森林の放射性物質の測定と除染は難しい 「広い、険しい、立ち入れない」がネック
現在の社会の「空気」では、2桁の数値が出たらその瞬間目の前真っ暗というのが、農業者の本音でしょう。。
まして暫定規制値に近い数値など出ようものなら、県全体の米の運命に関わります。
と言うのは、今や多くの方がご承知でしょうが、米は「〇〇県産」としか表示義務がありません。
ですから、高い数値を出してしまった米も、検出限界以下の米も同じく「〇〇県産」で出荷されてしまいます。
正直に言って、すべての検査米が「検出せず」だったわが村などはなんとも言えないいや~な気分でしょうね。
一括して「茨城米」としての風評を被るのは一緒だからです。
今週の末頃から始まる本格的稲刈りを前に、なんとも暗い気分が村を支配しています。
稲刈りは、忙しい、安いとかブツブツ言いながらも、楽しいものです。こんな暗い稲刈りは始めてだったような気がします。
冷夏の時だって、収量は減ってもそれなりに相場が上がるのでなんとか凌げたのですが、関東近県でわが県だけが低い数値であれ出してしまったので、米相場の足を引っ張ってしまうでしょう。
「またもや茨城ひとり負け」というのは、村の仲間の恨み節です。
さて、里山の山林の測定と除染についてメールでご質問がありましたので、お答えします。
現状では、研究機関、民間も含めてまだ手つかずの状態です。
確かに難しいのです。難しい理由はこんなことが挙げられます。
広過ぎ、険しすぎ、立ち入れない。
ともかく日本の里山に限らず、森林面積は先進国有数です。しかも険しいときています。
昔のように林業が盛んならば手入れができていたのですが、今や放置された森林だらけで、そのような森林は下草が繁茂して立ち入ることさえ拒んでいます。
落ち葉は表面積があって体積がかさばっています。表面積が他のものより多いのです。
となると、フォールアウトした放射性物質はより多く葉や幹表面にかかり、雨で樹周辺の土壌を汚染します。当然のこととして、コンクリートの都市より線量が高いことが予想されます。
では、よく心配されるような放射性物質がジャンジャン森林から川や地下水などの水系に流出しているのでしょうか?
私はセシウムの性格上、ないとは思いませんが、少ないと思っています。
セシウムは確かに水に溶けやすいのですが、同時に土壌の粘土質にかなりしっかりと結着してしまう性質も持ています。
森林の土質にもよりますが、私は関東の森林に関しては土質が粘土質な場合が多く、未だ地表から5~10㎝程度で堅く結着している状態ではないかと思っています。
ただし東北各県は関東と土質が異なりますし、結局測定してみないと結論めいたことは言えません。
では、今後除染はどうなるのでしょうか。
残念ですが、非常に難しいと思います。それは先ほど調査そのものが難しい理由と一緒です。
「広い、険しい、立ち入れない」の三拍子が私たちを阻んでいます。具体的に考えてみましょう。
まず、除染方法は限られています。
➊深耕ロータリーによる希釈
➋ゼオライトなどによる封じ込め
➌客土
➍除染作物
これ以外、各研究機関で研究中の特殊な除去資材が登場するでしょうが、いずれも森林を除染するには不適当です。
理由は毎度同じで恐縮ですが、「広い、険しい、立ち入れない」です。
となると現実的には、人間の社会に関わって来る部分のみを極力きれいにして、後は時間を待つしかないということになります。
そして、おそらく最後にやってくるであろう農水関係の被害部門としての林業をどのような対策があるのか、という問題も残されています。
農業としては、里山から水系に出る小川や農用水の取水箇所にゼオライトなどの吸着物質を設して、森林からの田畑や水系への汚染の流出に対応することがひとつです。
林業は、申し訳ありませんが、あまりに巨大なエリアのために想像すらできません。
「チェルノブイリの森」という本がありますが、事故後20年たって初めてチェルノブイリの森に立ち入ったジャーナリストは、おどろくほどの豊かな自然の復活を目撃します。
人間は水と土、さまざまな動植物が織りなす森林の仕組みを完全に解明してはいません。私は自然の持てる浄化力に期待します。
農水省、環境省、森林総研などによる本格的調査が急がれます。私たちも農地回りの森林を測定するなどして、データ収集を行っていくつもりです。
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東北の山林も土壌は基本粘土質ですが、林業の衰退による杉林の荒廃が激しく残された広葉樹林にはナラ枯れ被害が広がって大変なことになっています。
いったいどうなっちゃうのか、先が全く見えません。
用水路に入ってくる水系にゼオライトなどのフィルターを噛ませるというのは、たとえ付け焼き刃の対策とはいえ是非早急にやってほしいですね。
効果がどの程度あるかは、後で検証すればよろし。
投稿: 山形 | 2011年8月26日 (金) 08時16分
体内被曝した場合、プルシャンブルーで、排出を促すのが、セシウムへの対策のようです。
つまり、イオン化しやすいセシウムを、水などでイオン化したものを吸着させるか、キレート化して、化合物を作り、不溶化して、そこに留めるか、が、実験室的には、考えられそうです。
杉の多い山林全体の除染は、難しいでしょうが、山菜、きのこ栽培、わさび栽培をしている地域には、それなりの除染方法と、測定監視体制を作らないといけないと思われます。
まずは、生活圏になっている山里を、農地同様、測定する必要を感じます。
すでに、間伐材を燃やして、発電するプランも出ているようです。原発の排気塔のセシウム吸着装置をつけて、間伐材を燃やして、発電することは、良いことだと思えます。
戦後66年経ったので、杉は、伐採時期を越えてますから、どんどん、伐採して、杉より保水力があり、根を張る木を植えることで、がけ崩れの防止にもなると思えます。
とにかく、測定と、除染研究を、山林についても、やっていくべきでしょう。
個人的には、いつまでも、反応が敏感なイオン状態で、セシウムが、存在しつづけるとは、思えませんので、なんらかのセシウム化合物になっていると考えるのが、普通で、化合物によっては、不溶性セシウムも存在するのでは?
やはり、河川とか水源地が汚染されるのは、地下水汚染同様、生活に影響しますから、チェルノブイリでのデーターは、あてにせず、日本独自で、測定すべきと思います。ヨーロッパと違って、ミネラルの少ない日本の土質や、急流の多い日本の地形など、状況が違うので、日本独自で、データーを集めないと、解らないことだらけです。
投稿: りぼん。 | 2011年8月26日 (金) 10時06分
とおりすがりですが、セシウムはアルカリ金属ですので、反応性の高い単体(金属セシウム)ではなく、通常は1価のイオンとして存在します。化合物のほとんどが水溶性のものとして存在しています。もっとも、ゼオライトのようなものにはたまたまイオン半径が適当な大きさであるなどからその中に入り込み割と強くトラップされます。そのため、土壌にあるそのようなものにかなり吸着されていると考えられます。
投稿: | 2011年8月27日 (土) 00時31分
複塩になった場合は、不溶性が多いです。単純な塩に、全部なると断定できないのです。複塩の相手は、ヒ素やアンチモンなど、毒性の強いものが混入します。
自然の中では、論文どおりに行かないことを前提に、サンプルを採って調べることが大事だと思われます。
現状は、物理的な混合と吸着で、除去するのが、現実的なのかもしれませんが、、
投稿: りぼん。 | 2011年8月27日 (土) 08時46分
通りすがりですが、気になっている話題なので質問させてください。セシウムのゼオライトによる吸着は、粒子径によるファンデルワールス力なのでしょうか。
粘土質の場合は、複塩のような分子サイズの大きい形やキレート結合など、複雑で多種類の不溶性化合物形成によると考えていいですか。
間伐材の発電による回収は、効率がいい方法と思います。
しかしフィルターは完全ではなく必ず放射能が原子サイズで空気中に漏れます。今住居近隣焼却炉で問題になっているのは、高濃度焼却灰の生成と必ず漏れる排気です。
空気への分散は厳密にしないといけません。
そこを解決してからでないと、毎日従事する作業員や風下の住民に健康被害が出ます。
活性炭の吸着のしくみをご存知の方はいらっしゃるでしょうか。
炭も多孔質ですけど帯電していますよね。
ゼオライトとどう違うのでしょう。
投稿: | 2011年9月19日 (月) 17時36分