セシウム除去のポイント アンモニウムやカリウムはゼオライトの働きを阻害する
ひとつは、セシウムを何かに結着させる場合、「補足する」することと、「放出する」ことにわけて考えねばなりません。
補足するというのは、土中のかなりのものが、多かれ少なかれやっていることがわかり私たち農業者をほっとさせました。
たとえば、粘土質土壌はプラス電荷をもって、マイナス電荷のセシウムを結着します。あるいは堆肥として入れた木質や落ち葉が発酵分解してできる腐植物質も同じような作用があります。
地虫やそれ以下のサイズの土壌微生物、バクテリアすらも体内に吸収します。ちなみにこの土壌生物群は特別な研究室で開発した対セシウムのエリート微生物ではなく、そこいらにある枯草菌とかミミズの類です。
粘土質土壌などは短時間にほぼ100%近い補足率があります。下のグラフの横軸S1からS22までは土壌です。すべてに高い補足率があることがわかります。
(下記資料参照 後藤逸男教授の発表によりました。ありがとうございます。)
このように高い補足率を持つ粘土質ですが、難点があります。セシウム放出率が高いことです。上グラフのオレンジ色の棒を見て下さい。ゼオライト(左端から3ツまで)が、いちばん悪い放出率でも40%なのに対して、土壌では80%~100%に近い放出率に達するものも多くあります。
つまり、セシウムをよくくっつけるのですが、すぐに手放してしまうのです。これが土壌のセシウム結着の特徴です。その原因は、土壌の電気的結着というのは時間がたつと急速に弱まるからです。
また土壌微生物も、パクパクとよくセシウムを食ってくれるのですが(別に好物というわけではなく、食べる土に入っているからだけの話ですが)、その「分解・代謝によって吸着と放出が繰り返され、環境中に放出されることも高い」とされています。(小松崎准教授の知見による。)
ゼオライトはこの土壌、土壌微生物の欠点である放出率の高さを補う鉱物です。
「そのメカニズムは、ゼオライト構造上に、(セシウム)イオンとほぼ同じ大きさのトンネルような細孔を持つためで、(略)それらの細孔にはまり込むことにより補足される」(後藤逸男教授の発表による。)
ただし、ゼオライトとても永遠にセシウムを結着しているわけではありません。
そこで第2のポイントが出ます。
それがアンモニウム・イオンとカリウム・イオンの存在です。ゼオライトという鉱物が農業界で注目を浴びたのは、今まで猫のトイレ消臭ていどの利用価値しかないと思われていたゼオライトが、実は過剰なアンモニウムやカリウムを結着してしまうためにバランスのいい土づくりに役に立つことがわかったからです。
ということは、せっかくゼオライトがセシウムを閉じ込めても、他から強いプラスイオンのアンモニウムやカリウムがやって来た場合、イオン交換反応により脱着してしまうのです。
アンモニウム・イオンは硝酸態チッソのような形で土壌にありますが、硝酸態チッソは、チッソ分が分解して植物に吸収する過程で生まれます。過剰になると健康に障害がでることでも知られています。
要するに生育を早めよう、大きくしようということで大量にチッソを使った結末が硝酸態チッソを生み出しているといっていいでしょう。
同じようにカリウム・イオンも、実なりをよくするために使用されます。この両者とも、化学肥料に大量に含まれています。
この両者が過剰に土中にあった場合、ゼオライトはセシウムを手放してしまい、代わりにアンモニウム・イオンやカリウム・イオンをひっ捕まえるということになってしまうのです。
ですから、セシウム補足をまとめればこのようになります。
➊土壌の質をよく知る。粘土質か砂質か、黒ぼくか。
➋堆肥の質と利用状況を知る。腐植物質を利用しているかどうか。家畜糞尿やチッソ・カリ肥料をやりすぎていないか。
➌以上の限界を知った上で、ゼオライトを散布して土壌が手放したセシウムを吸わせる。
➍過剰なカリウムやチッソはゼオライトの効果を薄めるので控えめにすること。
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コメント
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ゼオライトやベントナイトは東北の山でそこら辺を掘ればいくらでも採れます。安価なものです。
これを有効利用しない手はないでしょう。
また、事故後初期にセシウムの吸着を押さえるためにカリウムの多めの投与が有効とされてましたが、ゼオライトがより有効で、特に最近の良食味の米ではカリウムを最低限近くに減らして栽培している面からも期待できます。
インディゴブルーも極めて高いセシウム吸着能力と、カリウムがあってもセシウムを選択吸着するという優れた特性が見られますが、ネックは価格と大量安定供給。
また、どちらにしても「水溶液」状態では高い効果があるものの、すでに土壌と強く結着したものを直ちに奪い取るわけではありません。長い時間かければ結果も変わりましょうけど。
ここはやはり、ホットスポットをしらみ潰しに当たって炙り出し、必要に応じてどんどんゼオライト投入。土質や栄養価など状況に合わせてインディゴブルー併用…といった形で進めるのが現実的だと思います。
投稿: 山形 | 2011年12月 9日 (金) 10時05分
連投すいません。
有機農業サイクルのキモである堆肥、かなり高い稲藁も漉き込んで良いとのお達しが国からありましたが、堆肥熟成の間にゼオライトを入れるとどうなるのか興味があります。
少なくとも「悪さ」はしないでしょうが、例えば熟成が遅れたり…吸着効率を最大に高める投入量なんかも分かりませんね。
投稿: 山形 | 2011年12月 9日 (金) 10時13分
3連投失礼&お詫びと訂正
×インディゴブルー
〇プルシャンブルー
でした(汗)
すいません。私のボーンヘッドです。
投稿: 山形 | 2011年12月 9日 (金) 10時20分
とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。
投稿: 履歴書のポイント | 2012年1月 8日 (日) 10時37分