米国はTPPで、日本の沃土を狙ってくる。 関税以外のもうひとつの農業侵略
昨日のTBS系の「報道特集」は、私が知る限り報道番組として初めて真正面からTPPを分析していました。読売とフジ系列は完全な無視を決め込んでいます。フジなどたまに流すと捏造です(苦笑)。
ようやくTPPが、単なる「農業VS工業」などではなく、日本全体を米国流に改造してしまうとんでもないことだという認識が拡がってきています。自民は反対に党内をまとめたようです。民主は山田さんたちが、有効な抵抗を継続しています。
どじょう首相は、わざわざ外国で「自分の政治的決断でやる」と見切り発車を匂わせる発言をしました。10日の閣僚懇談会で決定し、夜の記者会見で発表する予定だそうです。
実に卑劣なドジョウ戦法です。国内でこれだけ大胆な見切り発車発言をすれば大反発を受けることがわかっているので、外遊の地を選んだのです。
増税でも民意を問うのは法案が通った後だそうで、誠実そうな見せかけとは裏腹に計算と保身にのみ長けた狡猾な人のようです。
このようなTPP強行参加が行われた場合、その政治責任はもちろんのこと、前原政調会長の発言どおり、日本に不利なことが分かった場合、「途中下車もありえる」ということを言葉通り実行していただきましょう。
外交上非常識であろうとどうしようと、責任はあげて彼ら民主党政権と党執行部にあります。最後まで責任をとって頂きます。
さて、TPP問題をややこしくしているのは、農業関係の反対論が、「自給率が13%になる」とか、「米価崩壊で経営崩壊」というトーンなことです。
私は同じ農業者ですが、そうならないと思っています。確かに農業が危機的状況になることは確かですが、無関税化⇒米価暴落ではない道筋で襲来すると思います。
というのは、TPPの前身であるNAFTA(北米自由貿易協定)での、カナダと米国の穀物紛争をみればわかります。
米国はカナダを、カナダ政府小麦局やカナダ農協によって独占支配されているとWTOに提訴しています。
確かにカナダ農協は、各地域の協同組合組織を統合して株式会社化していますが、それはなぜだったでしょうか。
NAFTAによってカナダの穀物生産は短期間で危機的状況を迎えます。小麦、大麦、油糧穀物(キャノーラ)、食用牛の加工までもが、7割から9割米国系アグリビジネスに独占されるという事態が生じたのです。
それに対抗してカナダは、自国の穀物生産を統合し、強化する必要に迫られました。これと似た対抗措置は、米韓FTAにおいても韓国が牛肉などの流通統合や合理化でしています。
もしこのカナダの統合政策がなければ、間違いなくカナダ農業は短期間でほぼ完全に米国支配に置かれてしまったであろうことが想像できます。
現時点においても、カーギル一社だけでカナダ・サスカチュワン州のキャノーラ製造の45%を支配していますが、協定締結時のシェアが11.9%だったことを考えると、未だカナダ農業の大きな部分を米国アグリビジネスが握ったままななのが分かるでしょう。
ではここで、米国の日本農業市場のTPPによる「侵略」はどのようになされるのかを考えてみます。
私はジャポニカ米のモノとしての流入は限られるのではないか、と考えています。というのは何回も書いて来ていますが、米国産のジャポニカ米は市場でわずか4%でしかありません。しかも、それが生産できる地域は限定されています。
できるのはカリフォルニアと南部諸州ですが、カリフォルニアは水に制限があり、南部諸州の気候では、日本人の口に合う高品質な米を生産することは難しいと思われます。
東南アジアという声もありますが、現在日本商社が現地邦人向けとして少量を生産している段階です。今後TPPをにらんでベトナム、マレーシアでの日本向け生産も始まるでしょうが、脅威となるにはまだ相当な時間がかかります。
そのていどにはわが国のコメの生産と育種技術は、外国の安易な追随を許さないレベルに達しています。
したがって短期的にはコメの暴落はないと私は思っています。しかし、中長期的になると様相は違います。それはTPPが関税問題だけではないからです。
TPPは煎じ詰めると、「モノ、カネ、ヒト」の三つの自由化のことです。
モノで入ってくるのは、関税問題です。カネで入ってくるのは、資本投資や保険、金融サービスなどです。ヒトで入って来るのは、看護士や介護士、医師、単純労働者の移民問題です。
米国は農業部門においておそらく資本投資の道を選ぶでしょう。モノである穀物や油糧穀物はすでに日本市場に行き渡っており、牛肉、豚肉、小麦、酪農製品の輸出の無関税化は当然のこととしてまっさきに要求するでしょう。
問題はモノに止まりません。2009年の農地法改訂で、農地に企業参入の道が開かれました。TPP発効となれば、米国アグリビジネスの参入は可能となります。
米国が日本という世界でもっとも生産性の高い沃土を狙っているとすれば、TPPというビッグチャンスを逃すはずがありません。
コメの生産は経団連や同友会の計算どおり農地の統合、整理による大規模化が実現すれば、理論的には今の3分の2ていどのコストでの生産が可能です。
ただし現実には、地権や点在する農地の問題が出てくるでしょうが、国が資本と組んで農業団体の反対を押し切ればまったく不可能なわけではありません。
居抜きで使える改良区などは真っ先に標的になり、外国アグリビジネスが札束で頬を叩きに来ます。その時には、外国アグリビジネスは、国内農業法人格を取得して外国資本日本農業法人として農地を借りたり、買ったりできるようになっています。
そこに、TPPで大量に流入してくる安価な東南アジア農業労働者を使って大型化すれば、国際競争力のあるコメ商品の一丁上がりです。
それを売りさばくのは同系列のアグリビジネス商社であり、、GM種とGM対応農薬とのワンセット販売もアグリビジネスを更に潤おわせることでしょう。
このようにして、コメのGM品種-GM対応農薬-大規模農地-大量生産-大量流通-大量輸出というコメ・インテグレーションのラインが完成します。
現状ではOECD留保扱いになっているようですが、そのようなものはTPPの前に一瞬で消滅します。
同じようなことは野菜や果樹でも進行するでしょう。それは外国アグリビジネスの日本農業支配です。TPPによって、米国は日本農産物という世界有数のアグリ商品を手にすることができるのです。
このようなことになった場合、日本農業は死活をかけて闘うことになりますが、その予防線も既にTPP条項に仕込んであります。
それがISD条項です。これは別稿に続けますが、ISD条項は、「海外投資家が不利益を被ったと自分で判断すれば、協定違反であろうとなかろうと相手国を提訴できる」というすさまじいまでに海外投資家を優遇した条項です。
このような米国アグリビジネスの日本農業支配をぜったいに許してはなりません。
そして、原発事故処理の失敗、、震災復興の遅滞、増税、年金改悪、その上にTPPで外国に内通し危機まで呼び込む政権党は、速やかに民意を問うべきです。
■写真 朝焼けとすすき。前に縦アンルでアップした横版です。
« 米国がTPPで狙うのは保険と金融。野田政権の姑息などじょう戦法を許すな! | トップページ | 私たちの放射能との闘いは、警鐘をならす段階から実践に入りました »
「TPP」カテゴリの記事
- マーボウさんにお答えして TPPに「絶対賛成」も「絶対反対」もない(2016.11.12)
- TPP交渉大筋合意 新冷戦の視野で見ないとTPPは分からない(2015.10.06)
- 豚の差額関税制度は国内畜産を守っていない(2014.04.28)
- 鮨と晩餐会の裏での攻防事情(2014.04.29)
- 農業関税は世界最低クラスだ(2014.04.02)
コメント
« 米国がTPPで狙うのは保険と金融。野田政権の姑息などじょう戦法を許すな! | トップページ | 私たちの放射能との闘いは、警鐘をならす段階から実践に入りました »
そのていどにはわが国のコメの生産と育種技術は、外国の安易な追随を許さないレベルに達しています
日本の沃土を狙ってくる>>>>>
この2点については、実際、そのとおりだと、推測します。
実際、現時点でのジャポニカ米の海外生産量や、かつて、ミニマムアクセス米の根拠となったタイ米の大量緊急輸入を見れば、多くの消費者は、多分、食味レベルの高いカルフォルニア米なら、購入すると思われますが、長粒米の代表であるタイ米は、今でも、値段に関らず消費者の購入対象から外れると思われます。
また、ベラルーシの記事を読んでいたら、農地の土の入れ替えで、放射線土壌汚染を減らした農地は、痩せすぎで、農地として、使い物にならないと言うことで、政府の資金で、農地の土壌入れ替え工事について、拒否した農家が、多く現れたとの記事がありました。昔から、農民は、あちこちに自分の農地が離れていても、不便であっても、その農地を守り続ける傾向も、結局、自分の農地以外で、耕作を始めるのは、果たして、思ったような収穫ができるかどうか、不安があり、かつ、保証がないため、どうしても、保守的な発想になるというのも、あながち、感情論だけでなく、事実、毎年、耕作して、自分向けに育ててきた農地から、別な農地に変われば、収穫の保証がないことを、経験しているからなんでしょうね。
ISD条項については、TPPのみならず、FTAにおいても、原則、盛り込まれる条文のようですが、米国が、提訴して、米国が、勝った%は、現状は、ほぼ半分程度と言う事で、確実にISD条項が、米国に有利な結果になっているとは、現時点では、統計的には、優位性が説明できていないようです。北米の貿易自由化契約において、カナダは、非常に、上手に、自国農産物を守る農業団体構成を考え、対抗して、効果を上げているようですが、メキシコは、管理人さんのおっしゃるように、壊滅的被害を受けているということです。同じ自由化条約締結国なのに、ダメージが極端に違っているので、WTOガットなのか、TPPなのか、FTA、EPAなど、将来と自国の物理的環境をきっちり検証して、条約に望めば、結果にかなり差がでているように、感じました。
ISDについては、米国がからむ国際条約には、ほとんど、入ってくるので、管理人さんのように、法律に詳しい人が、日本国流ISD取り組みを、日本の農家と政府が、考えれば、カナダとメキシコの差のように、同じ自由貿易圏国際条約でも、結果が違っていますので、しっかり条文を検証して、理解し、国内法を改正すれば、おおきな問題にならない場合もあるようです。
今のところ、全く情報不足なので、一概に、どういう国際間契約をすれば、日本が、生きていけるのか、自分には、わかりませんけど、今のところ、多国間自由貿易協定で、なぜ、カナダとメキシコとに、大きな差が出来てしまったのか、勉強すべき時期に来ているように思います。
おっしゃるように、自由貿易協定については、随分昔というか、与党自民党時代から、米国から要望があったのですが、ほとんど、国民に知らせれてこなかったので、民間レベルでも、しっかり研究できてこなかったのが、悔やまれます。
普天間問題にしても、調べていくと、米国は、かなり以前から、日本政府に、要望を文書で、上げているのに、どこの関係業界や自治体にも、外務省はじめ、時の政府が、情報を出してこなかったケースが多すぎるのが、気になりますね。
ドーハラウンドの交渉条文を見れば、いかに、何も、外交的戦略を、日本が持っていないのか、ウルグアイラウンド、ドーハラウンドの比較だけみても、外交下手というか、何も、進歩がない日本には、がっかりします。
ガットが進展しない以上、FTA、TPPで、攻めてくることは、霞ヶ関は、解っていたはずと思えるのですが。。
日本の農業技術は、世界一かもしれません。東南アジアで、日本人が技術指導した農産物は、今までのその国の農産物より、収量も味も、抜群に、上昇しているようですから、そういう意味で、GDPと言う金銭で表す農業以上に、技術能力を評価されるような状況を、国際的にも、認めてほしいと思ってます。
単一品種、大量生産農家だけでなく、少量多品目生産農家にも、生きる道筋を、示してもらえる日本政府であってほしいと思えるのですが。。
自分では、日本の農業は、実に多様化しているので、具体的にどう国際条約と戦っていくのが良いのか、解らないでおりますが、まじめに取り組むシンクタンクが、もっとあっても良いように思いますが。。
投稿: りぼん。 | 2011年11月 6日 (日) 11時55分
TPP容認論者は、関税障壁がなくなると、輸出が促進され、雇用が維持拡大し、日本の景気が良くなるとハンを押したように繰り返します。
TPPを丸呑みして関税を撤廃するとしても、円高を是正していく具体的な方策が示されなければ、メーカーが日本にとどまり雇用を維持拡大していくことはままなりません。
同じ仕事をするなら、目先の損得にこだわらず、なるべく消費地に近く、若くて安くて質のよい労働者が集まる国にメーカーが工場をシフトしていくことは、日を見るより明らかです。
各国が輸出を増やし雇用を維持拡大していくために、自国通貨安を容認し、世界全体での通貨安競争が恒常化していくと、右肩上がりの多少インフレを前提として、世界経済全体として緩やかに拡大していくという経済スキームが崩れ、限られたパイを取り合う方向に進まざるおえなくなります。
しかしそれでも、TPPに性急に参加表明する前に、明らかに行き過ぎていると思われる円高が是正されんことを願ってやみません。
イタリアが槍玉に上がっている間に、日本の借金大台を突破し、イタリアが一段落した後に、スペインポルトガル飛び越えて日本売りが始まる可能性高いと思います。
円安になり金融資産が目減りした中で、一次二次産業と、一次二次産業を立て直すものづくりの基本備えた若手人材の育成なくして、どのように日本が再建していくのでしょうか。
再びボロを着たとしても、食の安全、医療を受ける安心なくして、前向きに働き、前向きに倒れ朽ちていくスイッチは入れられないように思う次第です。
投稿: メーカーの通りすがり | 2011年11月 7日 (月) 16時09分