ひさしぶりに茨城に深度5という強震がきました。お見舞いありがとうございました。被害はありませんので、ご心配をおかけしました。
やっと5月までの日常的な揺れが終わったと思ったらまたかよ、と嘆いております。まだ東日本の地殻は不安定なようです。
さて、杏ママ様から頂いたコメントにお答えしましょう。こ質問はおおよそ2点です。
初めは削土のことです。私はこのことについて何回か記事を書いていますので、そちらも参考にされて下さい。(資料1参照)
数日前、新聞に、、地表2cmまでにセシウムのほとんどがある、という記事がありました。2cmならば、土を削ることができて、それで、8割除去できたら、畑を効率的に除染できたのではないでしょうか?15cm削ったら畑の重要な土を消失してしまいそうですが。
この「除染」ということは一括りにできないことを知って下さい。除去する場所の広さや使用目的、汚染濃度で考えねばなりません。
●まず、広さについては、住宅の庭と農地ではまったく広さが違います。
・住宅の庭・・・10坪ていどだと想定します。
・農地・・・・・・・狭い農地でも平均2ヘクタール((約6千坪)以上あります。
農水省が飯館村でやった除染実験をやってみて分かったのは、10aあたり3時間かかっています。2名の作業者が必要です。(資料2参照)
2ヘクタールだとこの20倍になります。60時間の2名ですから、120時間マンパワーです。1日8時間丸々働いて、15日、半月といったところですか。う~ん。
これにセシウム凝固剤のマグネシウムや、土埃を抑える散水や移送を加えると数割増の時間がかるでしょう。
この持ち出した土だけでおそらくは数千トンになるはずです。この保管場所を畑の中に置くとちょっとした炭鉱のボタ山ができることになります。
この移送だけで、仮に千トンとして8トンの大型ダンプで125台。もはや農作業というより、土木工事ですね。
残念ながら、これで終わったわけではありません。元の使える土に戻さねば生産基盤としての農地が再生したことにはなりません。
ただ剥いだだけではだめで、これに客土をし、元の肥沃な地味にするために膨大な堆肥を入れねばなりません。
客土だけで先ほど剥いだ量と同じ量の新たな土を持ってこなければなりません。剥いだままだと窪地になって、雨水が溜まって池になって海老の養殖ができますもんね(笑)。
というわけで、またどこかの土を削って、移送して投入して、均してという土木工事をせねばなりません。またダンプ百数十台です。
堆肥は10a当たり最低でも5トン、2ヘクタールで100t。3トンダンプで約30台。移送と散布の手間にとどまらず、これだけの堆肥を確保するだけで至難の業でしょう。
●次に土質です。
「表土下2㎝」というのも、その土質が砂質であれば、はるか下まで沈降しています。今回の暫定規制値を超えた米が検出された大波地区や、その前に500bqだった二本松などのケースはこれです。
表土付近で粘土が結着していない場合、その除去は非常にやっかいになります。というのは、お分かりのように、表土下数十㎝まで削り取る必要が出てくるからです。
福島第1原発付近の海岸沿いの農地は砂質の土地が多いと思われます。となると、この除去を削り取りでやるとなると、膨大な手間とコスト、そしてその処分がのしかかってくることになります。
●使用目的を考えてみましょう。
子供が遊ぶ校庭や家の庭、公園などと、農地は使用目的が違います。
・校庭、自宅の庭、公園・・・子供が直に地表に触る可能性があります。
洗えば放射性物質は確かに落ちますが、親の神経が休まらないでしょうから、5㎝ほど表土を剥がすのは有効な手段です。
・農地・・・農地は作物を作る生産基盤です。
要するに作物に放射性物質を吸わせなくさせればいいとテーマを立てます。ゼオライトなどの粘土を入れて結着させたり、堆肥の木質(バーク)に吸わしたり、ロータリーでかき混ぜて拡散させる方法が有効です。
●汚染濃度によっても異なります。
濃度が高い高線量被曝の土地と、さほどでもない低線量から中線量被曝の土地は区別して考えるべきです。
福島県の避難地域内の土地は数万ベクレル/㎏の土地がよくあります。時に十万ベクレルを超えるホットスポットもあります。
このような高濃度に汚染されてしまった土地と、同じ福島県でも内陸部ではまったく違います。内陸部は百から数千ベクレルに止まっています。隣県の茨城県も、だいたいそのていどの線量です。
この違う被曝のしかたをした土地を一律に対策を考えるのはいかがなものかと思います。高線量地域には、それにふさわしい方法があり、低線量地域にはまた別な方法があることを知って下さい。
いちおうの汚染地域区分は、私見ですがこのようなものです。単位はベクレル/㎏です。
低線量地域
・レベル1・・・・0~200bq未満
・レベル2・・・・200以上~500未満
中線量地域
・レベル3・・・・500以上~1000未満
・レベル4・・・・1000以上
・レベル5・・・1000以上~5000未満
高線量地域
・レベル6・・・5000以上~2万5000未満
・レベル7・・・2万5000以上~5万未満
・レベル8・・・5万以上
これのレベル区分は閾値ではないのですから、白黒二分法ではなくなだらかなグラデーションだと思って下さい。そう考えないと、1001bqは高線量地域なのかというバカなことになりかねません。あくまで目安にすぎません。
・高濃度汚染の土地の除染・・・除染作物のひまわりや菜種を低濃度の土地に植えてもほとんど吸いませんが、高濃度の土地では有効に放射性物質を吸収します。
・低・中濃度汚染の土地の除染・・・除染作物はあまり意味がありません。むしろゼオライトや深耕ロータリーによる「封じ込め」をお勧めします。
以上の要素を組み合わせて、各々最適な除去方法を選ぶべきだと思っています。
もうひとつのご質問は土埃の吸入による内部被曝の問題です。
粘土質の畑の土にセシウムが吸着され、作物に移行しないから作物は安全、、というのは、わかるのですが、では、その畑で作業する方々の健康が心配です。
畑の土壌にセシウムがあるかぎり、作物に移行して都会にセシウムが出荷されないとしても、外部被曝によって作業する方々は被曝するでしょう。さらに土埃を吸い込むことで内部被曝が避けられない、、、、。ちょっと心配になりました。
ご指摘のとおりです。確かにこの問題は重いと思います。
率直に言って農業でこの対策は考えられていないのが現状です。と同時に、低線量被曝については、未だ解明されていないのも事実です。
ウクライナ、ベラルーシにおいては、初期の高線量の放射性ヨウ素の吸引や被曝したミルクによって、沢山の甲状腺ガンが発生したのはご承知のとおりです。
しかし、放射性セシウムとガンの因果関係には諸説あります。公的資料において、放射性セシウムとガンの因果関係は疫学的には証明されていません。ただし、だから安全だ、などということではもちろんありません。
低線量被曝の中心はこのセシウムなので、今の段階では低線量被曝については、どのような健康被害が出るのか分からないので極力排除していこう、という段階です。
もの足りないかもしれませんが、農業現場としてはそれが実情です。
建設的なコメントをありがとうございました。またどんどんご質問ください。わかる範囲でお答えしていきます。
■写真 去年の冬のわが家の三バカ小犬たちです。左からモナカ、モカ太郎、ミルクです。食べ物シリーズのネーミングです。安直ですいません。大飯食らいなので、今はこの数倍になってしまいましたが、ノーミソはあいかわらずの小犬のままです。
゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。
■資料1 過去記事 「続セシウム除去Q&A」 1回~3回
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2011/08/post-6ca7.html
■資料2 農水省の飯館村での実験概要
http://ww.s.affrc.go.jp/docs/press/pdf/110914-09.pdf
〇表土削り取り
1.概要
農地に降下した放射性物質は、土壌の表層に集中して存在している。従って放射性物質を含む表層の土壌を除去することで、汚染された農地を利用可能な状態に回復できると考えられる。そこで、物理的に農地の表土を除去する技術を開発することを目的として試験を行った。
2.作業の流れ
砕土→削り取り→土壌の搬出・土のう詰めの作業手順で行う。
1)砕 土:農業用トラクタにバーチカルハローを取り付け、ほ場表面を浅く(4~5cm)砕土し、膨軟にする。
2)削り取り:農業用トラクタにリアブレード(排土板)を付け替え、砕いた表土を圃場の短辺方向に5~10m 毎に削り取り、集積する。
3)排土・土のう詰め:農業用トラクタのフロントローダで、集積した表土をダンプトラックに積み込み、ほ場外へ搬出し、バックホー等で土のう袋に詰める。
3.結果と考察の概要(表1、2参照)
1)水田の表土を約4cm(10a あたり約40m3)削り取ることにより、土壌の放射性セシウム濃度は10,370 Bq/kg から2,599 Bq/kg に低下した。除去の前後で土壌表面の空間線量率は7.14 μSv/h から3.39 μSv/h に低下した。削り取りまでの作業時間は10a あたり55~70 分かかった。
2)削り取った表層土壌の排出と土のう詰めに最も時間を要した。特に排出土の運搬を効率的に行う工夫が必要である。
3)所要作業時間は、ほ場条件、オペレータの熟練度、排出運搬距離などにより異なる。
4)作業により発生する土ほこりや粉塵による作業者の内部被ばくを防止する措置を講ずる必要がある。
5)放射線量の高い農地では、排土の放射性物質濃度が10 万Bq/kg を超えないよう、厚めに削り取ることを検討する必要がある。
■土壌中放射性セシウムの値(単位Bq/kg、表層15cm)
・削り取り前 ・・・ 10,370 bq
・削り取り後・・・・2,599
・排土・・・・・・・・・44,253
・低減率・・・・・・・75%
表2:作業別所要時間(10a 当たり)
・砕土 ・・・15~20 分
作業者・・・ 1名
必要器材 ・・・トラクタ、バーチカルハロー
・削り取り ・・・40~50 分
作業者・・・1名
必要器材 トラクタ、リアブレード
・集積・排土・・・ 70~85 分
作業者・・・2名
必要器材・・・トラクタ、フロントローダ
・袋詰め・・・ 15~20 分
作業者・・・2(バックホー1、
補助者1バックホー、大型土のう、土のうスタンド作業
・所要時間計・・・140~175分
※ほ場に雑草がある場合に行う除草作業は含まない。
最近のコメント