ウイルスを飼い馴らす
日本という不思議の国ではワクチンを使ってはなりません。いや、口に登らせることすら「不浄」なようです。
もちろん、ワクチンは日本バイオロジカル社製の国産ワクチンなどを「国家備蓄はしてあるが、その存在も口にしてはならないし、ましてや使うなどもっての他」なようです。
とんでもねぇ国のトリ飼いやってんな、私らは・・・!ひさしぶりに国外逃亡したくなりますよ。ニコバルかトラジャあたりで、ワクチン使いながら古米でも食わせてのんびりトリ飼っていたいな。
昨夜も池上パパがいつもの調子でまったく文春記事と同じことをしゃべっていました。まるで農水省のスポークスマンだね、あの人。
ところで、私はこの頃、ある意味畜産家にあるまじきこと思うのです。「ウイルスと一緒に暮らせばいいじゃないか」ってね。
私たちからみれば鳥インフルだって、しょせん同じニワトリの病気の一種にすぎません。要するにニワトリの風邪です。もちろん厳密には風邪とインフルは違いますが、対処の方法はそんなに変わるものじゃありません。
罹ると卵を生まなくなったり、死亡鶏が増えて経営がガタガタになりますから、当然予防に心がけます。
よく私たちのような平飼養鶏は「前近代的で不潔だ」という人がいますが、とんでもない言いがかりです。一切の薬剤、抗生物質を使用せずに、季節ごとのシビアな環境で育てている私たちのほうが、よほどワクチネーションをしっかりやっています。
だって、予防ワクチンくらいしか伝染病を防ぐ手だてがないからです。今の、私の鶏舎なんぞカーテンもビニールもなしのスースー。ただ二重の防鳥ネットがあるだけです。しかし、彼女たちは風邪などひきません。ガキの頃から鍛え上げていますからね。
しかし、予防ワクチンといえど効かない個体は当然でます。と、私たちはどうするのか?簡単です。淘汰します。極めて稀で、私自身数回しか経験がありませんが、感染初期に淘汰をかけます。鶏群全体に感染を拡げないためにはその方法が一番です。
特に冬場は鬼門で、私たちは鶏の鼻孔やくしゃみに細心の注意を払っています。クシュンなどという咳が出たら赤ランプです。
もちろん症状が顕在化しない個体もあるでしょうかから、その個体は隠れてしまうことになります。
「そんないいかげんでいいのか」と防疫学者は言うでしょうが、いいのです。なぜなら、症状が顕在化しないということは、抗体をもっていたわけですから、個体の産卵量は一次的に低下するでしょうが、群全体に対して感染拡大する可能性は低いのです。
なに?絶無じゃないだろうって。そんなこと当たり前じゃないですか。私たち畜産家はバイオ・ハザードの研究施設の中で養鶏やっているんじゃありませんから。一定の予測されたリスク環境の下で経営をやっているのです。
たしかにそのように指向する養鶏家もいますよ。ウインドレス(*無窓鶏舎・密閉した工場型鶏舎)が最善と思っている同業者も大勢います。いや、あちらのほうが主流で、私たち平飼は極小派か。
しかし、2005年の茨城トリインフルで軒並み大発生をしたのもウインドレス、今年も愛知などで大発生させたのもウインドレスです。平飼養鶏の発生は、過去現在ただの一件もありません。外部から隔離するなど夢想です。だから私は無窓鶏舎ではなく、夢想鶏舎と呼んでいます。
それはともかくとして、私は「ウイルスとを飼い馴らす」しかもうてはないのではないかと思い始めています。つまりさきほど言った不顕性感染を前提に、防疫を考えたほうがいいと思うのです。
どんなにバイオ・セキュリティのレベルを上げてある程度は出るよ。予防ワクチンをやっていても罹る個体は罹るよと思います。そう割り切って畜産経営をすべきなんじゃないでしょうか。
ところが、クロウトの皆さんは絶対にそう考えてはくれません。私はメキシコがモデルになるんじゃないかと思っていても、動衛研にかかるとこのように酷評されてしまいます。
「メキシコでは1994-1995年に発生したH5N2高病原性鳥インフルエンザ対策としてワクチン使用をした。その結果、強毒ウイルスの流行は沈静化されたが、H5N2弱毒ウイルスは存続し、ワクチンを使用しながらの防疫を継続しており、未だに清浄化は達成されていない。」
(動衛研HPより引用)
だからナンだって言うんだよ、と言いたくなりますね。N2型、つまりはワクチン由来の弱毒の低病原性(LPAI)じゃないですか。罹っても死亡鶏は絶無と言っていいほど出ないし、ましてやヒト感染を万が一しても不顕性感染ですから、ピンピンしています。茨城トリインフルでウイルスをもらった処理場作業員の方々と一緒です。
また池上さんの話で恐縮ですが、彼が記事で「鶏の中で感染を繰り返していくうちに変異してヒト感染型になる」ということを書いています。わかってないな。彼は根本的にワクチンがわかっていない。
ワクチンは、低病原性のAIワクチンを与えることで、ウイルス排出を抑えて高病原性株を制圧させたり、低病原性株に置き換えたりするのです。だからこのまま放置すれば、高病原性株の中でヒト感染型に変異してしまうことを事前に防げるのです。
動衛研自身も、「国際機関のワクチン使用への考え方」という文書の中で以下のように書いています。
(動衛研HPより引用)
またEUの中ではイタリアはAIワクチン使用に踏み切っています。
「イタリアでは2000年にH7N1による高病原性鳥インフルエンザの発生があり、ワクチンを使用せずに摘発淘汰で撲滅に成功したが、弱毒のH7N1ウイルスによる発生が継続したため、H7N3で作製したワクチンの使用が開始された。
ここで、ワクチン株と野外流行株のNA亜型が異なることを利用して、ワクチン抗体と自然感染抗体を区別する識別システムが利用された。
しかし、2002年から弱毒のH7N3の流行が始まり、今度はH7N1亜型のワクチンを使用することになった。さらに2005年には弱毒のH5N2ウイルスによる発生もあり、現在ではH5とH7の2価ワクチンを使用している。イタリアでは鳥インフルエンザワクチンを常在疾病ワクチンとして継続的に使用している。」
(同上)
そしてEUは鳥インフルワクチンの使用を許可し、その鶏肉のEU域内流通も許可しています。
私たちシロウトの現場主義者は、予防ワクチンをしっかりと接種して、低病原性株で農場を制圧し、それでも万が一発症することがあるなら、摘発淘汰をかけることで抵抗性のある個体を選別できると考えています。
それが池上氏が言う「鶏群内部での感染による新型インフルが出現する」ことを阻止するもっとも安価で(一羽たったの20円)、確実な道なのだと思います。
■写真 私の花の撮影ポイントはDIYです。店頭で店員にいぶかしがられながら、花盗人をしております。
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コメント
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賛成です!
以前にも書きましたが、もうすでに「ウイルスと共存」するしかない時代になっていると思います。
昨日一つ興味深いローカルニュースがありました。
白鳥飛来数日本一だった酒田市最上川河口での観測で、去年の5分の1に。
数年前からインフル対策で規制線を設けて餌やり禁止にしたのが影響したのか、今年の大寒波でより南に移動したのか、そもそも今までの計測(地元保護団体)に問題があったのか…
正直分かりませんです。
鶏用ワクチン、1羽あたり20円ですか!体重当たりとはいえ安い!
シロート考えで、もう1桁位上かと思ってました。
100万羽も飼ってるとこだと2000万にもなりますが。
さらにシロート考えですが、人間には「ワクチン打て打て」というのに鶏には「打つな、処分しろ」というのは単純に常々疑問に思っておりました。
投稿: 山形 | 2011年3月 3日 (木) 08時21分
平飼いが、不衛生?っていうのは、どうなんでしょうか?
確かに、放し飼いだと、夜間、巣の場所を決めるので、その下は、糞だらけにはなりますが。。
我が家も、こどもの頃は、鶏やチャボが、庭に居ました。30羽くらいは居たでしょうか?(普通の家ですけど)
特に、まったく普通に、暮らしてましたけど。。
暑くても、寒くても、鶏なりに、考えて、害獣にも、やられないように、してましたけど。
時に、夜中に、野犬?とかの侵入で、鶏がどこかへ行ってしまい。朝、戻ってくるなんてこともありましたけど。
ケージを5段に積んでいる方が、余程、匂うし、放し飼いで、くさいと思ったことは、ないですね。
くさいのは、ムセイ卵が腐って、爆発したときくらいでしたよ。
とにかく、放し飼いの鶏は、元気でした。まあ、元気のない鶏は、犬、猫にやられてしまいますから。。
もちろん、当時は、ネットなどありません。完全に、自由ですが、ちゃんと、自分の気に入った木の上に居ました。適正空間があって、行動に規制がかからなければ、それなりに、体力は、あるように思います。温室状態で育てるよりは。。。
ウイルスに対しても、抵抗力は、ケージ飼いよりあるような???
投稿: りぼん。 | 2011年3月 3日 (木) 09時17分
寄生生物と宿主は、共存しないと生き延びられませんから、ウイルスや細菌は、どちらかが淘汰絶滅することは、本当は起きてはいけないことだと思います。そそのようにして進化してきているはずですが、人間が抗生物質を発見して以来、それが、少しずつ変わりはじめているのでしょうね(ウイルスには抗生物質は効きませんが・・汗)。
微生物学者様は、自分たちが、病気を根絶してきたというプライドがありますし、近代までの医学獣医学は、やはりどう言っても微生物が主流でしょうから・・・・。
免疫学が主流になることがあるかしら?ん~。今でこそ、日の目は浴びてるけど、やっぱり、微生物学者様たちが、力あるかな?
個体の抵抗力(免疫機能)は、ストレスにより低下するのは、すでに周知の事実。ストレスに強い個体を作ることが、病気に強い個体を作ることになるはずです。ウインドレスで飼われている鶏たちが、ストレスに強いのかどうか?
投稿: 一宮崎人 | 2011年3月 3日 (木) 12時37分
人間でも「エボラ出血熱」のような、ほぼ確実に宿主を殺すような自己矛盾的なウイルスもありますから、
なかなか思うようにはならないもんですねえ…。
投稿: 山形 | 2011年3月 3日 (木) 13時26分
日常的、現実的にはウイルスとの共生を図らなければ畜産業は難しいと思います。
今冬北海道では「牛RS」が流行りました。私の町では乳牛全頭にワクチン接種(5種混合)を行っています。(未経産牛は生ワクチン、経産牛には不活化ワクチン)
町内産の雄子牛を「哺育・育成」している農家でも発生しました。幸いにワクチンの効果かどうかは分かりませんが、軽症で済みました。
個体によっては、抗体価が低い牛もおり、それがスタートだったかも知れません。
濱田様が仰る通り、細菌やウイルスを完全に遮断しての畜産業は不可能である以上、ワクチンなどの手段を活用しながら、共生する事しか出来ないと思っています。
そこに政治的な考えが入り込むと、生産現場との距離感が益々遠のいた対策になるのではないでしょうか?
投稿: 北海道 | 2011年3月 3日 (木) 15時19分