茨城県、漁業の独自基準値を作る。検出限界下限値まで止まらないエスカレーターに乗り込んではならなかった
私たち農業が状況の拡大を食い止めつつあるのに対して、漁業は今なお厳しい状況に追い込まれてきています。
これは農業が農家自ら除染をすることが可能なことに対して、漁業はそれが不可能だからです。その意味で、漁業は私たち以上に決定的に自然の汚染状況に規定されてしまいます。
いわばやりようがないのです。特に放射性物質が沈下した海底に棲む底魚のカレイ類が大きな影響を受けたようです。
今が一年でもっとも漁獲があり美味い季節なのに、漁民の痛憤は計り知れません。
一方、サンマ、カツオなどの回遊魚は、不幸中の幸いで、汚染された水域をくぐりぬけただけなので影響は少ないようです。
茨城県は風評被害の拡大を懸念して県独自基準に踏み切りました。(資料1参照)
これは県沖で採れるシロメバルが政府の出荷停止支持を受けたことに対応するものです。このシロメバルは4月5日に北茨城で漁獲されたもので、170bq(ベクレル)でした。
今まで検査された魚介類で高い数値を示したのは、3月22日の同じく北茨城でのババガレイの260bqがあります。
地域としては福島県に近い北茨城港は、福島第1原発事故の汚染水放出をまともにくらったために今なお苦しめられています。(資料2参照)
県はヒラメなどの旬の魚を含む10種類以上の魚を出荷自粛としましたわけですが、これは政府基準の半分にあたる50bqです。
この50bqは、厚労省監視基準値であり、また県内大手量販チェーンのカスミなどが独自に設ける食品基準値に対応したものです。
大部分の量販は既報のように検出限界以下、ないしは政府基準値の半分を取引基準としており、50bq超は「出しても自主的に売らないところもある」(宮浦県前農水部長)状況です。
県はこの政府基準より厳しい基準値を設けることに対して、先月から県魚連と話合いを重ねており、苦渋の決断であったと思われます。
しかし、漁業の風評被害は止まることがなく、この独自基準の設定も歯止めになるか危ぶまれています。
県の独自基準値は、川上側の第1次生産者レベルで作るものではなく、それを安易に行えば自らの首を締める結果になると私は思っていています。
県独自基準を作ったことを強力に宣伝できればいいのですが、茨城県にそんなパブリシティ能力があるか、です。
独自基準値が有効でなかった場合(残念ですが、私はそう、予想しますが)、更に低い基準値をつくらねばならなくなります。それはいたちごっこです。
茨城県は、消費者の一部にゼロベクレル派が発生していることを想定していないのではないでしょうか。
自主基準値作りは一方通行です。下げることは出来ても、元に戻すことはできません。結局はイオンがそうであるように、検出限界下限値まで行ってようやく終了するのです。
それは川上側の生産者にとって対応不可能を意味します。特に除染活動ができない漁業はそうです。このようなエスカレーターに乗り込んではならなかったのではないでしょうか。
大津漁協の村山専務理事はこう言います。
「独自基準による安全性が消費者に伝わっていない。いくら数値を出しても消費者が国を信用していない。どうしたら安全と理解してもらえるのか」。(産経新聞4月15日)
私たち農業者が直面した問題とまったく同じです。いや、私たち以上です。消費者が政府からの情報をまったく信じなくなってしまったために、1年以上たった今なお漁業と農業の苦しみには終わりがありません。
漁民の「漁に出たくとも漁船もない。港も壊れた。仲間と共同で船を借りて出漁しても売れない。もう漁師ができなくなる」、という声が政府に届いているのでしょうか。
■写真 田植え前の田んぼ
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■資料1 県と漁連とが独自基準値での対応方針を決定http://www.pref.ibaraki.jp/hotnews/2012_03/20120316_01/index.htm
l海産魚介類における放射性物質の新基準値への対応について、次のとおり、県と沿海地区漁連で対応方針が決まりましたので、お知らせします。
方針
消費者が信頼・安心して本県の海産魚介類を購入できるよう、4月以降、市場に基準値(100Bq/kg)超えの魚介類を流通させない体制を構築する。
4月に向けての対応方針
(1)100Bq/kgを超過した魚種
- 3月以降、基準値を超えた魚種は、県の自粛要請に基づき出荷・販売を自粛する。
- 自粛区域は、県内全域とする。
(2)50Bq/kg超100Bq/kg以下の魚種
- 3月以降、基準値を超える危険性のある魚種は、自主的に生産を自粛する。
- 自粛区域は、北部(日立市以北)、県央部(東海村から大洗町)、南部(鉾田市以南)の各海域ごととする。
(3)50Bq/kg以下の場合
通常どおり出荷・販売をする。
(4)解除に向けた対応
- 検査期間:1ヶ月
- 検査回数:各海域毎に3カ所以上
- 解除:各海域毎に解除
施行期日
(1)県での対応
・3月以降の検査結果を踏まえ、100Bq/kgを超過した魚種について、4月1日付けで出荷自粛を要請する。
(2)漁連・漁協での対応
- 3月以降100Bq/kgを超過した魚種について、出荷実務を考慮して3月27日から出荷を自粛する。
- 3月以降50Bq/kg超100Bq/kg以下の魚種について、出荷実務を考慮して3月27日から海域毎に自主的に生産を自粛する。
■資料2 魚種採取日採取水域放射性セシウム
100Bq/kg超えの魚種
http://www.pref.ibaraki.jp/nourin/gyosei/pdf_housyanou_kisei/20120409umi.PDF
1 マコガレイ 3/13 北茨城市沖101 [Bq/kg]
3/20 北茨城市沖140 [Bq/kg]
3/20 北茨城市沖175 [Bq/kg]
2 マダラ 3/13 北茨城市沖105 [Bq/kg]
3 スズキ 3/17 大洗町沖218 [Bq/kg]
4 ニベ 3/ 7 日立市沖113 [Bq/kg]
3/15北茨城市沖126 [Bq/kg]
5 ショウサイフグ 3/19 北茨城市沖111 [Bq/kg]
6 コモンカスベ 3/13 北茨城市沖111 [Bq/kg]
3/20 北茨城市沖186 [Bq/kg]
7 コモンフグ 3/13 日立市沖152 [Bq/kg]
8 ウスメバル 3/22 神栖市沖101 [Bq/kg]
9 ヒラメ 3/22 北茨城市沖137 [Bq/kg]
10 ババガレイ 3/22 北茨城市沖260 [Bq/kg]
11 シロメバル 4/ 5 北茨城市沖170 [Bq/kg]
■資料3 霞ヶ浦北浦及び内水面の魚介類の出荷自粛等の対応について
http://www.pref.ibaraki.jp/nourin/gyosei/pdf_housyanou_kisei/20120330nai.PDF
平成24年3月30日
3月以降の検査結果に基づき,100Bq/kgを超過した魚種については,4月1日より,
県から各漁協に対して水域毎に下記のとおり出荷・販売等の自粛を要請するとともに,市
町村等を通じ,遊漁者に対しても食用に供しないよう注意喚起を行いますので,お知らせ
します。
記
①水沼ダム上流域の花園川【採捕及び出荷・販売の自粛】
対象魚種:イワナ(天然),ヤマメ(天然)
要請先:大北川漁協
②桜川,小野川,新利根川,常陸利根川【採捕及び出荷・販売の自粛】
対象魚種:ゲンゴロウブナ(天然)
要請先:霞ヶ浦漁協,桜川漁協,新利根漁協,常陸川漁協
③霞ヶ浦北浦及びその流入河川【出荷・販売の自粛】
対象魚種:ゲンゴロウブナ(天然),ウナギ(天然)
要請先:霞ヶ浦漁協,麻生漁協,きたうら広域漁協,潮来漁協,桜川漁協,
新利根漁協,常陸川漁協
【参考】3月中の検査結果(100Bq/kg超過した魚種)
魚種採取日採取水域放射性セシウム
ヤマメ(天然) 3/2 水沼ダム上流域の花園川138 [Bq/kg]
3/18 〃200 [Bq/kg]
イワナ(天然) 3/18 〃330 [Bq/kg]
ゲンゴロウブナ(天然) 3/8 霞ヶ浦101 [Bq/kg]
ウナギ(天然) 3/16 霞ヶ浦104 [Bq/kg
■資料4 NHKニュース
茨城 独自基準で魚の水揚げ自粛 3月26日 21時8分http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120326/k10013983441000.html
画像URLhttp://www3.nhk.or.jp/news/html/20120326/K10039834411_1203262110_1203262111_01.jpg
来月から食品に含まれる放射性セシウムの基準値が厳しくなるのを前に、茨城県沿岸の漁協でつくる組合は、漁獲する魚について独自の基準を設け、27日から16種類の魚の水揚げを沿岸の全域または一部で自粛することになりました。
魚など「一般食品」に含まれる放射性セシウムの基準値は来月から現在の暫定基準値の5分の1に当たる1㎏当たり100ベクレルと大幅に厳しくなります。
茨城沿岸の漁協でつくる組合は国の新しい基準値を超えるおそれがある魚については、27日から漁獲を自粛する独自の基準をつくり、対象となる魚が26日、公表されました。
それによりますと、今月県が行った検査で、国の新しい基準値の1㎏当たり100ベクレルを上回る放射性セシウムが検出されたマコガレイやマダラ、それにスズキなど8種類の魚については茨城県沿岸全域で27日から水揚げを自粛します。
また、国の新しい基準値の半分の50ベクレルを超える放射性セシウムが検出された魚とまだ検査が終わっていない魚の合わせて8種類についても27日から海域を限定して水揚げしないことを決めました。
水揚げ自粛の対象となった魚は今後、月に3回以上行う検査でいずれも独自の基準を下回るまで水揚げは再開しない方針です。
また、これ以外の魚から独自の基準を超える放射性セシウムが新たに検出された場合もその魚の水揚げを自粛します。
茨城県によりますと、県内の沿岸ではほかにもすでにエゾイソアイナメとコウナゴの水揚げを見合わせていますが、これ以外の魚は放射性セシウムの検出データから水揚げして販売できるとし、茨城特産のシラスやアンコウなどは安全だとしています。
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コメント
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うーむ。やはりいわゆる底魚や磯魚は高い傾向ですね。
ETV特集等でやっていた拡散せずに海底の泥に残ったゴカイ等の餌がセシウムを取り込んでいるようですねえ。
陸上以上に計測や除染が難しいですから、難しく長期化が懸念されます。
まあ、私なら100Bq程度のアンコウやドンコやアイナメなんか、年に1度程度しか食べませんから、ほとんど気にならないレベルですがねえ。
ゼロベクレルを唱え続けるグループがかなりの影響力を持つ以上、漁師や漁協は胃の痛い日々が際限なく続くことでしょう。
なにより先が見えない→生活に直結することが、赤の他人であり消費者である私としても痛々しく感じて悲しいです。
これは余談になりますが報告です。先日「ゼロベクレルを目指します」と売り場のそこかしこに貼ってたイ〇ン系スーパー、「震災復興!宮城のワカメ」シールが無くなって、ただ「国産」だけの表示になりました。
どこの産地か分かりません!
まあ、見るからに三陸物で、ついでに千葉県産鰹を買ってきて美味しく鱈腹頂きました。
投稿: 山形 | 2012年4月16日 (月) 08時09分
厚生労働省自身が、50ベクレル以上を、要監視基準にしていますので、50ベクレル/kgという値が、ひとり歩きするとは、思います。つまり、規制値100ベクレルなんですが、50ベクレル以上出た品目を、再サンプリングして、監視食材にするという方針と思われます。
現在、170品目ほどが、監視品目になっていると思ってます。
沿岸漁業者は、船を出せる範囲が、陸から何海里とか、決まっているはずですし、漁業権や所属漁協によって、漁場が制限されるので、当面、漁業で、生計を立てるのは、難しいと想像します。
魚は、有機水銀やカドミウムなどでの、長期蓄積食物連鎖での、汚染度上昇を経験している日本人は、都会の消費者が、魚の購入を避ける傾向にあるのだと思います。
漁協ごととか、港ごとで、自主規制しても、そういうことが、正しく現状、伝わってない以上、消費行動には、結びつかないのではと思います。(福島、茨城沖も、良い漁場なのに)
大体、枝野大臣が、大飯原発を、科学的根拠を示さず、再稼動する方向で、動いている状況では、漁業者の自主規制も、説得力が、感じにくいのが、都市消費者の現状でしょう。
どう考えても、3年後に、大飯原発を整備するから、今、すでに安全だ。と、言い張る枝野発言は、信頼できる訳がありません。
水素爆発時に、「すぐには、危険ではない」と枝野氏が広報したが、結局は、未だ居住できない状況の被曝地に、きちんと説明できない状況での、枝野大臣の再稼動宣言など、理解不能です。
あの斑目委員長が、安全とは言えないと言っている大飯原発を、4大臣が、無理やり再稼動するなんて、民主主義政府のやることでしょうか?
漁業者に責任は、全くありませんが、政府が、真摯に、食品被曝問題に、取り組んでいない以上、また、安全、安心について、国民にきちんと説明できていない以上、魚は、売れないのは、残念ながら、当面、止められないと思います。
もっと、政府が、漁業者に、サンプリング採取漁を、お金を支払い、お願いして、サンプリング頻度を上げて、政府の責任で、広報することで、段々、放射線量が、下がっていく体感が、消費者に、得られない限り、販売は、難しいと思えます。
都市部の若いお母さんが、こうなごが、どこを泳ぎ、ひらめが、どこを泳いでいるか、知らない訳ですし、都会では、切り身ですので、魚種を判断できないのではと思います。
昔の魚屋さんなら、そういう説明をしながら、魚種によって問題ないことが、消費者に、すこしでも説明できたとは、思いますが、、スーパーには、説明者が、居ないので、すべての魚種が、敬遠されるのだと思います。
投稿: りぼん。 | 2012年4月16日 (月) 09時56分
初めまして。数時間前からコメントを書いているのですが、
正直、文章がまとまりません。
兎に角、ありがとうございました。
記事を読めて良かったです。失礼しました。
投稿: ぽてと | 2012年4月17日 (火) 04時41分
再コメント、お許しくださいませ。
今になって、農林水産省は、出荷農家や流通業者、販売業者に、放射性物質の独自基準を設けて、検査することや、その自主測定値を、公開したり、表示することは、辞めてほしいと、マスコミを通じて、言い始めました。
国が、4月より、この暫定新基準値を決めるに当り、農水省だけでなく、厚生労働省、消費者庁など、複数の関係省庁が、合同で、協議して決めたのですが、農林水産省の動きが、全く読めません。
米、大豆、牛肉の規制値を、半年の猶予がほしいと言ってみたり、食品Gメンが、スーパーで、購入したものは、まず50デシベル/kgで、測定して、100ベクレルを超えた商品の流通の風上を探して、自主規制なり、出荷停止をするとか、今までの、県単位の規制を、市町村単位にするなど、参加省庁間で、充分、検討しての、新暫定基準値だったはず。。この規制方法が、良いのか、悪いのかは、私には、正直、解りませんが、当事者の省庁担当者が、規則を破るのは、平気と言う官僚の感覚は、理解できません。
まあ、群馬県の100ベクレル以下の牛3頭分、強制処分(この時点での規制値は、500ベクレル/kgだった)
した段階で、しっかりした腹を決めてない農水幹部の行動は、予想できましたが、、北朝鮮や中国を、笑えない官僚の行動には、あきれますし、そんな官僚と付き合っていく農業者は、もっと大変なんだな~。って、思います。
風評被害の発信者が、農水省というのは、農林水産畜産漁業を「振興」する省庁のやるべき、行動では、ないと思えるのですが。。。
投稿: りぼん。 | 2012年4月22日 (日) 10時00分
>りぼんさん
50はスクリーニングレベルでありNaIで50超のものをGeで再検査することとセットになっています。50が要監視基準なのではなく、NaIは100超のものをハネルことに目的があるため50超の食材(100超も含めNaIで検出されたもの)をGeで再検査するように通知しているのです。
なお農水省は生産局がここのブログ主様がエントリーを書かれた100Bq超の牛肉の出荷自粛・処分・支援の対象になることを通知している一方、食料産業局(ご存知でしょうが、製造・流通・小売・外食担当)が「独自基準でなく国の基準で」というお願いの通知を出したのです。
農水省自体に「縦割り弊害」が出ています。
投稿: めぐ | 2012年4月24日 (火) 19時53分