すごいぞ、京都市“都市油田発掘プロジェクト”! その2 発酵界の権威は挑戦を受けて立った
今回取り上げたのは、京都市の「都市油田発掘プロジェクト」です。これは実用化されれば、ゴミ廃棄物処理のコペルニクス的展開となる可能性を秘めています。
廃棄物処分は現在、燃料をかけて燃やされるような処分の仕方をしています。しかも、燃焼を消さないために24時間環境センターを稼働させるという非効率的なことをやっています。
これではコストをかけて燃やしているだけということになり、自治体の大きな財政負担になっていることはご承知のとおりです。
「ただ燃やす」ではカッコがつかないので、温水プールなどを作って市民サービスをしようとしていますが、根本的な解決ではありません。
ここで発想を入れ換えます。ただ社会的コスト(税金)をかけて燃やすから、その時発生する熱でタビーンを回して発電ができるのではないかと考えた人がいました。
それがこの「都市油田発掘プロジェクト」の責任者の山田一男さんという京都市のゴミ処理25年の強者でした。
発電ができれば、ゴミ処理施設は発電所に転換できるわけです。事実、このアイデアで京都市ではゴミ処分発電所が稼働しています。
そしてそれを今回もう一歩進めて山田さんは、ゴミ廃棄物からバイオ燃料を作れないかと考えました。
着想は実にシンプルでした。ゴミの多くを占めるのは紙です。紙は要するに木材ではないか、と山田さんは考えたのです。
ならば、木材はバイオエタノールを製造するのにもっとも適した原料です。バイエタを作るに欠かせない糖分を含んでいるからです。
とすれば、廃棄物はやっかい者からバイエタの貴重な原料に変化できるわけです。
と、ここまでは順調だったのですが、ここに大きなネックがありました。それは紙ゴミは雑菌の塊で、それを発酵できる酵母菌が存在しなかったのです。
通常のバイエタ分解酵母ではまったく歯が立たないので、今まで「ゴミをバイエタに」という着想は浮かんでは消えていたのでした。酵母、これがこのプロジェクトのコア技術でした。
ないのなら作ってしまおう、そう山田さんは考えました。ここがスゴイ。彼が駆け込んだのは熊本大学の発酵学の権威・木田建次教授の元でした。
木田先生は、山田さんの「紙をバイエタに」という熱意にほだされて「スペシャル酵母」を2年かけて作り始めました。
実はわが国の発酵技術は間違いなく世界最高水準です。これは日本民族が何千年にも渡って発酵食品を食の基礎にしてきたからです。
醤油、味噌などの基礎調味料は言うに及ばず、漬け物、納豆などの副食、酒といった嗜好品にいたるまで発酵技術を使わぬものがないほど多彩な伝統を誇っています。
この民族の食の伝統が、現代の発酵技術の基礎となっています。言い換えれば、農の技術が形を替えて生きているのが発酵技術だとも言えます。
たとえば農業では、そのコア技術とでもいうべき土壌改良剤・堆肥を発酵技術で作り出します。納豆菌(枯草菌)、ホウセン菌、乳酸菌など多種多彩な発酵菌の助けを借りて製造しています。
この農業のコア技術は、米の稲藁に枯草菌が大量に含まれているために、藁づとで蒸した大豆をくるんだら納豆になってしまった、というように食品製造にも応用されていきます。
日本酒の原料の米は、果実と違って糖分が少ないので簡単に酒になりません。
これを麹カビを使って糖に替えてアルコール度数20%にまでするという高度な技術を使っています。「並行複発酵」と呼びますが、こんなややっこしい酒を作っているのはわが国のみです。(←漫画「もやしもん」に教えてもらいました。)
世界に冠たる発酵技術界の権威・木田先生は、この京都から落ち込まれた「雑菌だらけでどうしようもなく汚いイゴミ」を控訴分解してしまう酵母菌の製造を受けてたったのです。
いや漢だね、先生。きっと先生は山田さんの熱に意気に感じてしまったのでしょう。そして2年がかりで出来たのが「スペシャル酵母」でした。
というところでまた次回。
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■紙ごみからエタノールを抽出 バイオ燃料化に成功
京都新聞
紙ごみからバイオ燃料を製造する「都市油田発掘プロジェクト」に取り組む京都市と日立造船(大阪市)は、ごみ500キロから純度99・5%のエタノール35リットルの抽出に成功した。6、7の2日間、中京区の二条城で抽出エタノールを使って発電機を動かし、発光ダイオード(LED)灯籠を点灯させる。
紙ごみの燃料化は、西京区の西部圧縮梱包施設に設けた試験設備を使い、3月から始めた。初抽出されたエタノールの原料は、市内の小学校や大学から排出された古紙と一般家庭の生ごみを7対3の割合で混ぜた廃棄物。酵素と酵母を加えた反応槽で5日間かけて糖化・発酵させた。
試験設備の設置費を除いた1リットルあたりの製造コストは約120円。エタノールのエネルギー量はガソリンの3分の2程度とされるため、市販のガソリンに対抗するにはさらなるコストダウンが必要だが、「紙と生ごみの混合割合を精査したり酵母の改良を重ねることで、コストを下げることは十分可能」(市環境政策局)という。
同局施設整備課は「廃棄していた紙ごみを燃料に変えられることが実証できた。今後は発酵後の残りかすからもメタンガスを取り出す実験も行い、ごみのエネルギー化を進めたい」としている。
LED灯籠の点灯は6日午後5時~5時15分、7日午後6時半~7時半。ガソリンを混ぜずにエタノールだけで発電機を動かす。
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コメント
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昨日の記事にコメントしようとしたら、送信と間違って消去してしまいました。
番組見ました。
私も、世界中で多くの餓死者が出ているのに、食い物(トウモロコシ)を燃料にするバイオエタノールには以前から懐疑的でした。
これがゴミ(雑草などでも良い)から作れるとなると…食糧危機を危惧する人にも、CO2増加が心配な人にもいいことづくめです。
しかも化学薬品処理などではなく、酵母でやるわけですから環境汚染のリスクも極めて小さい(よっぽどおかしな危険な酵母でもなければ)。
後はコストの問題ですが、このコンセプトは素晴らしいと思います。
投稿: 山形 | 2012年4月25日 (水) 08時44分