原発事故。 真実の青い鳥は横にいた
昨日、つくば市の蝋梅が咲く学園でお話をさせていただきました。蝋梅ってご存じですか。
それは可憐な花と、えも言われぬ芳香があります。これが一輪室内にあるだけで気持ちが安らぎます。実はジャムやお酒にもなります。
さて、90分間の講演のテーマは、あえてしんどい「放射能と農業」を選びました。
われながらこの重いテーマをよく90分間でまとめたものです。枝葉に入ったらそれだけで出てこれません。真面目にレジュメと資料集も作りました。
学生諸君たちは、ほとんどが知らない内容だったようで、それなりに関心をもっていただいたのかなと思っています。
私の講演は、この放射能事故について日本にはだれひとり「専門家」などいなかったのだ、ということから語り始めました。
今、10か月たつとなんでも言えます。あの時ああしたらよかった、こうすべきだった。しかし、あの3月12日、そして3月15日にそれを知っていた者が何人日本にいたのか、です。いや、世界でもかまいません。
いやしません。人類は、福島第1原発事故規模のシビアアクシデントはチェルノブイリしか経験していないからです。
そしてチェルノブイリの事故の様態、置かれた地形、放射性物質がフォールアウトした地形、土壌の地質、そして政治形態などすべてが違っていました。
日本の専門家は研究所内部の放射能汚染ていどの知識しかなく、放射線医療関係者もICRP(国際放射線防護委員会)基準ていどの回答しかできない、それが現状でした。
彼らがいかにICRP基準にそって、「100ミリシーベルト以下の被曝は問題がない」と力説しても、政府の情報隠蔽に不信を募らせていた国民は聞く耳をもちませんでした。
放射能雲の通過を知りながら、その通過地域になんの警告も発しなかった政府がなにを言おうと誰が信じるものですか。
まして、もっとも多くの被曝地帯を抱えることになった農業の放射能の専門家などはいませんでした。
当初日本土壌学会ですら、放射性物質が拡散するから耕耘するな、削土するしかない、という見解を述べていたのでした。
国家のシンクタンクでもあるはずの官僚集団は、「政治主導」を恐れて余計なことはしないというヒラメ状態で、すべてが手遅れ、手抜かり、不作為の山を築きました。
初動の出荷規制の失敗、計測の著しい遅れ、警報の遅れ、牧草からの全国への拡散・・・思い出せば、歯ぎしりしたくなるような失敗の連続でした。
叩かれるのは常に農業者のみ、官僚と東電は知らぬ顔。これがこの10か月でした。
この中で私たち農業者は、「経験に学ぶ」しかないと思い定めました。自ら身近の田畑を測り、データを集積し、ネットで情報を集めて検討しました。
その中で、唯一地元大学農学部の教員の皆様たちが立ち上がって私たちを支えていただきました。本当にありがたい支援でした。
心の中で手を合わせました。彼らこそ本物の「専門家」でした。
地元大学の先生たちは福島現地にも足を運び、多くの計測とデータ集積をされてきました。その分析結果が出始めたのが去年夏ごろからです。
このデータ集積と分析から、ホットポイントには必ず一定の法則性があることが分かるようになったのは大きな光明でした。
ここをフレークスルーすることで、一挙に「セシウムの天敵」が浮かび上がりました。
それが東日本に多い粘土土壌であり、有機農業を特徴づける堆肥=腐植物質の存在であり、それと共生する土中生物、微生物群でした。
そして決め手は、私たちが除染資材とは知らずに長年土質改良材として使用してきたゼオライトでした。
それらがセシウムを電気的に、あるいは物理的にセシウムを捕捉し封じ込めるのです。まさに今まで私たち農業者が営々と行ってきた「耕す」、「土を作る」という営みそのものでした。
メーテルリンクの青い鳥のように、真実は私たちのすぐ横にあったのです!
私は今や、放射能は万能ではない。地上最強でもなく、放射能が地上の存在である以上、必ず「天敵」がある、と思っています。
放射能は手強い敵ではあるが、不必要におそれる必要はなく、今までの農業のやり方に自信を持って対処していけば、必ず減少していきます。
絶望ではなく、希望を、怒りではなく平穏をもって彼ら放射能というマレビトと対応することです。
この一見なんの変哲もないような認識に辿り着くまで実に10カ月間かかりました。今でもなんだそんなこと分かりきったことだよ、したり顔で言う者もいます。
それは結論を知っているから言えることです。あの忌まわしい2011年3月12日、15日の時点でそれを知っていた人間は地上にはいなかったのですから。
「専門家」などおらず、いたのは負けてたまるかと思う農家と、それと誠実に向き合ったごく少数の研究者だけです。
そんな感謝の気持ちを伝えたくて、学生に話をしたつもりです。
■写真 これが蝋梅(ろうばい)です。蝋のような半透明な質感があります。
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研究室内の基礎研究は重要ですが、その答えが100%かどうかは分かりません。
答は「現場(フィールド)」にあると言う典型的な事象では無いでしょうか?
地球内に存在するものは、地球内にあるもので処理して行くシステムになっているのですね。
「全てが変わると言う事、その事だけは変わらない」の言葉通りであると思っています。
投稿: 北海道 | 2012年1月19日 (木) 08時57分
よりによって、昨日政府の諮問機関会議では「SPEEDIはあくまで予測であって誤差が大きいから(嘘)、今後は避難誘導には活用しない(なんのための高価なシステムぞ!)」などと言い出しました。
一度ついた嘘を今頃嘘で塗り固めるというか、恥の上塗りってやつです。
一方で、データは官邸は勿論、米軍にも迅速に提出されていたとも報道されています。
その後の対処速度は単純に危機管理能力の差ですね。
今後は「実測した計測値を持ってしてから避難させることにする」だそうです。
全くバカじゃないのか!
今後は勿論大規模事故など起こっては困りますが、大金を使って開発した優秀なシステムは迅速に立ち上がり、予測データは文科省からすぐに出されました。
逆にむしろ、HPなどで一般や自治体向けに公開すべきものです。
「今後は実測にもとずく」ですって?
今回は「直ちに健康に問題ない」と言い続け、安定ヨウ素剤すら配布出来なかったのに。
全く呆れたものです。
「あらかじめ配布しておく案」も出てますが、誰がどうやって実測値データを計測して、それを纏めてから発表するまでどれだけかかるんでしょう?どうやって住民に伝えるのでしょう?
講演お疲れ様でした。除染ではないな…封じ込め対策として広く知られることを望みます。今後の継続した研究も待たれますね。
プルシャンブルーや微生物利用なども期待されてますが、ゼオライトならいくらでも安く安定供給出来ますから、その活用は農地利用には最適な方向でしょう。
今現在農業サイドから求められていることも迅速性です。
蝋梅っていうんですか…黄色い花が可愛らしい。うーん知りませんでした。
投稿: 山形 | 2012年1月19日 (木) 09時53分