農水省による福島県における除染実験 第4回 プラウでの反転
ひさしぶりの本格的大型台風でした。皆様、被害はありませんか。東北各県被災地の被害が心配です。
被災地は大震災で地盤がもろくなったりしています。これだけの豪雨だと崩落や増水が続出していると思います。御無事をお祈りします。
いちおう私の方は、庭の大木が一本倒れて、母屋にのしかかったくらいです。チェーンソウで切らねばなりません。しかし、嵐の真っ最中にどっしーんといった時にはさすが驚きましたね。
生産施設に異常はなさそうなので、飯が食えればよし。大震災以降、被害の価値観閾値がやたら高くなって、めったなことでは驚かなくなりました。喜んでいいのか、どうなのか(笑)。
さて、農水省の除染実験報告の中で私が気になっていたひとつは、私の持説ともいえる深耕ロータリーが除染実験でどのような結果になったかです。
欄外の報告書をご覧ください。
1 実験方法・・・・3種類の深さでプラウ実験
・反転プラウ・・・地表下30、45、60㎝を反転させた。表層にあったセシウムは、15~20㎝の地表下に入った。
2.作業の流れ
①吸着材(バーミキュライト等)の表面散布→②プラウ耕→③踏圧・砕土・均平化→④
施肥→⑤移植
最表層では明らかに濃度が低下した。
図 本宮市における反転プラウ(30cm)耕後の放射性セシウムの深度分布
あいかわらず、わかりにくいですが、表土下5㎝に大部分蓄積されていたセシウムは表土下5㎝では劇的に除去された一方、下層の5~10㎝と、15~20㎝に移動したということのようです。
一方ロータリー耕では、15㎝下にほぼ均等に拡散・希釈されたことがわかります。
問題はここでしょうね。プラウの深さを45㎝と60㎝の二種類で実験して反転させた結果、15~20㎝下に新たなセシウム滞留層を作ってしまったわけですから、こりゃいかん。
というのは、新たなセシウム層が20㎝下に出来るだけですから、通常の農作業でロータリがけしただけで、下層からセシウムがゾロゾロ出てきて、やがて図の右のグラフのように元のように均一化してしまうというわけです。
これじゃあ、なんのために手間隙かけてプラウしたのかわからない(苦笑)。
また、あまり下に入れると、地下水への影響も出る心配を農水省はしています。
下層はとうぜんのこととして土地が痩せていますから、また新たな土づくりを第一歩から始めねばならず、そのコストと時間も馬鹿にならないでしょう。
田んぼの場合、底を抜く可能性も指摘されているようです。ありえるでしょうね。漏水すると苦労するんです。
というわけで、プラウなんかするなら、ロータリがけで同じじゃないかというやや情けない結果が出ました。
そもそもプラウ、つまり鋤(すき)は、使用法としてロータリが届かない場所にある堅い層をブチ抜くためにあります。たとえば50㎝下に、長年の石灰散布で堅い層ができて排水を妨げているのを取り除く、などというような場合です。
プラウをかけた跡はデコボコでそのままでは播種ができませんから、柔らかくして平均にならすためにロータリをかけます。
ですから、プラウ単独で使用することはまずなく、ロータリとの組み合わせが現実的です。
除染の場合、プラウ+ロータリの組み合わせでやるとすれば、プラウの深度分は希釈される道理です。
となると、とうぜん深耕ロータリより深い深度まで希釈可能です。
どうもやや実験が現実的じゃなくて、やるならプラウ+ロータリーの両方を組み合わせてやるバージョンも作ってくれたら、より参考になるデータ採りができたのになと思います。
■ 写真 今日の黎明前。おだやかな朝でした。下界はグチャグチャだけど(泣く)。わが村では橋を渡っていた大型トラックが横転しました。
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3.結果と考察の概要
1)本宮市における反転プラウ(30cm)では、放射性セシウムは深さ15cm~20cm の層
に入り、最表層では明らかに濃度は低下した(図1)。
2)ほ場の表面線量率は、不耕起:0.66 μSv/h、ロータリ耕:0.40 μSv/h、プラウ耕:
0.30 μSv/h であった。
3)プラウ耕の作業時間は0.5 時間/10a。反転耕後、無代かき田植えを実施し、現在、
順調に生育中。
4)耕深45cm の反転耕では、表土は25-40cm の土中、耕深60cm 反転耕では表土は40-60cmの土中に移動。
5)放射性物質を除去する方法ではないので、高度に汚染された農地に適用することは
リスクが大きく、比較的軽度の汚染土壌向き。
6)事前に、簡易ボーリングによる地下水位調査と土壌の放射性セシウム溶出試験を実
施し、地下水汚染リスク評価が必要。
7)反転深度が深いほど地表面の空間線量率の低下効果等は高いが、耕盤を壊す恐れがあるので、水田には30cm タイプが適する。また、減水深の大きな水田では、丁寧に代かきをするなどの漏水対策が必要。
8)下層土が痩せた土壌の場合、反転耕により痩せた下層土で作物を栽培することにな
るので、堆肥や土壌改良資材の施用による地力向上対策が必要。
図1:本宮市における反転プラウ(30cm)耕後の放射性セシウムの深度分布
4.今後の計画・課題
1)事前の地下水汚染リスク評価法を早急に確立。
2)本宮市の現地実証水田で生育中の水稲の収穫物調査等を実施。
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コメント
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台風と共に22時半頃の地震発生の一報を聞き、心配していました。
倒木1本で済んだ(母屋に影響あり)との事で、安心しました。
十勝も今日は大荒れかな?と思っていたのですが、一晩中雨は降っていましたが、今は止んで時々薄日が射す状況です。風は若干あるようですが、都府県から見れば大したこと有りません。
くれぐれも気を付けて下さい。
本日の記事とずれたコメントで申し訳ありません。
投稿: 北海道 | 2011年9月22日 (木) 07時55分
北海道さん。ご無事でなによりでした。りぼんさんもご無事なようです。
しかし、台風通過の時の地震はたしかに気持ち悪かったですね。為政者たちの不徳不善のためか、今年は災害のあたり年のようです
投稿: 管理人 | 2011年9月22日 (木) 08時00分
プラウ駄目ですか…
大面積を一気にやるには適していると、ちょっと期待していたんですがね。
倒木被害、お見舞い申し上げます。
りぼんさんも北海道さんもご無事でなによりです。
こちらも一部避難地域がありましたが、台風の左側だったので幸い大きな被害ありませんでした。
三陸や福島でやっと仮設住宅に入居したのに浸水被害にあった被災者が、不憫でなりません。
投稿: 山形 | 2011年9月22日 (木) 09時38分
皆さん、それほどの被害がなく、安心しました。
こちらも、かなりの降水がありましたが、毎度のことで、あまり、あわてることもなく、やり過ごせました。こちらでは、台風に恐怖する閾値が高いです。
しかし、台風の最中の地震の一報には、肝を冷やしました。日立市には、知り合いが多いもので。
このままだと、年末、今年を象徴する漢字は決まってしまった感があります。
プラウ、それほどの効果は期待できないですか。
ただ、普通は、プラウを掛けた後、ロータリーかバーティカルハーロー(パワーハーロー)を掛けると思うんですけどね。そうなると、もう少し、希釈される(より深範囲に分布)と思うんですけど。
投稿: Cowboy@ebino | 2011年9月22日 (木) 10時48分
そうですね。書こうとおもって忘れていたのですが、深耕ロータリーが出来ない場合は、プラウすればプラウの深度分は希釈される道理です。
山形さん。すいませんタイトルが悪くて、ダメというわけではなくて、使い方ですね。ただ単体ではちょんとね、というところでしょうか。
どうもやや実験が現実的じゃなくて、やるならプラウ+ロータリーの両方を組み合わせてやるというバージョンも作ってくれてデータ採りをしてくれたら、もっとわかりやすかったんですが。
追記 タイトルを変更して、本文に「単体ではね」ということを書き加えておきました。
投稿: 管理人 | 2011年9月22日 (木) 12時23分
いつもお世話になりありがとうございます。
ネットでこのような記事があったのですが?
松田 浩平教授(東北文教大学)
【食料生産者の皆さんへ】国の暫定基準値の500Bq/Kgは全面核戦争に陥った場合に餓死を避けるためにやむを得ず口にする食物の汚染上限です。もしも放射性セシウム137が500Bq/Kgも含まれた食品を3年食べたら致死量に達します。全てが基準値ぎりぎりではないとしても重複内部被曝を考えれば政府の暫定基準値では10年後に半数以上の国民が致死量以上に内部被曝する可能性が95%を超えます。
農家の方々が、一生懸命、作られても、国の基準がひど過ぎるので、とても心配です。
生産者と消費者が、安心できるシステム構築が急がれます。
ベクレルの表示など…
投稿: 関西からですが | 2011年9月22日 (木) 13時27分
汚染された水田を水田として復旧させるのであれば、30cm以上のプラウ耕は無理な所が多いでしょう。プラウ後に15cm以内の耕耘をして耕耘層のセシウムを少しでも低減する。Cowboy@ebino様があげたパワーハローを使えば土を上下に混ぜないのでかなり効果があると思いますが、普通の農家はあまり持っていないはずです。東電に調達させましょうか。
それから、相当長期間二度とプラウ耕出来ません。使えるのはサブソイラーぐらいでしょうか。
これで、セシウムの低減目標達成を達成できない水田は削土するか、水田としての復旧を諦め更に深いところにセシウムを閉じ込めるしかないでしょう。
プラウ耕は表面のセシウムの低減には大きな効果があると思います。
気になる記事があります。
舞い上がりは内部被ばく10倍=放射性セシウム、直接吸入と比較―原子力機構解析
http://www.asahi.com/national/jiji/JJT201109200045.html
農家や農村住民の安全のためにも、農地の表土の高濃度のセシウムの低減をしなければなりません。
汚染地域は冬に乾燥し風が強いはずです。冬にはセシウムが舞い上がるでしょう。それまでの対処を目指さねばならないと思います。
投稿: 南の島 | 2011年9月22日 (木) 21時22分
よく考えてみたら、耕作していない圃場は雑草が生い茂っているので、セシウムの舞い上がりはあまり心配ないですかね?
冬に草が枯れたら(枯れますよね?南の島では枯れませんが…)、ホコリが舞い上がりますか?
投稿: 南の島 | 2011年9月22日 (木) 23時19分
南の島さま
私の住む千葉県北部では、冬は草が枯れます。水田地帯では湿田のせいか埃が舞い上がりませんが、火山灰台地では春先に何度かある嵐ですさまじい砂埃が舞います。(車を運転していると前が見えなくなったり、畑のマルチが飛ばされてしまう位)ただ、あらかたの農地は既に耕運しているのと北総台地は空間線量が比較的低いので、セシウムの再飛散については大丈夫かなと思っているのですが。
農地を半年も耕運しないと草だらけになってしまうし、福島では一体どの程度耕運しない農地が残っているのでしょうか。
投稿: ろこ | 2011年9月23日 (金) 08時19分
こんにちは。表面5センチぐらいにとどまっているのだから、単純にそのつちを削りとる事をしないで、なぜ量も時間も全体的に増やすような真似をするのでしょうか
投稿: ひまわり | 2011年9月23日 (金) 20時02分
ひまわり様。
学校や公園の表土でさえ処理に困っているのに、広大な農地を削っても何処に持っていくんだ?ということです。
また、ロータリーで希釈されるだけで、セシウムが増えるわけではありません。
投稿: 山形 | 2011年9月24日 (土) 07時53分