つくば市スクリーニング事件は、「差別」か「誤報」か?
おとといの私のつくば市の事件に対する記事について、「あれは誤報である」というコメントを頂戴しました。
そこで事実関係を再調査しました。今回は市当局がアップした資料ですので一次資料と考えて差し支えないと思います。(資料1参照)
この資料は市長名での謝罪文と、時系列の表によってできています。
この市当局の資料を検討する前に私の立ち位置を明らかにしておきます。私はこの事件を、ネット界の一部で見られるような「放射能差別問題」だとは思っていません。
そして逆にこれを「誤報」として逆手にとって、この事件の教訓まですべて流し去ろうとすることにも反対です。
というのは、この事件は福島第1原発の避難に際して起きたことであり、今後もっと大量に出る可能性が高い避難民の流入に対して、隣接するわが県で起きたことを見逃すわけにはいかないからです。
これへの対応を誤れば、わが県は避難民を傷つけたかもしれない間違った行政のあり方を肯定してしまうことになります。
現在わが国では、残念ながら福島県民に対しての宿泊拒否、福島からの転校生へのいじめなどの明らかな「差別」ととられてもしかたのない事件が連続的に起きています。
このような流れはここで断ち切らねばなりません。さもないと「がんばれ、日本!がんばれ、東北!」という国民的スローガンがただの看板にすぎず、身近になればエゴをむき出しにするのだということになってしまいます。
もうひとつ付け加えるのならば、この事件をもってしてつくば市民や茨城県民総体までもが「差別的」であるかのような言辞を吐く人が絶えません。私のブログコメントにも「茨城県民はけしからん」というようなものが来ました。
あえて反論する必要もない低次元な言い方ですが、とうぜんのこととして私はつくば市民を批判するべきでないと思っています。行政と市民はまったく別の存在です。
ただ、これが「誤報」ではなく事実だとしした場合、それを長期に渡って放置しつづけていたとすれば、倫理的に如何なものかとだけは言えるでしょう。
さて、この事件で問題となったことは要約すればこのようなことです。
●県が福島からの避難民に対して、スクリーニング検査(被曝検査)を20㎞圏内以外を任意の保健サービスとしたことに対して、つくば市がそれを転入に対する義務として強制した。
この報道は全国紙などで複数あり、私はそれを信用しました。複数情報が同じことを報道した場合、それの確度は飛躍的に高まります。
それを受けてつくば市長名で「謝罪文」が提出されました。これは以下です。
①つくば市は福島県からの避難民に避難所を提供するなど積極的に受け入れてきた。
②その際に従来は県が運営していたスクリーニング検査を、市が受託して運営することになった。それに際して各種の専門機関に協力を依頼した。
③国からの情報がないために、市民からの不安の声が上がり、避難所の避難民だけではなく、福島県からの一般転居者にもスクリーニング検査を「お願い」した。
④このスクリーニングの「お願い」は、3月17日からすべての避難民、転居者とし、3月24日からは20㎞圏内のみとすることにした。
⑤市はこれを転居届けの義務とはしていない。
以上は当事者である市が市長名で出した公文書であり、これを否定する証言が上がらない限り事実に則していると思われます。
大事なことは、つくば市は福島県からの避難民や転居届けに対してスクリーニングを「義務」づけしていないという部分です。だとすれば、報道はあたかもそれを「義務づけ」しているかのように書いていますのでその部分は事実に即していません。
しかし、ここからがやっかいなのですが、市長みずからこう書いています。
「しかし,この取扱いの変更が各窓口センターに周知されず,加えて,本件報道の宮城県からの転入者の方については,窓口センター職員の錯誤により,転入案内の対応の際に,配慮を欠いたものとなってしまいました。」
これはつくば市の受け付け窓口職員が、ほとんど「強制」であるかのような口ぶりでスクリーニングを避難民や転居希望者、果ては宮城県からの転入者に対して言っていたということになります。
つまり、つくば市はそのような方針はなかったが、事実上そのように受け取られかねない行政執行をしていたということです。
参ったなぁ。じゃあ一緒じゃないですか。そういう気持ちじゃなかったが、実際はそうやっていた。それは窓口がミスったからだというのです。市原市長さん、このような言い訳は一般社会では通用しませんよ。
避難民を受け入れる一番の窓口であるはずの転入窓口は、しっかりと「このスクリーニングは任意です。20㎞圏内以外のかたは心配な方のみ受けて下さい」とアナウンスすべきでした。
それを怠って転入窓口がただ「福島県からの方はスクリーニングをしてください」とだけ言えば、転入者はそれを「義務」として受け取ります。当たり前です。
このように考えると、私はこれは避難民受け入れに際しての失敗事例だと思います。ただし「差別」うんぬんを問われるべき事例だとは思いません。
一方、このようなつくば市行政側の大きな手落ちがあり、宮城県からの転入者までにスクリーニング要求をしたわけですし、市長自身も謝罪しているわけですから、これへの報道を「誤報」というには酷です。
今後、政府の目を覆うような不手際で原発事故の影響はいっそう拡大していくことでしょう。計画的避難避難地域や警戒区域の設定にともなって多くの避難者が出ると思われます。
それに対して何をしたらいいのか、してはいけないのかがひとつ明らかになったことでこの事件は不毛ではありましたが、ひとつの意義があったと思います。
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■資料1 福島県からの避難者への放射線検査について
平成23年4月20日
つくば市長 市原健一
今般の福島県からの避難者に対する放射線被害の安全確認検査(スクリーニング)について,住民登録の際の窓口センターでの取扱いに不備があり,申請者及び被災された福島県民の皆様に配慮を欠く結果となり,不快な思いをされたことと,深くお詫び申し上げます。
茨城県は,震災後,福島原発事故の避難所2か所をつくば市内に開設し,福島県からの避難者の受け入れを行いました。その後,つくば市が同2か所の避難所の運営を行うこととなりました。その際,茨城県が既に保健所で実施していたスクリーニングを継続して実施することといたしました。
しかし,対象者が多く,土浦保健所での対応が困難であることから,つくば市消防本部のほか,産業技術総合研究所,高エネルギー加速器研究機構,筑波大学の協力を得て,避難所でのスクリーニングを実施いたしました。
この当時は,福島原発事故後まもなく,放射線や放射性物質に関する公式な情報が少ない中で,放射能に対し誰もが不安を感じていました。このような状況で,避難所への避難者だけでなく,福島県からの一般転入者に対してもスクリーニングを受けていただくようお願いすることにいたしました。
市民課窓口及び各窓口センターにおいても,3月17日に転入者に対し,スクリーニングをお願いすることといたしました。その後,各地の放射線量に関する公式な情報が公表されるようになり,市民課窓口では,3月24日に,福島原発20キロメートル圏内の方についてのみスクリーニングをお願いすることといたしました。
しかし,この取扱いの変更が各窓口センターに周知されず,加えて,本件報道の宮城県からの転入者の方については,窓口センター職員の錯誤により,転入案内の対応の際に,配慮を欠いたものとなってしまいました。
しかしながら,スクリーニングを実施されなかった方に関しても,つくば市が転入届を受理しなかったというような事実はございません。つくば市としては,もとより被曝は伝染するなどという認識は持っておりませんし,まして福島県の方々を差別する意図がなかったことを御理解いただきたく存じます。
なお,福島県から避難され,避難所でスクリーニングを受けた皆さまからは,安全が確認できて安心した,また,市内の知人宅に避難されていた方々からも,つくばで検査できないかという問い合わせがあり,消防本部でスクリーニングを実施した事例があったことを申し添えたいと思います。
今後も,福島原発避難者の受入れを積極的に取り組むとともに,スクリーニングを希望する方には,実施機関の案内をしてまいりたいと存じますが,また,このような事態が生じないよう,さらに注意してまいります。
結びに,本件について不快な思いをされた多くの皆様方に心よりお詫び申し上げます。
スクリーニングに関する経過
3月11日 | 東日本大震災。原子力緊急事態宣言の発令。 避難所の開設。 |
3月14日 |
福島県から避難者7名をつくば市役所避難所に受け入れ。 つくば市消防本部でのスクリーニングの実施。 |
3月15日 |
茨城県が洞峰公園に福島県からの避難者受入れを開始。 避難者へのスクリーニングを茨城県土浦保健所にて実施。 |
3月16日 |
つくば市で福島原発避難者受入本部を設置。 |
3月17日 |
国際会議場で避難者の受入れを開始。 洞峰公園,国際会議場でスクリーニングを実施。 市民課から各窓口センターに転入手続についての通知。 |
3月18日 |
県からの依頼により,洞峰公園及び国際会議場の避難所の運営をつくば市が引き継ぐ。 |
3月21日 | 洞峰公園及び国際会議場の避難者554人 |
3月24日 | 市民課で転入者への取扱いを変更(20km圏内の方に限定) |
3月31日 | 国際会議場避難所を閉鎖 避難者が洞峰公園,市内ホテル,龍ケ崎市等に移動 |
4月16日 |
市内国家公務員宿舎での長期避難者受入れに関し,県との協議を開始 |
4月17日 |
洞峰公園避難所を閉鎖 |
■茨城県放射線量測定モニタリングポスト
http://www.houshasen-pref-ibaraki.jp/present/result01.html
2011年04月23日 07時50分の状況 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
空間線量率(nGy/h) 風速(m/s) *空中放射線量の単位はナノグレイですから、通常につかわれるマイクロシーベルトにするには、1000分の1にしてください。たとえば水戸市吉沢97とあれば、0.97マイクロシーベルトです。 また空中放射線量は風向きや地形でひんぱんに変化します。あまり日々の変化に神経質になる必要はありません。市販のガイガーカウンターなどよりリアルタイムでみられますから、こちらのほうが優秀です。 ■写真 わが家の菜種畑。ただしちょっと前のです。去年は作りませんでした。 |
がんばろう、東北!
応援するぞ、茨城!
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マスコミはセンセーショナルな書き方と行政批判に走りがちなのはいつものことです。
連絡通知の不備や、現場の除染機材と人員不足・対応した人間の問題もあるでしょう。
船橋での「放射能が来た!」いじめ転校問題もありましたが、んなもん現場の教師がちゃんと教えてなんとかしやがれと…。
山形にも福島県から沢山の避難者が来てます。
「温泉施設を被害者には無料開放」するに当たって地元民と区別するために「罹災証明書」の提示を求めた所、「放射能汚染されてない証明を求められた」などとデマ・出鱈目が流れてます。
これを「差別」だというのはアホすぎます。
まず、皆さん冷静さを忘れずに行きましょう。
投稿: 山形 | 2011年4月23日 (土) 08時06分
今更ながらマスコミの影響力の大きさが再認識された事象です。人間の心の中には「天使と悪魔」が同居しているのだと感じました。その時々でどちらかがウエイトを占めて人間は動いたり判断しているのだと思います。でも、人に対する優しさ、思いやりは人間として持ち続けたいです。
レベルは違いますが、猛吹雪の中で雪山に乗り上げ身動きとれない車を見かけたら、迷わず助けます。(私の車が四輪駆動車と言う事もありますが)
車には「牽引ロープとブースターケーブル」は常時積載しています。当然相方の車も、独立はしましたが子供たちの車を購入した時も、この二つの道具だけは買いそろえてあげました。
いつかは自分が困る時もありますから、お互い様です。
原発は限られた数で地域も限定されるかも知れませんが、何かあった時にはその影響力(被害)は計り知れないものがあります。また、地震大国の上に乗っかっている日本ですから、いつ・どこで震災が起こるか分かりません。
口蹄疫やトリインフルもそうですが、危機感を持ち続け、出来る事から備えて置く事が必要と思っています。
投稿: 北海道 | 2011年4月23日 (土) 11時14分
まずは、当該者の気持ちを考えませんか?
私が言いたいのは、あなただったら差別と感じますか?
感じませんか?
投稿: | 2011年5月 1日 (日) 01時35分
私は正直に言って、このつくば事件を「差別」であるか否か、「誤報」であるのか否かにはあまり関心がありません。
そんなことをやっている時期でしょうか。大震災とその後の原子力事故によってやるべきことは無数にあり、救援もまったく足りていない状況です。
経過に関しては詳述したつもりです。つくば市は窓口末端までしっかりとした受け入れ態勢ができておらず、情報提供にも誤りがありました。
それ以上でも以下でもありません。ここで福島からの転居者がみずから差別を受けたと提訴でもすれば話は違ってきますが、そのようなことは今のところ起きていません。
抗議したのは宮城県仙台からの転入希望者でした。
そして言い方は悪いですが、騒いでいるのが、福島や茨城などの放射能の恐怖と闘っている当該地域の者ならばともかく、原子力災害とは無関係な地域の人ばかりです。
私たち被災地にはやるべきことは山ほどあり力が足りません。このようなフリクションでエネルギーを浪費したくないというのが本音です。
投稿: 管理人 | 2011年5月 1日 (日) 04時34分
お邪魔いたします。少々意見をお許しください。
毎日新聞には転入の手続きについて掲載されていました。
その文章には、「被災後であれば土浦保健所にて、放射線に関する検査をしていただく、検査終了後問題がなければ通常の手続き」とあります。
これは、義務として転入者に放射能汚染確認検査の証明書提出をもとめた認識と認容が認められます。即ち、窓口の職員は義務として動いているわけで、市長が「義務ではなく、本人と市民が互いに安心してもらうためにお願いした」という行政からのお願いは職員にとっての義務となり、因果関係として強制となりますます。
また、朝日新聞には「市の説明によると、一部の職員が証明書を転入の条件と勘違いしたという」という市側の説明は、行政としてはあり得ないでしょう。市内の5つの窓口センターに文章で通知したものが「一部の職員が」ではないということも事実。
現に、読売新聞には岡田副市長が「放射能汚染について、誤解があったと認めざるを得ない」と釈明していることからも、誤解は組織のトップにあったものと言えます。
また、一課長の判断で、このような文章は作成されないことは自治体行政職であれば常識ですね(国の機関とは違います)。
題は、市長は知らなかったとしていますが、知らないと言った方が、此処のところは得であろうというような損得で判断した答弁ではないかと(これは私見ですが・・)。
さらに、記者会見で、「避難者と受け入れ側の安全と安心のため、汚染がないか確認する必要がある」と述べています。この発言には他者(第三者)がいないわけです。即ち“誤解は、あくまでも相手側がしているので、こちらとしては、安心・安全の為の手続きであったわけで、配慮が足らなかったことは申し訳ないと思う”、となるでしょう。
また、国からの批判に対しても「少しでも多くの被災者を受け入れて、支援してきたのに、国からは基本的な方針や考え方が一切示されず、一方的な批判は遺憾」と述べたと言います。
投稿: endou | 2011年5月 4日 (水) 02時34分
連投失礼いたします。
なお、公務員には憲法擁護遵守義務と法令順守義務があるので、違法な職務命令に従う義務は無いのだとも。
あと、少々勇気は必要ですが、人として、若しくは、“残念な上司”に対しての、良心的拒否権行使も・・・(いやこれは単なる妄想?ですけれど・・)。
投稿: endou | 2011年5月 5日 (木) 00時35分