長期にわたる放射性物質の降下と、地表面への累積を見落とすな!
昨日に続いてなぜ土壌放射線量が大事なのかを考えていきたいと思います。
えてして私たちは自分の地域に降ってくる放射線量という場合、空中放射線量のほうを考えてしまいがちです。それはとうぜんで、損傷を受けた福島第1原発からは未だかなり低位になったといっても放射性物質が出続けているからです。
特に4号炉の使用済み燃料プールと、一部が融解している燃料棒からは絶え間なく放射性物質が放出されていおり、おそらくは1日数テラベクレルに登るのではないかという専門家もいます。(資料1参照)
先日、東電が出したロードマップ(工程表)でも放射性物質の抑制までに3カ月から6カ月かかるとされています。(資料2参照)
原子力安全委員会の斑目委員長がにべもなく「難しいじゃないの」(意味)と言うように、こんな期間で放射性物質が抑制できると思うほうがゴクラクトンボのようです。私たちは更に長い時間を絶え間なく排出される放射性物質とつきあっていかねばならなくなりそうです。
さて、この放射性セシウムやヨウ素は非常に軽い揮発性の高い物質ですから、その時の風に乗り各地に飛散していきます。
なぜ測定結果にでないのか不思議がられていたストロンチウム89と90も福島県各地で検出されたそうです。(資料3参照)
今までに福島第1原発から放出されたトータルな放射線量は、内閣府原子力安全委員会発表63万テラベクレル、一方経産省原子力安全・保安院発表37万テラベクレルと4割も違います。
やれやれどうしていつもこうなんでしょうね。中とって50万テラベクレルとしますか。(笑)テラは京の単位ですから、なんともかともです。
今の段階では同じレベル7でもかのチェリノブイリの10分の1だというのが政府のなぐさめのお言葉です。しかしこの10分の1とはあくまでもただいま現在の数字なのです。
チェリノブイリは翌日から鉛を投下して、10日間で鎮火しました。そして5カ月で石棺に封じ込めています。放出れされた放射線総量は推定520万テラベクレルだと言われています。
福島第1は未だ放射性物質放出の抑制すらできていない状況です。つまり延々と放射性物質を出し続けているわけです。
仮にこの状況が1年単位になった場合(その可能性は高いと思われますが)、放射性物質は放出され続けて累積していきます。
再度の水素爆発がなかったとして、仮にあっても格納容器がそれを封じ込めてくれるという幸運に期待したとしても、語弊のある表現を使えば放射性物質は「降り積もっていく」と考えるべきです。
ではどこに「降り積もっていく」のでしょうか?あたりまえですが、それは土壌です。
今までこのような長期にわたって原子炉から放射性物質が排出され続けるような状況を人類は経験していません。チェリノブイリ型事故のように短期で封じ込めるかわりに、大量の放射性物資を一時に排出してしまう事故しか考えてこなかったのです。
ですから、国際的にも土壌放射線量ではなく空中放射線量が避難基準の指標になっているのです。
「国際放射線防護委員会(ICRP)は、原発事故などが起きた後に周辺に住む人の年間被曝(ひばく)限度量は、2007年の勧告に基づき、1~20ミリシーベルトの範囲が妥当とする声明を発表した。」(朝日新聞3月26日)
頭を切り換えなければなりません。今私たち日本が遭遇している事態は、ドッカーンというチェリノブイリ型原発事故ではなく、比較的小規模な爆発の後ダラダラと揮発性の強いヨウ素、セシウムを中心としたストロンチウム、そして微量で飛散地域も限定的ですがプルトニウムが排出されると言った事態なのです。
その場合どのようなことになるのかは、下の放射線影響協会の図がわかりやすく解説しています。
(図 「緊急被曝医療の対象について」放射線影響協会より引用) http://www.nsc.go.jp/senmon/shidai/hibakuken/hibakuken001/siryo1-4.pdf#search='
原子力事故により放射性プルーム(気体による雲)が出来て、それが地表に落下します。それを人が吸入し、地表面に落下します。
この放射性物質が再び地表面から放射されます。これを人が吸収してしまいます。あるいは、植物などに吸着されます。
これが「グラウンドシャイン」と呼ばれる現象です。この現象が福島第1原発事故で既に起きており、そのことは原子力安全委員会も認めています。(ソース TBS報道特集4月17日)
ところが政府はあいもかわらず空中放射線量のみを重視する発言をくりかえしています。空中放射線量は、たとえば茨城県北部地域の場合以下のように推移しています。
(上図 茨城県HPより引用・クリックすると大きくなります)
水素爆発のあった3月15日から17日に大きなピークがあります。実はこのようなピークはそれ以前の3月12日にもあった水素爆発から3、4日間も観測されたはずなのですが、大停電で観測記録が残っていません。
現在は「健康に影響がない」レベルまで下がっています。政府の言い方だと、この現時点の空中放射線量に問題がなければOK、基準を上回れば避難という言い方をしています。
そうではありません。その考え方は決定的に間違っています。なぜなら、その考えに立つ限り、既に地表面に落下し、今後も長期にわたって落下しつづけて累積していくであろう放射性物質の存在を無視しているからです。
この放射性物質の放出が止まらない限り、いや止まったとしても、既に累積している放射性物質がどのていどのレベルの土壌放射線量を示すのかしっかりとしたデータが示されない限り、「健康に影響がない」とは言えないのです。
それが東海村臨界事故でもみられた大量の晩発性障害です。これについては回を改めます。
■写真 ホトケノザです。いや、野草はいい。なごみます。
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■資料1福島1~3号機核燃料、保安院「溶融」と初見解
読売新聞 4月18日(月)20時48分配信
保安院はこれまで、核燃料の損傷が3%以上としてきたが、「溶融」との見解を出したのは初めて。
保安院は炉心の壊れ具合によって3段階に定義されると報告。「炉心損傷」は、焼き固めた燃料(ペレット)を覆う金属の被覆管が壊れているが、燃料体の形は崩れていない状態。ペレットの一部が溶けだしている状態を「燃料ペレットの溶融」、溶けた燃料が下に落ちていくのを「メルトダウン(炉心溶融)」とした。
その上で、「ペレットが溶融している」とした理由について、2、3号機は「ペレットが溶融して生じる放射性物質が高濃度の検出された」ことを、1号機は「水素爆発に至った」ことを挙げた。
読売新聞 4月18日(月)20時19分配信
また「工程表の精査はできていないが、スケジュールありきで安全がおろそかになることは避けてほしい」と語った。
班目委員長は「一番難しいのは2号機対策」とし、理由としてタービン建屋地下に高濃度の放射性物質を含む汚染水があることを挙げた。フランスから導入予定の浄化処理技術についても「本当に(高濃度の汚染水に)使えるのか、安全委員会側として承知していない」と効果に未知数の部分が多いことを挙げた。
時事通信 4月13日(水)0時44分配信
同省は3月16~17日、第1原発の30キロ圏からやや外にある福島県浪江町の2カ所と飯舘村の1カ所で採取した土壌を分析。1キロ当たりストロンチウム89が最大260ベクレル、同90が最大32ベクレルだった。
大玉村、本宮市、小野町、西郷村で19日に採取された植物も分析。1キロ当たりストロンチウム89が最大61ベクレル、同90が最大5.9ベクレルだった。サンプルの植物は食用野菜ではないという。
ストロンチウムは、カルシウムと似た性質を持ち、人体に入ると骨に沈着し、骨髄腫や造血器に障害を引き起こす恐れがある。ストロンチウム90は半減期が約29年と長く、過去の核実験の際に飛散し問題となった。同89は半減期が約50日。
(Jコム2011/04/13-00:48)
■文科省全国の放射線モニタリングデータ
http://www.mext.go.jp/
全国の放射線のモニタリング調査結果の1週間の推移を都道府県別にグラフにしてお知らせします。また、福島県については、モニタリングカーを用いた放射線モニタリングの結果をお知らせしています。
■茨城県放射線テレメータ・インターネット表示局
http://www.houshasen-pref-ibaraki.jp/present/result01.html
2011年04月19日 06時30分の状況 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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*モニタリングポストの計測数値はナノグレイですので、マイクロシーベルトにするには100分の1にしてください。
■厚労省 茨城県で産出されるホウレンソウ(一部地域を除く。)、カキナ及びパセリに係る出荷制限の解除について
○ 3月21日及び23日、原子力災害対策本部は、茨城県等に対し、一定の食品の出荷制限等を指示していました(3月21日付けプレスリリース「食品の出荷制限について」及び3月23日付けプレスリリース「食品の摂取制限及び出荷制限について(福島県及び茨城県)」)。
○ その後、4月4日、食品の出荷制限・摂取制限の品目・区域の設定・解除の考え方が原子力災害対策本部の対応方針として発表されました(4月4日付けプレスリリース「食品中の放射性物質に関する暫定規制値の取扱い等について」)。
○ これに基づき、茨城県より、農林水産省及び厚生労働省との協議を経て、原子力災害対策本部あてに、本日、食品の出荷制限の指示の変更が申請されました。
○ これについては、本日までの検査結果に基づき、食品の出荷制限・摂取制限の品目・地域の設定・解除の考え方に適合するものと認められるため、原子力災害対策本部は、茨城県に対し、本日、食品の出荷制限の指示を変更しました。
がんばれ、東北!
がんばるぞ、茨城!
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コメント
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一応ロードマップは発表されましたが…調べて見れば思わぬ所であちこち損傷があって、思うように復旧が進まないなんてことは、今後いくらでもあるだろうと覚悟してます。
現場の皆様お疲れ様です。気持ちだけでも「ファイトーッ!!」と送りたい!
そして、東京の各組織と現地本部が可能な限り最適な仕事をなさってくれることを祈り、「どうぞご無事で帰って来て現場の事情を伝えて下さい!」
お願いします。
そういった蓄積こそが、将来の人類の英知に直結することなのですから。
土壌に関しては、どうなんでしょう?
山形の降下物測定は、3月20日に跳ね上がって一部のバカがパニックお越しましたが(恥)
一時の機械故障を乗り越え、今のところ降着ヨウ素もセシウムも「不検出」まできました。
福島第一原発は一進一退ですが、いわゆる「核爆発(原爆)」では、いまのところありません。そうならないために必死に現場が戦ってます。
だからって、近くの農産品(野菜類)を敬遠するのは違います。
騒いでるヤツほど、当該地域の野菜なんか流通しない所の住人でしょうに。
とにかく、まずは落ち着きましょう。
飯舘村始め、ひどい「『無計画』避難指示」された方々と家畜には、本当に心からお見舞い申し上げます!
投稿: 山形 | 2011年4月19日 (火) 10時22分
降り積もった雪は春になれば融けて水となり、それが豊かな日本の穀物を育みます。
それが、目に見えないとは言え静かに土壌やあらゆるものに降り積もり、物によっては気が遠くなる期間(半永久的に)放射線を出し続ける・・・・動食物に影響が無い程度までは除去できるにしても、それが「どこに・どれだけ」あるか、測定しながらの対応ですから、時間がかかるのは当然です。
勿論費用も・・・・・
東電が出す、国が全面的に負担する・・・と言っても、よその国がタダでくれる訳ではなく、全国民が税金や電気料で支払って行かなければなりません。
そうであれば、国民に向けての親切丁寧な説明があっってしかるべきものだと思います。
ただ、現時点では目の前の危機(冷却水を巡回させて、原子炉を落ち着かせる事)の収束と、避難者への最大の対応を優先させるべき事項です。スタッフがいれば、同時進行出来る事もあるとは思いますが・・・
とにかく、これ以上放射線が漏れないようにする事と、避難者(被災者)の犠牲がこれ以上出ない事を祈るだけしか出来ません。
投稿: 北海道 | 2011年4月19日 (火) 17時25分
茨城県つくば市が、東京電力福島第一原発の事故で福島県から避難して転入する人たちに射能汚染の有無を確認する検査を受けた証明書の提示を求めていたことが18日、わかった。> 何故同じ放射能で苦しんでいる茨城県が福島の方にこんな仕打ちをするのでしょうか?JCOで茨城は何も学んでなかったという証左ですよ。大学や研究機関のあるつくば市でこれでは日本の科学もお粗末です。それが原発事故につながったのでしょう。茨城はもっとしっかりしてください。
投稿: 滴 | 2011年4月19日 (火) 22時27分
私もつくばの事件には非常に怒りを感じています。茨城の恥です。近々記事にします。
投稿: 管理人 | 2011年4月20日 (水) 09時40分
つくばの一件は福島県民であるだけで宿泊を拒否されたりといった一部の悪質な対応が原因の被害者意識による過剰反応の様な気もします。
検査そのものは本人の為になりますし、検査済証は上記の様な謂れの無い対応から本人を守る盾にもなり得ます。
ただ、福島ほどでは無いにしても放射性物質が降り続く茨城県の中での話であることに疑問は隠せませんが…
投稿: 種子 | 2011年4月20日 (水) 10時38分
完全に狂っているぞ!
たぶん、文部科学官僚は、算数・理科が全く
できない人間の集まりでしょう。
単位の次元が違うよ。
癌死亡率。議論の単位はミリシーベルト。
文科の基準値はミリシーベルト/年
>子どもの20ミリシーベルトへの許容線
>量引き上げ。
>木寛文科副大臣は「100ミリシーベルト未満では、
>がんなどのリスク増加は認められない」と述べた。
投稿: 匿名 | 2011年4月20日 (水) 15時04分