TPPは日本包囲網だ
TPPは当初、環太平洋の比較的小さな国同士が経済自由化協定を結ぼうとして始まりました。それは、TPPオリジナル・メンバーを見れば分かります。
ベトナム、マレーシア、シンガポール、ブルネイ、チリ、ペルー、NZ(ニーュージーランド)などです。ここでまとまった自由化ブロックを作っていれば、それなりに小ぶりながらカチッとした自由貿易圏ができあがったことでしょう。
しかしそうは問屋が卸しませんでした。なぜでしょうか?
上のオリジナル・メンバーの国々の中に、「オレも入れろや」と、オセアニア域内大国のオーストラリア、そしてなにより世界最大の市場である米国がのっそりと入ってきたからです。これでTPPの性格は激変します。
自由貿易を建前にする以上、米国とオージを門前払いにするわけにもいかず、オリジナル・メンバーたちにはさぞかし困惑が走ったことでしょう。
たとえば、NZです。NZは防衛のかなりの割合をオージーに預けてしまっているほどつながりが深いのでが、自国の乳製品、畜産物はしっかりとブロックしてきました。
NZは協同組合がしっかりと根付いている国で、過剰な競争を排して国民に安く農製品を供給してきた実績がありました。消費者と生産者がウイン・ウインの関係でバランスしていたのです。ちょっとわが国と似ている部分がありますね。
ここに隣の大国オージーから「自由化ですからごめんなさいよ」、とばかりに怒濤の輸出をされたら防ぐ方法がなくなります。おまけに、オージーだけならともかく、世界最大の畜産国のひとつである米国まで涎を垂らして門の外に待っているとなると、反対運動が起きないはずがありません。
この反対運動は、実はオリジナル・メンバーの国々すべてで起きました。それらの国は、特異な貿易国家であるシンガポールを除けば、1次産品(農産物、鉱物資源)輸出国であり、とてもじゃないが大国の市場主義にかなうタマではなかったからです。
これは農畜産物大国のオージーですらそうで、米国と完全自由化された市場で競争力を競うとなると、果たして太刀打ちできるか大いに疑問なようです。
そして当惑する彼らに、米国がこう言ったのでしょう。
「大丈夫、テイクイットイージーね。ミーが日本をTPPに引っ張ってくるから、そうしたら君らにも大いにメリットがあるでしょう。いかがかしら名案でしょう。今、日本は震災で青息吐息で、しかもうちの国が恩を売っておいたから、バッチリよ」。
米国は叫びます。「わが国はゴネるが、その代わり皆んなで世界でも指折りの市場規模を持つ日本を標的にしようではないか。さぁ、TPP諸国よ、めざせ日本を!」。
米国からすれば、一次産品の輸出の受け皿は、自分ではなく日本に向けたかったし、日本を入れることでTPPテーブルの主導権を握ることができると読んだのです。
そもそも虫がいいことには、米国には輸入を増やす気などさらさらありません。ただでさえ不動産バブルが弾けて以降、国内景気が悪く、大統領選に赤信号がともっているのに、輸入を増やしてこれ以上失業者を増やす?とんでもない。
もちろん輸出は大いにしたい、しかし輸入で国内産業をに影響は出したくない、実にはっきりとした国家利害です。
どこかの国の首相のように、「わが国は鎖国している。平成の開国だ!」などと国際会議で口走って、いまでも充分に低関税なのに、ターゲットは関税外障壁だ、とばかりに自分のウィークポイントを大声でしゃべるバカヤローは世界にはいません。
日本はTPP参加表明国の中で、ずば抜けた特質を持っています。下図をご覧ください。
わが国は、よく数字もろくに調べないコメンテーターたちが言うような、「日本は輸出で食っていますからねぇ」という国ではありません。輸出の対GDP比率はわずか10.71%にすぎず、先進国を問わず世界第2位の非輸出依存国です。
ちなみに、TPPに参加する東南アジア諸国は100%以上の輸出依存率です。
一方韓国はと見ると、輸出依存率43.64%、つまり国の経済の半分は輸出で回っています。しかもサムスンとヒュンダイ、LGの3社で稼ぎだしているようなものです。こんな歪な経済構造の国だから、米韓FTAを結ばざるをえなかったのです。
ですから、韓国には国内産業を切り捨てても、輸出市場を拡大する巨大なメリットがあるのです。
一方、輸出依存率10%ていどのわが国には、一部産業(自動車、電気・電子製品)には多少の恩恵はあっても、国全体としてみた場合メリットはまったくありません。
そして輸入依存率もまた低くわずか9.86%にすぎません。これまた先進国第1位の低さです。輸入品は、ほぼすべてが一次産品か、エネルギー関連に絞られています。
こんな内需と外需のバランスが取れた国をどうやって外国は攻めるのでしょうか。
日本に残る数少ない高関税部門を叩き潰して、強引に輸入食料をこじ入れるのがひとつ。そしてもうひとつが、関税外障壁によって守られている金融、保険、法務サービスをこじ開けて侵入すること、このふたつしかないではないですか。
TPPに交渉において日本の同盟国は存在しません。日本のような先進技術による付加価値製品を得意とする国が他に存在しないからです。
もしアジアにドイツのような国がいたら状況は違うでしょうが、アジアでの孤立した高付加価値製品輸出国である以上、1次産品輸出国連合の拡げた手の中に自ら飛び込むようなものです。
まさに飛んで火に入るなんとやら。日本包囲網を拡げている国々に対して、「開国」を叫んで自分から飛び込んでいくお人好しな馬鹿者、それがわが国です。
■写真 夕陽に染まる畑がまるで火星みたいですね。
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豊富な鉱物資源を持ちながら人口の少ないオージーはまだしも、アメリカが入って来ておかしなことになりました。
赤字に悩むオバマは選挙目当てで南部農家の票が欲しくて介入しつつ、日本の大きな市場を標的にあくまで「自国の輸出拡大と国益」でごり押ししてきます。
もちろんしたたかな各国への根回しと、自国の産業保護が前提です。
バブル期には、まだ日本にも余裕があり、自民政権はうまくいなしながら、多少の出血は覚悟しながら妥協してたんですがねえ…。
今回は容赦なくやられますよ。
投稿: 山形 | 2011年11月 2日 (水) 08時40分