TPP推進派マスコミによる農業悪玉論の再燃
国民はなんの情報も与えられないまま、TPPという大渦巻きに呑み込まれようとしています。
関岡英之氏は、「日本農業新聞」の中で、野田首相が訪米するに先立つ4月24日に国会で開かれたTPP反対超党派191名もの集会があったことを取り上げました。
自民、民主、社民、共産、国民新、立ち上がれ日本、新党大地、真民主、新党日本、無所属という常識では考えられない幅の議員が一同に会した画期的なものでした。
テレビの放列はこの大規模な反対集会を撮っていたのですが、ご承知のようにテレビ、新聞はまったく無視を決め込みました。
ある大手紙は、唯一TPPに全面賛成をしているみんなの党の主張のみを取り上げるというまねまでしました。超党派の反対は数行しか報道しないにもかかわらず、です。
あきらかなマスコミによる情報操作、情報隠匿と言われても仕方がないでしょう。
TPPは当初、農業だけの特定の問題であって、国民全員には利得だ、と宣伝されてきました。現実にはそうではなく、保険、共済、土木、金融、法務など国民生活に直結する広い範囲での米国流ルールの組み換えだとわかってきました。
農家というき守旧派が保護関税にしがみついているから、日本の農産物は世界で一番高い、だから「開国元年」だと官首相は叫びましした。
このような農業に対する無知、誤解を利用して、財界の意思を背景にしてしゃにむにTPPに突き進もうという政治の流れが3.11直前まであったわけです。
ところが、3.11以降いったんは表舞台から姿を消します。それどころではないというのが政治にも国民にも圧倒的だったからです。
しかし、現実はそうではありませんでした。政府は、このTPP交渉を外務省に主管させることによって、外交マターとして処理することで国民の眼から隠したにすぎませんでした。
国民が大震災や原発事故で呻吟している時に、外務省は着々と米政府とTPP交渉を進行させていたのです。
そしてその交渉結果は、政府内部の一部の高官だけが知るという徹底した隠蔽ぶりでした。政権与党内部のTPPワーキングチームですら、独自に訪米して情報を収集するしかない有り様なのですから、推して知るべしです。
こうして国の根本的なあり方を決定することについて、政府が説明責任を果たさない異常事態が進行しました。
その中で改めて「農業悪玉論」が登場します。TPPを農業問題に矮小化させ、「農業改革をするためのTPPだ」というマスコミ論調が、首相訪米間際になって再び登場します。明らかに政府・財界の意思を汲んだものでしょう。
典型的なものは朝日新聞社説です。この中で朝日新聞はこう言います。(欄外参照)
「日本にとって最大の懸案は農業分野だろう。態度を保留した3カ国はいずれも農業大国だ。日本が農産物市場をさらに開放する用意があるのか、注視している。」
このようにあたかも農業分野の「開放」のみがTPPの焦点であるかのような前提に立っています。
しかし、現実には民主党TPPワーキングチームの報告にもあるように、交渉の焦点は既に金融やサービスといった分野になっており、米国農業界もいたって消極的なのです。
米国農業界は、むしろ豪州農業との競争激化を恐れており、TPPにより輸出補助金が存続するかの危惧を抱いています。
このようなことを正確に伝えずに、あいも変わらず農業こそがTPPの障害と決めつける論調は、大手マスコミが財界の代弁者と化したと言われても仕方がないでしょう。
次いで朝日社説は、日本農業の大型化こそが処方箋だと主張します。
「バラマキ色が強い現行の戸別所得補償の仕組み自体を改めないと、大規模化は進まない。民主と自民、公明の3党は制度の見直しを協議することで合意している。ただちに議論を始めるべきだ。」
民主党政権の愚策である農家戸別所得補償政策を批判する返す刃で、農業の大規模化こそが日本農業の延命の手段だと書いています。
その大型化とは農水省の農地10ヘクタール集積方針のことのようです。現在の平均2ヘクタール規模の農地を、集積して5倍の10ヘクタール規模にするというものです。
私は、農地集積はやりたい人はやればいいていどに考えています。大規模化は資金面、労働力面のリスクも大きく、またどうしても単作化してしまうためにかえって動きの激しいマーケット動向にそぐわないことがあります。
この農地大型化は経団連、同友会がかねてから「国際競争力をもった日本農業改革」と称して言い続けてきたもので、仮に10ヘクタールていどにしたところで、米豪の農地規模は100ヘクタールなのですから次元が違いすぎます。
では100ヘクタール規模に日本の農地を集積できるのかといえば、北海道を除いては不可能だと思います。それは褶曲のある日本の風土に絶対的に規定されるからであり、その中で点在する農地を集積するこには自ずと限界があるからです。
ならば、関税自主権で守るべきは守るのが筋です。日本農業の王道は、米豪などのような大陸国家的大型化にあるのではなく、高品質でバリエーションに富み、安全で世界一おいしい農産物にあるはずです。
島国が大陸型農業をまねてどうにかなるはずもありません。むしろそのような相手の土俵に引き込まれることこそが危険なのです。
TPP推進派が万年一日の如く唱える「農業衰亡論」、それはほんとうの日本農業の強さを知らない連中の空論にすぎません。
日本農業が改善せねばならない点を多くもっているのは当然です。それは他の産業と一緒です。問題は、日本の農業「のみ」が国会保護されていて、それは大型化でしか改革できないとする誤った論調です。
農業はTPP推進のダシに使われたくはありません。
■写真 今が盛りのタンポポです。こう撮るとあまりそう見えませんね。
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■TPP、農業改革はどうした
(朝日新聞社説)
環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加問題で、米国、豪州など9カ国との事前協議が当分続く見通しとなった。民主党内の反対論を踏まえ、野田首相は今月末の日米首脳会談での参加表明を見送る方針だ。
まずは交渉に加わり、日本の主張を協定に反映させるよう努めるべきだ。私たちはそう主張してきた。TPPがアジア太平洋地域の通商の基盤となる可能性を考えてのことだ。政府は対応を急がねばならない。
事前協議では、シンガポールなど6カ国が日本の交渉参加を無条件に歓迎した。一方、米、豪両国とニュージーランドは態度を保留した。
TPPの対象分野は幅広い。米国は、業界の反対や懸念を背景に保険、自動車、牛肉の3分野で譲歩を迫っている。
ただ、日本にとって最大の懸案は農業分野だろう。態度を保留した3カ国はいずれも農業大国だ。日本が農産物市場をさらに開放する用意があるのか、注視している。 (中略)
農林水産省は昨年、農家1戸あたり約2ヘクタールの農地を10倍程度に広げ、競争力を高める方針を打ち出した。戸別所得補償に経営規模を大きくした農家への加算金を設け、今年度は大規模化に協力する農地の出し手への補助金も新設した。
だが、加算金は用意した100億円の3分の1しか使われなかった。零細農家も対象とし、バラマキ色が強い現行の戸別所得補償の仕組み自体を改めないと、大規模化は進まない。
民主と自民、公明の3党は制度の見直しを協議することで合意している。ただちに議論を始めるべきだ。
TPPでは、関税引き下げ・撤廃交渉は「すべての品目が対象」とされる。ただ、各国とも守りたい品目を抱えており、例外が認められる可能性は高い。交渉を引っ張る米国の担当者もそう示唆した。
交渉の場に早く加わって、激変を和らげる措置を勝ち取る。一方で農業改革をしっかり進める。そんなしたたかな戦略こそが求められている
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