TPP言行録からみる民主党の多重人格障害
民主党のTPPについての発言を読み返すとなかなか渋いものがあります。
民主党を政権につかせることとなった09年の総選挙の最中に、当時の小沢代表が日米FTAをマニフェストで言い出したことに対しての菅直人代表代行の記者会見です。
(菅直人代表代行 2010年7月29日)
それはさておき、この日米FTAで農業を交渉対象にしないと明確に言い切った同一人物が、わずか1年後の2010年に首相に就任した直後の10年横浜APECの議長国としてこのような冒頭発言をします。
「我が国においては,このAPECの開催を前にして、包括的経済連携に関する基本方針というものを閣議決定を既に致しております。つまりは,日本の今弱くなっている農業を活性化する、そのことと同時に他の国々に対して、やや立ち後れてきたこの経済連携自由化の一層の促進をまさに新しい平成の開国という形で推し進める、農業の再生と開国の両立をこの基本方針で明確にしたところであります。」
(菅直人首相 2010年11月14日)
この菅前首相のAPEC冒頭発言でわが国は、「農業の再生と開国の両立」、言い換えればTPPとそれに向けた農業の「改革」をいわば国際公約にしてしまいました。
そして今、野田首相が盛んに力を入れてしゃべっているのが、「農業の大規模集約化による国際競争力の確保」です。
もし、民主党がひとつの人格ならば、多重人格障害とでも評するしかありません。
選挙の時は、「FTAは断じてやりません!日本の農業を守ります!」と叫んで農家戸別補償制度で票を集めながら、一方で財界には「日米FTAやりますから、ひとつ支持をよろしく」、と耳打ちしていたわけです。
この矛盾は、当人にとってはさほど深刻なものではなくただの二枚舌に過ぎなかっただけなのは、菅直人氏が政権とって初めて出された体系的な農業政策をみれば分かります。
これが「食と農林漁業の再生実現会議」です。ネーミングは市民派を自称する菅氏らしいものですが、内実は古くからある新自由主義的な日本改造論にすぎません。
この農業政策は、「農業再生」に名を借りた財界型農業政策です。
「持続可能な農業経営」や「農林水産業の成長産業化」という項目の骨子は、ひとことでいえば、「規制緩和と制度改革」をやるぞということであり、なんのためかと言えば、TPPをやるための地ならしのためです。
2010年3月、行政刷新会議のなかに、「規制・制度改革についての分科会」が設けられました。この内容は、驚くほどTPPで想定されている{黒船」の内容と酷似しています。(資料1参照)
たとえば、農業分野では、「農林・地域活性化」として、「新規農協設立の強化」や「農業生産法人の規制のさらなる緩和」といった項目が登場します。
これは現在、農地が農地法3条により農家以外に解禁されていないことを緩和し、全面的に他業種の企業にも開放して参入を促すことが目的です。(*農地法3条自体は改正されていますが、資本比率などの規制があります。)
これもまた、TPPで米国が要求してくるであろう「農地の取得要件の緩和」という名の外国人資本による農地買収と、農業参入と同一文脈の上にあります。
私はこれらの政策をした場合、小規模農家の離農を引き起し、それが新たな新規就農者の参入や、地場農業団体の強化につながらないままに、外国資本による日本の農地や水源地の買い占めを招くと考えています。
とまれ、こう言う言い方もなんですが、やるなら日米FTAのほうがTPPより数等ましでした。FTAは協議の時間が十数年と長くセンシティブ項目といって協議対象にしない分野の幅もありました。
しかしTPPは待ったなし。交渉ルールすら決められており締結内容も既に9割9分決定しています。今からそれに参加しようというのは丸飲みにすると同義です。
そして発効までわずか3年余。いったいこんな短期で、農業のみならず21分野すべてでどんな対策を取れというのでしょうか。考えるだけ無駄です。
とうていこのようなTPPはわが国の「国益」に沿ったものだとは思えません。あるのはただ、選挙の時のようなドタバタの我が身かわいさの「党益」にすぎません。
政治家の言行不一致は今に始まったことではありませんが、民主党の虚言癖は国全体の運命を左右してしまう罪深いものなようです。
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■資料1 事業仕分け分科会の農業関係規制改革案
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コメント
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まさに「(自分の)生活が第一」なのです。
主義主張もバラバラで根深い対立と寄せ集め内ゲバ政権。
かつての自民だったら、党内で対立してもジャブの打ち合いやりながらも、とにかく方向性を決めたら纏まる不思議な力があったんですが…良くも悪くも公言通りに小泉さんがぶっ壊しちゃいましたが。
投稿: 山形 | 2011年11月24日 (木) 07時53分
「政党」と言う括りで考えれば、多重人格の表現も的を得ていますが、2枚舌ならぬ3枚4枚くらいの舌をもった議員さんの集まりですから、そうなるのも当然と受け止めています。
「秘策がある」「辞めるの止めた」なんて平気で言っているハトポッポが象徴かも知れません。
そのくらい厚顔無恥でないと政治家って出来ないものなのでしょうが、次期選挙での有権者の判断が見もの!!と考えています。
そんな我田引水の議員さんたちに、国の将来を方向づけさせなければならない情けなさ・・・選んだ国民の責任・・・と、最後には言われるのでしょうね。
投稿: 北海道 | 2011年11月24日 (木) 13時07分
あ、皆様。党内に潮流があるというならどこの党でも大同小異ですが、ひとりの菅直人という政治家が、政権前と後でわずか1年後にまったく別のことを言っているのがスコイのです。
投稿: 管理人 | 2011年11月24日 (木) 14時34分
濱田様の想いと若干違ったコメントしてしまったようですね。
想像ですが、ハトっポッポ代表率いる現政権政党が、2年3ヶ月前の選挙で、特に沖縄の基地に関してマニュフェスト公約し、アメリカとの関係を決定的に壊してしまったのが発端となったものと理解しています。
結果として受け継いだ「管」さんが、ご機嫌取りの為に昨年10月それまで発言していた事をひっくり返してまでも、TPP参加(平成の開国)宣言をせざるを得なかったのでしょう。同じ人間で矛盾を抱えている事自体かなり、本人にはプレッシャーがあったと思います。
本音と立場による発言と、責任ある立場になり、逃げられない状況に追い詰められたら、どっちかに逃げるしかないのでしょうが、それを覚悟して代表選挙に臨んでほしいものです。議員さんたちには勝手我儘の犠牲にされる国民の立場は理解できないでしょうね・・・
投稿: 北海道 | 2011年11月24日 (木) 16時41分