ショック・ドクトリンと「改革」 大災害は米国と新自由主義者にとって福音なのか?!
大震災と放射能禍の後に、出番を待っていたかのようにTPP参加が「決まって」しまいました。
TPPにとどまらず増税まで出して来るに及んで、政府は日本を大きく変えようとしていることは間違いのないことのようです。
その背景には、「こんな大震災だから増税もしかたがない。TPPも企業が活路を見いだすためにはしかたがない」、という漠然とした「空気」が存在します。
この空気が怖いのは、あくまでも実態が不明のアドバルーンのようなものなので、ほとんど判断停止状態で国の行く末を決めてしまうことです。
熱狂的に戦争に突入されるのも困りますが、逆にぼーっとしたままでTPPのような国を壊す国際条約を受け入れてしまうことも同じように怖いですね。
さて、今の日本国民のような状態に置かれた国民は世界に多くありました。
たとえば、それは2004年12月のスマトラ沖大地震におけるスリランカがそうでした。
大津波はこの小さな島国に計り知れない傷跡を残しました。津波のために亡くなったスリランカ人は実に約3万5000人以上に登り、100万人以上と言われる人々が自らの村を捨てて避難せざるを得ませんでした。
この犠牲者の80%は、沿岸部に住む漁師たちでした。私も見たことがあります。数人しか乗れない刳り舟で、波止場もない海に駆け上るように立ち向かって行くのです。
何度も波に押し返されても果敢に海に立ち向かっていました。このような彼らが大津波の最大の犠牲者でした。
実はこの時にスリランカ沿岸部には海外大手観光資本によるリゾート開発が持ち上がっていたのです。この開発に対して、漁師たちは生活の基盤が失われる、村がメチャクチャにされると反対の姿勢を頑として崩そうとはしなかったのです。
そしてこの大津波が来ました。漁師たちは村を捨てて内陸部に逃げざるを得なくなりました。ここに海外大手資本の待ちに待っていた「空き地」が生まれました。観光資本と一体となった政府が、警察力を使うことなく沿岸部は空白の土地になったのです。
時のスリランカ首相はこう言い放ちました。
「この天災はスリランカにまたとないチャンスをプレゼントしてくれた。」
そしてスリランカ政府は、この「またとないチャンス」を最大限に活かして大規模リゾートの建設を着工したのでした。同時に多くの公営事業も、解体されて民間に売り飛ばされました。それも「復興」という美名の下で。
同じような事例を、「ショック・ドクトリン」(上下岩波書店刊)の著者ナオミ・クラインはチリで、イラクで、韓国の例を上げて教えてくれます。
いずれの事件の背後にも米国がありました。いや米国内にすら事例がありました。
2005年8月末にアメリカはハリケーン・カトリーナに襲われました。そして零m地帯であるニューオリンズは大きなな被害を被ったのです。
ところが、この復興の過程でとんでもないことが起きていたことを大部分の米国民は知りませんでした。
被災者救援のために充てられ復興資金は、被災者たちの住宅や地域インフラの復興に使用されずに、まったく筋違いの公教育の解体と民間への移行措置に充てられていたのです。
これを連邦政府は見逃したばかりか、加担すらしていたことが発覚しました。これについてナオミ・クラインはこう言います。
「市場至上主義を推進する最適の時は大きなショックの直後です。経済の破綻でも、天災でも、テロでも、戦争でもいい。人々が混乱して自分を見失った一瞬の隙をついて、極端な国家改造を一気に全部やるのです。」
この「ショック・ドクトリン」という言葉は、新自由主義の創始者であるミルトン・フリードマンが言ったこの言葉によります。
「危機のみが真の変化をもたらす。」
彼こそが、大企業の利害の代弁者として、すべての規制の撤廃、自由競争による市場主義こそが繁栄の王道であると唱えた張本人てした。
大災害に遭って、国民がショック症状に陥っている時に、「今こそ改革が必要だ」と叫んで、国民の福祉や医療の改悪、そして国の基盤ともいえる農業に大打撃を与える政策を次々とたたみかけるようにして放っていきます。
大災害で混乱している国民に対して、「今この改革行わなければ真の復興はない」、と繰り返し語りかけ、その内実すら満足に教えないまま「改革」を断行してしまうのです。
このような大災害の後こそが、民主主義のルールが麻痺しているからです。野田首相が国内論議もまったくしないまま、外国でTPPと増税を公約するという手法こそがまさにショック・ドクトリンそのもののやり口なのです。
TPPの中には、米国が望む「抜本的改革」のすべてが入っています。公的医療改革、共済改革、法務サービス改革、そして農業改革などです。
これらすべてを国民が苦しんでいるその時に、いや苦しむ時だからこそ行うのです。これがショック・ドクトリンです。
米国を背後にした新自由主義者である野田首相は胸の中でこうつぶやいていることでしょう。
「この天災は日本にまたとないチャンスをプレゼントしてくれた」、と。
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コメント
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特に増税の話なんかは財務省の計算通りに世論誘導されてるように思います。
野田は財務省の犬で、しかも日米関係をこじらせた鳩山・菅の後釜ですからアメポチに成らざるを得ない。
あの人、腰が低いと言うと聞こえはいいけど、ただの八方美人ですね。
投稿: 山形 | 2011年11月30日 (水) 09時07分
パニックの後で、思考回路が停止状態を狙った策略ですね。
韓国でも大統領が署名して批准はしましたが、来年1月までの1ヶ月間にまだまだ動きがありそうです。
条約を反故にするかどうかまでは分かりませんが、すんなりとは行かないのでしょう。
我が国においても、TPPも増税も、まだまだ紆余曲折がありそうです。政局まで発展するのか不透明ですが。。。
現政権の2年3ヶ月前のマニュフェストについては、裏切られっぱなしです。まだ、実現不可能とは言わなく、どこまで引っ張れば気が済むのでしょう。
「○沢元代表」は、マニュフェストにまだ拘っていますので、これから党内で色々動きがあると考えています。
投稿: 北海道 | 2011年11月30日 (水) 11時28分