英国口蹄疫演習が昨年11月に開かれました。 日本でも早急にやるべきです!
東アジアで立て続けに起きた韓国と日本の大規模な口蹄疫発生を受けてなのでしょうか、昨年11月に英国で口蹄疫演習が行われました。
EUは加盟国に対して5年に2回の口蹄疫演習を義務づけています。これは2001年の600万頭を殺処分にした口蹄疫事件が、英国のみならず欧州全体の畜産の危機に直結した歴史に学んだからです。
EUは口蹄疫を一国の事件ではなく、全加盟国の問題として考えています。これは東アジア域内でいまだ、満足な情報交換すらされず、ましてや口蹄疫に対する国際的な防疫など机上にすら登っていないわが国とは根本的に異なっています。非常にうらやましい。
わが国政府は口では「開かれた農業」とやらを言いますが、実態としては残念ながら、眼前に起きている韓国口蹄疫に対する情報提供すらなにひとつしていません。
韓国口蹄疫についての情報量は民間のネット情報が圧倒的であり、農水省からの情報はわずかな状況です。これで「開国」だのと片腹痛い。こんな状況で「開国」したのならば、まったくノーガードで「国際化」をするはめになるのは必至です。
まぁ、それはともかくとして、英国はこのEUに定められた定期的口蹄疫演習を、昨年11月に実施しました。11月9日ですから、韓国口蹄疫の大発生以前なようです。しかし、宮崎県や韓国の春の発生事例は参考にされたことと思われます。
さて、英国の口蹄疫演習は、DEFLA(デフラ・英国農務省)の6階のバレーボールコートが3面入ろうかという大きな広間で行われました。
たぶん非常時にはこの部屋にズラリと机やPCが並び、各省庁の連絡官が詰めるのだと思います。いちいちナンですが、霞が関の密室で、自分の局内部の人間だけでゴソゴソやっているどこぞの国とは大違いですな(←朝飯前なので、やたら腹がたつ)。
どうしてこう違いがでるのでしょうか?答えは簡単。EUは口蹄疫を文字通り「国家的危機」というクライシス・コントロールと位置づけているからです。日本はしょせん畜産というマイナーな分野で起きた事故ていどの扱いです。
ちなみに蘊蓄を垂れれば、クライシス・コントロールと、クライシス・マーネージメントとは違います。
同じ「危機管理」と訳されますが、故江畑謙介氏によれば、crisis controlは、「危機予防、防止まで含んだ積極的な概念」であることに対して、crisis managementは、「現実に危機が起きた時にどのようにするのかという概念」だそうです。
ですから、クライシス・コントロールは積極的に平時において何を積み重ねておくのか、どのような起きない仕組みを作るのかということです。
2001年の英国口蹄疫事件を英国は深刻に総括しました。その政府報告書にはこのような一文があります。
「緊急時の対策は用意されEUでも合意されていた。しかし、情報は獣医局に限定され、省庁や内閣で共有されていなかった。また訓練も行われていなかった」
実はこのような総括が今回の宮崎事件の検証委員会から出ると期待していたのですが、その影もありませんでしたね。ですから次回起きても、また同じドタバタがくりかえされて、待機患畜がつみ上がるのでしょうね。
英国と日本は「危機」のとらえ方の深度が違うのです。確かにわが国も9月に机上訓練をしていますが、一回こっきりです。英国は去年だけで何回していると思いますか。
まず6月に「口蹄疫の疑いが浮上した」との設定で行い、次に10月に「危機のレベルがあがった」として行い、第3回は11月に野外訓練まで実施しています。
この11月の英国農務省で行われたものは、これら3回の全体総括です。この総括作業は年を越しても行われ今年2月まで続けられるそうです。喉元過ぎればなんとやらの国とはえらい違いです。ニッポン農水省、給料ていどの仕事はしろ!
英国の演習では、イングランド北部のノーザラントン市で発生したという設定で、初動制圧に失敗し、各地に飛び火したという状況で行われました。
まさに現在の韓国の状況そのものです。こうした深刻な状況の中で、省庁や地方自治体の垣根を超えた広域防疫体制をいかに素早く構築するのかが、この演習のテーマでした。
ですから、この演習には首相官邸を先頭に、農務省、国防省、警察、外務省などの各省庁が結集し、加えて発生地とされたノーザラートン市の担当官も加わりました。
これで野外訓練までしたというのですからすごいの一語です。まさに舞台でいえば、コスチュームをつけたリハーサルまでしたということですね。日本のはせいぜい台本の読み合わせくらいです。
危機管理においては、防疫指針の文言がそのまま実現するとは限りません。法律文言など、いかようにも解釈できるからです。家畜伝染予防法もしかりです。昨年宮崎現地では、県の解釈と国の解釈が真っ向から対立さえした結果、現場が混乱を続けました。
これを平時にすり合わせ、実際に非常時につつがなく防疫指針が守られるか、家伝法が役に立つのかを見極めねばなりません。そのためには、英国のような野外訓練まで含む徹底した数次にわたる演習が必要なのです。
なにもかも英国の口蹄疫対策に劣っているわが国も、このような野外演習まで含む徹底した口蹄疫演習を早急におこなうべきです。
■写真 レンコン田んぼの夜明けです。画面下の光っているのが水田です。このところ夜明け写真マニアみたいになってきましたこの季節はなんてことがないのですが、夏だと朝4時に起きねばならず、夕陽マニアに転向します。(o^-^o)
■写真 英国口蹄疫緊急対策計画の表紙です。
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コメント
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危機に対する認識が違いすぎるというか、地震や火災の訓練同様に日本でも訓練をする必要がありそうですが、残念ながら農水省にそこまで危機感があるようには思えません。
英国の教訓で「縦割り行政の弊害で情報が共有されなかった」と、しっかり報告されてるのがスゴいことだと思います。
これが出来ずに破滅的な戦争へと走ってしまったのが、我が国の政治そのものですから…。
欧州や今回の韓国の惨事を詳しく分析して、予防のための本格的訓練が実施されることを望みます。
投稿: 山形 | 2011年1月10日 (月) 10時38分
いつもならが、すばらしい写真です。水の冷たさが伝わってきます。
それにしても、日本は、もとより体制作りからスタートせねば、同じこと(地町村⇔県、県⇔国の対立、法律の解釈の違い云々)を繰り返すでしょう。管理人さんの仰るように、まず、法律の見直しや解釈、役割分担などから、始めないと、演習をいきなりやっても意味がないかもしれません。
私は、個人的に、自衛隊法の改正も必要で、眼前の疫病に立ち向かう布陣の先頭に立つのは、自衛官だと思っています(以前、管理人さんも記事にされてました)。民間人の財産を守るという理念は、自衛隊の存在意義になんら矛盾することはないと思います。
小隊ごとに小隊長直下の獣医師を2~3名程度加え、殺処分なり、消毒なり、埋却なり、サーベイランスなりを行う部隊を、必要に応じて、投入できる体制が必要だと考えます。
そのためには、家畜保健衛生所の獣医師は、全て、家畜保健庁(仮称、是非作って欲しい)の職員という国家公務員とし、有事の際は、県境を越えて、実務に当たるようにしなければならない。
手弁当で、NOSAI獣医師や民間獣医師、他県のボランティア獣医師に、殺処分をお願いすることのないような体制が必要だと思います。
口蹄疫発生
↓
当該知事が家畜保健庁に上記小隊の出動要請
↓
約3週間で終息
っていうミニマムな動きを一度、見てみたい!
そうすれば、口蹄疫発生の届出に二の足を踏まなくて済むかもしれません。
投稿: Cowboy@ebino | 2011年1月10日 (月) 11時06分
ご存知かもしれませんが、
鹿児島県では、11月10日に大規模な演習を行っています。
http://373news.com/_kikaku/kouteieki/index.php?storyid=27929
牛、豚を飼養する全農家に対して、埋客地の具体的な有無を調査しています。
投稿: 南の島の黒毛和牛繁殖農家 | 2011年1月10日 (月) 18時59分
こんばんは、青空です。
昨年の1月頃、韓国等で口蹄疫が発生した時もそうでしたが、日本の有事に備える体制というのは過去連綿と稚拙なものです。
県や市町村等での訓練や卓上調査等は行われているようですが、残念ながら国家レベルでの省庁横断的な訓練や問題点の洗い出し、法律解釈の再検証、結果の周知通達については極めて不十分です。
あれほどの国家的経済損失を計上したのにいったいなにを狙っているのかと勘繰りたくなる状態です。
できるだけ早く、対応については具体的な動きを見せてほしいと思うのですが。つくづく残念になります。
追伸
ところで濱田様、韓国の状況がそれを許さなくなっていますので無理にとは言いませんが、もしできれば、以前の農業クイズの回答をお願いしたく思います。TPPの問題も口蹄疫同様、「今そこにある危機」であることには違いありませんので。(あくまでも希望です)
投稿: 青空 | 2011年1月11日 (火) 00時05分
青空様、すいません。出すタイミングがなくなっちゃって。やります。
南の島様、鹿児島はほんとうにすごいですよ。いつも関心させられます。全国があの水準だったらと思います。
cowboy様。まったく同感です。そのような体制がほしいですね。
私は一回英国流の演習をしてみれば、防疫体制が穴だらけなことが再認識できると思います。
投稿: 管理人 | 2011年1月11日 (火) 05時47分
鳥インフルエンザ、大変な事態になっていますね。
韓国の口蹄疫も釜山の近郊まで発生し、韓国政府は口蹄疫ワクチンの自国生産体制を整えるようです。
周辺国や渡り鳥の状況を鑑みると、私は、鳥インフルエンザと口蹄疫ウイルスの侵入を防ぐという取り組みは、すでに不可能な段階に至っていると思います。防疫努力によって、安心して畜産経営をおこなえるレベルではないと思います。
牛の飼養者の率直な感情として、昨年のような牛の殺処分は御免です。
口蹄疫に関しては、今すぐ、予防的なワクチン接種で対処すべき状況であると思います。牛の世界ではすでに、異常産などのワクチネイションをおこなっています。そして、口蹄疫ワクチン接種清浄国になっても、貿易上の実際的な不利益は、牛に関しては無いと思います。
韓国のように、家畜を感染ハブとして口蹄疫ウイルスが国内に蔓延する事態になる前に、野生の偶蹄類に蔓延する前に、方針転換するべきです。
口蹄疫の話になってしまいましたが、鳥インフルエンザに関しても、ワクチンで対処する事は獣医学的にはできないのでしょうか?
投稿: 南の島の黒毛和牛繁殖農家 | 2011年1月27日 (木) 21時35分