日本は食料輸入大国ではない。まともな農業認識を踏まえてTPPを議論してほしい
「日本農業新聞」10月20日によれば、民主党は国民より「党内大連立」に目がいっていますから、分裂回避のために「非公式協議」というバイパスを考えているようです。
正式参加だと途中でや~めたと降りることができないので、非公式協議で情報を採りながら、こちょこちょとやろうという賢明というか、姑息な方法なようです。外務省が知恵をつけたようです。悪い意味で、いかにも日本的です。
まぁ、こんなことは国際的には通用しないでしょうね。いずれにせよ、国民にはなにがなんだかわからないままに、米国を「内国民待遇」する過激なFTA=TPPへの扉が目の前に迫ってきています。
TPPはジャンルだけで24もの分野があり、工業やら農業の関税問題すら24分の1のさらにその一部に過ぎません。
むしろ米国は金融、サービス、地方自治体の購入参入などを目指しているともいわれ、国民生活全般に関わってくることでしょう。にもかかわらず、あいもかわらず、「TPPは農業問題」とする偏った考えがはびこっています。
また、繰り返して書いているとおり、TPPは、「例外なき貿易自由化」のことです。ですから拒否できる範囲が極めて狭いネガティブ・リスト方式でひとつひとつ小骨を抜くような交渉をしていかねばなりません。
11月に交渉参加を迫られておきながら、このネガティブリストに何を乗せるのか、なにを日本としては突っぱねるのかすら政府は明らかにしていません。というか、TPPがいかなる正確のものであるのか、野田首相は一度として国民に説明したことがあるのでしょうか。
野田首相はこのような重要なことを直ちに国民に正確に説明するべきです。コンバインに乗ってはしゃいでいる場合じゃない。
ところで驚くのは農業サイドが、こういうTPP参加の期限の紀元が迫って来ている中で、あいかわらず「円周率より自給率」と意味不明な歌を歌いながら、40%しか自給率がないと宣伝し続けていることです。
こんな宣伝を農業サイドがすれば、それは「6割輸入食料に頼っているのだから、今さらTPPで日本農業が潰れても心配ないさ」、と自らふれて歩いているようなものです。バッカじゃなかろか。
「TPPが決まれば13%になる」などというに至ってはオオカミ少年もいいところです。私もTPPには大反対ですが、農業サイドはいいかげんこんな間違った宣伝はやめたほうがいい。
どうせ輸入食料依存なら無関税でもっと安くなりゃいいじゃないの、フツーはそう思うでしょう。まさに自爆的宣伝とはこのことです。
現にほとんどの論者が、TPP絡みで日本農業を語る時、「食料輸入大国」とか、「輸入食料依存大国」だのと、検証なしで決めつけています。
ここで改めて質問です。自給率40%という日本の農業は食料自給率が4割だから、6割は外国から輸入しているような食料輸入大国である。イエスかノーか?
答えはノー。ちょっと驚きましたか?
農産物輸入額は先進5カ国で順に大きいほうから並べてみましょう。根拠はFAO2007です。
まず、輝ける農産物輸入額トップは、ジャ~ン、なんと747億ドルで米国!米国は世界の穀倉というイメージが強烈なので、おどろかされる順位です。
第2位は、なんと703億ドルのドイツ!ドイツ大好きの篠原孝前副大臣にお聞かせしたい順位です。ドイツもイメージとしては拡がる田園、広大な牧草地、おお麗しのドイツの黒土、というイメージがあるのでびっくりします。
ついで、英国が535億ドルで第3位に入ります。よく中学校あたりの社会科の先生から習いませんでしたか、「英国は自給率を回復したが、日本は大きく落ちた。英国エライ、日本ダメ」と、わが国となにかと比較される英国です。
しかも、英国の人口は日本の半分以下の6千万人強ていどしかいないのですよ。それでいて食料輸入額はわが国より多い。
そして惜しいことに銅メダルを逃して、わが国が460億ドルで第4位に滑り込みます。
第5位には445億ドルのフランスが入ります。あのヨーロッパ最大の農業大国と自他ともに認めるフランスの食料輸入額とどっこいわが国は変わらないことになります。その差、わずかに14億ドル!
日本は先進各国の中で、しごく常識的水準に位置していることが分かります。まとめてみます。
●農産物輸入額ラ世界ンキング(2007年)
・第1位・・・・米国・747億ドル
・第2位・・・・ドイツ・703億
・第3位・・・・英国・536億
・第4位・・・・日本・460億
・第5位・・・・フランス・445億
ではもう少し別のデーターを見てみましょう。まずは下の図表をご覧ください。根拠はFAOです。
これは国民一人当たりの食料輸入額です。これを見ると、食料輸入の実体がより鮮明になります。これは人口で輸入額を割った数字です。二通りに数字がしめされています。
輸入額は単純に人口で割ったもので、ひとり当たり食料輸入額がどのていどになるのかが分かります。輸入総額が多くても、人口が多ければ必然的に一人当たりの輸入額は減少していきます(あたりまえだ)。
ちなみに、人口は米国が3億1千万人、ドイツが8千200万人、フランスが6千500万人、英国は6千万人、日本は1億3千万人です。少子化といわれても、世界の人口大国トップ10位入りしている一億人クラブのメンバーです。蛇足ながら、先進国で1億人クラブのメンバーは、米国と日本しかありません。
上図を見れば食料の依存度がよく分かります。
では第1位をご紹介しましょう。880ドルの英国です。あれ?食料自給率が長年の国内農業の育成でV字回復したんじゃなかったっけ。
続いて第2位は、851ドルでドイツ!評論家でなにかとドイツに学べという人は実に多いですなぁ。エコ大国ドイツ、黒きメイサではない森に覆われた田園国家、にしては食糧輸入が多いですなぁ。 ついでに電力もですが。
そして第3位は722ドルであの世界に冠たる農業大国のはずのフランスが続きます。国土面積は64万キロ平方メートルで、わが国の3千7百キロ平方メートルのざっと1.7倍(広いなぁ!)にもかかわらず、人口は半分しかいないフランスがです。
わが日本は、第4位の360ドル。第3位フランスのわずか半分にすぎません。常識的水準と言えるでしょう。国土と人口からみれば、もっと買えと諸外国に言われるのも分かるような気もします。
先進国のドンケツは244ドルの米国です。国土面積は、937万キロ平方メートルでわが国の248倍とバカっ広くて勝負にすらならない米国との差は116ドルにすぎません。
まとめてみます。
●1人あたりの食品輸入額世界ランキング
・第1位・・・英国・880ドル
・第2位・・・ドイツ・851
・第3位・・・フランス・722
・第4位・・・日本・360
・第5位・・・米国・244
このようにデーターを読むと、必ず返ってくる反論が、「「日本が関税を高くしているので、輸入食料が入りにくい。安い飼料用穀物ばかりなので、金額が落ちて表示されるのだ」というものです。
日本の食料関税は先進国で高くありません。むしろ最低に近い平均16%ていどです。野菜,、果樹などは無関税に近い。コメだけがあまりにバカな高関税(700%超)なので、イメージが引きずられてしまっています。
金額ベースがイヤなら上図の薄いグレイの棒で表示されているひとり当たり輸入量(㎏)で見ればどうでしょうか。
ひとり当たり輸入量の第1位は、660㎏でエコ大国ドイツの頭上に輝きました。
続いて第2位は555㎏で自給率先進国の英国です。残念なことに食料輸入額では首位だったのに順位を落としましたね。
第3位は、農業大国のフランスの548㎏です。プライドが高いフランス人は地団駄踏んでくやしがるでしょう (がらないか)。
そして惜しいことに(?)入賞を逃して第4位が427㎏の「食料輸入依存世界一」のはずのの日本です。
最下位は米国でした。177㎏です。
まとめてみます。
●農産物ひとりあたりの輸入量(㎏)世界ランキング
・第1位・・・ドイツ・660㎏
・第2位・・・英国・555
・第3位・・・フランス・548
・第4位・・・日本・427
・第5位・・・米国・177
だめ押しでもう一丁いきますか。輸入食料の対GDP比率をみます。ここまでデーターを見ると、おのずと答えが出てくると思います。
第1位はドイツの2.6%、第2位が英国の2.4%、そして第3位はフランスの2.2%となります。
で、わが国はというとここでも第4位の座を守っています。どの程度の数字か当ててみてください。2.0%?、1.5%?いいえ、0.9%です。輸入食料の対GDP比率は、ドイツの3分の1ていどです。
まとめてみます。
●輸入食料の対GDP比率世界ランキング
・第1位・・・ドンツ・2.6%
・第2位・・・英国2.4
・第3位・・・フランス・2.2
・第4位・・・日本・0.9
ここまで読まれて、いまだ日本が食料依存大国で、輸入食料に6割頼っていると思われた人はそうとうにひねくれています。日本がヨーロッパ諸国とほぼ同等、ないしはそれ以上の力を持った農業部門をもっていることがおわかりいただけたでしょうか。
これが私が繰り返して、食料自給率40%という数字がいかに現実とかけ離れたミスリードの数字で、故意に日本農業を弱く見せるトリックだと主張している理由です。
民主党はTPPのアメとムチで、巨額のバラ撒きを農業に対して画策しているようです。バカな金はつかわないで下さい。 農家戸別補償もバカな制度でしたが、今そんなバラマキをしている余裕はないはずです。被災地に使って下さい。
TPPは全産業に影響を与える交渉です。正しい農業に対する認識に立って、TPP論議を深めていってほしいものです。もう時間がないのですから。
■写真 衛星フォボスから火星表面を見る(うそ)。
*本記事は10年12月28日の記事を加筆修正しました。
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コメント
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こうして各国と比較して見ると意外ですね。
しかも日本の場合は家畜用濃厚飼料と海産物(エビ・イカ・マグロ・鯖)が多くを占めていそうですね。
投稿: 山形 | 2011年10月21日 (金) 13時35分
>。国土面積は64万キロ平方メートルで、わが国の3千7百キロ平方メートルのざっと17倍(広いなぁ!)にもかかわらず、人口は半分しかいないフランスがです。
日本の国土面積は37万平方キロメートルですからフランスが64万平方キロメートルならばフランスは日本の2倍弱でしょう。
それから農産物輸入状況の国別比較では輸出の状況も調べ正味の輸入がどうなっているかを見てみる必要があるでしょう。
投稿: 利根 | 2011年10月21日 (金) 18時23分
利根様、地球儀を見たらフランスが日本の2倍程度の国土の面積なのは、誰でもわかります。間違いは指摘すべきですが、できれば、利根様のTPPへの考えが聞きたいです。
EU諸国は域内での農業の分業が進んでいますから農産物の輸出入の額が多くなります。南方系の農産物をスペイン等が作り、北方系の農産物をドイツ等が作ってお互いに輸出入しています。ですから、こないだの食中毒でパニックになりました。
気候による制約の問題があり、農業の分業をせざる得ないのでしょう。
日本は気候的には恵まれています。ありとあらゆる作物を作れます。農家にはその技術もあります。ですから、国内で完結できる要素があります。それが、GDPに対する輸入額の少なさにつながります。米と野菜・果樹は自給できる農家の実力があります。
いろんな嘘があると思います。例えば、日本は貿易大国ですが、決して貿易立国ではありません。GDPに対して輸出額は2割でしかありません。日本の経済を支えているのは内需じです。
TPPを考える上では内需を支える経済への影響を分析しなければなりません。
TPP推進は、輸出入の恩恵を受けそうな方々が、内需の経済を無視して突っ走ってるだけとしか思えません。
内需で支えられている国民生活が瓦解することへの配慮なんて考えてそうもありません。
日本の国の枠組みを飛び出した自由経済が、日本の市民を思いやる必要はないでしょう。日本人の感性に、その辺への割り切りに対する覚悟があるとは、全く思えません。というか、この国の人の生き方は真逆でしょう。良い意味で日本は自己完結してる大きな村でしょう。見事な内向きでしょう。外に打って出る精神は一部の例外でしょう。事なかれ主義の官僚どもがTPPを推進するなんて笑ってしまいます。
EUとFTAを交渉しまとめられない日本政が、TPPで交渉なんてできますか?震災や原発事故で何もできない政府が、外国相手に渡り合える力があると思いますか?交渉で日本政府の無能をさらけ出すだけでしょう。きっと、長いものに巻かれるだけでしょう。
この国の政府は、庶民を騙して丸め込むことにだけ、頭を使っているんじゃないかと思ってしまいます。農業は騙すための出汁に使われているのです。
騙すためですから、日本農業の真実を伝える必要はありません。都合のいいエッセンスだけを取り出して利用しています。
もしTPPで外国のいいところを私達のために還元して入れることができるのなら、この国の政府と官僚をどこかから持ってきて、そっくり入れ替えてもらいたいですね。
建設的なコメントでなくて、すみません。
投稿: 南の島 | 2011年10月22日 (土) 00時46分
利根様。1と7の間にコンマを入れました。枝葉末節のご意見をありがとうございました。
自給率大国がなぜ高いのかは、自給分以上に輸出生産するからです。フランス、米国みなそうです。日本が低いのは国内自給で均衡しているからです。
明日展開します。
投稿: 管理人 | 2011年10月22日 (土) 05時17分
私の基本的(主観的)考えでは、根幹の穀物は自国内生産し、足りないものはまだしもイベリコ豚のような高級品(高関税でいい)は近隣周辺諸国からの輸出入を基幹とするのが自然だと思います。
農産品というものは、必要なだけ自国内で回転して賄うのが基本と考えます。
私、考えが古すぎるでしょうか?
経済や為替の混乱や、政治的不安定要因は、食い物に関してはできうる限り避けてほしい。
まあ、そういう私もオージービーフや輸入エビ大好きですがね。
投稿: 山形 | 2011年10月22日 (土) 10時36分
ありんくりん ブログ 様
輸入食品に関する関税負担率を調べようと検索してこの記事に行きあたりました。
検証可能な根拠を基に議論をする、これは私の信念であり一番大切に思っていることです。
この記事を読んで、政府や、テレビなど、分かりやすいと錯覚させる解説がいかに根拠のないことが多いかということが分かりました。
残念ながら、わたくしには食料品に関する関税負担率を知るデータベースを見つけることが出来ませんでした。
TPPの原案合意、消費税率が10%に引き上げられ様とする今、平均的な基本食料品に関する消費税の大幅な低減率が適用されない限り、消費者にとっては関税負担はわずかなものとしか思えません。
投稿: 市川 敏朗 | 2015年10月21日 (水) 19時42分
http://www.maff.go.jp/j/kokusai/tpp/pdf/tpp_2.pdf
農水省がアップしているTPP交渉結果の表に現行関税の数値もでていますがこれでどうでしょう?
この中でも数字に幅があるものは、液卵や骨なし肉かどうかなど加工の手間がかかっているもの程関税がついているようです。
省庁の文書も随分読みやすくなりましたね。
投稿: ふゆみ | 2015年10月21日 (水) 20時12分
市川敏朗さん。
これはもう菅直人がTPP参加表明をする前の4年も前の記事ですが、お調べになっているうちにたどり着かれたのでしょう。お察しします。
当時は管理人さんもTPPの閉鎖性(なにしろ国際協定でしたから)に疑問を投げ掛けつつもいざ今回の条件を見ると、実に的を射た記事ですね。
大手メディアではJAの弱腰や政府糾弾ばかり報道されてますが、小さい小さい。
コメは輸入枠を少し増やして妥協(まさか国際交渉で満額回答が得られるなどと思っていたなら、余程のバカ)
当県でもコメや果樹農家は反対集会を開いて糾弾しておりますが(舟山康江あたりが何かにつけて扇動してます)、山形県の誇るサクランボやラ・フランスなどは元々輸入関税は10%で輸入品との住み分けは既に確立してる上に、アメリカンチェリーの輸入解禁日を少し遅らせるといった関税外障壁でも守られています。
畜産やコメ以外の穀物や家畜飼料などは影響が最も出る分野でしょうが、飼料等は関税撤廃でむしろ好転する可能性もあるのではないかと思います。
今直近の懸念としては、中国の穀物大量輸入や、大型遠洋航海漁船の水産資源(今年の秋刀魚不漁は知られていますね)の沖合収奪的漁法が心配ですね。
いずれにしろかつてのGATTウルグアイラウンドの時のような農家への無駄なバラマキ(6超円越え!)など到底許されません。
ようやく「集約化と攻めの農業」への転換をチャンスに変えるべき時だと思います。
小澤一郎の「農家個別補償」、あんなのはなんだったんだか…。今思っても馬鹿馬鹿しいです。
投稿: 山形 | 2015年10月22日 (木) 08時07分