母親の皆さん、国にしっかりとした放射能後障害に対する長期的計測と医療処置を取るように要請してください!
まだ若かった時に、「黒い雨」という今村昌平の映画を見たことがあります。亡くなられた田中好子さんが演じる矢須子が、空から降り注ぐ黒い雨に打たれる所から悲劇は始まります。
黒い雨に打たれた村人の野辺送りが絶えません。
そして彼女の豊かだった黒髪は抜け落ち、やがて彼女は原爆症だと分かります。そして結婚差別。
私は見ていませんが、今村監督は巻末に原作にない19分のシーンをつけ加えたそうです。矢須子は死なずに、40数年後四国を巡礼しているシーンだそうです。
このシーンを今村監督は悩んだ末にカットしました。そしてオリジナルバージョンでは、矢須子がトラックに載せられてトラックに乗せられて去るのを見送る、という死を予感させる場面だっただけに、救いを感じます。
さて、広島においてもっとも強い放射線量にさらされたのは、実は爆心地ではありませんでした。
原爆は広島市の頭上600mで炸裂し、巨大な火球になり、上昇気流を発生させながら、核爆弾の中にあった核物質の10%が核分裂を起こし、90%は高度1万メートルの大気圏外に達しました。
この10%の高エネルギー放射性物質が広島市に注いだのです。光線と爆風、高熱により一瞬にして燃え上がった民家が、黒い煤煙となって風下の北北西方向に流れていきます。これが黒い雨の正体です。
爆心地では一瞬にして大量の人々が命を奪われました。遺体すら消滅してしまった方が大勢います。そのときの放射線量はガンマ線で100シーベルト(10万ミリシーベルト)、中性子線で140シーベルト(14万ミリシーベルト)にも達します。
そして爆心地から離れるにしたがって放射線量は下がり500m地点でガンマ線28シーベルト(2.8万ミリシーベルト)中性子線で31.5シーベルト(3.15万ミリシーベルト)になっています。
この数値は直後に計測できるはずがありませんので、推定数値ですが、おおよそ200mについて被爆量は半分になっていきます。
しかし、問題はもっと別にもありました。それは爆心地より、黒い雨が降った地域のほうが高い残留数値を出していたことです。
爆心地の残留放射線量は、意外にも、黒い雨降下地域のほうが多いのです。もっとも多い放射性物質の残留が見つかったのは、爆心地ではない場所でした。それは爆心地の約10倍にも登りました。
原爆内のウラン235の半減期は2億年ですが、この多くは爆発直後に成層圏外に飛ばされてしまい、1970年代の測定では核分裂しきっていない濃縮ウランの形で微量発見されたにとどまりました。
この風下周辺地域と、投下の翌日から救助のために市に入った人々、そして家族を捜索に入った人々の「入市者」の中から大量の被爆者が生まれました。これが映画「黒い雨」の主人公の女性のような人々です。
この被爆者のデータは詳細に取られています。発ガンに関しては10年後から乳ガン、胃ガン、大腸ガン、肺ガンを患う人が増えました。
白血病は2年後から増え始め、子供の発症は大人の2倍になりました。また白血病は、5年から6年で減少に転じて、20年たつと日本人平均にまで落ち着いています。
1990年の放射線影響研究所の調査結果によれば、後障害により白血病による死亡者数は0.18%、固形ガン死亡率は0.68%とされています。http://www.jichiro.gr.jp/jichiken/report/rep_gunma30/jichiken/4/24.htm
この被爆者を襲った放射線量は100ミリシーベルトと推定されました。この100ミリシーベルトを境にして一挙に発ガンリスクが高まるという経験値はこの広島の被爆者の疫学調査から生まれています。 これが今にも残るICRP(国際放射線防護委員会)の100ミリシーベルト閾値です。
これは学者の学説から生まれたのではなく、多くの尊い被爆者の生命で贖ったものだということを日本人は忘れるべきではありません。
またこの被爆者の疫学調査では2万5千人の被爆2世の調査も行われました。この結果、遺伝的影響はないという結論が出ました。
もちろん、よく言われるように「黒い雨」の主人公がそうであったように被爆者差別は根強く、結婚を拒否されるという例が多くあったのも、残念ながら事実です。
日本の広島・長崎に対する事後対応には学ぶべきものを多く含んでいる思っています。その最大のものは「被爆者手帳」です。
被爆国としてわが国は戦後復興期という、現在と比較にならない困難な状況下で、30万人を超える被爆者を救援しました。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A2%AB%E7%88%86%E8%80%85%E5%81%A5%E5%BA%B7%E6%89%8B%E5%B8%B3
被爆手帳、正式には被爆健康手帳はこのような人たちに交付されました。
・原爆と宇梶に広島・長崎の両市とその隣接する地域で直接被爆した人
・投下から2週間以内に爆心地から2キロ圏内に立ち入った人(入市被爆者)
・被爆者の胎児
この被爆手帳によって得られる国家支援は以下です。
「医療特別手当・特別手当・原子爆弾小頭症手当・健康管理手当・保険手当・介護手当(費用介護手当・家族介護手当)・葬祭料などの手当。
また、指定医療機関・一般疾病医療機関での治療について、本手帳などを提示することで全額国費で、あるいは自己負担分を負担しないで受けることが出来る。また、なんらかの理由で手帳を提示しなかった場合についても、後日都道府県知事に払い戻しを請求することが出来る。」(Wikipediaより)
つまり、放射能の後障害はもちろん、一般病まで含めて被爆者は原則無料で受診することができます。
この被爆手帳により22万人(2010年現在)、最大時で37万人(昭和55年度)が医療サービスを受けました。
これは、直接被爆者のみならず、比較的低い被爆量、今風に言えば「低線量内部被爆」の人々も対象としているために、多くの後障害(晩発性障害)に怯える人々を救済しました。
そして広島・長崎の放射能禍がいかなる被害を人体に対してもたらすのかの膨大な疫学データがここから生まれました。
米軍調査団のように冷厳にデータ採取しただけではなく、治療しつつ、その後40年以上にわたって付き添いながら測定していったのです。
この膨大な臨床記録が、広島・長崎の疫学データです。これを無視して放射能災害を語ることは許されない存在です。
そして原爆投下から65年。広島市の平均寿命は全国一の86.3歳(女性)の地位を誇っています。素晴らしいことです。
現在、わが国で早急に求められているのは単なる補償金ではありません。それすらするそぶりも見せない冷酷非情な政府ですが、忘れてはならないのが被爆者に対する手厚い事後処置です。
定期的な測定と医療体制、カウンセリングなどが、ただ今直ちに必要です。そのためにひつような「福島第1原発事故被爆者支援援護法」を作らねばなりません。
いま、政界は被曝した人々をおきざりにして増税と政局にうつつを抜かしています。まさしく為政者の責任放棄です。
しかも広島・長崎と違って、福島第1原発事故は人為的事故です。東電は私企業として会社を潰してでもこれらの人々を救済しなさい!
国は被爆救援法を制定しなさい!
福島の皆さん、特に母親の皆さん。放射能に怯える気持ちは痛いように分かります。私も茨城で「被曝」しました。私と家族は被曝者手帳をもらう資格があります。
ですからあえ言わして下さい。避難だけ主張するだけではほんとうの解決になるでしょうか。チェルノブイリでは数万の避難者が出ましたが、その避難自体によって多くの障害が発生しています。
特に、避難した地域になじめないことによるストレス障害、失業など、避難は必ずしも最良の選択とは言えません。
国にしっかりとした後障害に対する長期的計測と医療処置を取るように要請してください。家族を守るのは母親しかいないのですから!
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コメント
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黒い雨と類似の話ですが、先日のテレビ番組で「高知の被曝マグロ船」をやっておりました。
「第五福竜丸」ばかりが教科書にも乗って象徴化されていますが、数百隻が黒い雨を浴びました。
国に救済を訴え続けたけれども、ほとんどの乗組員は若くしてガンで無くなりました。
広島周辺の入市者でも「距離」を理由に救済が受けられない実態(今回の同心円マップみたいなことを盾に)も、報道されてます。
今回の発電所事故では、核燃料の多くが内部に残った状態ですから、明らかに原爆とは違いますが、少し離れた地域でのプルーム降下地域の被曝が心配であり、農水省がようやく秋に測定したヘリ空中測定地図もあります。極めて大雑把ですが、参考にはなります。
例えば高濃度とされた地域の山からの沢水の測定などには大いに参考になるでしょう。いや、利用しない手はありません。
牛肉の稲藁汚染などは、そういった情報伝達の混乱と、徹底追跡出来なかったことが原因だとハッキリ言えます。
いまだにホールボディカウンター検査を受けた人数は限られますが、これまでで私が受けた感想を誤解を恐れずに言えば…「ああっ、あの状況で、思ったよりたいしたことなくて良かったなあ!」が本音です。むしろ救われた気持ちになりました。今後も継続的により広く計測する必要があります。
りぼん。さんがおっしやっっていた滞留米の全袋検査結果が発表されました。
一部高い値が出た場所(殆どは自家用米)の原因究明と出荷管理がキモですね。
ちなみに秋に玄米100ベクレル/Kgに規制強化された場合に、引っ掛かるのは2%です。
あとはもう、私も含めた消費者たちにわかっていただくしかないです。
「福島県産=ダメだ」といった、短絡的思考こそが『風評被害』の本質ですから。
周辺県でも同じでしょう。農業も観光業も。(米沢市のみ補償?ふざけんな東電!)
広島・長崎の多くの犠牲者によってとられた人類唯一のデータは偉大な過去の遺産です。
悲しいことですが、この血滲んだデータは今後に最大限活かしていくしかないでしょう。
Cowboyさん、私はあなたの大ファンですが、
何を言いたいのか?
何がそんなに引っ掛かっているのか解りません!
投稿: 山形 | 2012年2月 4日 (土) 11時53分
秋に玄米100ベクレル/Kgに規制強化された場合に、引っ掛かるのは2%です。>>>
玄米レベルで、2%と言う数字は、自分の想定した値より低く、ありがたく感じています。(白米レベルでは、ほとんど問題なくなると想像します)ぬかの処理さえ、誤らなければですが、、
マスコミも含め、きちんと、是々非々で、報じていただいて、決して、370ベクレルと言う輸入基準より、相当、福島米の方が安全であると消費者に早急に理解されることと、福島全農が、一元管理しているらしいのですが、正規の流通ルート(米は、ブレンドしたりして、正しい表示が消費者に伝わらない農産物なので)を確実に構築していただいて、少なくとも、福島米を買いたいと思っている人には、流通できる窓口を作っていただきたいものです。
高知の被曝マグロ船、広島の黒い雨、長崎の北東部の雨による汚染など、しっかり国が、事実を受け止めていない状況がありますが、本来、事実は事実として、受け止めてほしいと思います。
被爆者健康手帳は、申請したくないと言う気持ちは、少し、わかります。毎年、3歳児に対して、障害児か否かの判断をして、障害傾向のある幼児に対して、専門センターでの精密検査を、保護者に勧める役をやっていますが、3歳のレベルでは、ほとんどの親御さんは、ちょっと言葉が遅いけど、普通の幼稚園、保育所、普通の学校に入れたいから、障害者手帳の発行のきっかけになる専門検診を、嫌がる場合が、結構あるんです。気持ちはわかりますが、毎年、見ていると、このお子さんは、早く訓練に入った方が、お子さんには、プラスになると、複数の面接者が思っても、親権が、親にありますから、そういう事実すら、専門医療機関にも、通報できない(守秘義務がありますので)で、リハビリなどが遅れるケースも結構あります。そういう手帳を貰ってしまうことに、親御さんとしては、ショックと、受け入れたくない気持ちとで、パニックになっているような感じは、受けます。
わずか3歳で、どれくらい、一般の子供と、差があるのかは、なかなか、判定は難しく、結局、親権者の最終判断になってしまうのですが、状況によって、早いトレーニングが、本人にプラスになる場合も、結構あります。
私は、週1回、トレーニング、残りは、一般の幼稚園、保育所で、生活するなど、家庭状況に応じた、個別のカリキュラムを提案するのですが、なかなか理解してもらえない現状も多いです。どうしても、親御さんの気持ちより、その子供自身が、より健康に育つには、どうすべきかを優先してしまうので、我が子を思う親御さんの気持ちとは、少しずれてしまう傾向はありますが。。
拡散した放射性物質は、少なくても、福島原発のプールにある燃料棒の多さは、相当量ですので、気が抜けない状況なんですが、国には、それほどの危機感がないように思えていて、非常に心配してます。
投稿: りぼん。 | 2012年2月 4日 (土) 13時19分