停電についてちょっと考えてみます。結論から言えば、農業が停電をやられれば、致命傷になりかねません。
特にこの炎天下で計画停電を食ったらと思うと、ゾッとします。わが農場の家畜は半分は死ぬでしょう。
都市と農村では「電気」の意味が違います。
実際に私たち被災地の人間は3月11日の大震災当日から、私の地域で4日間、長い地域で1週間にも及ぶ停電を体験しました。
私たち農家は生活と生産が密着しています。生活のほうはまだ「暗いな」といいながら闇生活に耐えれば済んだのですが、生産はそうはいきません。
わが農場は井戸です。よい地下水が出るので念のため予備まで入れて2本の井戸を掘っています。まぁ、水は完全自給できるわけですね。
ところで、井戸はなんで動くんだ?ポンプです。ポンプはなんで動くんだ?電気です。今日び、手で汲み上げている農家は珍しいですね。というよりいない。
そうそう震災の時は、村でいまや数本しかない手で汲む井戸が大活躍したんですよ。
では水道はというとこれもダメ。なんででてしょうか?浄水場の配水ポンプも電気で動くので、これもダウンしてしまいました。それと震災時にパイプが地下で破断してしまったためもあるようですが。
とまれ井戸にしても水道にしても、電気がこないと水が遮断されるのです。
私たち畜産農家にとって、家畜にやる水が切れるほどの恐怖はありません。あの震災がまだ寒い3月でよかったと思うほどです。
震災が今の梅雨明けの炎暑下で起きたのなら、もう目も当てられません。今は平均で最高温度は32℃を超えて35℃になる日も出ています。
この状況で断水が、震災時のように4日間も続けば・・・おお考えたくもない。プルプル(首を振る音)。
3月の大震災の時は、私はこんなふうに水を求めて3千里をしました。
●震災初日・・・そう長くはないだろうとタカをくくっています。明日には回復するだろうからちょっとシンボーしろよ、「水出てねぇじゃないか」とギャギャ言うトリを慰めます。
●震災翌日・・・まだ停電・断水。トリが産卵する午前中の給水は必須なので、わが家の風呂の水をありとあらゆる水が入る容器に入れて(台所の皿洗い用ボールまで動員)、どうにか喉湿ていどやりました。しかし、数時間で空に。
●震災3日目・・・隣の妹の家の風呂の水まで頭を下げてもらいに行きました。しかしこれもわずかしかなく、トリの怒りと渇きは頂点に・・・!
●震災4日目・・・まだまだ停電・断水。手汲み井戸をもらいに行きますが、とうに人間サマの水で長蛇の列。とてもじゃないが、家畜用の水を下さいとは言えません。
しかたがないので、近所の小川にバケツを持って汲みに行きました。午前午後数回。急斜面で滑りやすい川岸を数十回往復して、配餌車の100㎏入り容器を満杯にして、農場に帰ってようやく満足できる水やりができました。
ただし、人間様はヘロヘロ。いや~腰に来たこと。
川で水を汲んでいると、橋を通る村の仲間が物珍しげに、「ハマちゃんよー、川の水で飯炊くのけェ。きたねぇぞ。おらげの下水入ってかんなぁ。ハハ」。
なにがハハだつうの。畑屋はノンキでいいよ。オレだってここまで困んなければ、川の水なんか汲まねぇてえの。
大規模畜産屋もバルク車(:飼料を供給する8トン車のこと)にガソリンポンプを積んで、やはり川の水を汲んだそうです。
ウインドレス鶏舎(*工場式無窓鶏舎のこと)など、天まで届くケージが倒れた上に、倒壊を免れた棟も、酸欠、給餌、給水不可能となって、数十万羽が数時間で死にました。
この夜に復旧したので、どうにか川に水汲みという荒技はこれで終了したのですが、あと数日この停電・断水続いたら(実際に茨城県の一部ではそれからもえんえんと続いた地域が沢山あります)、私はここでノンキにブログなんか書いておらずに、今頃ドカチンの出稼ぎに行っていたでしょうね。
こんな悲喜劇は被災地のいたるところにころがっています。電気来なけりゃ水もない。ノーモア停電&断水。
さて、カン首相が「脱原発」をするとかなんとか言ってます。まことに高邁なお話ですが、正直言って私たち農家は「なんだかなぁ~」という気分で聞いています。
言っている当人が、大震災や原発事故でなんの役にも立たなかったばかりか、むしろ足を引っ張りまくった張本人だというのが痛いですなぁ。
そもそも大学でマージャン点棒計算機が専攻だったくせに、原子力事故の直接指揮なんかするもんじゃないよ。
なにも原発の冷温停止など難しいことを頼んでいるのではなく、身近な国民がほんとうに心配している放射能の汚染状況すら明らかにできない政府が、なにが脱原発、笑っちゃいます。
ましてや、除染作業など政府は小指一本動かしていません。この問題で必死に活動している与党議員など見たことがない。彼らの心配しているのは、総選挙があったらほとんど討ち死にだという自分の運命だけです。
わが選挙区の与党議員さん、あなた自分の選挙区で放射能測定したことがありますか?まして除染活動をしたことがおありですか?そういう地道な活動をしないから信頼されないんですよ。
そもそも、あなたの選挙事務所がある鉾田にメルトダウン後の3月21日午後4時30分、放射能雲(プルーム)が頭上を通過したことを知っていますか?
そして松戸、柏選、葛飾、江戸川選出の与党議員さん、あなたは3月22日午前8時に放射能雲と雨雲がぶつかり放射性物質を大量に含んだ雨が降ったことをご存じですか?柏、松戸、東葛にホットスポットが多数できたのはそのせいです。(資料1参照)
私の7月8日の記事でも書きましたが、この放射能雲の移動した地域の与党議員は自らの選挙区に帰って、率先して放射能測定を行い、汚染マップを作り、除染活動の乗り出すべきです。
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2011/07/post-d5ba.html
また、初めから計画停電を前提とするような「脱原発」には私は賛成できません。
よく知識人が、「電気を使いすぎる現代生活を考え直すいい機会です」などとしたり顔で言っているのを聞きます。
私から見れば、あんた川から水を汲んで家畜に「ごめん、ごめん、今日はこれだけなんだ」と謝りながら水をやってからその台詞を言え、と言いたくなります。
愚かなプロセスで「脱原発」をすれば、農業は半身不随になります。農業のみならず、国内の生産業の生産拠点は、円高と電力不足を嫌って海外へ逃げるでしょう。
わが国はドイツやイタリアのように、同じ域内の原発立国フランスから電気を売ってもらって「脱原発」をするという小器用なまねはできません。
そもそも原発事故の広域な被害から考えれば、域内すべてで「脱原発」をせねばならないはずです。一国脱原発主義でいいのか、どうなのか。
所信表明演説でベトナムに原発を売ったことを得意気に手柄話した首相が、アジア域内脱原発まで考えているのかお聞きしたいものです。
こんなカン首相の言う「脱原発」なんて、自分の原発事故対応の失敗を大ぼら吹いて目先をすり替えようとしているだけにしかみえませんよ。
あるいは、篠原農水副大臣が大好きなドイツのように、これから大原発立国となろうという中国から電気を売ってもらうことまで考えて言っているとしたらなかなかしたたかです。
しかしそんな困った時の買い物は、足元を見られてさぞかし高いものにつくでしょうが。ああ、いかん、暑いせいで今日の私はヒジョーにイヤミ。
まずは地道な放射能防護をすること。正しい放射能についての情報を出すこと。除染活動を汚染地区の隅々まですること。
それが選挙民の代表としての政府の国民を守るということです。それをしないで、なにが「脱原発」か。話になりません。
まず国民を守ることが出来てから、数十年かかる高邁なお話はお伺いしましょう。ラジウム鉱泉で顔を洗ってこい!
■追記 新たなセシウムが検出された牛が見つかり、その原因がワラ組合の出荷したワラにあることが判明しました。明日記事にします。(欄外の追加情報1、2をご覧ください)
゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。
■資料1群馬大学早川由紀夫教授による放射能雲の移動概念図
(「週刊現代」7月16日号より参考のために転載させていただきました。ありがとうございます。クリックすると大きくなります)
■柏ママの放射線だよりhttp://members3.jcom.home.ne.jp/2143800701/
別な農家からもセシウムワラを食べた牛が出たことが発覚しました。もっと出る可能性が高くなりました。
■セシウム汚染餌の牛、42頭出荷=仙台、千葉、東京、横浜で食肉処理―福島県
時事通信 7月15日
福島県は14日、南相馬市の農家が出荷した肉牛から食品衛生法の暫定規制値(1キロ当たり500ベクレル)の放射性セシウムが検出された問題で、新たに浅川町の農家が規制値を大幅に超える高濃度の放射性セシウムに汚染された稲わらを餌として肉牛に与えていたと発表した。
この農家からは今年4月以降、42頭が出荷され、東京都や千葉県、仙台、横浜両市のと畜場で食肉処理された。肉は岩手、山形両県にも出荷されており、既に一部は消費された可能性がある。福島県は県内すべての食肉用牛農家約4000戸に対し、14日から5日間程度、肉牛の出荷と移動を自粛するよう要請した。
県によると、県内の食肉用牛農家に対する立ち入り調査を実施したところ、浅川町の農家が保管していた稲わらから、1キロ当たり最高9万7000ベクレルという高濃度のセシウムが検出された。これは乾燥する前の水分を含んだ状態に換算すると、規制値の73倍に相当する。
42頭は、4月20日までに横浜市(14頭)、5月11日までに千葉県(5頭)、6月16日までに東京都(13頭)、7月6日までに仙台市(10頭)に、それぞれ出荷され、食肉処理されたという。福島県はこれらの牛肉の流通先について、厚生労働省などを通じて調査を急いでいる。
仙台市によると、同市のと畜場で処理された肉のうち、1頭分420キロは7月7日に東京都港区の卸業者に出荷された。7月11日には岩手県花巻市の業者が8キロ、山形県酒田市の業者が360キロをそれぞれ購入したという。
■追加情報 福島の肉牛に高濃度セシウム汚染の稲わら供与、42頭流通
産経新聞 2011.7.14
福島県によると、横浜市に14頭、東京都に13頭、仙台市に10頭、千葉県に5頭を出荷した。仙台市によると、10頭のうち1頭分は食肉加工後に東京都の業者に販売され、さらにもう1頭分は山形県酒田市や岩手県花巻市、仙台市の業者に販売。残り8頭の流通経路は不明で解明を進める。
また、厚労省によると、千葉県で解体された牛は都内の施設を通じて流通しているという。
福島県によると、浅川町の農家のわらからは、セシウムが最大で1キログラム当たり9万7千ベクレル検出。わらの水分量を補正すると暫定基準値の約73倍だった。わらは福島県白河市の稲作農家から購入したもので、計4種類。うち2種類は、田んぼに置いていたものを福島第1原発事故発生後の3月15日以降に集めたものだった。残り2種類は昨秋に集めたものという。
農水省は岩手、宮城、福島、栃木、茨城、千葉、群馬、埼玉の8県の畜産農家と稲作農家を対象に、わらの取り扱いに関する緊急調査を行う。
■追加情報2 肉牛の餌に高濃度セシウム 42頭 首都圏などに出荷
東京新聞7月15日
福島県は十四日、同県浅川町の肉用牛農家が高濃度の放射性セシウムを含む餌の稲わらを牛に与えていたと発表した。この農家は四月八日から七月六日の間、四十二頭を東京都、千葉県、横浜市、仙台市に出荷。食肉も汚染されている可能性があり、厚生労働省は食肉処理された後の流通経路について、関係自治体に調査を要請した。
福島県によると、わらからは、セシウムが最大で一キログラム当たり九万七〇〇〇ベクレル検出された。わらの水分量を補正すると暫定規制値の約七十三倍となる。
わらは、肉用牛農家が福島県白河市の稲作農家から購入した。稲作農家は福島第一原発事故発生後の三月十五日以降に水田から収集してロール状にしていた。昨秋にロール状にしたものもあった。
農家は「事故後のわらを食べたのは三十五頭だけ」と説明しているが、昨秋のわらからもセシウムが検出されており、福島県は「全四十二頭の追跡調査が必要」としている。この農家で飼われている牛の尿からもセシウムが検出された。
白河市の中心部は福島第一原発から約八十キロの距離で、避難が求められる区域ではない。農林水産省はわらの適正管理が必要と判断。岩手、宮城、福島、栃木、茨城、千葉、群馬、埼玉の八県で、畜産農家と稲作農家を対象に、わらの取り扱いに関する緊急調査を実施する。
福島県によると、牛四十二頭の出荷先は、横浜市十四頭、東京都十三頭、仙台市十頭、千葉県五頭。
仙台市によると、十頭のうち一頭分は食肉加工後に東京都の業者に販売され、もう一頭分は山形県酒田市や岩手県花巻市、仙台市の業者に販売された。残り八頭の流通経路は不明。千葉県で解体された牛は都内の施設を通じて流通しているという。
福島県は県内の肉用牛農家への立ち入り調査を実施しているが、県内の生産者に調査終了まで牛の出荷と移動の自粛を求めた。調査は今月十八日ごろに終了する見込み。
福島県によると、浅川町の農家が「稲わらを搬入してもらったが心配だ」と連絡。県が立ち入り調査し、汚染が判明した。
(東京新聞)
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