家畜とシカが同じ場所で普通に草を食べており、種を越えた(家畜からシカ、ならびに、シカから家畜)伝播が起きると想定される。家畜からシカへの病気が伝播する可能性を忘れてはならない。
● ヨーロッパにおいて口蹄疫が家畜から広まり、野生のシカ集団に定着した場合、その地域においてワクチン未接種で動物を飼育することは安全でなくなるであろう。
● 野生のシカにおける口蹄疫の制御は困難だろう。その広がりは、関連する動物種の社会的繋がりと密度に依存し、「数週間から数ヵ月後に消滅する」かもしれない。
○ 重度の臨床症状のあるシカは遠くへ行けず、ウイルスを運ぶことはないだろう。しかしながら、臨床徴候が出る前の感染状態、あるいは、臨床症状が軽い場合に、その期間は口蹄疫を広げることがあり得る。
○ 野生または自由生活の動物集団において感染が持続するかどうかに影響する要因には、「頭数密度と分布、生息地の要件、社会的繋がり、年齢構成、行動圏、ならびに、分散の障壁」が含まれる。地理的密度、集団の規模および連結性(connectivity)は集団間での伝播に影響する最も重要な要素である。
● 野生イノシシ(Sus scrofa)も口蹄疫に感受性がある。野生イノシシの口蹄疫は、家畜のブタと同様であり、おそらく、ブタと同量のウイルスを排出する。世界の他の地域における野生イノシシは、その他の動物種への感染源とみなされており、イギリスとヨーロッパのその他の地域で野生イノシシが感染してブタに伝播することはないとする根拠は全くない。
Wildlife Information Network, The Royal Veterinary College, United Kingdom
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コメント
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問題は、野生動物は、奥山に生息する。人間は、平地で生活している。と、勝手に、思っている官僚たちでは?
哺乳類生息数を標高別に見れば、基本的に、中山間部が、1番生息数が多いです。
日本も韓国もそうですが、複雑な地形が多すぎますよね。
グーグルで見て、自分は、水牛農家さんの地形と、川南の街の地形とが、あまりにも接近しているので、びっくりしました。普段、濃尾平野と言う平地に住んでいるので、、想像してませんでした。
本来は、熊止め雑木林など、中間林が無ければいけないのです。
昔の人は、熊が、農地に降りてこないように、ここで、止まってはしいと言う場所に、柿や栗を植えたそうです。
最近は、日本カモシカでも、結局、里山に近い部分が住みやすいのか、そういう農地に近い部分に、常住地を持ってるようですね。(当初は、たまたま農地に降りてきたと思っていたが、GPSでの長期調査で、居住地が、わかったようですが)
投稿: りぼん。 | 2011年1月 6日 (木) 10時05分
こちらでも、野生鹿は、驚くほど見かけます。良く、牧草地で何をするでもなく、うろうろしています。このあたりの住人で、鹿との接触事故を起こした人が、6人くらいいます。車の修理代が大変です。斯く言う私も、鹿がダンプに飛び掛ってきた経験をしました。非常に、生活の中に鹿が入り込んで濃厚接触をしています。
キャリアかどうかを調べることはそれほど大変なことではないと思うのですが、せめて、猟友会の人が仕留めた鹿やイノシシだけでも検体を保存するようにできないものか。
このこと、パンドラの箱のようで、日本の行政は、怖くて着手できないのでしょう。
投稿: Cowboy@ebino | 2011年1月 6日 (木) 11時34分
土着化しているとすれば野生動物との交差感染(汚染)の可能性大ですね。
宮崎でも追跡調査がなされていない様ですから、近未来に再発生の可能性も否定できませんし、近隣県での発生も可能性としては高いと思います。
北海道においても、猪はいませんが、鹿は60万頭とも65万頭とも言われています。
ウインタースポーツを楽しむ人や、2月には「札幌雪まつり」が行われますので、国内外から沢山の観光客が押し寄せます。
当然「中国・韓国・台湾」の人もいるでしょう。
特に空港や港など、国際線は勿論ですが国内線到着ロビーでも消毒を徹底して欲しいと願っています。
道行政も口では言っていますが、まだ実行が伴っていません。年末にようやく「口蹄疫対策本部委員会」を開催したようですが、動きが遅いのは今始まった事ではありませんが、宮崎の件を学習して欲しいと願っています。
投稿: 北海道 | 2011年1月 6日 (木) 16時06分
濱田様、英文のサイトProMed
が出所です。中国内モンゴル自治区のひどい口蹄疫感染が国境を越えてコンゴル国の東部地区に侵入、その付近で家畜に感染して、さらに共存する野生の白尾カモシカにも感染してしまったが、狡い中国共産党政府はFAOにも報告しない!。中国では、口蹄疫感染豚は共産中国の何処にでもいる!またPRRSと口蹄疫の混合感染で仔豚がかなり死亡したので、市場の豚肉価格が2倍以上に上昇した。
[The reported rise in sales of processed pork, combined with falling hog and pork prices "because of FMD outbreak in south China", falls in line with the following, earlier information, translated from local Chinese sources:
1. Posting 20100318.0866: "Since there have recently been severe outbreaks of FMD in Jilin, Heilongjiang, Liaoning, and Inner Mongolia" (provinces from where no official disease notification is available as yet; for the list of infected provinces, see further), "there has been an impact on development of the livestock industry."
投稿: AniVet | 2011年1月 6日 (木) 16時55分
こちらも猪はいませんが、市街地から一歩出るとカモシカが沢山いて交通事故も多発してます。
柵で仕切られてる高速道路にさえ入り込んできます。
ウイルスの土着化となれば火消しはほぼ不可能となり、清浄国ステータスはアルゼンチンと同じになります。
なんとか避けたい事態ですが、あまりにも無防備だ。
投稿: 山形 | 2011年1月 6日 (木) 17時01分
青空です。
野生動物への感染と土着化。
証明することはまさにパンドラの箱なのでしょう。畜産農家はその性質上民家密集地帯に建築は不可能ですし、放牧や粗飼料の生産の必要性から山間部に集中してしまいます。つまり野生生物への感染確認=畜産業の死 に直結し、解決することは困難です。野生の生態系をコントロールすることは山そのものをなくす他ないのですから。
あるいはベトナム戦争のように山林すべてに枯葉剤でも巻き尽くし、すべての生き物を滅殺すれば解決するでしょうが間違いなく国土は復元不可能なまで荒れ果てるでしょう。
野生動物を調査することは、解決不可能な問題を突きつけるのに等しい。それゆえあらゆる国が積極的に調査をしないと考えています。
口蹄疫という病は、多分に政治的な要素の大きい病です。外交カードといってもよいでしょう。
すでに土着化したと見ていい韓国がどのようにして国内の畜産を守るのか。あるいは見捨てるのか。もちろんこの感染拡大が封鎖できればの前提ですが、その推移は注目に値すると考えます。
他国であれ前例というものは恐ろしい威力を発揮します。特に行政・政府にはその行動原理が存在しています。今回の感染拡大がわが国の政府の行動にどう影響をあたえるのか。当面注視すべき事項だと考えます。
投稿: 青空 | 2011年1月 6日 (木) 21時36分
AniVet 様。貴兄の中央日報へのコメントは本文に挿入致しました。また英文情報の紹介感謝いたします。
投稿: 管理人 | 2011年1月 7日 (金) 08時37分