自然放射線について考えてみよう
放射性物質は、考えてみればあたりまえなのですが、放射性ヨウ素と放射性セシウムだけではありません。
セシウムという、今やわが国にとって放射能の代名詞のようになってしまった元素は、実は、原発事故由来だけではなく、なんと天然のボルックス石からも取れます。
これがセシウム134というよくお聞きになる私たちの仇敵の隣にちょこんといる元素番号133のセシウム134(133CS)というヤツです。これは医療や工業用計測器などで幅広く使われています。
他にもこのような天然界の放射性物質というのは多数あります。カリウム40とか炭素14などです。
カリウム40は人体を60㎏として4000ベクレル、炭素14で2500ベクレル入っていると言われています。これらはあまねく地上に存在し、特に花崗岩に多く含まれています。だから花崗岩でできた国会議事堂の放射線量が高いのだそうです。(笑)。
花崗岩というのは別名を御影石といって高級石材です。
ちなみに、国会議事堂外壁をシンチエーション・サーベイメータで測ると0.29マイクロシーベルトあります。地表から1メートルで0.18μSvです。
福島市庁舎前地表1mで.0.17μSvですから、それより高い線量だといえるわけです。国会議員の皆様、低線量被曝と闘いながら、日々ご苦労様です(笑)。
通年国会などという提案があるようですが、その場合の年間放射線量がどうなるかといえば、1年換算にするには「8.766」という係数をかけます。すると、2..54ミリシーベルト(mSv)となってしまいます。
つまり政府が定めた「安全な被爆量は年間1ミリしーベルト」の限界を堂々と2.5倍超えてしまうことになります。
被曝したくなかったら国会議事堂に行くのはやめましょう、というのはもちろん冗談で、現実には国会議事堂室内は外壁から厚いコンクリート壁や木材で遮蔽されているために.0.1μSvが実測値です。
よかったですね、避難地域に完全装備で出向き、ゴム手袋をつけたまま村長たちと握手したような無神経な枝野さんなんかだと防護衣とマスクで登院しかねませんもんね。
さて、これらの自然放射線は通常の人間の活動で取り込んでいるものであって、原発事故とはまったく関係ありません。
とうぜん、食物の中にも入っています。有名なものではブラジル産ナッツのカリウム14は244ベクレル/㎏もあります。他にバナナ、ジャガイモ、インゲン、ナッツ類、ヒマワリなどが多いようです。
心配してバナナを測定すると、空間線量が0.04μSvの室内で、バナナに測定器を接近させると0.06μSvに針がふれたそうで、0.02μSvがバナナ分ということになりますかね。
毎日バナナを食べると、先ほどの年間被曝線量係数8.766をかけると、0.17μSvです。これをどう見るかですが、低線量被曝を恐れる方はバナナ・ダイエットは止めましょうね。もちろんこれも冗談です。
それはさておき、人体にはカリウム40が100~200gほどあります。このうち放射性カリウム14の比率は0..012%ですので、これも年間にすると0.3ミリシーベルトの被曝量にカウントされます。
くどいようですが、これは関西だろうが、沖縄だろうが出てしまう自然由来の放射線量です。原発事故とはまったく関係ありません。
しかし、それにしても自然放射線量だけで、0.1ミリシーベルトの安全被爆量枠の約3割ですから、これをどう見るかは個人の判断にお任せします。
では、このような自然放射線+原発由来の人工放射線を経口摂取してしまった場合どのようなことになるでしょうか。
放射性物質の経口摂取量を知るには、食品のベクレルに実効放射線量係数をかけます。この係数が「0.000013」です。う~、ゼロが多くて老眼にはつらいよぉ(涙)。コンマ以下0が4ツです。
この実効放射線量というのが、内部被曝量です。人体の成長段階でも違いますので、子供はおおよそ3倍敏感だと考えて下さい。
仮に1000ベクレルある食品を100g摂取した場合を計算してみると、1000bq×0.000013×0.1㎏= 0.0013ミリシーベルトとなり、これに年間被爆量係数8.766をかけると、0.0113ミリシーベルトとなります。
これもまたどう考えるかは個人の判断にお任せします。
ただ、私たちは通常の市民生活をしている限り、宇宙からの放射線や地下の鉱物からの放射線、食品に含まれている自然放射線などさまざまな放射線の中に暮らしているのであって、それらから隔離されて生きるわけにはいかないということです。
国連科学委員会(UNSCEAR)2000年報告による知見では、以下の自然放射線被曝を受けています。
・体内に存在している自然放射性核種(カリウム40、炭素14)から受ける年間内部被爆量・・・約290マイクロシーベルト
・空気中に含まれているラドンから受ける年間被爆量・・・約1260マイクロシーベルト
・合計・・・・自然界から受ける年間被爆量・・・2400マイクロシーベルト(2.4ミリシーベルト)
・一日換算(8640h)・・・0.277マイクロシーベルト
この自然放射線量の年間被曝だけで、既に2.4ミリシーベルトであり、政府が安全だと定めた「年間被爆量1ミリシーベルト」を超えてしまっています。
おそらくは、この安全値の1ミリシーベルト以内とは、原子力事故由来だけをカウントするということなのでしょうが、現実に空間線量の測定においてはすべての核種の総量でしか測定ができません。
ひとつひとつの核種を特定することは精密機器によれば可能ですが、現実には自然核種のみを排除した測定は限りなく現実性に乏しいのです。
なんとなく不可知論になりそうなので、このあたりで止めますが、このように現実世界での被爆量測定と、それが受ける人体の内部被曝の影響は難しいのだ、ということを分かっていただけたでしょうか。
■写真 当地も紅葉まっさかりです!里山も一斉に色づいて爆発しそうです。
« 農業にとってのセシウム「処分」とは | トップページ | 東京農大後藤逸男教授によるゼオライトのセシウム吸着試験の驚異的結果 »
「原子力事故」カテゴリの記事
- 福島にはもう住めない、行くなと言った人々は自然の浄化力を知らなかった(2019.03.11)
- トリチウムは国際条約に沿って海洋放出するべきです(2018.09.04)
- 広島高裁判決に従えばすべての科学文明は全否定されてしまう(2017.12.15)
- 日本学術会議 「9.1報告」の画期的意義(2017.09.23)
- 福島事故後1年目 大震災に耐えた東日本の社会は崩壊しかかっていた(2017.03.16)
コメント
« 農業にとってのセシウム「処分」とは | トップページ | 東京農大後藤逸男教授によるゼオライトのセシウム吸着試験の驚異的結果 »
お久しぶりです。
最近妻の父が他界しました。肺がんから転移した脳腫瘍が死因でした。
本日のテーマとはかけ離れておりますが、義父の死で感じた事が有りましたのでコメントさせて頂きます。
私の父方の祖母、曾祖母は痴呆も無いまま100前後に老衰で他界しましたが父方の祖父は白血病で他界し、また、父方の伯父、伯母も肺がん、乳がんなどを患い他界しています。
その事から、私も妻も遺伝的に癌のリスクを持っていると推測して差し支えないでしょう。
と言う事は、極論になりますが、私たち夫婦は子供にも遺伝的な癌のリスクを与えてこの世に送り出してしまった事になる訳です。
ノーリスク的に言ってしまえばとんでもない状況ですね。
ですが過度に癌を心配すれば心を病んで「健全な生活」から外れてしまい、返ってストレスから癌を発症するとか本末転倒な事にもなりかねないですし、私の祖父や伯父達が癌で他界した時代と違い今日本では癌は早期発見できれば死につながらない病になりつつあります。
私の子供たちが、私か妻か本人か何れかの癌と向き合わなければならなくなるのはほぼ確実ですが、今から悲観するのはあまりにもばかばかしいですね。
放射線やらは数多ある発がん性危険因子の一つにすぎませんし、自分たちの子供が成人する頃の医学はもっと進んでいるでしょうから。
投稿: 種子 | 2011年12月 5日 (月) 10時50分
あまり話題になりませんが、過去の核実験由来の放射性物質として、鉛-210 というのもあります。
http://www.ies.or.jp/japanese/mini/mini100_pdf/2006-04.pdf
http://cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/14.html
によると、
「年間被曝線量は、骨髄で0.14ミリシーベルト、骨表面で0.7ミリシーベルト」
(注:全身へのSvとは数字の意味が違うので、それほど大きな影響ではありません。)
日本の農地土壌には、数十Bq/kg程度含まれています。
https://twitter.com/#!/joejoeu/status/140476248471252993/photo/1
投稿: コンタン | 2011年12月 5日 (月) 11時30分
↑(訂正)鉛-210は、核実験由来ではなく天然ウラン由来のものがほとんどです。
投稿: コンタン | 2011年12月 5日 (月) 11時33分