TPP国民向け説明文書の虚偽記載と、公的医療制度の破壊をもくろむTPP
TPPに対して政府が公表した国民向け文書がウソであることが発覚しました。この文書の中で、政府は「公的医療制度はTPPの交渉対象になっていない」とチャラっと書きました。(資料2参照)
これが日本農業新聞10月26日のスクープででたらめであることが発覚してしまいました。(欄外資料1参照)
真実は、米国はUSTR (米国通商代表部)が9月に「医療品アクセス強化のためのTPPでの目標」の中で、米国のTPP交渉で医薬品のアクセス強化を要求することを明言していました。(原文は資料3参照)
ここにも先日の記事でふれましたISD(「国家と投資家の間の紛争解決手続き」)条項の発想と軌を一にするものです。米国が考える「国際自由貿易」の原則が分かります。
それは、当該国の国民の健康、環境、福祉、医療などが主語にあるのではなく、あくまでも「海外投資家の利益」がTPPの主語なのです。ここを理解しないとTPPは理解できません。
日本は長い時間をかけて、WHO(世界保健機構)が2005年の「健康達成総合評価」の中で世界一と絶賛する公的医療制度を作ってきました。問題はあるにしても、それはわが国が誇っていいことです。
どんな僻地でも、いつでも病院に行けば、安い対価で診療を受け、薬品を受け取れる仕組みは、外国にはほとんど見られないものです。これがどれほどの安心感を私たちの生活に与えているのか、空気のように忘れかけていたほどです。
米国では公的医療保険制度はありません。ですから、急病で倒れて救急車で運び込まれて緊急救命室に運び込まれてとりあえずの措置を施されれば、病院スタッフからこう聞かれます。
「あなた、現金持っていますか?あるいは医療保険に加入していますか?」。ノーと言おうものなら、「はい、すぐにお引き取りください。ご自宅で静養を」、というわけです。そしてこの医療保険がバカ高いときています。
金持ちは医療を受けられるが、貧乏人は自宅で売薬でごまかすしかない、これが米国のもうひとつの姿でした。
これはいくらなんでもひどいということで、オバマ政権はヘルスケア法案を作って、少しでも国民に平等な医療機会を受けられるようにと考えていますが、法案が通るかは不透明です。というのは、貧困層まで含めて税負担が増えるからです。
さて、この米国でのヘルスケア法案に対し大反対した業界が2つありました。それが医療保険業界と製薬会社です。彼らは、これまでどおりの高価な医療保険と、それに支えられた医薬品販売ができなくなることを恐れたのです。
そこで海外に目を向けました。それが世界第2の保険大国日本です。今まで小泉改革で、保険業界に参入は可能となったのですが、今ひとつうまみがありません。それはそうです。日本での医療保険は、あくまで公的医療保険の補完物でしかないからです。
日本人で健保には入らず、全額医療保険という人は皆無に等しいでしょう。これでは米国の保険会社は、高度医療がどーしたとか、ガン成人病特約なんじゃらといったせこい儲けで我慢するしかないわけです。
ほんとうは米国のように公的医療保険制度などなくて、全部を保険会社と医薬品会社が仕切りまくる、これが彼らの理想郷なのです。
そこでTPPです。「TPPのための米国企業連合」に、ファイザーやジョンソン&ジョンソンが名を連ねているのはそのためです。
彼らがどのようなことをTPP渉において行うのか、目星はついています。米豪FTAと米韓FTAでの彼らの要求が分かっているからです。
それは、相手国に対して、「不当に安く薬価を抑えている」と難癖をつけます。それは「海外投資家の利益を損なうからだ」と決めつけます。なんてこったい、まったくヤクザだよ、これは!
思い出して下さい。TPPの主語は、あくまでも「海外投資家の利益」なのです。国民の福祉・幸福など二のつぎ、三のつぎでしかありません。
海外投資家にとっては、口では「皆様の健康のために」などとキレイゴトはタダですからいくらでも言いますが、保険会社は保険料で得た巨額の資金を投資市場にまわしたいのが本音なのです。
オーストラリアは情けないことにこの圧力に屈して、公的医療制度を改悪してしまいました。医療費と医薬品価格は急騰したことはいうまでもありません。
韓国はも防ぎきれずに、「薬価が安い」(!)という海外投資家の不服審議のための協議機関を設置させられてしまいました。早晩、オーストラリアと同じ運命を辿るでしょう。
米国はTPPにおいて、まず日本の公的医療制度、保険制度が、海外投資家の参入を妨げている関税外障壁となっていると断罪してくるでしょう。
その上で、医療費や薬価の規制撤廃を求めてきます。これの見直しを求めて協議機関の設置を求めます。おそらくは「医療制度改革」という耳に快い言葉を乱発するでしょう。
そしていったんこの協議の場に引きずり込めば、米国にとって勝ったも同然です。なにせ、TPPは2015年までに無条件の自由化が目標ですから、ダラダラと引き延ばす暇はないのです。
ちなみに、FTAのほうは15年かけてと悠長ですが、TPPは、来年3月が参加リミットとして、3年強しか交渉時間がないので、それだけでも日本は圧倒的に不利な立場にいます。せめて日米FTAだったらと、カレー味の〇〇〇か、〇〇〇味のカレーかと悩むほどです(笑)。
おそらく日本の公的医療制度を根本から破壊することは不可能でしょうから(そんなことをしたら、内閣のひとつやふたつは軽く吹っ飛びます)、現在の医療制度の部分解体による、公的医療+任意保険医療という混合医療制度に持ち込もうとすると思われます。
これは健保の財政的重圧に苦しむ厚労省にとっても悪くない話ですが、結局、全部のツケは国民に回ってくるでしょう。薬価格の急騰、医療費の高騰です。
これを憂いた日本医師会は、農業団体と共にTPPに反対する意思を表明しました。(資料4参照)
TPPは「海外投資家」、つまりは米国企業にとっての利益を優先する協定です。そのためには、既存の日本の制度がいかに優れていて国民の健康・福祉、環境を守っていたとしても、それを解体して自分たちの欲得を貫くのです。
■写真 竹林の合間からライジングサンを見る今日の朝。
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■資料1 TPP交渉 米国の目標 医療制度見直し要求 政府説明と矛盾
日本農業新聞 10月26日
「(イ)なお、公的医療保険制度など国が実施する金融サービスの提供は,TPP協定交渉国間のFTAでもGATSと同様に適用除外とされており,議論の対象となっていない模様。 」(12.金融サービス)
■資料4 日本医師会が批判> TPPで国民皆保険が崩壊する
http://ameblo.jp/jcp-s/entry-11046715518.html
政府・民主党が環太平洋連携協定(TPP)の参加を前のめりで進めようとしているなか、同党議員らでつくる「TPPを慎重に考える会」(会長・山田正彦元農水省)は12日、国会内で、日本医師会など4つの医療団体の幹部らを招き、勉強会を開催、
「究極の規制改革として危惧している」(日本医師会の中川俊男副会長)など参加への異論が噴出しました。
中川副会長は、TPPに参加すれば、混合診療の全面解禁による高額の自由診療の導入や医療の市場開放・国民皆保険の終焉(しゅうえん)などが危惧されると強調。「結果として、所得によって受けられる医療に格差がある社会ができる。日本医師会は、全力を上げて国民皆保険を守る」と表明しました。
日本薬剤師会の七海朗副会長は医薬品の安全性の担保などに懸念を示したうえで、「国民皆保険は憲法25条にうたわれている。
憲法の精神を曲げてまで参加するのはいいかがなものか」と述べました。
日本歯科医師会の宮村一弘副会長は「日本という風土でつくり上げてきた医療などの人間関係は、いったん壊れたら再びつくり上げるのは不可能だ」と語りました。
山田会長は冒頭あいさつで、「政府、党として早期に結論を出す動きが始まっている。(TPP参加は)単なる農業だけの問題ではない」と懸念を表明しました。
集会に参加した議員からも「農業ばかりが反対しているように見えるが、医療も危ないという危機感を共有した」「日本が米国の属国扱いされる国になるのではないか」などの意見が出されました。
10月13日 「しんぶん赤旗 」
■日本の医療が危険にさらされている (日本医師会)
http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20110126_11.pdf
■日本政府のTPP 参加検討に対する問題提起 (日本医師会)
http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20101201_1.pdf
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韓国でも「FTA批准に向けた国会決議に反対する農業者を中心としたデモ隊が、治安当局と小競り合い」との報道がされています。
迫ってきた期限のぎりぎりでの最後の攻防(反対)となっているようです。
翻って我が国では、農業者を中心とした反対デモに医師会(看護師含む)などが参加しているにすぎません。
参加反対論者の東京大学の鈴木教授と同じ大学の北岡教授(法学部)が賛成派と言うのも妙な組み合せです。
とにかく短期間に決断を迫る民主党のお偉いさんですが、一般国民に対する説明が少なすぎます。
一日中テレビを見ている訳ではないので、分かりませんが、情報隠ぺいの事実を報道しているのは見てはいません。大手マスコミも頼りにならないし・・・
投稿: 北海道 | 2011年10月29日 (土) 08時53分
北海道さま。あと数日で日本農業の運命は決まります。お互いにがんばりましょう。私もありとあらゆるチャンネルで闘います!
投稿: 管理人 | 2011年10月29日 (土) 15時04分