福島第1原発の事故は、浜岡原発でも再現されるのだろうか?
菅首相の浜岡原発の全面停止要請を中部電力側は受諾したようです。これで2年後までの補強工事を待たずして、事実上浜岡原発は葬られたことになります。再開はほぼありえないと思われす。
さて、福島第1原発事故から2カ月たちました。その時なにが起きたのか、そしその事態がどのていどまで浜岡原発で再現される可能性があるのかを考えてみましょう。
今までにわかっている福島第1原発の事故の初期経過は、次のようなもです。
① マグネチュード9の宮城県沖巨大地震によって原子炉に制御棒が挿入され緊急停止した。核燃料の臨界はこれで停止した。
②送電鉄塔の倒壊により外部交流電源すべてが喪失し、ECCS(緊急炉心冷却装置)が作動しなかった。
③建屋外部のタービン建屋にあった予備電源が高さ約15mの巨大津波で破壊された結果、冷却水ポンプが作動しなかった。
④電源車を派遣して作動させようとしたが、GE製の原子炉が440Vのために規格が合わず全電源喪失状態となった。
そして、「冷やせなくなった」原発内部のホットな放射性物質を「封じ込められない」状況へと発展していくわけです。ここから先も長いのですが、今日はここまでの段階で、この福島第1で起きた事故が浜岡原発で再び起きるかをみてみましょう。
まず、浜岡原発の最大の危険性は警告され続けている東海地震、あるいはそれと連動して起きる可能性が高い東南海地震のまさに震源地の真上にあることです。
想定される巨大地震のケースは2種類です。海底か、内陸部かですが、前者の場合はおそらくは大型津波を発生させることでしょう。しかし、それが宮城県沖地震と同等の巨大津波を発生させる可能性は低いと思われます。
それは宮城県、岩手県などのリアス式海岸とは異なるなだらかな海岸線だからです。といっても、10m前後の津波は覚悟したほうがよさそうです。
後者の内陸部で発生した場合ですが、これの判断は微妙です。というのは、宮城県沖地震は海底で起きたために、地震そのものとしてはおそらくはM8ていどまで減殺されていたのではなかったのでしょうか。
このように見ると、福島第1原発で起きた事故は福島第1特有の欠陥という部分もあり、そのまま浜岡原発でも再現されることは考えにくいのも事実です。
中電が安全・保安院に報告
中部電力は20日、福島第一原発の事故を踏まえた浜岡原発(御前崎市)の緊急安全対策を経済産業省原子力安全・保安院に報告した。この中で、外部電源が喪失し、さらに原子炉建屋内の非常用ディーゼル発電機が作動しない事態に備えた新たな対策として、各号機の原子炉建屋2階屋上にもディーゼル発電機を19日までに設置。いずれも海面から14・5~30・5メートルの高さにあり、津波を受けにくい場所を選んだ。非常時に原子炉へ注水するための電源となる。
中電は東日本大震災後、敷地内に配備した発電機車2台で対応する方針を打ち出していたが、即応性を高めるため、各号機に常設する方式に改めた。
敷地奥側の高台にも1年後をめどに、ガスタービン発電機を3~5号機に1台ずつ配備。タイプの異なる非常用発電機を置くことで故障や不具合のリスクを分散させる。
このほか、原子炉への注水や、原子炉格納容器の圧力を下げるために蒸気を放出する「ベント」などの具体的な対応手順を手引書としてまとめた。
中電によると、敷地海側に設置する防波壁など今後実施予定の対策も含めると、費用は300億円程度となる見通し。
中電からの報告を受け、保安院は21、22の両日、浜岡原発に立ち入り検査する。資機材の配備状況や対応手順などを確認し、月内をめどに対策の妥当性を判断する。中電は定期検査中の3号機の早期運転再開を目指しており、保安院の審査が第一のハードルとなる。
「想定外ないように」県と御前崎市が注文
中部電力静岡支店原子力グループの杉山和正部長が20日、静岡県庁を訪れ、浜岡原発の緊急安全対策について、県危機管理部の小林佐登志危機管理監に説明した。
中電側の担当者は浜岡原発で今月、津波で1~5号機がすべて同時に被災した想定で訓練を実施したことを説明。小林危機管理監は「想定外という状況がないよう想像力を働かせ、より困難な状況を想定して訓練をすべきだ」と注文した。
原子炉を冷やす海水ポンプの電動機の予備を設置したことについては「まずは津波から海水ポンプを守り、健全性を維持することが大事ではないか」と指摘した。
また、同日開かれた御前崎市議会原子力対策特別委員会でも中電から緊急安全対策について報告があった。
委員からは「福島第一原発の事故に準じた安全対策を取った方が分かりやすい」「防波壁の完成は3年先の話。現状でも安全を確保できることを市民に説明してほしい」などの意見があった。
委員会終了後、石原茂雄市長は「福島の事故原因をさらに検証し、もっと詰めた対策を取らないと市民は納得しない。安全と言えるには、まだ時間はかかる」と話した。
中日新聞 2011年4月21日
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コメント
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福島とは原子炉建屋とタービン建屋の配置が逆なんですね。想定次第となりますが、福島同様の津波が襲来した場合にどうなるか判断つきかねますね。
なんだかあっさりと中電も停止を了承したなぁ、という気はします。
なんか「知られていない問題」があるのか?と勘繰りたくもなり、またどんな圧力掛けたんだとも…。
投稿: 山形 | 2011年5月11日 (水) 08時07分
防潮堤で、津波は、阻止できないと思いますよ。
津波の力をある程度、防ぐには、1対1.25くらいの勾配で、幅のある堤を作る必要を感じます。また、津波の力を左右に振り分ける構造設計が必要でしょう。
防潮堤の基礎やパイルの構造が、表示されてませんが、基本的に、基礎部分のボリュームは、防潮堤の見えているボリュームより相当大きくて、重量がないと、重心が、低くなりませんし。
砂丘ですから、N値が出ない可能性も大きいですし。
また、原子炉建屋もタービン建屋も、地下部分は、水没するでしょうし。
なお、非常用の電源車では、もちろん、原子炉冷却用の真水を充分循環させる電力はありません。
ECCSが、完全に作動するには、充分な外部電源の供給が、絶対必要です。
果たして、鉄塔も壊れず、外部電源が、たとえ1系統でも、残ってくれるのでしょうか?
基準水位は、高潮や低気圧の接近などで、変わってしまいます。
海水ポンプは、やむを得ない選択なのかもしれないが、Naなどの不純物が、炉に影響することの検証は、まだ、されてないようです。
また、配管接続部分の漏水や放射性物質の漏洩問題は、未解決です。ノロというモルタル充填だったとの話もあり、それでは、地震があれば、一発で、漏れ出すことになりますが。。
大体、1万箇所とも言われているバルブの配置すらわからないですし、絶えず溶接修理している原子炉ですから、それこそ予想外の危険物が、建屋内にあるのかも、わかってません。
原子炉建屋とタービン建屋は、揺れ周期が違いますので、M8以上の地震がくれば、津波が来なくても、緊急事態にはなりますね。うまく行って、スリーマイルのように、何とか、外部電源とECCSで、やっと止まる程度でしょうか。
自分としては、完全で、安全な稼動は、難しいと思ってます。
中部地方の人のほとんどは、節電して、原発事故が止められるなら、そうすべきと思っていると思いますよ。
投稿: りぼん。 | 2011年5月11日 (水) 18時51分
私も、りぼん様のコメントに同意します。
さらに、リアス式海岸以外なら10m前後の波という想定にも?です。
1771年に石垣島は30mの明和の大津波に襲われています。近年の研究で、東海地震と同じ海溝型巨大地震が引き起こしたということが分かっています。
http://seis.sci.u-ryukyu.ac.jp/hazard/EQ/1771yaeyama2/1771tsunami_2.html
また、御前崎・室戸岬・喜界島の海岸段丘の調査から、約2000年周期で超巨大地震が発生している可能性があるといわれています。
http://cais.gsi.go.jp/KAIHOU/report/kaihou78/11_07.pdf
http://wwwsoc.nii.ac.jp/qr/QA/answer/ans006.html
現在の人類の力では、浜岡原発を守ることは不可能です。
投稿: 南の島 | 2011年5月11日 (水) 22時09分
なるほど。たしかに。そのとおり。
投稿: 管理人 | 2011年5月12日 (木) 04時18分
それを言い出してしまえば浜岡に限らず原発どころか、沿岸部の都市や離島は全部捨てなければなりません。
だから「想定」をどうするかが難しいのです。
ただし、今回の福島第一の件を見て今までの「想定」は甘かったのだと思います。あとは、いずれ訪れる廃炉までに巨大地震があるかどうかと、代替エネルギーをどうするかの問題です。
今回の休止措置は、対策後の運転再開を確約したそうで…政治的パフォーマンスの度合いが強いと思います。
今後の政府のエネルギー政策をどうするのかに注目です。
投稿: 山形 | 2011年5月12日 (木) 05時39分
はじめまして
以前より、このブログを読ませていただいています
浜岡は冷温停止になるようです
冷温停止は、原子炉を稼働して、温度調節した状態です
燃料棒もそのままプールにあります
この状態は、稼働中とあまり変わりなく、原子炉が吹っ飛べば当然のこと、電源喪失でも大きな事故につながると思います
停止する意味があったのでしょうか
発言の余波で、国内経済への影響は中部地方だけでなく日本全国に及ぶ可能性も出てきています
投稿: 姫ニャン | 2011年5月12日 (木) 19時23分