関税で保護されるにはわけがあると言い切るために、おかしな関税は変えよう
昨日あたりの記事を書いていると、私は関税撤廃論者なのではないかと勘違いされそうです。
違います。私は関税は重要な国家主権の一部であると思っていますから、関税主権そのものには反対していません。
複雑で奇怪な関税制度はやめて、すべての品目を牛、鶏肉などのようなシンプルに輸入価格に上乗せされる「従価税」方式にしたらどうか、と言っているのです。
この方式ならば透明性があります。誰が見てもこの輸入価格にこれだけ関税が乗っているのだと理解できます。
豚肉などは、恣意的な線で差額関税のラインを引いたために安い肉と高い肉を混ぜて輸入するコンビネーション輸入が生じてしまい、国産豚肉を圧迫する結果となってしまいました。
豚肉関税については過去記事をご覧ください。
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2011/01/post-6b58-1.html
また小麦は、国が独占的に国際市場からは無関税で購入しておきながら、17000円/トンの国家マージンをかけて民間にお下げ渡ししているために国際市場価格の倍の価格につり上がってしまいました。
いや、正確には小麦は250%の関税がかけられています。小麦のような麺類、パンなどで膨大な量を消費する穀物ですから、2.5倍は痛いわけです。
そこで国は、それよりやや安い17000円/トンを提示して国家貿易品を半強制的に買わせるという仕組みを作っています。
こんな農家の私が見てもおかしな関税のかけ方をするために、今や国民的な議論になったTPP関税論議で、農業に対して「世界一の高関税だ」とか、「日本農家ほど過保護な者はない」などという俗論がまかり通ってしまいました。
この日本農業「高関税」論は、兼業農家の高齢化だけを取り出して意欲ある農家を見ないような「日本農業あと10年でおしまい」論と並んで双璧をなしています。
省益や天下り団体が栄えるようなおかしな関税のかけ方を改めてスッキリとした従価税にし、かけられる目的を国民に広く宣伝することが必要です。
北海道の酪農は加工業-流通まで含んだ大きなすそ野を持つ地域全体の基幹産業だから保護せねばならず、離島のサトウキビや山あいのコンニャクは人口の減少に苦しむ山間地支援だから必要なのです。
そして、魚介類に対する関税は、日本の漁業を守ることが日本の海を守ることに繋がるからです。
関税で保護されるにはわけがあり、保護することが国益なのだということを明解に言い切るためには、歪な現在の関税制度を変えていかねばばなりません。
■写真 午後の陽に輝く霞ヶ浦の湖面。中央の箱のような建物は、内水面試験場の養殖用の餌や機械を入れるハウスです。
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コメント
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はいっ!私もそう思います。
時代遅れも甚だしい複雑怪奇・魑魅魍魎の巣食うようなシステムは、解消・解体されてしかるべきです。
今まで、そういった法人でやっつけ仕事の事務をやってた方々には、それこそ野に下って土地を耕すか加工場などでそれなりの時給で働いてもらえばいいこと。もちろん年金も一元化で。
その上で、離島のような地域的産業保護として守るべきものは、国の主権に於て守るべきです。
また一方で、TPP脅威の真正面にあるアメリカ合衆国の「輸出奨励金」のような保護システムは徹底的に糾弾されてしかるべきです。
テレビに出てくるような有名な学者が、何で誰もその辺を追及しないのか不思議で不自然です。当のアメリカでさえ戦費拡大で国家財政の赤字が大問題になってるのに…。
そんなこと分かってる農業経済学者なんて、日本中にたくさんいるはずなんですがねぇ…。
こと利権絡みとなると、改革なんて難しいという雛型になってますね。
「高い関税に保護されてる日本の農業は悪だ!」
といった、矮小化・単純化する意見や報道をよく見かけますが、激しい違和感を感じます。
投稿: 山形 | 2012年1月11日 (水) 11時01分
昨日から福島に来ています。北海道十勝より暖かいだろう・・・なんて夏用スーツにコート無しで来ましたが、福島の寒さを「なめて」いました。到着時は雪がちらついていましたし、風も中々の冷たさでした。
被害が大きい東部地区の気温は分かりませんが、仮設住宅の断熱次第ではご苦労があると思います。
本日の記事にある「関税」ですが、濱田様の仰る通り誰にも分かりやすく説明しやすいシステムにする事は必要です。理解されていないからTPP関連でも農業が全ての障害(悪者)となっているかのように理解されてしまいます。
業界内に数十年いる私ですら良くわからないシステムですから、現システムを理解するのは困難だと思っています。
コメは言うに及ばず、小麦・砂糖・乳製品・牛肉豚肉其々に其々のシステムが存在します。
役員や職員の給料については業務の中身にもよりますから、一概に高い・安いは言えませんが、一般的なサラリーマン(ウーマン)と比較すると、福利厚生を含めて恵まれているとは感じています。
ただ、年間○億円以上も稼いでいると思われる、朝○バットの「みの○○た」やニュース○○ーションの「古舘○○朗」等MCが言っても説得力に欠ける気がしています。
投稿: 北海道 | 2012年1月12日 (木) 08時47分