家伝法の改革は必要だが、東国原氏に言われたくはない
一昨年の宮崎口蹄疫事件のことを振り返る時に、「あの」東国原前知事に触れないわけにはいかないでしょう。
私はこの口蹄疫事件の中で、知事を批判しブログが炎上し、休載に追い込まれるという苦いめに合いました。後にも先にもあのようなことは初めてでした。
その前知事が山形県の講演でこんなことを言っていました。
「19万頭の牛豚を殺処分せねばならずたいへんな思いをした。昭和26年にできた家畜伝染予防法をもとに指針を作っているから実態に合わない。限界を感じた。行政の危機管理を一から構築しなおさねばならない」(毎日新聞2010年11月7日)
ため息が出ます。彼はなにも学んでいませんね。少しも変わっていません。
家伝法(家畜伝染予防法)を「古い」と批判していますが、当時の現場責任者としてもっと具体的になにが「古い」のかを明らかにする義務があります。
家伝法は、いくたびか改訂されてきており、最終改正は平成22年度3月9日です。このどこが「古くて実態に合わない」のか、それを明確にしないで、口蹄疫事件を知らない一般聴衆に被害者づらして語るのはいただけません。
「実態に合わない」とすれば、その最大のポイントは、県が法的権限者であることでした。
あるいは、殺処分が家畜所有者に委ねられているかのような法のあり方だったはずです。
あの口蹄疫対応の失敗はいくつかあります。その最大のものは、県が初動において自らの力で抑えこむことができなかったことです。
初発が3月末であったにもかかわらず、初発の農家からの再三に渡る早く検査結果を出してほしいとの訴えを無視し、発生動向調査(サーベイランス)を怠ったのは県でした。
あの4月16日から20日の確定までの期間に、なぜ早く綿密なサーベイランスをしなかったのかを省みることなく、「家伝法が古い」はないでしょう。
サーベイランスは家伝法の枠内でも充分できたはずであり、あの初動で抑えこんでいたのなら、あのような21万1608頭の殺処分といった悲劇を見ることはなかったはずです。(どうでもいいですが、知事は頭数を間違えています。)
あの事件を家伝法批判にすり替えるのはまったく筋違いで、県が疑わしき家畜が発見された場合、機敏に即応するにはどうすべきなのかという初動危機対応の視点が抜けています。
前知事はひとごとのように「一から危機管理を構築しなおさねばならない」などと言っていますが、その言葉は自分にそのままはね返ってきます。
県の初動の失敗により、国が乗り出し、山田前大臣が現地対策本部長として現地入りした直後から、国に対して家畜の所有権を言いたて補償問題で無駄な時間を費やしたことへの反省はまったくないようです。
というか彼にすれば、国に対して県民の財産を防衛する条件闘争を闘ったつもりかもしれません。
まぁそのおかげで県民からは圧倒的な支持を集めたわけですが、防疫責任者のすることではありません。
結果、国との作らなくてもよかった対立構造を深め、防疫指揮の二重構造を作ってしまいました。
もちろん、家伝法の中に二重構造は潜んでいたのですが、あそこまで亀裂を作る必要はなかったと思います。
5月初旬の時点で、既に宮崎県家保(家畜保健衛生所)は殺処分作業の限界を早くも迎えており、まったく収拾不可能な状況に陥っていました。一般県職員すら動員している有り様でも追いつかなかったのです。
宮崎県家保には同情すべき要素は多々ありますが、自己解決能力がなかったのです。
そしてなにより、その司令部たる県が混乱の極にありました。そしてその混乱の中心は、他ならぬ知事自身でした。
そこを問わずに、「家伝法が古い」はないのではありませんか。
仮に「家伝法が古い」というならば、英国のように海外悪性伝染病対応に対して国が直接権限を持つ緊急対応の仕組みが必要なことは事実です。
あのような伝染力が強い家畜伝染病は、地方自治体でどうにかなるレベルではありません。それを法的権限者であることを根拠にして、国との無意味な摩擦を起こし続けたのはかく言う知事でした。
東国原氏は山田大臣を悪者にし続けていますが、その前に県の防疫レベルが問うてみたらいかがでしょうか。豚への感染拡大をしたハブは、他ならぬ川南町の県家畜試験場でした。致命的失態といえます。
県の公的指導機関が感染ハブになる、家保は確定が遅れる、殺処分は進まず患畜は山のように溜まっていく一方というお粗末さを横において、あいも変わらぬ山田氏批判を繰り返しても仕方がないと、私は思います。
県は遅くとも4月28日の県試で豚感染が確認された時点で、速やかに非常事態を発令すべきでした。
それをしなかったのは、感染増幅家畜である豚の危険性を知らなかったとしか思えません。素人の知事が知らないのは当然として、試験場には獣医官が沢山いたでしょうに。
それを怠って、丸々1か月遅れの非常事態宣言を発するという不手際になったのは、その間に後からでも出来る補償問題という政治的問題に時間を空費していたからです。
専門知識を持たない知事が現場指揮に固執したためにあのような事態に陥りました。知事は早期に県の獣医官に防疫指揮権を委譲すべきであり、自分は責任だけをとればよかったのです。
ところがポピュリストの大衆政治家にありがちなスタンドプレー好きがこうじて、対応指揮権を握りしめるから事態がより混迷してしまいました。
まるで去年の原発事故対応時の菅首相とそっくりです。知事は責任だけを取って、現場対応は獣医師の専門官に委ねるべきでした。
こんなあたりまえのことを言わねばならないのもある意味、家伝法の「欠陥」であることは確かです。
たとえば家伝法において、緊急即応時の責任体系の所在、どのような事態になった時点で非常事態宣言を出すのか、あるいはワクチンをいつ接種し、その目的は何かなどについて明解な規定をするべきです。
国と県の役割についても、一元化すべきでしょう。これについては、東国原氏も同意見なようですが、失礼ながら氏を反面教師として私も一元化に踏み切るべき時期だと思います。
ただ、この人にだけは言われたくはないのは確かです。。
■写真 ペパーミントです。わが農場ではもう野生化しています。
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ちょっと、話がそれまして、管理人さまには、ご迷惑を掛けますが、
見学に行かれるときに、一般人も、きちんとした動物園に、行かれることを、希望します。
県レベルの家畜、動物、野生動物に対する認識が、甘いというか、知事も素人なら、県も、素人っぽい感じを、受けてます。何より、豚の初発が、県のセンターからであり、センターは、独自に会報を、出しながら、一向に、きちんとした、意見や論文を掲載していないようです。
話は、違いますが、秋田の熊牧場で、死者2名、脱走した熊が、何頭なのか、未だ不明という状態です。この牧場自体の行政指導は、どうやら県の担当らしいですが。。
化製場法における「飼養基準」を満たした施設とは、思えませんし、熊牧場のHPを見ても、化製場法における飼養施設に合格していれば、合格番号、動物取扱責任者が居る訳なので、5年ごとに、それらの許可番号と、責任者名を、公開することなど、行政ルール上、必要最低限のことが、されてなかったのかと、思えます。
屋根も無く、オス、メスが居るのに、ゲート付きの産室も無いようですし、病弱した場合の、管理用、屋内導入ゲートなど、最低限の設備は、必要だと思えるし、少なくとも、県の動物愛護法担当者は、それらが出来るまで、有料で、一般展示を許可していたなら、県に、かなりの責任があると思えます。マスコミは、施設所有者ばかり、悪者として、叩いているようですが、飼っていた頭数すら、確認されていない状態で、有料で、動物園のように、一般開放していたことを、許可していた秋田県は、公務員はサボタージュすれば、責任を負わなくて良いと言う発想の根源のような感じを受けてます。冬、冬眠する習性の熊、冬眠前の食欲は、普段と全く違う量を食べること。そして、特定危険動物を取り扱っていて、その許可は、県知事名で、出されることなど、考えてみると、いかに、行政がルーズなのかが、わかりますね。
http://www.tokyo-zoo.net/zoo/ueno/hours.html
動物取扱業に関する表示
氏名又は名称: 公益財団法人東京動物園協会 藤井芳弘
事業所の名称: 恩賜上野動物園
事業所の所在地: 東京都台東区上野公園9番83号
動物取扱業の種別: 展示002119 貸出002118 保管002117 販売002116
登録年月日: 平成19年5月24日
有効期間の末日: 平成24年5月23日
動物取扱責任者氏名:福田豊、堀秀正、寺田光宏、原樹子、高藤彰
例えば、上野動物園はじめ、すべての動物園は、展示や保管の責任者名と、行政の許可番号を、表示しなければなりません。
投稿: りぼん。 | 2012年4月22日 (日) 09時39分