私たちの放射能との闘いは、警鐘をならす段階から実践に入りました
この間、緊迫するTPP問題に記事を集中していたためか、「もう放射能問題は止めたのですか」、という問い合わせが来ます。
もちろん放射能問題は、継続しております。というか、警鐘を鳴らしている段階から、放射能との闘いの実践の段階にパワーアップしました。そのために、あまり声高にならなくなっただけです。
放射能研究会としての組織的な枠組みもできつつあり、茨大の中島紀一先生を講師にお呼びしての研究会を既に2回、茨大の先生による精密計測機器を用いたワークショップも今週中に行う予定でおります。
計測器も高価なものは買えませんでしたが、それなりのものは買い入れました。
構想が立ち上がったのが2か月前ですから、10日刻みというハイペースでの活動となります。今後はむしろペースダウンして、持続的な取り組みをしていくつもりでおります。
ともかく放射能はしつこいのです。こちらも息長い構えをしないと顎があがってしまいます。
目途としては、会の計測器を使って、会員の田畑を一枚一枚計測し、それを基にしておおよその地域の土壌放射線量分布図(汚染マップ)を作るのが来年の春まではかかるでしょう。
これには田畑周囲の谷津の山林計測も入っています。森林は全域はとても無理ですが、田畑の近辺や、水系にかかる所は重点的に行っていきます。
春というめどをたてたのは、水田の田おこしが来春から始まるためで、それまでに計測のあらましを終了しないと、耕耘前と後の比較ができません。
さてここで集まったデータを、一挙公開ということになるかは実は決まっていません。会員、それぞれの消費者-流通との関係に応じて対応することになるでしょう。
というのは、先鋭な消費者意識を持つ消費者と産直をしている場合は、逐次の報告が必要となりますが、一般市場に出荷している生産者にとっては、市場が要求する以上の過剰なデータと思われてしまいます。
というのは、わが地域は行政の田畑の自主計測が皆無な状況だからです。
えっ、と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、福島県は例外として、セシウム降下がたしかな群馬、栃木、茨城、千葉、東京東葛の各自治体で、田畑の計測はほぼ手つかずのはずです。
自治体が計測しているのは、あくまでも児童が多く集う場所である学校、保育園の校庭や公園などであり、一般農地はやる余裕がないというか、行政側の問題意識が希薄というのが現状です。
おそらく文科省のヘリからの計測データ分布図が唯一ではないでしょうか。他県の詳細は分かりませんが、わが茨城県においてはそうです。
県南地域は住宅地も多いために、一般市民の計測と合わせて田畑もされるケースもあるようです。しかし、これも個人の努力によるもので、組織的な計測には至っていません。
こういう中でも放射能パニックは進行を止める様子がありません。すべての農作物にベクレル表示をしろとか、有機JASに放射能項目を入れろ、あるいは20ベクレル以下も表示しろ、という声も聞きます。
農業現場にいる私としては、現実からあまりに離れた要求には答えようがない、というのが本音です。
一方では「計測するから風評が起きる」という空気があり、一方では20ベクレル表示でも信用できないという声もある時、私たちとしては現実を踏まえて最善を尽くす、と答えるしかありません。
なぜなら、一方はナッシング、一方はオールだからです。ゼロかオールではなにも始まりません。
私たち農民は、結局、このような地道な計測-集計-分析-除染、そしてまた計測という繰り返しの中から、しっかりとした地に足がついた放射能との闘いのスタイルを作るしかないのです。
私たちはそれでも種を撒き続けます。耕耘することが、私たちの最善の「放射能対策」だと信じているからです。
多くの都市生活者には亀の歩みのように見えるでしょうが、飽きることない歩みで放射能に打ち勝っていきます。
■写真 柚子がなりました。は農薬をまかないので肌は汚いのですが、それはかぐわしい香りが楽しめます。鍋にはもちろん、ポン酢にしたり、マーマレードにしたりします。
« 米国はTPPで、日本の沃土を狙ってくる。 関税以外のもうひとつの農業侵略 | トップページ | 政府は交渉参加するなら、21分野すべてでなにが協議されるのか、なにをわが国がブロックするのかを、明確に示しなさい! »
「原子力事故」カテゴリの記事
- 福島にはもう住めない、行くなと言った人々は自然の浄化力を知らなかった(2019.03.11)
- トリチウムは国際条約に沿って海洋放出するべきです(2018.09.04)
- 広島高裁判決に従えばすべての科学文明は全否定されてしまう(2017.12.15)
- 日本学術会議 「9.1報告」の画期的意義(2017.09.23)
- 福島事故後1年目 大震災に耐えた東日本の社会は崩壊しかかっていた(2017.03.16)
コメント
« 米国はTPPで、日本の沃土を狙ってくる。 関税以外のもうひとつの農業侵略 | トップページ | 政府は交渉参加するなら、21分野すべてでなにが協議されるのか、なにをわが国がブロックするのかを、明確に示しなさい! »
放射線と闘いながら、今週が山場のTPPに関する記事の更新大変お疲れ様です。
農業の中でも特に畜産は、土・水・空気・栽培の知識・獣医学(病気の予防と対応)・法律、加えて近隣地域の付き合いや消費者対応など、通常の仕事では考えられないくらい、幅広い知識と知恵が要求される職業だと思っています。
傍から垣間見ただけでは、あくまでも「点」の部分であり、年間を通じた「線」の知識が無ければ営農は出来ません。
放射線対策も、我々農業者側が出来得る限りの調査や、情報公開に努力をした結果で、理解してもらうしか手はない様に思います。
ゼロリスクを望む声もありますが、リスクは放射線だけではありません。ただ、現時点で一番気になる事が放射線だとしたら、購買者が選択できるように情報提供が必要だとおもいます。
国や東電の対応は福島県と、それ以外の県では大きな違いがあると思いますが、一般消費者は東日本(関東以北)と一括りで見ているのが現状です。濱田様をはじめとした地域の地道な活動が、打破する第一歩であると確信しています。
投稿: 北海道 | 2011年11月 7日 (月) 10時26分