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2011年12月

2011年12月31日 (土)

年の瀬になると思い出す一杯。ヤンバルのオジィの沖縄そば

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ほんとうに長い1年でした。こうして平穏な大晦日が迎えられるのが嘘のような気分すらします。改めてこの拙いブログをご支援いただきました皆様、そしてお越しいただきました皆様に心より感謝を申し上げます。
 

などと書いているとホウシャノウという文字が脳裏に明滅してしまいますので(苦笑)、かくてはならんと今日は沖縄の年越しそばのお話。  

沖縄には、「沖縄そば」という面妖なものがあります。上の写真はわが家の沖縄そばですが、ご覧のとおり蕎麦粉などは耳掻き一杯も入っていません。  

蕎麦はその気になればヤンバルでできそうなものですが、島内で「そば」といえば問答無用にこれです。これしかありません。すばともいいますが、私が居た時には「沖縄そば」とだらだら言う奴はいなかったな。  

ただ、きっぱりと決意を眉間に込めて「スバくれ!」。これが島の男さぁ(←てなもんか)。 

いわゆる日本そばは「黒そば」という気の毒な名前で呼ばれていて、ほぼまったく食べないのではないでしょうか。私が居た頃は日本そばの店は、那覇の松尾に一軒しかありませんでした。なんかカトマンズの日本食レストランという雰囲気。  

ちなみにラーメン屋は太陽軒という店がただひとつでした。懐かしくて、ヤンバルから那覇に上京するたびに食べていました。今は増えたでしょうね。  

沖縄そばは、麺はラーメン文化圏のものですが、出汁が日本そば文化圏、それも関西そばのものです。  

腰のある平打ち麺にカツオだしのお汁、具にはカマボコ(カマブク)と三枚肉がデロンと乗ります。今日は写真に撮るので、見栄を張って3枚乗せてみました。普通は1枚で充分です。

そしてマストノットアイテムとしては、紅生姜とわけぎ。これがないなら食べないほうがましというものです。三枚肉はサイフの都合で入れなくとも、これは入れましょう。  

写真右の瓶はヒバーチ粉です。原音忠実主義で言えばヒファーチ粉です。島胡椒のことで、八重山特産のペッパー類の一種らしいですが、風味はまぁ嗅いでみて下され。強烈エスニックです。

いわゆる私たちナイチャーが知っている胡椒とはまったく似ても似つきません。クセになります。実は私はこのヒーバチ粉を石垣島で知り、以後肌身離さず持ち歩いていた時期があります(←オーバー)。  

八重山ローカルな香辛料で、本島ではまったく使いません。本島では島唐がらしことコーレーグースーを死ぬほどかけて大汗をかきながら食します。 

要するに、鰹出汁の効いた塩味ベースのスープに、カンスイが入りうどん、それにラーメンのようなトッピングが乗る、というところでしょうが、説明すればするほど、まぁ現地で食べて下さいというしかない沖縄人のソールフードです。  

この中華風と和風のフュージョンがいかにも沖縄風で、この島の歴史の両属性を象徴しています、な~んてつまらない講釈はさておき、私はこれをヤンバルの山奥から名護に出るたびに食べていました。  

岸本食堂という、今や観光ガイドにも出て本土のネイネイまでがやって来るお店になってしまいましたが、当時から「輝け!ソーキそば発祥の店」として有名な存在でした。  

あの小ぶりな丼からはみだうそうになる、というか現にはみ出している骨つきソーキ(アバラ肉)の層をかき分けるようにして食べるソーキそばは、お好きな方にはたまりませんが、本土のお客さんはだいたい食べ残すようです。見ただけで腹一杯になりそうですもんね。 

ところでこの沖縄そばは、起源はやたら古いのだそうですが、戦前は小麦が島内で取れないために内地からの輸入で、そうそう庶民がめったに口に食べられるようなものではなかったそうです。  

盛んになったのは戦後に米国が大量に持ち込んだ余剰小麦がガバガバあったからで、それに先島特産のカツオ節のだし汁をかけたわけです。 

本来の沖縄そばの麺はカンスイを使わずに、ガジュマルの灰を使います。私の住んでいたヤンバルのオジィは車など持っていなかったために、そばは自分で打っていました。  

一度だけ年の瀬にお相伴させていただいたことがあります。麺から打つのですが、カマドにある灰をかき集めてその上澄みを掬い出します。あれはイジュの枝だったような、ま、いいか。  

そしてこの灰汁汁を入れながら小麦粉を打ちます。灰汁を練り込む以外はまったくうどんと一緒ですね。  

練って寝かせ、伸ばして折り畳んで、ザクザクと切っていくわけです。いや太かったですね。ただでさえ太打ちの沖縄そばが、超々太打ちとなり侍り。  

しかしオジィが根性を入れて打っただけあって、バラバラになることもなく(なったらスイトンだ)、えらく腰のすわった沖縄そばになりました。麺はヤンバルの樹の灰汁で染まってほのかな美しい黄色。 

超々太打ちとあいまって、もはや見た目はほとんどカンピョウみたいでした。 

これに朝からガリガリと私にかかせたカツオ節が参ったかというほど入ったカツオ節臭い、いやもとい、黒潮の香りも高い汁に、そこにオジィの汗がしみこんでいる(しまった。思い出してしまった)噛むと快くプチッと切れる麺がまた最高の沖縄そばでした。 

具ですか。共同売店で買ったカマボコの切れ端が乗っていたような。ワケギはニラだったような。さすがニラは勘弁なので、どかして食べた記憶があります。紅生姜?そんなものはハナっからありません。 

しかし、それまで食べてきた沖縄そばで、最高の一杯だったことは確かです。オジィが上機嫌で、ウサガミソーレと言って出してくれた年越しそば。親指が漬かっていたような気がしますが、年の瀬になると今でも思い出します。 

皆様、来年が良い年でありますように祈念いたしております。来年こそ、この列島に住むすべての人が幸福で、支えあって暮らしていけますように! 

■写真 沖縄そば。どんぶりもヤチムンです。島に住んでいた時にはディテールにはこだわらなかったのですが、離れると、つい。今夜も紅白を見ながら食べるとしましょう。

2011年12月30日 (金)

長期的な低線量被曝を支援する「被曝者手帳」が必要だ

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今年もあと一日で終わろうとしています。支えていただきました皆様に、心から感謝を申し上げます。
 

今年は震災とその直後からの放射能禍の中で暮れようとしています。放射能禍は、未だ福島県を中心としてわが茨城にまで暗い影を落としています。  

特に、都市消費者に、いかなる低線量でも将来的に発ガンの可能性がある、という強い認識が生まれています。  

これは農業者や漁業者にとって、いかなる対策をとろうと、除染をしつづけようと線量ゼロとなることはありえない以上、半永久的に続くと考えるべきことなのかもしれません。 

つまり、私たち「被爆地」を覆う暗雲は永久に晴れることがない、ということになります。まさしくホープレスです。 

ならば、このようなことを考えてみたらいかがでしょうか。  

まず、低線量被曝の脅威は現段階でいくつかの学説がありながら、それを立証する疫学データが不足しています。  

学説はあくまでも学説であって、このような大量かつ広範囲な「被曝」状況においては、それがどのような内部線量をもたらしたのかを数万人単位で調査せねばなりません。  

これがなければ、一般の発ガン原因となる社会的ストレスの中に埋没してしまうことになります。 

また 健康不安により、特に女性、子供に強いストレスがかかっています。時にはそれがいわれのない福島県民への差別にもつながっているのが現状です。 

しかし、私たちが持っている福島第1原発事故による疫学データは、避難地域の住民4463名の9月末までの放射線医学研究所がホールボディカウンタで測定した内部被曝データのみです。

これによれば
・最大数値であった3ミリシーベルト・・・2人
・2ミリシーベルト           ・・・・8人
・1ミリシーベルト以下     ・・・・4447人
 

となっています。この検体の母集団を万単位、いや数十万単位にまで飛躍的に引き上げねばなりません。 

避難地域はいうに及ばず、福島県全域にまで範囲を拡げて内部被曝測定をしたらどうでしょうか。それも今だけではなく、定期的に十数年の長さに渡って測定せねば意味がありません。 

特に一時的に危険な線量レベルにあった避難地域の人々には、広島・長崎で給付された「被曝者手帳」のようなものを配布し、定期的な検診を受けられるようになるべきです 

広島・長崎の被爆者手帳は、以下のような国からの被曝による健康被害についての支援を受けることができます。
Wikipedia 
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A2%AB%E7%88%86%E8%80%85%E5%81%A5%E5%BA%B7%E6%89%8B%E5%B8%B3 

(引用開始) 

[手帳取得によって得られる支援 

医療特別手当・特別手当・原子爆弾小頭症手当・健康管理手当・保険手当・介護手当(費用介護手当・家族介護手当)・葬祭料などの手当 

また、指定医療機関・一般疾病医療機関での治療について、本手帳などを提示することで全額国費で、あるいは自己負担分を負担しないで受けることが出来る。また、なんらかの理由で手帳を提示しなかった場合についても、後日都道府県知事に払い戻しを請求することが出来る。ただし、自己の故意・過失などによって生じた病気・けが、放射線と関連のない疾病などについては給付を受けられないことがある。
(引用終了)
 

このような国による内部被曝の測定がないために、多くの福島県民は自費で病院に通っているのが現状です。これは保険診療ではないために高額な医療費負担に苦しんでいます。

まずはせめて福島避難地域に対して「被曝者手帳」を支給し、定期検診をするべきです。そしてやがてその範囲を拡げて福島全域、茨城、千葉、東京の一部まで範囲を拡げることによって、被曝による健康不安を取り除くべきです。 

これにより今回の低線量被曝の疫学データが整い、分析と医療対策を立てられることになります。 

国は既にSPEEDIによる避難情報の隠匿、メルトダウンの隠蔽などという大罪を犯したために、信頼を失墜しています。念仏のように安全です、安全です、と言っても誰も信用していないというのが現状です。 

また私たち農業者も同列に思われているようです。ここで反論してもせんないことです。今は脅威におののく消費者と共に、健康不安を取り除くべく、しっかりとした国の支援を訴えようではありませんか。 

それは単に除染、補償金にとどまらず、長期の健康診断を受けられるような国の対策です。来年はもっといろいろな放射能に対する対策に取り組んでいきたいと思っています。

2011年12月29日 (木)

沖縄、辺野古評価証明秘密搬入事件が残したもの  沖縄は分離コースに入るかもしれない

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これが迷走の果てに辿り着いた結論だそうです。

沖縄県庁に早朝、まだ夜も明けきらぬうちに県庁に辺野古の環境評価証明が搬入されました。まさに盗人のようにです。

県は受理しましたか、これで事態は決定的になりました。いうまでもなく、このような重要な文書は一川防衛大臣が直接に県知事に手交すべき性格のものです。

最低でも沖縄防衛局長が直に出向いて手渡すべきものです。県庁入り口の反対派市民が怖かったのでしょう。

笑うべき腰抜けです。反対派に取り囲まれることが怖いのでしょう。問いつめられるのが恐ろしいのでしょう。

一度としてまともな解決に乗り出さなかった大臣、そして文字にするだけでも汚らわしい暴言を吐いた前沖縄防衛局長(なぜ懲戒解雇しないのか!)が、揃って出向くべきでした。

一川大臣は,ニヤニヤしながら「沖縄でなにかあったの?事務方に任せてあるから」とシャーシャーと言ってのけたそうです。まさに人間のくずとはこの男のことでしょう。

いや、野田首相自らが出向くべき政府最重要課題だったはずです。表敬訪問でしかない無内容な外遊する暇があるのなら、沖縄県に行け!「不退転」なのは増税とTPPだけなのか!

ひとかけらの勇気があるのならば、為政者の矜持を胸に評価証明を手渡しに行け!

そこで倒れたのなら、何らかの感慨が県民の心によぎるでしょう。それをこともあろうに人の目を盗むようにしての早朝搬入とは、下の下、人の道にはずれています。恥を知れ!

人の道にはずれた政治は、いかに金を与えようと人の心に響かないのです。

そもそも、よくも悪しくも9割「解決」していた移設問題に、「国外、最低でも県外」と県民にありもしない幻影を与えて煽ったのは一体どの政権の首相だったのでしょうか?

辺野古移設紛争の天王山とでも言うべき名護市長選で、反対を主張する候補(現市長)を推し、基地移転問題とのバーターであった北部振興予算を移設問題と切り離すということまでやってのけたのは、現政調会長の前原氏だったはずです。

仲井真知事は120%移設に合意しません。そして海水面埋め立ては県知事の認可が必要ですから、法的にも完全に不可能となりました。 

本土政府としては残る方法は、国による強制代執行だけとなりました。本気でこれをするのならば、米国すら露骨にイヤな顔をするでしょう。 

強制代執行は間違いなく成田のような流血の事態になるからです。辺野古問題は全国的な政治課題となります。長きに渡る建設期間の間、厳重な張りつき警備が必要となることでしょう。

敵意に包囲された異民族の基地が存続したことは世界史にもありません。ならば、米国は普天間固定化を望むでしょう。米国はそれをとうに視野に入れています。 

軍事機能としてはそれでまったく問題がないのであり、オバマ大統領の再選には打撃を与えるでしょうが、米国が必要としているのはその一点だからです。 

もし、それにもかかわらず本土政府が強制代執行に踏み切れば、最悪、沖縄は分離コースを現実のものとして考え始めることでしょう。 

それは民主党沖縄県連がかねてから主張していた「一国二制度」です。いわば半独立です。この原案は既に4年前からあり、内容的には生煮えな部分が多くあります。

また、かんじんのそれを唱えていた民主党県連自身が事実上分解してしまっています。しかし、そのプラン自身は残り続け、より具体性を増すこともありえます。

もし、仲井真知事がこのプランに関心を示し、それを交渉カードとするのなら、辺野古移設に一縷の望みが生まれます。本土政府は、現時点ならばそれを具体的な検討対象にする可能性が高いからです。

この評価証明秘密搬入事件は、沖縄の分離コースの芽を生みました。その意味で、2011年12月28日未明は、沖縄史に残る日付となったのかもしれません。

■写真 落ち葉の季節です。常緑のシダがしぶとく霜の朝に緑を残しています。 

         ゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。

 

■ 政府 評価証明搬入
沖縄タイムス 12月28日
 

米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に向けた環境影響評価(アセスメント)手続きで、沖縄防衛局の職員らは28日未明、県庁に評価書の入った段ボール箱16個を守衛室に搬入、警備員に預けて立ち去った。県は持ち込む際の手続きに不備があるとして、仲井真弘多知事ら幹部が取り扱いについて午前9時から緊急に協議した。

兼島規総務部長は協議後、記者団に「県としては7000ページそろっているので到達はしている」と述べたが、受理するかどうかについては明らかにしなかった。守衛室前には市民ら約150人が陣取り、受け取りを拒否するよう県に要求している。  

 受け取った警備員らによると、防衛局職員を名乗る人物から午前4時前に荷物を預けたいとの電話があり、警備員が庁舎管理を担当する県管財課の職員に電話で確認したところ、預かるよう指示があった。同4時すぎ、スーツ姿の数人の職員が評価書の入った箱を運び込んだという。現場には真部朗沖縄防衛局長も姿を見せており、指揮を執ったものとみられる。 

 ただ現場で警戒していた市民団体のメンバーが搬入に気付き反発、騒ぎになったことから、県条例で提出時に必要な部数(20部)全ては運び込めず、受付時に通常求められる持ち込み者の氏名や荷物の宛先なども帳簿に記載しなかった。 

 沖縄防衛局によると1箱に1部の評価書が入っており、搬入は計16部となる。同局幹部は「必要部数が搬入できていないのは事実なので、どう対応したらよいか県の判断を待ちたい」と述べ、残部の追加提出など県の求めに応じて対応する姿勢を示した。 

■ <辺野古アセス>未明の評価書搬入 沖縄県が受理の意向 

毎日新聞12月28日(水)11時51分配信 

 防衛省は28日未明、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題で、同県名護市辺野古への代替施設建設に向けた環境影響評価(アセスメント)の評価書を沖縄県庁に搬入した。同省沖縄防衛局の職員が、評価書が入った段ボール箱を運び込んだ。県庁に詰めかけている反対派住民の警戒が緩んだすきを突いての未明の搬入に、地元の反発が強まるのは必至だが、沖縄県は評価書を受理する方向で検討に入った。

 沖縄県などによると、沖縄防衛局の職員らが午前4時過ぎ、沖縄県庁の守衛室に段ボール16箱を搬入した。真部朗沖縄防衛局長も同行した。搬入について防衛省側は県に事前通告していたという。当時、県庁周辺には反対派市民らは少数しかいなかった。未明の搬入について、沖縄県幹部は「時間帯、やり方は正常ではない」と不快感を示した。

 沖縄県によると、守衛室の所定の書類に差出人などの記載がないという。また、沖縄県環境影響評価条例では、評価書の提出部数を20部と規定しているが、沖縄県に届いた評価書は16部しかない。仲井真弘多知事ら県幹部は同日午前、段ボール箱を守衛室に置いたまま対応を協議。県幹部は「受理に向けた審査をするため、段ボール箱は担当各課に持って行く」と述べ、受理する方向で検討に入ったことを明らかにした。

 同省は評価書が受理されれば、同日中にも県に評価書の内容を説明した上で、公表したい考えだ。評価書は約7000ページ。代替施設の建設が周辺環境に及ぼす影響などを予測し対策を明記している。

 評価書はアセスの最終段階。仲井真知事は飛行場部分について45日以内、埋め立て部分について90日以内にそれぞれ知事意見を提出できる。不十分と判断すれば、より詳しい予測や対策を示すよう求める。評価書が確定すれば公告、1カ月の縦覧を経てアセスは完了する。【井本義親、朝日弘行、横田愛】

◇一川防衛相「妨害的な行動あった」

 一川保夫防衛相は28日午前、防衛省で記者団に対し、評価書を未明に搬入したことについて「妨害的な行動があったということで、物理的に(県庁に)は入れない。通常時間帯では(提出は)難しいと判断した」と述べ、やむを得ないとの認識を示した。県の対応については「良識ある対応をしていただけると思う」と述べ、受理するよう求めた。

2011年12月28日 (水)

TPPは交渉内容を4年間知ることができない秘密条約だった!まさにTPP詐欺だ!

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とんでもないTPP情報が飛び込んできました。

「しんぶん赤旗」のスクープです。一般誌には出ない内容ですが充分に信用に足りる衝撃的な内容です。まずは欄外切り抜きから読んでいただきましょう。

ニュージーランド外務貿易省のマーク・シンクレアTPP首席交渉官は以下の説明文書を公開しています。それによると

「交渉文書や各国の提案、関連資料を入手できるのは、政府当局者のほかは、政府の国内協議に参加する者、文書の情報を検討する必要のある者または情報を知らされる必要のある者に限られます。また、文書を入手しても、許可された者以外に見せることはできません。」

つまり政府がなにかと言う「交渉に参加しないと内容がわからない」という説明はまるで虚偽であったということです。

「わからない」のではなく国民に「知らせない」、あるいは「知らせることを禁じられている」のがTPP交渉なのです。

ですから、交渉で政府が入手した文書、資料は一切公開されません。知る権限をもつのは、一握りの政府関係者だけです。

「交渉文書や各国の提案、関連資料を入手できるのは、政府当局者のほかは、政府の国内協議に参加する者、文書の情報を検討する必要のある者または情報を知らされる必要のある者に限られます。また、文書を入手しても、許可された者以外に見せることはできません。」

交渉過程でいかなる不利益が出ようとも、4年間も守秘義務があるのですから、来年仮に9月に米国議会の承認を得て参加したとしても、その交渉内容はまったくのブラックボックスに入ったまま2016年まで国民は知ることすらできません。 

間違いなく米国が要求してくるであろう各種の「関税外障壁」撤廃要求に対して、なにが要求されているのかさえ日本政府は公表を禁じられているわけです。 

これでは国会ですら審議しようがないではないですか!山田としお議員(自民党)が国会の農林水産委員会で鹿野農水大臣に質問していますがが、まるでのらりくらりとした回答しか得られていません。(欄外参照) 

野田政権を信じるのならば、あくまでも「TPPがいかなるものなのかの情報収集を行っているのであって、この内容の是非は国民にすべて公開されて国民的議論にかける」ということになります。

これはいわば政権の公約と言って差し支えないでしょう。しかし、既に米国とは、米国議会の承認のためという名目で実質上TPPの最大課題である「関税外障壁」の秘密交渉を開始しています。

そして政府は、このTPP秘密交渉について「外交案件であり、公開できない」としています。これでは約束が違うではないですか。

TPPがいかなるものなのかを「知る」ために今、米国などと交渉を行っているのてあって、それは「国民的議論」に付すためのものなはずです。

ところが交渉内容はブラックボックスの中、なにが論議されているのかも「両国間の秘密」ということになれば「国民的議論」もなにもあったものではありません。おまけに4年間の守秘義務つきとなれば国民的議論など介在する余地はなしです

推進派がいつまでたっても、TPPによる輸出入の増減の数字ひとつ出せず、「閉塞状況をTPPで打ち破ろう」だとか、「「平成の開国」だとか、「農業改革は遅れていいのか」などと筋違いの抽象的スローガンのようなことしか言えないのは当然です。

彼らだってなにも分かってないのですから!

そのくせ推進派自身も、自分がいったいなにを推進しているのかわからないバスに国民みんなで乗ろうと言っているのですから図々しい。

こんな秘密交渉で国のあり方を根底から変えられてはたまったものではありません。韓国のように、米韓FTAを国会批准するその間際になってISD条項などの毒素条項テンコ盛りなことを知っても遅いのです。

なぜなら、その時には既に国家間外交交渉が成立した後であって、それを片方の国が批准を拒否するというのは日米関係をメチャクチャにしてもいいということだからです。

一国の形と行方を決めることは国民主権に属することのはずです。それを外国との秘密交渉で非公開で行うなどということを許していいはずがありません。

まさにTPP詐欺です。私たち国民にとっては内容が秘密な以上、TPPのここの部分は賛成、ここが反対ということが不可能になりました。まとめてTPP参加を潰すしかなくなったのです。

国は増税とTPPを選挙で民意を問うべきです。

■写真 今年も朝日夕陽がやたら多い一年でした。たまには人物もと思わないではないですが、「撮っていいですか」と聞くのがメンドー。風景やワンコロはノーといいませんしね。

           ゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。

■「しんぶん赤旗」 2011年12月22日

TPP交渉に「守秘合意」 発効後4年間、内容公開せず

現在、米国など9カ国が行っている環太平洋連携協定(TPP)交渉で、交渉内容を公表しない合意があり、交渉文書は協定発効後4年間秘匿されることが、ニュージーランドのTPP首席交渉官の発表で分かりました。

 ニュージーランド外務貿易省のマーク・シンクレアTPP首席交渉官は11月末、情報公開を求める労働組合や非政府組織(NGO)の声に押され、同省の公式サイトに情報を公開できない事情を説明する文書を発表しました。同文書は、交渉開始に当たって各国の提案や交渉文書を極秘扱いとする合意があることを明らかにし、文書の取り扱いを説明した書簡のひな型を添付しました。

 それによると、交渉文書や各国の提案、関連資料を入手できるのは、政府当局者のほかは、政府の国内協議に参加する者、文書の情報を検討する必要のある者または情報を知らされる必要のある者に限られます。また、文書を入手しても、許可された者以外に見せることはできません

 さらに、これらの文書は、TPP発効後4年間秘匿されます。TPPが成立しなかった場合は、交渉の最後の会合から4年間秘匿されます。

 米国のNGO、「パブリック・シティズン(一般市民)」は、「これまでに公表された唯一の文書は、どんな文書も公表されないという説明の文書だ」と批判しました。

 これまでに、米国労働総同盟産別会議(AFL―CIO)、ニュージーランド労働組合評議会、オーストラリア労働組合評議会などや各国のNGOがTPP交渉の情報を公開するよう求める公開書簡を各国政府に送っています。マレーシアの諸団体の連名の書簡は、「より透明なTPP交渉の過程が、交渉者や政府には明らかでないかもしれない誤りや、(国の)アイデンティティー(主体性)への危険に対し、基本的な防御をもたらす」と指摘しました。

 日本政府は、交渉に参加しないと交渉内容が分からないとして、参加を急いでいます。しかし、交渉に参加しても、交渉内容を知ることができるのは、政府内や政府が選んだ業界などに限られます。国民に影響のあることであっても、国民が交渉内容を知ったときには、TPPが国会で批准され、発効してしまっている危険があります。」
(太字引用者)

山田としお衆議院議員メールマガジン 2011年12月22日より

外交交渉は秘密主義で「情報は得られず」】

 TPPで私が問題にしたのは、野田総理や枝野経済産業大臣が、米国向けには「交渉参加を判断し、全ての物品とサービスを自由化交渉のテーブルに載せる」と言い、世界中がそう承知し、米国もさっそく米国通商代表部(USTR)の幹部を来日させ、また関係業界に日本の交渉参加について来年の1月13日までパブリックコメントを求める作業に入っているにもかかわらず、日本国内向けには「協議に入り情報を得て、国民的議論を行い、結論を得てゆく」として、二枚舌を使っていることです。

一体こうしたなかで、一つは、果たして情報は得られるのか、二つは、情報が得られたとして、その情報をもとにどんな判断を行うのか、その基準はあるのか、というものでした。

 
情報を得ることについては、外交交渉は秘密裏に行われることが多く、来日したUSTR幹部との交渉内容は全く公開されていません。
誰と面談したのかも、私の質疑でようやく示されたにすぎません。
そして私が狙いをつけて質問した豪州とのEPA交渉についても、2008年の2月の交渉でリクエストとオファーを交換しているが、外務省の審議官の答弁は、「外交案件であり、両国の約束で公表しないことになっている」というものでした

この答弁には、委員会室が一時騒然となりました。それはそうだろう、「情報を得て、国民的議論を行い、結論を得てゆく」という総理の言明が全く根拠のないものだということが明らかになったからです。

 二国間交渉でも秘密交渉になるのに、TPPのような多国間の交渉は利害が錯綜し、さらに秘密交渉になるはずです。現に豪州やニュージーランドでは、薬価等の問題で交渉内容が示されず、TPP交渉は透明性がないとして国民的にも大問題になっていると伝えられています。

また、米国と韓国とのFTA交渉にしても、国会での批准の直前になって、韓国内に3つの特区を設定し米国資本の病院を建設し自由診療を行うことが出来ることとし、将来韓国政府が国民医療保険制度を見直して、その病院の自由診療と結びついた米国系保
険会社が不利益を被った際には、米国系の保険会社が韓国政府を相手に、世界銀行傘下の訴訟機関に損害賠償を求めて訴えることが出来るというISD条項(投資家・国家訴訟条項、韓国では毒素条項と呼んでいる)が盛り込まれていることが明らかになって大問題になりました

結局、強行採決で批准されましたが、イ・ミョンバク大統領の来年の再選に大きな影響を与える事態になっています。まさに外交交渉は、そういう秘密交渉になるということです。
(太字引用者)

2011年12月27日 (火)

台湾で口蹄疫が発生 ウイルスが全島を飛び火する不思議

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また口蹄疫か・・・、とため息がでるような気分ですが、台湾で10月に2回連続し、今回12月7日にも発生しました。 

●雲林縣二崙鄉 :10月19日(O型、豚)
●澎湖縣馬公市 :10月30日(O型、豚)

●桃園県12月7日(O型、豚)

すべて豚。PCR、ウイルス分離検査でいずれも0型の陽性でした。 

台湾では、11年に入ってから既に9例が発生しており、春から夏の間にも北部の新竹県、中部の彰化県、南部の台南市とまんべんなく発生し続けています。

宣蘭県、花蓮県などの東部諸県は未感染です。島中央の脊梁山脈が自然障壁となっているようです。

台湾はほぼ九州と同じ大きさですが、その半分以上が汚染されたことになります。これはかつての宮崎口蹄疫事件が宮崎県東部地域のみで食い止められたことと比較すると、その感染拡大の大きさにとまどいを感じるほどです。

台湾はワクチン接種国ですが、殺処分も並行して行われています。ワクチン接種していてもコントロールができていない不安定な状況が常態化しているようです。

ワクチンの種類や摂取方法は分かりませんが、ワクチネーションや初動もさることながら、疫学ルートの解明がされていないのではないような気がしてなりません。

といのは、やや古い09年のことですが、6月25日の最南部の屏東県からいきなり北部の7月13日新竹県、8月25日の桃園県へと感染移動しています。

今年2011年でもまた、北部の新北市から南部台南市へのウイルス移動がありました。

09年初発の雲林県で再び10月19日に発生した後に、澎湖島に飛び、そして再び北部の桃園県に移動しています。

九州でいえば、鹿児島県からいきなり佐賀県や長崎県に移動したようなものです。これは患畜の移動をしたか、ウイルスをもった畜産器材、車両を移動した以外に考えられません。

特に♯20雲南県から♯21澎湖島への移動は、島である以上、ウイルスの侵入ルート特定は容易なはずです。

このような本土から島という侵入ルートをあぶり出し易い事例がありながら、なぜまた北部に感染を許してしまうのか、不思議でなりません。

宮崎県の事例が東部のみで止まったのは、宮崎県畜産農家の献身と、徹底した殺処分、感染ルート解明の努力にありました。

台湾防疫当局は、どうしてかくも安直なウイルスの移動を許してしまうのか、深刻な総括をしたほうがいいと思います。

また、おそらく台湾は、野生の偶蹄類のイノシシ、シカなどにまで感染が拡大しており、ウイルスが土着化してしまっていると想像するほうが自然です。

この状況は韓国でもまったく同様で、おそらくは韓国のほうがより深刻でしょう。韓国は殺処分方法の埋却方法の杜撰さが指摘され続けており、社会問題にまで発展しました。

あれから1年たち、埋却地の劣化も激しいと思われます。この情報もありませんが、願わくば、しっかりと保全されていることを望みます。

台湾に近い沖縄,九州は警戒体制に入ったほうがいいようです。台湾へ旅行される皆さん。できるならば東海岸方面で遊んで下さい。下記の汚染地帯へ旅行する場合は、出国に際しては靴をビニール袋に入れて帰ってきて下さい。できたら着衣も着替えて帰って着てくればベストです。

日本の防疫当局は、台湾からの観光客に事前申告をしてもらい、万が一に備えるべきです。空港や港の防疫体制も万全を期さねばなりません。

東北に口蹄疫が侵入されたら、畜産業のみならず、復興そのものも数年遅れます。もう二度とあの宮崎の地獄を見たくありません。

 

 

■写真  朝焼けに染まる竹林。

          ゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。

【12月24日 AFP】台湾の動植物防疫検疫局(Bureau of Animal and Plant Health Inspection and QuarantineBAPHIQ)は22日、台南市の養豚場で口蹄疫の症状を示したブタが見つかったことを受け、今週に入ってこの養豚場のブタ1000頭近くを殺処分したと発表した。

 この養豚場で飼われていた2667頭のうち983頭が殺処分され、残りはワクチン接種を受けた。半径3キロ以内にある別の11か所の飼育場では、口蹄疫の症状を示した動物は見つかっていない。

 口蹄疫はウシ、ブタ、ヒツジなど偶蹄類の家畜がかかる感染力の強い伝染病で、台湾では1997年、口蹄疫で300万頭以上のブタが殺処分された。(c)AFP

■沖縄県北部家保情報  (昔お世話になりました)
http://www.pref.okinawa.jp/hokushin_kachiku/kouteieki.html

2009年
①雲林縣麥寮鄉 :2月 4日(O型、豚)
②彰化縣埤頭鄉 :2月 9日(O型、豚)
③嘉義縣新港鄉 :3月27日(O型、豚)
④屏東縣Yanou鄉:5月18日(O型、豚)
⑤屏東縣萬丹鄉 :6月25日(O型、豚)
⑥桃園縣大園鄉 :6月 9日(O型、豚)
⑦新竹縣竹北市 :7月13日(O型、豚)
⑧桃園縣新屋鄉 :8月25日(O型、豚)
2010年
⑨澎湖縣馬公市 :2月12日(O型、豚)
⑩雲林縣褒忠鄉 :6月22日(O型、豚)
⑪桃園縣新屋鄉 :8月10日(O型、豚)
⑫台南直轄市 :12月17日(O型、豚)
2011年
⑬澎湖縣馬公市 :3月22日(O型、豚)
⑭台南市下營鄉 :3月21日(O型、豚)
⑮新竹縣新埔鄉 :5月6日(O型、豚)
⑯彰化縣永靖鄉 :5月16日(O型、豚)
⑰彰化縣田尾鄉 :5月23日(O型、豚)
⑱新北市鶯歌区 :7月11日(O型、豚)
⑲台南市Shigang区:7月26日(O型、豚)
⑳雲林縣二崙鄉 :10月19日(O型、豚)
●澎湖縣馬公市 :10月30日(O型、豚)

●桃園県12月7日(O型、豚)

出典:OIE WAHID 他
※日付は発生日(各々の事例が初

台湾の口蹄疫感染発生状況 (クリックすると大きくなります。)

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2011年12月25日 (日)

私が入ったヤンバルの村    おまけ・チキンのばらし方マニュアル

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ヤンバルの続きを書きましょうか。ヤンバルとは山原のこと。要するにかつての王府・那覇から見て片田舎といったニュアンスですが、その境界ははっきりしません。 

中部のどこらからかヤンバルが始まるという人もいれば、いや名護からだという人もいます。中部のどこからか説は、もっぱら「片田舎の始まり」とされた名護の連中が言っているようです。 

では中部のどこからかということになると、定説はなくて、一説によればなぜか恩納村なのです。

「オンナ村に入ればりっぱなヤンバルさぁ」と北の名護人は言います。冷たいことに同じ中部でもより南のコザ(現沖縄市)の連中も、そうさね、やっぱり恩納村はヤンバルでしょう、などと突き放します。泣くな、恩納村。 

私が住んでいた所は、その逃げも隠れも出来ないヤンバルの真っ只中でした。海沿いを走る1号線から山に入ること30分の鬱蒼たるジャングルの中でした。 

今、ふと「1号線」と書きましたが、行政的には58号線です。58号はこのまま国頭(くにがみ)からためらうことなく海中に身を投じて海の中を泳いだ先は鹿児島県、という不思議な海中国道です。 

「1号線」とは軍用1号線のことで、米軍施政権下で、大型軍用トレーラーがブワーっと通れるだだっ広い軍用道路を米軍はお作りになったわけです。カッコつけてハイウエイ・ワンなどとも言います。 

ともかく直線、どこまでも直線。参ったかという直線。ジェット戦闘機も離発着できるさぁ、というのが島の人の自虐的自慢です。いかに住んでいた住民を無視したかお分かりでしょう。

那覇から走ると、両側は行けども行けども米軍基地。観光名所にするべくヤシの樹なんぞ植えてやがって、ここはカリフォルニアか、つうの。 どうせ植えるならヤエヤマ・ヤシを植えなさい、と言いたい。

考えてみれば、こういう力づくで押し寄せて来る外国をいったん受容して、やられっぱなしかと思うと、どっこい鼻づらを掴んで手玉に取るようなことがウチナーの伝統芸ではあります。

今も仲井真さんが名人芸を見せて、政権のニワカエライさんを引きづり回していますね。日本も半分は「外国」ですから。 

それはさておき、その1号線からとある河の源流にあったのが私が入植した村でした。一回廃村になりかかっています。 

廃村になる理由というのは学校問題です。村には小学校がないのです。東海岸の天仁屋(てにや)に行くか、西海岸の源河に行くか、いずれにせよ子供が歩いて通える距離ではありません。 

道路に転がっている棒っきれかと思えばハブ、縄張りを荒らされてはならじと自動車に突撃を敢行してくるノータリンのリュキュウイノシシなどが道路の上に珍しくもなくのたくっていますから。  

この私が入った村、島の言葉で「シマ」は、一時は多くの村民がお茶やミカンを作っていたようです。島米を作った水田跡も残っています。  

戦時中は南部からの避難民が決死の逃避行をした場所としても有名で、多くの避難民が病死したり、ハブの餌食となった哀しい話も残っています。 

このシマも復帰以降に急速に村民を減らしていきました。やはり海洋博やそれに向けての高速道路建設がきっかけでした。 

海洋博は目と鼻の先の本部(もとぶ)で開かれたのですが、ここへの出稼ぎに男たちが大勢行ってしまい、留守を預かるのはオジィとオバァ、それにヨメさんと子供ということになっていったようです。 

こうなるとヨメさんの肩にズシッと重圧がきます。残った田んぼや畑の管理、炊事、子育てにめげそうになったのでしょう。そして亭主が働く町場に田畑売り払って、一家総出でひとりまたひとりとシマを出て行ったのです。 

こうしてこのシマにはただひとりのオジィを除いて廃村になったのでした。 

                                    (続くかもしれない) 

■おまけ [鳥飼が教えるローストチキンのばらし方]

❶モモの内側に切れ目を入れて、外側にエイヤーと開く。そのままナイフでモモ肉をはずす。
❷手羽元に同じように切れ目を入れて、筋を切りながらドリャーとはずす。
❸手羽先の関節も同じように内側に切れ目を入れて筋を切りながらはずす。これで手羽先、手羽元が別になる。
➍胴体部分は、正中線にある胸骨の両側にナイフを入れて表面にあるムネ肉を削いでいく。
➎ムネ肉の下に眠っているササミを取り外す。

書くとめんどくさそうですが、実際に馴れれば5分です。ガラは勿体ないからダシにしてください。メリークリスマス。

■写真 ヤンバルのお茶畑。強烈な酸性土壌にはお茶とミカンがあっていて特産になっています。

■少々くたびれ気味なので、明日は更新をお休みします。明後日から再開します。堅い記事になるかどうか。この震災からの9カ月間、ずっと硬かったので、ちょっと気分転換してみたい気はします。

2011年12月24日 (土)

keikoさんへのメッセージ


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keikoさん。  

私たちはあなたにこの1週間以上振り回され続けてきました。それもポジティブにではなくて感情的なしこりを残すような形でです。 

ここはあなたが紳士的に話すのなら、私も含めていくらでもお相手できる人が揃っています。しかし、この1週間以上おつきあいして、あなたの主張はとうとうある人がご指摘のように初めにループしてしまいました。  

「TPPが農業外もあるのは熟知している」といいながら、農業に矮小化された言説しかあなたは書いていません。これはよくあるTPP俗論であって、本質的にTPPが狙っているのは金融や保険、日本への国内投資です。そのためのわが国の米国流再編です。  

にもかかわらず、あなたはよくある日本農業悪玉論を言っているだけでいっかなテーマは深化していません。  

また、あなたは「安全なものを食べたい」と言いながら、TPPによる遺伝子組み換え種子の流入、遺伝子組み換え食品の表示がなくなること、BSE検査基準や輸入食品の農薬使用基準、衛生管理基準などの切り下げなどの問題にはふれようともしませんでした。
(私の過去ログ
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2011/10/post-bd04.html 

そしてあれよあれよといううちに、あなたがTPPを擁護したいために言い出した沖縄独立論だとかシンガポール美化論といったTPPとなんの関係のない牽強付会の枝葉の議論にまで飛び火していきました。  

しかも失礼ですが、あなたにはそれらの知見がなさ過ぎます。ただ感情的に煽っているだけで実がありません。貼り付けられたものを読むといっそう、こんなていどのことを論拠にしているのかとこちらがため息をつくほどです。  

TPPの議論なら、望むとろです。しかし、こちらの全員が限界に差しかかっています。あなたの論がいくばくかの正しさを含んでいたのなら、そしてその態度が穏やかな礼節をもったものであれば、ひとりの賛成者も出さないということはないでしょう。ここの人たちはそんなに頭が堅くありませんよ。 

多勢に無勢だという気分は充分にわかりますが、ならば少しでも味方を作る議論のスタイルをしたらいかがでしょうか。あなたの高飛車なもの言いと、相手の言うことをまるで聞こうとしない決めつけるような態度は味方を作りません。 

そして、私にもっとも衝撃を与えたのは、種子さんの「福島では発ガンは確認させれていない。放射能以外にもノロウイルスなどのリスクも社会にはある」という至って常識的な発言に対して、「首都圏消費者に対する挑戦だ。全国の反原発団体、消費団体に拡散する」という恫喝でした。 

私は今まで多くの来訪者を迎えましたし、アク禁にした人もいます。しかし、その人個人の範疇で止まっていました。 

自分の意見と違うと、「仲間を集めてくる。炎上させてやる」といわんばかりの態度はあなたが初めてです。充分に暴力的です。正直に言って、この時点で退去勧告を出そうかと思いましたが、まだ分かっていただけるかと心のどこかで期待していました。  

しかしあなたはまったく意にも介さずその攻撃的スタイルを変えませんでした。 

種子さんの意見に異論は存在するでしょうが、「首都圏消費者への挑戦」などというおどろおどろしたものではないはずです。 

反論がおありなら、福島県民のホールボディカウンタなどによる体内被曝のデータ、現時点での疫学的調査結果、放射線量と発ガンとの因果関係のデーターを提示して反論すべきです。

発ガンするのは4年後あたりというのはチェルノブイリの事例から承知していますが、現時点でも避難地域の人々の甲状腺の線量測定で予測が可能なはずです。
(私の過去ログ
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2011/12/post-d805.html 

あるいは、「恐怖に怯える首都圏消費者」とおっしゃられるのなら(感性的には非常によく分かりますが)、そこまで居丈高に「消費者への挑戦」とまで言うのですから、同じような現時点での福島事故由来によると思われる首都圏消費者の内部被曝放射線量データを示す努力をされるべきです。 

これらが分かれば、体内残留している核種はなんなのか、蓄積線量はどれだけで、どの部位が多いのかなどのデータが得られて対策が立てられます。 

それらの具体的なことが説明されないままに、声高に「日本の農産物は危険だから食べない。⇒外国の食品を食べたいのにないのは関税のせいだ。⇒だから関税がなくなるTPPは賛成だ」という三段跳びのような論理飛躍をされると唖然とします。  

ひとつひとつテーマを押えないで、「自分はぜったいに間違っていない」という無謬意識だけで論理構築をするからこのような飛躍に継ぐ飛躍となるのです。

keikoさん、あなたにご忠告すれば、あなたはこうすべきでした。  

第1歩は、放射能の低線量被曝が怖いのは相当数の人が同意するはずです。ここでしっかりと低線量のデータと学説を収拾して立論することです。 できうるならば、疫学データが必須とされるでしょう。あなたと入れ替わりになった杏ママさんはそれをなされました。 

第2歩は、日本の農産物、特に東日本の農産物に具体的にどれだけの線量が出ているのかを公平にデータでみることです。

ほらここでも出た、あそこでも出た、とモグラ叩き的に現象を追いかけないで、その本質的原因を探ることです。どのような条件で、どのような場所が、いつ出たのかをしっかりとケーススタディして分析しなければなりません
(私の過去ログ
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2011/10/post-1d1a.html 

私はそれをやってきています。ですから、現時点ではホットスポットを除く、大部分の東日本の農産物の安全性は立証されつつあると思っています。「完全に立証された」などと言うきはありませんが、されつつあります。  

そのように限定的に言うのは、国と福島県の米のスクリーニング方法は誤っていたから漏れ落ちた地点があることが想像できるからです。
(私の過去ログ゙
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2011/09/post-b874.html

第3歩は、首都圏の消費者、特に子供の体内放射線量のバックデータが必要です。これは、あなたへの反論ウンヌンで言っているのではなく、首都圏の消費者、特に、茨城南部から千葉県、東葛地域の子供の体内被曝線量は、国がホールボディカウンダを使って調査すべきだとかねがね思っています。 

現在ないのは分かっていますが、あなたが呼びかけてでも始めるべきでしょう。一部で始めているグループがあると聞きました。  

第4歩として、TPP問題の本質が農業問題なのか、それに矮小化できることなのかどうかを問うて下さい。TPPは農業問題「だけ」の問題なのだと言い切れるのなら、お相手します。
(私の過去ログ
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2011/10/post-a85e.html

ましてや関税問題ではないはずです。日本で高関税は一握りです。ただコメがあまりに高いので標的になっています。あなたの論法は木を見て森を見ていません。
財務省貿易統計 実行関税率表http://www.customs.go.jp/tariff/2010_4/data/i201004j_07.htm 

違うのならば、切り分けて日本農業の問題点は題点として議論し、TPP問題とは切り離すことです。一緒にしてしまうことは外圧で日本農業を変えようとする、言い換えれば私たちからすれば潰すことに加担することになります 

第5歩として、日本農業への批判の公正性です。言いにくいことですが、あなたはもう一回勉強しなおすことです。あなたはあまりにも俗説に染まりすぎています。

真摯に聞く気があるのならいくらでもお話しますが、今の感じではこちらが語っても、自分がどう反論するかに気を取られて少しも聞いておられない以上不毛です。

さてkeikoさん、最後にこれだけは言っておかねばなりません。

この国は今再びズタズタになろうとしています。あのような巨大な災害があってようやくひとつになれたと思っていたわが国は、また諸個人が諸個人と争う世界に逆戻りして行っています。 

いつから私たちの国は、こんなことがなければひとつになれない国、こんなことがあってもひとつになれない国になったのでしょうか。 

未だ3千数百名のご遺体が家族のもとに帰れないまま越年しようとしています。ご遺体は酷寒の海に沈んだままです。

瓦礫すら撤去の完了の見込みもたっておらず、農業や漁業、中小零細企業は二重負債を抱えたままで立ち直るきっかけすら奪われたままです。 

それにもかかわらず、まったく被害に合わなかったいわば安全地帯に住む人々の中に、食の微量の放射能の存在「こそ」が重大であり、それが故に被災地・被曝地を含む日本農業は壊滅するべきであるかに言う人たちが絶えないことにいいようのない憤りを感じます。 

世の中には軽重があります。今このような震災直後の復興端緒期にせねばならないことは山積みしています。ここにこそ国や国民は力を傾注するべきです。東北の同胞の立ち直りを支え、また破壊された町のたたずまいと地場産業を再生するべき時期です 

しかし、現実はどうでしたか。被災地・被爆地の福島県で放射能を含んだ農産物が発見されるやいなや「市民社会への無差別テロ」と叫び、「福島の娘とは結婚するな」とあたかも奇形児が生まれるかのようなデマすら駆けめぐりました。 

この人たちに人の心があるのか、と私は問いたい。
未だ不安な領域の放射線量の土地に住む人々を「テロリスト」とまでののしるいかなる権利があるのだと問いたい。
「福島の若い女性が不妊になる」と断定するいかなる根拠があるのだと問いたい。
 

自らの低線量被曝への恐怖をそのような被災地への攻撃でまぎらわせようとすることが、人としていかに卑劣か、心に手を当ててほしいのです。 

物事には、優先すべきことの順位があります。今が、低線量被曝をこそ最優先課題として、その恐怖が故に日本農業を指弾すべきときなのかどうなのか、考えて下さい。

心配してはいけないなどと短絡を言っているではありませんよ。TPPで米国の力を借りて、力任せに農業を壊滅する妥当性を問うているのです。

何度も申し上げますが、私は議論することは忌避しません。むしろ望むところです。ですから1週間の長きに渡っておつきあいしました。 

しかし、私は30歳の歳に帰農し、農業に一生をかけた男です。ここにいる方々の大部分もまたそうです。 

それに対して「TPPで農業が潰れてもあなたは生き残れる」と安直に言ってのける、しかもそれをユーモアと思っているようなあなたの感性には、私は絶望感すら感じます。 

価値観の相違を超えて、互いに良き方向を見いだそうとするのではなく、他者のもっとも大事にしている何かを棄損することに痛みすら感じないかのようなあなたが気の毒ですらあります。 

keikoさん。いろいろ書きましたが、これは私はひとつの締めくくりとして書いています。今や感情的な対立になっています。このような状況は望むところではありません。 

あなたが真摯に私の言うことの10分の1でも聞いていただけるのならよし、そうでなく今までの頑迷な態度を改めないならば、不本意ですが去っていただくことになります。 

よくお考えください。長くなりまして失礼しました。寒さの折、ご自愛下さい。

keiko様 

                                       濱田拝

■写真 霞ヶ浦の河口の夕陽。画像には写っていませんが、巣に戻る水鳥の声がかしましい夕暮れです。

 

2011年12月23日 (金)

昔、ヤンバルに馬鹿な百姓志願の男がいた。 誰にも勧められない就農マニュアル

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昔、沖縄のヤンバルの山の中に百姓志願の男が暮らしていました。隣は米軍のジャングル戦専用の北部訓練場があるような場所でした。 

なにを考えたのか、牛がいいだろうとなけなしの金を出して和牛を飼い始めました。しかも二頭です。 

牛を選んだのは、粗飼料で飼えるとどこかで聞きつけたからです。粗飼料ということは餌がタダじゃないか、とこの男はそう思ったのです。 

ついでに養護施設で飼えなくなったというアーグ(在来豚)も2頭とヒージャ(山羊)もタダでもらってきました。これもウンム(イモ)のクズと葛だけで飼えるはずだと算盤を弾いたようです。 

考えてみれば、農業技術がない、経験もない、ついでに金もないという逆トリプルAのこの男が、いきなり難易度トリプルAのヤンバルに入って百姓をしようということ自体が英雄的なバカであります。 

この男の日課は、午前中は火星の土のように赤いヤンバルの土の上でスコップ仕事をしていました。 

畑とは名のみ。ただの原っぱの中でスコップでなにやらほじっているというのも異様な風景ではあります。別に当人としては掘り出しているのではなく、耕しているつもりです。、 

それほどまでにヤンバルの山土はガチガチでした。初めに入れた鍬は一発でグニャとだらしなく曲がり、これではならじと満身の力を込めて耕しても表土をなぜるだけでした。 

土をなぜていても仕事になりませんから、剣スコップでまるで側溝を掘る要領で「耕す」のです。よもやスコップにこういう使い方があるとは知りませんでした。 

いや、今でもスコップ農法など聞いたことがありません。今の私なら、なぜトラクターをかけないのか、とその男に問うでしょう。 

まずは土質を調べ、肥料設計し、そして堆肥などの土壌改良材を充分に散布してから、おもむろにプラウニングし、仕上げにロータリーをかけろ、と指導するところです。

さすがこの男もトラクターの存在くらいはおぼろに知っていたようです。しかし牛に金を出しすぎて手が出ませんでした。若かったし体力自慢でしたから、まぁなんとかなるだろうと、甘く思っていたようです。 

後にこの男は小さな管理機を手に入れることになるのですが、これが機械化農業だと感動したものです。 

ちなみにこの管理機には、ヤンバルの土は手に負えず、すぐに黒煙を吐き出して抗議のストライキをしたものです。

沖縄の農家は、長袖のダブダブの上着を着て、首回りにもしっかりとタオルを巻き、軍手は必須、足元はゴム長が定番装備でした。

この男は、コザで買った米軍払い下げの迷彩服を着ていましたから、この姿でスコップをふるう姿はさぞかし異様なものでしょう。

ついでに襲い来るシーベ(ブヨ)の大群から身を守るために、これも払い下げのモスキートネットを頭からスッポリとかぶっていましたので、知らない人がみれば、米兵が特殊任務でもしているように見えたかもしれません。いや、見えないか。

しかし、このネットが息苦しいこと。やけくそで取ると顔かたちが変わるほど刺されました。 米軍の臭い防虫クリームが手放せませんでした。

借りた土地はサトウキビ畑が5反歩と畑と称する原っぱが7反歩でしたから、毎日学校の校庭ほどの土地をスコップでほじているのが日課だったわけです。 

午後は優雅な昼寝の後に、草刈りに出かけました。沖縄の夏で本土のように1時から働こうものなら、たちどころに干からびて死んでしまいます。 

沖縄の百姓には、「朝ブシ、夕ブシ」(朝星、夕星)という言葉があると教わりました。暑いので星が消える前の朝5時から働き、夕方は星が出るまで働くという格言のようなものです。まぁ途中で昼寝しているんですがね(笑)。 

グヒチ(カヤ)を2トントラックで満載になるまで刈ります。これがこの男の農家経営の核心でしたから、それは必死でした。

沖縄北部を泣くような思いで毎日さまよってはグヒチを刈り続けました。しかも鎌で手刈りです。あまりめげることを知らないこの男も、連日2トントラック一杯の手刈り作業には顎が上がりかかっていました。

ハブがウヨウヨする山奥にひとりで鎌一本を腰に差して分け入るのですから、無知ほど強いものはないと言いたくなります。ハブ採り名人ともお近づきになりました。

一度山奥で指2本をすっぱりと鎌で10針縫うケガをした時には、傷口をタオルで縛りながら片手運転で山から逃げ帰ってきたものでした。

そこで、名護の農機屋の裏に捨ててあった刈り払い機をもらって治し、機械がブンブンいった時には飛び上がって喜んでいました。たわいないものです。

こんな男の唯一の楽しみは、共同売店という北部にしかない地域共同の店で大きなテンプラ(さつま揚げ)を一枚買い込み、いちばん安いオリンピアというビールを一本買って、荷台に積んだ刈ったばかりのグヒチの香りに包まれて、誰もいない海岸でひとりで乾杯することでした。

「沖縄に乾杯、がんばっているオレに乾杯・・・!」

写真 ヤンバルのパイン畑から八重岳を望む。

 

2011年12月22日 (木)

島らっきょうは、島で食べるからおいしいのです


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keiko さん。島ラッチョウ(らっきょう)はおいしいでしょう。私も大好物です。
 

ただ味噌をつけてもよし、軽くチャンプルーしてもよし。味噌はちょっと甘めのほうがいいかもしれませんね。沖縄にいた時はアカマルソーの論評したくない味噌を使っていまたが、今になるとたまに食べてみたくなります。 あれとエゴのマヨネーズはノーモアだ。

沖縄ではラッキョウ漬けにはまずしません。する人もいるのでしょうが、皆、かたっぱしからポリポリ、パリパリと。 

私もラッキョウやエシャロットは作ってみましたが、なぜか違うのですな。地味かな。品種かな?たぶん空気ですよ。あの島のチルダイ(かったるいと訳しますかね)な空気で喰うからうまいような気もします。 

♩オジィ自慢のオリオンビール(ビギン調で)は本土で飲むとちっともうまくありません。ただの気の抜けたアメリカンタイプのビールでしかありません。あの紫に染まった長い夕暮れに仕事終いで飲むからうまいのでしょう。 

東京でも食べたい人は多いのでしょうが、沖縄の農産物は輸送がネックで、どうしても九州勢に負けてしまいます。ゴーヤなんか今は茨城でも作ってますもんね。 

沖縄農産物は銀座のわしたショップでも買えますが、バカ高い。ゴーヤが300円!需要が少ない上に航空便でしょう。高くなるはず。国内グローバリムでさえもなかなかなか難しいようです。 

沖縄の離島に行くと(南西諸島も一緒ですが)、出来たものを運び出すのが一大事です。空港はないし、船といってもフェリーが通うような島は大きな島で、そこから先は20人も乗れば一杯の連絡船で行きます。 

石垣島の白保問題はジャンポが発着できる空港を作りたい観光業者と農家が賛成、世界有数のサンゴの海を埋め立てられてたまるかと地元漁業者が反対に回り、島内が真っ二つになりました。 

かつての私はとうぜんのこととして反対運動に加わったのですが、この歳になると推進派の人の言うことも分かります。小型の飛行機では那覇で積み替えねば本土に輸送できません。 

観光客もいったん那覇で降りて乗り換えることになります。ジャンボでビュンっと本土と直結したいというのはわかります。 

しかし、だからといって、あの海底のどこまでも続くサンゴの森を潰していい理由にはなりません。いったん潰してしまえば、もう再生はきかないからです。第一、あれほどの観光資源は石垣にもそうそうないはずで、それを潰して空港を作ってどうすると思ったものでした。

魚の湧く海を守りたいと願った白保の漁民の声は痛切そのものでした。

ここにも国内版ですが、グローバリズムが顔を覗かせます。地元のかけがえのない何かを犠牲にしても輸出にかけるか、それともそれを守って生きていくシマンチューの生き方をとるのか、という問題です。 

グローバリズム的に考えれば、ジャンボが来るのですから、何が文句があるんだということでしょう。病気になってもすぐに本島にも行ける、農産物は本土に速く安く持って行ける、大型荷物も楽に運べる、ツアーの客も増える、本土直送で物品が入るから安くなる(島の物価は高いですよ)、という魅力的な話です。 

グローバリズムというのは、初めはすごく魅力的な顔をしているものなのです。いいことずくめです。便利で儲かる、物価は安くなる、本土の産地間競争にも加われて経済も発展する、これだけ聞いていると反論は難しいいほどです。ちょっとTPPに似ていますね。

たかだかサンゴじゃないか、白保地区には気の毒だが「島全体の利益」だ、がまんしてくれ、というわけです。

その時為政者はぜったいに陰画は語ろうとしません。リスクは口にカンヌキをかけてしゃべろうとしないのです。

リスクはただ島の宝のサンゴの森を潰すだけなのでしょうか。違います。それだけではありません。「逆がある」のです。本土に農産物を出すのが速く簡単になるなら、逆に本土の農産物や資本も大量に流入します。

島で作ってきた在来の野菜より、本土の園芸作物のほうが競争力があるかもしれません。増えたのは、居酒屋と別荘族ばかりです。住民票も置かず、したがって住民税も納めずに権利だけ主張するナイチャーたちが地元の島の人と交わらないコロニーを作りました。

海岸線には汚らしい看板が増えました。海は確実に汚れが進んでいます。不動産の買い占めが起きて、島の人は自宅を立てるのが大変になりました。

白保のサンゴは生き残りました。最後の最後で埋め立ては中止となりました。今でもサンゴの森を見ることが出来ます。空港はサンゴの海をこそ潰しませんでしたが、この流れは確実にやって来ています。

玄海原発でも同じことが起きました。原発立地となった東洋町もまた真っ二つになりました。立地交付金で大きな体育館が出来、公民館も立派になりました。いろいろな町民活動への支援も手厚く補助金が出るようになりました。

町民が過疎から逃れることができた、これも否定できない一面の真実です。

しかし海を埋め立ててできた原発が未来に何を残すのかは、3.11以降あまりにも明瞭です。百年の災厄を引き受けることになるのです。

東洋町の農民や漁民は、原発立地交付金に頼らない自前の地場経済を作ろうとしています。地元で生まれる産品に工夫をこらして、海や土を荒らさない生き方に挑んでいます。

島ラッチョウは島で食べるのがおいしいのです。島の風になぶられながら、刻々と変化する万華鏡のような海を見ながらお食べなさい。それがいちばんおいしいはずです。

21世紀初頭は、押し寄せるグローバリズムと、地場の風土や生き方を守ろうとする人々との闘いになります。グローバリズムは安価な商品を与えるかもしれません。しかし、それで失うものはあまりに大きすぎるのではないか私は思うのです。

■写真 金城次郎さんのお孫さんの吉彦さんのヤチムン(焼き物)です。

2011年12月21日 (水)

市場原理にすべてを委ねることはできない。農薬問題について考える

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八目山人様。にぎやかな所にお越しいただき恐縮です。ご質問いただきました農薬問題ですが、なにぶん私は有機農業者なので、正直あまり詳しくありません。そこをお含みおき下さい。   

日本が特に多いということは考えにくいと思いますが、日本独自の事情は存在します。   

❶耕作地で農薬量を割っている以上、ヨーロッパの耕地の20分の1のわが国はどうしても多く出ます。またヨーロッパはいまでも牧草や麦類の輪作体系が生きていますから、そこへの農薬投入は少なく出ます。正味の野菜や果樹の耕作地への使用量は同等か、わが国のほうがやや多いと思われます。   

❷わが国がやや多い理由は、わが国がヨーロッパよりはるかに高温湿潤なことです。特に夏場の湿度の高さはすさまじいのです。有機農業界では、この時期の生産が限定されるほどです。

これは日本が、ある意味熱帯より病害虫にとっても「ほどよい湿気と高温」条件だからです。(欄外グラフ参照)   

このグラフでわかるのは、ヨーロッパは夏場に温度上昇しても、それに伴って逆に湿度は下がっていきます。もっとも植物の生育が激しい夏場に高温低湿なのです。  

ですから、特に農薬や管理機械を入れなくとも低い丈に牧草や作物が抑えられています。ヨーロッパ特有のうねるような牧草地の丘陵はこうして生まれました。 

一方わが国の気象条件は、モンスーン地帯の温帯に位置します。ヨーロッパの逆に夏場が植物の盛りとなります。夏場に放っておくと身の丈ほどにも雑草が生い茂り原野と化してしまいます。  

わが国の有機農業が草との闘いと言われるのはこのためで、これは慣行農法も同様な条件で闘っています。  

❸わが国は、国民性としておそらく世界一の清潔好きであり、規格に非常に厳しい性格があります。いわゆるジャパン・プレミアムです。このためにほうれんそうのわずかな虫食い孔も許さないような体質があります。
結果、規格外返品を恐れて農薬頻度が高まる可能性はあるでしょう。 
 

➍しかし、わが国では極めて厳しい農薬使用制限があります。この厳しさもおそらく世界一ではないかと思われます。 

農薬登録の抹消、更新も盛んであり、生産団体や流通組織は、毎月定期的に使用不可になった農薬情報を流しているほどです。  

これを知らずに使うと未登録農薬使用ということで処罰の対象になります。おそらく、わが国ほど厳しい農薬管理体制は世界に類がないのではないかと思われます。  

米国はTPPでこの日本の農薬使用制限について異議を唱えてくると思われます。それほど米国の使用農薬は、現在わが国ではとうに使われなくなった農薬を多数含んでいます。 

「 市場原理で悪い者は自然に排除される」と言う人がいますが、とんでもない楽天であり、国家の使用規制や監視がなくなればたちどころに悪貨が良貨を駆逐します。

このような市場原理主義は、世界の中でも滅亡しつつあり、本家の米国ですら国民の健康に対して監視を強める動きがあります。 

このような国の働きを最小にして、市場と資本にすべてを委ねる市場原理主義ほど危険な思想は世界にないと私は思っています。 

市場原理主義者は、国家規制に代わって任意のISOやGAPで管理できると主張しますが、農業現場の生産サイドからみれば、あれほど簡単な「お習字」はありません。 

国家認証のJAS有機でさえ、生産管理の裏まで知った熟練の生産者にとっては「お習字」であり、ペーパーだけの存在に祭り上げることも可能です。ましてや民間任意のGAPやISOなどに至ってはいわば「努力目標」であって取得するのも容易で、認証されたと大手を振ることができます。

私がもし流通をしているのならば、GAPやISO9000(ましてや14000)などは名刺がわりでしかなく、ほんとうに信頼に足りるかどうかはそこに働く人や生産状況を見せてもらうしかないと思うでしょう。

ちなみに有機JASは、違反が見つかれば一発認証取り消しで、社会的な制裁が大きいので、GAPやISOと同列にはできませんことをお断りしておきます。

日本でヨーロッパほどGAPが普及しなかったのは、国家規制が強力だったからであり、それは良いことなのではないかと私は考えています。 

➎厚労省のポジティブリストの実施以降、抜き打ちで農薬基準違反の検査を店頭や流通で実施されています。この抑止力はそうとうなものです。これで指定外農薬が検出されると流通から厳しい制裁をもらうことになります。

おそらくはペナルティをもらって取引停止か中断でしょう。これが生産サイドに及ぼす抑止力はそうとうなものだと思っています。

今後、放射能に対しても同様に食品規制値100bq、水10bqの規制がかかるでしょうが、これに対しても厚労省は抜き打ちのポジティブリスト型監視をすることになるだろうと思います。

これは大変に良いことで、生産サイドもうかうかできなくなり自主モニタリングを強化する方向になるでしょう。

このように国家規制と民間の自主規制はいわば対であって、どちらかだけあればいいという関係ではないのです。 

❻わが国の農薬は、この数年低毒化と生物農薬化の方向にあります。生物農薬とは、植物や微生物などの病害虫耐性の力を借りて「未病」にすることです。この分野は研究が盛んで、今後もっと拡がっていくと思われます。   

総じてわが国の農薬頻度及び量は低減の傾向にあります。農薬も改善の傾向にあります。 

わが有機農業界の一部には、完全な農薬からとの決別を主張する人たちもいますし、それもひとつの大事な考えであることは確かですが、オール・オア・ナッシングという方向を私は取りません。   

そのように立ててしまうと、多くの農業者は「有機栽培」をぜったい無理な彼岸だと考えてしまうからです。そうではなく少しずつ、自分の生きる風土の中で、段階的に理想に向かっていくのがいいのではないかと思っています。 

私はハードな有機農業者からは軟弱といわれる昨今ですが(笑)、しょせん農業とは人の生き方のようなもので、無理しても変わらないと思うようになりました。

これでお答えになったでしょうか。

■写真 夏場の汗の草刈り風景。これが重労働です。ひとつの水系を共有する水田では安易な除草剤はすべての水田を汚染するので、使用が自主的に禁止されている場合が多いのです。

■北海道様。ありがとうございました!震災の時、放射能で苦悩していた時、常に支えていただきました。もうなんとお礼を申し上げていいのか戸惑うほどです。感謝の言葉もありません。
来年も非力ではありますが、頑張ってこのブログを継続していきます。これが私に出来る最大のお礼だと自覚しております。

 

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2011年12月20日 (火)

北朝鮮農業失敗の研究 金正日「将軍」の死に際して

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キム・ジョンイル総書記が亡くなりました。この世襲制を持つ新興宗教の如き国家がどこへ行くのかまったく混沌としています。
 

中露韓日に挟まれた地政学的プレート上に位置するこの国が、このまま危ういバランスの上で生き残るのか、それとも内部から瓦解していき外国の介入を受けるのか、はたまた国際管理地帯になるのか、まったく私にはわかりません。 

いずれにせよ、北朝鮮がこのままのあり方で存続できると想像するほうが無理があるでしょう。 

さて、私にはひとつの国を見る時の視点とでもいうものがあります。「民に食わせる」ということです。国家がある目的とは、煎じ詰めれば「民に食わせる」ことのできることに尽きます。国などえらそうな顔をしていても、食わせてナンボなのですから。

 「民に食わせるために」国防があり、治安があり、法律や税などの諸制度があるのであって、「民に食わせられない」ような国家などなんの役にも立たない破綻国家でしかありません。 

この意味において、北朝鮮は誰しもが認める破綻国家です。いくら大量の兵士がおり、戦車があろうと、「民を食わせられない」ような国家には自暴自棄の戦争すら起こす力はありません。 

そのようなものは軍服を着た餓死予備軍であり、戦車などさっさと鉄クズにして鋤鍬に変えたほうがいいものにすぎません。 

この国の凋落は長きに渡っていましたが、それが決定づけられたのは1991年のソ連崩壊でした。

いままで、中ソを手玉に取るようにして、旧社会主義圏全体からまんべんなく支援を受けることで存続してきた北朝鮮は、ソ連圏崩壊によるマグマの奔流に巻き込まれるようにして、一気に国内生産を瓦解させていきます。 

なかでも、国の基幹である食料生産が崩壊に向かったのがこのソ連崩壊の1991年以降です。下の表をご覧ください。 

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UNDP(国連開発計画)による『朝鮮民主主義人民共和国の農業復興・環境保護に関する円卓会議(Thematic Roundtable Meeting)-農業の基本的発展』(1998年5月)と、FAO (国連食糧農業機構)およびWFP(国連世界食糧計画)による『朝鮮民主主義人民共和国の作物収穫と食糧供給に関する特別報告書』による。 

ソ連崩壊前まで800万トンを超えた生産高が、もっとも落ちた96年には200万トンと4分の1にまで下落しています。現在は300~400万トンで推移していると思われます。 

北朝鮮の最大の問題は、毛沢東の「パンツ一枚になっても原爆を持つ」という常軌を逸した軍事路線が、国内の民生生産、なかでも農業に巨大な負担をかけたためだと言われています。 

北朝鮮のソ連崩壊前の農業政策を。FAO(国連食糧農業機構)の報告書(1998年)はこう書きます。 

「朝鮮民主主義人民共和国における農業は、協同農場、国営農場として組織され、歴史的には主に稲とトウモロコシに関心が注がれてきた。食糧自給を果たすために農業の近代化が追求され、4つの主な増産要因、つまり、灌漑普及、電化、化学化(肥料・殺虫剤・除草剤など)、それに、機械化に重点がおかれてきた。」
(引用上記グラフと同じ)
 

典型的な社会主義農業政策です。自作農をコルホーズに追い込み、穀物生産に重点を置いて、機械化、大型化、化学農業化を推進したわけです。 

このプロセスで取られたのが、大躍進から文革にかけての毛沢東主義農法の模倣でした。それは単位面積あたりにギュギューに苗を植える密植農法でした。 

たとえば伝統的に2畝とる所に中央にもうひと畝作ってしまうわけです。こうすれば、増産できると毛沢東は考えたのです。 当時、幼児が稲の上で踊っている写真が公開されたほどです。

そして米を喰うということでスズメを追い払いました。当時の映画には、赤いネッカチーフをした少年団が、長い竹竿をもってスズメの群を追い回しているのが映し出されています。 

また、堆肥を作る伝統がない中国で(北朝鮮も同じ)増産のために投下されたなけなしの化学肥料や殺虫剤も膨大な量に及びました。 

しかしその結果はどうなったでしょうか。飢餓です。密植した稲は、通気不十分のために蒸れてガスを発生させ、病虫害を激増させました。  

農薬で抑えきれなくなった害虫を食べてくれたはずのスズメなどの天敵生物は根絶されてしまっていたので、瞬く間に水田や畑は腐り、やがて大量発生したバッタが巨大な群をなして各地を襲い、草木も生えない土地に変えていきました。飢饉です。  

農民は自給に戻ろうにも、既に集団化のために村は破壊されており、鍋釜すら鉄の増産のための粗末な炉に投げ込まれてい潰されていました。   

かくて数千万人の餓死者が中国で発生しました。このデッドコピーをしたのが、他ならぬ隣国の金日成の君臨する北朝鮮でした。 

金日成は、国家予算の多くを原爆開発に注ぎ込む一方、農業を主体思想化していきます。それはさきほど書いた中国の大躍進政策と瓜二つでした。そして当然のことながら、結果もまた瓜二つになります。 

FAOの北朝鮮農業レポートはこう書きます。   

「70年代および80年代初頭には高水準の成功が得られた。(略)まったく当然なことに、こうした人工の投入物に強く依存した農業は、ひとたび資源の制約から高い投入水準をもはや維持できなくなれば、収穫の低下が起こりはじめる。
なおその上に、近年の洪水、干ばつ、極度の寒冷つづきで、それまでの農業システムの混乱と崩壊、そして、生産の激減が引き起こされた。」
 

特に北朝鮮農業にとって悪かったことは、治水の失敗です。植民地時代に作られた水豊ダムのような多目的ダムを継承しておきながら、北朝鮮は毎年恒例のようにして大水害を引き起こします。 

その原因を現地を指導した李佑弘氏という朝鮮総連に所属した農業技術者は、「暗愚の共和国」の中で証言しています。 

過剰なトウモロコシの作付けが、地味を吸いつくし、またトウモロコシは根が浅いために表土を保持する力が弱く砂漠化現象をおこしました。大量の土砂が大水や、時に風によってすら吹き上げられて河川に流入したのでした。 

また生産向上のために山間地の河川斜面にまでトウモロコシを植えたために、斜面が崩壊し、更に多くの土砂が河川に蓄積していくことになります。

川底は浅くなり、簡単な大水で簡単に決壊し、農地や住宅地を押し流す結果になったのです。毎年起きる北朝鮮名物の大水の原因がこれです。

まさに人災です。主体農法の化学農薬、化学肥料に対する盲信、農地の生産量キャパを無視した過剰な作付け、自作農を否定する集団化、治水の失敗などにより農業生産インフラそのものがが疲弊していました。

それは、旧ソ連圏からの支援というカンフル剤が切れると同時に顕在化し、北朝鮮農業は立ち直る機会すら与えられないまま一挙に崩壊に向かったのでした。

もし、この時に神格化された一人独裁体制でなければ、農業政策に根本からの修正をかけたでしょう。たとえば、キューバがとったような有機農業による農業の再建です。

しかし、故キム・ジョンイル氏にとって、そのような方針転換は自らが神として君臨する国家という神殿を冒涜するものでしかなかったが故に不可能でした。 

今後この国がどちらに向かうかわかりません。故キム・ジョンイル氏のような天才的な瀬戸際政策を青臭いジョンウン氏がとれるとも思えません。

しかし、どのような形であれこの国の新たな指導者が農業を再建する考えを持たない限り、この国に未来はないことだけは確かです。

 

■写真 稲の花が吹いていよいよ実が入っていきます。

 

2011年12月19日 (月)

誤解だらけの日本農業

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TPP賛成派の人たちの意見を聞いていると、いつもなじめないものを感じます。「分かってないな」という気分でしょうか。 

いや、別にJAの組織率がなん割だとか、関税率がどうのという細かい話ではなく、農業の現場を分かっていないというか、わかろうとする想像力がないみたいです。 

その人たちは、農業は取り残された前近代的分野という強烈な刷り込みがあります。 

今の農業団体に来て、大卒の社員が泥だらけになって大型トラクターを乗り回したり、IT管理をとっくに導入していたりしていることを目の当たりにするとゲッという顔をします。 

なぜか農業は老人だらけだそうで、先がないそうですから、中堅どころの家族農家にはほとんど若い後継者がおり、収益計算をしっかりとした農業経営をしていることを知ると、なにかの間違いで例外に違いないと思うようです。 

農業者は脳味噌を使わないでただ黙々と鍬で畑を耕していると思っているので、農業分野ほど新しい生産技術や機械が取り入れられている所がないことがわかると、ウソだろうという顔をします。 

日本農業の各種野菜、果樹の生産性の高さを知るとだいたいびっくりします。なぜか農業はぬるま湯に漬かっていて既得権の鬼だからのようです。 

現実にはそんなぬるま湯産地などはたちどころに立ち行かなくなり、どんどん脱落して行っています。産地によっては同業者視察を断る所もあるほどで、その産地間競争たるやちょっとやりすぎだろうと私も思うくらいです。 

こんなに国内競争が激しいので、もちろん弊害もありますが、どんどんと規格は厳しくなり、食味はよくなり、鮮度はよくなっています。ジャパン・プレミアムと外国の農業団体からイヤミを言われるほどです。 

外国農産物の関税は5%前後ですが、よしんばゼロ関税にして上陸しても私たちと同じ土俵で闘うのは困難でしょう。輸入農産物の多くは、まずくて、規格がひどく、質が悪すぎます。 

私たちは、米国はそのうちISD条項でこのジャパン・プレミアムを関税外障壁だと言ってくるだろうなと笑っています。 

補助金漬けだと思っているので、今の気の利いた農業者はそんな農水省補助金など使うとかえって高いモノにつくので、自分で工夫して経費削減していることを知りません。 

民主党が票目当てで「農家戸別所得保障制度」などという、人聞きの悪い制度を作ってしまったので、農家は所得すら政府が補償してくれるのか、というトンデモな誤解がはびこっています。 

あれは減反奨励金の変形パージョンだと説明するのがメンドーなので、遠からずなくなるでしょうから放ってありますが。 

減反といえば、だいたいの都会の人は兼業農家(官称「自給的農家」)と、専業農家(官称「主業農家」の見分けがつきませんから、いつもは町に働きに行って、その上米の収入ももらえて普通の勤人よりリッチだ、というどこで聞いたのかわからないような話もよくされます。 

兼業農家は「村の人」でアマチュア、専業農家がプロの農家だからね、と言うと、なんで農家に二種類あるんだと問われます。 

農水が勝手に区分けしているので知ったことではありませんが、これは稲作の水系を協同で利用しているために兼業でもやってもらわないと荒れて困るのだと事情を言っても、いや補助金をくすねるためだろうと勘ぐられます。 

有機農業というと、なぜか小規模で草むしりをしていなければなりません。草むしりはしますが(笑)、大規模な有機農家や団体もたくさんあります。 

大規模がいい悪いというのではなく、それぞれの条件で選べばいいだけです。ただ、農業技術は家族労働の中で継承されていくものだという原則を逸脱せねばいいのです。

大規模経営こそが日本農業前進のための条件ではないだけです。小規模でも付加価値の高い渋い農産物で勝負している農家もいっぱいあります。

耕地がヨーロッパの20分の1で狭過ぎて非効率的だから農産物が高い、と評論家によく言われますが、ヨーロッパは連作が効かない麦類が耕地の輪作の3分の2を占めています。

だから使っている正味は、日本とさほど大きな差はありません。生産効率でいえば互角でしょう。温帯なぶんだけ日本のほうがいいかもしれません。

農産物価格は、為替レートが変動しますので安易な比較はできませんが、先進国の所得に対しては、特に安くはないでしょうがごくフツーの先進国相場です。ドイツでキャベツを30円で売っていたら買って帰ってきて下さい。 

ただひとつだけ言えるのは、日本農業ほど誤解を受けて、敵意を向けられている国は先進国では稀であることは確かです。

なにせ昨日も「農家はテロリスト」とまた言われましたしね(苦笑)。ああ、しつこい。なんだあの粘着質は。

福島県農家が放射能の数値を知っていてわざとやったのならば責任の一端はあるでしょう。しかし。現実には農家が再三に渡って田植え前から調査の厳格化を求めたのに対して国も県もその要求に答えなかった結果なのですから、農家に責任があるはずがありません。

「シンガポールの背中がまた遠くなりました」と聞いた時には5分ほど笑いが止まりませんでした。

あの~、私たち日本の農業者はシンガポールなど眼中にまったくないですから。あそこに教えることは多々あっても、教えてもらうことなどまったくありませんから。いや、熱帯鳥類飼育は習わにゃならんか(爆笑)。

このような誤解とも言えないことの積み重ねに反論してこなかった私たちにも問題があるのは、今回のTPP騒動でよく分かりました。「もの言う農家」は生意気で嫌われるようですが、止めるわけにはいかないようです。

■写真 わが村の小学校。今回の震災で壊れて廃校となりました。もう通学の子供の姿はみらられなくなって寂しいかぎりです。

  

 

2011年12月18日 (日)

田んぼはコメ生産を行いつつ、水利事業を行う多目的な存在なのです

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シンガポールという「理想の国」が突如舞い込んできました。ちょっとシンガポールを農業の目で考えてみましょう。

人口が埼玉県とほぼ同じ300万人ていどで、広さは東京23区と一緒くらいでしょうか。 

歴史的にはマレーシアから追放されて、めでたく分離独立した都市国家です。都市国家という存在でわかるでしょうが、食料はほぼ90%外国に依存しています。農業人口は1%に満ちません。 

農業は見事キレイサッパリ「存在しない」といっていいでしょう。食料はかつての仇敵であり、いまでも政治的にはかならずしもしっくりといっていない旧「宗主国」マレーシアなどから輸入しています。 

シンガポール国内の貯水池は至って貯水量が貧弱で、隣国マレーシアからジョホール海峡を渡る2本のパイプラインで原水を購入しています。残りの1本のパイプラインでマレーシアに水道水として返しているそうでからあっぱれと言ってやるべきでしょう。 

シンガポールは、かつては極端な貿易立国ドクトリンでした。東西貿易の要衝にいるという自信から、国内に農業なんて不採算部門などなくても結構という考え方です。 

その考えに基づいて国内の農地はバサバサ切って加工業の工場を立てて、安いマレーシア人の労働力を使って輸出攻勢をかけていたわけです。 

なんか日本のTPPで外国人労働者を大量導入して、不採算な農業なんぞ企業農業だけにしてしまえ、という人たちのご意見にあまりにそっくりで、笑えますねぇ。

まぁ、日本では「既得権にしがみつく守旧派勢力」がたくさんいますからなかなかそうは問屋がおろさないですが、シンガポールという「開かれた豊かな国」の支配権はリー・クアンユーさん一人に握られていましたからそんなことができたんですね。

ところが、この極端な国際分業論モデルは破綻しました。輸出が登り坂の時はいいですよ。しかし、いったんリーマンショックなどで最大の市場であった米国の消費市場が陰り始めると、もういかん。食料を買う余裕がなくなる可能性がでてきたのです。

そして国際環境がいったん緊張局面を迎えると、シンガポールなど捻るにゃわけはない、と思う外国勢力もなきにしもあらずなようです。まぁ、ジョホール海峡のパイプラインのコックひとつ締めれば瞬時に干上がる国ですからね、シンガポールは。

となると、シンガポールは焦り始めました。今までの警察に毛が生えたていどの軍事力をいきなり、米国から新鋭兵器を買い込んで増強したり、米国に基地を提供するオファーをしたりと大変なことです。

その中のひとつとして出てきたのが、シンガポールの農業テコ入れ政策の「アグリ・テクノロジー・パーク」(ATP)構想でした。シンガポールの北西部に6ツの農業基地を作り、集約型の農業をしようという構想です。

このような集約型農業団地は、想像できるようにカネになるものの順位が高い品目が選ばれます。鶏卵、牛乳、養殖魚、熱帯鳥類などです。あのハデチキリンな熱帯鳥の繁殖を農業団地でするとは、これまたさすが痩せても枯れても貿易立国シンガポールらしい(笑)。

というのは、主食のコメから野菜、食用油など何から何まで旧宗主国マレーシアに依存していますし、野菜などは安価なマレーシア産との競合になるので、マレーシアがあまりやらない品目の熱帯鳥類でも増やして売ってみるか、ということになるようです。

あとは、これもよく日本商社が手広くやっていることで新味はありませんが、開発輸入です。シンガポール企業が外国でショウガ、バナナなどを作って自国に輸入しています。

とまぁ、こんな新農業政策で農場を500に、雇用を6千人に増やすことに成功したそうです。すまんがショボイですな。埼玉県に農場がいくつあります。あ、いかん国家モデルが違うんだった。 

TPP推進派からは、「食料を外国から輸入しても餓死する人はでないし、水も輸入できる」というありがたいご託宣がありましたが、シンガポール自身でさえ無理っぽいと思っているようです。 

さてシンガポールが100%外国依存している水ですが、さすがわが国が水を輸入することはないでしょう。なにせ水資源枯渇の中国人企業が水源買い占めに乗り出しているくらいですから。 

わが国においての「水」問題は、水の質と、治水です。今でも台風が来るとすぐに大水がおきるでしょう。

というのは、日本の河川は外国人学者をして「滝のようだ」と言わしめた水源の山系から急速度で海へとほとばしる河川だからです。

日本の河川は源流から河口までヨーロッパとは比較にならない短さが故に、豊富な水量と同時にそれをコントロールすることが至難の業でした。

では、日本人は長い「暴れ川」とつきあってきた歴史の中でどうやってきたかというと、いくら護岸工事で固めても、弱い部分から決壊してしまうという水流エネルギーのコントロールでした。 

日本人は独自の方法をこう立てました。それが、暴れ川の水に逆らわず、徐々に河川周辺の田んぼに逃がしてやる方法です。武田信玄の霞堤などが典型ですね。 

ダーッと来る大水の時の奔流を、両脇の堤防に少し隙間を開けていくつもの水路から田んぼに流してエネルギーを減殺するというシステムです。 

いや、これは長年水利で苦労し続けた日本人の独創的水利事業です。ここでスゴイのは、河川を堤防の力でだけ食い止めようと思わずに、その後ろの田んぼまで含めて受け止めるというハイブリッドな柔構造です。 

田んぼは、川の水の量とバランスをうまくとりながら、水を溜めたり、放出したり出来ます。多い時には田んぼの堰を切り、少なくなればまた堰を作るということが簡単に出来ます。 

そして田んぼにはかならず付属の溜め池がありますから、田んぼでオーバーフローした水はそこで溜めることも可能です。このような田んぼの自在な水の貯水と放出機能により、川の水の量を一定に保つことが可能です。 

今日の写真を見ていただければわかるのですが、ほぼ田んぼの畦は30㎝で、そこに水を溜めたり、放出したりすることができます。 

下手なダムより水が張られた田んぼの貯水量のほうが多く、全国でおよそ81億トンだと言われています。この貯水量は治水用ダム貯水量の実に、3.4倍にも登ると言われています。

もしこれを、社会インフラの整備事業単体でとらえれば、数千億円の投資が必要となるでしょう。しかも、今日本で新たなダムを作ることは事実上不可能です。田んぼはコメ生産を行いつつ、水利事業を行う多目的な存在なのです。

農業が果たしている働きをカロリー生産と生産額だけに絞ってしまう考えの先には、「食料なんか安いものを外国から輸入すればいいじゃん。100円牛丼食べたい~!」という考えが生まれます。いや実に古くさい前世紀型思考です。

シンガポールという国も徐々にそんな偏った考えに修正をかけているようです。それなのに、未だわか国の一部には歴史と自然からなにも学ばない考えの持ち主も多いのは残念です。

自然環境の能力を取り出して、それとどのように共存しながら生きていくのかを模索せねばならないはずの21世紀に、今でもそんな考えがあること自体が不思議なくらいです。

■写真 水を張った田んぼです。まるで湖のようです。

■蛇足 今日は忙しくて校正しないでアップしてたらミスタイプの山(汗)。すいませ~ん!

 

 

2011年12月17日 (土)

日本の風景と文化は農業が作り上げました

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今、私たちが見ている日本の風景は日本人が作ったものです。 

たとえば谷津田という地形があります。上の写真のように両脇の森林が腕を拡げるたなごころの中に、さほど広いともいえない田んぼが連なっています。 

東の森にはオオタカとフクロウが棲んでいます。西の森の淵には湧き水の小さな泉があり、夏にはホタルが舞います。 

田んぼを遡って北に少し遡ると、この田んぼ全体を潤す小さな沢があり、分け入ると朽ちた祠が残っています。小さな祠は朽ちてしまいましたが、いまでも田植えの前の肌寒い春になると、誰かが塩とお神酒を捧げた跡があります。 

田んぼは一代でできるものではありません。一代30年で造成はできるでしょうが、水田に必要な澄んだ潤沢な水を得ることが出来ません。 

水は米の味を決定します。水は豊富な滋養分を稲に惜しみなく与えます。化学的に作った純粋で米を作ってご覧なさい。食べられませんから。 

青々とした水田を潤す水は、森の落ち葉、朽ちた土の香りと恵みを運んできます。森は天然の堆肥の蔵でもあるのです。 

もし、田んぼがなかったらどんなだったでしょうか。この青々とした水田はなく、ただの日照の悪い草むらだったことでしょう。 

イノシシにとっては嬉しいでしょうが、私たち人間には何の恵みも与えてくれない土地として、捨てられた存在だったことでしょう。 

私たちの先祖は米を食いたいと熱望しました。米を腹一杯食べてみたい。昔はご飯を「銀シャリ」といって、神々しいまでに輝くご飯をそのように評したのです。 

お百姓は米を食べるためになにから始めたでしょうか。森を作ることから始めたのです。 

森がなければ水が出ません。森の樹々は水を溜めて、腐葉土のゆりかごの中で時間をかけてそれはおいしい水に変えていきます。今風に言えばミネラルウォーターですね。 

森が荒れていたり、裸山だった地域では、樹を植えることから始めました。苗を植えて若木になり、ぐんぐん伸びて一人前の森になるまで数十年かかります。時には、60年近くかかる場合もありますから、親子二代の仕事になります。 

そして水が湧くまでまた十数年。その間毎年、夏には下草を刈り、冬には枝を落とし、また新しい苗を植えていくことを続けるのです。 

これを一年でも怠ると、夏草が繁茂して森には人が立ち入れなくなってしまいます。獣すら通えない森はだんだんと弱っていきます。 

このような長い時間の末にようやく頃合いをみて田んぼを作っていきます。上の冷たい湧き水が染みだす水口の田は小さくしてそこで温められます。あたたまった水は、次の2枚へ流れ込み、そしてまた温かくなり、そして次の3枚目へ・・・。  

このように水口からいきなり大きな田んぼに入れるのではなく、徐々に森の水をお日様の体温でくるむようにして下の大きな田に導き入れていくのです。

こうして初めて採れたお米をどんな気持ちで私たちの先祖が頂いたことでしょうか。日本人は米を余さず食べました。

初めに採れたお米は神様に捧げられました。秋祭りは田んぼの神様に捧げられる感謝の祭りでした。その時に人々は、土地の水と米で出来た酒をしたたかに飲み、歌い、舞ったのです。

これが日本人の祭りの原型です。お米は村の中で水と森を守って出来た共同体への贈り物でもあったからです。

家庭で炊き上がった米は、まず仏壇で見守る先祖に捧げられました。なぜなら、このお米は森の神と豊穣の神が与えてくれたもので、ご先祖の汗の賜物だからです。お米は個人のものではなく、時間の流れが与えてくれたものでもあるからです。

食べる前には手を合わせ、感謝し、食べ残すなどもっての他でした。これが日本の食育の原点です。

米の藁は、冬の農閑期に縄にしたり、堆肥に刻んで入れたりもしました。畑の株間に敷いたり、あますところなく使われました。

田んぼの粘土は陶器のようになめらかであり、床土からはいい陶土がとれました。これで陶器をひねり、稲藁や森の樹をくべて出来上がったのが益子焼や備前焼などの民窯です。

米は日本人の文化です。生身の日本人が生きてきた姿を映し出しています。日本の風景は農業が作りました。日本の文化は農業が作り上げました。

確かに商品穀物としてのコメはアメリカでもできるでしょう。

飛行機で種と農薬を撒いて、強制感慨をして砂漠を拡げながら作るがよろしい。そこには何の文化」もありません。工場と一緒です。

当然のこととして、そのようなアメリカの米は日本の自然を守りません。彼らがTPPで日本農業に参入できたのなら、ブルドーザーでまっ平らにして、巨大な一枚の水田にしてしまいたいのでしょう。

水資源を収奪し、遺伝子組み換え苗を植え、外国人労働者を使って6000円の米を作るのでしょうか。そしてそこで出来たアメリカ人の米を「日本米」の袋に入れて海外に安値で輸出するのでしょう。

これに歓声を上げるように日本人がなったなら、わが国は終わります。なぜなら、それは文化と魂を捨てたことに等しいからです。

2011年12月16日 (金)

食の自立なき民族は滅びる。沖縄にとってのTPPを考える

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私にはふるさとが三つあります。ひとつは子供の時に育った神奈川。ひとつは青年の時に農民志願で入植した沖縄。そして今、おそらくは骨を埋めることになるだろう茨城です。 

どれも同じように私の心の大事な一部ですが、単純に「どこが好きか」と尋ねられれば、躊躇なく沖縄です。私は沖縄の山奥で農業を学び、あの赤い土から農民としてのすべてを学びました。 

いまでこそ、あれから20年近くたっていますから、ある程度は突き放して見ることが可能になりましたが、未だ沖縄の少女が米兵の暴行にあえば、私も歯ぎしりして泣き、興南高校の決勝戦には仕事も忘れる有り様です。 

さて、「沖縄独立」という言葉を、よもやTPP推進がらみで聞くとは思いませんでした。私は「沖縄独立派」と短い間ですが、濃厚な時間を共有したことがありますもので。 

いまでも年に数回ですが、メーールで「独立派」だった旧友と話すことがあります。彼も私も、ほんとうの沖縄の自立とはなんなのだ、とこの20年間問い続けてきました。 

本土政府の基地対策費をもらいながら反基地闘争をすることなのか、本土政府の北部振興予算で立派な道路や施設を作ってもらうことなのか、と考えました。 

そして彼も私も、沖縄の怒りや怨念を種にして本土政府の予算をもぎ取ることはもうやめたいと思うようになりました。あれは毒の入ったポーク缶のようなものです。 

なぜいつまでも本土政府に頼ってしか生きられないのでしょうか。いつから自らの悲劇すら売り物にするようになったのでしょうか。なぜ「独立」はおろか経済的自立すら空論となったのでしょうか。 

それは沖縄人が、自分で「喰う」ことを自給できないからです。沖縄で食べる米がまずいのは、全量本土から輸入した古米かブレンド米だからです。ウチナー自慢の沖縄そばも米国の麦であり、島酒すらタイ米です。 

なくてはならない豚肉も今は芋を食べさせることはなくなりました。唯一、石垣島などで潮風に吹かれて育った肉用牛だけが島の草を食っています。 

沖縄で県内自給できるのは、水と野菜だけです。これでは沖縄民族の独立など絵に描いた餅です。 

仮に「独立」をしたとして、日本政府に独立宣言した瞬間にカネを止められ、米を止められ、米国に基地を返せと言ったとたん小麦やトウモロコシを輸入停止されれば、「琉球独立政府」は3か月と持ちません。 

食の自立なき民族は滅びます。「食べる」という人間にとっての根本を外国に依存する民族は、いつでも強者や外国に尻尾を振っていねばなりません。食を作ることを忘れた民族は奴隷になるしかないのです。 

私は、沖縄人が自分の力で産業を興し、自らの郷土で採れた食で子供を育み、踊りを教え、舞を楽しみ、長い夕暮れの中でサンシンを爪弾く沖縄人を見たい。そんなウチナー世を作りたいと今でも思っています。 

では具体的に沖縄に対するTPPの影響を考えてみましょう。 

TPPは琉球弧の地場経済を確実に根こそぎ破壊します。サトウキビに対する山間地支援としての保護関税は廃止するしかなくなるのはあまりにも痛い。 

現段階では、サトウキビに替わる基幹産業を作るのは不可能に近いからです。 

サトウキビに替わるものとして、機械化と集約化可能な大規模農業としては、たとえば島米があるかもしれませんが、半世紀に渡る栽培の断絶で、水田は石垣島の一部を除いて消滅してしまっています。 

ましてTPPともなれば加州米との競合関係に入り、食味と量、価格のいずれをとってもかないません。 

豚肉もアーグなどの一部を除いて生き残れるかどうかの瀬戸際に追い込まれます。唯一生き残る可能性があるのは、高付加価値の肉牛と野菜、海産物のみです。しかしそれとてサトウキビの喪失を埋めるに足る経済的なボリュームが不足しています。 

またTPPにより外国人労働者が大量に流入しますから、ただでさえ全国一失業率の高い沖縄県で働くことすら出来なくなります。青年は、今でもそうなりかかっていますが、全員本土に流れていくしかなくなります。 

TPP以後の沖縄は、観光業にしか展望を見いだせません。それも外国資本がTPPで奔流のように参入するのは間違いなく、美しい海岸線は見るも無残に外国資本のホテルのコンクリートの森と化すことでしょう。 

あとは経済的な可能性として考えられるのは、タイのようなFTAハブになることでしょうか。無関税化された大規模工業団地はやりようによっては可能です。 

ただし、立地がない。普天間基地あたりが使えればいいのですが、まずダメでしょう。あとは米軍基地と増え続ける住宅地で用地スペースがないのです。 

脱線しますが、普天間基地跡は那覇にも近く、あんな一等地に基地があるのはほんとうにたまらない。新都心にしてもよし、ショッピングモールとしても北谷(ちゃたん)より空港に近いし、ああほんとうにもったいない。

それはさておき、賃金が高いのもネックです。沖縄の賃金は全国一安いですが、TPPでベトナムあたりから大量に流入する外国人労働者と競合となったらかなうはずがありません。 

無理やり作るとすると、TPPで壊滅したサトウキビ畑を潰して工業団地を作り、そこに外国人労働者を入れて無関税で輸出するということになりますが、これが沖縄にとってどんな意味があるのでしょうか。

雇用も生まれず、地元はただ土地を貸すだけです。基地が工業団地になったにすぎません。

かくして沖縄の海岸線は外国資本のホテル群、内陸は基地と大規模団地。農業は壊滅、漁業も漁業補助金はTPPで切られますからこれも潰れ、離島経済は打つ手無し、若者は外国人労働者に職を奪れて内地に流れて行くことになるのでしょう。

そして彼らを待つ内地にも、TPPによるデフレ不況の永久化で失業率20%の素晴らしき格差社会が拡がっているのです。夕食は毎日スキヤの100円牛丼。

ウチナーぬニセターには逃げ場はありません。チャーナランサー。

TPP推進派は、「TPPでアジアのハブ(蛇ではないよ)としての琉球王国よ、もう一度!」とムード的な美辞麗句をまき散らすでしょうが、残念ながら実態はこんなものです。ウチナーにとっていいことは何一つありません。

ウマンチューぬスクジカラで、タックルセー、TPP!

■写真 私のサンシン。はっきり言ってど下手です。そうそう、私のブログ名の「農と島のありんくりん」の「島」は沖縄に対する望郷です。

 

 

2011年12月15日 (木)

TPPで日本農産物の「海外雄飛」などは、ただの夢想にすぎない

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落合信彦というとっくに終わった人がいるのですが、彼の書いたTPP論を読んで爆笑してしまいました。「日本の若者はTPPで米国や豪州へ雄飛せよ」ですと。

今、世界恐慌のまっ只中で、米本国ですらオキュパイド・ウォールストリートってやっている時に、まぁなんとノーテンキなお方ですこと。

オバマさんが雇用創出200万人なんていう嵐の中に「雄飛」しちゃったらまずはホームレスの列に並んで無料スープにありつく未来が待っているでしょう。やりたきゃ止めませんがね。

TPP推進派の皆さんは、具体的な「やったらこれだけいいことがある」という具体数字をまったく出せないもんだから、とうとう日本青年の海外「雄飛」まで言うようになったんですね。

昨日のお客人のように、日本農業も米国へ豪州へ言って大規模プランテーションをやれ、なんて言ってる人もいましたね。

おもわず米国の輸出補助金(CCP)目当てかな、なんて勘ぐってしまいました。外国の補助金目当てに海外雄飛か、これはこれで渋い(笑)。ただTPPでこれは廃止に追い込まれそうですが。

このいう「山のあなたに幸い住むと人はいう」というタイプはいつの世にもいるのですが、残念ながら世界同時恐慌ということをまったく考えておられないから困ります。

青空様(転勤ご苦労様です)がご専門ですが、米国はリーマンショック以降浮上の糸口が見えないままデフレ不況に突入しそうな雰囲気です。

EUは重体です。IMFと米国はEUへの資金拠出を拒絶しました。もはやギリシアのような財政危機を独力で回復できない国をEUから切り離すか、あるいはドイツが独力で直接資金を投入するしかないことになりました。

ドイツは今までユーロ安と自国の為替差益で輸出が大いに潤っていたのですが、それで得た貿易黒字を全部吐き出し、財政赤字国に転落することでしょう。

ドイツ国民がそれを許すかですが、いずれにせよEUには未来はありません。壮大な社会実験は悪夢に変わりました。

このような世界同時不況という局面で仕掛けられたのがTPPです。一体どこに日本の高級付加価値食材を売り込もうというのでしょうか?そんな成長市場がポッカリと開いていたら奇跡です。

TPPで成長市場になりそうな国は見あたりません。米国はご承知の様な状況ですし、豪州市場は狭すぎます。後は推して知るべしで論外に市場規模が小さすぎます。

唯一可能性があるとすれば、TPPと無関係な中国でしょうか。

私が知っている隣県の「海外雄飛」農業企業は、徹底的に香港と上海、広州にターゲットを絞って巨利をえたと評判です。不動産バブルで甘い汁を吸った富豪連中に、円高をものともせずに売り込んだ精神はアッパレですが、私は勧めません。だってあまりにリスキーですから。

しかし中国だけなら、いまさらTPPでなくともオーケーなわけで、なにをいまさらTPPなのかわからなくなりますね。

2011年12月14日 (水)

早川由紀夫氏の発言は、放射能を恐れ、原発停止を祈る人たちに泥を塗るものです

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杏ママさん。お互いに少々くたびれてきましたね(笑)。そろそろ終わりにしましょうか。 

「放射性セシウムを長期間摂取する影響」ですか。
まずは具体的になにからです?漠然と「食物からの内部被曝を心配しているのです」とおっしゃられても困ります。
 

脅威の対象はなにです?
野菜?肉?米?水?水産物?
野菜は、シイタケなどの地衣類を除いてはほぼありません。これについては今まで再三書いてきましたから省きます。

肉は牛肉被曝事件がありましたが、今は市場に出回っていないはずです。
豚肉は室内肥育で牧草を与えないし、飼料も輸入ですので初めから除外できます。鶏肉、鶏卵も同じです。
水は各行政のHPを見て下さい。水道で出たらそう書いてあるでしょう。
 

あるとすれば海産物でしょうか。これは専門外なので分かりません。

最後に米でしょうか。おそらくりぼんさんも言うようにここがいちばん大変です。ここを書きはじめると長くなるのですが、今までの米流通の歪みと、稲作農政のひずみが出ていますね。

米がほんとうの意味で国家統制から自由になったら、自分の大事な米をこんなぞんざいな検査体制に置くはずがありません。いい生産者はしっかりと自主検査をして、いい流通を選びます。

私は減反制度の中で作られてきたこの「甘えの構造」の弱点が、今回の放射能問題で出たと思っています。このことは別稿でしっかりと書く予定です。 

というわけで、あなたが「食物からの内部被曝を心配している」のなら、限定的な警戒心を持って下さい。「すべての東日本の食品」まで間口を拡げると、監視するストレスが徒に増大するだけです。 

次に、「少量を少しずつの摂取する低線量被曝の危険」ですか。
「そもそもセシウムが10Bq/Kg程度の蓄積で心臓(循環器)に問題が起こることがこども達で証明されていることに衝撃をうけませんか?}とも書かれていますね。

はっきり申し上げて、10bq/㎏のセシウムとなると、完全にお手上げです。実際に食品をゲルマニウム測定器で計ったことがありますか。たぶんないのではないかと思います。あったのなら、10bqがいかに極小の数値かおわかりのはずですから。

10bqという数値は一般のサーベイメータでは計測不可能です。ゲルマニウム測定器で、4時間以上かけて「あぶり出す」ような数値です。

もし本気で10bqをあなたが、自分で摂取限界としているのならば、ご自宅に2000万円クラスのゲルマニウム測定器を買うしかなくります。

一般の計測会社では20~30bq以下は「検出限界以下」とされて、それ以下をはかるためには特別料金を上乗せされます。しめて1検体3万といったところでしょうか。

ですから、生産地や流通でのスクリーニングでは、ランダムに精密測定にかけますが、日常的には暫定規制値を基準にして計測しています。

このような10bqを要求するような消費者は、ある意味、生産者や流通にとってありがたい存在だという逆説があります。今やっているスクリーニングなどはいくらやっても、「そんな高い数値でやってもダメ」と言われてしまうわけですから、ならばいっそうのことやめましょう、ということになります。

低線量被曝を私たちも研究していますが、それこそが重大なのだ、と立てる消費者は、いわばオール・オア・ナッシングを言っているようなもので、生産者にとってはなにもするな、と言われるに等しいことになりかねません。だって、いくら畑を除染しようが、スクリーニングしようが無駄ですもんね。

10bqとはそのような過激な数値であることを承知でおっしゃっているのならば、もはや食べられるものは極めて狭まります。

関西は自然放射線量が高いから除外され、北海道もなぜかホットスポットがありましたからはずされますので、原発がない九州南部と四国南部に限定されることです。あるいは放射線量が高い、南米、インド、中国、東欧、北欧を除く外国の農産物しかなくなりますね。

このような食卓にしてしまうことが果たして幸福で、子供を守ることなのかどうなのか、私は大いに疑問に思います。そしてそのような偏った食卓を作るには大変なストレスがかかります。 

あなたも書かれているように「40才以上のストレスフルな生活をする男性」などの場合、煙草、酒、職場や家庭内ストレスなどで包囲されていますから、もうなにが原因だかわからなくなっている上に、食卓でガイガーカウンターを使う主婦はそれに輪をかけることになるでしょう。 

これでこの「40代以上の男性」がガンになったとしても原因の特定は難しいと思われます。ひとつのリスクを除去するために、更に多くのストレスを被るのは現実性がないばかりか、賢明とも思えません。

リスク排除は、あくまでも他のリスクとのトレードオフの関係なのですから、低線量被曝の一点に傾いたリスク管理はいかがなものでしょうか。精神衛生上非常に悪いと思いますが。

さて、杏ママさん、最後にいちばんあなたに聞きたいことですが、あなたは福島の若い青年男女の未来をどう考えていますか? 

福島の若い女性が、「お前は不妊だろう」、「お前は奇形児を生むかもしれないから結婚を認めない」と言われることがお望みですか? 

福島の若い男性が、「お前は被曝しているから長く生きられないだろう」と言われることがお望みですか?

福島の市民が他県で、「ああ放射能ナンバーが来た。他県で洗車なんかすんじゃねぇよ」、と言われることをお望みですか?

福島の子供たちが転校先で、「この子にさわったら放射能が移るってママに言われたから遊んでやらない」、といわれることをお望みですか?

今私が言ったことは初めの2ツを除いてすべて現実にあったことです。そして今回、今まで封印されていた奇形児、不妊、そして結婚問題というデリケートなテーマを早川由紀夫氏と岩上安身氏が言い出しました。

社会的立場がある人間が何の配慮のかけらもない下品な調子で、しかも声高に! 

たしかに、奇形児、不妊、そして結婚問題は、放射能を考える上で重要な案件です。チェルノブイリでも、国外避難や中絶、そして自殺者が膨大に出ました。1250人の自殺者、そして十万のオーダーの中絶が出ています。

現在福島県でも統計数字こそないものの、私が知る限りでも中絶の数は増え続けています。私はこのことを哀しみます。

このような悲劇が進む中で、早川氏は被害者の傷に塩を塗り込みむが如き「福島の娘は嫁にもらうな」という発言をしました。謝罪して許されるような言葉ではありません。

彼が学者ならば、ましてや教育学部の教授ならばなおさらのこと、このテーマは慎重な調査に基づいた対応をとるべきでした。それをあんな酔漢の暴言のような言い方をするなど話になりません。 

あなたが言うように早川マップが正しかったからその発言が弁護されるべきものならば、クジラを守るためならばいかなる暴力も肯定されるというシーシェパードの論理と一緒です

目的が正しければ、いかなることを言っても許される、という論理を私は容認できません。早川氏の発言は、原発運転停止を祈り、放射能を心配する人たちの善意に泥を塗ったものだと思っています。

その意味で、早川由紀夫氏の今回の差別発言は、福島県の人々を侮辱したのみならず、脱原発運動を貶めることで放射能に危機意識を持つ人たちにまで敵対するものだと私は思いますが、いかがでしょうか。

 

2011年12月13日 (火)

福島県でチェルノブイリのような自殺者や中絶を出してはならない!

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杏ママさん。資料をありがとうございます。読んでみます。 

さてセシウムはカリウムと同族元素ですので、セシウムを摂取した場合、土壌も体内もカリウムと同様の挙動をすることが知られています。 

放射性ヨウ素は甲状腺に蓄積されますが、セシウムはどこかの臓器に溜まることなく、全身に均等に薄く広く分散します。 

これがセシウムの体内での挙動の特徴である全身均等被曝です。 

全身均等被曝というのは、内部被曝でありながら外部被曝と似ています。この全身均等被曝は、福島県の避難地域の牛の安楽死した解剖結果からも証明されています。 

さて素朴な疑問ですが、内部被曝が恐ろしいのはどうしてでしょうか?経口、あるいは呼吸による内部被曝によりホットパーティクルが体内、特に肺に取り込まれることです。 

肺は消化器系と違って排出されにくく、残留しやすいと言われています。 

一方、消化器系に侵入したセシウムは、比較的短期間で体外に尿として排出されることも知られています。 

・乳児の排出までの期間・・・9日間
・9歳児で         ・・・38日間
・30歳で         ・・・70日間
・50歳で         ・・・90日間
 

こう考えると、セシウムは消化器系に残留する可能性は非常に低い一方、微量ですが、全身の筋肉と同時に肺筋や心筋などにも入る可能性は否定できません。 

農家だから言っているように聞こえそうですが、私が経口、つまり食品を介しての内部被曝の可能性が薄いと思うのはそのためです。 

問題はここからです。セシウムが一定の臓器に蓄積されない以上、放射性ヨウ素のように甲状腺に蓄積され、甲状腺ガンを発症するようなことはありえないわけです。

1986年のチェルノブイリ事故で放出された放射性ヨウ素は、牧草を介して牛に移行し、牛乳に大量に残留しました。 

その残留は、数百万~数千万ベクレル/㎏と推定されています。すさまじいまでの放射線量です。このような高濃度の放射性ヨウ素が、避難までの8日間にも渡って摂取され続けた結果、大量の甲状腺がンを引き起こしました。 

牛乳以外にも,30㎞圏内の避難者が浴びた空間線量は累積で750シーベルトであり、甲状腺には50シーベルトもの放射性ヨウ素が蓄積されていたという記録があります。 

このことを最新の国連科学者委員会(UNSCER)はこう報告しています。
UNSCEAR's assessments of the radiation effects

http://www.unscear.org/unscear/en/chernobyl.html

Doses  to the thyroid received in the first few months after the accident were  particularly high in those who were children and adolescents at the time in  Belarus, Ukraine and the most affected Russian regions and drank milk with high  levels of radioactive  iodine. 

事故の後のわずかな1カ月目での甲状腺への被曝(の原因)は放射性ヨウ素で、ウクライナ、ベラルーシ、ロシアでは、牛乳を飲んだ子供と若者に特に多く発症した。」 

By  2005, more than 6,000 thyroid cancer cases had been diagnosed in this group, and  it is most likely that a large fraction of these thyroid cancers is attributable  to radioiodine  intake. 

「2005年までには、6,000件以上の甲状腺ガン事件がこのグループで診断されていた。そして、これらの甲状腺ガンの大部分が放射ヨウ素摂取に起因している。」

この放射性ヨウ素の大量被曝による牛乳が原因で15名(数十人という異説あり)が亡くなられました。患者数では6000人におよぶと言われています。 

武田邦彦氏は「子供を放射能汚染から守り抜く方法」の中で、「小児ガンはチェルノブイリでは4年目から出始めている」という書き方をしています。 

このガンとは甲状腺ガンです。この書き方はあたかも「低線量被曝の結果、4年目から子供がガンになり始めた」と、意識的に誤解を招くような書き方をしています。原因は先ほど述べたように初期被曝の750ミリシーベルトにおよぶ高線量被曝です。 

杏ママさんはこう書かれています。
「被曝した女性が、不妊や将来的に障害児を産む心配をしていること、そして、こども時代に被曝した若者が自分の将来の健康に不安を持っていることはNHKのチェルノブイリでの番組でも紹介されています。」
 

私はおっしゃっているNHKの番組を見ていないのでなんとも言えませんが、原因物質はなんとNHKは報道していましたでしょうか。 

初期の8日間で消滅する放射性ヨウ素131なのか、今なお残留し続けているセシウム134、136でしょうか? 

女性の卵巣に影響を与える放射線量は、650ミリシーベルだと言われています。チェルノブイリの避難民は、放射性ヨウ素が半減期を迎える前の7日間で750ミリシーベルトを被曝してしまっています

この初期大量被曝が「被曝した女性が、不妊や将来的に障害児を産む心配」に繋がっています。

さきほどの国連科学委員会はこう書いています。
However, there were widespread psychological reactions to the accident, which  were due to fear of the radiation, not to the actual radiation  doses.

しかしながら、事故による広範囲の心理的反応があり、それは実際の放射線量ではなく、放射能への恐怖のためである。」

結果、チェルノブイリではどうだったでしょう。1250人がストレスで自殺し、10万人以上が妊娠中絶しました。この自殺者数は、直接の被曝によると特定できる死亡者数の数千倍です。中絶された胎児まで入れれば、実に数十万倍もの死者を出しています。

私が早川由紀夫氏を許せないと思うのはここにあります。確かにチェルノブイリでは初期の大量被曝により小児ガンが多発しました。そこまでは事実です。

そして不妊や奇形もありえたでしょう。その原因は何度も繰り返しますが、初期8日間における放射性ヨウ素の大量の外部被爆量と牛乳による内部被曝です。 

政府は3月5月期の初期被曝の危険を知りながら、安定ヨウ素剤も個人線量計も配布しませんでした。このような国家の不作為により、多くの福島県の女性はおっしゃるような「不妊や将来的に障害児を産む心配」をせねばならなくなったのです。 

では、低線量となった今、低線量被曝があるとすれば原因物質はなんでしょう。完全に特定できます。それはセシウムです。これ以外にありえません。

セシウシムが先天性奇形の原因となるというデータが疫学的に存在するのでしょうか。セシウムが、女性の卵巣に影響を与えるとすれば、650ミリシーベルト以上の被曝線量が必要です。それがチェルノブイリでの疫学的ラインです。

9月末までの福島県の住民4463名の疫学データがあります。この内部被爆量は以下です。
・最大数値であった3ミリシーベルト・・・2人
・2ミリシーベルト           ・・・・8人
・1ミリシーベルト以下     ・・・・4447人

仮にセシウムが全身均等被曝することなく、卵巣にのみ蓄積されたとしても、福島の最大内部被爆量3ミリシーベルトは、チェルノブイリの750ミリシーベルトの、250分の1でしかありません。

これで福島の女性が不妊になる、あるいは先天性奇形を出産することはまったくないとは言いませんが、やはりありえないのではないかと思います。

早川由紀夫氏の言説はもはや警鐘を鳴らすという段階ではなく、一線を超えて「福島の女性を嫁にもらうな」という差別発言に至りました。

このような科学的根拠を欠いた心ない発言こそが、チェルノブイリのような自殺者や妊娠中絶を呼んだら、早川氏はそれも「学問の自由」と言うのでしょうか。

「健康な孫が生まれてほしい、病気にならない健康な人と結婚してほしいという当たり前の希望なんじゃないかと思います」

杏ママさんのこのようなごくまっとうな庶民の願望が一人歩きし、罪なき人々を傷つけ、自殺や中絶に追いやるのならやりきれない思いです。

■写真 紅葉の落ち葉に霜が降る。

 

 

2011年12月12日 (月)

日本に放射能除去の専門家などいなかった。そして照一隅の研究者たち

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ある人が私にしたり顔で言うには、「××先生は農学で、放射能の専門家じゃないから・・・」。

さてさて、日本に原子炉や放射線防護の専門家は大勢います。しかし、農地に降り注いだ放射性物質の専門家などは果たしていたのでしょうか?

はっきり言いますが、3.11まではただの一人もいなかったはずです。いや、今だって、農地の除染と真っ正面から取り組んでいる研究者は一握りです。

なぜでしょうか?金にならないからです。

放射能除去剤やサプリを売りたいのならともかく、大学よって多少の違いはあるものの、多くの場合は農地の放射能除去研究にはわずかの研究費も出ない場合が多々あります。

ですから福島や茨城現地に来て、農民と共に汗をかく研究者の大部分は自腹です。乏しい研究費の中で、旧式の計測器に苦しみながら、被曝農家を支援したい一心で関わっています。

栄誉もありません。報道されることすら稀です。報酬は私たち農家の感謝の言葉と、野菜や米だけでした。しかし、それでも休日を返上してこの一握りの研究者たちは被曝現地を訪れました。

なんの参考文献もありませんでした。セシウムの挙動や放射能の移行率などの既存の知見はしょせんは実験室内部でのものでしかなく、農地の実態を調べれば調べるほど、そんな簡単なものではないと分かってきました。 

というのは、土壌内部の要因があまりに多かったからです。土質、土壌生物、微生物、腐植物質などの多くの変数が土中には存在したのです。

実験室においてそれらすべてのファクターを再現することは不可能であり、単純化された環境を仮定して研究しているだけものでした。 

そして天候や地形までもがその変数に加わるに至っては、無限の組み合わせが存在し、とうてい簡単な解決方法など絵空事だと分かりました 

そして驚くべきことには、「土」というミクロコスモス(小宇宙)の住民たちは、人間の思惑とはまったく無縁に自らの生活圏を清浄化していたのでした。

あるものは電気的にセシウムを吸着し、あるものは物理的に補足し、「土中の監獄」に捕獲していきました。

電気的にとか、物理的にというような科学的解釈は後でいいのです。まずは「土」の驚異的な浄化力に私たち人間は耳を澄ませる必要があるのです。

それが故に、福島のあるいは茨城の農地は驚くべき速度でセシウム測定値を下げていきました。定点観測データは測るたびに数値を下げ続けています。

このようなことを誰が予測し得たのでしょうか。放射線防護学者や原子炉工学の専門家が教えてくれましたか? 

専門家と目された放射線防護学のエリアは、人体に対する影響測定と防護であって農地という宇宙とは別次元でした。原子炉工学に至っては人体、自然環境に対する放射能の影響など眼中にすらありませんでした。

つまり、放射能除去の「専門家」などは日本にいなかったのです。いたとすれば、個々の専門分野の常識をいったん頭から追い出して、謙虚に福島の現実と向かい合った研究者のみでした。

私の好きな言葉に「照一隅」というものがありますが、まさにこの研究者たちに捧げられるべき言葉だと思います。 私はこのような研究者と協同できることを誇りに思います。

 

■写真 モカ太郎くんが小犬だった時。あああの頃は可愛かった。今はマッスル・モカと化して筋肉モリモリの元気なオンタンに成長。毎日死ぬ思いで散歩に連れていっています。

2011年12月10日 (土)

早川由紀夫氏、大学から訓戒処分を受ける。 学問の名に隠れての言論テロは許されない

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関東でも本格的な冬がやってきました。もう、キンキン、バリバリです。

さて、早川由紀夫さんがやってしまいましたね。群馬大学から戒告処分です。
以下、氏の言行です。
 

「福島県の住民は家を捨てて移住すべし。福島県で育った娘は嫁に迎えるべきではないがこれは差別ではない 

「福島県の農家が牧場で牧畜やセシウムで汚染された水田で稲作を行うのはサリンを作ったオウム信者と同じだ。」 

「セシウムまみれの干し草を牛に与えて毒牛をつくる行為も、セシウムまみれの水田で稲を育てて毒米つくる行為も、サリンつくったオウム信者がしたことと同じだ。福島県の農家はいま日本社会に向けて銃弾を打ってる。」 

「福島県の農家がやってることはすべて信用できない。福島県の農産物は買ってはならない。」 

「日本は今内戦状態にある。」(このフレーズは赤線大文字) 

「正直、私は福島県ナンバーの車がこわい。前を走ってると緊張する。」

いや、なんともかとも福島の農家がオウム信者ならば、私たち隣県の茨城は在家信者ってところですかね(苦笑)。

学者の言論というより、居酒屋での酔漢のオダというかんじです。まともに反論する内容ではありません。

早川氏はだいぶ前からこの手の発言を繰り返してきました。「農民は社会に無差別発砲するテロリストだ」という表現も大分前からしていました。

大学当局は6月くらいから早川氏に注意していたとのことですが、制止するのが遅すぎました。早川氏の発言こそ「言論テロリズム」そのもので、無差別に福島県の人々を傷つけています。

特に結婚問題に対しての発言は悪質にすぎます。もはや早川氏が謝罪して済む次元ではなく、福島県は民事訴訟の対象にすべきです。こういう発言はネット界ではびこっており、福島県が毅然とした態度をしないのでのさばり続けているのです。

もっとも早川氏は謝罪するどころか、「訓告は学問や言論の自由の根幹に関わる。大学の自殺だ」などと言っているようですが、味噌汁で顔を洗ってきなさい。

あなたの発言は「学問」でもなんでもありません。自分の凝り固まった強迫神経症を汚らしい言葉でわめいているだけです。恥を知れ、と言いたい。

早川マップという立派な仕事をされた人だけに、その言論テロリズムを惜しみます。

■ 明日は所要で更新をお休みさせていただきます。

写真 みずひきです。小さすぎてピントが合わないので苦労しました。

 

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NHK 2月9日 14時13分 動画あり

 

群馬大学教育学部の教授がインターネットのツイッターに「セシウムまみれの水田で米を作る行為はサリンを作ったオウム真理教と同じ」などといった内容の投稿を繰り返し、大学は農家などへの配慮を欠く発言だとして、教授を訓告処分にしたことを明らかにしました。 

訓告の処分を受けたのは、群馬大学教育学部の早川由紀夫教授(55)です。群馬大学によりますと、早川教授は火山学が専門で、東京電力福島第一原子力発電所の事故のあと、放射性物質がどのように広がったかを推測する地図を作成してネット上で公表する一方で、ツイッターに「セシウムまみれの干し草で毒牛を作る行為もセシウムまみれの水田で毒米を作る行為もサリンを作ったオウム信者と同じ」などといった投稿を繰り返したということです。

群馬大学は農家や被災者への配慮を著しく欠いているとして繰り返し注意したものの投稿をやめなかったため、訓告処分にしたと説明しています。群馬大学の堀川光久総務部長は「福島県の被災者や農家の方々に不快な思いをさせて申し訳なく思う。発言が改善されるよう注視したい」と話しています。一方、早川教授は、ツイッターの中で「暴言であることは認める。しかし、こうした暴言で強制的に伝えなければならないほど事態は深刻だ」などと主張しています。

2011年12月 9日 (金)

セシウム除去のポイント アンモニウムやカリウムはゼオライトの働きを阻害する

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セシウム除去を考える上でポイントがあります。 

ひとつは、セシウムを何かに結着させる場合、「補足する」することと、「放出する」ことにわけて考えねばなりません。 

補足するというのは、土中のかなりのものが、多かれ少なかれやっていることがわかり私たち農業者をほっとさせました。 

たとえば、粘土質土壌はプラス電荷をもって、マイナス電荷のセシウムを結着します。あるいは堆肥として入れた木質や落ち葉が発酵分解してできる腐植物質も同じような作用があります。 

地虫やそれ以下のサイズの土壌微生物、バクテリアすらも体内に吸収します。ちなみにこの土壌生物群は特別な研究室で開発した対セシウムのエリート微生物ではなく、そこいらにある枯草菌とかミミズの類です。 

粘土質土壌などは短時間にほぼ100%近い補足率があります。下のグラフの横軸S1からS22までは土壌です。すべてに高い補足率があることがわかります。
(下記資料参照 後藤逸男教授の発表によりました。ありがとうございます。)
 

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このように高い補足率を持つ粘土質ですが、難点があります。セシウム放出率が高いことです。上グラフのオレンジ色の棒を見て下さい。ゼオライト(左端から3ツまで)が、いちばん悪い放出率でも40%なのに対して、土壌では80%~100%に近い放出率に達するものも多くあります。

つまり、セシウムをよくくっつけるのですが、すぐに手放してしまうのです。これが土壌のセシウム結着の特徴です。その原因は、土壌の電気的結着というのは時間がたつと急速に弱まるからです。

また土壌微生物も、パクパクとよくセシウムを食ってくれるのですが(別に好物というわけではなく、食べる土に入っているからだけの話ですが)、その「分解・代謝によって吸着と放出が繰り返され、環境中に放出されることも高い」とされています。(小松崎准教授の知見による。)

ゼオライトはこの土壌、土壌微生物の欠点である放出率の高さを補う鉱物です。

「そのメカニズムは、ゼオライト構造上に、(セシウム)イオンとほぼ同じ大きさのトンネルような細孔を持つためで、(略)それらの細孔にはまり込むことにより補足される」(後藤逸男教授の発表による。)

ただし、ゼオライトとても永遠にセシウムを結着しているわけではありません。
そこで第2のポイントが出ます。

それがアンモニウム・イオンとカリウム・イオンの存在です。ゼオライトという鉱物が農業界で注目を浴びたのは、今まで猫のトイレ消臭ていどの利用価値しかないと思われていたゼオライトが、実は過剰なアンモニウムやカリウムを結着してしまうためにバランスのいい土づくりに役に立つことがわかったからです。

ということは、せっかくゼオライトがセシウムを閉じ込めても、他から強いプラスイオンのアンモニウムやカリウムがやって来た場合、イオン交換反応により脱着してしまうのです。

アンモニウム・イオンは硝酸態チッソのような形で土壌にありますが、硝酸態チッソは、チッソ分が分解して植物に吸収する過程で生まれます。過剰になると健康に障害がでることでも知られています。

要するに生育を早めよう、大きくしようということで大量にチッソを使った結末が硝酸態チッソを生み出しているといっていいでしょう。

同じようにカリウム・イオンも、実なりをよくするために使用されます。この両者とも、化学肥料に大量に含まれています。

この両者が過剰に土中にあった場合、ゼオライトはセシウムを手放してしまい、代わりにアンモニウム・イオンやカリウム・イオンをひっ捕まえるということになってしまうのです。

ですから、セシウム補足をまとめればこのようになります。

土壌の質をよく知る。粘土質か砂質か、黒ぼくか。

➋堆肥の質と利用状況を知る。腐植物質を利用しているかどうか。家畜糞尿やチッソ・カリ肥料をやりすぎていないか。

➌以上の限界を知った上で、ゼオライトを散布して土壌が手放したセシウムを吸わせる。

➍過剰なカリウムやチッソはゼオライトの効果を薄めるので控えめにすること

 

2011年12月 8日 (木)

福島県の農地除染方針 モニタリングはホットスポットを探し出すためのものです。安全宣言するためのものではありません

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12月6日、福島県が農地の除染の説明会を行いました。
(日本農業新聞12月6日 欄外切り取り抜き参照)
 

福島県は農業林業者に対して、「福島県の米、野菜、果樹、牛肉などすべての農産品の放射能検出ゼロ」と、「農業者と近隣住民の年間追加被爆量を1ミリシーベルト以下にする」ことを約束しました。 

「追加被爆量」という表現が気にかかりますが、たぶん自然放射線量を除いた原発事故由来の放射能ということでしょう。

これは全国で初めて農林業者に対しての除染目標の設定であり評価できます。 

福島県は事故現地県として、今までももっとも多数の土壌モニタリングを行ってきており、また消費者に対しても検出限界値を5ベクレルにまで引き下げることで低線量被曝に答えようとする誠実な姿勢を持ってきました。 

除染方法としては
農地の除染(ただし玄米モニタリングで検出された農地)・・・放射性物質吸着剤を散布して反転耕、ないしは深耕
 

●果樹・・・県が開発した粗皮削りと高圧戦場で樹皮を洗浄する。 

●牧草地・・・牧草のはぎ取りや吸着剤を散布しての反転耕、ないしは深耕 

この方法は妥当だと思います。おそらくは、ゼオライトを撒いた後、ロータリーかプラウ耕耘をするものと思われます。 

一部の農業現場を知らない人は、削土しての表土はぎ取りを要求していますがまったくナンセンスです。今まで何度も書いて来たように、削土は大規模なコストと手間がかかり農業者への負担が大きすぎます。 

また表土を剥がれてしまえば、農地としての生産性はゼロとなり、新たな沃土に戻すまでに相当な年数が必要となるので「被曝地」の農民に更なる重荷となってしまいます。 

「被曝地」農民は現状ですら風評被害による経営打撃に加えて、農地の汚染におののいており、その背中に更に大きな重石を乗せるべきではありません。その意味からも、福島県のこの除染方針は農民の苦悩を理解した賢明なものだと思います。 

ただ一点懸念があります。安全宣言をした後の玄米からの相次ぐ放射能検出といった事態以降のモニタリングをどのようにしていくのかが今ひとつ見えません。 

安全宣言した後の検出事例続発は、福島県農産物の回復しかかっていた評価を再び地に落としました。 

これは明らかな事前モニタリングの失敗が原因です。あえてきつい言い方をさせてもらえば、福島県は事前モニタリングで危険と思われる地点を意識的か否かは分かりませんが、排除したのではないでしょうか。 

言うまでもなくこれは邪推ですが、被災地には「出てほしくない」という心理が強力に働くものです。この心理がもっと消極性に傾くと、「測定するから出るのだ」という後ろ向きの姿勢になってしまいます。 

モニタリングはホットスポットを探し出すためのものです。安全宣言するためのものではありません 

そこをはき違えていた部分があるから、玄米の事前検査で問題なく、事後でボロボロ出るという最悪の事態になったのです。

次に測定方法ですが、いちいち精度は高いが、時間とコストがかかるゲルマニウム測定器を使う必要はないと思います。むしろシンチエーション・サーベイメータなどを使って検体数を大幅に増やしてスクリーニングするほうが先決です。
(下の写真がシンチエーション・サーベイメータ。精度のレベルを切り換えられる。)

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ホットスポットを見つけ出さねば、また必ず規制値を超える農産物が出る可能性があります。

農地におけるホットスポットは限定されます。要注意地点はこのようなポイントです。
・舗装された道路や森林からの水が流れ込む水口
・ハウスの周辺部。特に雨樋の出口付近
・森林との境。斜面の下部分。
・谷津田の最上段の沢水が流入する部分
・森林の風雨が当たる前の側の立ち木の根付近
・樹木の皮
・耕耘していない農地
・草地あるいは牧草地
・沢水が流れ込む水路。特に汚泥

この測定は素人でも可能です。出来れば、行政かJAがシンチエーションサーベイメータを農家にレンタルする形で、農家の地域単位の測定をしたらどうでしょうか。

その際よくやってしまうのは、自分の農地の一カ所だけ計って安全だと錯覚することです。これは往々にして見られます。仮に自分の農地が2ヘクタールあって、その一カ所で計っても気休めにしかなりません。

均等に測るよりも、初めからホットスポット要注意地点のみを見当をつけて測る方がスクリーニング方法としては正しいと思います。そこでホットスポットが見つけられれば、そこの段階で精度が高いゲルマニウム測定器で再検査すればいいのです。

ぜひ雪が降り積もる前に徹底したホットスポット炙り出し作戦をやって下さい。
福島農民の健闘をお祈りします。頑張れ、福島!
 

 

            ゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。

 

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               日本農業新聞12月8日

2011年12月 7日 (水)

東北被災地にTPP「復興特区」の罠

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既にTPPは始まっています。 

野田首相は、「TPP交渉への参加協議への参加」という詭弁で、彼にとって国民より重要な「党内融和」ができたと考えているのでしょうが、米国はそんなことは歯牙にもかけません。 

12月2日、米国通商代表部(USTR)のカトラー副代表は、ワシントン市内で講演し、日本のTPP参加に向けた事前交渉の席では、外国企業の参入の妨げとなっている非関税障壁や規制の撤廃が焦点となる、と述べました。 

また、カトラー副代表は、日本の関税が工業製品においては低いことから(*筆者注・農産物も同じ)、非関税障壁こそが、米国企業が直面している障害だとしています。 

日本農業新聞12月2日によれば(欄外切り抜き参照)、既に日米政府間では牛肉の輸入規制の見直しなどで非公式協議に入っていると伝えられています。 

おそらくは、USTRの言う「関税外障壁の事前協議」とやらの中で、TPP参加承認見返りの取引材料として消費されてしまうと思われます。 

TPP交渉やその事前交渉は、通常の経済交渉ではなくあくまでも「外交交渉」です。外交交渉においては、秘密交渉などはあたりまえであって時に条約に付帯した秘密プロトコルすらつく場合すらあります。

ましてや国民に何の情報提供すら行う必要もなく、やっているという事実すら秘匿できるという、これほどまでTPP推進派に有利な交渉の進め方はないでしょう。国民は目隠しされたまま、結果だけを知ることになるというわけです。 

国民が知ることの出来る公式の事前協議などはセレモニーでしかないのですその意味で、TPPは批准・発効したその日から始まるのではなく、ただ今現在の「事前交渉」の時から始まっているといえます。 

一方、民主党政権は東北復興と称して「総合特区」構想を持ち出してきました。これがなんともキナ臭いシロモノです。 

これは山田としお参議院議員の国会質問で明らかになったものです。(欄外参照) 

従来あった地方自治体の規制を取り払ってしまい、漁業権の放棄による漁港の集約化や、、町づくり三法で規制されている外国資本のリゾート開発の自由化、大規模店舗の進出などができるような「復興特区」を作る内容です。 

あくまでも建前としては「町ぐるみ」をうたいながらも、現実には協議会に民間大手資本を入れて、復興特区という規制緩和の実験場を作ろうとしています。

この山田議員の質問に対して、平野復興担当大臣はこう答えています。

「「国の内外を問わず民間の力を最大限発揮させる」「外国の活力を取り込んだ被災地の復興をはかる」「被災地をはじめ我が国に対する外国からの投資を促進する」

まさにTPP体制が目指す市場主義の3本柱
民間資本への規制緩和
➋外国資本の規制緩和
➌外国資本の投資促進

を、復興特区であらかじめ実験しようとしています。

復興を今の今まで遅らせ続けたあげくは、出てきた具体的な復興政策がTPP路線ですから、なんともやりきれない気持ちです。

避難した人たちが求めているのは、元の町や村のコミュニティのたたずまいの復活と帰還であって、国内外の資本によるレジャーランドではないはずなのに。

 

          ゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。

山田としお参議院議員のメールマガジンからの情報を転載します。 

以下転載 

震災復興特区法案の危険な内容
 私が気付いたのは、この震災復興特区法案は、今年6月に可決していた「総合特別区域法」の仕組みをそのまま踏襲したものであること、そして、この総合特区法は、これも今年1月に閣議決定していた「新成長戦略」に位置付けられたものであることでした。
 

さらに、この新成長戦略たるや、昨年10月に、菅総理が突然「第3の開国」を打ち出し、11月に閣議決定した「包括的経済連携に関する基本方針」をそのまま盛り込んだものでした。まさに、TPPへの参加そのものだったのです。 

 だから総合特区法には、「産業の国際競争力の強化」が明記されていましたし、民間事業者が地域の協議会に参加し、その民間事業者が地方公共団体に対して規制緩和を提案し、その地方公共団体がそれを受けて国に対して申請するという仕組みが盛り込まれていましたが、この仕組みがそのまま被災地の復興特区法案でも踏襲されていました。 

何のことは無い、新成長戦略で定めた民間参入による規制緩和とTPPへの参加を、その後の3月11日に発生した大震災と原発事故の対策に、そのまま適用させようとするものであります。 

 これに気付いて愕然としました。国民生活が第一と言っていた政党が、今や、国際化と市場原理と規制緩和を標榜し、その仕組みを被災地に持ち込もうとしているのです。被災者が地域で復興計画を立てる、必要な規制緩和を国が準備する、そして必要な復興予算を交付するという、いかにも地域の合意でつくる計画と言いながら、民間事業者が参画し、誘導する。 

これでは、まちづくり三法で規制されている大規模店舗も外資によるリゾート開発も、被災者や市町村行政の意向で規制緩和して実施できることになります。被災地が本当に弱ってしまっており、被災者も自らの計画を出せない中で、国内外の民間投資企業の誘導に乗ってしまう開発になるのではないのか。 

これまで漁協が管理していた漁業権を、漁業者が議決権の過半を占めるという要件が付いているとはいえ民間の業者が加わった法人に認めることは、大規模スーパーマーケット等に養殖業をゆだねることになるのではないのか。 

 この危機感のもとに、13項目にわたる質問を、官房長官・復興担当大臣・農水大臣・国土交通大臣・地域活性化担当大臣(総務大臣)にぶつけました。

 演説の最後に、「私は、本会議場の皆さんと同じく、1日も早い復興を望んでおります。しかし、当法案が被災者の苦しみにこたえるのではなく、新成長戦略における国際競争力の強化のために被災地を改造しようとする狙いを持ったものであるならば、容易に賛成できません。 

未曽有の大災害と原発事故を考えるとき、当法案も、この国のあり方をどう描くのか、よくよく考えたものでなければならないのであります。」と締めくくりました。

 残念ながら、答弁は、おざなりでした。加えて平野復興担当大臣は、「国の内外を問わ民間の力を最大限発揮させる」「外国の活力を取り込んだ被災地の復興をはかる」「被災地をはじめ我が国に対する外国からの投資を促進する」と、その意図を隠しませんでした。私の危惧は当たりました。

 

転載終了

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               日本農業新聞12月6日

2011年12月 6日 (火)

東京農大後藤逸男教授によるゼオライトのセシウム吸着試験の驚異的結果

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東京農大後藤逸男教授の教室でなされたゼオライトのセシウム吸着のデータをご紹介します。 

福島県はあまり知られていませんが、世界1位のゼオライト産出地域です。ほぼ無尽蔵だとすら言われています。 

現在、さまざまな除去素材が登場していますが、いずれも一長一短であり、価格的にも高価なことが農業資材として利用する上でのネックとなっています。 

ファイトレメディエーション(除染植物)として、ウクライナやベラルーシでは大規模なひまわりの栽培が実施されましたが、それはかの地が元々ヒマワリ栽培が盛んであったことと無縁ではありません。 

チェルノブイリにはチェルノブイリの地質と伝統にあった除去方法があり、わが国にはまた独自なものがあるはずです。私は、福島に無尽蔵にあるゼオライト鉱物がそれに当たると思っています。 

ゼオライトは従来から土づくりに広く用いられてきました。それはゼオライト特有のキレート構造(*カニのハサミのように金属物質を分子構造にはさみこむ構造のこと)が、施肥分を沈下させることなくガッチリと土中につなぎ止め、また微生物の住処となるためです。 

特に施肥したものが沈下しやすく保水性が悪い砂地の土質の農地では土壌改良材として用いられてきました。 

このゼオライトが、現在放射能を結着し、作物に移転しない決め手として改めて注目されているのはご承知のとおりです。 

後藤教授教室での実験ではその驚異的とすらいえる吸着能力が分かります。Photo

上図によれば、40分程度での短い処理時間で、ほぼ完全にセシウムを補足してしまうことが分かりました。驚くべき速さと言えます。 

補足率の高さはほぼ100%であり、使用量と使用方法に誤りがなければ、確実なセシウム補足が得られます。 

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 また同じくセシウムを結着することができる粘土質の土壌に対比した場合、ゼオライトのほうが再び放射性物質の放出率が極めて少ないことが分かります。(下図参照) 

つまり、粘土質土壌においていったん放出されたセシウムをゼオライトが再び結着して完全に補足してしまうことができるわけです。 

これは粘土土壌がマイナス電荷によりプラス電荷のセシウムを電気的に結着することに対して、キレート構造により物理的に補足するからです。 

電気的吸着は時間が経過するに連れて弱まりますが、それを物理的に補完することがゼオライトには可能なわけです。 

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ゼオライトには数えきれないほどの種類があり、価格もキロ80円からウン百万円までありますが、下記の実験データで見る限り放出率に差か出るものの、補足率においてはほぼ同等の結果がでました。゛ 

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ただ唯一の欠点は、水田などの土壌と水が混濁した状態の場合は、セシウムの補足率は著しく落ちるので気をつけて下さい。 

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このように優秀なゼオライトは、10㎏800円から売られており、非常に安く入手できるために、その土地の土質、土壌成分などを知った上で利用すれば大きな効果が期待できます。

  

本資料は11月12日に開かれた「第23回全国土の会 神奈川大会」の資料を基にさせていただきました。ありがとうございます。

■写真 レンコンたんぼの夕暮れです。

2011年12月 5日 (月)

自然放射線について考えてみよう

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放射性物質は、考えてみればあたりまえなのですが、放射性ヨウ素と放射性セシウムだけではありません。 

セシウムという、今やわが国にとって放射能の代名詞のようになってしまった元素は、実は、原発事故由来だけではなく、なんと天然のボルックス石からも取れます。 

これがセシウム134というよくお聞きになる私たちの仇敵の隣にちょこんといる元素番号133のセシウム134(133CS)というヤツです。これは医療や工業用計測器などで幅広く使われています。 

他にもこのような天然界の放射性物質というのは多数あります。カリウム40とか炭素14などです。 

カリウム40は人体を60㎏として4000ベクレル、炭素14で2500ベクレル入っていると言われています。これらはあまねく地上に存在し、特に花崗岩に多く含まれています。だから花崗岩でできた国会議事堂の放射線量が高いのだそうです。(笑)。

花崗岩というのは別名を御影石といって高級石材です。 

ちなみに、国会議事堂外壁をシンチエーション・サーベイメータで測ると0.29マイクロシーベルトあります。地表から1メートルで0.18μSvです。 

福島市庁舎前地表1mで.0.17μSvですから、それより高い線量だといえるわけです。国会議員の皆様、低線量被曝と闘いながら、日々ご苦労様です(笑)。 

通年国会などという提案があるようですが、その場合の年間放射線量がどうなるかといえば、1年換算にするには「8.766」という係数をかけます。すると、2..54ミリシーベルト(mSv)となってしまいます。 

つまり政府が定めた「安全な被爆量は年間1ミリしーベルト」の限界を堂々と2.5倍超えてしまうことになります。 

被曝したくなかったら国会議事堂に行くのはやめましょう、というのはもちろん冗談で、現実には国会議事堂室内は外壁から厚いコンクリート壁や木材で遮蔽されているために.0.1μSvが実測値です。 

よかったですね、避難地域に完全装備で出向き、ゴム手袋をつけたまま村長たちと握手したような無神経な枝野さんなんかだと防護衣とマスクで登院しかねませんもんね。 

さて、これらの自然放射線は通常の人間の活動で取り込んでいるものであって、原発事故とはまったく関係ありません。 

とうぜん、食物の中にも入っています。有名なものではブラジル産ナッツのカリウム14は244ベクレル/㎏もあります。他にバナナ、ジャガイモ、インゲン、ナッツ類、ヒマワリなどが多いようです。 

心配してバナナを測定すると、空間線量が0.04μSvの室内で、バナナに測定器を接近させると0.06μSvに針がふれたそうで、0.02μSvがバナナ分ということになりますかね。 

毎日バナナを食べると、先ほどの年間被曝線量係数8.766をかけると、0.17μSvです。これをどう見るかですが、低線量被曝を恐れる方はバナナ・ダイエットは止めましょうね。もちろんこれも冗談です。 

それはさておき、人体にはカリウム40が100~200gほどあります。このうち放射性カリウム14の比率は0..012%ですので、これも年間にすると0.3ミリシーベルトの被曝量にカウントされます。 

くどいようですが、これは関西だろうが、沖縄だろうが出てしまう自然由来の放射線量です。原発事故とはまったく関係ありません。 

しかし、それにしても自然放射線量だけで、0.1ミリシーベルトの安全被爆量枠の約3割ですから、これをどう見るかは個人の判断にお任せします。 

では、このような自然放射線+原発由来の人工放射線を経口摂取してしまった場合どのようなことになるでしょうか。 

放射性物質の経口摂取量を知るには、食品のベクレルに実効放射線量係数をかけます。この係数が「0.000013」です。う~、ゼロが多くて老眼にはつらいよぉ(涙)。コンマ以下0が4ツです。

この実効放射線量というのが、内部被曝量です。人体の成長段階でも違いますので、子供はおおよそ3倍敏感だと考えて下さい。

仮に1000ベクレルある食品を100g摂取した場合を計算してみると、1000bq×0.000013×0.1㎏= 0.0013ミリシーベルトとなり、これに年間被爆量係数8.766をかけると、0.0113ミリシーベルトとなります。

これもまたどう考えるかは個人の判断にお任せします。

ただ、私たちは通常の市民生活をしている限り、宇宙からの放射線や地下の鉱物からの放射線、食品に含まれている自然放射線などさまざまな放射線の中に暮らしているのであって、それらから隔離されて生きるわけにはいかないということです。

国連科学委員会(UNSCEAR)2000年報告による知見では、以下の自然放射線被曝を受けています。

・体内に存在している自然放射性核種(カリウム40、炭素14)から受ける年間内部被爆量・・・約290マイクロシーベルト

・空気中に含まれているラドンから受ける年間被爆量・・・約1260マイクロシーベルト

・合計・・・・自然界から受ける年間被爆量・・・2400マイクロシーベルト(2.4ミリシーベルト)

・一日換算(8640h)・・・0.277マイクロシーベルト

この自然放射線量の年間被曝だけで、既に2.4ミリシーベルトであり、政府が安全だと定めた「年間被爆量1ミリシーベルト」を超えてしまっています。

おそらくは、この安全値の1ミリシーベルト以内とは、原子力事故由来だけをカウントするということなのでしょうが、現実に空間線量の測定においてはすべての核種の総量でしか測定ができません。

ひとつひとつの核種を特定することは精密機器によれば可能ですが、現実には自然核種のみを排除した測定は限りなく現実性に乏しいのです。

なんとなく不可知論になりそうなので、このあたりで止めますが、このように現実世界での被爆量測定と、それが受ける人体の内部被曝の影響は難しいのだ、ということを分かっていただけたでしょうか。

■写真 当地も紅葉まっさかりです!里山も一斉に色づいて爆発しそうです。 

2011年12月 4日 (日)

農業にとってのセシウム「処分」とは

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セシウム処分について続けます。あ、そうそう、その前になぜ私が「処分」という言い方をしているのかをご説明します。 

通常は「除染」という言い方をしますし、そのほうが通りがいいでしょう。しかし、この除染という言い方には落とし穴があって、「完全に放射性物質をクリーンに除去する」といったニュアンスがあります。 

そのほうが消費者にとってわかりやすいのは間違いないのですが、誤解を呼ぶ可能性があります。それは農地においてはかなり困難なことです。 

農地においての除染は農水省の飯館村除染実験にあるように、表土を剥ぐこと(削土)することがいちばん効果的だと言われています。過去記事で飯館村除染実験はレポートいたしましたので、そちらもご覧ください。
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2011/09/post-1f22.html 

これは一面の真実で、確かに地表下5㎝までに結着しているセシウムを除去するには、表土を削って捨ててしまうのがいいのは確かです。しかし、問題は農業が続けられなくなったらシャレになりません。 

何度か書いてきているのですが、削ればこのようなことになります。 

➊大規模土木工事並の手間とコストがかかる。
➋削った土の処分と保管が困難。
➌削ったままだと窪地になるので客土せねばならず、膨大な客土用土壌が必要となる。
➍元の沃土に再生するには膨大な堆肥が必要。
 

これについては過去記事を参照ください。
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2011/11/post-8835.html 

削土にはこのような大きな問題があるために、私は「除染」という言い方に疑問を持つようになりました。

念のために申し上げますが、私は宅地の庭、公共施設、学童たちの校庭などは削土するほうが適していると思っています。子供たちの放射性物質に対する感受性は大人よりはるかに高いからです。

また、避難区域のような高線量被曝地域においても削土するほうが適している場合もあると思っています。

私は自分が住む「低・中線量被曝地帯における農地のセシウム対策をテーマにしている」のだという限定の上で語っているのだ、とお考えください。さもないと、私がどこでも「耕せば大丈夫だ」と言っている、と誤解を受けてしまいます。(実際、先日にある人からそう言われてショックを受けましたので・・・。)

話を戻します。 

私たち農業にとって、セシウム対策のポイントは、要するに「植物に利用させない」ということです。セシウムの吸収を阻止すればいいのです。ここが通常の市街地などの「除染」と大きく異なるところです。

言い換えれば、私たち農業者は、「放射能汚染した作物を出さないことにより、消費者の安全・安心を保障する」という大目的があるわけです。私たち農業者はこの大目的に沿って発想し、実践します。

さて、お断りついでにもうひとつ。・・・今日はお断りが多いですな(汗)。

私はゼオライトのセシウム吸着効果があることを東京農大後藤教授の実験データなどから確認していますが、万能であってゼオライトを撒けば問題解決すると短絡的には思っていません。

というのは、後藤教授の実験も未だ実験室内でのデータであって、現実の農地においての検証データが揃っているわけではないからです。

つまり、残念ながら実践的に完全に実証されているとは言い難いのです。どの程度の量を、どのようにして散布し、どのような方法で撹拌すればいいのか、その結果がどのていど有効と判定されるのか、実証データが揃っていません。

たとえばひとつ例を上げれば、未耕起の農地にゼオライトを散布する場合、通常ならば散布してからロータリーをかけるところですが、この方法だと汚染していない非集積層と、汚染土が高い表土とが混和してしまうために、ゼオライトの吸着能力が万全に発揮されるとは言い難くなります。

そのためにはロータリーではなく、バーチカルハーローという垂直に耕耘できる機械で、超浅耕耘をしてみることも茨城大学の実験ほ場では進んでいます。
(知見と下図は茨城大学小松崎准教授によりました。ありがとうございます。)
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このように未だ明確に言い切れることと、できないことがあります。妙に確信を持って断言することを連発する人がいたら眉にツバをつけて聞いて下さい。その人はほんとうに科学的な実証データを持っているのかどうなのか疑って下さい。

正直に言って、未だ分からないことばかりです。ただ、対策の立て方が分かり始めたていどの段階なのだということです。

先日、私が放射能について消費者にお話をしたところ、ある人から「学者の受け売りはやめろ」と評されました。もし、研究者の知見を取り入れているということをして「受け売り」というのなら、そのとおりです。

しかし、今私たちが進めている農業者と研究者の協同が「受け売り」という言い方で切り捨てられるのなら、今の被曝した農地で生きる農業者の状況はなにひとつ変わらないでしょう。

私は自分の実践の中で壁に頭をぶつけるようにして、なにが正しいのか、間違っているとしたらなぜなのかを自分の目と頭を使って確かめながらこつこつと進んでいます。そのなかでお話していくつもりでいます。

■写真 アカトンボ(アキアカネ)は無条件で好きですね。

 

 

2011年12月 3日 (土)

セシウム処分の謎を解く

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あのおぞましい3・11から8か月たち、当初あった「謎の放射能物体X」といった状況から、敵がどのような物質なのか、そしてその弱点は何かということについてかなり分かって来るようになりました。

結論から言えば、放射性セシウムは万能でもなければ、最強の物質でもありません。放射性であるという点を除けば、自然界にあるフツーの(非放射性)セシウムと同じだと思ってもかまわないのです。

問題を煎じ詰めればこのように整理されるでしょう。

いったんフォールアウト(放射性降下)したセシウムがどのような挙動をしているのかです。これにはふたとおり考えられます。

➊表層土壌の鉱物質や腐植物質(*植物が発酵分解されてできる物質のこと)に結着して、とどまるケース。

➋表層土壌から溶解してより下の地層に沈下するケース。

私たちは経験上、当初は耕したか、耕さないかがこの原因だと考えていました。

➊耕起していない牧草地や畑地の場合・・・地表面から5㎝までに9割以上のセシウム層が存在する。

➋ロータリーで耕起した畑地の場合は、ほぼ均等にロータリー深度に均一化する。

・0~5㎝の地層・・・・約30%が存在
・5~10㎝    ・・・・約30%が存在
・10~15㎝   ・・・約30%弱が存在

●プラウ(鋤)で耕起した畑地の場合
・0~5㎝の地層・・・約30%が存在
・5~10㎝   ・・・約30%が存在
・10~15㎝  ・・・約30%が存在

しかし、ややっこしいことには、このような放射性物質が必ず土壌に均一化されるのかといえば違うことも分かってきました。

それは現実に測定してみると、ある地点では上記のような均一化がみられる反面、海岸に近い地域では15㎝を超えてより下の層までセシウムが沈降しているケースが見られたのです。

ここで、セシウムがどのような移行をするのか見てみましょう。想定できる可能性は4つです。

➊土壌にとどまる
➋植物に吸われる
➌土壌下層に沈降する
➍周辺の水系に流出する

➊の土壌にとどまるケースは、土質が粘土質(コロイド)である場合でした。

放射性セシウムは1価の陽イオンです。そのために土壌が負電荷だった場合、それと結着してしまいます。セシウムはプラス電荷ですから、粘土質や腐植物質のマイナス電荷と電気的にくっついてしまうわけです。

粘土質土壌がセシウムを結着していることがわかったのは朗報でしたが、まだ先がありました。というのは、私たちの地域はおしなべて関東ローム層という粘土質なのですが、ある畑の作物は検出限界以下なのにかかわらず、ある畑は検出してしまうのです。なぜでしょうか?

これがわかりませんでした。条件はほぼ同一なのにも関わらずです。

初め私たちはフォールアウト時の風向き、あるいは地形によるものと考えていたのですが、それだけでは説明できない事例が出てきたのです。

わずか数m離れた畑2枚の作物が違う数値の検出をしていた場合があったのです。ありですかね。数メートルで明暗を分けるなんて。

解決のヒントは、一方の畑が化学肥料と厩肥(豚糞尿)に頼った畑であったのに対して、片や堆肥をしっかりと入れ続けてきた有機農法の畑であったことです。

同一の土壌、同一の地理的条件、そして同一の耕起をしていたとしても、有機農法の畑にはあり、化学農法の畑にはない物質があり、逆に有機には存在せず、化学農法には存在する「あるもの」があったわけです。

判じ物みたいですいません。答えは、こうです。

機農法の畑にあり、化学農法の畑にはなかった「モノ」とは、腐植物質です。これは堆肥に多く含まれています。堆肥中の落ち葉や木屑などが発酵分解して出来る腐植物質は、微生物を多く含み土を豊かにします。

別に放射能対策で堆肥を入れていたわけではないのですが、この堆肥中の腐植物質がマイナス電荷で電気的にセシウムをくっつけてしまっていたのです。

では逆に有機農法に少なくて、化学農法の畑に大量にあったもの。それは家畜糞尿や化学肥料に含まれる硝酸態チッソ(NH4)でした。農家は作物の成長を早めたり、大きくしたりするために過度の硝酸態チッソを入れる人がいます。

この過度の硝酸態チッソは、アンモニウムイオン(NH4+)なために、粘土がせっかく吸着したセシウムを放出させてしまっていたのです。カリウム(K)も同じことをしてしまうことも分かってきました。

過度なアンモニウムイオンやカリウムによって粘土土壌から引き離されたセシウムは、植物(作物)の根から吸収されやすい遊離セシウムとなってしまっていたのでした。

これがわかった時には、有機農法というのは放射能対策としても非常に有効だという確信が持てました。

では、このように粘土から放出されてしまった遊離セシウムはどのようにもう一回何かにくっつけることが可能でしょうか?

あります。それがゼオライトという結晶性アルミノケイ酸塩の鉱物です。これは絶妙なサイズのキレート構造を持っています。

「キレート」という耳慣れない言葉は、元々はカニのハサミのことで、カニがチョッキンするように金属分子を鉱物の構造の中にはさみ込んでしまいます。しかもめでたいことには、そのゼオライトのキレートの隙間がセシウム分子とあつらえたように同一だったのです。

そのためにセシウムはゼオライトのキレートにスッポリとはまり込みますが、なんと無情にもこのキレートの裂け目は徐々に閉まっていきます。

ピタッと閉まったゼオライトのキレートは簡単に再び開くことがないために、これほどうってつけの「セシウムの牢獄」はないでしょう。

この物理的結着は、通常の粘土や腐植物質の電気的結着よりはるかに強固です。電気的結着は時間がたつと自然とセシウムを手放してしまいますが、物理的な結着、というか「封じ込め」は時間がたつにつれ強くなる傾向すらあるようです。

他のセシウムと親和性がある物質としては、フミン酸などがあり、今さまざまな実験が行われているところです。

長くなりました。土質と微生物が果たす役割については別稿とすることにします。

■本記事は茨城大学農学部小松崎将一先生のご教示によりました。ありがとうございました。文責は私にあります。

■写真 青空に向かってトンボが空をにらんでいました。

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<放射性セシウム>コメからの検出 福島市渡利地区でも 

毎日新聞 12月2日(金)21時14分配信 

 福島市と伊達市の一部地区のコメから国の暫定規制値(1キロ当たり500ベクレル)を超える放射性セシウムが検出された問題で、福島県は2日、福島市中心部に近い渡利地区の農家計3戸のコメも規制値を超え、最大で590ベクレルのセシウムを検出したと発表した。県は同地区を含む福島市東部の農家約400戸に対し、コメの出荷自粛を改めて要請した。

 渡利地区は10戸で規制値超えが確認された大波地区に隣接。今回規制値を超えた3戸は今年計65袋(2トン)を収穫したが、市場には流通していない。

 一方、大波地区の全袋調査は154戸計4752袋(142.6トン)のうち111戸2679袋(80.4トン)で完了し、新たに2戸で規制値を超えるセシウムを検出した。同地区で規制値を超えた農家は計12戸になったが、流通はしていない。

 JA新ふくしまの菅野孝志代表理事専務は「空間放射線量が高いことが分かっていた地域の(収穫前後の)検査は、サンプル数を増やすなどもっと配慮すべきだった」と話した。

2011年12月 2日 (金)

米国はTPPで輸出補助金が禁止になることを恐怖している!

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JAが米国の農業団体と意見交換した記録を見ると、意外なことには、米国の農業団体はTPPに熱心とはいえません。モンサントなどは大乗り気なのに対して、いささか引いた対応をしています。 

「ホント言うとやってほしくないんだよなぁ」といった感じです。その理由はすこぶる明瞭です。 

米国は、今まで自由貿易の旗手のような顔をしながら、実はトリッキーな手を使っていました。それが輸出補助金というやつです。 

これはたびたびWTOでもやり玉に上げられながらも、あのてこのてを使って1995年から2009年まで出された輸出補助金総額は、実に2452億ドル(22兆円)というのですからハンパじゃありません。 

これらは、米国が農業輸出の目玉としている、トウモロコシ、大豆、小麦、米、綿花に7割が投入され、それ以外にもピーナッツ、ソルダム、乳製品、キャノーラ(菜種)などにも支払われています。(資料1参照)

まさに日本と縁が深い作物ばかりです。残念ながら、米国産トウモロコシがなければ日本畜産は明日にも壊滅しますし、大豆がなければ醤油、味噌ができず、小麦がなければパンもケーキも焼けなくなります。 

これだけ偏ったシフトになっているので、米国の作柄に毎年日本の食卓は左右されることになりまます。もちろんリスク分散は考えてはいるのですが、なにせ安い。そして大量に確保できるというメリットのために米国に対する穀物一極依存はなかなか改まりません。 

安さの原因は輸出補助金なのですが、農作物に特有の天候異変で市場価格が上がったり下がったりすることで農業収益が低下することを防ぐ意味合いがあります。いわばセーフティ・ネットです。 

これには5種類の補助金枠があります。 

①直接支払制度(Direct Payments)・・・土地の価値を評価に対して農業者に直接支払らわれるタイプの補助金。年間約50億ドル。 

②CCP(Counter Cyclical Payments) ・・・うまい訳語が見当たりませんが、市場価格の低下による差損を補填するタイプの支払い。差損を補填することで、安価な農産物を輸出し続けることができるために、WTOで禁止されている輸出補助金に相当するとして国外からの強い批判を浴び続けている。 

③マーケティング・ローンの提供・・・農産物の販売のための農業ローンを提供しLDP(ローン不足払い)になった場合に差額を政府が補てんする仕組み。 

④ACRE(Average Crop Revenue  Election Program)  ・・・08年に登場した補助金枠で、価格、低収量収入の最低保証をする補助金。トウモロコシ、大豆生産者の全部が加盟していると言われる。 

⑤作物保険 作物保険加入にあたっての政府補助金 ・・・農業共済加入に対して与えられる補助金枠。 

至れり尽くせりですな。補助金漬けと揶揄されている日本の農業補助金など可愛らしいものです。おそらくTPP交渉では間違いなく日本が言わずともオーストラリアやNZあたりからの猛攻撃に合うことは避けられないでしょうね。 

特に②のCCPはひどい。もしこれが日本のコメならば、天候不順で収量が低下したり、品質が悪いために市場価格が下がったら、その差損を政府が埋めてくれるということになります。 

日本のコメは世界に冠たる高関税がありますが、これがあまりにも見え透いてバッシングの対象になりやすいのに対して、さすがは自由貿易の旗手、やることがまことに卑怯というか、シブイ。 

実は米国の穀物は、熱波や洪水で年がら年中作柄が変化しています。こうまでよくやられるのを見ていると、米国農地や治水は相当にダメになっているなぁ、というのが私の感想です。

化学肥料と農薬一本で突っ走ってきた世界の穀倉は、間違いなく疲弊しきっているように見えます。これによる作柄変動に税金をぶっ込んでやっとのことで安定した輸出を続けているというのが米国農業ではないでしょうか。

ですから今や、外すに外せない竹馬と化してしまっているのが輸出補助金制度なのです。 

しかも受給者が大規模アグリビジネスに偏っていることが、米国内部でも問題となっています。 

たとえば受給者第3位のDnrc Trust Land Managemenだけで、09年に政府から受け取った補助金がな~んと290万ドル(約2億3千万円)。おそらく日本の農家でこれだけ一年でもらってしまっては国会喚問ものです。もはやギネス級といえましょう。 

輸出補助金第2位の綿花の場合、1999年から2005年の6年間に投入された補助金が実に180億ドル(1.4兆円!)と、綿花だけで農家戸別補償の総枠丸ごとが注ぎ込まれているわけです。 

ここまで巨額な補助金はもはや農家支援という次元ではなく、市場価格の86%までもが補助金だという凄まじさです。私たち日本人は、米国の納税者の金を食卓に乗せていたわげですね(苦笑)。 

このような9割までもが補助金での市場価格支持政策となると、他の輸出国も黙っているはずがなく、ブラジルが綿花でWTOに提訴し勝訴しています。しかし米国の対応は、次期農業法が決まる2012年まで棚上げとなっています。 

また、この受給者は上位1割に偏っており、この上位だけで補助金の74%を独占しています。家族経営者の8割の平均受給額は、たったの579ドル(4万6千円)というのですからよその国のことながら、バカにするのもいいかげんにせぇよ、と言いたくなります。

まさに富んだ者は更に富み、貧しい者はいっそう貧しくなるという格差社会。ウォールストリートを占拠したくなる気持ちは分かります。

この上位受給者は、農家というよりアグリビシネスであり、オーナー一族は土に触ったことなどない億万長者であるわけですが、それに対してのみに集中した農業補助金という仕組みのあり方は、国際競争力を強化する反面、建国以来の伝統的な家族経営層を切り捨てていっているようです。 

このように見てくると、米国の農業界は輸出補助金という竹馬を外されれば、即座に世界最大の食料輸出国から転落しかねない危うい構造を持っているために、これが攻撃の対象となることが必至のTPPは好ましくないと思われます。

笑える話ですが、仮にTPP体制となった場合日本は、例のISD条項を使って米国の輸出補助金を徹底的に禁止させるべきでしょう。

その前にまずは、TPP阻止に向けて全中は米国農業界と連帯したらいかがでしょうか。

書き漏らしましたが、民主党の農家戸別所得補償政策もCCPと似た趣旨ですので、TPP交渉では針のムシロとなって存続は難しいでしょうね。

               ゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。

資料1

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2011年12月 1日 (木)

減反とTPPをシミュレートする

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日本の農政には、ひとつの大きな流れがあります。 

それは戦前から脈々としてある小農保護主義の流れです。小農とは小規模農家のことですが、今はほとんどが兼業農家となってしまっています。 

まぁ要するに、規模的に換金力が弱くて農業だけでは食えないところに持ってきて、70年代から始まった減反政策によってそれが決定的となりました。 

減反政策は、戸別ではなく集落に対して「はい、あんたの地区は36%ね」、という具合に地域に対してかけられてきますから、逃げようがないわけです。大きくは県、そして地方自治体、地域というふうに網の目はそれは細かくできています。 

いったん減反をかけられると、目標に達するだけしか作れなくなります。たとえば36%減反といえば、自分の水田の64%で耕作するか、それ以上作っても飼料米か、米粉にするしかなくなるのです。 

飼料米がもてはやされていますが、あれは投入された多額の税金を消費者が別な形で食べているようなものです。つまり、消費者からすれば一回広く薄く税金で負担した後に、代金としてまた支払うという二重の負担構造になっています。 

これを「お米を食べて自給率を守ろう」という聞こえのいいキャッチフレーズで大々的にやるのはいかがなものかと思いますが、まぁいいか。 

いずれにせよ、本気になればおそらく自給率150%はできてしまうコメを、700%を超える高い関税と、無理やり海外のアブナイMA米まで大量に買い込んでまで維持しようとしているわけです。 

農水省は減反政策は始めた当初は、生産制限をかけてしまえば、小規模農家は農地を貸して町に働きに行くだろうと予測したようです。 

後半はそのとおりになりました。確かに食えないので町に働きに行くようになりました。 

しかし、土地は大規模化したい農家に貸すようになったのか、といえば、これが違ったんですね。小規模で転作奨励金をもらって減反制度に守られたまま農地を手放さなかったのです。

だから農水省が心秘かに期待していた「農地の集積」は起きなかったのです。農家は転作奨励をもらって兼業化してしまいました。 

せいぜいが5反歩かそこらの水田を土日に耕してはいるが、本業は町の公務員だったり勤め人だったりする階層です。 

これが今の日本農業を難しくさせている兼業農家がマスで存在しているワケです。 

このマスで存在している兼業農家階層は、農業関係からくる収入はおおよそコメから来ています。米価が低迷しようと、一定の買い上げ価格が補償される減反制度に守られていると言ってもいいでしょう。 

減反制度と米の高関税、そしてそれにより保護されている兼業農家階層は、実は一体のものなのです。 

今、TPPが問題となっていますが、これが農業界にとって簡単に受け入れがたい理由はこの「減反-高関税-兼業農家層」という長年作ってきてしまった構造を一朝一夕に変えるのが難しいからです。 

農水省が試算するTPPをやったら13%にまで自給率は落ちるというのは、失礼ながら言い過ぎというものですが、一面の真実は含んでいます。ちょっとシミュレートしてみます。 

TPPになればまちがいなくコメの高関税は廃止されることになるでしょう。TPP交渉であんな馬鹿げた高関税が生き残れると夢想するほうがおかしいからです。ネガティブリストに入れることもそうとうに難しいと思われます。

それと引き換えに米国の輸出補助金もペケになるでしょうから、日米農業界は相討ちとなるかもしれません。ただ、米国からの輸入飼料は輸出補助金がはずれて、その分高くなりますから、日本畜産のほうのダメージのほうが大きいかもしれませんが。 

高関税がはずれると、当初は日本市場に参入できるコメは加州米くらいでしょうから、参入量からみて、影響は限定的です。 

しかし、本格参入が始まる5~10年後先にはどうなるか予測がつきません。おそらく日本商社が優良な日本の種子を外国に持っていき、生産管理をきっちりやった米が登場してくる可能性は否定できません。 

そうなった場合、日本のコメは有史以来初めての国際競争に立たされることになります。 

一方、TPP体制下では減反制度などはありえませんから、国家生産カルテルがなくなり完全にフリーな生産となります。 

市場価格は、日本の消費市場に参入可能な加州米などは一斉に日本に向かった結果、ジャポニカ米の国際市場価格は上がります。 

日本の消費市場からすれば、いったんは下がってから、国際市場価格が品薄となってキックバックするという乱高下に見舞われるでしょう。 

このような状況で兼業農家層があえてコメをやる理由はありません。先祖から受け継いだ土地に草を生やさないようにして、地代をもらえればいいのですから。 

ここに日本の農地の流動化という前代未聞の状況が生まれます。未来を信じられなくなった兼業農家層を食い止めるのはいかにJAをしても難しいでしょう。

この兼業農家から放出される余った水田は膨大な量になるはずです。農地を手放すことは現行では農業委員会の規制があるので簡単ではありませんが、゛TPP体制下では雪崩のように進むことでしょう。  

農地の激安化、兼業農家層の離農といった状況が出る可能性は高いと思われます。  

そして残念なことには、TPP体制下に対応する対策を現行の日本農政は準備していません。  

本来は4h以上に対してのみに税金の投入を制限する4品目横断政策や、山間地農業の集落法人化事業などがTPP対策として進行していれば、どうにか10年ほどの再編準備期間が用意できたのです。  

しかし民主党が薄く広くカネをバラ撒く農家所得戸別補償制度という兼業農家優遇政策をとってしまったために振り出しに戻ってしまいました。 

おまけに、自分が自民党農政否定として打ち出した農家戸別所得保障を真っ向から否定する「包括的経済連携に関する基本方針」を、そのわずか半年後の10年11月に出してくるという迷走大会を演じます。

選挙で票さえ入れれば、農業は用済みだということのようです。分かりやすくていいですが、結婚詐欺師みたいですね(苦笑)。 

民主党政権の酒乱酩酊ぶりは年中行事なのでさておいて、TPPを前にしてこの数年のロスは大きかったですね。 

かくて、なんの準備もなくわが国の農業はTPPにさらされることになりました。

おそらくは外国資本による、激安となった日本農地の買い占めと企業農業化が進行すると思われます。これについては一度スケッチしてみましたのでそちらもご覧ください。
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2011/11/post-1bd4.html

■写真 霞ヶ浦の波止場。子供が堤防で遊んでいました。クリックすると大きくなります。

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