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原爆症とは低線量被曝のことだった

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今まで人類はいくつかの低線量被曝を経験してきました。

最初の大規模な経験は、不幸にもわが国が同時に2つの大都市において経験した広島、長崎の核兵器被爆です。

以後、チェルノブイリ原発事故、中東戦争時の劣化ウラン弾問題、そして各地の核実験場周辺における低線量被曝例が続きます。

このような経験をする中で、直後の急性症状とは別に、翌年以降、あるいは十数年後に発症する例が多数あることがわかってきました。 

「原爆の放射線被曝を検討する場合は残留放射線の影響を見逃してはならない。遠距離被爆地や遠隔の他の市町村から,救援や復旧のために爆心近くに駆けつけた入市被爆者にも急性症状が発症し,死に至るものが現れた。」
(「広島・長崎原爆の遠距離被爆者と入市被爆者の急性放射線症状」 田中煕巳・高橋 健)

これが「後障害」、あるい「晩発性障害」といわれるものです。

この晩発性障害は、被爆直後から救援のために現地に入った人々だけではなく、比較的遠くに居住する人々からも多く発症しました。

現地の疫学調査としては広島の於保医師による1958年の調査があります。これは低線量で残留した放射線がどのように人体に影響を与えるか実証的に調査したものです。

 「於保医師は広島市内の2 kmから7 kmの地域に生存している被爆者3,964人を対照にし被爆距離と屋内,屋外被爆,直爆後のl km以内への出入の有無と急性症状発現との関係を詳しく調べた。
また,629人の入市被爆者について,入市時期と急性症状発現の有無との関係を調査し,残留放射線による影響を統計的に示した。脱毛発現についての結果を図4に示す。
このグラフから,屋外被爆の場合には2km以遠の被爆者で,その後,爆心地帯に出入りしていない被爆者の中にも10%近い脱毛発症者がいることがわかる。」
(同上  資料1参照)
 

これらは年が立つに連れて、被爆との因果関係を立証するのが難しいために、原爆症認定訴訟も起こっています。

ガンなどの晩発障害には闇値がなく、確率的にほぼ被曝線量に比例して発症するという説に立つ人たちは、資料2のような疫学調査で分かった因果関係を示しています。
(資料2参照)

資料2のグラフは大変に衝撃的なもので、0.1シーベルトより少ない放射線量を浴びた事例のほうが単位線量あたり2倍から2.5倍もの相対的リスクをがあるとされています。

これは被曝した細胞が隣接する細胞に被曝情報を伝えるバイスタンダー効果や、遺伝子ゲノムが不安定となることが原因だと考えられるようになっています。

一方、厚生省の被爆者医療審議会の被爆者認定基準は、今なお閥値が存在するという立場を取りつづけています。

国側・厚労省は一貫して被曝量との因果関係を閾値(しきいち・発症する境界)があると主張し続けて、低線量被曝による晩発障害の原爆症認定を拒んできました。

今、私たちが福島第1原発事故で恐怖する低線量被曝による晩発性障害は、60年以上前から日本にあり、立場によって結論が分かれる古くて新しい問題だったのです。

不幸にも政治的な保守、革新に分かれて争われてしまったために、真実が見えにくくなってしまいました。

政治的立場を離れて、いったい広島、長崎の地でなにがあったのか、なにが爪痕として残って人々を蝕んだのかを見極める必要があります。

それは66年前にあった古き出来事ではなく、今、現在進行形で第2の大規模な被曝経験をしている私たち日本人に必要なことです。

          ゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。

資料1 被爆条件の違いにおける被爆者の脱毛現象

Photo_4

資料2 馬淵晴彦「疫学に基づくリスク評価の立場から」1997  Photo

参考文献

広島・長崎原爆の遠距離被爆者と入市被爆者の急性放射線症状
(日本の科学者 Vol.34 N0.7 July l999)

田中煕巳・高橋 健
http://www.ask.ne.jp/~hankaku/html/tnk.htm

http://www.ask.ne.jp/~hankaku/html/mokuzi.htmll

  

■写真 ギンモクセイが咲き誇って、強烈に臭いのですな。ハチさんは大喜びで群がってきました。

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コメント

記事とは離れてしまいますが、「福島県の酪農家の方が自ら命を絶った」とのニュースが報道されていました。
「原発さえ無ければ・・」の言葉を残して・・・

やるせない気持ちです・・・・

投稿: 北海道 | 2011年6月14日 (火) 20時01分

はじめまして。
家の子供たちも震災後からずっと体調不良が続いています。
下の子は下痢、未だに口内炎、鼻血と月に数回に減っていたおねしょが毎晩になった、未だに続く昼間の尿漏れが出ました。
上の子も肺炎や喉の痛み、頭痛、胸痛、抜け毛、だらだら続く発熱などです。
数件病院にかかっても原因は分からず、普通に診断されるだけでしまいには精神的な物じゃないか、先生に放射能のことを話しても、お母さんの心配が子供にも不安を与えるからと言われました。
すべてが放射能のせいだとは思いません。でも本当に本当に精神的なものだけならどれだけいいかと思います。
関東にも大量に降り注いだ放射能の影響が一切無いと思っている医者にはそれ以上は何も言いませんでした。

投稿: り | 2011年9月19日 (月) 22時53分

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