飯館村の最期の臨時セリ
飯館村という小さな村は、震災以前から私たち県外者にもよく知られた村でした。
平成の大合併の風が吹くなか、飯館村は安易な合併の道を取らず、自力で村を栄えさせることを選びました。
簡単なことではありません。わが村もそうでしたが、厳しい村財政を寄って集まりゃどうにかなるとばかりの風潮の中で、自分の村の経済をしっかりと成り立たせることから始めようとする道は茨の道だったはずです。
驚くほど多くの特産品が村人の創意工夫で生まれました。お酒、漬け物、農産品、そして全国ブランドになった飯館牛。
飯館村は、たとえ地方の小さな村であっても頑張れば栄えていくことができるのだというシンボルでした。私たちもその轍に続きたいと願った村でした。
しかし、この努力は一夜で潰されました。いうまでもなく、原発事故が村を襲ったからです。
NPOの測定で30μSv/hの地点も多数ありました。出荷は停止となり、野外の牧草は使用を禁じられました。
今まで手を入れて大事に育ててきた牧草地には牛の姿がなくなり、高い輸入粗飼料を買うしかなくなりました。これでは経営が成り立つはずもありません。
野菜はすべて出荷停止。作物を作ることが出来なくなった農家の中には離農を考える農家も増えていきました。
そして4月22日の避難勧告。
JAそうまによれば、飯館村の繁殖農家で牛を手放して廃業を決めたのは211戸のうち実に95%を超えました。(日本農業新聞6月29日)
避難先で畜産を継続できる人は10戸に満たなかったそうです。
国は5月末までの避難を求め、JA福島は全力で牛の避難の取り組みをしました。
4回に及ぶ臨時セリ、避難区域の繁殖牛、子牛の8割にあたる千6百頭を区域外の農家が引き取りました。
私は、今回の震災と原発事故でJAの果たした役割は巨大だったと思います。
被災区域への迅速な全国からの飼料搬送、被災者への経営の支援、販売努力、募金、そして今回のような避難区域の牛の退避など、JAがもし存在しなければ、被災各県の農業は壊滅の危機にさらされていたことでしょう。
農家の子供は小さい時から牛に乳を与え、学校から帰ると真っ先に牛の顔を見に行きます。そして牛と一緒に育っていきます。
結婚して子牛を増やし、子供が出来て牧草地を増やす。彼らから牛を取ることは命を取ることと一緒です。
6月28日、避難地域の最期の臨時セリが終わり区域内9300頭の牛は村からすべて姿を消しました。
いつの日か村に帰って行きましょう。今は牛を手放しても、、また牛を飼いましょう。やめるなどと言わず、もう一回やりましょう。
がんばって下さい。飯館村の皆さんが村に帰る日が一日でも早からんことを心からお祈りしています。
日本農業新聞6月29日
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コメント
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永い努力をしてようやくブランド牛確立したばかりだったのに…昨日のニュース見ててやりきれない悲しさを感じました。
まだ生後半年に満たない子牛も全て売るしかない…。
学生時代に「研究予算の都合で入れ替えるため」、トラックに載せられて泣き叫ぶ子牛の声が忘れられません。
投稿: 山形 | 2011年6月29日 (水) 08時23分
そういった状況での昨日の東電の総会での
原発は辞める気はないし増設していく発言に正直もう東電潰れちまえと思ったのは自分だけではないはずです。結局は利権なんでしょうね・・。
といっても反対しているは日本企業・・。
結局このまた日本のわるいとこがでちゃいましたね・・・・。横のつながりっていう日本の悪いとこです・・。外資に対抗するために必要なんでしょうけど・・・それが悪い温床にもなっているという・・・・。
投稿: 銀の狐 | 2011年6月29日 (水) 10時28分
昨日の東電の株主総会なんざ、ただのパフォーマンスで、わざわざ足を運んだ多くの個人投資家は無視されてました。
支援してきた大口の銀行・ファンド・東京都など…
あんなんで株主総会の意味はあるのか?と、日本中が感じたことでしょう。
退陣を表明してたはずの総理大臣が、無駄に粘りまくり、だれも菅の首に鈴をつけられない体たらく。
情けない!
投稿: 山形 | 2011年6月29日 (水) 10時54分
自分は何も原因を作っていないにも関わらず、泣く泣く手放さなければならない心情は、本当に同情します。
昨年の口蹄疫時には、これ以上拡大したくない(させない)と言う想いで、ワクチン接種や殺処分を受け入れた・・・・のとは全く事情が違います。
皆様がこのコメント欄で仰っている様々な理由によって原発を推進して来ました。大きな要因は産業発展と便利な生活、天下りや利権がらみ・・・色々なものが複雑に絡んで、ここまで来たのでしょう。
今回の事故で国民が、全てとは行かないまでも、その実態を知る事が出来ました。今までは今までとして、これからのエネルギー政策に大きな影響を及ぼす事は疑いの無い事実だと思います。
ただ、今は冷却がスムーズに行われ危機的状態からの脱却が優先しますし、同時に避難地区(避難者)の対応を万全にする事だと思います。
原発事故によって生活の糧を失った人々に対する当面の手当てが必要でしょう。併せて、濱田様が仰る農畜水産業の方々への手当て及び消費者に対する正確な情報提供が急がれます。
今の国会議員連中を見ていますと、言葉は悪いですが、「ゴミがいくら集まってもゴミの塊にしかならず、宝の山には決してならない」と思っています。
こんなこと言うと「それを選んだのは国民でしょ」、「選んだ責任は?」と必ず返ってきます。
ならば、解散総選挙・・・と言って騒いでも、そんな時間も余裕も無いのも事実。
って考えたら、今の議員さんに団結して物を言うしかないのか~~~期待は出来ないけど・・・・・
投稿: 北海道 | 2011年6月29日 (水) 11時58分
国会議員は、確かに有権者たる我々が選挙で選んでいますので、その責任は我々にあるのかもしれませんが、実際、誰が選ばれても、そこそこ国会議員先生然としてこれたのは、官僚の力が大きいのではないでしょうか?言えば、官僚が議員先生を上手くコントロールしていたから、今まで(自民党時代)は、ある程度上手く行っていたのではないでしょうか?
政権が変わり、政治主導などと言う聞こえの良い言葉が先走りしたのですが、実際は、何も出来ない知らない政治家先生ばかりで、物事がうまく進まない。
と、言うか、官僚が、裏で政治家先生をコントロールすることを止めて、お手並み拝見というところでしょうか?そのツケが、口蹄疫では、初動の遅れ。今回は、3カ月たっても何も決まらない。やっぱり初動が遅くなる。今の日本のゴタゴタを見ていると、そんな風に見えてきます。
そして、その官僚は、我々が選んだのではありません。
投稿: 一宮崎人 | 2011年6月29日 (水) 12時34分
一日も早く、再興できますように祈るばかりです。
見過ごされがちですが、しばらくは、牛舎(恐らく手作り)、農業機械や牧草地も使えないわけです。これらに対する思い入れも相当なものがあると推察します。
話は、変わりますが、
▼本日午前10:27に、再び新燃岳噴火。ついに、降灰が北側(こちらえびの市、小林市)に到達しました。はっきりと、目視できます。
そして、かなり、硫黄(SO2、H2S?)の臭いがします。
▼ベトナムでは、口蹄疫が蔓延しているとの県からのメールが届きました。昨年以上に早い勢いだと。
暗い話題ばかりで申し訳ありません。
投稿: Cowboy@ebino | 2011年6月29日 (水) 13時53分
http://www.mikage.to/radiation/detector.html
関東地区で、素人が測定している数値は、どこまで、信用できるのか?
購入者は、自分の機器の特徴を知っていて、ツイッター等で、発信しているのか?せめて、機種や、測定方法について、ブログを書いておられるなら、公表してほしいと思います。
投稿: りぼん。 | 2011年6月29日 (水) 16時17分
http://www.niaes.affrc.go.jp/magazine/117/mgzn11716.html?ref=sp
わたしたちは、ストロンティームもセシウムも、実際、食べてきてしまった。
それが、良いことだとは、思わないが。。
ただ、実際、体内のカリウム40のお陰で、それほど、急激な影響は無かったと思います。今回は、未だ、福島には、相当量の燃料棒が存在するので、楽観できないが、あまり神経質になることもないように思える。福島原発から離れることは、重要だが、80km以上離れていれば、それ以上、離れても、そこが、ホットスポットなら、意味がないであろうし。
投稿: りぼん。 | 2011年6月29日 (水) 16時44分
私も素人測定は自分の安心のためにする以上でも以下でもないと思っています。
ですから、私も測定していますが、公表は差し控えています。
あくまでも目安です。
また、いちおう野菜の測定方法の記事を書いたのも、あまりにメチャクチャな測定が幅をきかしているからです。(すいません。りぼんさん。以前の数値はありませんのですいません)。
しかし、週刊誌にしても軒並み測定大会の観がありますね。
投稿: 管理人 | 2011年6月29日 (水) 17時12分
「原発に反対が48.6%――増加傾向に」
あるアンケート調査でこのような数値が出ていました、
それと時期を同じくして「東電管内の電力需要が震災後最大値、29日ピーク時は93%超」
原発は反対してエアコンはフル稼働・・・
どういう発想なんでしょう 東京電力管内の48%もの人がエアコン切るだけで20%以上の節電効果がでるはずなのですが?
私は熱中症等のこともありますので、現状稼動できる原発は稼動させて、震災や原発事故の処理がある程度進んだときに、今後の電力供給をどうするか考えていくべきだとおもうのですが・・・
坊主憎けりゃ袈裟まで憎いってことでしょうか? 運用を厳格化すればもっと安全に運用できるはずなのですが、世界中で今も原発は動いてますし、日本でもまだ多くの炉が稼動してる
温暖化問題も絡んできますし一概にNOというだけでは無責任に感じてしまうのは私がおかしいのでしょうね。
投稿: | 2011年6月30日 (木) 02時18分