放射能の天敵とは。 放射能は最強ではない
生物学者の福岡伸一さんと阿川佐和子さんの対談集「センス・オブ・ワンダーを探して」という本を読んでいます。
生物学者は掃いて棄てるほどいますが、福島さんが面白いのは、、「知るということは大切じゃないよ。まずビックリする気持ちが大事なんだ」と言ってしまう人だからです。
ビックリする気持ち、うわーと感動する心があって、初めて世界が見えてくるんじゃないのかな、と福岡さんは言います。
いままでの科学者たちの生命認識は、DNAなどが精妙に組み合わさったパーツだと考えてきました。だから、虫などをせっせと磨り潰して、そのパーツを探そうとしてきたんですね。
生命原理は実は精密器械みたいなメカニズムなんだ、というのが今のおおかたの科学者の見方です。そのような考えの先には、遺伝子だけを抜き出して別の生命体を作ってしまおうという遺伝子組み換え技術が生まれたわけです。
そうかなぁ、と福岡さんは思ったそうです。ちょっと昔の科学者はもっと柔軟でした。たとえば、福島さんが敬愛してやまないバージニア・リー・バートンの「せいめいの歴史」では、地質学者と古生物学者、そして文学者までもが集まって、地球誕生と生命の歴史を考えています。
しかし今の科学者たちは細分化された小さな箱に入って自分の世界の分野だけしか見なくなりました。あまりにも専門化が進みすぎて、異業種交流がまったくといっていいほどなくなってきてしまったのですね。
福岡さんは、たとえば手首の曲がる角度が疑問だったそうです。手首がなんである角度以上曲がらないんだろうかって。
あんまり生物学者が考えそうなことじゃないのが面白いですね。答えは、人間は何かを支えるために手首を曲げた時は、別な部位でその力を分散させる仕組みがあるからです。
たとえばグッと掌に力が乗ると、身体が伸びてしなり、足が後ろに伸びて三角形で支えるようになります。
手首だけ見ていても分からないんです。身体「全体」をみないと。それがどのように有機的に連携しているのかを見ないと判りません。
こんなふうに一部だけみていても、「全体」は見えないのです。
科学にはうとい私も最近起きたあることでなるほど、と思いました。「あること」とは土中の放射能残留問題です。
いきなりシリアスになったと思わないで軽く聞いて下さい。
3.11に放射能が降って土中に残留しました。それをどかさないと大変なことになると多くの人は思いました。
土中の放射能がガンガンと作物に吸われちゃうと思ったからです。あるいは、地表を通過して放射線を出てしまって、ずっと空間線量が下がらないんじゃないか、などとも心配しました。
そして8か月たちました。あんがい作物は吸っていないことが判ったんですね。たくさんの種類の野菜や米を計っても出ないんです。
出ても検出限界以下のごく低い数値でした。福島県などは5ベクレル以下ですね。
逆に、今回の福島県の暫定規制地を超えたようなケースはすごく稀で、ある共通点があることも分かってきました。その原因は過去ログで書きましたのでそちらを読んで下さい。http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2011/11/post-5209.html
どうしてなんだろう、と私たちは思いました。
セシウム半減期は30年だとか言われてきましたが、実際はもっと早いスピードで放射能は減少し続けているようだし、植物はなんらかの土中の働きで移行できないんじゃないか、と考えられるようになってきました。
こんなことどんな本にも書いてないですよ。
だって、広域にばらまかれた放射能なんて、広島、長崎そして核実験場を除けば、ウクライナ、ベラルーシとわが国しか実例がないのですから。研究している学者がほとんどいないんです。
福島の事故以来発言している学者の多くは、放射線の専門外の原子炉の専門家が大多数でした。この人たちは、原子炉にはくわしいでしょうが、放射能が地中でどんなふうになっていくのかなんてまるで素人でした。おそらく考えたこともなかったと思います。
だから、除染をせねばという段階になって言うことは決まって、建物や道路は高圧放水で洗い流せ、土は削り取れでした。
原子炉の専門家に取って除染は、せいぜい研究所の中の除染ていどまでしか考えが及ばなかったからです。
ここでも福岡さんが言う、高度に専門化が進みすぎていて、「全体」が見えていなかったわけです。
では、土中のセシウムは実際にどういう動きをしていたでしょうか。
セシウムという放射性物質は、意外なことに最強の存在ではなかったのです。降ったら終わりではなくて、降ったらたちどころに、土中の色々なものよってこずきまわされ、はがい締めにされ、あげくは牢屋に入れられてしまうことがわかりました。
セシウムは、まず粘土によって電気的に吸いつけられて動きがとれなくなります。粘土分子に粒々がつくようにして粘土の組織構造の中に吸着されていきます。
堆肥の腐植物質(*木の葉などが発酵分解してできた物質のこと)もピタピタとセシウムを電気的にくっつけていきます。
それでもその電荷から逃げ出したセシウムには、それこそ無数いる土中地虫の諸君やそれより小さいバクテリア、そして微生物までがわらわらと食べに来ます。
正確に言えばセシウムを食べるのではなく、セシウムがいる栄養分がある土を食べたら中にセシウムがいただけなんですがね。
一部は排泄されますが、それはより下位の生き物が食べていき、またその排泄物は・・・、という土中食物連鎖にセシウムも取り込まれていきます。
ちなみに「放射能を食べる特殊な微生物」などというエリート集団ではなく、そんじょそこらにいる地虫や在住の微生物です。
それでもまだ逃げ回っているけしからんセシウムには、最後に恐ろしい仕置きが待っています。(←鬼平か)
それが堆肥の素材でよく使われていたゼオライトです。ゼオライトは粘土の天然素材なのですが、この分子構造が特殊なのです。
分子の隙間(キレートと呼びますが)、そこの寸法が嘘がかまことかセシウムにピッタリだったのです。ですからセシウム分子は、そのキレートからコロコロと中に入って言ってしまいます。
そしてセシウム分子が入ってしばらくすると、なんとそのキレートの隙間はゆっくりと閉まっていくらしいのです。これをシーニング現象と呼びます。
そしてやがてそのセシウム監獄と化したゼオライトのキレートの入り口はピッタリと閉じて牢獄の完成です。これがセシウムの物理的吸着という現象です。この物理的吸着のほうが、電気的吸着より強く長くキープできることもわかってきました。
こうして、これらの通常の粘土、腐植物質、各種の地虫、微生物、ゼオライトなどの土中の生物、無生物の曼陀羅の中に放射性物質も封じ込められてしまうのです。
このようなことは放射性物質だけを見ていても判りませんでした。ここに落とし穴があったのです。
放射能は万能ではありません。最強でもありません。彼らには天敵がたくさんいます。ただその天敵が学者の研究室にあまりいないからです。
なぜなら、あまりにもありふれたそこいらの地虫であり、土中微生物であり、珍しくもない粘土であり、ゼオライトだったからです。
自然生態系という曼陀羅は、放射性セシウムを自然界の一角として包み込み、悪さをしないように包み込んでしまうのです。
私は自然の回復力を信じるようになりました。それは放射能の恐怖よりはるかに大きい生態系の理(ことわり)の中にしかセシウムも生きられないということに気がついたからです。
これが私の希望です。
■写真 私の隣街の玉造の旧家。江戸時代からの建物です。
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はじめまして。kaz akimさんが、土と一緒にどんどんセシウムは流されていく・・・というブログ記事を書いていて、だれもまだ計算したことのない話ではと嬉しく思っておりました。彼にこちらのブログを紹介され参ったところです。
「こづきまわされ・・」というところのわかりやすい表現がとてもいいです。やはり現地で行動されている方の言葉は重みが違います。これからも楽しみに読ませてくださいね。
私のブログでもご紹介させていただきたいです。
福島の方々が元気になると思います。
投稿: K | 2011年11月26日 (土) 15時20分
セシウムが土壌にがっちり補足される、、、そうなれば、食物を経由しての内部被曝がさけられる可能性があるので、一つの希望だと思います。
ただ、土壌のゼオライトにがっつり補足されても、セシウムが消えるわけではないので、長い測定と検査と食物の監視が必要なのだろうと思います。
チェルノブイリでは、1キュリー/平方キロ以上の汚染地帯で、甲状腺がん、急性白血病が増加したとされています。
チェルノブイリのがんの原因が、食物からの内部被曝ならば、汚染された食物を避けることで、がんや白血病が避けられるのではないかという希望が見えます。
ただ、低濃度の被曝でもけっこう体内のセシウム量は増加するわけで、日々の努力と注意が当分必要だ、というのが消費者の感想です。
http://ex-skf-jp.blogspot.com/2011/11/blog-post_17.html
ちなみに、事故前の日本人のセシウム摂取量は1Bq/日。
事故の大きさを感じる数字です。
投稿: 杏ママ | 2011年11月27日 (日) 12時08分