二本松市セシウム検出米事件のケーススタディ
昨日ご紹介した500bqの水田に関しての情報は、第一級の情報だと私は評価しています。
それは、このようにセシウムが検出された田んぼの諸条件が判明した例というのは案外少ないからです。
それほどまでに、今回の事故による放射能のケーススタディは遅れており、科学の顔を被った憶測で満ちあふれています。
特に水田、しかも山間の谷津田という複雑な環境下での事例は、ありとあらゆる要素が疑いうるものでした。
では、この事例を少し考えてみましょう。
私はこの水田が位置する場所に注目します。
「谷津田の最上段」です。これはなにを意味するのでしょうか。
私がかつて谷津田で百姓修行を開始したことはお話したと思いますが、その時に初めて田んぼの仕組みを教えられました。
上の写真を見て頂きたいのですが、谷津田の構造は上部に行くに従って狭まって高くなっているのがわかるでしょうか。
周囲の森林で涵養されて蓄えられた水は、写真左右の小さな水路にいったん集められて、上部の田から順に下に下っていきます。
まずは最上段の田んぼに流入し、そこで太陽によって温められてから、次の段の田に流れ込む仕組みです。
これにより、いちばん下にある大きな本田は、いきなり森林からの冷たい水を稲に浸すことなく生育できるわけです。
これは水田の温度低下によるさまざまな障害、たとえばイモチ病などを予防する上で大きな意味を持っています。
複雑な地形を利用しつつ米作りをする日本農民の永年の知恵が凝縮したものがこの谷津田だと、私は思っています。
今回のケーススタディをしてみましょう。
周囲の森林とこの谷津田には、一定量の放射性物質が降下しました。9月22日の測定で、二本松は2.7マイクロシーベルト、最大で3.4マイクロシーベルトを記録しています。(毎日新聞地方版9/23による)
決して少なくはない線量です。これが半年前の春3月、4月期には、いっそう高い線量だったでしょう。
この放射性物質は、周囲の森林の落ち葉に降下し、風で吹き寄せられて高濃度のホットスポットを作ります。
落ち葉は表面積と体積が大きいので、放射性物質を吸着しやすいのです。またカサの割に重量が少ないので、キログラム換算すると大変に高い数値が出てしまいます。
経験則では、おおよそ外気の3倍程度でしょうか。しかし、勘違いしていただきたくないのは、これが一気に下の田んぼに流れ込むわけではありません。
森林の高線量落ち葉の下の表土は、落ち葉が放射性物質を吸収してくれたために存外汚染度が低いのです。そして森林の土壌の中にある粘土質と結着してセシウムを封じ込めています。
ですから、森林で涵養される地下水は、思いの外汚染から免れています。私の実測データでも常に森林からの湧水はNDでした。ただし素人計測ですので、信用なさらないように。
私はこの二本松の当該の水田に流入している沢水それ自体の放射線量は、低かったのではないかと思います。ただし、落ち葉がなければですが。
この水田は、周囲の沢水を集めて水量が豊かだったようです。この沢水の中に相当量の落ち葉が入って線量を高めた可能性はあり得ます。
次に、この水が最初に流入した最上段の田んぼは「砂質」でした。
これもよくあるケースです。粘土質の下の地層には砂地やシルト層(*分子が砂より小さく、粘土より大きい土質)があることはよくあることだからです。
この水田の砂はいわゆる山砂で、わずかしか粘土質を含んでいません。ですから、粘土と電気的に結合せずにフリーパス状態の遊離セシウムが大量に含まれていたと推察できます。
この三つの悪い要因が重なりました。
まず、一つめは、森林でホットスポットを作る落ち葉による沢水の汚染。
二つめは、それがもっとも最初に、かつ大量に流れ込む最上段部だったこと。
三つめは、それが流入した最上段部の田んぼがセシウム封じ込め力の弱い砂質だったこと。
このような要素が重なって不幸な汚染となったのだ思われます。
この三つの要素が重ならない、下の田んぼからの米はNDだったと言われています(*未確認情報)。
また、周囲の農家の田んぼの中には、予備検査で4600bqが出た田んぼもあったにも関わらず、意外にも米の測定値はNDでした。
私たちの地域で、できるだけ一枚一枚の田畑を計ってみよう、という動きが始まっています。
今回の教訓は多くありますが、そのひとつに放射能はまだら状に降り、その上に、田畑の置かれた条件次第で線量がまったく違うということです。
今回のセシウム検出米事件は、またひとつ重い荷物を私たちに投げかけていったようです。
■写真 本日の写真が谷津田の最上段部です。どん詰まりですね。先々日の扉写真が中段。そしてその前日がそのまた下です。
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コメント
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大変な苦労をして開墾された谷津田だったでしょう。
無念さがより伝わってきます。
さて、ゼオライトなりベントナイトなりを活用してどうやって除染するか。
是非とも生き返らせて欲しい。やらなくてはならないことです。
投稿: 山形 | 2011年9月29日 (木) 12時52分
はっきりしたことは分かりませんが、
「最上段だけあきらめればよい」のであれば、
逆に希望の持てる話ですね。
投稿: コンタン | 2011年9月29日 (木) 13時14分
コンタンさんと同じことかもしれませんが、谷津田の場合、最上段を削土ではなく、寧ろ、粘土質の土を入れる(ある程度、諦める)ことで、その下層の田を救うことになるとも言えます。
投稿: Cowboy@ebino | 2011年9月29日 (木) 15時33分
私も似たようなことを考えています。
まず、どこまで放射能汚染が進んでいるかの測定が必要です。
それが最上段のみに限定されているのならば、ゼオライト、ベントナイトを相当量投入し、一定期間の休耕です。
そしてこの田んぼ全体の水を、周囲の沢水から農業用水、ないしは井戸に切り換える必要があります。
沢水の流入口にゼオライトフィルターとも考えましたが、先日の台風などの大水などがあるとすぐに破損してしまいそうです。
これをやって再度測定して、1000bqていどにまで落ちれば、耕作も可能ではないでしょうか。
おそらくここの米は、阿武隈山系の湧き水と東北の気象条件で、文句なしに日本で屈指にうまい米なはずです。ぜひ、復活してほしいものです。
投稿: 管理人 | 2011年9月29日 (木) 15時43分
この農家さんにとって、この沢の水は、かけがえのないものだと思います。
牛舎にこの水を引いて牛に飲ませていたでしょう。牛は沢山水を飲みます。水道料金かけて、わざわざまずい水道水を飲ますわけがありません。
でも、原発事故のあと、毎日毎日500Lの黄色い水タンクを軽トラックに乗せて、まずい水道水を牛小屋まで運んでいたんじゃないかと想像します。
事故前は、セリに出す牛に、もうこの美味しい水は飲めないぞと声を掛けながら、水をたらふく飲まして送り出していたと思います。
私は、この水を汚した奴らが憎いです。
絶対に、この水を元に戻す責任があると思います。
投稿: 南の島 | 2011年9月29日 (木) 20時02分
まったく同感です。ほんとうに絞め殺してやりたいくらいです。もちろん比喩的表現ですが。
現在よく賠償といいますが、土壌汚染は賠償対象になっていません。そこを含めた議論が必要だと感じています。
投稿: 管理人 | 2011年9月30日 (金) 06時26分